第1話『第二次移民船団の受難』


T



  西暦2217年。地球連邦政府は、銀河中心部より観測された移動性ブラックホールこと“カスケード・ブラックホール”の存在を公表した。これは、国際天文学部の天体観測所によって発見されたもので、直ぐに地球連邦宇宙科学局を通じて地球連邦へ発見の報を伝達された。ただ発見されたという事実だけなら、連邦政府もまだ危機感を持つまでも無かった。
  ところが、カスケード・ブラックホールの進行状況から見て地球へと一直線で向かって来ている――との回頭が計算機から吐き出された途端、安堵を宇宙の彼方に放り投げた。これを受けた地球連邦政府は、緊急対策会議を連日して行い続けてきた。結局のところ、有識者たちはこぞって、今の地球の科学力ではブラックホールをどうすることも出来ないと判断し、3年もしない期間での大規模な移民計画を実施するに至った。
  その移民計画とは、2800m級の超大型移民船を概算で1万2000隻建造したうえで、民間人約13憶人を乗せて、地球から2万7000光年先にあるサイラム星系の首都星アマールの“月”へと送り届けるという、今までにない規模の移民計画であった。超大型移民船の建造は、地球消滅の4ヶ月前になってようやく完了するに至る。この移民船を幾つかの集団に編成し、アマールの月へと大移動を開始するのだ。
  次に移民計画の内容は、大まかに次のようなものとなる。


・1つの移民船団“アマール・エクスプレス”は、移民船3000隻と護衛の3個艦隊210隻で編成される。

・移民させるべき太陽系の住民凡そ13億人は、1個船団に3億人乗船させ、地球からアマールまでの2万7000光年を1ヶ月前後の日程で送り届ける。

・第一次が出発した後、7日後に第二次船団を送り出す。後発も同じ感覚で送らせて進発させる。

・地球連邦防衛軍の主力9個艦隊全てを護衛に当て、第四次船団には第一次船団の3個艦隊、最終の第五次船団は第二次船団の3個艦隊を当てる。

・また、最終の第五次船団分の移民船が無いため、残る1億人は第一次船団を、護衛艦隊と共に引き帰させる。

・これらの移民行程を、地球消滅までの残り4ヶ月間以内にこなす(早くて3ヶ月半でこなす)。

・太陽系内で、ブラックホールの影響を割けることが出来た、本星以外の基地及び、警備隊、巡視隊、護衛隊は、当星系に残留し、任務を継続する。

・シリウス星系、グリーゼ581星系、アルファ・ケンタリウス星系、アルデバラン星系、バーナード星系各基地は、継続して資材調達や外部への監視、警備を続行。

・移民完了後、連邦政府、防衛軍総司令部をアマール月に設置し、各主力部隊は月防衛部隊を残してサイラム恒星系を離脱、他星系の防衛任務に就く。


 ――以上が、移民計画の内容である。護衛任務にあたった主力部隊の半数以上を他星系へと移動させる理由として、アマール国への配慮が含まれている。避難先のアマール国も主権国家であり、無用な兵力駐在は、アマール国民に無用な誤解や刺激を与えかねないと連邦政府並びに防衛軍の首脳部が判断したのである。
  因みに、この中の主力艦隊による護衛活動があるが、やや大げさに見える。本来なら、主力ではなく、恒星間護衛隊こと護衛艦隊の仕事なのだ。それを主力が補うのは、かつて地球水没という未曾有の危機に陥ったディンギル戦役時の苦い経験に配慮したものである。当時は、水惑星アクエリアスによる地球水没という災害から、市民を一時的に避難させる為に移民船団を組織したが、太陽系内という安心感と、ディンギル帝国の存在を早期に感知しえていなかった事が直後の悲劇に繋がったのである。
  単なる護衛艦隊しか付けていなかった第一次移民船団は、ディンギル艦隊の砲火にさらされて全滅、移民先のコロニー等も破壊されてしまったのだ。しかし、この危機は、宇宙戦艦〈ヤマト〉と残存地球艦隊の活躍によって免れた。ディンギル帝国は、首都と移動拠点の双方を失い、滅亡している。
  今回は、そのディンギル戦役の教訓を生かした主力艦隊の随伴だ。第一次移民船団には、第一艦隊、第二艦隊、第三艦隊の3個主力艦隊凡そ210隻となる。太陽系内に駐留する主力艦隊の3分の1を動員する規模だった。なお、大国目線で見れば200余隻の艦隊は一部戦力でしかいないものだ。普通の星系国家であれば、一捻りされてしまうだろう。
  だが地球の戦力は例外である。地球連邦艦は、200余隻でも、400〜500隻に相当する戦闘能力を有している。つまり、敵国が倍の戦力を投入してきても、戦闘能力は拮抗するという訳である。
  銀河を二分する大国、ガルマン・ガミラス帝国(旧大ガミラス帝星)をして――

「地球軍を星系国家として、侮るべからず」

  と言わしめるほどであった。超兵器“波動砲”は無論のこと、各戦闘艦の完成度の高さ、そして〈ヤマト〉を始めとする地球人の不屈の闘志……大国に負けぬ存在であることを、ガルマン・ガミラス帝国は認めていた。
  だが、地球連邦防衛軍は奮闘するも、後一歩のところで壊滅的打撃を受けることも少なくない。それは、戦力比的に地球艦隊が劣勢であった所以である。如何に戦闘艦の性能がずば抜けて高いとして、結局は限界があったのだ。他にも、数的問題以外にも、敵対国の予想以上の技術力も絡んではいたが。もし同数の兵力で地球防衛軍と対等することとなった場合、今までの侵略国家の面々も、決して浅はかな気持ちではいられなかったであろう。
  そして、ディンギル戦役のあった2204年より、およそ16年という時間の中で、地球連邦は壊滅した宇宙艦隊の再建を見事にやりのけたのである。白色彗星帝国(ガトランティス)戦役で活躍した、各種艦艇を再設計して戦力を揃えようとしたのである。その方が、新設計するよりも遥かに短時間で済むからだ。

「かの宇宙艦隊の栄光を再び!」

  と軍官僚達は言った。技術者達も心血を注ぎながらも、新鋭艦の開発を急ピッチで進めていったのである。
  それも、おおよそ次のような主力戦闘艦が出来上がった。

・スーパーアンドロメダ級戦艦
  主力艦隊や分艦隊の旗艦を想定した、アンドロメダ級の後継艦。
  武装は波動砲×2門、40.6p三連装ショックカノン砲塔×3基9門、20.5p連装ショックカノン砲塔×2基4門等を装備。
  なお旗艦型(Fタイプ)通常型(Nタイプ)があり、旗艦型には重力子スプレッド発射機×4基、通常型には対艦グレネード発射機×4基を装備。

・ドレッドノート級戦艦
  長距離から中距離砲撃を担う戦場の主力艦で、旧ドレッドノート級の後継艦。
  武装は波動砲×1門、35.6p三連装ショックカノン砲塔×3基9門等を装備。

・最上級巡洋艦
  中距離から近距離砲雷撃の担い、護衛・パトロール任務もこなせる汎用巡洋艦で、ザラ級の後継艦。別名“重巡洋艦”でもある。
  武装は波動砲×1門、20p連装ショックカノン砲塔×3基6門、15.5p三連装ショックカノン砲塔×2基6門、四連装魚雷発射管×4基16門等、実弾兵器を豊富に揃える。

・インディアナポリス級パトロール艦
  最上級の偵察艦仕様で別名“軽巡洋艦”。索敵システムを大幅に向上させたタイプで、その分だけ戦闘力は削減されている。
  武装は波動砲×1門、20p連装ショックカノン砲塔×3基6門、四連装魚雷発射管×4基16門等。

・フレッチャー級駆逐艦
  加速性と高機動性で敵を翻弄し、宙雷戦を行う他、護衛任務、パトロール任務もこなせる汎用駆逐艦。吹雪(フブキ)級の後継艦。
  武装は15.5p連装ショックカノン砲塔×2基4門、12.7p連装ショックカノン砲塔×4基8門、四連装魚雷発射管×4基16門他、機雷、爆雷を揃える多目的に熟せる快速艦。

・インビンシブル級戦闘母艦
  戦艦と空母を兼ねたスーパーアンドロメダ級の改良型である戦闘空母。 空母型アンドロメダ級を引き継いだもの。
  武装は波動砲×2門、40.6p三連装ショックカノン砲塔×2基6門等、艦載機×80機を搭載。
  スーパーアンドロメダ級同様に旗艦型と通常型があり、旗艦型が重力子スプレッド発射機、通常型が対艦グレネード発射機を装備。

・インディペンデンス級戦闘母艦
  ドレッドノート級を改良した戦闘空母。松島(マツシマ)級の後継艦。
  武装は波動砲×1門、35.6p三連装ショックカノン砲塔×2基6門等を備え、艦載機×60機を搭載。

  ――以上、主に7種の艦艇が誕生した。どれも量産性を考慮し、長方体型(戦艦、空母)か葉巻型(巡洋艦、駆逐艦)の艦体を採用しているのが特徴だった。主砲は、バレル式(カノン)砲塔を採用し、強力なミサイル、魚雷を豊富に揃えていた。さらに巡洋艦クラス以上に波動砲を備えるなど、過剰な装備を付け加えている。
  これらの艦艇は皆、量産性とメンテナンス性を重視しただけでなく、安定した攻防の能力を備えている。護衛任務にも十分な性能なのは、間違いない。
  また、地球連邦防衛軍は、有人艦に加えて無人艦も多く建造してきた。人口が、度重なる戦争で減ってしまった以上、それを補うのは自動化しかないからだ。軍艦も動かせる人間が居なくては、ただの鉄の塊になってしまう。
  そこで、かのガトランティス戦役においては、コスモリバースシステムこと“CRS”の副産物で得た特殊空間――“時間断層”で、人工知能の開発を急速に推し進めた。外の空間に比べて、実に30倍のスピードで時間が進む時間断層を利用した軍事開発は大いに進んだ。ガミラス戦役終結から約1年余りで、30年分の時間を利用して人工知能の開発と無人艦隊計画が爆発的に進んだものだった。
  しかし、人工知能に全てを任せる事の危険性が、ガトランティス戦役中に認識されたこと、加えて時間断層が消失してしまったことから、有人によるコントロール下においての無人艦を建造していったのである。

「機械は人間にとって代わる存在であってはならない。機械とは、文明の利器とは、あくまで人間を手助けするものである。全てを機械に任せた先にあるのは何か……それこそ、人命を軽視した戦争が繰り返され、人間はAIに支配される事となる。これはもう、夢物語ではなく、現実なのです!」

  とある技術者が声を上げ、人工知能ことAIに委ねる戦いを避けるべきとの意見書が纏め上げられた。これらの講義は、難航した末に受け入れられ、完全無人兵器による軍事編成は避ける事が叶ったのだ。とはいえ、全く無くす訳にはいかず、人間のサポートに徹する形で無人化、省力化は推し進められたのである。これに大きく貢献したのは、機関工学のプロフェッショナルと呼ばれた大山歳郎の貢献度が、功を奏したともいえる。
  しかし、現在においては、約16年の月日が流れていく間に、ある程度の人材確保も叶って来たことから、完全自律制御艦の必要性も薄れていった。無論、完全に廃止されたわけではなく、今もなお、省力化運用に大いに貢献していた。また、かの〈ヤマト〉がディンギル戦役時に役立った自動運行システム等は必須とされ、クルーにもしものことがあった場合は、自動で帰還できるように必ずプログラミングされていた。
  西暦2220年。外周艦隊所属の主力3個艦隊で構成される護衛艦隊は、第一次移民船団の準備が出来ると直ぐに地球から出発し、目的地であるサイラム恒星系アマールへと航海を開始した。この護衛艦隊に、完成したばかりの最新鋭艦こと蒼き箱舟(ブルーノア)級戦闘母艦〈ブルーノア〉を、第一次移民船団護衛艦隊の総旗艦として出撃させていた。
  ブルーノア級戦闘母艦は、先代の旗艦級戦闘艦春藍(しゅんらん)級に代わる次世代型の旗艦級戦闘艦として新設計された、全長800m級の超大型戦闘母艦だ。特筆すべき点として、まずは波動エンジンの搭載数にある。それは、開発に成功したばかりの六連装波動エンジンを、何と3基も搭載する事が出来ていた事だ。
  次に挙げる点として艦首部分が特徴的である。艦首先端の左右と下方(波動砲を三方から囲む要領で)から、それぞれ前方へ大きく突き出ている矛の様なパーツだ。加えて、左右側パーツの内部分には新配備されたホーミング波動砲を搭載。通常砲火力としては、46p三連装ショックカノン砲塔×8基24門、20p三連装ショックカノン砲塔×4基12門、総計36門とかなりの重装備をしている。
  何よりも、両舷にそれぞれ備えられている巨大な一対のデルタ翼には、その内部に多量の艦載機を224機も収納しており、発艦時には翼が艦尾側の付け根を軸に横へ展開し、発艦してくのだ。
  そんな最強を言っても過言ではないブルーノア級のネームシップ〈ブルーノア〉は移民船団の防人として出撃していったのだ。


しかし、最悪の事態は起こった



  出発から凡そ19日後――地球から1万7000光年の位置に差し掛かった時だ。第一次移民船団が全滅してしまったという事実が発表されたのである。その戦況を記録したデータを超空間通信リレーを介して見た連邦政府は、唖然としてしまった。戦闘画像には、今まで遭遇した事もない赤と黒の色合いをした戦闘艦が映っていたのだ。
  楔形の船体に長方体を上下に付けた様な、縦長な戦闘艦群である。それらは突然として、第一次移民船団の目前にワープアウトした。その数は、コンピューターに掛けられると概算で900隻という数を吐き出し、高官達を絶望に落とした。
  不逞な襲撃者たちに対して、正面に集中していた護衛艦隊だったが、さらに3時方向、9時方向からも増援らしい同型の艦艇群が一斉に出現し、その全体総数は軽く1800〜1900隻に達した。護衛艦隊は果敢に反撃したこそすれ、目前に現れた艦隊の所属が判明しない事で、対応に遅れてしまったのは手痛いものである。先手の砲撃を許してしまった様で、一度に2割近くを大破または撃沈されてしまい、総旗艦〈ブルーノア〉も複数被弾した。
  半包囲体勢に置かれた護衛艦隊と移民船団は、たちまち重厚な砲火に晒されてゆく。〈ブルーノア〉も単艦で20数隻の敵艦を葬り去ったのが、そこで限界に達した。航空機の発艦も間に合わず、無残にも翼の片方は根元から破壊された揚句に、艦体に重度の損傷をきたして戦線を維持しえなくなってしまったのだ。

『メーデー! メーデー! 敵艦がこっちに向かてくるぞ!?』
『どうすればいいんだ、俺達移民船はどうすればいい!!』

  悲痛な通信記録が、政府や軍人らの耳に入った。ここからは相手の独壇場だ。指揮官を失った護衛艦隊は蹂躙されてゆき、移民船団も次々と撃沈されていく。一般市民が乗っていると知ってのことか、泣き叫び恐怖する大人や、ただただ泣いて親に抱きしめられながら、業火に巻き込まれゆく子供の姿は、まさに地獄絵図であろう。
  大混乱に陥った船団と護衛艦隊の中にあって、唯一として指揮系統を纏め上げたのが、第一次移民船団の団長を務めていた女性士官である。彼女の指示で、戦闘不能に近しい戦艦数十隻あまりに対し、拡散波動砲の発射を命じたのだ。他艦は全力を持って、拡散波動砲発射までの援護に従事した。その結果として、拡散波動砲は敵艦隊正面に見事命中し、脱出の為の突破口を開いたのだった。
  しかし、脱出出来たのは全体の2割もおらず、最後まで指揮を代わりにと言った女性艦長も負傷しながらも、自艦をワープで離脱させたのである。一連の事態に対策会議を開いた地球連邦は、二次被害を防ぐべくして第二次移民船団に待機命令を送った。
  無論、第二次船団もその事情を緊急信号として、第一次船団から直接受け取っているかもしれない事を祈るばかりであった。



―――そして、この不思議な物語はここから始まるのである―――




  地球より1万6000光年の距離に、依然として第二次移民船団は変わらず航行を続けていた。残念ながら、第一次船団からの緊急信号を傍受出来ていなかった事になる。理由として、先の所属不明艦隊が放った通信妨害の影響であった。奇蹟的に地球本星に届けられても、第二次移民船団分の通信は妨げられてしまっていたのだ。さらには、彼らの気付かないところで、超空間通信リレーが破壊されてしまい、緊急通信のタイムラグが増加してしまった事も原因であったといえる。
  そんな大事件があったとはつゆ知らず、先人の襲われた宙域に差しかかろうとしている第二次移民船団。それを護っているのは、太陽系外惑星艦隊に所属する、第四艦隊、第五艦隊、第六艦隊の3個艦隊であり、その総数210隻余り。第一次船団の護衛艦隊と同規模の戦力である。
  護衛艦隊を統率しているのが、第二次船団護衛艦隊総旗艦ブルーノア級2番艦〈破壊神(シヴァ)〉である。この〈シヴァ〉は、1番艦〈ブルーノア〉とは違う改装を受けており、艦底部に増設された46p三連装主砲×2基6門と、20p三連装副砲×2基6門がある。艦底の第四艦橋を挟むようにして、前部側に46p砲塔、後部側に20p砲塔と、それぞれ並列配置で設置していた。
  そして、当艦隊指揮官を担うのが、第二次護衛艦隊総司令/旗艦〈シヴァ〉艦長フュアリス・マルセフ大将。イギリス出身の軍人で、年齢は53歳。脱色した金髪に鼻の下に髭を生やており、さながら英国紳士の見本とも言える人物である。
  当初のマルセフは、外惑星系艦隊所属の第四艦隊司令として赴任していたが、後に最新鋭艦2番艦〈シヴァ〉の艦長を仰せつかると同時に、太陽系外惑星艦隊を取り纏める総司令の任と、さらに同時並行で大将へと昇進した。そして大移民計画の際に編成された、護衛艦隊の指揮官も兼任したのだ(実質には外惑星系艦隊丸ごと率いているだけだが、そこに移民船団が加えられていた)。総司令職、艦隊司令職、艦長職を兼務するという、一般的に見れば尋常ならざる忙しい身分だ。
  ただし、艦隊自体の指揮は彼が受け持つものであり、旗艦〈シヴァ〉の指揮は副艦長に任せる形を執っていることから、それなりの負担軽減にはなっていた。この様に、任務に応じて編成された連合艦隊司令官と、自身の受け持つ直属艦隊司令官、加えて座乗艦である旗艦の艦長を務める形態は、地球連邦防衛軍では当たり前な事になっている。もっとも、艦長と艦隊司令を兼任するようになったのは、ガトランティス戦役頃からである。それ以前のガミラス戦役では、艦隊司令と艦長は、別々となっていたのだ。

「テラー通信長、先人からの到着連絡は?」

  定刻通りの通信が入るのを確認するマルセフ司令。また余談ではあるが、艦隊司令官を“司令”と呼ぶ。以前は提督と呼ばれていたが、これもガトランティス戦役時に再編成された連邦防衛軍時に、呼称が司令で統一されている。その他、各管区の艦隊総司令官も同じく“司令”、防衛軍航宙艦隊総司令官を“総司令”と呼称していた。

「第一次船団からの定刻連絡、確認できず」

  マルセフの問いに応えたのは、茶色の髪に中肉中背で27歳の青年士官、通信士官ニック・テラー大尉だ。
  定時連絡なり、到着連絡なりが入っても良い頃だろうに――と顎に右手を当てて考え込むマルセフに別の青年士官が答える。

「司令、あまり考えたくはありませんが……トラブルが生じたのでは?」

  副長リキ・コレム大佐は言った。年齢は28歳。中肉中背の体躯に灰色の髪をした青年軍人で、地球連邦防衛軍大学校を学年3番目の好成績で卒業した秀才である。

「確かに、予想したくない考えだが……」
「それは幾らなんでも考え過ぎではないかな。司令、彼らは通信の届きにくい宙域にいる、という可能性もあります」

  否定的な意見を出したのは、第四艦隊参謀長ニック・ラーダー少将だ。年齢は43歳、やや太めの体躯に黒髪をした風貌である。彼は別に完全に危険を払っていないという訳ではなく、これも可能性の1つとして言っただけである。

「参謀長、貴官の言う可能性は、低いかもしれん。何せ、この航路はきちんと算定されているルートだからな」
「では、やはり……敵襲の可能性を見ておられるのですね?」

  そうかもしれない、とマルセフが言いかけた時だ。警告を知らせる赤色灯が点滅するのと同じくして警戒警報が鳴り響いたのだ。メインスクリーンやサブスクリーンにも、画面一杯になって警告を報せるメッセージが流れる。それは、航行システムの一部が、進路上に障害物、または空間の異変を感知したものであった。いったい、進路上で何があったのだろうか。
  周辺宙域へ常に目を光らせている、索敵士官ライナー・ジーリアス大尉が、レーダーに映る異変を報告する。

「我が艦隊より、12時10分、俯角12度の方角に、多数の空間歪曲反応を感知。距離1万q、極めて至近!」
「何だと……一体、何処の船が出て来たんだ?」

  ラーダーは不審に思いながらも、出てくる集団の解析を急がせる。マルセフは進路変更の用意と、不測の事態に備えて戦闘用意を全艦艇に伝える。避難船団の前方――進路上の1万q先の真正面に、わざわざワープアウトしてくる艦隊があるものだろうか。偶然にしては出来すぎやしないだろうか。まさか、アマールの艦隊ではないであろう。
  マルセフは怪訝な表情をしながらも、取り敢えずは不測の状況に備える他なかった。

「全艦、第一級戦闘配備に付け。ただし、命令あるまで発砲は禁ずる」
「司令、船団長の太田健二郎(おおた けんじろう)少将より指示を請うとありますが」

  後方にいる船団を纏めているのは、第二次移民船団団長太田健二郎少将。かの〈ヤマト〉クルーの1人であり、後に航路管理局などの職務に精励していた。その彼が、今回の移民船団団長を引き受け、移民船の内の1隻に乗り込んでいたのだ。
  マルセフは、後方の船団に万が一の事があってはならないと、太田団長に指示を出した。

「太田団長に伝え。『直ちにワープによる離脱準備に入るべし』と」
「了解!」

  通信士官テラー大尉が答える。瞬間的な加速力の無い移民船では、戦闘艦の様に直ぐに逃げることは出来ないだろう。もしも、前方の艦隊が敵ならば、離脱できるまでに何としても時間を稼がねばならないのだ。
  移民船団に指示が回る頃には、前方に現れた正体不明の船団は完全にワープアウトしていた。宇宙空間から現れる艦艇群は、彼らの予想を悪い方向へと的中させた。オペレーター達の分析が終るよりも、早い速度で事態の悪化が進んでおり、第二次移民船団の左右からも新たな空間歪曲反応が検出されたのである。
  解析中のオペレーター達は、度肝を抜かされる気分に陥った。

「8時10分と3時40分の方角からもワープアウト確認。距離9800。エネルギー放射パターンは正面の物と異なる!」
「何だと……!」

  愕然となるラーダー参謀長。正面のみならず、左右後方からも現れた謎の艦隊。これは、誰が見ても包囲殲滅の意を示しているとしか捉えようがなかった。しかも、この状況では後方の移民船団がワープで離脱する事が出来ない。障害物が針路前方にあっては、安全装置が働いて強制的にワープを終了させられてしまうのだ。

「どれも在来データとは不一致!」

  蓄積していたデータと照合不能だと報告したのは、41歳程の士官で、本艦の技術士官セヴィル・ハッケネン少佐だった。血相を変えながら報告した通り、正面と左右の艦隊は姿形が異なっていた。


U



  まず、正面に現れたのは、艦体全体を赤一色に塗装した艦艇群で、ナイフの様な船体に菱形の構造物を横に載せた戦闘艦だった。最大で460m級余りで、恐らく旗艦クラスと思われる。そのナイフ形状をした艦体に三連装主砲塔が2基ほど見える。
  次にダウンサイジングさせた様な、300m級の戦艦クラスがいた。旗艦クラスの様な三連装主砲塔は見受けられない。
  艦艇数で一番多いのは、それより小型の200m級の戦闘艦のようだった。ナイフ型艦体は同じだが、艦体後部の上甲板に乗っているのは艦橋らしい円盤物。そして艦橋基部の左右から伸びる腕部の上下に連装砲を4基8門、さらにその左右には、ミサイルポッドらしきものが付いていた。

「あれは接近戦に持ち込まれたら厄介ですね」
「確かにな。だが、左右の艦隊も厄介そうだ」

  コレムは息を呑んだ。ラーダーの言われるように、左右から迫る艦隊の特徴も、見るからに個性的かつ手強そうであったのだ。
  左から迫る青色の艦隊は、全部で3種類だった。まず、円錐を逆さにして土台とし、その上に楕円形の艦体を載せているような恰好がセオリーのようである。一言で言うなら“アイスクリーム”のような外見の戦闘艦だろう。
  その中で、旗艦クラスらしき大型艦艇が1隻おり、円錐型――というより台形型に近いパーツが、楕円型艦体の上下に対になるように配置されている。全長320m級、全高380m級(上下円錐部含め)というものだ。上下対象の、これまた類を見ない艦体形状である。
  この旗艦クラスを簡略化、或は逆ともされるが、楕円型艦体の下部に逆円錐を取り付けた艦がいた。その全長は240m、全高が320m(下部円錐部含め)もあった。円錐型艦体の下部に吊り下げられるようにある逆円錐型が何なのかは分からない。
  もう1つは、逆円錐を取り払った、ただの楕円型艦体をした戦闘艦の存在もあった。非常にシンプルな外見を持ったものであるが、恐らく戦艦としての役目を持っているであろうか。
  残るのは、130mとかなり小型になっており、やはり楕円型の艦体を基本形状としていた。
  これら青白い艦隊の武器として、砲身の短い単装砲が、旗艦クラスで12門、楕円型で11門、アイスクリーム型で9門、小型で7門が確認できた。

(右舷の白い艦隊は、砲撃に特化しているようだな)

  そして、マルセフは右舷側から迫る白い艦隊に注意を向けていた。
  白い艦隊の中に存在するものでも、最大で600m級の大型戦闘艦が一際存在感を放っている。この大型艦のベースはU字型であるが、艦首は巨大な三角柱と言っても過言ではない。三角柱型の巨大な艦首が左右、並びに艦底側にも前方へ向けて伸びる、より長大な三角中型艦首を繋いだ――敷いて言えば、三胴型の艦体をしていた。艦の全長の半分は、長大な三角柱型艦首で占められていると言っても過言ではない。
  艦体後部には、三角柱型の艦橋が1つ建っている。三連装ビーム砲らしき武装が、主に4基確認できた。それ以外に危険性が高いのは、あの三角柱型艦首の先端切り口に見受けられる、大口径の主砲ではないかと推測される穴だ。左右艦首先端に2門づつ、下方艦首先端には、一周り大き目な砲門が縦列に2門と、その脇にやや小さめのものが2門づつ、縦並びに収まっていた。
  これが、白い艦隊の旗艦と見ても間違いないだろう。
  次に310mクラスの戦闘艦艇だ。旗艦クラスをダウンサイジングさせた様で、三角柱を平行に2つ繋げたようなU字型、或は双同艦型の艦体形状をしている。三連装ビーム砲塔も1基少ない3基9門。艦橋と見られる三角柱型構造物も、かなり低めになっている。
  残るのは200m級の戦闘艦だ。半円型の艦体前方に、長大な三角柱そのものが繋ぎ合わせられている、非常に簡略化された艦だった。武装も簡略的で、三連装ビーム砲2基に、艦首大口径砲が1門のみらしい。
  これら艦隊は白く、表面の模様を例えで言うなら、“大理石”か“文鎮”だろう。

(この構えは、明らかな敵対行為だが、下手に手は出せん)

  これは明らかに敵対行為を示している。この正体不明の艦隊が執る陣形は、地球の移民船団と護衛艦隊を共々包囲しているもので、正面から囲い込んで、そのまま物量にものを言わせて磨り潰す腹に違いない。

「全軍、第一級戦闘態勢を取れ!」
「了解。全艦、第一級戦闘態勢。繰り返す、第一級戦闘態勢を取れ!」

  マルセフの指示に従い、砲雷長ロズウェル・ジェリクソン大尉が、〈シヴァ〉の戦闘態勢を進める。年齢は28歳とかなり若い青年士官であり、砲術や魚雷専門を優秀な成績で収めた人材である。そこから、多少の所属移転を繰り返した後、最新鋭艦の砲雷長に抜擢された次第であった。
  またマルセフは、咄嗟に席から立ち上がると、第五艦隊と第六艦隊にも迎撃準備の指示を下した。

「第五艦隊、第六艦隊は反転して、それぞれ両舷の艦隊に対応せよ。ただし、命令あるまで砲撃は控える」
『了解』
『これより迎撃に向かいます』

  第五艦隊司令官永野希侑(ながのまれすけ)中将と、第六艦隊司令官ウィリアム・ホーランド中将が、緊迫と覇気を兼ね備えたような表情で応えた。
  護衛艦隊総司令マルセフ大将の命を受けた地球軍各艦隊は、それぞれ正面左右に対して進路を向ける。しかし、こちらが先に手を出してしまえば、開戦の責任を地球が背負う事になる。これが相手を知らない者の、辛い立場であった。皮肉な話だが、攻撃されて初めて、自衛権を行使できる。
  そしてマルセフは、矢次に第四艦隊の航空部隊にも緊急発進(スクランブル)を命じた。

「全艦隊、艦載機発艦。艦隊の防空に当たれ」

  新開発されたインビンシブル級戦闘空母と、インディペンデンス級戦闘空母から、地球軍の主力艦載機こと多目的戦闘機コスモパルサーが次々と発艦していく。
  インビンシブル級は、かの空母型を検討して建造された空母型アンドロメダ級を継承する艦艇だ。艦体の基本設計は、スーパーアンドロメダ級そのものだが、取り分け特徴的なのは、艦橋と一体化した巨大な格納庫設備だった。艦橋の後方へ向けて、まるで傘の様な縦長の格納庫であり、艦載機数は80機に上る規模だ。
  また、カタパルトは左右斜め前方へ向けて、縦2列:横6列づつ配置され、一度に24機を射出可能とした。それを支える支柱を艦橋後背側に増設したことで、後方第3主砲塔は撤去されている。主に戦隊旗艦として活用される艦艇だった。
  もう1つの空母が、ドレッドノート級主力戦艦の後部を、大胆にも飛行甲板にしてしまった艦艇ことインディペンデンス級である。その甲板を載せる為に、全長は必然的に巨大化する。搭載機数は60機であった。艦載機は、エレベーターによって甲板に運ばれ、そこから純粋に飛び立つのではなく、艦に対して垂直方向へカタパルトで打ち上げる方式を採用している。
 1機分の格納庫を1つの空間として、拡張並びに延長された艦体後部上甲板に、縦横にと、ブロックの様にびっしりと並べてあるのだ。1機づつ甲板まで運ぶよりも、一斉に発艦出来るメリットがあり、帰還するときは格納庫層とエンジン層の中間にある伸縮式の着艦用滑走路に降り立てば良い。その所だけは、旧来の戦闘空母と同様であり、この伸縮式滑走路は帰還する時だけ後部へとスライドし、着艦し易いようにしているのだ。
  だが、1機につき一区画分の格納庫を、60機分も造らねばならない。さらに、その分のカタパルト機構等を設置せねばならない為、建造工程が複雑化してしまうことになり、生産数は決して多くは無かった。

『こちら航空団司令グレゴリー・ローツハルト、全機発艦します』

  そして、〈シヴァ〉も224機に上る大規模な艦載機隊が発艦される。これら大規模な艦載機を運用するのは、シヴァ航空団司令グレゴリー・ローツハルト大佐。ドイツのエース・パイロットとして名を挙げた防衛軍パイロットで、最新鋭艦の航空隊の運用管理を任されていた。
  艦体両舷に備え付けられている巨大なデルタ翼が、それぞれ左右に開放され、直後には艦載機コスモパルサーが次々と射出される。

「正面の艦隊、さらに接近! 距離8800……射程距離まであと800!」

  緊張が高まる。防衛軍の使用する陽電子衝撃砲(ショックカノン)の射程距離は、概ね8000qとされている。これでは艦載機の完全発進は間に合わない。マルセフも、コレムも、ラーダーも、額に汗が流れる。こちらからの通信に応じる気配は、まったくもってない。

「こちら地球連邦所属第四艦隊旗艦〈シヴァ〉、応答せられたし。繰り返す、こちら地球連邦所属第四艦隊旗艦〈シヴァ〉、応答せられたし!」

  テラーが必死に応答を呼び掛けるが、やはり応答しない。速度も落とさない。前進してくるだけである。彼らは、一体何を考えているのか。いい加減に忍耐力の限界が来そうになる地球防衛軍。
  撃ってこないのか――次の瞬間だった。

発砲炎(ブラスト)確認! エネルギー波、急速接近!」
「応戦だ、全艦砲撃を開始せよ!」

  やはり敵であったか――マルセフは、応戦命令と避難船団へ退避を命じるが、それよりも先に手を出した相手の着弾の方が早かった。正面の赤い艦隊からは、赤いビームと共にミサイルを放って来る。アイスクリームの様な青い艦隊からは、艦載機が発進し、本体自体の砲火も加えられる。残る文鎮の様な白い艦隊からは、2つの艦隊に比べて些か威力の高い大口径ビーム砲と、速射能力に優れるビーム砲を乱射しながら接近して来るのだ。

「奴らを通すな。船団が離脱できるよう、敵艦隊の包囲網を切り崩す!」

  移民船は巨大な分、ワープにも時間を倍ほど要する。凡そ10分程護りぬけばワープしてくれる筈だ。加えて、ワープ出来るように針路上の敵艦隊を相当しなければならないのだ。
  短いようで、それは長い時間であるとマルセフには思えた。

「敵弾、来る!」

  赤いビームとミサイルの豪雨が、第四艦隊の先頭集団に降り注いだ。地球艦隊のショックカノンよりも威力は低いものであったが、そのビームの速射性能と連射性能が、多量のミサイル群と混合された攻撃は苛烈を極めたものである。それを、地球軍艦艇は、青白い幕を艦周囲に生じさせることで被弾を防いだ。
  これは、防衛軍が標準装備している防御装置で、“波動防壁”と言った。〈旧ヤマト〉が試験的装備を実地したもので、不沈神話に貢献したものである。初期型は稼働時間が10分だが、改良型は低出力での半永久展開が可能となった。とはいえ、低出力である分、防ぐのにも直ぐ限界が来てしまうのが欠点である。
  赤い艦隊から放たれるビームが、1発の威力が低いものであっても、それが短時間かつ連続して命中すれば、波動防壁の負担は直ぐに限界値を超えてしまい、装甲に着弾する結果を生む。絶間なく降り注ぐビームの雨によって、地球軍艦艇は、次々と波動防壁の耐圧限界点を迎え、被弾していく。

「戦艦〈スキャラ〉、通信途絶しました!」
「同じく戦艦〈スウェーデン〉、撃沈!」
「巡洋艦〈キャンベラ〉、戦闘不能の模様!」

  先手を打たれた第四艦隊の先頭集団は、正面の赤い艦隊の苛烈な砲火に被害を生み出していく。先手を打たれた分、被害は増大し波動防壁を貫通された艦艇が脱落する。
  砲撃戦の開幕から8分前後が経過する頃、第四艦隊の先頭集団は、2割が戦線を離脱または撃沈してしまった。巧妙にも赤い艦隊は、砲撃の焦点を集中し火力を叩きつけて来ており、この集中射撃によって、波動防壁を早々に切り崩していった。
  マルセフは奥歯を噛み締めながらも再び命じた。

「砲撃が集中するポイントを開けるんだ。同時に、敵の先頭集団に火力を集中させて反撃!」

  指示通り、集中するポイントの艦列を開けて被害を拡散させる。同時に正面に陣取る赤い艦隊の先頭集団へ、苛烈な砲火を集中させた。それに怯む赤い艦隊は、速度を落とすかと思われたが――。

「敵艦隊、突っ込んできます!」
「司令、奴らは被害を無視して、背後の船団を狙うつもりです!」

  猪突猛進型の司令官がいるのか。マルセフは集中砲火に臆せず突っ込んでくる相手を、スクリーン越しに睨み付けた。

(このままでは我が方が分断され、後方が襲われる……!)

  彼は、赤い艦隊に対して「悪魔め」と罵りながらも、艦列を集中させる他ないと判断した。逆に厚い壁を築き、赤い艦隊の鼻を挫くしかない。砲撃手達は、ひたすら撃ち続けた。撃沈させても、後から続々と新手の敵艦が沸いてくる為、途方もない作業だと考える暇もなかった。
  それでも赤い艦隊は、地球艦隊による強力な集中砲火を真面に浴びる形となり、さすがに速度を落としていった。巧みな砲術によって次々と爆散する赤い艦隊の戦艦群。この光景に、彼ら赤い艦隊の将兵達も怯みを覚えたようだ。少数である地球の艦隊に、勢いを減殺されてしまい、浮き足立つ。

「移民船団のワープ準備完了まで、あと1分!」

  1分……あと1分さえ耐え抜けば、移民船団はワープによる脱出準備ができるのだ。
  しかし、それを成功させるには、無理矢理にでも逃げ道を作らねばならない。その為に被害が出ようとも、市民の生命を護る為ならば命を惜しみ等はしない。離脱が出来るようにする為にも、先手を受けて戦力が減ってしまった第四艦隊は、敵より劣る兵力で撤退までの時間を稼ぎ続けた。
  だがこの時、左右両端の戦場は、敵方の有利さに傾きつつあった。第五艦隊は青い艦隊と対当し、第六艦隊は白い艦隊に対当する。どちらも反転を完了させる前に先手を取られていたのである。反転中に砲撃を受け、両艦隊は小さくない損害を負ってしまった。

「おのれぇ、全艦砲撃開始!」

  第五艦隊旗艦F型スーパーアンドロメダ級〈陸奥(ムツ)〉艦橋で、永野中将は反撃を命じる。40.6cmショックカノンが、8000qほど宇宙空間を駆け抜けて青い艦隊に着弾する。艦底部の逆三角錐部分に命中し、大爆発を引き起こして真っ二つに折れる。
  しかし、本体らしい艦体部分のみが残り、ひるまず攻撃を仕掛けてきた。さらに、その艦隊からは、無数の艦載機らしき小型機が、無数に飛び立っているのが確認できた。その数からして、第五艦隊もと地球軍の搭載能力を凌駕していているのは明らかだった。この艦隊は、空母能力にたけているやもしれない。
  永野は、自分の艦隊の艦載機隊では到底支えきれないと判断して、他艦隊の援護を要請した。マルセフはそれを承諾し、艦載機を青い艦隊の艦載機に差し向ける。青い艦隊からは、3120機余り、地球艦隊からは1080機余りが飛び出し、宇宙空間で近接格闘戦(ドッグ・ファイト)を繰り広げ始めた。数で不利だが、性能では地球のコスモパルサーが勝っている様である。
  とはいえ、数に勝る青い艦載機隊の4分の1が、第五艦隊に殺到してきた。

「敵機接近!」
「敵艦隊も前進を開始、密集体系で突撃してきます!」
「通すな、方型陣で壁を築き、敵の鼻っ面をへし折ってやるのだ!」

  しかし、永野の行為は報われなかった。4機の敵艦載機隊が、旗艦〈ムツ〉目がけて飛来して来たのだが、直掩機隊は自分の事で手一杯であり、真面に動くことが出来ない。〈ムツ〉の対宙機銃の猛撃を掻い潜り、その艦載機隊は一斉に対艦ミサイルを発射する。威力は大したことは無いが、青い艦隊の艦砲射撃を受けていた事もあって、波動防壁はギリギリの可動範囲を保っていた。
  そこにミサイルを叩き込まれたことで、丁度、波動の撃壁は消失してしまったのだ。しかも、敵艦載機が〈ムツ〉の2000m手前まで飛来したところで、敵艦載機の放った機銃が命中したのである。爆発四散した――誰もが思った筈だ。
  だが、残念なことに、煙にまかれた艦載機の残骸が、ほぼ形状を保ったまま流れ弾の如く飛来してきたのである。

「回避!」

  咄嗟に回避行動を命じるが、その時は既に500mを切っていた。しかも、嘘のように艦橋へ吸い込まれていき、回避行動も意味なく残骸は艦橋へと直撃した。

「!?」

  スクリーン一杯に広がる残骸の姿を目にしたのが、彼らの最期であった。機銃如きで艦橋を破壊する事は出来ないが、高速で突っ込んでくる艦載機までは、防ぐことは出来ない。激突した残骸は、艦橋を見事に滅茶苦茶に破壊したのだ。艦と艦隊の頭を同時に失った第五艦隊は、急速に瓦解への道を転げ落ちた。旗艦〈ムツ〉もコントロールを失い、青い艦隊の集中砲火を受けて爆散してしまった。その直後、艦隊副司令が指揮を執り、瓦解は辛うじて防げたのは幸いである。
  方や第六艦隊は、第五艦隊の様に側面攻撃を真面に受けてしまっていた。反転が終る頃には戦艦1隻、巡洋艦4隻、駆逐艦3隻をも失ったのだ。それだけ砲撃の威力は強力であり、地球軍のショックカノンに匹敵する事を意味する。対当する白い艦隊は、そのまま前進して第六艦隊に突撃を始めた。

「調子に乗るなよ、異星人が! 全艦、ありったけビームとミサイルを撃ちこめ!」
「敵艦隊、速度変わらず、突っ込んで来る!」

  第六艦隊旗艦F型スーパーアンドロメダ級〈フッド〉の艦橋で、異星人へ罵倒をまき散らしながら、反撃を命じる。
  しかし、白い艦隊の猛攻は尋常ならざるものであった。まるで、同じ地球連邦の艦隊と戦っているのではないか、と錯覚さえ覚えてしまう砲撃の威力である。第六艦隊こそ、その猛攻に出鼻をくじかれてしまったのだ。白い艦隊の青白いビームが、瞬く間に巡洋艦〈エッフィンガム〉を蜂の巣にしてしまった。艦体に4ヶ所もの直撃弾を受け、爆沈する。戦艦〈レパルス〉などは、波動防壁を貫通された直後に第2砲塔が直撃を受けて吹き飛んだ。続けざまに艦橋部や艦体左舷にも直撃を受け、戦闘不能に陥る。
  ホーランドは、次々と打ち崩される味方に激怒した。

「えぇい、何をしているか! お前達は栄光ある地球防衛軍の兵士だろうが、敵に臆するな!!」

  指揮能力としては一応の平均を超えているが、理性が抑えられず無理を強いたり、罵声などの言葉が飛び交うのが玉に傷である。第六艦隊は、彼の言葉に士気を振るわせられなかった。短時間において、第六艦隊も2割以上の被害を被ってしまっていたのだから無理もない話である。
  そして、運の悪いことは第五艦隊に続いて起きた。ホーランドが旗艦を前進させて、味方を如何にかして鼓舞しようと躍起になったが、それがいけなかった。白い艦隊は、これを旗艦だと判別したのかは別として、1隻が急に前進して来たのに反応したのだろう。砲火は瞬く間に旗艦〈フッド〉周辺に及んだのである。

「敵弾、来ます!」
「んっ!?」

  鼓舞してやるつもりが裏目に出たと悟ることもなく、彼は光球に包まれてしまったのだ。〈フッド〉は苦悶にのた打ち回った挙句、見事に轟沈した。この瞬間に2個艦隊が頭を失うという、最悪な事態に陥ったのである。第六艦隊将兵の士気はボロボロであり、このまま壊乱するかに見えた。皮肉なことに、この後に指揮権引き継いだ副司令アルツール・コッパーフィールド少将の方が、遥かに真面な士気が執れたのである。
  護衛艦隊が大損害を受けている中で、ようやくにして移民船団はワープの準備が完了した――が、逃げ道はまだ作られていない。移民船団団長の太田は、苦戦する護衛艦隊に道を切り開いてもらうよう、通信を送るしかなかった。彼らだけが頼みの綱なのである。
  旗艦〈シヴァ〉の中枢である第二艦橋(航行管制室)に送られてきた要請に、マルセフに残された選択肢は1つしかなかった。正面の艦隊に風穴を開けて、移民船団を逃がすのだ。

「第五艦隊と第六艦隊の戦況はどうか」
「ハッ。両艦隊共に3割強の損害を被っている模様。移民船団の最後部にも、敵艦隊の砲火が及び、被害が出始めています!」

  第四艦隊も戦線を保つのが限界に近い。〈シヴァ〉が率先して前線に出て、赤い艦隊を迎撃しているが、一向に数が減らない。被弾も重なっているが、新鋭艦らしく敵弾を弾き、強固にも耐え抜いていた。だが〈シヴァ〉だけが強固な訳ではない。後方の2個艦隊は、オペレーターが報せたとおり、4割近い損害を受けている。さらに突破を許してしまい、船団後部は混乱の極致にあった。
  考えている時間はない。マルセフは波動砲による一点突破を決断する。

「現在、戦闘能力を失った艦で、波動砲が無事な艦のリストを上げてくれ!」

  波動砲とは威力の高い決戦兵器ではあるのだが、その対価として要求されるのがチャージ時間である。初期の波動砲よりも大分短時間チャージを可能として来たが、それでも準備時間諸々を含めると、1分30秒近くを要してしまうのだ。こで彼は、砲撃出来る艦は全力で砲撃し続け、砲を使えない艦だけが波動砲を放つ事で、より効率的に時間を稼げると判断したのである。

「成程、それなら時間を稼げますね――ッ! 2時方向の敵艦を近づけるな、迎撃!」
「ハッ!」

  コレムは感心しながらも、〈シヴァ〉を預かるものとして指揮を執り続ける。三連装主砲1基が反応して、2時方向の中型艦を撃砕した。やがて、オペレーターによって急ぎリストアップされると、それらが艦長席の指揮卓(コンソール)の端末に表示される。それから分かる事は、先手を打たれた時に大分多くの艦が戦闘能力を奪われているらしい事だった。

「現在で発射に影響の無い艦は、戦艦〈ティオネ〉〈デーバイ〉〈サウスダコタ〉〈扶桑(フソウ)〉の4艦のみ!」
「よし、それらの艦は直ちにチャージを開始せよ。なお先の4艦付近にいる艦は、全力で援護しろ!」
「司令、移民船からSOS信号が散発されています!」

  マルセフは、急ぎチャージの命令を下す一方で、無事な移民船団は〈シヴァ〉に対して救援を求めていた。救援信号の多さに〈シヴァ〉通信士は対応しきれていない。通信機器も回線の多さにパンクしそうだ。だがこれらをいちいち返信する暇はない。それに、ここを逃げ出すにはもう少し耐えねばならず、移民船は恐怖に駆られる。船団の最後部は、勢いよく敵艦隊に浸食されている。白い艦隊と青い艦隊のビームの弾幕が、巨大な船団を蜂の巣にしているのだ。
  迎撃していた第五艦隊、第六艦隊は、共に中央を突破されていた。そして相手は、数の少ない地球軍の事情に付け込んで、戦力を二分したのである。青い艦隊と白い艦隊は、それぞれ60〜70隻を突破させて船団最後尾に攻撃させ、残る110〜140隻余りを突破せずに、正面の地球軍を攻撃させたのだ。
  移民船団最後尾は攻撃に晒され、500隻あまりが市民を乗せたままスクラップにされる。その後も被害が増大していくが、救援する余裕もなかった。

(大勢の市民を、よくも……!)

  自分の不甲斐なさにコレムは歯ぎしりしているが、マルセフもラーダーも同じ心境にあった。市民が乗っていることを知っているのか、この連中は。かのディンギル戦役を、嫌がおうにも思い出させる。全滅させてはならない。何としても、生きて辿りつかせなければらないのだ。
  だが、この地獄から抜け出すまで後、地球艦隊と船団はおよそ2分の時間を必要としたのである。




〜〜あとがき〜〜

どうも、お初にお目に掛かります。第3惑星人と申します。
シルフェニアの記念作品として、反省と後悔をしつつも、投稿させて頂きました。
正直な所、私は『魔法少女リリカル〜』の方は原作もアニメも見た事がありません(汗)。ただ、組織的図や一応の世界観は等は、サラッと見ていますが、やはり素人の素人です。
ですので、本作品内で「これが違う!」という描写がありましたら、お申し付けください。
因みにこの組み合わせを書いてみようとしたきっかけですが、時折にヤマトとのMAD動画を探していたら偶然にも発見し「いけるんじゃないの?」みたいな浅はか過ぎる思考で組み合わせました。
決定的になったのは、宇宙戦艦ヤマトと魔法少女〜のクロスオーバーを書かれている方の作品を見た時でしょか?
残念ながらエース・オブ・エースら機動六課の面々の登場は無いかもしれないです(名前がひょっこり出て来る程度‥‥‥です)。
単に次元部隊(本局あるいは時空管理局そのもの)との絡みをやらせてみたいとの思いでやっております。
加えて興味本意で書いていますので、上手く纏められるかもわからないです(オイ)
次回からは、時空管理局が出てくる予定ではあります。

それとブルーノア級戦闘空母2番艦〈シヴァ〉についてですが、これは完全に私の独自設定です。
公式でもなんでもないので、ご注意ください。

では、こんな私ですが、何とぞ宜しくお願い致します。



・2020年1月21日改訂
・2020年2月24日修正



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.