キラ達、専用機持ちと箒は広い岩場に集められ千冬の講義を受けていた。

千冬は全員を見回しながら言う。

「よし、専用機持ちは全員揃ったな」

その言葉に鈴が質問を投げかける。

「ちょっと待って下さい。箒は専用機を持って無いでしょう」

「それは……」

その言葉に箒は言いよどむが千冬が助け舟を出す。

「私から説明しよう」

そう言いながら箒の所まで歩く千冬。

「実はだな……」

千冬が説明しようとした時、突如、底抜けに明るい声が響き渡る。

「や〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

その声に嫌そうな顔をした千冬と箒。

声の方を見ると女性が崖を滑り降りながら、人類的に可笑しいハイジャンプをしながら叫んだ。

「チ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」

そう言いながら女性はハイジャンプの勢いそのままに千冬に抱きつこうとした。

しかし、千冬も並みではない。

女性にアイアンクローをかますと同時にハイジャンプの勢いを殺しながら優しく地面に女性を着地させる。

「やあ、やあ、逢いたかったよ! チイちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛をたしかめ……」

女性が言葉を全て言い終わる前に千冬は指の力を強めながら言う。

「五月蝿いぞ、束」

その辛辣な言葉にもめげず女性は尚も抱きつこうと試みながら言う。

「相変わらず容赦の無いアイアンクローだね」

そう言うと今度は、岩陰に隠れた箒の所に移動する。

「ジャジャ〜〜ン! やあ」

そう言いながら両手を広げ挨拶をする女性。

「ど、どうも……」

箒もたじろぎながら挨拶を返す。

その様子を見ながらキラ達は取り残される形となる。

正直、女性のハイテンションに付いていけないのだ。

そんな中、箒と女性とのやり取りに一夏も強制的に参加させられそうになった所を千冬が止める。

「オイ、束。自己紹介くらいしろ」

その言葉に女性は面倒臭そうに、いや実際、面倒臭く言い放つ。

「え〜、面倒臭いな〜」

そう言いながらも女性はポーズを決めながら自己紹介をする。

「私が天才の束さんだよ。ハロー。終わり」

その言葉に驚きの声と顔をする4人だが、キラとアスランは、ああ、ヤッパリと言う感想が強かった。

そして、一夏の機体、白式の開発者の正体もこの時解ったのだ。

シャル達がざわつく中、束は上空を指差しながら言い放つ。

「さあ! 大空をご覧あれ!!」

そう言った瞬間、何か重たい物が落下する音が辺りから響いてくる。

そして、菱形の金属が岩場に突き刺さる。

そう言いながら束はリモコンを押しながら言う。

「ジャジャ〜ン! コレが箒ちゃん専用機こと紅椿! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ」

その言葉にキラとアスラン以外唖然とする。

「なるほど、機体に展開開放スペースがあるな。多分、展開装甲だろう」

アスランの言葉にキラも頷きながら答える。

「ウン、展開装甲の展開する根元の装甲が厚いね。多分、熱量兵器を搭載しているんだろうね」

その言葉にアスランは付け足すように言う。

「装備の換装無しでの全領域、全局面展開運用能力の獲得を目指した第四世代ISか」

その言葉にキラは指を指しながら言う。

「アスラン、あの胸部装甲はパワーエクステンダーだよ」

その言葉に頷きながら言うアスラン。

「ああ、多分、白式の運用データを下に開発されたんだろう。差し詰め、白式の妹機といった所か。それなら白式を発展させた。或いは白式との連携を主眼に置いた運用が目的だろうな」

その言葉に束は感心した様に、そして、剥れながら言う。

「ちょっと君達? 人の説明を取らないでくれる?」

その言葉にキラとアスランはそれぞれ謝罪の言葉を述べた。

「すみません」
「申し訳ない」

そう言いつつ束はスカートからコードを展開し、紅椿に接続、OSの画面を展開、タッチパネル型キーボードを叩く。

「箒ちゃんのデータはある程度先行していれてあるから。後は最新データに更新するだけだね」

そう言いながらキーボードをタイプする速度はキラと同じ速度だ。

「す、凄い、キラと同じ速さでキーボードをタイプする人初めて見た……」

シャルは唖然としながらその様子を見ていた。

キラもその様子を見ながら驚いていた。

(余りに無駄が無い。神経ネットワークの接続と同調には色々手順があるのにソレを理解している……僕達の世界のOSをこの短時間で理解するなんて……まぎりも無く天才だね……)

あっという間にフィッティングを終了させると束は箒に操縦するよう提案した。

「ハイ、フィッティング終了。さすが私、ちょ〜速いね。それじゃ、試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

その言葉に箒は力強く答えた。

「ええ、それでは試してみます」

そう言いながらユックリと瞳を閉じて念じる様にPICを起動した。

その瞬間、紅椿はフワリと浮き上がる。

「篠ノ之 箒、紅椿、参る!!」

そう言うと爆発的な加速力で大空へと舞い上がった。

「何これ!? 速い!!」

鈴の驚きの言葉に同意するようにシャルも呟く。

「コレが……第四世代の加速……と言う事……エールと同じ加速力だよ」

暫く兵装を試していると真耶が大慌てで携帯を持ちながら走ってきた。

「織斑先生〜〜〜〜!!」

そう言いながら呼吸を整え、真耶は携帯を千冬に差し出しながら言う。

千冬は携帯を受け取り、ウィンドーを開き、任務内容を読み上げる。

「特命任務レベルA……現時刻より対策を始められたし」

そう言うと千冬は全員に呼びかける。

「テスト稼動は中止だ! お前達にやってもらいたい事がある」





キラ達は旅館の一室を貸しきり、対策会議を開いた。

「今から2時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ、イスラエル共同開発のIS、シルバリオゴスペル、通称、福音が、制御下を離れて暴走、監視空域より離脱したとの連絡があった」

その言葉に全員の緊張が走る。

千冬は詳細を説明する。

「情報によれば、IS評価試験中に暴走、パイロットはそのままだ」

「……」

一夏は息を呑みながら千冬の言葉を聞いた。

前の無人IS事件を思い出しているのだろう。

「その後、衛星での追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過する事が解った。時間にして50分後。学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処する事になった。教員は訓練機を使用し、空域、海域の封鎖を行う」

そう言うと畳の上の画面は教員の配置を表示する。

「よって本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

「はい?」

その言葉に一夏は驚きの声を上げる。

その言葉にラウラは律儀に説明をする。

「つまり、暴走したISを我々が止めると言う事だ」

その言葉に更に驚く一夏。

「マジ!?」

「一々驚かない」

鈴に窘められる一夏。

それに構わず千冬は作戦会議を開始した。

「それでは作戦会議を始める。意見のある者は挙手する様に」

その言葉に一番先に手を挙げたのはアスランだった。

「アメリカ軍及びイスラエル軍の動きは?」

その言葉に千冬はディスプレーを操作しながら説明した。

「暴走と同時にアメリカ軍特殊作戦群のIS部隊が展開したが福音がそれを撃破。絶対防御があったため被害らしい被害は出てないがそのまま逃走。アメリカ軍ハワイ作戦方面軍の作戦領域を超え日本の領海に侵入したためアメリカ軍太平洋艦隊は本国に通信。国際IS委員会はこの対応を我々に命じた」

それを聞き、アスランとキラは事の経緯を理解した。
どうやら領海内でアメリカも事を納めたかったが日本の領海に侵入した為、日本政府ではなく、国際IS委員会に打電したのだろう。
国防の機密を他国に委ねるのではなく、国際機関に委ねた所はさすがとキラもアスランも内心褒めた。

次にセシリアが挙手をして質問を行う。

「ハイ、目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

その言葉に頷きながら千冬は言う。

「フム、だが、決して口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

セシリアはソレを聞き淀みなく答える。

「了解しました」

その瞬間、正面ウィンドーに福音の詳細なデータが浮かび上がる。

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……私やキラさんのISと似てオールレンジ攻撃が可能ですわね……」

その言葉の鈴も頷きながら答える。

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ……」

その言葉にシャルも自分なりの分析を言う。

「この特殊武装が曲者って感じはするね……連続しての防御は難しい気がするよ」

ラウラは顎に手をやりながら考えるように呟く。

「この情報では格闘性能は未知数だ。偵察は行えないのですか?」

その質問に千冬は否定するように言う。

「ソレは無理だな。この機体は超音速飛行を続けている。アプローチは1回が限界だ」

その言葉に今まで黙っていたアスランが挙手をする。

「何だザラ」

アスランは手をゆっくり下ろすと言葉を紡ぐ。

「俺とキラの機体なら威力偵察なら可能です」

その言葉に真耶が疑問を投げかける。

「相手は超音速、スーパーソニックで常時移動しているんですよ? 最高時速マッハ4、追いつく事さえ不可能では?」

その言葉にキラは回答を提示する。

「フリーダム及びジャスティスの戦闘機動はマッハ数換算でマッハ7です。時間を惜しむならイグニッションブーストを展開した場合だとマッハ12に跳ね上がります」

ソレを聞いた瞬間、全員の顔が引きつる。

何せ、福音の出す速度はマッハ4、戦闘機の倍の速度で移動している。

コレは戦闘機の最高速度がマッハ2で大部分が超音速飛行能力を備えており、短時間マッハ2程度で飛行できるものが多い。

音速にもカテゴライズがあり、亜音速(サブソニック)遷音速(トランソニック)超音速(スーパーソニック)極超音速(ハイパーソニック)の4種類に大別できる。

亜音速はマッハ数0.75以下、遷音速はマッハ数0.75から1.25、超音速はマッハ数1.2から5.0、極超音速はマッハ5以上である。

福音の移動速度がマッハ4でスーパーソニックに分類される。

ハッキリ言えばISの稼動時間を考えたら速い部類に入る。

しかし、キラ達は極超音速(ハイパーソニック)を叩き出せると言い放ったのだ。

常識から逸脱した言葉に全員が、頭が可笑しくなりそうな感覚に囚われる。

更にイグニッションブーストを組み合わせたら、単純計算で福音の3倍の速度だ。

常識外である。

ソレを何の補助装備無しで、通常で行えると言うのだから全員の反応は納得が出来る。

こうして、キラとアスランは自分達の作戦を話す。




あとがき
さて、いよいよ福音戦突入です。



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