SUSとの決戦に勝利してから凡そ四〇日、ブラックホールが消滅から凡そ四日が経過している地球だが、市民の大半はアマールへ移住している状態がいまだ続いた。
アマールから地球への再移動となる問題を前にして、防衛軍のみならず連邦政府も決断を決めかねる状況であったのだ。
SUSは完全に駆逐されたと見て間違いないであろうし、ブラックホールの脅威も消えた。これならば直ぐにでも地球へ再移動させて、早急なる復興を行うべし。
 こう主張する者が多い中で、慎重的な意見を出す者もいた。SUSの本部が消えたとして、残党がいないとも限らない。
それに連合国であったフリーデ、ベルデルはどの様な動きを見せるのか定かではない以上、安易に再移動させるのは危険ではないか、という事であった。
だが連合国であった二ヶ国の現状は地球が考えているよりも逼迫しており、彼らは地球へ進行するだけの余剰兵力など持ち合わせてはいなかった。
 付け加えるならば、驚異的存在だったSUSの独裁権を離れた二ヶ国にとって、地球を相手にする必要は無くなったとも言える。
それに両国の内部でもSUSに対して憎悪を含んでいる一派が多く、反戦運動などの気運が高まりつつあった。連合の親玉が消えた今、地球と無謀な戦闘をする必要を認めず。
首脳部もSUSに踊らされていた事は気づかされていた。中でも地球の大部隊が移民船団(アマール・エクスプレス)であったという情報が流れ込んだ時、即座に停戦するべきだとも主張していたのだ。
 しかし地球はそこまでの情報をまだ把握しきれていない。そんな事もあり逆移民計画は先送りになった。その一方で先日に曳航した不審船の解析が順調に進んでいた。

「どうです? ご気分の方は」
「あぁ、これは……真田局長、それに古代提督も」

科学局長たる真田と、〈ヤマト〉艦長の古代がある病室の患者に面会を求めて入室していた。訪問を受けた側の男性――〈アムルタート〉艦長、ジェリク・ジャルク提督(准将)は、思わず体を起こして二人を出迎える。
そんなジャルクを、真田は引き留めて姿勢を楽にさせるように言う。しかし何故、彼がマルセフらの祖国である地球の病院にて入院しているのか?
 それは先日に曳航された艦が〈XV〉級次元航行艦であったからに他ならない。どうやらあの第九拠点区域からランダム・ジャンプをした結果、この世界に辿り着いたらしい。
そこへ運良く戦艦〈アルミランテ・ラトーレ〉に発見され、生存者の救出がなされたと同時に艦も曳航される事になったのだ。救助されたのは彼を含めて三名のみだった。
救助後に目を覚ましたのは、例のブラックホールが消滅した凡そ二日後の事。目を覚ました時、彼は周囲の景色に違和感を感じざるを得なかった。
どう見ても管理局での病室ではなかったからである。その後ジャルクは地球連邦という国家の名を知る事になると同時に、それがあの〈シヴァ〉の故郷であることにも気づかされることになったのだ。
 何という偶然か。まさか、あの地球艦隊の祖国世界にジャンプしてしまったとは、運が良いと言えばいいのか正直分からない。
そして初めて面会を受けた相手に、ジャルクは管理局の秘密は守り通せないと自覚をせざるをなかった。相手に自分の艦を曳航されてしまったようだ。
しかも既に分析作業を行っていると聞かされた。これではいずれにせよ管理局の情報は流れてしまうだろうと判断したのである。
 彼と初対面を行ったのは真田であった。真田は分析を行っている艦の秘密を聞き出したいという事もあって、ジャルクの訪問をおこなったのだ。
そして真田は極めて非科学的であろう魔法という存在を知る事になってしまう。しかし、それで合点がいった。
あの謎の機関を積んだ艦が使用するエネルギーの正体が分からなかったのだが、その魔法という存在でしか動かせないと知るや納得するしかない。
それ以外にエネルギーの説明をする事が不可能であったのだ。

「医療部の方から、後三日もあれば歩けるまでになるだろうとのことです」
「そうですか。あなた方の医療行為には、深く感謝いたします」

真田の報告に、ジェリクは礼を述べる。

「……実は、先日だってのお話を伺いたい」

 そう切り出したのは古代であった。防衛軍並びに連邦政府は、ジャルクの言う魔法文化という世界を知り愕然とした。
中には何を馬鹿な事を言うのか、と狂人を見る様な目でジャルクを非難したが、〈アムルタート〉から引き出したデータを目にした彼らは、事実を認めざるをえなかった。
実際に魔法を目にしたわけではないが、現に〈アムルタート〉という艦が存在しているうえに、機関部のエネルギーの解明も不可能と来る。
 何よりも驚かされたのは、行方不明となっていたであろう第二次移民船団の護衛艦隊の残存艦の姿が認められたという事だ。
ジャルクの証言とデータ内の記録は一致し、政府も防衛軍もいよいよ信じざるをえない状況に陥った。これはどうすべきか、地球政府は至急、対策会議を実施した。
〈シヴァ〉以下の残存艦を撤収させるべきだと言うのだが、あいにくと地球に転移技術の術は持ち合わせていない。
 しかも只ならぬ事態が〈シヴァ〉を襲っていた。あのSUSが次元空間内部にも出没し、再度〈シヴァ〉と残存艦並びに管理局の艦隊にまで攻撃を仕掛けていたのだ。
これにどう対応するべきか、政府と防衛軍は判断に悩まされた。管理局なる組織はあくまで治安組織であり、国家たる代物ではない事が伺えただけに交渉をする訳にも行かない。
〈シヴァ〉は既に管理局の管理下に置かれているような状況と来るではないか。ただし、それについてはジャルクの方からも説明があり、艦隊はあくまで管理局本部に駐在する形で停泊しているだけとのことであった。
 ならばこれは早急に引き帰させるチャンスでもないか? だがこちらへ戻る事は出来ない。そうとなれば管理局に要請するしかないだろうが、生憎とその術もない。
そこで鹵獲した次元航行艦を修理して通信機能を活用してはどうかとの意見が出たが、その通信機も著しい損害を被って修理が不可能と判定されてしまった。
残るは〈アムルタート〉の次元転移装置を何とか地球艦でも使える様に複製するしかあるまい。だがその装置でさえ、損害が酷く再利用するのは難しいと結果が出たのだ。
ジャルクに聞こうとするも、彼はあくまで艦船の指揮官であって技術屋ではない。装置の細部たる部分までを熟知している訳ではない。こうもなると完全に行き詰った。
通信ができないとなれば、後はジャルクの方から直接に話を聞くしかないだろう。古代は行方不明となっている艦隊の様子が気になり、直接確かめようとした。

「ジャルク艦長、先日貴官は、地球艦隊は現在のところ駐在する形で停泊していると言いましたね?」
「はい」
「乗組員はどんな状況かわかりますか? 知っている事だけでいいんです」
「……古代提督が心配なさるような、拘束したり監禁するような真似はしていないと聞き及びます。寧ろ上層部は彼らを恐れていました」
「恐れていた、とは?」

 真田が疑問に思って聞き返した。ジャルクは管理局には質量兵器禁止法という法律が定められている、と目の前の二人に説明したが、これは以前にも訪問に来た防衛軍司令長官等を相手に話した事があった。
ただしこれを聞いた政府の首脳部、防衛軍の高官達は呆れ顔をしていたという。管理局という組織がどういった政策を取っていたのか、それは大まかながら把握していた。
 簡単に言えば、魔法以外の兵器は認めずに完全に破棄して他者に横暴を許さないという事であろう。
逆に言えば、それは魔法所有者のみが他者を如何に様にでも出来る、ということを指しているのと何ら変わりはないという事である。

「私の艦から見た記録を思い返して頂ければ、察しはお付になるかと思います。我ら管理局の艦では、SUSに太刀打ち出来ませんでした。しかし、貴方がた防衛軍の戦闘艦の戦いぶりは、戦闘力、防御力、機動力、その全てにおいて凌駕していたのです」
「……成程、それで〈シヴァ〉と〈ミカサ〉の波動砲を見たことにより、貴官ら管理局は危険性を認めたという訳だね?」

 真田の察した言葉にジャルクは頷いた。波動砲(タキオン・キャノン)は管理局にとっては大いなる衝撃であり、同時に脅威的な代物になるだろう。
もしも管理局に刃を向いたその時、波動砲の威力を管理局側が体験する事となってしまうのを非常に恐れたのだ。
 だがジャルクの話では、〈シヴァ〉ら地球艦隊は管理局の壊滅の危機を救った事が功を奏して、どうにか会談が出来る様にまで扱ぎ付けられたという。
内容は詳しく知らされていないらしいものの、一応の駐留の許可及び食糧供給等が行われているとのことであった。
さらに二回目の会談となると、司令官代理を務めていたコレムと東郷により地球の歴史を説明されたとのことだった。

「それ以前に、我ら管理局ではある予言がありました」
「予言?」
「はい。“破壊神とその下部が現る時、幾多の世界を治むる邪悪な意思動きたりて世界を業火に巻き込まん。その破滅の道を閉ざすため、法の防人、破壊神と下部と共に立ち向かわん”……と」

一瞬であるが、真田と古代はこの予言が何を言っているのか理解出来なかった。しかし、その予言の各一部が、段々とピースのように当て嵌まっていく。

「破壊神と下部……っ! まさか!?」
「そうです、古代提督。それは地球艦隊を示していたのです」
「とすると、幾多の世界を治るというのがSUSということか……」

 となれば後半の立ち向かう、という言葉。それは〈シヴァ〉以下残存艦が管理局と共にSUSに立ち向かうという事になる。これはかなり危険な事ではないのか?
友軍が手負いのままSUSの大軍を前にして戦うなど、地球連邦もとい防衛軍も望んではいない筈だ。無用な戦いに巻き込ませる等許す筈もない。これはより急がねば!
だが〈シヴァ〉らは戻ってこれない。ましてやこちら側からも迎えに行くことが難しいのだ。管理局には悪いだろうが、あの転移装置を何としても独自が使用出来るように修理し、次元空間内部へと侵入するしかないだろう。
 それでも最悪なパターンが頭をよぎる。〈シヴァ〉らが巻き込まれてから凡そ四五日は経過しているのだ。
そして、ジャルクの話ではSUSによる総攻撃が各拠点に対して開始されていると言うではないか。もしかしたら今頃は……と想像してしまった。
古代はそんな不吉な予想を頭から追い払うと、隣に立つ真田に対して事の事態の重さを認識すると同時に、早急なる支援または救出させる必要があると話す。
 それに対して真田も認めているが、問題は幾つもある。先の次元転移法もそうであるが、管理局が素直に〈シヴァ〉らを引き渡してくれるかという問題だ。
さらに今の様な予言まで出ている。管理局の中にはこの予言を信じて〈シヴァ〉と共に戦う事を望むだろうし、〈シヴァ〉以下残存艦もまた故郷へ戻れないのを理由に、SUSとの戦闘へと突入している可能性が高いのだ。
 それに地球はSUSとはもう無関係ではない。古代達もSUSを正式な敵として認識し、以前まで激しい戦闘を繰り広げていたのだ。
さらに平和を守るという義務感からも〈シヴァ〉らは戦っているかもしれない。

「SUSとは無関係とはいかんからな。それに奴らが各次元空間から通じて、再び我々の地球を襲う可能性を否定出来なくなった」
「あの時、SUS司令官が去り際に、この世界をくれてやる、と言っていましたが、結局は地球を狙っていた訳ですから、確かに奴の言葉は信用出来ませんね」
「……申し訳ない、そのSUSとは一体どんな正体なのか教えてはくれませんか?」

ジャルクはSUSという敵を知っていても、真の姿をいまだに知らない。正体を知り得ていないジャルクに言われて、実際に目にした古代は有り得ないだろうが、と付け加えて目の前の艦長に真実を話した。

「っ! SUSとは、それ程の生命体であったと言うのですか!?」
「そうです。私自身、これまで我々地球人に似た人間型宇宙人を多く目にしてきました。ですが、SUSは単なる人間型ではなく、中身は異次元に巣食うエネルギー生命体なのです。とても、信じられない話でしょうが、これは事実なのです」

エネルギー生命体など、ジャルクは人生でお目に掛かれたことなどない。寧ろお目に掛かることさえ難しいであろう。
しかし、実際にSUSの正体は防衛軍によって確認されており、侵略目的が多量のあらゆる資源の確保であることを知らされる。
 そこでふと、ジャルクは思った。SUSは管理局に対して宣戦を布告してきたのだが、内容からして自分らを壊滅せしめるだけでなく、本命は管理局が幾多にも治める各世界の資源が、最大の目的ではなかったのではないか?

「それと、小官と、乗組員はこれからどうなるので……しょうか」
「それについては、安心して頂きたい。防衛軍司令長官からもご沙汰がありましたが、貴官らの安全は保障いたします。ただ残念ながら、管理局への引き渡しというのは現状、難しいと考えております。せめて、あの艦の転移装置がもう少し良好な状態であれば良かったのですが」

落胆せざるを得ない事ではあるが、それも致し方のない話だった。真田が言うように、〈アムルタート〉の時空転移装置は再起可能かどうか怪しいのだ。
真田の同期生である機関部門と技術部門のプロフェッショナル、大山歳朗でさえ手を焼いている状態だと言う。
それでも出来うる限り再稼働が出来る様な状態にまで回復させ、ジャルク達三名の引き渡しと〈シヴァ〉ら残存艦の救出を行うと約束してくれていた。

「では、ジャルク艦長、今日はここまでにして、失礼する」
「いえ、わざわざ申し訳ないです。それと、乗組員をお願いします」

数少ない生き残りの乗組員の安否を気遣うジャルクに、真田は大丈夫だと言って病室を後にする。病院を後にする二人はそのまま一旦防衛軍本部へと足を運んだ。





「真田さん」
「なんだ、古代」

 地球防衛軍(E・D・F)本部へ到着早々、古代は先の次元転移の術は一つしかないのか、問いかける。彼としても、一刻も早く〈シヴァ〉らを引き戻してやりたいのだ。
何よりも自分の後輩が二人程、巻き込まれている可能性があったからだ。一人は北野であり、もう一人が坂本である。
どちらも旧〈ヤマト〉に乗り込んだ後輩であり、古代の厳しい指導の下で活躍してきたのだ。
 そんな彼らをも早急に救出が出来ないか。他に転移するための技術は何もないのだろうか。古代はやや焦りを持って真田に迫る。

「……実はな、転移装置に関してはまだあてがあるのだよ」
「本当ですか!?」
「あぁ。これはね、山南長官と水谷司令、そして大統領ともで話し合われたのだが……」

その内容を聞いたとき、古代は驚愕した。何故なら、真田の口から出てきた人物名が旧友であり宿敵でもあるデスラー総統の名が出てきたためだ。
どうしてこの時になってデスラーが出て来るのかと不思議に思うものの、その理由は簡単に出てきた。

「まさか、デスラーに技術支援をさせると!」
「そうだ」
「ですが真田さん、おいそれとデスラーが簡単に応じてくれるでしょうか? 以前は確かにワープ・デバイスの強化データを譲られましたが……」

 真田の言うデスラーへの要請。それは、異次元空間を独自に作り出す事の出来る技術の支援を求める事を、検討しているのである。
デスラーのガルマン・ガミラス帝国は、銀河交差現象で壊滅状態に陥ったものの、毎度ながら感心させる復興への執念により不完全ながら再建を果たしてしまっていた。
そのガルマン・ガミラス帝国が、科学の結晶とも言える技術を持っている。それが次元潜航艦という戦闘艦艇の事である。
 これは他勢力の中でも類を見る事の出来ない戦闘艦艇であり、地球で言うなればそれは潜水艦という事になり、その宇宙バージョンと言ってよい。
宇宙で身を隠せる海など存在しないのは当然だ。ならばどうして、潜水艦を沸騰させるような、潜航艦なる名称がつけられているのか?
その所以は潜航艦が独自に作り上げる亜空間断層にあり、次元潜航艇はその作り出した亜空間断層に身を隠して宇宙空間を航行する事が可能なのだ。
 この高度な技術を持ってして、次元転移装置の完成を見なければならないと判断した。だが、これはあくまでも水面下での動きである。
次元転移装置の再起動の目途が付いた場合はこの要請は白紙に戻される事となっている。

「まぁ、今は何とも言えんからな。それに、技術交渉をするにしても支援を実際に受け、開発成功にまで行うまでゆうに半月は覚悟せねばなるまい」
「確かに、ガルマン帝国とは友好関係にはありますが、決して軍事的な同盟関係を結んでいる訳ではありませんからね。あくまで通商関係が中心でしょう」
「それだけ、我々は急がねばならないのだ」

深刻な表情で語る真田の言葉に、古代も頷く。そうだ、友軍の安否が直接に確認出来ない以上、ゆっくりしているような場合ではないのである。
 やがて二人は司令長官の執務室へと到着した。ドアの前で名を名乗った上で入室すると、そこには山南が作業机に向かい、書類の整理をしている姿が見える。

「おぅ、よく来てくれたな、古代、真田」

入室して来た二人を前にして、山南は椅子から立ち上がりデスクの隣にある接客用のソファーに座るように指示する。
六九になる山南は背筋を伸ばし、依然として気骨ある武人の風格を放っていた。頬に右頬の傷跡が、その雰囲気をさらに引き上げていると言っても良いだろう。
 案内された二人は山南が座るのを待ってから腰を下ろす。山南もそれを確認してから口を開く。

「貴官らは防衛軍の中央病院へ寄って行ったそうだが、どうだったね、彼は?」
「大分、落ち着いた様子でした。怪我も思ったほどに治りが早いらしく、数日中には歩けるそうです」

古代が山南の質問に答える。古代にしても三〇代を過ぎた身であるが、この長老たる軍人を前にしては以前として教官と生徒、といった図が似合っていると言えた。
山南は彼の報告に満足そうに頷くと、次の本題へ入った。まずは先ほど話していた時空転移装置の再起目途、およびデスラーからの支援案についてである。

「科学局の人員と、防衛軍の技術部で共同作業を行っておりますが、再起稼働と成り得るかは見当が付きません」
「正確に稼働が出来ると判断されるまで、どのくらい掛かるかね?」
「はい、近日中、恐らくは二〜三日の間には正確な報告が入ります。それで不可能と判断された場合は……」
「ガルマン帝国に協力を仰ぐ、か……」

 簡単に協力を仰ぐとはいっても、その実現に扱ぎ付けるまで様々な調整をしなければならないのだ。
軍事機密とされる次元潜航艦の次元断層発生装置を、いくら両軍を救出するためとはいえ、同盟関係の見直しもしなければならないだろう。
それなりの見返りも当然必要となるのは目に見えている。本音を言えば、なるべくそうした要請をしないように済ませたいものである、と山南は言う。
ガルマン帝国自体も、今は帝国内部の安定化と周辺宙域の安全確保に奔走させられている。あの大災害により支配宙域の三分の一近くが壊滅してしまったのだから、仕方ない。
 それにSUSといった勢力が各諸勢力を糾合して連合国を作り上げたばかりでなく、あのボラー連邦までが今日まで生き延びて、再建を果たしている最中だと言う。
だが大ウルップ連合は事実上崩壊した。ガルマン帝国のデスラーも近い内に軍事態勢をきちんと整えてから、再び銀河系制覇を成し遂げようと大軍事行動を起こすだろう。
無論、地球はそれに加担する事はなく、デスラーもそれを承知して地球の息の掛かった開拓星には手出しはしないと厳命している。

「長官、よしんば時空転移が可能となった場合、我々はどういった行動を執るのですか?」
「うむ。実はそれが問題でな、古代」

 〈アムルタート〉のデータとジャルクらの案内を基にして管理局の世界へ進出しても、管理局は素直に〈シヴァ〉らの引き渡しを受け入れてくれるかが問題であった。
彼らは現状では戦争の真っただ中と言っていいだろう。恐らくは〈シヴァ〉ら地球艦隊も何らかの要請を受けて行動をしている可能性がある。
その最中に引き返してこい、と命令しても管理局は大事な戦力を引き抜くことに承諾しかねる、等と言いかねない。相手は国家ではない、巨大な治安維持組織だ。
国家が治安組織と語り合うなどバランスが違うであろうが、生憎と管理局は組織でしかない。一応の外交も持っているだろうが、果たしてその外交手腕が如何なるものであろうか?
 そして古代は、先のジャルクが言っていた奇妙な予言について、山南に打ち明けた。それを聞いた山南は顔を強張らせたが、すぐに表情を元に戻して口を開く。

「その予言とやらを信じているのだとすれば、或いは本当であれば、〈シヴァ〉は管理局の救世主的存在と成り得る訳だな?」

その問いかけに古代は、そうですと応える。

「そうであった場合、ますます相手も手放せないでしょう。しかも管理局は多くの世界を傘下に入れていると聞き及びます。その世界の住民達が予言を信じているとすれば……」
「引き戻そうとする我々が、市民達の敵と認識されるかもしれんとはな……全く面倒な争いごとに巻き込まれたものだ」

山南は深いため息を吐いた。古代も巻き込まれるというパターンに、嫌というほど経験をしている故に勘弁願いたいらしい。
 その巻き込まれたものとして、ガルマン帝国とボラー連邦との銀河大戦が一番良い例であろう。事の始まりはボラー連邦の戦艦が太陽系にワープ誤算で迷い込んできた事にある。
それを追いかけてきたガルマン艦隊――因みにこの司令官が太陽系の破滅を招いているが、対応に当たっていた〈ヤマト〉の警告を無視して、戦闘に巻き込まれたのだ。
しかも今回の場合、管理局を襲っている敵が知っている連中だ。いつ地球に再来して来るか、これは連邦政府のみならず目の前の山南でさえ深く頭を抱える事となったのだ。
 これを受けて防衛軍最高会議や連邦議会では、管理局世界への対応に、意見が右往左往して飛び交っているのだ。
相手はSUSだ、ここは後顧の憂い断つ意味でも殲滅するべきではないか、或いは、管理局世界の事など関係ないのだから即刻連れ戻すべきである、との意見だった。
前者はまだしも後者の意見に対してはあまり良い目で見られることは無かった。地球は平和を守るリーダーと志して、活動を行ってきた筈だ。
 それに今までの事を忘れたとでも言うのか、一八年程前のガトランティスの事を思い返してみろ! と議員や軍人は口々に言い放っていた。
ガトランティス戦役時の地球連邦と防衛軍幹部は、あまりにも傲慢で危機管理のなっていない状況であった典型的例と言える。
別宙域から発せられた警告メッセージを読んでも、巨大白色彗星が接近していると知っても、平然とした態度で取り合おうとはしなかった。
幹部や政治家、あるいは大統領までもが、再建された軍事力に陶酔して甘い考えで対応をしてきたのだ。
 その時の言いぐさを、古代は今でも鮮明に覚えている。

「波動砲装備の戦艦が数十隻を数えるのだ、彗星の一つや二つなど破壊して見せる」


等と、総参謀長が公言したばかりか、危機を訴えた古代を心配性の若造が、とばかりに無視したのだ。たった一年の平和に市民のみならず政府も軍もボケてしまった。
結果として古代ら〈ヤマト〉が反逆を犯してまで調査した行動が正しさを証明され、対応を怠った一部を除く政府関係者や軍事幹部は非難の的となったのである。
 それ以後は政府官僚や軍事官僚の内部組織は改められ、少しは真面な働きをするようになってきたのである。が、それでも銀河大戦時で大きなヘマをやらかした人物がいた。
初代大統領と太陽エネルギー専門の気象学者、黒田博士だ。ガルマン帝国の惑星破壊ミサイルの流れ弾が太陽に命中し、その異常を大学教授サイモンが見つけたと言うのに、黒田はその説を否定した挙句に、大統領もがそれを信じてサイモンを無視したのである。
後はご覧の通りだ。それを折に大統領は地球の危機を脱した後に辞職し、黒田も博識としてはあるまじき失態をしたとして、厳しい処分を受けたという。

「まぁ、結局のところは、その前例を鑑みてSUSの迎撃という名目を立てての、支援を行う事に定まりそうでな」
「支援……ですか。ですが、現在の宇宙艦隊では十分な戦力は整えられません」

 古代の言う事は最もであった。SUSとの激戦の末に、地球防衛軍の宇宙艦隊の主力は、事実上は壊滅に近いものであった。
第三次移民船団 護衛艦隊の残存兵力は四六隻、他に第一次と二次の残存兵力である二六隻あまり。六四八隻もの主力艦隊が、七二隻余りにまでなってしまったのだ。
一七年もの歳月をかけて再建した艦隊が、僅かな期間で激減するとは、誰が想像していただろうか。首脳部も再建の苦労に、胃の痛くなる思いである。

「尤もだ。だが、完全に枯渇したわけではないが……な」

 山南の言う通り、戦力が無い、という事ではない。主力は激減したこそすれ、太陽系内外の警備艦隊、巡視(パトロール)艦隊、護衛艦隊の殆どが残されているのだ。
太陽系内部の九個警備艦隊 一〇八隻、九個パトロール艦隊 三六隻、一五個護衛隊一二〇隻、計 二八二隻。太陽系外の六個星系(バーナード、シリウス、プロキオン、アルファ・ケンタリウス、グリーゼ581、アルデバラン)に、一二個警備艦隊 一四四隻、一二個パトロール艦隊 四八隻、一八個護衛艦隊 一四四隻、計 三三六隻。
 これらを含めた場合、総計六一八隻もの艦艇数を誇った。そう、“数”だけならば、大規模な艦隊に成り得るのである。
質としては最低限のものである。これらはあくまで、星系内部の警備行動や、星系内外のパトロール、星間を航行する資材運搬艦、民間宇宙船等の護衛を行う艦隊ばかりなのだ。
そういった任務の都合上、強力な武装を搭載した戦艦を配備されている事は、まずもってない。例外として、旧式戦艦が当てられる事が多いが。

「旧式の戦艦とはいえ、火力は申し分ありませんでしょう。ですが、そればかり引き抜いては、各星系の警備活動に害を及ぼしてしまいます」

 古代の言う通り、主任務から外された旧式戦艦が、警備艦隊らの主力として組み込まれている例もある。しかし基本編成は〈最上〉級巡洋艦と〈フレッチャー〉級駆逐艦だ。
これら艦艇も、主力艦隊のものと変わりないが、やはり訓練課程は大きく違ってくる。さらに、旧式戦艦が組み込まれるように、数世代前の艦艇が、警備艦隊、パトロール艦隊、護衛艦隊、これらを合計した四分の一を占めており、各方面への防衛はさらに心細く感じてしまうものである。

「この危険な時期に、各方面の艦艇を引き抜いては警備が手薄になってしまう。SUS連合は崩れ、エトスとアマールも独立を宣言して、我らとは共同歩調の構えも見せているが……ボラー連邦や、いつ来るかしれないガトランティスの事を考えれば、下手に兵力を引き抜くことも出来ん」

 そう、天の川銀河 北東部に存在する、大国ボラー連邦の存在を忘れられないのだ。

「〈ヤマト〉もトランジッション波動砲を発射した影響で、思ったより修理がはかどっておりません。しかし長官、“あれ”を使うときが来るやもしれません」
「真田さん、“アレ”とは?」
「古代、お前が知らないのも無理はない。地球が無くなり、アマールの月へと移住する際に考慮され開発された、防衛軍の新型移動司令部だ」
「なんですと、移動司令部!?」

山南の言う移動司令部の存在を知った古代は度胆を抜かれたような心境であった。それもそうであろう、古代は三年もの間は外宇宙と出ており、この新型司令部の建造も凡そ一年半前から開始されていたのだから。
元々、移動型司令部の建造計画というのは随分と昔から存在していた。しかし、防衛軍の各司令部というのは開拓先の惑星上であるとか、小惑星を刳り貫いたようなものであるパターンが常であり、移動要塞的な司令部は建造する事はなかった。
 理由は至極簡単、大型の司令部に費用と資材を掛けるくらいであれば、多数の波動砲搭載型戦闘艦を配備して外敵から身を守った方が得策である、と考えたからだ。
さらには連邦議会内部でも……。

「防衛軍に他国を侵略する道具を与えるな!」

と声を大にして主張する議員も数多くいた。
平和ボケとも言われかねないが艦隊が独自に恒久的な活動を行い得るものだけに議員はおろか市民にすらも「攻撃的」との批判が続出したのだ。
 だがその考えは地球消滅という事態を前にして変更を余儀なくされる。どんな事態にも対応出来るよう、司令部を移動出来るようにとの声が高まったのだ。
防衛軍の最高幹部らと、科学局の真田も加わることで、新たに試みられる移動式大型司令部の建造が本格化したのである。
それも、ブラックホール接近の凡そ一週間前という、まさにギリギリの時間で遂に完成を見る事が出来たのであった。
 結局は地球は消滅を免れたものの、この司令部は稼働状態に入り地球の本部と併用して機能している。
艦隊及び一戦況区の司令部として機能するだけでなく、艦隊の整備、補給、造船等を手掛ける要塞は、今、〈シヴァ〉らの救援のために動かんとしていた。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
もうすぐ五月に入ろうかという感じですが、地震を受けて延期状態の大学も、講義を開始する時が迫っていました。
掲載間隔も恐らく段々と大きなってしまいますが、ご了承願います。
さて、今回は地球連邦の視点となりましたが、如何でしたでしょうか?
そして最後に出した移動司令部についてですが、これは〈ファランクス〉やSUS支援艦当の案を頂きました、フェリ様からのご提案となります。
まだはっきりとした形状・機能は試行錯誤の最中ですが、今後の展開できちんと出したいと思います。
では次回更新まで、お待ちくださいませ。

拍手リンク〜
[三一]投稿日:二〇一一年〇四月二三日六:四:五五 EF一二 一
……どこの組織や個人でもそうですが、現実を認めようとしない、認めたくない御仁がいるのは仕方ないといえば仕方ないですね。
ただ、戦場ではリアリストに徹しないと死にますからね。
合同艦隊訓練が啓蒙になることを期待しましょう。
あと、魔導師側の模擬戦を実際に見てもらうのはグッドアイデアですね。
私の方では資料映像も回収したことにしてごまか……もとい、消化してしまいましたが。
(「魔法ガ出ナイヨー」と割り切ってしまいましたから)
対人戦闘については、地球側の模擬戦闘も披露する手もあります。
地球艦には射撃訓練場等も備えられていますから、そこで見てもらえば簡単(笑)
もっとも、地球側が一〇〇年以上に拳銃もパルスレーザーガンに代わっていたとなったら、管理局は何と言うか…。
では、次話も楽しみにしております(^^ゞ

>>毎回の書き込みに感謝です!
まぁ、管理局も思考を切り替えて頂かないと、色々と困りますからねw
合同訓練でたっぷりと扱かれるかとおもいます。
地球側の空間騎兵隊の模擬戦も、とのことですが、成程、それも検討してみます!

[三二]投稿日:二〇一一年〇四月二五日二〇:四四:一六 柳太郎
いつも楽しく拝見しております。
合同訓練で管理局員は何を見るのか?
そのとき管理局強硬派キンガーをはじめ多くの管理局員の胸に去来するものは何か?
続編が気になります!!

>>楽しく読んで頂けているという事で、大変に嬉しく思います!
合同訓練のシーンは必ず入れますが、その際に管理局がどう思うか……。



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