第7話『議会は回る』


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  SUS艦隊に突如として襲われた結果として、次元航行部隊は第二十七戦隊他3個戦隊が半数以上を失う大損害を受けるものの、地球艦隊の機転で嘉禄も全滅を免れた。そればかりか、瀕死に近い筈であった地球艦隊の攻撃によって、SUS艦隊は壊滅してしまったのだ。時空管理局員からすれば、歓喜と恐怖の入り乱れる複雑な心境を抱くこととなった。
  その攻勢を退けてから2日後、地球艦隊とジャルク提督率いる残存艦は、出来る限りの救助と応急修理作業を終える事が叶い、ようやく本局へ向けて脚を進めることになった。
  方や時空管理局の本局と、第九管区司令部からの増援艦隊は、ジャルクの緊急連絡を受けて急遽出航していた――実際に合流できたのは戦闘終結後だが。
  掛け付けて来た次元航行部隊の増援部隊一行は、ジャルクからの報告にあった地球の艦隊を確認し、なおかつ、全滅し無残な姿を晒していた次元航行部隊の姿を目の当たりにしたのだ。瀕死状態の立場が入れ替わっている事に、驚きを隠せない局員の反応が、大半を占めていた。
  増援艦隊の1隻つである次元航行艦〈クラウディア〉艦橋でも、ジャルクの残存部隊と、同行している地球艦隊を発見していた。
  だが、その様子はまるで逆であろうか。次元航行艦が、地球艦隊に守られているような姿にも見受けられたのだった。

「提督、〈アムルタート〉他、3隻を確認」
「保安艦隊が、たったの4隻……。16隻もあった艦隊が、こうも大損害を被ったとは……」

  合流出来たのは良いとしても、4分の1に減らされた友軍艦隊の無残な姿に、クロノも動揺を隠せない。彼にとって――管理局員全員にとっても衝撃的だった。緊急電からして、ひっ迫した状況であることは覚悟していたが、一度に10隻以上もの次元航行艦が失われるケースは、ほぼ無いと言って良い。あっても単艦行動時の損失くらいであったが、こうまでして、纏めて撃沈されるのは前代未聞であったのだ。
  出航する直前に、ジャルクから通信にて報告されていた所属不明艦隊との戦闘により、多くが撃沈されてしまったと考えるのが自然ではあろう。何せ、相手は倍上の規模を有した艦隊だったという。なれば、ここまで悲惨な結果になるのも分からない訳がない。
  そして、次元航行艦とは違う、もう1つの存在を見やった。

「報告にあった地球艦隊を確認。〈アムルタート〉の背後に、ピタリと着いてきています。数43」
「第二十七戦隊が最初に報告してきた数と、変化は無しか」

  ふと思ったのは、かの地球の所属だという戦闘艦隊の数が、初期報告にあった数を維持したままであったことだ。所属不明の艦隊との戦闘を交えていたのであれば、数が減っていても不思議ではないのだが、1隻も変化が無いとはこれ如何に。ジャルクの第二十七戦隊が懸命に護り切ったという事であろうか。
  また、不明艦隊との戦闘データを始めとした通信報告等は、不明艦隊の新たな追撃や襲撃のリスクを考慮していた事から、本部や増援部隊には発信されていなかった。故に、この時点でクロノら時空管理局は、先の戦闘の経緯は全く分かっていなかったのだ。
  そして、地球艦隊は損傷して迷い込んだにもかかわらず、次元航行部隊に勝るとも劣らない、きっちりとした隊列を組んで航行している姿を見ては、疑問も増えようものだ。どちらが救助し、救助される側か、その立場は明らかに逆転しているように見える程である。ますます、謎が深まる光景だ。
  不意に〈クラウディア〉のオペレーターが、己が抱く不安をクロノに明かした。

「提督、まさかとは思いますが、地球艦隊に……?」
「いや、流石にそれは考えづらいだろう。もし、我々の次元航行艦を凌ぐ戦闘能力を持っているのなら、今頃、こちらに何らかのアクションを起こしてくる筈だ」

  クロノは、オペレーターの言う可能性を否定しつつも、目の前に映される状況の整理を必死に行っている。思考回路は巡るましく情報量が回り出し、逆に収拾がつきにくい状態になっている。辛うじて思考回路からひねり出したのは、次の様な結論だった。
  1つ目に、次元航行部隊と謎の敵による相撃ちの可能性だ。2つ目に、確率は低いものの、壊滅寸前だった第二十七戦隊らに代わって、地球艦隊が敵艦隊を撃退した可能性。3つ目に、地球艦隊の手によって、航行部隊と敵艦隊の双方を撃滅してしまったという、彼らにとっては常識外であろう予測だ。
 
(1つ目の、相撃ちの可能性があり得るか? 地球艦隊を護り切った故の、大損害だと……)

  これが、一番有り得るとクロノは思っていた。そうでなければ、第二十七戦隊も、これ程の惨状にはならないだろうと考えていた故である。また、この時点では、クロノも地球艦隊の性能を図り切れておらず、次元航行艦の性能が上であると考えていたのだ。

(それに、XV級は就役年数の浅い新鋭艦だ。相討ちの可能性が妥当かもしれん)

  次に、2つ目の地球艦隊による撃退戦の可能性。これは、クロノ個人としては、あまり考えにくいとは思うのであるが、事実がそうだとしたら、そもそもからして次元航行艦では相手にならない敵だったのか。

(まさか……本当は、壊滅寸前の次元航行部隊に代わって、敵艦隊を撃退しきった……という訳は……)

  だとすれば、今目の前にいる地球艦隊は、とんでもない武装集団という可能性も浮上してくる。自分ら管理局では敵わない敵を一掃できる力を持っている地球艦隊に、どう接すれというのであろうか。

(となれば、3番目の可能性すれら浮上してきてしまう)

  2つ目の可能性が上がれば、当然、3つ目の可能性も浮上してくるものだ。3つ目の次元航行部隊と謎の敵、この双方が、地球艦隊の攻撃で壊滅してしまった可能性……それこそ、一番考えたくないものであった。もし本当であれば、自分達もたちまち全滅させられる可能性を含んでいる。
  戦闘配備を下令しておくべきか――と、決意した途端に通信が入る。それは第九管区艦隊旗艦〈エピメテウス〉からの通信であり、艦橋の通信スクリーンに現れたのは、第九管区艦隊司令官ロベルト・ノルギンス少将だった。年齢にして38歳の若い提督で、長身に端正な顔立ちと薄茶色のオールバック姿である。時空管理局内でも、エリートに分類される有望な高級士官だった。
  ノルギンスの話では、つい今しがた〈アムルタート〉から通信が入ったとの事であった。双方の距離が近づいたこと受けて、〈アムルタート〉が通信をいれて来たのである。その〈アムルタート〉艦長であるジャルク提督から入った情報を、クロノにも伝えて来たのだ。

「この〈アムルタート〉らの被害は、地球艦隊によるものではない……と」
『そうだ。ジャルク提督の話によれば、SUSと言う国家の戦闘艦隊140隻に襲われたそうだ』
「140!?」

  140隻という規模は、時空管理局では動員する事のない数だ。次元空間等では、そのような艦隊戦はめったに起きないものであり、しかも100隻を超過するなど、これまでにも前例がない規模だった。そして驚くべき話――次元航行艦の能力では、その不明艦を相手にするには全く太刀打ち出来なかった事、もう1つは地球艦隊がSUS艦隊を完全に撃砕してしまった事である。

(手負いの地球艦隊が撃退した? いや、それよりも、管理局の新鋭艦が、敵に歯が立たなかったというのか!)

  ノルギンスの話に、クロノは内心で振り子の如く激しく動揺した。よもや、2つ目の可能性が的中してしまうとは!
  それをノルギンスが察したようで、小さく溜め息を吐く。言葉で言っても信じる事の出来ない話なのだから、仕方のないことだ。次元航行部隊が16隻だった故に、少数劣勢だった故に、壊滅したに違いないと考えていたのだ。
  だが、地球艦隊43隻で、SUSとやら言う艦隊140隻を撃退するなどという話の方もまた、信じられないものだった。
  しかし、だとすれば、どのような戦闘があったというのか。少数で多数を撃退するとは、余程の戦闘能力を持っているに違いない。

『それについてだが、たった今〈アムルタート〉から記録映像が入った。合流に多少の時間が掛かるから、それまでに見ておくように』
「はい。拝見させて頂きます」
『……因みに、それらについての資料は全て纏めてあるそうだ。もう、今頃は本局にも届いているだろう』

  そう言う彼自身も、その映像とやらに関して心底呆れんばかりの様子であった。こんな事があってたまるか、と言いたげである。
  クロノは、ノルギンスに言われた通り、合流を完了させる前に届けられたデータを確認しにかかった。オペレーターがデータを読み取り、艦橋内のスクリーンに投影する。そこから始まった戦闘の一部始終を、まるで息を忘れる程に食い入る様に見つめていった。

(本当に、これが現実にあった戦闘だと言うのか!)

  全てを観終わる前に、クロノは映像の中身が実際の物ではない事を祈りたくなった。
  同時に、オペレーターも皆して、声を出すことも出来ずに唖然として、その映像を見つめ続けている。

「嘘でしょう……こんなの」

  ようやく、強制的に気道を塞がれていた喉奥からひねり出した言葉が、それであった。この様な一方的な戦闘があっていいものか。そう思わずにはいられない程、その光景を見ていられなくなる数人のオペレーター達。
  今までの時空管理局は、絶対に人を殺める事の無いように、非殺傷設定というのを魔法で行う。実弾兵器を主とする世界では出来ない、魔法ならば可能な方法であろうが、対艦戦ではそうもいかないものだ。この映像では、非殺傷設定を考慮されてはいないのは、見ていて理解せざるを得ない。ましてや、ここは次元空間だ。艦外に放り出されたら命が無い。爆沈する次元航行艦で、どれ程の命を落としたか。死ぬのが当たり前な地球での戦闘。
  それに比べて時空管理局の戦闘は、まるで模擬戦そのものだと言えよう。

「地球連邦……防衛軍……これは、管理局の上層部は放ってはおかないぞ」

  少数ながらも、とてつもない戦闘能力を持つ地球の宇宙戦闘艦の姿を見て、クロノはそう呟いた。特にアルカンシェルを遥かに上回る超兵器の存在が、一際目を引く存在だ。これを見てもなお、落ち着いていられる者が時空管理局の上層部にいるとも思えない。逆に危機を感じて貰わねば一層困る話だった。
  まして、時空管理局はJS事件で傷を治しかけている最中である。管理局としても、これ以上の混乱や被害を出す訳にもいかない――既に遅いのだが。この時点で、時空管理局もとい次元航行部隊は、SUSなる巨大な戦闘艦隊を保有する艦隊の手により、14隻の次元航行艦を撃破されてしまったのだ。しかも、その中には、大型且つ新鋭艦たるXV級艦船まで含まれている。寧ろ、XV級を失った衝撃以上に、SUSという未知の国家の出現の方が、一層の警戒が必要だろうか。
  そしてクロノは、記録映像の中に映った超兵器を放った艦を再度見ると同時に、カリム・グラシアの予言を思い出していた。

「“異国の破壊神が統べたる下部達”……。あの青い巨大艦が、破壊神なのか?」
「断言は出来ませんが、艦に搭載されている武器の数からいえば、青い艦がそうだと思います」
「それにしても、全長800m以上とは恐れ入るな」

  地球防衛軍でも最大となった艦体を持つ〈シヴァ〉。あまりの巨大さに、見ているだけで気圧されてしまいそうだ。しかも、主砲をズラリと並べている様は、まさしく破壊の神たらしめているようであった。
  そして彼は、もう一方の灰色を基色とした大型艦こと〈ミカサ〉にも目を向けていた。こちらは、艦首の砲口が青い艦こと〈シヴァ〉に比べて2つも多い。超兵器を発射できる砲門が3つもあるとなると、〈シヴァ〉を上回る破壊力を有しているのではないかと錯覚してしまう。次いで、地球防衛軍の主力兵器であるショックカノンにも、注目が集まる。

「外観からして、我々の艦載砲の非力さが伝わるようだ」
「あの主砲砲身の直径は、推定でも40pとされます」
「……地球の、大昔の戦艦と同じだな」

  かつて第97管理外世界に滞在した経験のあるクロノは、その地球の歴史もある程度かじっている。特に、時空管理局では取り締まりの対象となる武器関連には敏感で、過去の大艦巨砲主義を飾っていた戦艦も知っている。それはやがて、ミサイルという兵器が取って代わられたが、よもや宇宙空間で使われているとは驚きであった。
  だが、全体の攻撃力は、〈ミカサ〉よりも〈シヴァ〉が勝っており、やはりそちらの方に注意すべきであろうか。
  地球艦隊に対して、興味と恐怖を抱き合わせにして観察する管理局だが、それに対する〈シヴァ〉の艦橋内部では、新たに出現した次元航行部隊に対して、一応の注意と警戒を払いつつも待機状態にあった。よもや、此処に来て不意打ちと言うことは無いであろうが、万が一の事もある。増援として派遣されてきた艦隊が、自分らの現状を見てどう判断するかという想像も働かせていた。それは、先のクロノ然り、ノルギンス然り、地球艦隊に対する懸念であった。
  一応の警戒態勢をとる最中、〈アムルタート〉から連絡がもたらされる。

「〈アムルタート〉より入電」
「読んでくれ」

  司令官代理を兼ねる身として、艦長席に腰を下ろしていたコレムは、スクリーンにアップされている航行部隊を見つめている。

「『新たに現れた艦隊は友軍なり』――以上!」
「そうか……全艦に通達。警戒態勢を最低限度まで引き下げる」

  正式にジャルクの同業者だと分かると、コレムは戦闘配備を最低限のものとした。職業柄、まだであったばかりの組織を全面信用する訳にはいかず、いざと言う時に動けるよう命令を出していた。次いで、これから増援側の通信が入って来るだろうと構えた。
  すると案の定、相手側から通信を送って来た。送られて来た通信を、直ぐに繋がせてメインスクリーンへ映像に出した。
  そこには、時空管理局の指揮官ロベルト・ノルギンスがいた。

『私は、時空管理局次元航行部隊所属、第九管区艦隊司令官ロベルト・ノルギンス少将』
「地球連邦防衛軍所属、第四艦隊旗艦〈シヴァ〉。私は、当艦の副長及び現艦隊の司令官代行リキ・コレム大佐です」

  ロベルトは、地球の軍事組織にも、若い人材が指揮官を務めるものなのか、と多少の興味を抱いたが、それ以上に艦長の不在を疑問に持った。それに対してコレムは、所属不明艦隊との戦闘中に負傷した旨を伝えると、ロベルトも納得したように頷き、それ以上の詮索は避けた。

『まず、貴艦隊には、我が僚艦を援護してくれただけではなく、その後の救助活動にも貢献してくれたと聞いた。管理局を代表して感謝の意を述べたい』
「恐縮です。ただ、我々は使命を果たしたまでの事です。それに、人命救助は当然の行動です」

  地球防連邦衛軍の使命は、時空管理局とは大きく異なるものであった。
  因みに、時空管理局の使命とは、幾多の世界を管理下に置くことで、各世界での犯罪を取り締まり、危険なロストロギアの回収を行い事件に発展するのを防ぎ、全管理世界の平和を維持して行くものだった。即ち、時空管理局で取り仕切るというものである。
  一方の地球連邦の使命とは、他宙域にまたがる航路を守る事は勿論、他の独立国家とは常に共存共栄を主としている。さらに、宇宙の平和を守るリーダーとして、他の模範となるような行動していくことを掲げているのだ。
  どちらも平和を守る事が最大の使命としているのだが、最大の違いが浮き出ている。それが、他惑星あるいは他世界を管轄下に置くか置かないかである。管理局は次元空間を往来し、世界を発見しては管理下に置いて行くが、地球連邦は決して管理下に置く様な真似はしないと決めている。
  そんな彼らの思想が――。

支配せず、支配されず


  その所以が、地球自身が侵略の対象とされ続けていた事が上げられる。侵略をすれば、その星の住民の怒りを買うことになり、本当の平和が訪れることが無い。侵略する者、される者との間で不協和音が鳴り続けては、平和だ等と現を抜かしてはいられない。
  だからこそ、地球はどんな巨大国家に接触しても地球の独立を主張して来た。対等な関係を、地球の上層部のみならず全員が望んでいる。相手を滅ぼしても、後に残るのは血に塗れた己の手、そして滅ぼされた側の恨みや憎しみであることを、かの〈ヤマト〉の乗組員が一番に理解していた。
  一方の時空管理局は、他世界を管理下に置く際に必ずしも、平和的に済まされる事は無かった。中には、強引に取りつけて管理下に置く事もあったという。特に魔法文化を有していない世界からの反感も少なくない。勢力が拡大して行くほど、同等と思われる反感も募らせる結果を生んでいるのだ。
  しかし、管理局の中には純粋にして自分達管理局の正義を信じる局員が多い。それは現地の様子を知らない故の考え方なのかもしれないが。

『では、貴艦隊は我々に同行して頂きます』
「了解しました」

  ロベルトは、直感ではあるが、自分ら時空管理局と地球連邦の隔たりの様なものを感じていた。何かが違うのだ。そう、何かが違う。その答えを見つけるには、まだ時間が必要だった。
  時空管理局の司令官との通信を終えた後、資料の検討を再開させると共に、防衛軍中央司令部から受け取った緊急通信の内容を、ここで開封することにした。戦闘中で気付けなかった緊急通信は、一体何を伝えようとしていたのか。何となく、コレムは悪寒に支配された気がしていた。
  会議室に戻ると、その添付された映像ファイルを開封し再生させた……途端、まるで会議室内を凍り付かせる冷気を伴っていたように思えた。つまり、コレムが感じた悪寒が、現実のものとなった証であったのだ。

「この映像は……!」
「第一次移民船団のものだ。だが、これは一体……」
「副長、やはり我々と同様に、襲撃を受けていたんですよ!」

  記録映像には、先手を打たれて混乱する護衛艦隊と移民船の様子が映されている。そして、戦闘の最中に大破して離脱して行く、〈シヴァ〉の姉妹艦〈ブルーノア〉の姿もあった。そして、コレムや東郷らは第一次移民船団からの定期連絡が来なかった理由は、これだと言うことを悟らざるを得なかった。
  問答無用で攻撃して来るのは、自軍の六倍にも及ぶ漆黒の大艦隊――即ちSUS艦隊の姿だった。これを見た瞬間、先程に戦闘を交えた相手を、強制的に思い起こされてしまった。明らかに、この艦隊と同類ではないか。

「この映像にある艦艇と、先程我らが接触したSUS艦は、特徴が完全に一致する」

  解析に掛けた技術士官ハッケネン少佐が、苦々しい表情で報告する。それに頷くコレムも、思わずポツリと漏らす。

「間違いなく……我々、地球人類の敵だな」

  移民船団と知ってかは不明だが、容赦のない攻撃に、彼らの怒りは再燃を飛び越えて消し炭になる勢いで燃え盛っていた。しかしながら、この映像を観ていて気になる疑問点が浮かぶ。それは、この空間に飛ばされる直前に出会った敵艦隊とは、全くフォルムが違うことだ。第二次移民船団を襲ってきた艦隊に対する推測ではあるが、三ヶ国の連合体と思しき戦闘艦隊に襲われたと考えるのが、恐らくは一番妥当な線ではないだろうか。だとすれば、この第一次移民船団と管理局を襲ったSUSは何か。
  そこで思い浮かんだのが、地球の移民船団を襲った三ヶ国の艦隊とSUS艦隊は、全て同一の連合体に属しているのではないのかという結論だ。そうでなければ、ここまで念入りかつ入念にして、地球の移民船団の航路を待ち伏せもしないだろう。他国が、どんな理由で妨害に掛かったのかは知らないが、複数国が連携して地球市民虐殺という行為に手を染めているのは事実だ。この非人道的行為には、とてつもない怒りを覚えて当然である。
  だがしかし、これら緊急通信が届いていたということは、先のSUS艦隊との戦闘における管理局側の被害を、もっと最小限度に止められた可能性があったことが悔やまれる。もしもだ、SUSが来る前に、本部からの緊急通信を開封していれば、次元航行部隊に対して注意を促す事も出来た筈だった。“後悔先に立たず”とはよく言ったものだ。
  無念な思いをする一同であったが、それもやがて救助活動終了の知らせを受けて中断せざるをえなかった。

「嘆いていても、過去は変えられぬ。誰しも、この空間に飛ばされてから、現状を把握せんとする事が先決だったのだ」

  〈シヴァ〉から離れる前に、東郷は集まっている一同に向かって言葉を漏らした。そして、司令官代理を任せられた若き士官にも向き直り、正面から彼を見やると、力強くも暖かな眼で励ました。

「司令代理、貴官も悔やむ気持ちは同じだろうが、嘆いてばかりはいられん。問題はこれからだ」
「はい、承知しております。閣下」
「うむ。儂も全力でサポートするから、全てを背負い込む出ないぞ?」

  それだけ言うと、彼も連絡艇に乗って〈ミカサ〉へ戻っていった。
  一通りの救助・応急修理作業が済むと、第九艦隊旗艦〈エピメテウス〉も、出航の段階に取り掛かった。

「提督、地球艦隊より入電。救助活動、及び修理作業が完了したとの事です」
「〈アムルタート〉の方はどうだ?」
「はい、ジャルク提督からも応急修理作業が完了した、と」
「よし。第九艦隊は、司令部に帰還する。なお、地球艦隊の本局への誘導は、クロノ・ハラオウン提督に一任する」

  全艦艇からの航行準備が整う連絡を受けたロベルトは、第九艦隊の所属艦に対して帰路に着くよう指示を出した。彼自身は第九管区における次元航行部隊の実戦部隊を預かる身であり、簡単に指揮官の席を外す事も出来ないからだ。その様な経緯もあって、本局への案内は、クロノが行う事になったのである。

「了解しました。地球艦隊の誘導、お引き受けいたします」
『よろしく頼む』

  次元航行艦〈クラウディア〉を筆頭にして、次元航行部隊と地球艦隊は、互いに歩調を合わせながら前進して行く。地球艦艇は、ワープを可能とする波動エンジンだが、こんな異次元空間で使う必要などなかった。対する次元航行艦は、その様な超高速に至る航行速度を出す事は出来ない。宇宙空間も航行できるが、基本的には次元空間を行き来する能力を有するのみである。
  順調に航行して行く艦隊であるが、逆に本部の方では、順調とは程遠い激しい旋風を巻き起こす程の議論を交わしていた。その要因が、まぎれもない戦闘記録映像であった……。


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  時空管理局の総本山こと本局の大会議室では、集まっていた次元航行部隊と地上部隊の幹部達が、〈アムルタート〉から送られて来た被害報告に目を通しつつ、地球艦隊とSUS艦隊の戦闘記録を再生していた。その内容に、海幹部と陸幹部の双方は、1秒たりとも目線を逸らすことなく一部始終を見つめており、平然としていられる者は極僅かに限られた。
  伝説の三提督は、取り乱す程の動揺を見せはしないが、内心では驚愕が膨らみつつあり、多少なりと言えども険しい顔をしているのが分かった。

「地球の戦闘艦が、これ程とはな」

  レオーネ・フィルス顧問官が、顎に手を当てて呟く。

「えぇ、SUSという艦隊も侮れません。ですが、地球艦隊もまた、それ以上の力を持っているのは明らかですね」

  ミゼット・クローベル統幕議長も、フィルスに続いて地球艦隊が軽視すべからぬ存在であることを再認識する。

「地球防衛軍……下手に手を出したら、噛まれるのは当然じゃろうな」

  そして、ラルゴ・キール栄誉元帥は、長く伸びた顎髭を軽く撫でながらも、その眼つきは鋭さを放っていた。
  3人の提督が、それぞれ思いの言葉を口にしている通り、地球防衛軍と称する地球の軍隊は驚異的だと認識せざるを得なかった。同時に、地球連邦と対立して戦争状態にでも入ったらどうなるか……どれ程の被害を受けてしまうのか、考えただけでも、それは恐ろしいものだった。
  そして、何よりも次元航行部隊が威信をかけて建造した最新鋭のXV級艦船が、SUS艦隊の数発の攻撃によって手も足も出ずに撃破された事実に、少なからず衝撃を与えていた。戦闘記録にもあるように、XV級の魔法障壁ですら簡単に破られる様子は、一同――特に、海高官ら面々を愕然とさせるに足りた。全くの力不足だという事実が、否応に判明してしまったのだから、無理もないだろう。今までの経験上、これほどまでの艦隊戦を経験せずに来た次元航行部隊にとって、最悪の相手とも言えた。

(これ程までに、戦闘力に差があるなんて……)

  リンディも心穏やかではいられない。もしも、息子のクロノが、この戦闘現場に直接いたと考えると背筋の寒くなる思いである。
  他にも驚くべき事案、警戒すべき事案はあった。それが次元航行部隊を襲って来た、SUSと称する謎の艦隊の規模だ。今回襲ってきたのが140隻規模の艦隊だったことからも、全体の戦力を予測することは極めて困難を極めていた。この戦闘で、これだけ投入するのだから、まだまだ余力があるのは間違いないだろう。
  次に注目すべきは、地球艦の放つ波動砲についてである。これ程の火力を有する戦闘艦を、地球は幾つも保有しているのだろうか?

「我が方のアルカンシェルを遥かに凌ぐほどの超高エネルギー……そんな危険な武器を持っているとは」
「こんな戦闘艦を有する等、何処の管理世界でも聞いた事がないぞ」
「誰だ、地球艦隊が攻撃しても反撃出来る、と言ったのは?」
「問題は、それだけではない。SUSとやら言う国家の存在が、この次元空間内にいる事の方が、余程に重要だ!」

  先の会議と同様にして、意志や団結力に纏まりがある様には、到底見えなかった。彼ら管理局高官達は、己の前に突き付けられた新たな問題に対し、それ相応の案を出そうとはしていたのだが、思考という苗から結論という実が育つには、一度や二度の会議で足りないものとなった。
  だが、SUSという大規模な軍隊の存在と、自分らの知る地球とは違う“第二の地球”が持つ、驚くべき超兵器の存在が明るみに出た時、容易ならざる難題にぶち当たってしまった。難解問題を同時に突きつけられた管理局高官達は、常識を覆す外世界の輩に対して、有効な策を見出せなかったのである。
  兎に角も危険度の高い存在を完結に纏めたレティが、高官らを一先ず纏めようと試みた。

「整理しますが、危険性の順位としては、SUS、地球連邦、ということになりましょう。対話の余地のない、SUSこそ、最優先に見るべきかと思いますが」

  だが、彼女の配慮は何ら解決策になり得なかったようで、別の海高官が余計なことを口走った。

「馬鹿な、SUSの戦闘艦に遅れを取る筈はない。これは、卑怯な不意打ちと、純粋な戦力差によるものだ!」

  次元航行部隊こと海の幹部には、XV級が敗退した原因は、不意打ちと圧倒的な戦力差だと懸命に訴える者、考えている者が少なからずいたのだ。
  だが、その様な苦しすぎる言い訳に、リンディやレティらは冷ややかな眼を向ける。技術が拮抗しているなら良いかもしれないが、圧倒的戦力差は如何ともし難いものだ。100隻単位を動かした経験が皆無に近い時空管理局が、同規模以上の艦隊を繰り出しているSUSに、どうやったら勝てるというのだろうか。
  現実を直視しようとしない高官らを、リンディはレイピアの如き視線で鋭く突いた。

「不意打ちと戦力差は確かにありました。ですが、果たして対等に渡り合えると言えますか?」
「何を言うか、リンディ提督。我らの船は――」
「強がりで勝てると御思いなら、この非力さをどう説明するおつもりですか」

  そう言って、通常兵装の魔導兵器が、全くダメージを与えられない場面を再生して、喚く高官の口を閉ざさせた。
  続いて口を開いたのはレティである。

「我が方に通用しえる武器があるとすれば、アルカンシェルか、精々がアウグストくらいでしょう。尤も、アウグストならまだしも、チャージの時間を有するアルカンシェルは、相手が発射まで待ってくれるとも限りませんが」

  時空管理局内部でも、良識的かつ知名度の高い2人が声を上げると、彼女らに同情する少数派の高官も次々と同意していく。
  冷静に考えて映像を見れば、どれほどXV級が不利なものか分かる筈だろう。なのに、強硬派の幹部達はそれを否定している――否定したかったという方が正しいかもしれない。自分らの誇るXV級が負ける筈は無いと。しかも、これを見ればアルカンシェルを使用する前に撃破されているのだ。単艦同士でやりあっても、勝ち目はないと判断したのだろう。

「それに航行部隊は、広大な次元世界を単艦で見回っております。しかし、SUSの所在地すら分からない現状では、膨大な戦力に抗う術は皆無です。SUSを発見したとしても、確率的に遭遇するのは難しいでしょうし、そもそも数を纏めて対抗するには、時間が間に合いません」

  それが、強大な組織に膨張し続けてきた空間管理局の脆い所でもあった。
  もしも、全戦力を集結させてしまえば、一気に管理世界への監視網は無くなってしまうだろう。それに合わせたテロ活動を起こされた日には、身動きが全く取れずに引っ掻き回されてしまうに違いない。もっとも、テロ集団がSUSに敵うとも思えなかったが。
  対するSUSの根拠地は不明であり、逆に言えば、何処からSUSの艦隊が現れるかも予測が掴めないということである。ともなれば、時空管理局としても、簡単に動くことが出来ないのだった。
  まして、時空管理局には悩ましい問題があった――慢性的な人手不足である。そもそも、時空管理局は魔導師が中心となる組織であり、武装隊も殆どが魔導師だ。魔力を有しない人間は、そのサポート役に徹する他ない。とはいえ、魔力の高い魔導師の数にも限度があるのは当然であり、実弾兵器といった一般人でも扱える武器を使わせないというのだから、魔導師の重要性はことさら高くなってしまうものだ。
  魔導師中心の組織であるが故の弊害が、時空管理局を苦しめる結果を生んでいた。
  そして、SUSへの対策を疎かにすれば、たちまちに時空管理局は追い詰められ、はては外側からだけでなく内側から崩壊することさえあり得るのだ。結局、魔導師が中心になっても、魔力を中心とした文明を持ってしても、科学文明には敵わないのだと、市民は強く思う筈だ。そうなると、時空管理局としても、その不安を払しょくすることは難しいのである。

「それに、よしんば船を増産するとして、それに乗る人間がいなければ話にならんではなか」
「いっそのこと、各管区の保安領域を縮小しては如何かな。その方が、我々の手間も大いに省ける」
「簡単に言うな。我々管理局が放棄して、その先はどうなる? SUSが大挙侵攻してくるぞ」

  これを地球連邦の政府が聞けば、さぞかし笑うことであろう。無理やり傘下に加えることもある時空管理局が、正義を唱えられるのだろうか。だが、彼ら管理局は自分達こそが、世界の中心とさえ主張するのだ。それを聞いて育って来た局員も数多く、それを訂正しろと言っても無理だろう。それに、単なる治安組織には思えない。地球艦には見劣りするものの、次元航行艦の存在は治安と言うよりも圧力的意味合いが強い。特に非魔法文化世界には脅威でしかないだろう。それはまるで、日本が江戸時代の頃に味わった、“黒船”をスケール・アップした様なものだ。

「それが無理ならば、SUSの本拠地を見つけ出して、管理局の全戦力を持って叩くしかありませんな」
「それこそ無茶だ!」

  先程から意見の食い違いばかりで、会議は迷走したままだ。いい加減に区切り付けたい頃であり、それには代案を出さねば終わるまい。
  そこで手を上げたのは、地上部隊の上級幹部であり、ミッドチルダ地上部隊本部司令長官カムネス・フーバー中将であった。40代後半の将官である彼は、前任者レジアスの様な海嫌いではないが、ここ最近目立っている次元航行部隊の増長ぶりには懸念の意を示している。無論、理解力のあるリンディやレティとは交友関係もあり、その他、意思疎通しあえる海高官との交流は少なくない。

「私が言うのもなんでしょうが、SUSが各管理世界を攻撃して来る可能性は、それ程に高いものではないと思います」
「ほぅ、その根拠は何かね?」

  威圧的な態度を執る海高官に一瞥するだけで、彼は淡々とした表情で話す。

「それは、〈アムルタート〉に対して行った通信の内容からです」

  通信記録から、SUSの思考を読み取ったフーバーは、続けてその内容を話し始めた。
  あの通信会話の中で、SUS司令官は時空管理局の次元航行部隊に向けて、こう言っていた。

“自身を最大と自負する時空管理局よ、その自惚れが身を亡ぼすと知るが良い”

  これは、明らかに管理局のみを標的にしてはいないであろうか? 絶対とは言えないが、時空管理局の本元を叩きに来てもおかしくは無いと予想したのだ。どんな恨みがあってのことか、彼らは予想はつかないものである。
  今までに遭遇した事が無いのだから、当然ではあろう。ならば、時空管理局はどうすれば良いのか?
 それについても一応の案があったが、それこそありきたりかつ至極真っ当な意見であった。

「全ての戦力を集結させる他に、対抗手段は無いでしょうな」
「では、各世界を放棄させるとおっしゃいますか?」

  良識派の高官が問い返す。

「そういう事になるでしょうな。我々はまだ、SUSの詳細を知り得ていないのです。戦力を今の配置のままにしていたら、各個撃破されるだけでしょう」

  どの道、次元航行部隊がSUSに対抗する為には、今の分散配置を考え直さねばならなかった。苦肉の策として、次元航行艦船の無人艦の建造も止む無しであろう。同時にフーバー自身も、戦力増強の意味合いで無人兵器生産の許可を求めるなど、上層部に働きかけていた。かつてのレジアスも、魔導師を頼らずして機械による平和維持を構想していたものだ。
  それ故に、レジアスの再来を狙うつもりかと疑惑を持たれるのだが、フーバーは続けて主張する。

「お断りしておきますが、私はこの一大事に付け込み、権力の集中を謀るなど考えてはおりません。この人手不足が深刻な時、必然的にならざるを得ないことです。それに、守る戦力は多い方がよいでしょう。それを申し上げただけの事です」

  いずれにせよ、そうでもしなければ対抗するのは難しい。次元航行部隊側も同様であり、艦船をかき集めたとして、2000隻は集められるかもしれないが、広大な世界を管理する者から見れば、それは少ない数だ。だからと言って、艦船の追加建造をしても、それを動かす人員の確保は簡単な話ではなかった。広大すぎるが故の人手不足を、必然的にオートメーション化の促進で解決するしかなくなる。
  直ぐにこの案を可決するのは難しく、次の会議まで持ち越されることになった。
  次いで持ちあがったのは、地球艦隊の対処であった。

「このような兵器を搭載する艦を有している地球は、当然、危険指定しておくべきだ。危険極まる」
「確かに、対話の余地ありとしても、油断ならぬ。あの様な艦を野放しには出来んし、我らの管轄下に置いておくべきだ」
「その通り。今ある地球戦闘艦だけでも、先に接収するべきだ。何せ、此処は我々管理局が管轄する世界なのだからな」

  強硬派を含めた大多数の者が、地球艦隊の戦闘艦を接収し、管轄下に置くことを主張または同意していた。あれだけの戦闘を見せられれば無理もないだろう。
  だが、それに歯止めを掛けた人物がいた。それは他ならぬリンディ・ハラオウンであり、自分自身も次元航行艦の艦長として務めていた経験もある。加えて地球艦隊の戦闘能力が、自分らの想像をはるかに超えていることを直ぐに自覚していた。下手に手出しをするということは、地球艦隊の刃が自らに降り掛かってくるのは当然であろう。

「地球の艦船を接収し、我々の管轄下に置くと仰いますか。ならば聞きましょう、あの戦闘艦を絶対に奪う事が出来ますか?」
「何を言うかね、リンディ提督!」
「先程の映像を、たった今御覧になったでしょう。地球の戦闘艦は、140隻という3倍ものSUS艦隊を撃退したのです。それも、通常の撃ち合いのみならず、アルカンシェルを凌ぐとも劣らない強力な一撃……お分かり頂けませんか?」

  リンディの口調は、普段とはあまり変わらない穏やかさを残してはいたが、どこか怒気が含まれている様に、長年の親友たるレティには感じ取れた。

「報告にあった大型艦〈シヴァ〉の火力は、損傷して戦闘力が低下していたとは言え、十分にSUSを撃砕しております。それだけではありません。もう1隻の大型戦闘艦から放たれた高エネルギー砲は、単艦で60隻以上を消し去ったのですよ。これは、明らかに我々の次元航行艦を凌駕しています」
「それに、その超兵器は、他の中型艦も同等レベルの物を装備していると見て、間違いないでしょう」

  レティも援護射撃をするが、リンディの発言はエネルギー砲だけではないのだ。先も言ったように、通常の砲撃戦闘と、その防御力においても次元航行部隊の不利を主張する。地球艦の主砲の威力、これは次元航行艦の有する対艦レーザー砲とは比較出来ないものだが、その詳細な分析が完了していない為、何とも言えない。また、戦艦と思しき艦艇の主砲は、良くて1発――悪くて2発と言う程度で、SUSの戦闘艦を撃沈しているのだ。防御面に関しては、障壁に似たような物を装備しているものの、装甲板による直接防御も強固なものであるのが分かる。
  例え1隻を相手にして単なる砲撃戦で交えたとしても、果たしてどれ程の戦力が必要なのか。XV級を少なくとも10隻単位で揃えなくてはなるまい。実際には、それ以上かもしれない。そんなことの為に、一体どれ程の次元航行艦と人員を動員し、多大な犠牲を払ってまで接収するというのか――そこまで言った辺りで、リンディは先程よりも口調がきつくなっていた。

(リンディ、熱くなり過ぎだわ)

  傍に座るレティがそれに気づくと、リンディの上着の裾を軽く引っ張り注意を促す。
  リンディも熱くなっていたことに気付き、一呼吸を置いてから口を開いた。

「……何よりも、〈シヴァ〉や大型艦は兎も角、他の艦艇には共通性が見られます」
「その共通性とは、何か教えてくれぬかね、リンディ提督」

  キールは共通性に関して質問すると、リンディも落ち着いた口調で説明を始める。それは、量産性を考慮している艦型であるという共通点だった。

「長方体型や、紡錘型の設計をしている辺り、これは量産性に重点を置くだけでなく、メンテナンス性も考慮しているでしょう」
「ふむ、そうであろうな。恐らくそう言った考慮があると見て、間違いないだろう」

  フィルスが同意する発言をすると、少数派の者は納得したように頷く。
  しかし、陸海双方に存在する強硬派は、決して引き下がろうとはしなかった。

「今の地球艦隊は、立ち寄れる場所が存在しない。まして、次元転移も知らぬ身だ、地球からの増援が来る筈もない」

  それは確かな事ではあろう。彼らが転移を行う様子が無い以上、戻れないのは当然の事であった。
  ならば、今いる50隻だけでも接収しておくべきだとしていたのだ――そんな発言をするものだから、慎重派は反対してまた強硬派が……といった具合に会議は泥沼化して行くのであった。




〜〜あとがき〜〜
どうも、読者の皆さま。
前回よりも時間が空いてしまいましたが、何とかアップできました。
が、何かと中途半端になってしまい、申し訳ありません(汗)。
今回は殆どが会話中心になっておりますが、如何でしたでしょうか?
今だに誤字が多発する事がありますが、それでもなお、読んで頂ける読者の皆様には深く感謝しております。
では、今後もよろしくお願い致します。


[7]投稿日:2010年12月31日6:32:39 [拍手元リンク]
文明が違えば文化も違う。
子供を戦場に送り出す管理局の実態が悪いかどうかというと、その世界が持つ文化や常識の違いに行き着く問題でもありますけどね。
ただまあ、魔導師至上主義。魔法文明の思想に偏り過ぎて、現場がおかれている状況から眼を背け、現実的な部分を直視して来なかった管理局にも問題はあるわけですけど。
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>>拍手ありがとうございます!
文明の食い違いというものは、中々に難しい問題でありますが、それも話を進めるうちに解決出来ればと思っております。



・2020年1月29日改訂



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