※諸注意――
  本作に紹介されるヤマト世界の歴史におきましては、オリジナル版とリメイク版の内容を調整する為、作者の妄想と独自設定を多く取り入れておりますので、予めご了承ください。

第10話『もう1つの地球、明かされる過去(前編)』


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  時空管理局次元航行部隊の案内で、遂に本局の管理港へ入港を果たした地球防衛艦隊であるが、未だにその緊張状態をほぐしている訳ではなかった。何せ、いつ時空管理局に襲撃されるかもしれないからだ。そのような不意打ちをするとは考えたくないものの、最低限の警戒態勢を敷いていた。
  もしも、コレムらの身に危険があれば、こちらも相応の対応するようにと伝言も伝えられており、その時は容赦なく主砲を撃ち込む覚悟があった。敢えて時空管理局本局の港に全艦艇を入れたのは、相手に対して信頼していることをアピールする意味もあった。それに、本局の周辺に待機させておいては、逆に相手を過剰に刺激させかねないと判断していた為でもある。

「頼むよ、坂本少佐」
「任せてください、司令官代理」

  背後に着いて護衛する坂本の声を聴き、コレムも安心する。〈シヴァ〉の外壁の一部から開いたハッチから下艦の為のタラップが降りており、コレムと坂本はフロアに向かって歩き始めた。
  コレムの右手には、小さめのトランクが握られている。これは、小型端末を入れたトランクであり、中には自分らの歴史等の情報が詰まっているのだ。もしも、使用しなければそのままであるが、持って来るに越したことはないというレベルの話であった。
  〈シヴァ〉の直ぐ傍に接舷した〈ミカサ〉からも、東郷少将が護衛官1人を伴ってタラップを降り立ち、一旦合流する。

「御足労をお掛け致します、閣下」
「構わんよ。兎も角は、事を荒立てることなく済ませるよう、努力しようではないか」
「はい」

  顎髭を軽く指で撫でながらも、余裕の笑みを浮かべていた。それもまた、実力者の余裕というものであろうかとコレムは思う。
  合流してから、時空管理局の人間が待っている方向へと歩みを進める。

「……ん?」
「女性、でありますか」

  坂本が言う様に、出迎えらしい人が4人ほど居たのだが、それが全て女性であったことは、コレムも戸惑いを覚えずにはいられなかった。無論、女性の局員は珍しいものではないであろうし、防衛軍にだって女性軍人は多く存在するものだ。それは兎も角、今は驚きを表面上には出さずにおいた。
  彼女らの目の前まで歩き立ち止ると、コレムは自分らから名乗りを上げた。

「地球連邦所属、防衛軍航宙艦隊第四艦隊旗艦〈シヴァ〉副長リキ・コレム大佐です」
「同じく地球連邦所属、戦艦〈ミカサ〉艦長東郷龍一少将です」

  2人が名乗りを上げ終ると、今度は相手側からの応答である。最初に口を開いたのは、リンディだった。

「時空管理局次元航行部隊所属、総務統括官リンディ・ハラオウン少将です」
「執務官フェイト・テスタロッサ・ハラオウン一尉です」
「執務官補佐シャリオ・フィニーノ一等陸士です」
「同じく執務官補佐ティアナ・ランスター一等陸士です」

  一通りの自己紹介を済ますと、リンディが話を切り出す。
 
「良くお越し下さいました。先程は、次元航行部隊の危機を救って頂き、時空管理局を代表して御礼を申し上げます」

  スッと綺麗に一礼するリンディの動作に感心しながらも、コレムも言い遅れそうになる。

「こちらこそ、窮地のところを助けて頂き、感謝いたします」

  コレムもリンディの言葉に対して答え、恐縮ですと言わんばかりの様子である。対する彼女も軽く会釈をする程度で理解を示した。また、一通りの挨拶を済ませた後に、コレムは先に言っておかねばならない事があるとして、リンディに事情を話した。

「本艦及び複数の艦には、先ほどの戦闘で負傷された管理局の人達を収容しております。出来る限り、万全な設備に移して、治療のほどをお願いしたいのですが……」

  先に起きたSUS戦で発生した負傷者を、地球艦隊は出来る限り救出している。そのことは、リンディも報告書で聞いていた。聞いていたと同時に危惧していたこともある。彼ら地球艦隊が、管理局の負傷者を救助していたということは、既に彼らは我々の内情を知っているのではないか、という懸念だ。
  無論これは、リンディのみが思うことではない。時空管理局全体で、この懸念事項を危惧しているのだ。もしも、これで魔法と言う存在に気付かれたら? そして、時空管理局の詳しい内容を知られていたら、対応は困難を極めるだろう。
  しかし、此処で表情を崩してしまうことで、相手に悟られる訳にもいかない。リンディは御淑やかさを残しつつ、コレムの提案に応えた。

「負傷者の件はお聞きしております。既に医療班を待機させていますので、お引き受けします」
「有難うございます」

  負傷者の情報を得て、医療班動員の指示を与えていたのは、運用部責任者のレティの迅速な指示の賜物であった。予め待機していた医療部の局員たちが、次々と整列して負傷者の受け入れ態勢を万全としていた。

「こちらコレム、全艦に収容している局員の負傷者を、直ちに管理局へ引き渡す。作業に掛かってくれ」

  コレムも携帯無線で合図を送った。〈シヴァ〉の他3隻に負傷者が収容されており、コレムの指示を受けて各艦共に負傷者を乗せた担架を慎重に下ろしていくのが、フロアにいる見学者たちの目にも分かった。地球艦隊が救助したのは局員は、全部で36名程であり、全員をフロアまで下ろすのに10分程を要した。
  その間に、リンディらは自らの目でそれを確認して行った。

「では、救助した局員36名、全員を御引き渡し致します。こちらが救助者リストになります」
「確かに、お引き受け致しました」

  待機していた医療班は、速やかに負傷者を医療局の区画へと運んで行く。そんな作業の中で、コレムは救助者リストをリンディに手渡し、受け取ったリンディも内容を一通り目を通して確認する。
  一通り確認し終える頃になって、別の局員女性と思しき人物が現れた。20代半ばといったところで、ブルー系統の制服に、医者を象徴するような白衣を纏う、金髪でショートカットヘアの若い女性であった。

「コレム大佐、リストは確認させて頂きました。改めて、御礼を申し上げます。それとこちらは……」
「医療班主任のシャマルです。私からも、御礼申し上げます」
「リキ・コレム大佐です。人命救助は、当然の行為ですので、お気になさらないでください」

  医療局に勤めるシャマルは、実を言えば人間ではない。“夜天の主”こと、八神はやての守護騎士団(ヴォルケンリッター)の一人として定めづけられた、プログラムなのである。プログラムと言っても幻想ではなく、かといってサイボーグでもない。ほぼ人間と変わりはないのである。
  実は、この事もコレムは資料から承知済みであったが、口と表情には決して出さなかった。それは傍に立つ東郷と護衛官らも同じだ。下手に知っていることを口にはできない為、その場は初めてを装った。リンディやシャマルも、コレムに対して疑いは持たなかったようで、リストを手にしたシャマルも、負傷者共々その場を後にしていった。

「では、ご案内します」

  リンディらは先頭に立ってコレムらを案内を開始する。その間に、リンディらは念話を使って、フェイトやシャリオ、ティアナと会話を交えていた。

(どう、貴方達。コレム大佐や東郷少将を見て)
(この人達には、悪意や邪な感情といったものは、全く感じられません。寧ろ……)
(誠実な感じが見受けられます)

  フェイトの言葉に付け加えたのはティアナである。彼女らが実際に、コレムと東郷に接してみて感じたのは、まず人間としての誠実さ、そして軍人としての気迫と、強い信念、正義感を持っているような印象だということだ。残る2人からも同様の物を感じ取っており、直感ではあるが彼らは信じるに足る相手ではないのか……と、リンディも思っている。彼らとは、何としてでも協調した関係を築いておきたいところだ。そうでもしなければ、SUSという強大な軍事勢力に対抗する術が見当たらない時空管理局は、破滅の道へと転がりゆくかもしれないのだから。
 会話を終えて会議場へ向かう一行とは別にして、その港のフロアには、それ程に多くはないが人だかりが発生していた。原因は、言うまでもなく地球艦隊の存在が気がかりになってのことである。彼ら局員も、次元航行艦船のデザインに見慣れて来ただけに、全く違う思想と技術力からなる戦闘艦に、興味を持たない訳がなかった。

「あれが、地球の宇宙戦艦か」
「我々の艦船と違って、随分と武骨じゃないか」
「いや、力強い艦じもするじゃないか。あの主砲を見てみろよ」

  この機に際して、地球防衛軍というものを良く見ておこうと思い立った局員達が、こぞって見易い位置へと移動しては、戦艦を眺めている。これまでに知っているものとは、完全に逸脱している雰囲気に惹かれていた部分も確かにあったのだ。
  時空管理局の次元航行艦とは、全く違ったフォルムもさることながら、その発想しないであろう構造に対して疑問を持つ者もいる。また関心を持つ者も勿論いた。
  珍しいものであると、舐めまわすように艦艇の全景を見て行く局員達。今は、管理港に係留状態にあるものの、その場に艦体を下ろしているだけでも感じる、この圧倒感はなんであろうか。次元航行艦でも、この様な雰囲気は出していない。次元航行艦とは違う砲身付きの砲台や、決戦兵器を想像させるに十分な艦首の砲口。地球の宇宙戦艦1隻で惑星を制圧させるに、十分な要素持っている気がしてならないようである。
  対する見物される側に立っている地球艦隊の面々。あまり良い気持ちにはなれないようであるが、それも当然ではあるだろう。自分達は見せ物ではないのに、あまりジロジロと眺められていては落ち着かないではないか。何処かへ行ってくれないか、と思うも言う訳にはいかない。
  艦隊旗艦〈シヴァ〉艦橋にいるクルー達も、そう思っているうちの一例だった。

「なんだか、落ち着かないな」
「それは仕方ないさ。向こうから見れば我々が異質に見えるのは当然だろう」

  戦闘指揮席に座るジェリクソン大尉の呟きに対して、隣の航海指揮席に座っているレノルド大尉は、致し方ないことだと理解している。それに落ち着かないのは皆同じなのだ。だからといって、無闇に動くこともままならない。待機中の彼らは、今の時間帯を持って艦内の再点検及び各システム等の再チェックを行い、万全の態勢を整えていた。
  〈シヴァ〉は砲撃戦の他にも艦載機戦も熟す為、コスモパルサー隊の整備も欠かすことはない。戦闘空母〈ヴィクラント〉〈イラストリア〉や、スーパーアンドロメダ級戦艦にも同様である。
  通信席に座り通信機器の調整を一通り完了させたテラー大尉は、負傷した上官2人の安否が気になっていた。

「司令と参謀長の意識は、まだ戻られないのか?」
「それを俺に聞かれても困るが……ケネス軍医がまだ何も言ってこないんだ」
「テラー大尉の心配は分かるが、それは軍医殿に任せておこう」

  彼らの会話を中断させたのは、機関部や艦のエネルギーを管理しているウェル・パーヴィス少佐であった。専門は専門家に任せておけという事であろう。幾ら心配しても2人が直ぐに復帰してくれる訳でもない。今は目の前に目線を向けておき、来るべき事態に備えておこうではないか。
  そう言われたテラーやジェリクソンも仕方がない、という表情を作りはしたが直ぐに仕事へと戻った。パーヴィスの言う通り、来るべき事態に備えて……。



 リンディ達に案内された3人は、本局の大会議室へと到着していた。会議室内部には、既に海と陸の幹部らが集まっている。
  しかし、内部へ入るのはコレムと東郷のみであり、護衛役の2人は会議室の外で待機するという形になっていた。これも肝心であるが、入室する2人は軽い身体検査を受ける。これはコレムも想定していた事であり、会談を行うに際して銃を持ち込むなど持っての他だ。ましてや、相手は重火器の使用を厳重に制限している時空管理局である。
  その為に2人は、常備していたコスモガンを予め外していたのだが、坂本ともう1人の護衛官に関しては、小型コスモガンを持たせてあった。何か起きた時の為であるが……。
  入口手前で、坂本らに一言だけ掛ける。

「では、しばらく待っていてくれ」
「ハッ! 東郷艦長もくれぐれも、お気を付けて……」
「そこまで心配せんでも、大丈夫だろうて。だが、その時は頼む」

 坂本は小声で注意を促し、心配を掛けられた側も軽く笑うようにして返す。部屋に入室して行く二人の背中を最後まで見届ける坂本ら護衛官。他に待機していたのはフェイト、ティアナ、シャリオの3名。大概の会議を行うに当たり参加者は提督クラス(准将より上)か時たま佐官クラスが混じる事がある。因みに、案内役として地球艦隊を先導していたクロノも、この会議に参加していた。
  フェイトらは、会議に参加できる域に入っていない故、外での待機であった。

(穏便に終わって欲しいですね、フェイトさん)
(うん……)

  念話でフェイトに語りかけるティアナに、彼女自身も無事に終わって欲しいと切実に願っている。
  ふと、待機している坂本ら2人の方をチラリと見てみると、坂本と思わず目線が合った。

(……!)

  一瞬ではあるが、目線で圧された様な感覚を覚えた。それは視線を潜り抜けて来た者のみが持つ、独特の雰囲気とでも言うべきであろうか。フェイトは、自分達が警戒されている事に確信を持った。見知らぬ組織内に連れ込まれれば、警戒するのも当然かもしれない。とはいえ、警戒されていると分かったと同時に、ある可能性を見出す。もしかしたら地球艦隊は、時空管理局の内部を知っているかもしれない。
  それならば、警戒心が強いことも理解出来よう。知られていると言うのであれば、この会議は、どんな進路変更をしていかねばならないのか、不安で仕方がなかった。
  案内されたコレムと東郷は、まず自分達の身を管理局各幹部らへと明かした。次いで自己紹介をされた時空管理局側は、その場の全員が身分を明らかにしていては時間が掛かる為、代表として伝説の三提督を始めとして、海からは次元航行部隊幕僚長ジョセフ・レーニッツ大将、航行部隊司令長官アーネスト・キンガー中将の他、運用部統括官レティ少将、総務統括官リンディ少将もまた名乗った。

「次元航行部隊幕僚監部のジョセフ・レーニッツ幕僚長です」

  ジョセフ・レーニッツ大将は現時点で60歳、しっかりとした体躯に褐色肌に白髪の男性という管理局内部では稀に見る事もない珍しい人で、次元航行部隊の長を務める人物であるのだが何故か際立って表には出てこない。会議には出ているのだが、やはり率先して発言もしない。それ故にその場の空気となりかねない、あるい意味で危ない幕僚長である。
  それでも強硬派等に類する人物に当てはまる様な人ではなく、だんだん強まりつつある強硬派の抑え役という貴重な役を担ってもいる。そんな地味な役回りしかしていないのだが、彼の部下に対する気配り等は何かと評判である――地味な評判ではあるが。因みに魔法は非所有者という何かと凄い人物であった。

「次元航行部隊司令長官のアーネスト・キンガー中将だ」

  対するアーネスト・キンガー中将は56歳。中肉中背で黒髪をオールバックにし、剃刀の様な鋭い目線が特徴である。役割と言えば、地上部隊本部のフーバーと同じであろう。
  彼は非拡大派のレーニッツとは正反対な性格の持ち主で、海の勢力拡大派を形成する核たる人物でもある。その為、陸の人間のみならず、海の慎重派とも剃りが合わずに、衝突する事もしばしばあった。先日だっての会議もそうであった。地球艦隊の接収案等を提出したのも、大方は彼の考えと言ってもおかしくはない。彼自身は魔導師であるも、それ程高ランクでもない。
  陸からは、地上部隊幕僚長ラグダス・マッカーシー大将、ミッドチルダ地上部隊本部司令長官カムネス・フーバー中将、他に2〜3名程の幹部が名乗った。

「お初にお目に掛かる。地上部隊幕僚監部ラグダス・マッカーシー幕僚長だ」

  地上部隊幕僚監部の幕僚長を務めるラグダス・マッカーシー大将は57歳。長身的で脱色したような金髪をオールバックに纏め上げた、まるで舞台俳優の様な雰囲気を纏っている人物である。サングラスを掛けているが、これは過去の負傷による傷を隠している為だ。これで鍔付軍帽と煙草パイプを持たせれば、地球で有名な某将軍“アイ・シャル・リターン!”その人になるだろう。
  それはさておき、マッカーシーは非拡大派であり、或いは慎重派を構築する重要な人物としても知られている。その姿勢から地上責任者のフーバーと同様に慎重派から良い目で見られる。

「ミッドチルダ地上部隊本部司令長官のカムネス・フーバー中将です」

  そして、地上部隊本部の司令長官を務めるカムネス・フーバー中将。海の慎重派とは折り合い良くやっており、それなりの人脈も持っていた。彼とマッカーシーが上級幹部になったおかげでか、前任者の様なワンマン体制による強行的な行動は無くなり、何とか穏健的な方向に転じている。皮肉なことに、陸が非常に大人しくなった分、今度は海の方がより発言力を強め過ぎている部分があった。
  また、コレムの視線の先には、クロノ・ハラオウンの姿も見えており、多少の安堵感を覚えていた。

「では、おかけになってください」
「はい」

  キールの声を受けて、指定された座席に座るコレムと東郷。
  まず手始めに、時空管理局側から何が来るであろうかと、戦闘開始時に匹敵する心持ちではあった。

「この度は、SUSの攻撃から我々の同胞を守って頂いただけでなく、救助活動から救命措置までして頂いたこと、管理局全体に代わり深く感謝申し上げる」
「恐縮です。我々地球防衛軍は、人命救助も使命の一環として行ったものであります」

  キールが一番の年長者であり最上級の地位にいるであろう、その人物から深い礼を受けるのは、コレムとしても何処となく恐れ多い様な感じがする。それでも、自分らの行いは当然のものであるとして丁寧に返した。
  その次に発言を出したのはフィルスだ。

「コレム大佐、東郷少将、貴方がたと本格的な会談を行いたいが、そちらの最高司令官は、現在負傷していると聞いている。そこで、今回の会談の目的であるが――」
「貴方がた地球防衛軍は、何故、ここへ転移されたのか。その話を、お聞きしたいのです」
「出来れば、貴官らの世界はどういったものであるのか、教えて頂きたいものですな」

  二番目はクローベルであり、三番目に至ってきつい口調をが混じっているのが、艦隊司令長官キンガーである。余り余計なことは言わないでほしいな、と言わんばかりの慎重派の目線が、コレムと東郷にも感じて取れた。
  だが、この事を予期していたコレムと東郷は、平然としてキンガーや強硬派の視線と疑問に頷き返し、彼ら全員に対して、まずは自分らの世界をきっちり教えること公言した。この堂々たる公言に、強硬派の面々は多少の驚きを持ったのだが、言った本人たるキンガーも、意外な反応だとして、眉を顰めていた。
  しかし、コレムや東郷にしてみれば、自分らの過去の歴史を話すくらい何ということはない。
  会議室内部が、多少の騒めきを立てる中で、コレムは持って来たトランクを開けた。中から小型の端末機を取り出すと、それを起動させて、メモリーを差し込み再生の準備をする。
  その一方で、東郷も注釈を入れた。

「我々が、此処へ迷い込む話をするには、まず我々の地球が、どんな経緯を辿って来たかをお見せしなければなりませんが、信じ難いものかもしません。しかし、今からお見せするものは、決して作り話などではなく、私達地球が辿って来た事実の経緯であります」

  さらに、これから投影する記録映像は、太陽系に点在する監視衛星や探査衛星、或いは艦船に内蔵されていた記録を使っている為に、ばらつきが多少起こることも補足しておく。また、全てを放映すると多大な時間を有する為、不必要な所は言葉にて簡単に説明して、重要な所を映していくということも付け加えた。
  一通りの注釈を言い終えると、端末機を操作していたコレムは、会議室の中央にホログラムを投影し、記録映像を再生を始めた。
  時空管理局の人間ならば、誰も知りたいと思っていた第97管理外世界とは違う地球の歴史を、今垣間見るのだ。そして、最初に見せられた光景からして、その場にいた一同を唖然とさせるに充分であった。
  それこそ、地球が人類史上、最初に外部勢力から受けた侵略の記録からだった。



「西暦2192年。地球は、大マゼラン銀河に築く星間国家、大ガミラス帝国によって、最初の侵略行為を受けます」
「「――っ!」」

  記録映像には、太陽系外延にてガミラス艦と接触を果たした、国連宇宙海軍の先遣隊の姿があった。当時、最初に異星人艦艇を捕捉したのは、太陽系外延に設置されていた、監視衛星だ。人類史上初めて遭遇する異星人の宇宙船ということもあり、国連は各国の行政長官(当時から、国ごとではなく大陸エリアごとに区画分けされ、そのエリアを統治するのが行政長官であった)を招集し、かつ学会や有識者などを集めて、早急に対応をすべく検討を開始した。
  だが、異星人艦隊は刻々と迫り、遂には太陽系の最果てに当たるカイパーベルトに突入し、冥王星軌道上に向けて前進を続けた。これに対し、国連決議はごく当たり前な手順で、異星人艦隊にコンタクトを取るべきだと判断した。それを受けた国連軍は、宇宙海軍に対して宇宙艦隊を招集し、かつ先遣隊を差し向けて接触を図るべく指示を出したのだ。

「先遣艦隊は、ガミラス艦隊とコンタクトを取りました。しかし、彼らからの応答は一切なく、無言で太陽系内を目指し進んでいたことから、止むを得ず領域侵犯と見なし、攻撃を決断します」

  当時、この先制攻撃とも言える行為については、国連は一切の情報を開示しなかった。理由は明かされなかったが、国連上層部は、先制攻撃を仕掛ける事は宣戦布告もせずに戦端を開いたという、地球市民にとって大きなマイナスのイメージが広がることを懸念した為とも言われている。
  とはいえ、地球での国際法に照らし合わせた場合、無断での領域進入、侵犯は、撃沈も止む無しとされていた。事実として、ガミラス艦隊は地球艦隊のあらゆる呼びかけに反応せず、まるで居ないかのような扱いで太陽系に足を踏み入れたのだ。故に、強ち国連軍の対応は批判されるべき案件とは言い難かった。まして、宇宙を渡り歩くぐらいの技術力を持っているなら、地球の問いかけに応答するくらいはして然るべきであったろう――この辺りが、ガミラス帝国の上手いやり方とも言えるのだが。
  だが、この先制攻撃は効果を上げることも出来ず、瞬く間に先遣艦〈村雨(ムラサメ)〉は業火に包まれ、爆沈した。これが、ガミラスとの戦争における最初の、地球の犠牲者だった。

「その後、外惑星系にて、ガミラス艦隊の侵攻を食い止めようと、最初の艦隊戦が繰り広げられました」

  次に見せられたのは、地球艦隊とガミラス艦隊が、初めて本格的海戦に臨んだ外惑星防衛戦である。国連宇宙海軍は、内惑星艦隊を出来得る限り招集して凡そ220余隻余りを緊急展開させた。対するガミラス艦隊は180余隻と数を増やしていたが、それ以降に増援らしき艦隊は現れなかった。名も知れぬ異星人の艦隊と、砲火を交えることとなった国連宇宙海軍の連合艦隊だったが、数に置いてやや勝ることからも勝てる見込みを立てていたのだ。
  ところが、その希望的観測は瞬く間に打ち砕かれてしまった。

「これは……!」
「全く、ダメージを与えられなかったというのか?」

  時空管理局の各高官らは驚きの声を漏らす。地球艦隊の光学兵器をものともせず、直撃しても装甲で跳ね返してしまうガミラス艦の姿に、戸惑いを覚えてしまう。何せ、先ほどのSUSとの戦闘で見せた地球艦隊の印象とは、全くかけ離れたものであったからだ。それこそ、映像の中で大いに苦戦する地球艦隊が、まるで次元航行部隊とオーバーラップしてしまう程である。
  結局、地球艦隊は真正面から迎え撃ったものの力負けし、文字通り壊滅するという黒星を付けられることとなった。

「外惑星での大敗を受けた国連は、火星を絶対防衛戦にした総力戦――カ号作戦を発動しました」

  だが、これも結局は同じ結果を生み出す母体でしかなかった。
  画面に映るのは、2回目の海戦記録こと火星沖海戦――通称“カ号作戦”。当時では、最大で200m程の金剛(コンゴウ)型戦艦や、150mのムラサメ型巡洋艦、80mの磯風(イソカゼ)型駆逐艦が、合して400隻を数えていた。当時の国連宇宙海軍の大艦隊の姿があったのだ。地球艦隊は、補いようのない技術の差を、物量によって賄い、押し返そうと目論んだのである。
  対するガミラスは90隻程度と、前回より半数程度でしかなかった。如何な技術力の差があるとはいえ、これを見た局員の誰もが、地球艦隊の勝利を疑わなかった――それもまた、単なる希望的観測であり願望の様なものだったと知る。
  地球艦隊は、火星にある都市を背面にした背水の陣で待ち構えた。ガミラス艦隊が、この火星を抜けていくことは考えづらく、この大規模な地球艦隊を残して素通りする事は、背面から襲われることを覚悟せねばならないからだ。だが、地球艦とガミラス艦には、決定的な違いがあることを、まだ知らなかった。それこそ、宇宙を渡る為に使われている波動機関の有無だ。地球艦は、未だに核融合炉機関に頼っている為、亜光速による航行は無論、ワープさえも不可能であった。ところが、ガミラス艦にはそれが出来たのだ。
  そして、地球艦隊は驚愕した。火星を無視してガミラス艦隊が地球を目指していると知ったからだ。艦隊司令官らは驚愕し、そして歓喜した。90隻程度であれば、しかも400隻以上の地球艦隊が後背を突けば、勝利は確実だと踏んだのである。勝利を信じて火星宙域から離れ、地球艦隊の左舷側を素通りしようとするガミラス艦隊90隻に一撃を加えんと襲い掛かろうとした地球艦隊。
  ところが、地球艦隊に対しての凶報が、悪魔の通知として舞い込んだのはその瞬間であった。

「敵艦隊、右側背に出現す」

  地球艦隊司令官らは驚愕し、絶望した。索敵範囲には何ら反応が無かった空間に、重力振と共にガミラス艦艇90隻が出現したのだ。それは、人類が初めて見るワープ航法だった。艦隊総数こそガミラス艦隊が劣るが、技術力は圧倒的に勝る彼らだ。さらに、地球艦隊はさりげなく、正面と右舷側をガミラス艦隊に抑えられる、いわば十字砲火を浴びる絶好のポイントに誘い込まれたのであった。
  ガミラス艦隊の動きは迅速を極めた。半数の艦隊が到着するや否や、最初のガミラス艦隊A集団は直ぐ反転し地球艦隊を真正面から迎え撃った。増援の存在に戸惑り反応に遅れた地球艦隊の鼻先に、陽電子ビームを200発以上も叩き込んだのである。側背から襲い掛かるつもりが、逆にカウンター・パンチを貰う羽目になり、地球艦隊は足を止めた上に陣形を乱すこととなった。
  更に、右後背から出現したガミラス艦隊B集団が、猛追して同じく陽電子ビームとミサイル・魚雷の束を、纏めて後衛部隊に叩きつけてきたのだ。一挙に火球と化す地球艦が続出し、一気に大混乱に陥ってしまった。

「むぅ……緻密に練られた戦闘……彼らの世界には、この様な軍事力を有した国家が、SUS意外にもいたのか」

  レーニッツ大将も思わず小さく唸り、地球艦隊が存在する次元世界が、如何に強力な国家が存在するのかを思い知らされる。
  火星沖海戦は、ガミラス艦隊のワープによる挟撃戦法によって壊滅的打撃を受け、惨敗を喫した。

「火星沖海戦の大敗の後、ガミラス艦隊は火星沖から姿を消し、冥王星にて前進基地を建設しました。地球の戦力を大きく削ぎ取り、攻略を容易にする為と考えられました」

  実際に、ガミラス軍地球攻略部隊司令であったザルツ旅団長ヴァルケ・シュルツ大佐は、手始めに地球の抵抗力を大きく削ぎ落し、その実力差を見せつけたうえで、それ以上の労力を掛けず地球の降伏を狙ったのである。
  ところが、地球は予想以上に頑な抵抗の意を示し、再び組織的抵抗に出て来た。シュル大佐も、母国ザルツ星がガミラス帝国に下った経緯を知る以上、地球には無駄な抵抗をせずに投降してもらいたいところであったが、抵抗する以上は排除すべしと判断し、再び全戦力を持って冥王星から出撃。火星に再び向かった。



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「これが第二次火星沖海戦――カ2号作戦の始まりです」

  “カ2号作戦”と称された、計3回目の大規模海戦は、辛うじて地球の勝利を飾ることとなった。これは、日本艦隊司令官沖田十三宙将が総司令官となった戦いで、沖田宙将が英雄として祭り上げられた戦いでもある。
  この時、地球艦隊は、金剛型戦艦と村雨型巡洋艦のみに着工した、新兵器ことショックカノンを搭載していた。元々は艦首大型フェーザー砲であったが、それを半ば無理にショックカノンに換装したものだ。今では主兵装として活用された兵装だが、この当時は、波動砲並の扱いを受けた新兵器で、おいそれと連発できる兵器でもなく、下手をすれば耐え兼ねて暴発する可能性さえ孕んだ、半ば未完成兵器でもあった。
  それでも、ガミラス軍に対抗しうる唯一の兵器として投入され、沖田の指揮の元、有効活用されたのだ。

「地球艦隊は、ショックカノンによる奇襲戦法を用い、ガミラス艦隊に痛撃を加えることに成功しました」

  火星沖で大量に損失した地球艦の残骸が、まるで小惑星の様に漂っていた。それを利用して、沖田は前衛艦隊で注意を引きつけ、そのまま自分の本隊へ誘導させたのだ。沖田は自身をも囮とすることで、ガミラス艦隊を確実にデブリ群へと誘導せんとしたのだ。シュルツは、目前の地球艦隊30余隻A集団と、奥に控える約40余隻B集団が最後の戦力であろうと判断し、最後は正々堂々と真正面から打ち破ることで、地球艦隊の武勇を讃えつつも撃滅せんと狙い、敢えて沖田の手に乗ったのだ。
  ところが、シュルツにとって誤算だったのは、地球艦隊が自軍の装甲を破壊可能なショックカノンを有しているのを知らなかったことだった。その為、デブリ群に突入して沖田率いる本隊に猛射を浴びせようとした所で、前回と変わり自軍が思わぬ先制攻撃を受ける羽目となる。
  デブリを払いのけながら地球艦隊A集団を追撃するガミラス艦隊の周囲から、突如として青白いエネルギー流が襲い掛かった。デブリ群に混じって息を潜めていた巡洋艦戦隊が、一斉にショックカノンを斉射したのだ。四方から浴びせかけられたショックカノンにより、ガミラス艦隊は初撃で重巡洋艦1隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦5隻を失ってしまった。
  襲撃されても、損害は大して出ないという慢心があったことは、シュルツ大佐も反省せねばならないところであった。何せ、ザルツ旅団には余剰兵力が無いのだ。二等臣民と卑屈な扱いを受ける彼らには、潤沢な戦力は与えられず、下手をすれば現地で全滅するまで遣い潰されることさえ珍しい話ではないからである。

「ショックカノン、斉射始め!」

  奇襲を受けたガミラス軍が体勢を立て直す前に、沖田の攻撃が襲う。本隊から発射されたショックカノンが、真正面からガミラス艦隊を撃ち抜いたのだ。周囲と真正面からの二段構え戦法は、ガミラス艦隊にダメージを与える事に成功した。180余隻あったガミラス艦隊は、一気に150余隻にまで撃ち減らされてしまったのだ。これまでの戦闘に比べれば、とんでもない損害率なのは言うまでもない。
  許し難い失態だが、シュルツ率いるガミラス艦隊もやられたままではなかった。
  何故なら、ショックカノンを使ったツケが、早々に地球艦隊を苦しめたからである。戦艦ならまだしも、巡洋艦でショックカノンを使用することは危険を伴うからだ。使用の反動に耐え兼ねて機関を破損したり、最悪の場合、艦ごと爆散してしまったのである。まして、このデブリ群での命中率は、観測機等を通しているとはいえ、決して高い精度とはいえない。自壊と敵の攻撃による轟沈が、地球艦隊を次第に擦り減らした。
  だが、残存戦力を持ってショックカノンの第2射目を行った地球艦隊の攻撃を受け、ガミラス艦隊は130余隻を残したまま、遂にシュルツも戦闘継続を断念した。それでも、一応の戦力漸減という目論見を果たした訳であり、地球艦隊も90隻近くあったのが、40余隻と激減してしまったのだ。無論、それら艦艇も無事なものは一切なく、大半が行動不能寸前であったりと、損傷を抱えていた為、真面に戦えたであろう数は20隻未満とさえ言われている。

「第二次火星沖海戦の後、ガミラス軍は遊星爆弾によるアウトレンジ攻撃に切り替え、地球表面を焦土化する戦術に出ました」
「なっ!」
「これは……なんと非人道的な」

  映された光景に、高官らは信じ難いと言わんばかりに声を上げる。当然、地球との縁もあったクロノとリンディも衝撃を隠せない。

(虐殺じゃないか!)
(民間人を巻き込んでまで……)

  そこに映されたのは、直径50m〜100mか、或いはもっと巨大な隕石が地球へ落下し、都市を跡形もなく破壊して行く光景であった。しかも、その隕石は放射生物質を帯びており、定期的に地球へ落とし続けていたという。リンディやクロノが知っている地球の歴史では、まだその年代まではいっていない。もし、この事実を辿ることになったとしたら――想像して思わず彼女は顔を青ざめてしまった。
  だが、青ざめるような光景はさらに続いて行く。
  遂に遊星爆弾が、日本列島を直撃してしまったのである。その影響で富士山は大噴火を引き起こし、関東平野や三浦半島一帯も壊滅状態であったという。

(あの子達の地球が、もしこの通りになっていたら……)

  時代は自分の死後の事であったとしても、彼女が友人関係を持った人間も幾人かいるのだ。その人間の子孫が死んでいくかもしれないなんて! 同席していたクロノも唖然としているばかりで、言葉が一向に出てこない。

「国連は、市民をシェルターへと避難させると同時に、軍の再編に取り掛かりますが、この無差別爆撃によって、一層の国力低下を招き、軍の再編どころではなくなってしまいました」

  遊星爆弾を撃ち落すことも出来たが、撃ち落す量よりも落下する量が上回っていき、遂に満足な迎撃能力も失われていった。

「そして2199年には、遊星爆弾による攻撃で荒れ果てた惑星へと変わり果てました」
(……これが、あの地球だというのか!?)

  クロノ、そしてリンディ、レティらは言葉を失った。あの青くて美しかった地球が、水も干上がり、緑も枯れ果てた赤茶けた惑星へと変わり果てた様子に、平然と出来る訳がない。
  この年に地球防衛軍は残存戦力を全て集結、ガミラスの冥王星前戦基地を叩くために出撃して行くも、結果は火を見るよりも明らかであった――計画には、裏が存在していたのだが。表向きこそガミラス軍冥王星基地の攻略だが、本当の狙いはイスカンダルからの使者の、太陽系内侵入の手助けであったのだ。これは、国連上層部及び艦隊指揮官にしか知らされていない内容だ。でなければ、陽動だとガミラス軍に悟られる危険性があった。
  冥王星会戦こと“メ号作戦”と称される戦いに投入された地球艦隊は、極東管区に属する日本艦隊のみだった。旗艦〈霧島(キリシマ)〉、巡洋艦8隻、駆逐艦12隻の計21隻のみ。
  対するガミラス軍は、ガイデロール級戦艦1隻、デストリア級重巡洋艦7隻、ケルカピア級軽巡洋艦22隻、クリピテラ級駆逐艦100隻以上、計130隻余りだった。
  実に彼我の戦力比からして、6倍近い戦力差を付けられていたのだ。この時点で国連軍の宇宙艦隊が、どれだけ疲弊しているのかが窺えるものである。

(陽動とはいえ、6倍もの敵を相手に時間を稼ぐとは……。知らされていなかった兵士もそうだが、並みならぬ精神力を持っていたのだろうか)

  クロノは、1人の使者を無事に迎え入れる為の陽動に参加した、残された将兵達の心中を想像しようとして、途中で止めてしまう。自分ら管理局では、到底、その覚悟とやらを計り知れないだろうと察したからだ。そもそも、これはまさに“死にに逝け”と言っているようなものである。上手くいく可能性は限りなく近い筈だ――案の定、高官達の予想は的中した。
  開戦直前に、地球艦隊はガミラス艦隊から降伏勧告を受けた。それを送ったのは、地球攻略部隊司令/基地司令だったヴァルケ・シュルツ大佐だ。彼なりに、無謀な組織抵抗を試みんとする敵将に対し、自分なりの手向けをしたつもりであった。
  最後となろう地球艦隊司令官沖田十三提督は、その降伏勧告に対して――

「馬鹿めと言ってやれ」


  ――と送り返したという。返電により説得不能と見たシュルツは、艦隊に攻撃を命じ、これが開戦の合図となったのだ。
  地球艦隊は反撃を行うも、技術においても数においても劣勢であり瞬く間に蹴散らされていき、最後には駆逐艦1隻が壁となり旗艦のみが生き残る結果に終わった。
  その時の撤退戦は、壮絶と言って良かっただろう。1隻の駆逐艦が、ガミラス艦隊に向けて突入して乱戦に持ち込むのだ。同士討ちを狙う駆逐艦は、混乱を利用してミサイルを乱射し、3〜4隻のガミラス艦を破壊する。その一方で、ガミラス艦隊は壮烈な集中砲撃で蜂の巣にしたのだ。
  今の時空管理局の人間に、非殺傷設定やバリア・ジャケットを使わない戦いがあったとして、それで命を散らせてまで人の盾になれる人間がどれ程いるのか?
  さらにもう一つ驚くべきは、地球人口の圧倒的少なさであった。この時点での地球人口は総人口の90%、180億人以上もの人命が失われていたというのだ。もう彼らは理解するのは精一杯であると言わんばかりである。地球の惨状をミッドチルダに重ね合わせたら、同様の地獄絵図が広がっているに違いない。キールらも冷や汗を掻いていた。

「同年、イスカンダル星から身を犠牲にしてまで送られて来た、次元波動エンジン技術により、〈ヤマト〉が誕生しました」

  そして、この波動エンジンはどういったものであるか――コレムが説明した時の、高官達の反応もまた驚いた様子であった。

(今、この者は何と言った?)
(馬鹿なッ! タキオン……粒子だと!)

  タキオン粒子。それは、理論上では兎も角、実用化させることは不可能とされていた粒子。それを使用可能にしたのがイスカンダル、そしてガミラスの技術でもある。このイスカンダルからもたらされた波動エンジンにより、ワープを可能とするばかりではなく、エネルギー兵器の向上にも大きく貢献したのだ。
  時空管理局の内部でも、タキオン粒子は知っていたが、実用化させることはまず出来ない。それを、地球は外部の技術により成し得たというのか。
  懸念はそれだけではない。タキオン粒子ともなれば、質量兵器禁止法に当てはまることになるのだ。これではますます地球連邦、そしてこの地球艦隊は見過ごす事は出来ないだろう。
  そんな周りの様子に対して、多少の説明ペースを調整しつつも、〈ヤマト〉の辿った航路について簡単な概要を説明して行った。その〈ヤマト〉は人類を環境汚染から救うために、イスカンダル星へコスモ・リバース・システムことCRSを取りに、16万8000光年という大航海を1年で成し遂げるという。

(1隻でこれを成し遂げると言うのか)

  レーニッツの疑問通り、その航海も簡単なものではなく、ガミラスの執拗な妨害を受けた。だが常に1隻の〈ヤマト〉は、手始めにガミラス軍の前進基地でもある冥王星基地を全滅させてしまった。
  銀河系を抜けてからは、ガミラス帝国がアケーリアス文明の遺産たる亜空間ゲートこと“ゲシュ=タムの門”を利用する事で、約6万光年という長大な距離を短縮する事に成功する。同時に、亜空間ゲートの中継ステーションの役目を持っていたガミラス軍の中間基地バラン星を攻略。
  このバラン星では、丁度デスラー暗殺未遂事件に際した軍事クーデターが結構寸前であった。そのタイミングに合わさった〈ヤマト〉は、ガス状惑星バランの中心核に隠されていた亜空間ゲートのエネルギー供給装置を、波動砲を持って破壊した。同時に波動砲の強力な反動を利用して艦を逆進させて、そのまま亜空間ゲートに逃げ込み、ガミラス軍3000隻の追撃を振り切るという強引な手段に出たのだ。

(な……3000隻!?)
(そんな中を突っ切っていくとは……正気の沙汰とは思えん!)

  沖田十三の十八番とも言える中央突破戦法に、管理局高官らは愕然とする。それもそうであろう、3000隻などという艦隊を前に、突っ込んで行こうとするのは自殺志願者くらいなものだ。
  だが、沖田はガミラス艦隊の艦隊間隔の密集具合からして、戦闘に不向きなものだと看破しての決断と実行だった。それに、3000隻とは言うが、多方面の戦力を掻き集めた結果だった。バラン星の中心核に建設されていたエネルギーコアの爆縮により、強力な衝撃波が生じたことでガミラス艦隊は粉々に吹き飛ばされてしまい、実質的に残ったのは10分の1以下と言われている。

「そして、〈ヤマト〉の航海で最も過酷な戦闘と言われた、タランチュラ星雲の一角――七色混成発色星団こと七色星団で再び戦闘になります」

  七色星団では、当時最強と謳われた名将エルク・ドメルの率いるガミラス空母艦隊と、〈ヤマト〉は死闘を繰り広げたのだ。最後はドメルの自爆という形で幕を閉じたが、遂には、ガミラス本星でも決戦を実施してしまう。デスラーの狂人的な思考に、周囲も付き従う事に抵抗をしてみたいだ
〈ヤマト〉のおいて辛くも勝利。
  それは目的地のイスカンダル星と敵ガミラス帝国本星が同じ宙域、つまりは二連星であったことが最大の原因でもある。
  その後〈ヤマト〉は装置を受けとり、帰りにガミラス残党(デスラー総統率いる)の襲撃に合うも撃退し、無事生還したというのだ。
  管理局としては〈ヤマト〉が任務を完遂した事実だけでなく、1隻でガミラス帝国を壊滅させた事の方が、余程に衝撃を受けていたかもしれないが、それも当然の反応であろう。あまりにも突拍子過ぎてこれが本物か疑いたくなるが、どう見てもこれは加工した映像とも考えにくい。だとすれば尚更のこと、彼らに対して脅威を倍増させることになる。

「以上がガミラス戦役の全容になります」

  ガミラス戦役だけでも、高官らの処理能力を超える様な、絵物語と言いたくなる内容だ。
  ところが、そこに拍車をかけるのが、地球の歴史上、もっとも過酷とさえ言われた戦歴――“ガトランティス戦役”だった。

「〈ヤマト〉が地球に帰還してから、約1年後の西暦2201年には、地球は急激な復興を成し遂げることに成功します……が、そこで新たな星間国家が出現し、地球に迫りました」

  コレムが切り出したのは、ガトランティス戦役と称される戦いの一連の流れである。襲い来る新たな外部勢力の正式名称を“白色彗星帝国”または、構成している人種名がガトランティス人と呼ばれることから“ガトランティス”とも呼んだ。その国家の名から、付けられた戦役名であった。
  ガトランティスの指導者をズォーダー大帝と言う。ガトランティスは母星を移動型巨大都市としており、移動しながら、行く先々の星系を電光石火の如く完全破壊しては、次の星へ渡り歩く行為を繰り返して来た。ガミラス帝国と異なるのは、尽く侵略し傘下に収めるのではなく、利用価値のある星以外は、根こそぎ破壊するという点にあった。これが、ガミラス帝国との戦争以上に、地球をより疲弊させた過酷な戦争である。
  この時点において、地球は1年足らずで恐るべき速度によって、再建を成し得ていた。壊滅した地表は、CRSによって緑や海を取り戻しており、壊滅した国連軍も戦力増強と合わせて大幅に再編されて“地球連邦防衛軍”と名を改められた。通称“防衛軍”とも呼ばれる新生軍は、イスカンダルからもたらされた波動機関を解析し、量産に成功したうえで、〈ヤマト〉に匹敵する強力な戦闘艦を創り上げて増強し、外部勢力との戦闘に備えていたのだ。

(1年……僅か1年で、戦争に突入したと? いや、それ以上に、これだけの戦力と国力を回復したというのか!)

  キンガーは目を見張った。目の前に投影されているのは、続々と就役していく新生地球艦隊の姿があったからだ。それも数隻の話ではない、100隻以上の戦力が並んでいたのだから、驚かない訳がない。如何にCRSで環境が回復したとはいえ、経済面は勿論、工業や生産面で完全回復した訳では無いのだ。それが、どうしてこうも強力な戦力を整えられたのか。
  このカラクリは、地球の海底深くに生まれたCRSの副産物が関係していた。人の記憶から、死にかけた星を生まれ変わらせることが可能な(あくまで再生であり、若返らせることではない)力を持っていた反面、地球にとって思わぬ事象が出現したのだ。

「地球は、CRSを作動させた際に生じた、時間断層と呼ばれる特殊空間を最大限に利用し、地球復興を可能としました」
「時間断層だと? まさか、時間の流れが数倍から数十倍以上に早くなるという……」

  思わずマッカーシー大将が反応した。時間断層というワードを、時空管理局の人間で知らない者はいない。何せ、次元空間という特殊な空間を往来する時空管理局だ。多種多様な空間の存在を認知していたのだ。

「はい。地球連邦政府は、この時間断層が、通常の30倍という異常な速度で時間が流れていることを発見しました」
「さ、30倍!?」
「通常空間で1日経てば、時間断層では30日経過します。つまり――」
「1年近くで30年も経過するというのか!」

  時空管理局にとって、時間断層は危険な存在という認識が殆どである。人間が倍以上の速度で老化し、下手すれば1日持たない内に老衰するケースだってあったのだ。そこに利用価値などない――時空管理局にとっては、そう考えていた。
  だが、地球は違った。30倍という異常な速度で流れるなら、それを利用して復興資源を加工して形にするという発想の転換を思い至ったのである。無論、それは軍事面でも同様だ。特に軍艦の設計や建造は時間が掛かるが、それをAIと無人工場を組み合わせて活用することで、極めて短期間に多くの戦闘艦を生み出すことに成功したのだった。故に、核融合炉機関が大半だった地球が、一挙に波動機関を搭載出来たのも、これのお蔭である。

(時間断層を、生産工場の糧としてしまうとは……恐るべし)

  フーバー中将も、地球連邦政府の発想の転換に、ある意味で感動さえしてしまう。
  時間断層によって、この時点の防衛軍は、まさに歴史上絶好調とも言えるであろう、最強の宇宙艦隊を保有していた。
  宇宙戦艦〈ヤマト〉が経験してきた戦闘データ、航行データ、波動エンジンの使用データを洗いざらい調べ上げて誕生したのが、ドレッドノート級主力級戦艦やザラ級巡洋艦といった新生艦艇である。〈ヤマト〉が装備した波動砲を殆どの大型艦や中型艦は装備し、中にはプラント級護衛艦にまで、低威力ながら装備していたくらいだ。
  そして、時間断層の恩恵を受けて誕生したのが、新鋭戦艦アンドロメダ級1番艦〈アンドロメダ〉の登場である。波動砲を2門も装備した本艦は、当時防衛軍最強と自負される戦艦として誕生し、そして半年もしない内に戦没した悲運の戦艦となってしまう。また、〈アンドロメダ〉の姉妹艦として、4隻が新たに生み出されており、戦艦型2隻と空母型2隻が就役した。

「事の始まりは、ガトランティスの危機を、惑星テレザートに幽閉された、テレサと呼ばれる高次元生命体のコスモウェーブ――所謂テレパスによるものでした。これを受けた〈ヤマト〉クルーが、防衛軍の対応に反して軍規違反を承知で出航し、テレサの基へ向かいました」
「失礼、テレサを高次元生命体と言ったが、つまりどういうことなのかね」

  ふと、フィルスが気になり質問を投げかけた。

「極端な言い方をしてしまいますと、我々人間では到達しえない、時空の狭間に存在する“神”に近い存在です」
「神?」
「はい。詳しい事は分かってはおりませんが、高次元に存在し、宇宙の始まりから終わりまで――つまり、過去と未来を見通す存在だということです。それ以上のものは、小官にも説明しきれるものではないので、割合とさせて頂きます」
「ふむ……そうか、分った。話の腰を折って申し訳ない、話を続けてほしい」

  その様なものが存在するとなると、今後、時空管理局も遭遇しないとも限らない。
  だが、神に等しい存在に、早々巡り合える訳もなく、巡り合えたとしてどうするのか。何人も干渉しえない高次元の存在に、おいそれと手を出さぬのが吉というものであろう。

「〈ヤマト〉は、テレザート星でガトランティスの守備艦隊と対峙するも撃破し、幽閉されていたテレサとの対面に成功します。テレサから、ガトランティスという危機を教えられると、テレサは次元の狭間に消えました。そして、その危機の教えの通り、ガトランティスは太陽系に大戦力を持って侵攻してきたのです」

  ガトランティスは、ガミラス帝国の時とは桁違いの戦力を保有していた。ガトランティス本星に収められていた戦力は、総数およそ5000隻に上る大戦力だったとされる。空前絶後の大兵力であり、かの大ガミラス帝国が各星系に投入するであろう戦力規模の何十倍近いものだった。しかもガトランティスは、天の川銀河の前にアンドロメダ銀河を制覇しており、戦力的にも十分な余裕が存在していたのである。
  そして、地球攻略に差し向けられたのが、第七機動艦隊司令長官バルゼー提督だった。とかく物量を利用した戦術を好み、絶間ない攻撃で敵を蹴散らして来た猛者である。
  一方の地球防衛軍は、航宙艦隊を総動員した連合艦隊を編成すると、その総司令官に総旗艦〈アンドロメダ〉艦長谷剛三(たに こうぞう)大将が就いた。谷総司令は波動砲艦隊構想の提唱者であり、同時に効率化を重視した艦隊運用を短期間で纏め上げた秀才で、その功績もあって艦隊総司令に着任した人物であった。
  その他、残り4隻のアンドロメダ級に搭乗する艦長達が各艦隊司令を兼任することになり、計5主力個艦隊と、2個予備艦隊態勢で迎え撃ったのである。

「土星宙域にて、ガトランティス軍1500隻に対し、我が方は全戦力を集結した350隻(主力250隻:旧式改造艦や護衛艦、パトロール艦といった補助艦を含めた100隻)を投入する、大規模な戦闘になりました」
「い、1500隻!?」
「それに対して、僅か350隻だと……」

  どよめきが広がる会議室内。確かに、誰が考えても4:1の比率を見て勝利し得るとは思えない。それでも、今の地球があるのだから、勝利したのは間違いないだろう。それに、先日の波動砲を思い出すと、勝てる見込みも十分にあったと推測も出来た。

「土星沖海戦は、まず双方の艦載機戦から幕を開けます」

  地球艦隊は、アンドロメダ級空母2隻に加え、ドレッドノート級空母を4隻建造しており、艦載機も総数600機近くに上った。ただし、パイロットの人材育成が間に合わない都合から、地球防衛軍は谷総司令の提唱した無人化計画を推進し、苦肉の策としてAIを使った無人航空機を実験的に投入していた。有人機300機に対して、無人機300機という構成になっている。
  また当然ではあるが、艦隊も人材不足が課題となっていたが為に、アンドロメダ級は無論、ドレッドノート級等も大幅なオートメーションを推進しており、中には完全無人戦闘艦も3割近く動員されていた。これが可能となったのも、やはり時間断層の恩恵であり、30倍のスピードでAIを常にフィードバックし続けた結果、人の命令を受けて戦うことの出来る状態に持っていったのである。
  対するガトランティス軍は、アポカリクス級大型空母1隻に、ナスカ級空母20隻と、合計1080機に上る大規模艦載機隊を有していた。元々、ガトランティス軍の主力空母であるナスカ級は、直接打撃力に趣が置いてあったことから、搭載機数は1隻辺り24機とかなり少ない。それでも20隻も集まれば480機とかなりの規模となる。まして、アポカリクス級大型空母は、全長1q越えの超巨大空母であり、1隻で600機も積み込める、移動する要塞とも言うべき巨艦だった。

「激しい艦載機戦の末、多くの艦載機戦力を失うものの、決定打に欠けたまま艦隊戦に移りました」

  概ね互角以上に渡り合えたものの、地球軍艦載機の損失と疲労も無視しえず、引き分けに終わった。直後の艦隊戦においては、バルゼー艦隊の前衛部隊300隻が突撃を開始する。
  この時、地球防衛軍は谷総司令率いる第一艦隊と、空母型アンドロメダ級2隻を旗艦とする、旗艦〈アポロノーム〉以下第三艦隊、旗艦〈アンタレス〉以下第五艦隊が対峙し、さらに予備兵力2個艦隊が後衛にあった。つまり主力3個艦隊150隻と予備の100隻を入れた250隻で、300隻の前衛艦隊と砲火を交えた。概ね1.5倍程度のガトランティス軍前衛部隊と、序盤から激しい砲火の応酬を繰り広げたものの、ガトランティス軍前衛部隊は、徐々に後退した地球艦隊を追撃するうちに突出し過ぎてしまう形となった。
  そこへ、温存していた旗艦〈アルデバラン〉以下第二艦隊、旗艦〈アキレス〉以下第四艦隊が短距離ワープで両翼に出現し、半包囲態勢においた前衛艦隊に向けて、ショックカノンやミサイル、魚雷、重力子スプレッドを撃ち込み、短時間に壊滅せしめたのだ。
  予想以上の豊富な戦力と小賢しい抵抗で前衛部隊を失い、猛り狂ったバルゼーは本隊を差し向けて一挙に壊滅せんと出る。
  ところが、それさえをも粉砕したのが、例の拡散波動砲による一斉掃射だった。

「拡散波動砲によって、ガトランティス軍は900隻余りを失います」
(恐ろしい戦闘だわ。これでも、強硬派は諦めないとでも言うのかしら?)

  拡散波動砲の掃射によって900隻分の小さな恒星が生み出され、直ぐに消えていく光景に手を震わせるのはレティだった。波動砲とは、本当に星をも砕くことが可能な、危険な代物だと認識させられる。そして、900隻というとんでもない規模の艦隊を、一瞬で消滅させることが出来る地球艦隊を、果たして時空管理局に勝てる見込みなど有ろうか。あるとすれば、恐らく個人プレーによるものだ。艦隊決戦など、時空管理局は相手にすらならないであろう。
  だが、バルゼーも負けていなかった。温存していた隠し玉――メダルーザ級長距離砲艦を投入した。これは、“火焔直撃砲”と言う跳躍兵器を搭載した戦闘艦で、同盟関係にあったガミラス帝国残党軍より譲与された瞬間物質移送機を、戦闘艦用に改良した決戦兵器だ。範囲は単艦でしかないが、恐るべきはその射程と破壊力、そして連射性能であり、地球艦隊の拡散波動砲の倍を誇る代物であった。
  メダルーザ級4隻より放たれた弾道は、ワープして直接艦に当ててくるので避けるのは困難を極めた。ただ、火焔直撃砲も無敵兵器ではなく、ワープで弾道を送り込む以上は、通常空間に出現する際に重力振を発生させる。その重力振を観測できる為、ある程度の予測に基づき、回避行動が可能であったのだ。もっとも、それも迅速に行動しなければ回避しきれる保証はないが。
  初見で初めて遭遇する兵器に、地球艦隊は避け切れず瞬く間に出血を強いられた。
  レーニッツも、まず次元管理世界でお目にかかる筈もない兵器である火焔直撃砲に愕然とする。

(跳躍兵器……波動砲を上回る兵器もあるのか)

  波動砲は星を破壊するだけの威力を秘めた兵器だが、この火焔直撃砲もまた使い勝手の良さがあった。1回辺りの準備時間が長い波動砲に比べて、火焔直撃は極めて短く、回避も極めて難しい。
  次々と火焔に巻き込まれて焼き尽くされる地球艦隊であったが、谷総司令も立ち尽くしてばかりではなかった。目には目を、歯には歯を、と苦肉の策に打って出る。それは、損害を覚悟で行う短距離ワープであった。地球艦隊側も、敵が瞬間物質移送機に似た方法で攻撃してきたことに気付かない訳ではなく、極めて短時間に火焔直撃砲のデメリットを見抜いた上で、重力子スプレッドの重力フィールド、並びに回避行動を執りつつ、頃合いを見て一斉にワープを敢行したのだ。

「このワープを利用した突撃により、地球艦隊は乱戦に持ち込むことに成功し、ガトランティス軍に大打撃を与えました」
(見事なものだ……“肉を切らせて骨を断つ”とは、このことかな)

  そう呟いたのはクロノだ。艦隊指揮官であるクロノは、実質的には単艦行動の時間が多く、地球艦隊の様な艦隊戦の経験はゼロである。それ故、艦隊司令官の素早い判断と実行力に感心してしまう。
  バルゼー艦隊は、地球艦隊の短距離ワープ突撃戦術によって乱戦に持ち込まれ、火焔直撃砲を封じられてしまった挙句に隊列を大きく崩した。これが致命的になり、態勢を整させる間もなく地球艦隊は全力で旗艦〈バルゼー〉に突撃、火力の全てを過剰なまでに叩きつけて、バルゼーを座乗艦ごと屠ったのである。

「そして、この後、白色彗星に対する総攻撃が始まりました――」

  地球の辿った過酷な歴史は、まだまだ続く。





〜〜あとがき〜〜
どうも、前作よりは早く更新できました……が、正直しんどかったです(泣)
凡そ3日前に体調を崩してしまい、次の日には何と39度という熱……マジでやばかったです、はい。
立っていてもクラクラ、頭は痛い、ろくに食事が喉を通らない、寝たきり状態でした。一人生活なんで、しみじみと親の有り難味を感じました。
さて、今回は会談を中心にしようかとおもいつつ、思いっきり後半になってしまいました。
次回こそはしかっかりとした会談を進めて行こうと思いますので、宜しくお願いします!
それと、みなさん、体調には是非気をつけてください……。

〜拍手リンクより〜
[11]投稿日:2011年01月20日0:10:26 [拍手元リンク]
誤字報告〈決死して大げさではないであろう
はやてやフェイト、原作キャラクター達も登場しましたね。
次回は管理局との会談に入るようですが、また一悶着ありそうです。
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〉〉早速の誤字報告、申し訳ないです〜(←オイ)
一応の原作キャラは出しておりますが、残るあの白い人、出せれば出そう、と思いますが……難しいですw



・2020年2月02日改訂
・2020年2月24日修正



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