地球艦隊が帰還してから、凡そ三週間が経過していた。艦隊は修理に余念がなく、兵士達は傷を癒すなり、訓練に励むなりして、決戦に備えている。
それは防衛軍に限った話ではない。時空管理局(A・B)も、今や防衛軍の熱に当てられて艦隊指揮における訓練を絶やさなかった。
また、先日の会議で検討された、他拠点の戦力引き抜きも順調に進んでいた。足の速い防衛軍の駆逐艦を借りた管理局は、命令文書を送ったのである。
  送られた側としては、戦力の減少による不安が大きかったが、何分反論する時間もなく、状況が切迫している事から、やむなく戦力の抽出を行った。
残る五個拠点から、八〇隻づつを抽出されたことで、本局に集まった次元航行艦は四〇〇隻。本局と防衛軍を合計すると五二六隻に昇る。
これで予定通りにエトスらが合流するれば、SUSと肩を並べられる筈だ。後は戦力としての質を向上させるだけであった。

「まただ……」
『そう落ち込むことはない。以前よりは、大分しっかりとしておるぞ。十分とは言い難いが……その成長ぶりは見るべきところもある』

  クロノは、局員の中でもとりわけ熱心に、地球防衛軍(E・D・F)式シミュレーションを、長時間にわたって使い続けている。
だが今回違うのは、使用しているのはクロノだけではなく、通信機を通してもう一人がいたことだ。それが地球防衛軍の将官たる東郷 龍一であった。
何故、東郷がクロノとのシミュレーションによる訓練を行っているか。クロノは本格的な訓練が必要と思っていたが、まさか艦隊を再び実戦形式で出動させる訳にいかない。
以前の戦闘の傷が、完全に癒えている状態でもない。ましてや、SUSとの遭遇という事態が、管理局上層部の判断を鈍らせてもいた。これでは艦隊の訓練など不可能だ。
  悩ましげなクロノであったが、致し方なくという形でシミュレーションを使った対有人戦を行う事にした。それは義妹(フェイト)と対戦を行った事と何ら変わりはない。
それでも艦隊を預かる身の者同士ということで、幾らかは良い展開へ持って行けた。が、それでもやはり、初めて艦隊戦を経験する者同士だ。
完璧とは程遠い結果にならざるえない。もっと実践的に、あるいは実戦経験を積んだ相手との訓練を展開する他ないのでは?
  そこまで思った時に、たまたま居合わせたフェイトから意外な事を聞いた。

「私はマルセフ提督に、指導してもらってるよ」

クロノはそれを聞いて愕然とした。まさか彼女が、マルセフの指導の下でシュミレーションを行っていたとは! しかし、何故だろか。
シミュレーション施設内部で、一度も彼の姿を目撃したことは無いのだ。時間帯が違うためか? それも考えたのだが、どうやら直接にここへ赴いていた訳ではないらしい。
管理局側のシミュレーション・ルームと、〈シヴァ〉に備えられているシミュレーション・ルームを回線で繋いだ状態で訓練を行っていたらしい。
成程、それならばマルセフが人目に付く筈もない。それに、彼自身が態々管理局のシミュレーション施設まで赴く必要性もないのだ。
  だが、この事は内密にされているらしい。東郷の指導を知っているのは、彼の母であるリンディ、そしてレティやレーニッツくらいのもの。
フェイトは執務官とはいえ、以前の様な事にならぬためにもと、意気込んで今度はマルセフへ申し入れたらしいのだ。
申し込まれた側のマルセフも最初は唖然としたらしいが、フェイトの真剣な眼差しと、心意気に打たれて許可をだしたのだ。条件として、通信内の対戦で、という形である。
クロノはこの手を使わずにはいられないと即座に思った。フェイトに倣って、自分も防衛軍の人間とシュミレーションの訓練を行わなければ!
  と思うののの、それは容易ではない。これでまたマルセフへ御申入れては、彼自身も多忙な事は間違いない。では、誰を頼るべきかなのか。
そこで思いついたのが、実際に艦隊訓練で世話になった東郷であった。彼に申し入れてみよう。クロノはまず母であるリンディに相談を持ちかけて許可を貰ったうえで、東郷へと連絡を入れた。
  果たして、受け入れてくれるかと心配したのだが……。

「その意気込みやよし、大いに気に入った! 時間は限られているが、みっちりと指導をしよう!!」

大賛成もいい感じで東郷は、クロノの申し入れを受け入れたのだ。東郷は先日のクロノの、訓練に対する意気込みに強く目を引いていた。
この者なら変われる可能性は大いにある、と確信している。東郷自身はやる事がない、という訳ではないが、危機的な現状況で少しでも変わってもらうためにも、この意欲盛んな青年提督の指導に入ったのだ。
  クロノは、東郷の許可に礼を言いつつも、早速とシュミレーション訓練にはいった。それからというもの、二時間ほどの時間を利用して二人はシミュレーションに没頭した。
毎回、やるごとにクロノは東郷からの指摘を受けた。突撃に対する反応が未だに鈍い、突発的な対当がおろそかだ、攻撃はもっと集中的に、等と数知れない指摘数を誇った。
それでもクロノは絶対に折れない。寧ろ、ここで折れてどうするのだ! と、先日に会いに来た(エイミィ)から受けた言葉を思い返して、必死になって訓練を受けたのだ。
このクロノの猛訓練の様子は、瞬く間に管理局内部(特に〈海〉の者達には)へ広まり、提督達もまた、彼の意気込みの熱に充てられてシミュレーションに没頭し始めていた。
  ただし、クロノの対戦相手が東郷である、という事までは把握されていなかった。そうと知られれば、管理局提督が、防衛軍の提督や艦長へ申し込んだに違いないからだ。
だが、むしろその方が良いかもしれない。そう思ったのはリンディである。艦隊戦を経験している相手にこそ、局員提督は指導を仰いでもらうべきではないだろうか?
残念ながら今の情勢がゴタゴタしているために、その考えの実現化はやや難しい。マルセフにしても、東郷にしても、訓練を相手してくれるのは彼らなりの考えがあってだろう。

「クロノも相当、頑張っているわね」
「そうですね。これはウチも、考えなあかんわ……」

  執務室にてクロノ、フェイトらの頑張りを表していていたのはリンディ本人であった。そして、同席しているはやてもまた、親友らの様子に感心しつつも、見習わねばと思う。
だが何にもしていない訳ではなかった。彼女なりにも、指揮官としてのレクチャーを受けていた。師として仰いでいたのは、先日のカリムの会見にて顔を合わせた目方である。
目方は役職上、東郷の副官として(〈ミカサ〉の副長でもあるが)務めているが、何も艦隊戦や戦闘艦の指揮がまるっきり出来ない、などという事は完全な思い込みであろう。
彼女は防衛軍学校の中でも士官コースを通っていた程で、艦隊戦や艦艇の指揮も一応のレクチャーを受けている。
  が、直ぐにそれが実戦で発揮される事はないが、東郷の補佐を全面に行い、戦闘時に多忙な東郷の傍らで活躍していたのだ。
本来であれば、マルセフにでも願い出るつもりであったろうが、フェイトに先を越されたという事とも相まって、仲を深めたばかりの目方に頼み込んでみたのである。

「はやてさんも、相当に教え込まれているのではないの?」
「えぇ。まだ始めですが、目方中佐には少しずつ教わってます。艦船の指揮とかしたことはありませんけど、基礎を分かりやすく受けてはります」

恐らく、こんな事してるのは自分らだけでしょうね、とはやては付け加えた。確かに、彼女らの訓練指導は逸脱している。他の局員でも、これは中々にないだろう。
  そこまで話した時、はやては時計を眺めやる。リンディも勤務時間に戻る頃だとして、はやてはそろそろお暇します、と言い休憩室から退室していった。
リンディは常に統括官としての作業室にて、様々な作業に追われている。本局自体の対応も、この部屋で執られたりもしており、キンガーが不在な時などは臨時に指揮を執る。
退室していくはやてを見送ると、リンディは残る資料の眼通しや、決裁書の決定等の作業へと戻った。が、この日、今までにない以上の緊張が走り廻るとは想像だに出来なかった。





  地球艦隊の救援艦隊が正式に決定し、必要な艦艇の他にも人員や食料、資材等の物資を満載された〈トレーダー〉。土星衛星イオに、その身を隠していた。
本来なら、この〈トレーダー〉の指令室で総指揮を執る形となっていた古代であったが、何故か彼は自分の乗艦である〈ヤマト〉艦橋にいた。
艦隊司令官としても役目を受けている古代にとって、やはり前線へ直ぐに動けた方が都合が良かった。が、それでもな後方指揮を執らねばならない。
  そこで思い浮かべた事……。〈ヤマト〉をドック内部で係留状態にしておきつつ、古代は〈ヤマト〉艦橋を司令部として運用する事に決めたのである。
ここで〈トレーダー〉または艦隊へと司令が伝わる事になる。無茶な気もするが、案外、戦艦の司令部を基地司令部として併用運用する例が全くなかった訳ではない。
地球ではなくガルマン・ガミラス帝国にその前例が存在している。かつて太陽系を破滅に導いたガルマン軍人、第一八機甲師団司令のダゴンだ。
  彼は自分の乗艦を、艦隊司令部としてだけではなく、前線基地司令部としても機能させていたのである。
古代はその運用例を知っていた訳ではないが、取り敢えずはこの方が動きやすいと見ていたようだ。

「第一から第四波動エンジン起動スタート」

遂に来るべき時は来た。古代は〈トレーダー〉の全機能を覚醒させ臨時に設けられた指令室から命令を下す。
まさかコイツがこんな使われ方をするとは、沖田艦長も思わなかっただろうな。思わず苦笑が漏れる。

「全補助エンジン動力伝達、メイン波動エンジン、フライホイール稼働を確認」
「シールドシステム問題なし。タイタン基地より入電『〈ゲートブレイカー〉各艦木星軌道方向へ移動を開始』」

  全ての準備が整ったことを確認すると古代は決断を下した。

「〈トレーダー〉離床、第一特務艦隊出撃する!」

木星の衛星であるイオは元々、太陽系でも有数の火山活動の激しい星である。数え切れない噴火口が吐き出す火山ガスは、星を取り巻いて地表を隠すだけに留まらず、猛烈な勢いで木星本体に流れ込みオーロラを作り出すほどだ。
議員を慌てさせるため態々こんなところに隠れていたのだがもうその必要はない。

(あのやかましい議員達も、これでは手はだせんだろうが……山南長官や、水谷総司令、真田さんらには、彼らの非難を受け止めて頂くしかない)

内心では、出発前に何かと口を挟んできた地球連邦の硬派議員を蹴りつける一方、この様な手段で目くらまされた議員の反発を受けるであろう、上司や先輩に申し訳なく思う。
  しかし、そうでもしなければ出発はさらに先送りされるであろう。だからこそ、衛星イオに隠れてやり過ごすなどという手段に出たのだから……。

(……美雪)

再び地球へと置いていくことになった娘を思いやる。だが仕方がない。さすがに娘を危険な戦場へと同行させるのは、親としても賛同など到底出来ないことである。
出かける間際に、抱きしめた娘のぬくもりを、彼は今も覚えている。これで自分までもが死んでしまったら、娘は心に大きな傷を負ってしまうだろう。それに約束したのだ。
生きて必ず妻の雪を探し出すと。それを守らぬうちに死ぬことなど、毛頭なかった。彼は意地でも今回の戦いを終結させ、味方を救いだし、妻を見つけ出したかった。

『こちら〈トレーダー〉艦橋。波動エンジンに異常を認めず。正常に稼働中!』

  波動エンジンから出るタキオンバーストが、イオの地表と大気を蹴りつけ二五〇〇メートルの巨体を宇宙に向かって押し上げていく。
後方に吹きつけられたエネルギーは金属ガスと反応してプラズマ化し万色の虹で星を埋め尽くす。
やがて分厚いガス雲海から艦首が指令室がそして艦体そのものが姿を現す。まわりの大気は今にも沸騰しそうな勢いで掻き混ぜられ光の嵐を宇宙に散らす。

「イオ脱出速度到達! 木星軌道より太陽系極点方向へ移動開始」
「〈ゲートブレイカー〉各艦も脱出速度に到達! 先行します」

  遂に〈トレーダー〉の艦尾が大気から離れ最後に蹴りつけたエネルギーがプラズマ化した大気に大爆発を起こす。爆発でイオから放り出された金属ガスは宇宙空間の極低温で瞬時に結晶と化し無数万色の宝石がばら撒かれる様に散っていく。
幻想的な風景を作り出しながらもなお、〈トレーダー〉は加速を止めない。ガニメデ基地から出撃したゲートブレイカー各艦を追いかけ突進を継続する。
  やがて前方に8隻の宇宙戦艦〈ゲートブレイカー〉が見えてくる。見慣れたものにとってはこの戦艦に違和感を覚える者も多いだろう。
全てが一世代前の旧式艦、それも全ての武装が取り払われ艦首にはあの旧〈ヤマト〉を自爆させたボルトヘッド・プライマーが取り付けられているのだ。
なお艦橋すらかつての無人戦艦のものに付け替えられアンテナの山になっている。いったい何をするつもりなのか? 本来〈トレーダー〉は〈アムルタート〉の転移装置を使い次元航行空間へ転移する予定だったのだが、ここでとんでもない問題が発生したのだ。
  〈トレーダー〉が大きすぎるのである。〈アムルタート〉の転移装置では精々〈ブルーノア〉級戦闘空母一隻分の大きさしか転移できない!
そこで真田長官は賭けに出た。〈シヴァ〉が転移した状況を再現しようと考えたのだ。エネルギー的には十分余力があり転移座標計算なら〈アムルタート〉に任せられる。
八隻の戦艦がチャージする波動エネルギーを力場とし空間に穴を開ける。地球防衛軍始まって以来の破天荒な挑戦に誰もが呆れたが中央コンピューターは可能との結論を下したのだ。
  しかし、第二段の策を考えてたのは、さすが真田長官と言うべきか……。そして〈トレーダー〉が〈ゲートブレーカー〉の後方につく。
〈ゲートブレイカー〉各艦は間隔を広げ丁度〈トレーダー〉の前に円陣を形作る。

『〈ゲートブレイカー〉波動エンジン、オーバーロード開始』
『〈アムルタート〉、〈ゲートブレイカー〉に同調! 転移門展開開始』
「了解。スティール、頼むよ」
「はい」

〈トレーダー〉内部に設けられた、〈アムルタート〉の区画。そこで、ジャルクとスティールは次元転移するための操作を、手慣れた様子でコンピュータに入力する。
手慣れた操作とは言っても、これから行う事については初めてだ。この転移行為がどんな影響を及ぼすのかという事など、想像に出来ない。
  特務艦隊旗艦〈ヤマト〉艦橋のメイン・スクリーン上には、八隻の〈ゲートブレイカー〉からエネルギー・ビームが飛び出し八芒の星を描く様が映されている。
そして同時に様々な文字が宇宙空間に展開されていく。それは魔方陣……ミッドチルダ世界で使われる転移魔方陣そのものだ。二つの世界の者全てがこれを見て感嘆の声をあげぬ者はいないだろう。質量文明と魔法文明、“異種異根”の技術が融合した瞬間である。
  〈トレーダー〉の前に次元航行空間が顔を覗かせる。しかし……僅かに小さい! これでは〈トレーダー〉は潜りぬけれないのだ。

「構わん。上条、撃て!」
「はい!」

〈ヤマト〉で若いながらも戦闘班長を務める上条がトリガーを引く。〈トレーダー〉前部に臨時で艦体ごと据えつけられた波動砲が咆哮を上げる。
そう……門が予想より小さい可能性はありえると真田長官は考えたのだ。ならばこじ開けてしまえ! なんとも乱暴な手段だがこれは図に当たった。
波動砲が次元航行空間に叩きつけられ文字通り空間を“こじ開けていく”のだ。

「いまだ! エンジン出力全開、ゲート突入!!」

彗星の如く〈トレーダー〉が未知の空間に向けて門を通り抜ける。直後、負荷に耐えかねた〈ゲートブレイカー〉は次々と波動エンジンを爆発させ門の展開を強制的に終わらせる。
  地球防衛軍本部、司令部にいる面々は、その一部始終を眺めやっていた。

「……〈トレーダー〉、転移に成功した模様!」
「続いて、〈ゲートブレイカー〉一番〜八番、耐久度を超えて爆沈しました!!」

オペレーターの報告とメイン・スクリーンからの一部始終を、司令部にいた山南、水谷、そして次元転移の別方法を提示した真田、他数名の幕僚が眺めやっていた。
やっと、彼らは次元空間へと転移する事が出来たのだ。

「遂にやりましたな、真田局長」
「ハイ。ですが山南長官、問題はこれからです」
「そうですな。古代提督が無事に、友軍を率いて戻って来てくれるか……。恐らく、SUSは見逃さないでしょう。我が軍が戦力を割いたのを見計らっているかもしれません」

  そう呟くのは艦隊総司令官である水谷だ。彼としても、異次元の友軍を古代に任せつつも、自分自身は太陽系の防備体制を強化しておかねばならない。
そして容易な事ではない。現状では太陽系のみならず、他星系の防備体制など内も同然なのだ。防ぐにしても、全ての戦力を引き抜いて一か所に集める必要がある。
さもなくば、地球は直ぐに敗北する。真田もその事は十分に承知していた。だが、今の防衛軍では、必要な分だけの戦闘艦などない。
  既に建造を始めてはいるものの、有人艦では時間がかかりすぎるのだ。

「無理は承知ですが、無人艦隊の配備を急がせています」
「無人艦か……。それは仕方あるまい。先年のデザリアム戦役で不備があったが、それも幾らかは改良出来てはいるのだろう、真田局長?」

防衛軍にとって、無人艦隊というのは良い結果を残してくれたためしはない。あくまで無人艦というのは、人員不足が深刻な防衛軍の補佐的な役目を持って就役したに過ぎない。
その結果が、デザリアム戦役で露呈したのだ。だが、無人化を嫌う真田も、人員の不足というのは解消するに甚だ困難であることを知っており、それだけに苦い思いをしていた。
  いつかこんな日が来るとは思いたくもなかった……。そう思い返しつつ、彼は自らが指示・設計した戦闘艦を説明した。
戦力不足に陥った時、まったく別の艦を建造して増やすわけにはいかず、せめて同じ規格設計のもとで無人化した方が安上がりだと判断した。
その方が後の修理などでフレーム等の交換がし易いためだ。〈ドレッドノート〉級戦艦、〈最上〉級巡洋艦、〈フレッチャー〉級駆逐艦を、無人艦の基として造られる戦闘艦。
艦橋の代わりにレーダーや通信機能を詰め込んだ大型アンテナを、艦体上下に付けただけで、あまり外見は変わらない。
  だが、これで補充は容易な筈であり、各艦艇に備え付けられるAIも、以前よりも段違いに良いものを組み込んでいる。
一応、数少ない有人艦が旗艦となって、艦隊を構成する計画となっているのだが、果たして、これからどれ程までに回復出来るのであろうか。
植民惑星や辺境ではこの何度目かわからない戦力不足を補おうと、人知れず眠っていた旧式艦艇を幾つも再就役させているらしく、防衛軍も切羽詰った様子が見受けられていた。
  誰しもが異常事態が起きない事を願っていたのだが、残念ながら彼らの希望は直ぐに打ち砕かれる事となるのである。
そして山南は渋い表情のまま、消え去った〈トレーダー〉を思いつめるのだが、彼らは知らない。
先のとんでもない挑戦が何をもたらしたのかを……。それは管理局のみならずSUSすら震撼させる事態を引き起こしたのだ。





「座標DK401‐95-K3に次元振動を確認! こ……これは……効果強度SSWレベルです!!」
「なんですって!?」

  リンディを始めとして、課員全てが恐慌状態になる。効果強度SSW……一五〇年前の悪夢であり管理局設立の原因にもなった『大破局』。
幾つもの世界が次元断層に消えて最後のベルカ世界すら崩壊し、今なお管理世界全体を恐怖で満たす事件が彼女の頭を過ぎる。
SUSの侵略、次元航行部隊の敗北、さらには次元断層……最悪の事態を悟りながらも、彼女は臨時の司令として自らの職務を遂行しようとする。

「全局員、地球艦隊総員に連絡! 耐衝撃、対空間防御を発令! 急いで!!」
「りょ、了解!!」

もはや自らの能力「艦船用魔力炉に同調した次元強制安定化」など無意味に等しい規模だ。無駄とは思いつつも同調を開始する。
  そして……“ズウゥゥン”という本局を揺るがすほどの衝撃が次元空間を駆け抜ける。それは予想していたものとは全く違う事態だった。
報告と実際のギャップに対して、絶望に追いやられた局員達はこぞって頭を傾げた。

「……どういうこと?」

その中の一人であるリンディは訝る。なぜ生きている? SSWなら巨大な本局といえども木っ端微塵のはず。今の威力は精々ティーカップの中身を揺らす程度?
生真面目に先の言葉を意訳した管理局員がデータを検索すると、今度は意外ともいえる報告が入った。

「て……訂正します。効果強度BU以下。しかし効果は極めて広範囲で管理局既知次元界を遙かに超え、広がっていく模様!」

嘘! の声が彼女から出かかる。今まで次元震については長年研究を続けられている事柄それが一切通用しないコレはなんなの?
表面上平静を装いデータの収集を課員に命じながら彼女は不安に苛まれていた。
  一方〈ケラベローズ〉、そして各戦隊の旗艦では、彼らの主とつき従う将官たちが一様に唖然と怒りに震えていた。
次元空間に詳しい彼らのこと、地球防衛軍のやったことを正確に把握していたのだ。緊急に開かれた会議用相互ディスプレイでは、あの狂人共め!
とベルガー大将が放った一声が全体の空気を指し示していたといえよう。〈アムルタート〉一艦では大した転移量は無い。
だからこそ司令部は地球艦隊がエレベーターのように一艦ずつ順に転移させると考えそれを各個撃破する計画だったのだ。
  しかし、現実は彼らの思考の斜め上を滑った。要塞に艦隊丸ごと乗せたうえ、無理矢理エンジンを暴走させた戦艦を使って門を開削、挙句に超兵器でこじ開けるという暴挙。
次元震が発生して当然である。簡単に言うならば泥棒が家屋に忍び込むのに合鍵を使わずブルドーザーで玄関に突撃するようなもの。
下手をすれば家屋倒壊と言う名の次元断層によって地球艦隊はもとより管理局もSUSも粉々になりかねない。
  これに対してザイエン技術官が呆れ果てたという表情で、首を振りながら発言する。

「閣下……小官は地球艦隊に連絡を入れたいと愚考するのですが? 援軍を出すのは構わないが、もっと穏便に出来ないものかと……」
「出来るわけがなかろう」

出来るのであればとっくにやっておるわ! と憤懣やるしかたがない表情で答える。何よりもその原因は次元震だけではない。その次元震による再度の侵攻計画の見直しだ。
やっと行動に移せるとした、まさに矢先の出来事だった。何故だ、何故こうも地球という存在は、自分らSUSの計画を狂わせていくのか……。
  ベルガーは、今すぐにでもこの苛立たしい気持ちを解消すべく、ハイパーニュートロンビーム砲を全門をもってして管理局本局へ撃ち込んでやりたい!
そんな心境であった。通信機越しで顔を合わせる指揮官の中で、乱暴な口そぶりで発言する者がいた。

『もはや一刻の猶予もなし! 管理局の前に増援艦隊を叩かねば後顧の憂いになるのではないか!?』

元大ウルップ星間国家連合、フリーデ艦隊司令のゴルック中将である。一応の通信機による会議に顔を出すように言われていただけに、彼は一段と強く攻勢を主張した。
  だがこれは半ば演技であり、自分らには地球艦隊攻撃の意思は十分にあると思わせるためでもあったが、ディゲルはそれ知ってか知らずかゴルックの意見を貶して否定した。

『馬鹿か? 貴様』
『なんだと!?』

ディゲルの言葉にいきり立つゴルックだが、彼はディゲルの眼で制される。SUS人特有のギラリとした目線が、余計に威圧感を醸し出していた。

『現在増援の要塞は次元震の中央にいるのだ。言わばそこは大嵐の目。そこに我らの艦隊が向っても、嵐であおられ満足な陣形も取れずして、奴らの超兵器の的になるだけのこと。一方、管理局の艦隊は損害を受け地球艦隊も以前の戦闘で満足に動けぬはず。ここは当初予定通りに管理局を潰し、慌てて大嵐から出てくる増援部隊を迎え撃つのが至当だ』
「ふむ……」

指揮官達に向けて説明を行ったディゲルの意見に、ベルガーは頷く。予定が遅れてはいるが、このまま長引かせる訳にもいかない。それに、いまの時期を逃せばまた面倒だ。
ここは強行して行動を実行に移し、速やかに管理局本局を撃滅するべきであろう。そして、ディゲルの言うとおりに反転して増援艦隊へ逆撃を加えてやれば良いのだ。
  そこまで考えたとき、ベルガーは侵攻艦隊の全軍へ向けて言い放った。

「作戦決行時期は遅れたが、艦隊は当初予定通りに行動となす! よいか、管理局と地球人共どもを、一人として生かしておくな。地獄の底へ叩き込んでやるのだ!! 」

咽太い声とその体格も相まって、その命令には迫力があった。この命令に刺激され、幾人かのSUS司令官達および兵士たちのモチベーションが上がり、歓声も湧き上がる。
時は来たのだ。今また計画を狂わされたであろうが、それがどうしたというのだ? このまま驀進して管理局を殲滅せしめれば良い。
  SUS軍、そして三ヶ国連合の艦隊が、一斉に〈ケラベローズ〉要塞より発進していく。総勢一六二〇隻を数えた。
ただし、この中の一二隻は〈ガズナ〉級、そして残る二隻は新造された空間歪曲波発生装置搭載艦だ。
エトスを始めとする三ヶ国艦隊は、空間歪曲波発生装置の装置は知っていたが、この〈ガズナ〉級が動員されている事を知らされてはいない。
それもそうだろう。あくまで〈ガズナ〉はSUSの隠し玉的な存在である。そして、三ヶ国艦隊の反逆に先手を打つための布石でもあった。

「司令、狙撃部隊は予定通りに出港いたしました」
「よろしい。連中には知られないよう、ひっそりと続かせろ」

  三度目の出撃となる新鋭艦〈ムルーク〉は、SUS艦隊の兵士たちを鼓舞するのに十分な存在だった。後にこれが複数就役するとなれば、SUSは正に無敵艦隊を誇れるのだ。
その前に管理局を殲滅しければならないだろうが、もう一つ良い知らせがあった。それは就役に間に合わないとされた、〈ノア〉級長超大型戦闘艦の就役報告だ。
作戦時期が延期されたこともあって、〈ノア〉級は間もなく稼働が完全となるなるらしい。次世代型として造られた本級の戦闘能力は〈ムルーク〉を大きく凌駕しているという。
これならば、さらに作戦期間を短縮できるに違いない。ただし、本局攻略に間に合わないのは残念であるが……。

(まぁよい。本局などこの戦力で十分、エトスの連中共々捻り潰してくれる。そして……)

単なる本局総攻撃ではない。この計画にはもう一つの目標が掲げられていた。これを知ったら、本局連中だけではない、管理局全体はどう思うかな? と彼は思うのであった。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
ここの所、休み期間内でバイトの仕事が忙しくなりまして連載のスピードが遅くなると思われます。ですので、投稿ペースが一週間以上となる可能性もありますので、ご了承ください。
さて、今回でやっと総攻撃の前準備が整いました。後は、ドンパチをやってくれればw
とは言いつつも、そろそろ外伝編的なものも書いておきたいと思いつつ、本編へ集中しておきたいと考えている自分w
それと、〈ブルーノア〉に関してのアドバイスをして頂いた方、本当にありがとうございました!
言われないと気が付かなかったかもしれないです(汗)まさかの六連装波動エンジン二基(三基の可能性もあり)搭載とはびっくりであります。
これは今後の扱いが非常に変わる可能性が大きいかとw
では、ここまでにして失礼させて頂きます。

〜拍手リンク〜
[六三]投稿日:二〇一一年〇八月〇八日〇:五五:一〇 ネウロ
はじめまして、前々から読ませてもらっています。
とてもおもしろい作品で、更新を心待ちにしています。
一つ設定を見てて思ったのですが、ブルーノア級の波動エンジンはヤマトに搭載されている6連波動エンジンが3基搭載されているようです。
宇宙戦艦ヤマト OFFICIAL FACT FILE の78か79号あたりに書いてあったと思います。
ぜひ、ご参考までにお願いいたします

>>ネウロさん、感想書き込みありがとうございます!
面白い、とのご感想をいただけて恐縮です。三流の執筆な私の文章でそこまで読んで頂けてうれしい限りです。
さて、ご指摘ただいた〈ブルーノア〉の件、ありがとうございました!
私も週刊ヤマトは購入してはいたのですが、理由あって眼を通せていませんでした(汗)
では、今後もよろしくお願いいたします!

[六四]投稿日:二〇一一年〇八月〇八日八:二四:五一 試製橘花
とうとう地球からの派遣が始まりますか。SUSの攻撃で数を減らされそうですが3カ国の艦隊も味方になりそうですし、下手な次元航行艦よりも頼りになる戦力ですね。
確かにシミュレータの存在は有難いかもしれませんね。六課が使用していた空間シミュレータは魔導師の戦闘技術の向上には大きく寄与しますが、管理局の次元航行部隊には艦隊戦の例などありませんでしたからね...当然、そのための本格的な訓練設備も無いわけですから。
ある意味、管理局にとって技術供与による次元航行艦の戦闘能力の向上よりも大きな変革となりうるかもしれませんね。

>>どうも、今回も感想を書き込んでくださりありがとうございます!
三か国連合もタイミングを見計らっておかないと、大変な目に遭いますからね、ガーウィックも必死でしょう。
シュミレーターという存在が、本局にあったのでしょうが、艦隊専用はなかったのだと、推測します。
もっとも、シュミレーターの描写を思いついたのは、私ではないのですがw

[六五]投稿日:二〇一一年〇八月〇八日一一:八:七 ヤマシロ
別のヤマト×リリカル作品からこちらの作品を知り、とんできました。
ついに地球防衛軍の増援が来るんですね。
ところで第4艦隊の面々はヤマトが現役復帰していることは知っているのでしょうか?

>>初めまして、ヤマシロさん!
別のクロス作品から来て頂いたといことで、恐らくは『或る戦艦〜』からでしょうか?
私自身もお世話になる作品で、拝見させていただいている次第ですw
さて、マルセフらが〈ヤマト〉が再就役したと言う情報に関しては、知らないのではないかと思います。
以前の様に、極秘裏で建造されていたと……想像しています。

[六六]投稿日:二〇一一年〇八月〇八日一五:五〇:三二 EF一二 一
クロノはかなり思うところがあったようですね。
他にも同様の危機感を持った提督達もいるようですが、どれだけ危機感を共有できるかでしょうね。
また、空戦魔導師もかなり殉職・負傷したでしょうから、シグナム達ミッド首都防空隊やなのは達教導隊にもそろそろ待機命令が出る頃でしょう。
フェイトはボコボコにされたようですが、畑違いですから、最初からうまくはいかないでしょうね。
ただ、はやてやティアナは意外に飲み込みが早いかも…。
要望させていただくと、ミッドチルダ等、管理世界に住まう一般の人達の思いなどもあるといいかなと思います。

>>毎回の書き込みに感謝します!
ただ、そちらへの感想の書き込みが出来なくで申し訳ないです。そちらでは遂に第二部に突入している様ですが、デザリアムの来襲もすぐそこみたいですね。
期待してお持ちしております! そして、市民の描写もいれては、とのご意見、ありがとうございます。
一度出した市民記者の存在が完全に忘れ去られていましたので、そろそろ出しておかないと(汗)

[六七]投稿日:二〇一一年〇八月〇九日六:五四:一 柳太郎
誤字
自分自信 → 自身
誤字ではないですが、読みにくいところ ↓
古代自身にも指揮官としより実践を積んでもらいたいとの
としよりが少し読みにくかったです。
「として」にするか「、」で区切った方が読みやすいかもしれません。以上参考まで

>>書き込みに感謝です!
そして護持報告、ありがとうございます。
訂正させて頂きました!!

[六八]投稿日:二〇一一年〇八月一一日二〇:三八:二 グレートヤマト
やはりはやてに憑いていたのは初代リインでしたか。
逝ったつもりが心残りでもあるのか?
次回はいよいよ地球の要塞が出動するようでね。
合流後は誰が地球側の総司令になるのか?
古代が総司令になるのか?
それからヤマトファンが集う場所がありますよ。
『YAMATO CREW』知っていますか?
行ったらアドバイスとかもらえるかも知れませんよ。

>>今回も書き込んで下さり感謝です!
援軍として赴く古代ですが、総司令になるかは未定ですね。
まぁ、あくまで主役がマルセフら〈シヴァ〉なので、バランスに気を使わねば……。

[六九]投稿日:二〇一一年〇八月一二日〇:五:三二 HO
ヤマト登場まってました
うれしいです
これからも頑張ってください
応援してます

>>書き込みありがとうございます!
そして、〈ヤマト〉の登場に喜んでくださり嬉しく思います。
ただ、あくまで〈ヤマト〉は脇役に徹する可能性があるのでご了承下さい(汗)



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