「受け入れ準備を急げ! おい、モタモタするなぁ!!」
「消化システム用意! 艦艇の火災に備えろ!!」
医療班(メディック)は即時待機、命令有り次第、負傷者の運搬を行います!」

  管理ドックの作業員達を取り纏めている、各チームの長が怒声を上げて指示している。その中には医療班として活動しているシャマルの姿も見えており、引き連れているスタッフ達に次々と指示を飛ばしていた。
次元航行部隊を逃がすために殿となった地球艦隊が戻って来る、これ自体は大変に喜ばしい事だった。だが、現状は甘いものではなく、かなり厳しい様子が伝えられていた。
  先に帰還して来た次元航行部隊の報告に次いで、救援に赴いた東郷率いる艦隊からも報告が入ったのだ。
マルセフの艦隊が半壊とはいかないまでも、多くが損傷したうえに、遂には四隻の損害というのものであった。
これを“たったの”四隻と受け取るか、四隻“もの”と受け取るか? 局員の感覚では後者に部類されるであろう。ここで言う四隻というのは、一個艦隊に匹敵する数だ。
  フロアの一部で帰還を待っていた一人、スバルがリンデイに尋ねる。

「リンディ提督、地球艦隊は大丈夫でしょうか?」
「……大丈夫だとは言えないわ。報告では、駆逐艦三隻と巡洋艦一隻が撃沈。さらに戦艦も〈シヴァ〉含めて手酷い損害を受けている、と聞いているわ」

沈痛な表情で答えるリンディに、スバルの表情も暗くなる。彼女の親友であるティアナや、上司だったはやて等四名の無事を知り得た事には、大いに喜べる話であった。
同時に、それを素直には喜べない事も確かである。地球艦隊が無理をしてでも盾となって逃してくれた代償は、先の報告で決して小さいものではなかったのだ。
  管理局でも大勢の死者を出しているのは同じだ。死に対して見比べをするつもりはなかったが、今回は管理局側提督の無謀な行動によって無茶を引き起こす結果となった。
これは由々しき事態でもあった。

「しかし、まさかゲヴェンスが無茶をするとは。結果として地球艦隊に無理をさせてしまった訳だが……」
「クロノ君は、マルセフ提督が何か付け込んで来ると思っているの?」

そう言ったのは、クロノ傍らに立っていた、なのはである。今回の次元航行部隊の独断によって、地球艦隊は多大な被害を受けている。
無論、次元航行部隊の一部――とは言っても半数近くであるが、彼らの無謀さには代償があまりにも大きかったとしか、言いようがない。
彼女が懸念したのは、この一件でマルセフが何らかの行動に出て来るのではないかと思ったのだ。元々はマルセフを信頼していた側にあるにしても、不安はあったのだろう。

「それは無いと思う。マルセフ提督の為人からして、他人の弱みに付け込むような真似はしない筈だ」
「私も同意見だ。直接的に話したことは無いが、あの提督の眼に映る意思の強さは並大抵のものではない」

クロノに引き続いて言うのはシグナムであった。長年、騎士として動き続けてきた彼女の経験からして、相手の風格や為人を読むのは人一倍に長けていたと言えよう。
それだけにシグナムの言葉には信憑性があった。なのはもそれを信じて頷く。
  そんな時であった。フロア内に作業員の声が響く。

「おぉい、来たぞぉ!」
「地球艦隊が帰還して来たぞ! 準備のまま待機だ!!」

フロアにいた作業員達が位置に付き、地球艦隊が入港して来るのを待った。同じく別フロアで見守るリンディ達も、入港して来るであおる地球艦隊の姿を待つ。
  凡そ三分後、フロアの窓からでも地球艦隊の姿が視認出来るようになった。緊張が張り詰める中、彼女達ははっきりと地球艦隊の姿を見た瞬間、唖然としてしまった。

「……っ!?」
「こ、これは!」
「これ程までに酷いとは……」
「何だよ、これ……ボロボロじゃねぇかよ」

無言であったリンディは眉をピクリと動かし、尋常ならざる地球艦隊の様子に驚く。続いてクロノも、変わり果てた地球艦の姿に唖然としている。
シグナムとアギト、そしてヴィータも地球艦隊の姿を見て衝撃を受けた。なのはとスバルに至っては、咽から声すら出せない状態だ。
  最初に入港したのは、最も酷い損傷を負った〈イェロギオフ・アヴェロフ〉と〈ヘルゴラント〉の二隻であった。
出港前の時とは全然、威容が違っている。綺麗な灰色の艦体塗装は、殆どの割合で焦げた様な色合いをしている。
さらには、艦体装甲の至る所に凹みや歪みが出来ており、破口も数多くが確認出来た。その破口からは黒煙が今もなお吐き出され続けている。
ヨタヨタとした操艦をしている。姿制御スラスターが上手く働いていないためであろう。天に聳え立つ様な、巨大な主砲塔も殆どが破壊されている状態だ。
被弾の超高熱で砲身が歪んであらぬ方向を向き、ターレットから少し浮き出ている。それだけではなく、風船が破裂したかのように破壊されている砲塔もある。
  これでは、完全修復が見込めないであろう。〈イェロギオフ・アヴェロフ〉は艦橋後部の左右に張り出した安定翼が根元から消し飛んでいた。
これが不安定な操舵の原因かもしれない。〈ヘルゴラント〉は艦体の安定翼こそ無傷であるが、肝心の操舵を行う艦橋天辺部が被弾の影響で吹き飛びかけている。

「次元航行艦なら、とっくに撃沈されていてもおかしくは無いだろうに。よく、ここまで耐えたものだ」
(これが……現実……なの?)

クロノは地球艦のタフさを思い知らされた気分だった。なのはは、実際に対艦戦闘を体験したことが無いとはいえ、目の前の惨状からして、己の考えが甘い事を悟らされた。
順序よく入港を果たす地球艦から続々と負傷者が担ぎ出されると、待機していた医療班が一斉に動き出した。
今回は以前の負傷者を遥かに上回る数であることが確認出来る。担架に運ばれていく負傷した防衛軍兵士達は、大半が応急処置を済まされてはいる。
  だが本格的な処置を施さねば命が危うい。シャマルは時間との勝負を挑み、負傷者を運び入れて行く。損傷した艦艇群も次々とドック入りを果たす。
彼女らの目前に位置するドックに〈シヴァ〉が係留されているが、地球防衛軍(E・D・F)の最新鋭艦と謳われた〈シヴァ〉でさえも損傷が酷い。
数多くの砲塔は半数以上が破壊されており、綺麗な装甲も焦げ付き剥げ掛けている。傷ついた青き巨人が固定アームの上でぐったりとしている、そんな感じがした。

「〈シヴァ〉も……」
「七〇隻もの艦隊を相手にして帰って来れただけでも、奇跡に近いだろうが……」

半ば象徴的存在と認識されつつあった〈シヴァ〉の傷ついた姿を見て、スバルは落胆の様な声を漏らす。損傷の具合は半端なものではないとクロノは思う。
負傷者搬送も本格的なものとなる中、その〈シヴァ〉からも負傷者が続々と運び出されていく。その中で、特に見覚えのある人物が目に映り、シグナムが声を上げた。

「あれはコレム大佐ではないか?」
「えっ!?」

 シグナムの声に釣られて、皆もその人物が乗っているであろう担架に目を向ける。最初は頭部に包帯を巻かれているために分かりづらかったのだが、よく見れば確かに当人だ。
まさか、彼までもが負傷していたとは! しかも頭部だけではない。普段の士官用コートやシャツは取り払われており、上体の大部分に包帯が巻かれているのがわかった。
リンディは思わずゾッとした。もしもフェイトとシャリオが、マルセフの処置で退艦させられていなかったら? きっと、今頃は娘らが負傷していたかもしれないのだ。
 いつであったか、出港前にマルセフと交わした約束を思い出す。彼女はマルセフに感謝する一方で、代わりに負傷したと言っても過言ではない彼に謝罪したい気持ちになった。
が、次に声なき悲鳴を上げたのはなのはであった。数多くの担架の中に、見覚えのある金髪の女性が視界に入ったからだ。瞬間、嫌な予感かられた。まさか、彼女が――!
気づいた時には、なのはが先に駆け出していた。リンディも娘の様子に気づいていたが、それよりも早くなのはが動いている。スバルやシグナムらも後に続いた。





  あの〈シヴァ〉艦橋で最後に見たのは、コレムの物悲しそうな表情だった……。あれからどれ程経ったのか? しばらくの間気絶していたフェイトに、段々と意識が戻る。

(あれから、私……。そうだ、コレム副長に撃たれたんだっけ……)

気絶させられる直前に撃たれた時の混乱と、今自分はどうなっているのだろうか、という自問自答に混乱しかけていた。何をどうやって整理すれば良いのかが分からない。
コレムに撃たれたことは勿論、それ以前に相棒である筈のデバイスによる裏切り行為が衝撃的であった。通常、デバイスは主である存在を守るようにプログラムされている。
今回の様な場合でも、本来ならバルディッシュが事前に察知してコレムの射撃を防ぐことが可能なのだ。なのに、バルディッシュはフェイトを守ろうとはしなかったのである。
  これら全てを理解するには、今しばらくの時間が必要だ。彼女はそう思いつつも、意識を完全にして目を覚ました。まず視線に入ったのは、心配そうに見るシャリオだ。

「良かった、気づいたんですね!」
「ぁ……シャーリー?」

シャリオだけではなかった。目線を周囲にやれば、ティアナとマリエルもいた。どちらもフェイトが目を覚ましたことに安堵していた。
取り敢えず、フェイトも三人の無事を確かめる事が出来て安心していた。

「ねぇ、私が気絶してから、どうなったの?」
「はい……実は……」

  シャリオは事の全てを話した。〈シヴァ〉から強制的に退艦させられた後に〈ファランクス〉へと乗艦したこと。
〈シヴァ〉ら数隻が殿役として留まり、〈ファランクス〉他の艦艇が離脱に成功したこと。その後の事は、彼女も実際に見ていない故に分からないが、〈シヴァ〉もどうにか残存艦を引き連れて帰還出来たこと、等だった。
  しかし、ショックを与えた事と言えば、コレムが重傷を負ってしまったことだった。恐らく、コレムもこうなる事をマルセフらと共に予想していたに違いないだろう。
自分らを逃がすためとはいえ、彼女は自分の無力さに打ちひしがれた。

(所詮、私も単なるお飾りでしかなかった……)

何が魔導師か、何がエースか、結局は何も役立てずに退艦させられるだけに終わってしまったではないか!
もともとは観戦武官という立場ではあったものの、たかが一魔導師の手によって地球防衛軍を救う事など無理な事であったのだ。それを今回は、身に染みて教え込まれた。
  ふと、彼女はコレムの容態を案じた。同時に起き上がろうとしたが、今だに痺れが抜けきっていないのだろう。右腕を支えにして起き上がろうとしたものの、力が抜けた。

「駄目ですよ! まだパラライザーの効力は抜けきってません。もう少しだけ、大人しくしていてください」
「……うん」

カクン、とベッドに再び沈み込むフェイトに、ティアナは無理をしないように言う。ここで無茶をしても、どうにもならない。フェイトは素直に後輩の忠告に従い、身を楽にした。
  そんな時だった。個室へ慌ただしく人が入り込んで来たのは――。

「フェイトちゃん!!」

それは彼女が良く知る親友、高町 なのはだった。フェイトの顔を見るなり、彼女は傍に駆け寄り抱きしめる。余程に心配していたのだろう、顔には涙を浮かべている。
まだ痺れが取れていないものの、フェイトはなのはの背中と後頭部に手を回して軽く抱きしめ返す。傍にいた三人は口を挟むことは無く、先輩らの再会を見守っていた。
  そこへ後に続いて個室へ入って来たスバル、シグナム、アギト、ヴィータ、クロノ、そして途中で合流したはやて、グリフィスの面々。皆が心配の言葉をかけて来る。
それもそうであろう、ファイトが担架に乗せられているのを見れば、誰でもが彼女に何かあったと思ってしまうのが普通だ。
しかし、フェイトが重傷を負っていた訳でもない事を知ると、皆は安堵した。

「けど、一体何があったの? 担架に運ばれてるから、てっきり怪我を負ったかと思ったよ?」

  なのはの問いに、フェイトはどう答えようかと迷った。事実のままに、コレムに撃たれたと言うべきなのか? それを信じてコレムやマルセフに問い詰める可能性もある。
付き添っていたシャリオも、なのは達にどう言うべきか迷っていた。だが嘘を言っても仕方がない。フェイトは腹を括って、語り始めた。
  方やフェイトがなのはと会う数分前、リンディは別の部屋に足を運んでいた。まだ治療が終わっていない負傷者も多い中、彼女はとある人物が眠るベッドに近づく。

「……大佐」
「ハラ……オウン、提、督……」

ベッドの上で体を沈めていたのはコレムであった。頭部、胴体、右腕に包帯を巻かれている姿は痛々しく、リンディの表情も険しいものとなっている。
治療のために投与した麻酔の影響か、あるいは傷のためか、コレムの返事は弱々しいものであった。

「心配しました。大佐が負傷されていると聞きましたから……」
「はは……私も、不覚……でしたよ。こうも……傷を負うとは」

やはり、上手く喋るには今しばらくの時間が必要であろう。弱々しい声を聞く度に、リンディは胸の内が痛むような気がした。
幸いにして、コレムの容態は命に別状はない、とシャマルから話を受けており、幾らからは安心していたのだ。
 だが彼自身の体調が良い訳ではない。リンディはここに訪れた理由を単刀直入に、お礼の形で言葉に出した。

「……大佐、先ほどは娘達を助けて頂き、本当にありがとうございます」
「いぇ……。あれ、は……艦長と、提督……が、事前……に話して……おられた、からです」

お礼を言うのなら、それはマルセフに言うべきだ、と言いたいのだろう。リンディは既にマルセフのもとへ立ち寄っており、フェイト達の脱出の件について礼を言っていた。
彼女はその事もコレムに話したうえで、改めて礼を述べたのだった。何せ、彼自身もフェイトを撃って気絶させる、という憎まれ役を買ってくれているのだ。
  コレムはリンディに、きっと娘さんは自分を恨んでいるでしょうな、と言う。

「そのような事はありませんよ。フェイトは、話せば分かる娘です。私からも説明しておきますよ」
「そうですか……。ですが、私からも……後に、謝罪するつもり……ですが、お伝え……ください。“すまなかった”、と」
「……わかりました。娘には、きちんとお伝えします」

そこまで話した時、リンディもここらで切り上げようとした。これ以上、怪我人であるコレムに無理を強いさせては如何としたためだ。
去り際にリンディは、コレムに対して早く回復出来ることを願う、と言葉をかけてから病室を後にした。
  そして、視点は再びフェイト達へと戻る。

「そんな……コレム大佐が!?」

案の定、と言うべきか。なのはとスバルが揃って、フェイトがコレムに撃たれと言う話に驚愕していたのだ。
はやて、シグナム、ヴィータ、クロノ達は、驚くこともソコソコに、ある考えを導き出している。その考えを最初に述べたのは、クロノであった。

「シャリオの話からすれば……恐らく、フェイト達を逃すためだろう」
「クロノ君……けど、逃がすためとはいえ、幾らなんでも撃つことはないんじゃ!」
「なのはちゃん、クロノ君の言う事はあながち間違ってはおらへんと思う。コレム大佐は、軽薄な考えで撃つ様な人とは思えへんのや」

  なのはは納得のいかなそうな表情を、はやてへと向ける。大の親友が撃たれたともなれば、平然とはしてはいられないのだろう。
だが、だからと言ってはやてが平然としている訳ではない。彼女とてフェイトの親友なのだ。かといって何も考えずに決めつける事こそ、納得はいかない。
はやての後ろに立つシグナム、ヴィータも同様だ。コレムの行動は強引ではあろうが、フェイトの責任感の強さからすれば致し方ない事ではないかと思う。……それに、だ。
なのは自身も言えた様な事ではない。彼女もまた、無茶をする後輩に過剰ともいえる行動を取った事があるのだ。その点をヴィータから指摘されると、ぐぅの声も出ないなのは。
  そこへ丁度入室して来たのは、先程コレムの見舞いに訪れていたリンディである。何やら騒がしい個室の様子を、彼女はその場にいた全員からくまなく聞き出す。

「……はやてさん達の考えている通り、コレム大佐の行動はフェイト達を逃すための処置よ」
「っ! でも、どうして……」
「この事に関しては、マルセフ提督らが出撃する前に戻る事になるわ」

リンディは、全員に打ち明けた。この航海訓練にて出発する二日程前、彼女はマルセフへと内密に話していたことがあった。
マルセフへ会う建前として、地球艦隊へ同行する局員達の随員決定報告、及び航海訓練の最終チェックである。
  その時、彼女はマルセフへ私的な事がらも頼みごとをしていたのだ。それが、フェイト以下六名の、危険時における身の安全の保証であった。
以前にも同じような事を言ってはいたのだが、この時を利用してさらに詳しい対処法を含めて願い出たのだ。
リンディにしても、責任感かつ生真面目なフェイトの性格も考慮したうえでの提案だ。退艦命令を出しても、恐らくは素直に従ってはくれないであろう。
  だから、その時にはやや強引にしても止むを得ない。マルセフもリンディの提案に応じて、コスモガンを使って気絶させるという方法を提案したが、これにも問題はあった。
本来、デバイスとは前述したように、主を守るようにプログラミングされている。これを何とかしない限り、コスモガンを使う前に防がれてしまい、ややこしくなるに違いない。
そこでリンディは、フェイトのデバイスに細工を施した。無論、デバイスのプログラムを弄繰り回すような真似をした訳ではない。技術師であるマリエル・アテンザに依頼したのだ。

(成程……それで、ウチらのデバイスを直前になってから、点検する言うたんか)
(やっぱり、義母さんの手回しだったんだ……)

  はやては、出発前日にマリエルからデバイスの急遽点検を言い渡されていたのを思い返した。この様な時でなければ、デバイスに細工をする様な真似は出来ないであろう。
この時にリンディは集めたデバイス達に、事の次第を説明した。主を守るためとはいえ、最初は納得しがたい様子ではあったが、やむなく承知するに至ったのである。
フェイトも母親の手回しだと分かると、相棒のバルディッシュを責め立てる訳にはいかないと悟る。寧ろ、反感を買う覚悟で行動したコレムにどういえば言いのか分からない。

「それとね、フェイト」
「?」
「コレム大佐から伝えたい事があるの。“すまなかった”……と」

  すまなかった……それは、自分の方こそ言うべき言葉ではないのか? 皆で脱出するべきだと、我を張っていた自分。それ故に憎まれ役を買ってまで行動を起こしたコレム。
言いようのない、複雑な感情が彼女の胸の中で渦巻く。ベッドごと少し上半身を起こしている状態で、思わず左手でシーツをギュッと握りしめていた。
それを見たリンディは義娘の心境を察して、皆にはフェイトを今しばらく休ませるように、と一時の退室を促した。なのはも退室するギリギリまで親友の身を案じていた。
フェイトはやや無理をしたような笑みを浮かべ、なのはを心配させまいとする。だが、その無理をした表情がなのはの頭から離れることは無かった。
  全員が退室した後、しんと静まり返った個室。廊下の気配が遠退いて行くのが分かると、彼女の中で溜りに溜まっていた何かが、ドッとダムが決壊するかのように溢れ出た。
〈シヴァ〉での自らの浅慮、組織戦となった今回の事件でハッキリとした魔導師としての限界。今迄の自ら世界を引っ張ってこれた自分と、現実の苛酷さからくる力への渇望。
抑えきれない気持ちが、自然と流れ出す涙と共に混ざりだす。寝かしていた身体を横にし、顔を枕へと押しつける。心情が混ざる涙が、押し付けられている枕へと染み込んでいく。

「ぅ……ぐすっ……」

これからの自分を始める……のは明日から。でも今……今だけは! 最初は嗚咽だけだったが、決意を示したと同時にはそれが号泣へと変わり果てていた。
ポロポロと流れ続ける涙を拭う事も無く、ひたすら泣き続け、枕にその跡を残していく。独りとなった個室に、フェイトの悔し涙と声が空しく響いていった……。





「ここまで損傷して、よく無事に帰って来れたな……」
「感心してもいられませんよ。ここまでやられていては、戦線に復帰するのは難しいです」

  フロア越しで地球艦隊を眺めやっていたのは、先日に次元転移装置の設置指示を行っていたマキリア・フォード一尉だ。そして補佐官のリリー・ネリス三尉である。
艦船系の技術者として、地球艦隊へ大いなる興味を持っていた彼は、帰還して来た地球艦の耐久精度の強さに感嘆としていた。が、副官はそうも言っていられないと告げていた。
確かに大した強度だ。普通ならば廃艦に決定されるぐらいの損傷度ではあるのだが、何と機関部は今だに動くことが可能なのだと言う。修理さえ完了すれば戦える筈なのだが……。
 ネリスの言う通り、地球艦の損傷具合が酷すぎれば戦線への復帰は夢に終わる可能性もあったのだ。特に、管理局の有する建造技術では、どこまで修復出来るか分からない。
装甲板に関しては、以前の様にして似通った性質のものを調達する事になるであろう。強度にはさらなる不安を残す結果となるのは、目に見えている。それだけではないのだ。
兵器類の修復の他、レーダー等の機器類の修復あるいは交換もせねばならない。こういった機器類は、管理局では生産する事が不可能かもしれないのだ。
全く造れない訳ではないであろうが、如何せん、総合的な技術力は地球連邦及び防衛軍の方が上である。
  管理局の機器類では不具合を起こす可能性があるばかりか、下手をすれば外見だけのハリボテ、というのも否定できない。
が、幸いにして〈シヴァ〉〈ミカサ〉の艦内工場で補う事は可能であるらしかった。とはいうものの、この二艦だけで全てをこなせる訳ではない。
そんな事をすれば、完全修復までに二ヶ月以上は掛かるに違いない。

「地球艦用の部品があれば良いんだが……。到底、無理な話ではあるがな」

  管理局の艦船製造ラインは勿論の事、次元航行艦専用で造られている。部品の製造も同様だ。どれもこれもが次元航行艦使用のスペックとして製造されているのだから、それを急に地球艦用のスペックに合わせろ、というのは土台無理な話である。
特に砲塔といった兵器類は無理があった。管理局で製造されている魔導砲は、使用エネルギーからして根本的に違う。質量兵器を利用する兵器を製造する事など簡単ではない。
先日の修理作業の時は、地球艦隊が独自に応急修理を施していた事もあって、製造ラインをスムーズに動かす事が出来ていた。今回はその様な応急処置は施されていないのだ。

「何を言っているんですか? ロウラン提督が事前に処置して頂いているお蔭で、一応のストックはありますよ」
「まぁね。けど、製造ラインの中心は次元航行艦だ。地球艦用のパーツ、装甲の製造は決して多くは無いし、この状況では直ぐに枯渇する」

  幸いにして、レティの先を見据えた予測により、地球艦用のパーツを製造させるような指示は行き届いてはいた。だが、フォードの言うように、数多くのストックがあった訳ではなく、大破した〈イェロギオフ・アヴェロフ〉と〈ヘルゴラント〉を修復するだけでも、相当な装甲板や各部パーツを消費する筈だ。
このままでは、完全修復は不可能なばかりか、戦闘能力も無いままにSUSの襲撃を受けるかもしれない。そうなってしまう前に、何としても真面な戦闘力を与えねばならない!

「問題は……やはり、兵装関連だな」
「はい。我々の技術では、地球製の砲塔を製造する事は出来ません。最低限、砲身や外郭のみの砲塔となるかもしれませんね」
「我々が外郭だけを製造し、中身の計器類は地球艦隊に任せる……か」

ネリスの言うような、外見は管理局製、中身は地球製、という混ざり合った事になる。地球側も小さな工場で装甲板等を製造しているとはいえ、賄うには力不足だ。
砲塔を新たに製造するよりも、なるべく現存している物を改修するしかないだろう。砲身が使えないのであれば、砲身だけを取り換えれば済むであろうが……。
問題が山積みのドック内部であるものの、彼らだけが大変な状況にある訳ではない。上層部の者達もまた、この事態に対してより頭を悩ましつつあったのである。
  


〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
暑い日が続きますが、今週もまた台風が近づくとか……全く持って大変であります。
さて、今回は主に管理局視点で話が進みましたが……どうもグダグダになってしまった感がありますね(毎度のことですがw)
時折話をどう進めればよいのか分からなくなってしまうので、困ったものですね(←オイ)
それでは、一週間後にはまた更新できるようにしたいと思いますので、お待ちください!

〜拍手リンク〜
[五一]投稿日:二〇一一年〇七月一〇日一七:三〇:三六 EF一二 一
SUSの脱落で、アマール、エトス、フリーデ、ベルデルは対等の同盟・連合関係構\築の可能\性が出てきましたね。
対ガルマン・ガミラスは地球というツテで対立関係を免れる可能\性がありますが、ボラー連邦とは無理そうですしね。
ガルマン・ガミラスにしても、なるべくボラー一本で戦う方がいいでしょうから、この四ヶ国の同盟は後々意味をなすかも知れません。
とはいえ、管理世界をSUSに制圧されれば、また侵攻してくるでしょうから、早く増援を差し向けたいところ。
なかなか難しい局面ですね。
古代とジャルクが直接打ち合わせるということは、古代もトレーダーに乗り込むのでしょうか?
ただ、総指揮は山南さん達がいますから、やはり前線指揮でしょうね。

>>感想の書き込み、ありがとうございます!
元大ウルップ連合らで、再度の同盟関係を築ければ良いのですが……この先どうなる事やら。
次元空間への派遣組は、詳しい所は決まってはおりませんw
それでもまぁ、水谷と古代は入ると思われますが……。

[五二]投稿日:二〇一一年〇七月一〇日二一:三〇:五八 山口多聞
 本日初めて設定画を見ました。イメージが膨らんで良かったです。
 ただし、艦隊のマークがどうしても銀英伝の同盟艦隊と被ります。円形で数字が入っているのが・・・
 第4艦隊てスゴイ縁起が・・・ゴメンナサイ。

>>書き込みありがとうございます!
イメージが膨らんだ、とのことですが、私の汚い絵で想像が出来て大変嬉しい限りです。
それと、ロゴマークに関しては……はい、銀河英雄伝説の物を参考にしております(汗)。

[五三]投稿日:二〇一一年〇七月一一日一二:一八:一二 グレートヤマト
管理局サイドに銀英伝のヤンやラインハルトみたいな人が居てほしい。
もし居れば、SUSとの戦力差がなくなると思うのだが……。

>>書き込みありがとうございます!
そうですねぇ〜、そのお二人の様な指揮官がいても可笑しくは無いと思いますが、如何せん、艦船技術が……(汗)。

[五四]投稿日:二〇一一年〇七月一一日一八:四二:三二
いつも楽しく拝見させて頂いております。いよいよ各国が動きだしましたね(もうこれは第1次次元間大戦・・・・・大げさかな)。
それと、これはあくまでも一読者の小さな要望として聞いて頂きたいのですが・・・どうかヤマトの出撃を!!! やはりファンとしてはあの不沈戦艦に驚愕する管理局がみたいです! あ、本当にあくまで個人要望ですので。

>>感想の書き込み、ありがとうございます!
いつも読んで下さるとのことで、私も大変うれしく思います。
さて、個人的な要望とのことですが……これは私自身も相当に迷うところですw
活躍はする予定でおりますが、表立って、ではないかもしれません。



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