時空管理局(A・B)本局防衛戦は、もはやどちらが優勢なのか判断のつけようがない。SUS軍は、地球と次元航行部隊、さらにエトス、フリーデ、ベルデルと全部で五つもの艦隊を同時に相手取るという、離れ技を行いながらも優位な戦いを継続しているのだ。
片や地球艦隊を始めとした各国艦隊は個々に奮戦しつつも、状況を打開できない様子だ。しかし、SUSが繰り出した切り札は、地球艦隊の波動爆雷の前に制圧された。
被害を拡大するばかり。ディゲルは状況を決定づけれない事に不快感を持ち始める。このまま攻撃艇を向かわせても被害が出るばかりだ。
  ならばいっそのこと、ここは長距離砲撃部隊に攻撃を強化させて相手の戦力を削り取ってやろう、と考えたその時だ。後方からの支援砲撃が急にパタリと止んでしまった。
これはどうしたことか、何故、砲撃を止めるのだ! ディゲルは後方支援部隊に怒鳴りつけようと通信士に命じようとしだが、それより先に通信士から報告が入る。

「閣下、後方支援部隊より入電!『我、地球艦の攻撃を受けつつあり』――以上!」
「なんだと!?」

これを聞いたとき、ディゲルは先ほど反応を消した地球艦〈シヴァ〉を思い返した。そうか、奴は亜空間航行能力を有していたのだな! なんたる失態であろうか。
となれば、長距離支援部隊は〈シヴァ〉の砲撃に晒されているのは当然として、このままでは全滅してしまう。彼は急ぎ通常空間へ出るよう命じたのだが……。

「司令、レーダーに敵影を完全に捕捉しました! 大型が一〇隻、小型が二〇隻!」
「うむ。どうやら、あれらには護衛がいないようだな」
「きっと、我々が亜空間航行できるとは想定していなかったのではないでしょうか?」

  〈シヴァ〉が亜空間航行を始めて数分もしない内に、亜空間レーダーはSUS長距離砲撃部隊を捉えていた。
亜空間内部では、〈ガズナ〉級が一〇隻いる他、地球艦隊らへ攻撃を行おうと迂回している攻撃艇が二〇隻いるだけだった。
ラーダー参謀の言うとおり、SUSはこれら部隊を護衛する艦艇を配備していない。これならば妨害を受けずに済む。ここで時間を掛ける事は許されない、撃破せねば!

「一気に叩くぞ、まずは中央の二隻からだ!」
「了解! 第一、第三、第九主砲は中央右舷の敵艦、第二、第六、第一〇主砲は中央左舷の敵艦を狙え!」

〈シヴァ〉は全主砲を完全に使えるわけではない。以前の損傷個所を完全に修理出来てはおらず、戦闘能力は本来の七〜八割程度に留まるに過ぎないのだ。
  だが、それでも構わない。目の前にいるSUSの狙撃部隊を攻撃し、勝負に打ち勝つチャンスを得られれば良い。そうすれば、東郷を初めとした艦隊も何とか対応してくれる筈だ。
砲塔が旋回し、亜空間という海中に姿を潜ませるSUSの後方支援砲撃部隊へ照準を定める。防衛軍初の亜空間戦闘を、我ら〈シヴァ〉が先駆けるのである。
主砲塔管理者から砲撃準備の完了が報告された。いまだ、喰らえ!

「主砲、発射!」

 ジェリクソン戦術長の号令の下、各砲塔が砲撃を開始した。今回砲塔から飛び出し亜空間をも駆ける凶器はいつものエネルギー弾ではない。
実弾兵器である榴弾、波動カートリッジ弾だ。これは一八年程前のデザリアム戦役時の中で、〈旧ヤマト〉の真田技師長と機関班の大山 歳朗(おおやま としろう)の手によって開発された兵器だ。
  硬い装甲を有する要塞を相手に使用されるもので、貫通性が高く、内部に仕込んだ波動エネルギーの爆発で目標内部を破壊する。
威力も申し分なく、巡洋艦だけでなく、戦艦でさえ耐えきる事はまずないだろう。実際にこれが防衛軍内部で幅広く実戦配備されたのは、ディンギル戦役頃である。
この時も〈旧ヤマト〉が使用し、ディンギル移動要塞を一撃で撃破している経緯がある。だが頻繁に使用される事はなかった。
  何故なら、波動カートリッジ弾は弾数に制限がある特殊弾の一種だからだ。それ故に対要塞等、巨大な敵に対して使われる事が多い。
今回は相手が五〇〇メートル級とかなり大型な艦であることから、マルセフがジェリクソンに命じて波動カートリッジ弾を装填させていたのだ。
そして、放たれた波動カートリッジ弾は獲物の身体に、見事に突き刺さった!

「敵艦、二隻に命中! 轟沈した模様です!!」
「やったな、参謀」
「はい。どうやら、外見に似ず脆い様ですな」

  ラーダーの言うとおり、〈ガズナ〉級は非常に脆かった。中央に位置した一隻は、真正面から波動カートリッジ弾を九発浴び、容易く内部へと突き立てられてしまった。
内部で爆発すると、それが隔壁を打ち破って艦内を破壊した。それだけではない、攻撃艇のための弾薬にまでおよび、結果として盛大な誘爆を引き起こしたのだ。
もう片方の一隻も似たような状況だ。艦の中央部から崩壊していき、やがては大爆発を引き起こして消滅してしまった。この攻撃にSUS将兵達は恐怖を抱いた。
  さらに不幸な事に、後方支援部隊指揮官は既に亡き者と化していた。中央に位置した一隻の〈ガズナ〉級こそ、指揮官の搭乗していた旗艦だったのだ。
初撃で旗艦を失った砲撃支援部隊は、どう対応すべきかと混乱し、ひとまずはディゲルへ救援信号を送った。さらに二隻の〈ガズナ〉球が爆炎を上げ、続けて二隻も被弾した。
二隻が轟沈しなかったのは、〈シヴァ〉の副砲の威力に助けられたようだ。しかし、それでも戦闘不能には変わりない。SUS将兵達は焦った。
  その直後、砲撃支援部隊はディゲルから緊急浮上するように命じられたのだ。六隻は緊急浮上を開始し、〈シヴァ〉の砲撃を回避しようとする。

「敵艦、一隻撃破!」
「司令、残る五隻は次元空間へと出るようです!」
「むぅ……もう少し削っておきたかったが……止むを得んな。急速回頭、一八〇度。全速力で戻るぞ!」
「了解! 一八〇度回頭、コースターン!」

オペレーターの報告にやや不満げなマルセフではあったが、これで少しは戦況を楽な方向へとは導けたのではないか。少なくとも、一〇隻中五隻を撃沈し、一隻を大破させたのだ。
マルセフの命に従い、レノルド航海長は操縦桿を右へ捻った。それに反応して、〈シヴァ〉の艦首は大きく右方向へ逸れ始め、元来た進路へと戻ろうとする。




  方や次元空間側では、SUS軍からの長距離砲撃が止んだことで、地球艦隊や次元航行部隊らの負担は少しだけ軽減されていた。さらに攻撃艇からの被害も激減しつつある。
だが兵力差は依然として大きいままだ。地球艦隊にしても、ここで波動砲を使用したい心境であった。現時点でそれを行えばどうなるか、以前の経験で身を持って知っている。
だからと言って、このままズルズルと砲撃戦の応酬を続けてばかりでは、消耗戦で自分らが不利になる事は明らかだ。東郷も歯がゆい思いだった。

「駆逐艦〈エルムU〉大破!」
「巡洋艦〈日進(ニッシン)〉被弾、火災発生!」
「傷ついた艦は即座に後退、応急処置に掛かれ」

東郷はこの状況を前にして唸った。僚艦達はSUS艦隊の砲火を受けて、次第に損傷具合を色濃くさせていく。艦隊の士気自体はそう低くはないのだが、いずれにせよ負けてしまう。
  せっかく次元潜航艇を蹴散らしたと言うのに、どうしたものか。それに目の前のSUS軍第一戦隊は半包囲態勢をそのままに維持して、押し潰そうとしている。
こちらも艦列を広げて相手の圧迫から逃れたいのだが、如何せん、数が足りない。それに次元航行艦ではSUS艦隊に左右を突破されかねないのだ。ならば中央突破か?
しかし生憎と次元航行艦の加速力では、SUS艦隊へ乱戦へ持ち込むことも叶わない。丁度相手は三つの部隊に分散しているのだ。
我々だけが突出しても、逆に相手からの集中砲火に晒され大損害を受ける可能性がある。

「艦長、〈シヴァ〉が戻ります!」
「おぉ、マルセフ司令が戻られたか」

  地球艦隊の中央に、亜空間から戻った〈シヴァ〉の姿がある。これで指揮権はマルセフへと戻るのだが、状況は思う様に良い方向へと傾いてはいない。
エトス艦隊とフリーデ艦隊にしても、辛うじて戦線を維持しているようなものだ。しかし特に危険なのはベルデル艦隊だ。ここは一二〇隻あまりと艦数を大きく減らしている。
このままではSUS軍第三戦隊に中央を突破された挙句、分断されてしまう。しかも相手は余力を残している。これを迂回させて背後などを突かれてしまったら……。

「艦載機隊の戦況はどうなっておる?」
「我が方の被害は六機のみ。SUSは推計六〇機に昇るかと!」

  〈ベルデルファイター〉の協力もあって、SUS戦闘機は大きく数を減らしつつある。もうすぐ制宙権を確保できるだろうが、パイロット達も疲労がかなり蓄積している筈。
一八〇機程の〈コスモパルサー〉隊の頑張った分を、どう繋いでいくか。ここで管理局の反応消滅砲(アルカンシェル)を使用するのはどうか?
単艦で使う分には、勝機はあるだろう。だがSUSがそれを見過ごすのかと言えば、答えは「NO」に違いない。
波動砲(タキオン・キャノン)に比べて、発射シークエンスが短いとはいえ、すぐに撃てる代物ではないし、位置が丸わかりだ。
それに『レベンツァ星域の会戦』でもSUSはアルカンシェルにより陣形を大きく崩された経緯がある。何かしらの対応策があると考えても、おかしくはないだろう。

「小賢しい奴らめ」

  ディゲルは憎たらしくつぶやいた。後方支援の〈ガズナ〉級を半壊させられた事に続いて、攻撃艇部隊も四割近い被害を出してしまっている。それだけではない。
SUS軍艦載機の損害率が極めて高い数値を吐き出していたのだ。せっかくベルデル艦隊の数を減らし、艦載機を多数葬ったと言うのに何たることであろう。
その損害拡大に貢献していたのが、〈ベルデルファイター〉ではなく地球艦隊の艦載機だと知るや、奥歯をこれでもかというぐらいに噛み締めた。
これは艦載機を収容させるべきだ。艦載機戦で遅れを取った。しかし艦隊数では上回るのだ。それに相手は打開策を見つけられていないようである。
  しばらくは砲撃戦の応酬が続きそうである。このような戦いは望むことではなく、むしろ効率的にかつ少ない被害で勝利したいものだ。
両翼は戦線を崩すのに時間を必要としているようだが、中央はもうしばらくすれば壊滅させる事も可能である。
どうせ地球艦隊と管理局も、援護しようにも出来まい。だったら、ここは迷う必要などないではないか。

「これ以上の時間は掛けてられん。第六戦隊に連絡、『貴艦隊は直ちに戦列へ加わるべし。後は貴官の判断に委ねる』とな」

  ここで詳しく、ベルデル艦隊のいる戦線を崩してこい、と命令しても良かったのだが、それでは既に相手をしている第三戦隊の行動を圧迫させる結果になりかねない。
ならば個人の判断に任せて、自分は目の前の地球艦隊と管理局艦隊へ専念しようではないか。その方が余計に考えないで済むだろうし、後は数の勝負だ。
現在、SUS軍は総計九六〇隻前後。対する相手は、地球艦隊が三五隻、次元航行部隊が四五〇隻、エトス艦隊が一六四隻、ベルデル艦隊が一二一隻、フリーデ艦隊が一五四隻、総計九二四隻である。
SUS軍は九〇隻余りの戦艦を失ったが、地球艦隊らも総計すると一六〇隻余りが失われている。損害は地球艦隊側が上回るが、このまま潰し合いを続けても共倒れになるだけだ。

(それでは……面白くないな)

  しかし、ディゲルが命じた第六戦隊は全くの無傷な戦力だ。それに引き換えて、地球艦隊らには損傷艦が増え続けており、予備兵力となる戦力もない。
ふと、ディゲルは第六戦隊の動向を見やる。戦略ディスプレイに映る、お互いの艦隊位置。お互いが向き合い、横列陣を形成している様にも見えている。
そのSUS軍後背で控えていた第六戦隊が、左舷側へと進路を向けていくのがわかった。成程、第六戦隊はフリーデ艦隊を潰すつもりだな?
  端から潰せば、おのずと包囲網が出来る。それを考えた上で左舷のフリーデ艦隊から処理に掛かったのだろう。
あの生意気なゴルックとやらも、三倍近い艦隊を相手にしては身動きもとれずに全滅するに違いない。

「よし。次元攻撃艇は残存戦力を持って、エトス艦隊左舷方向(SUSから見れば右舷方向だが)より攻撃を開始せよ」
「ハッ!」
「本艦隊も攻撃を強化する。第二分隊、第三分隊は管理局へ砲火を集中、艦列が乱れたところを包囲網を伸ばして挟撃! 第一分隊はこのまま地球艦隊へ攻撃を続行!」

戦闘の最終段階に入ったと言わんばかりに、ディゲルは命じていく。配下の艦隊は命令を受け取ると、それは直ぐに行動に移されて地球艦隊を殲滅しに掛かった。
マルセフはSUSの予備兵力がどういう意図があって動き始めたのかを察知した。今ここで無傷な艦隊を加えられようものなら、こちらとて防ぐことは敵わない。
右翼の艦隊――フリーデ艦隊に向かうSUS予備兵力は、きっとこのまま背後に迂回して来るかあるいは、左翼の艦隊を殲滅して端から順に潰していくつもりなのだろう。
  彼は焦りを禁じ得ない。いつもは冷静沈着であろうマルセフも、こればかりは己の判断能力に精彩を欠きそうになる。ラーダーも慌てた様子でマルセフに言った。

「司令、これは右翼から畳み掛けようとしているのは明白です! ここは一気に攻勢に出るべきでは!?」
「わかっている。だが、そうはいかん。管理局の足では孤立してしまうぞ」

本当だったら、艦隊を密集させた突撃で乱戦へ持ち込むところだ。だが次元航行部隊の脚に合わせていたら、突入するまでに時間を掛けるばかりか損害まで大きくなる。
ならばここは斜めざまに後退して相手の包囲陣を崩してみるか。凹型陣の様な包囲陣では、方向転換する際にどうしても両翼どちからかは大きく動かねばならないのだ。
片翼が迫る前に、突出しているだろうもう片翼に砲撃を集中して、そこから思いきり乱戦へと持ち込むことの方が無難かもしれない。上手くいくかは分からないが……。

「しっ司令、敵の二つの部隊が次元航行部隊へ攻撃を集中して来ます!」
「何!」

  SUS軍第一戦隊の両翼部隊は少しすづつ陣形を広げながらも、後方の次元航行部隊への砲撃を強化させてきたのだ。どうやら相手は、一気に畳み掛けようと言うのだろう。
次元航行部隊はSUS艦隊凡そ一三〇隻の砲火を一〇時方向と二時方向から受ける事になった。斜め左右からの攻撃が強化されたことに、次元航行部隊は動きを鈍らせ始めた。
やはり実戦経験が少ない故なのだろう。もっと訓練期間があれば、この様に慌てる事もなく冷静に対応できたかもしれない。次元航行部隊が左右からの圧迫に耐えかねる。
マルセフは援護してやりたいが満足な攻撃が出来ない。後ろを向けば、目の前の六〇余隻のSUS艦隊から攻撃を受ける羽目になる。だが全く何もしてやれない訳ではない。

「後部砲塔は左右の敵艦を狙え!」

  これが精一杯だった。各艦艇の後部砲塔をギリギリまで旋回させる等して、左右のSUS分隊を攻撃させたのだ。前方で相手をし、さらには左右の艦隊へも攻撃する。
地球艦隊は手一杯の状況だ。しかし、SUS軍第二、第三分隊の進撃は緩む事無くして次元航行部隊へ攻勢を強めた。このままでは包囲殲滅されてしまう!
だが次元航行部隊司令のオズヴェルト提督は、ここぞと言わんばかりに粘った。まず彼は、通信マイク越しで将兵達を叱咤激励して艦隊内部の秩序を保たせた。

「いつまで狼狽するつもりだ。地球艦隊や他艦隊に恥を晒し続けるな! 冷静になるのだ!」

  次に崩れかかった陣形をぎこちないが元に戻させると同時に、中央部隊を地球艦隊と同行させつつ、残る四個部隊を左右へ分断させた。
これは左右から迫るSUSに対応するために出た手段だ。次第に被害を増加させつつある中で、彼は今まで頭に叩き込んだ艦隊運用のノウハウを思い返した。
さらに各両翼で、横列陣を四つづつ――計八つ程作らせると、それを一つずつ前進、後退と繰り返させたのだ。一部隊が前進して一定時間すぎると、別の部隊が前進する。
  この動作を繰り返させる事で、被害率を分散させようとしたのだ。マルセフもこの行動には驚いた。さらには砲撃を一点に集中させると言う、東郷の教えに従ってSUS分隊の中央に攻撃を集中させていくのである。
苦しい状況でのオズヴェルトの指示は功を奏する結果となった。対するSUS軍も次元航行部隊の突如の達直りに、少なからず唖然とした。
艦隊戦では、手すりにつかまって歩く赤子如きの管理局が、何故こうも立ち直ったのだ!

「オズヴェルト提督が持ち直している様だな」
「はい。見事な手腕と言えるでしょうが……」

  ラーダーも素直にオズヴェルトの手腕は評価できると言う。しかし、全体の戦局はますます旗色悪くなっていた。まずは左翼艦隊――エトス艦隊の状況だ。
SUS軍の遠距離攻撃と攻撃艇により戦線を崩しそうになったのを持ち直したのだが、再度の攻撃艇からの攻撃が始まった事で崩壊が再び始まってしまった。
やはり攻撃艇は全て仕留めた訳ではない。生き残りの攻撃艇が、エトス艦隊左舷から出現しては多量の爆弾をばら撒いては離脱していく。エトス艦隊は翻弄された。
その数も着実に減らしつつある。今では一五七隻にまで減っていた。もう少し保てても良かったのだろう、攻撃艇の襲撃さえなければ、の話であるが。





  方やベルデル艦隊は限界の域に達していた。艦隊数も一一六隻にまで減っている。艦載機も半数以上が失われ、満足な艦載機攻撃もかけられなかった。
旗艦〈ベルステル〉艦橋ではズイーデル提督が奮起している。この状況を打開したいのはやまやまだったのだが、生憎とその隙を与えてはもらえない。
そして今、一番危険な状況に置かれたであろうフリーデ艦隊は、辛うじて第四戦隊を受け止めて戦線を維持していた。
  だが、そこへ第六戦隊の介入という凶報を耳にした時、眼の前で戦う奴らだけでも苦労していると言うのに、とゴルックはますます苛立たしさを露わにした。
SUS軍第六戦隊はなるべく最短距離を通って、フリーデ艦隊の左舷斜め前に出る。同時に第四戦隊は左方へスライドして動きやすいように空間を譲る。
ゴルックは包囲される事を避けるために右方へ艦隊を動かしたのだが、第四戦隊もさらに左方へ動いて逃がさないと言わんばかりにその場に釘づけにした。

「提督、第六戦隊の砲火が第三分隊に集中します!」
「おのれ、多勢に無勢も良い所か……」

  フリーデ艦隊旗艦〈フリデリック〉の艦橋で、何回目かわからない舌打ちをするゴルック。多勢に無勢とは言うが、それは自分らもやった事だ。言える立場ではない。

「……はん、地球艦隊がどんな心境に置かれていたのか、はっきり分かったな」

苦笑しながら彼は呟いた。あの移民船団攻撃時には、彼らの方が圧倒的優位に立って攻撃を仕掛けたのだ。多数の敵を相手にするとは、これほどのに辛いものだと知った。
しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。ゴルックはこのまま撃ち減らされる事を良しとはしない、どうせ減らされるのなら……!
  この時の心境は焦りに支配されていたと言えるだろう。ここで突撃し、一矢報いてでも、一隻でも多くの敵を葬り去ってやる。と考えたのだが、すぐに頭から消し去った。
そんな事をしてどうする? ガーウィックやズイーデル、地球艦隊や管理局に全てを託して先に死ぬなど戦友達には逆効果なだけだ。ここは少しで多く生き残らねばならない。

「全艦、四時方向へ後退!」
「提督、そんな事をしたら全面崩壊いたしますぞ!」

  幕僚は意義を唱えた。倍の艦隊を相手にして後退しようというのは、言えば簡単だ。しかしそれで前面に出てくるSUS軍の攻勢に対して、将兵達が支えきれるかわからない。
それに四時方向に後退するという事は、ベルデル艦隊との距離を空けることになる。という事は、フリーデ艦隊は孤立してしまいかねないだけでなく、分断される可能性がある。
だがゴルックは、迫力ある一声で幕僚の声を退けた。幕僚達は身体を震わせ、続けて意義を唱えなくなった。ゴルックにはゴルックなりの考えがあった。
 後退を開始するフリーデ艦隊に対して、SUS軍第四戦隊は勢いに乗って追撃を始めた。

「猪め、無謀に突っ込んでくると思ったが、そんな意気込みも無くなったと見える。全艦、このまま前進して叩き潰すぞ!」

コニール少将は艦隊を前進させた。彼の眼には、フリーデ艦隊が戦意を喪失して無様な潰走を始めたのではないかと思えたのだ。それに釣られて第六戦隊も前進を開始する。
  これを見たガーウィックは唖然とした。ゴルックはいったいどうしたというのか! まさか、むやみに後退するわけもない。何を考えているのか。
ベルデル艦隊や地球艦隊、管理局にしてもゴルックの後退は戦線崩壊を招くものだと思った。畳み掛けようと苛烈な砲火が襲い、瞬く間に七隻の戦艦が脱落していく。
このまま壊滅してしまうのではないか、という予感に捕らわれた。しかし、そんな周りの予想を彼は覆して見せてくれた。

「敵艦隊、さらに距離を縮めて追撃して来ます!」
「奴らめ、俺が尻込みしているとでも思ったら大間違えだぞ? このまま反時計回りに展開せよ」

  ゴルックは釣られて出てきた二個戦隊を小馬鹿にしてように言う。フリーデ艦隊が四時方向に後退しつつ、さらに反時計回りに動く。
SUS軍二個戦隊は自然と横列陣形から不完全な縦列陣形に変化する。これは最も防御の弱い瞬間、そして反時計回りに動いたフリーデ艦の全砲門はその瞬間を捕えた。
これを待っていた! 座っていた席から、ゴルックは立ち上がり命令を飛ばしたのだである。

「今だ! 全艦突撃せよォ!!」


怒号にも等しい彼の命令が艦隊中を駆け巡った。今が反撃して一矢報いる時なのだと、将兵達は感じと取った。一方のSUS軍第四、第六戦隊は嘘を付かれた形となる。
  先ほどまで後退していたフリーデ艦隊が急進して来る! これに対して第四戦隊のコニールは反射的に先の命令とは逆の事を命じてしまった。
ここは素直に左右どちらかに前進して突進をかわせればよかったのだが、彼は突然の突撃と以前にあったゴルックの突撃に恐怖心を抱いてしまったのだ。

「全艦後退しつつ、敵艦隊の先頭に砲火を集中せよ!」
「閣下、それでは後方の味方が!」

そう言った時には手遅れだった。前進を止めた第四戦隊の後方から第六戦隊が突っ込む形となり、双方の前衛と後衛は混じり合ってしまう。
そこへ前方からのミサイルとビームだ。第四戦隊は手痛いダメージを負い、先頭集団の被害はフリーデ艦隊が被った数の一.五倍に昇った。
無様に玉突きを起こした第四戦隊をゴルックはあざ笑う。

「ハッ、味方同士で土突き合うとはな! 遠慮はいらんぞ、半包囲して撃ちまくれ!」

  次いでフリーデ艦隊は両翼を伸ばして第四戦隊を半包囲する。コニールも自分が半包囲されるとは想像しなかった。ここで素早く動いたのは玉突きをした第六戦隊だ。
急ぎ後退しつつ左方へ展開し、フリーデ艦隊の右舷側に回ろうとした。ゴルックは半包囲もここまでだと判断して右翼の第二分隊を第六戦隊へ振り向かせつつ、艦隊を整列させた。
この一連の流れを見ていた各艦隊の指揮官たちは驚いていた。半数は見事な動きだと示す一方で、残る半数――言うまでもないSUS艦隊は苛立たしさを見せた。
  その中の一人、ディゲルは旗艦〈ムルーク〉の指揮席で、肘掛けに思いきり拳を叩きつけてコニールらに怒鳴った。

「無能者どもが! 何をしているのか!!」

せっかく包囲撃滅できるチャンスを取り逃がすとは何事か! 部下たちの不甲斐無さに思わず眩暈を起こしそうになるディゲルだったが、次の報告こそ眩暈を起こすのに十分だ。

「ちょ、長官! 七時方向より新たな艦隊が出現した模様!」
「なにぃ!?」

彼はオペレーターの報告に、顔をしかめた。いや、しかめたと言うよりも怒りで表情が一変したと言う方が的確だ。彼は後方から来る艦隊の正体を予想できていた。
  この時期に援軍が派遣される予定などない。そこまで出来る余力を出せないのだ。ならば何が来たか? 応えは簡単だ。

「ち、地球艦隊です!!」


如何、後方には遠距離支援部隊と空間歪曲波搭載艦を待機させたままだ! 彼の計算では、今頃は目の前の不定な敵を片付けられていた筈だった。
それに後方以外に待機させる場所が無い。護衛に付けていた第六戦隊も前線で足手まといになったばかりで、何者も護る者がいないのだ。そう思った瞬間……。

「っ!? 閣下、く、空間歪曲波が消えました!!」
「空間歪曲波部隊、全滅! 遠距離支援部隊も二隻を残して壊滅した模様!!」

  不味い! これでは相手の砲撃精密度が比較的に増大する。それだけではない、あの波動砲が発射されてもおかしくはないのだ。彼はそれを思い出すと戦慄した。
同時に部隊への被害率が上昇し始めてしまった。将兵達は恐慌状態に陥る。今までは空間歪曲波で何とか優位を確立しえて来たが、それが無くなっては負けてしまう!
相手が地球艦隊でなければそうも言わないだろう。だが波動砲の威力を知った彼らにすれば、いつそれが自分らを襲うのかと果てしのない恐怖に鷲掴みにされる。
  ディゲルは焦った。焦ったがそのままではならない。後方からは地球艦隊の援軍が迫っており、この状態では二正面戦闘を行わざるを得ない。

「第六戦隊に緊急電! フリーデは第四戦隊に任せ、後方から迫る地球艦隊の迎撃に当たれ!」

迎撃に第六戦隊を向かわせるディゲルだったが、この戦闘に勝利は無くなったと感じた。たかが七〇隻程の増援艦隊で臆するわけはないのだが、やはり地球艦隊というのが大きい。
かと言ってこのままおめおめと引き下がれもしない。あの本局をズタズタに引き裂いておかねば気が済まん! そして、あの〈シヴァ〉を消し去らねば!
  〈シヴァ〉を中心とした地球艦隊は、突然、空間歪曲波が消えた事に戸惑いを感じたが、空間歪曲波の妨害が無くなった事と、レーダーが広範囲を確認出来るようになって初めて、その理由がわかったのだ。 

『司令! あれは地球艦隊です、地球防衛軍(E・D・F)の艦隊です!! 我々の味方です!!』

索敵管制室のオペレーターが歓喜の雄たけびに等しい声を上げて報告した。その報告に皆は唖然とし、次には同じく管制室の者と同様に歓喜の声を上げた。
現れた艦隊が地球艦隊であるという証拠は、次に送られてきた通信文ではっきりとした。

こちら、地球防衛軍宇宙軍 第一特務艦隊。貴艦隊の生存を、心より歓迎する。

これより、我々はSUS艦隊の後背を打ち、貴艦隊及び管理局を援護する。

どうかそれまで耐えられたし。

第一特務艦隊司令 兼 宇宙戦艦〈ヤマト〉艦長 古代 進中将


  この地球防衛軍であると言う文面に、皆は安堵した。それと同時に援軍に来た旗艦と司令官の名前を聞いて、驚愕した。まさか、あの伝説とまで言われた〈ヤマト〉!
そして英雄とまで称された〈ヤマト〉乗組員の独り、古代艦長! まさか、彼らが来てくれているとは……。予想外の援軍に大半のクルーは、武者震いを感じた。

「味方が来た、あの伝説の〈ヤマト〉が……司令!!」
「うむ。これで味方であることがはっきりした。勝機は我々にあるぞ!」

ラーダーは高揚した表情で、後方に座るマルセフへ呼び掛ける。マルセフも強く頷いて答える。沈みかけていた士気が、ウナギ登りの如く上がるのをマルセフは感じた。
そして、反撃の命令を下した。

「反撃に移るぞ! 全艦、ありったけのエネルギーとミサイルを、敵に叩きつけろぉ!!」




〜〜あとがき〜〜
どうも、ご無沙汰しております。第三惑星人です。
以前の更新から二週間くらい空いてしまいましたが、おそらく今後もこれ以上の時間が空くかもしれません。
それでも更新するのをお待ちして下さる方には、感謝しております。
さて、今回は本局防衛線の第三幕に突入したわけですが……終われませんでしたね(汗)
しかもやっとこさ援軍の地球艦隊が最後に登場、という遅さ。もう少し早めに登場させたかった。
それにこれでは本局が無傷のまま……どうしよう?(←おいw)
とまぁ、ぼちぼち考えながら、投稿していきたいと思います。では、失礼させて頂きます。

〜拍手リンク〜
[八四]投稿日:二〇一一年一〇月一三日一八:二一:三七 ヤマシロ
次は、地球防衛軍のターンですか。
波動爆雷で、潜航艇狩りですね。
さてさて、次はSUS軍のターンか地球防衛軍のターンか。
はたまたトレーダ(ヤマト)のターンか。

>>コメントありがとうございます〜!
波動爆雷は是非とも使用しておかねば、という一品でした。
そして次回こそは〈ヤマト〉を!

[八五]投稿日:二〇一一年一〇月一三日二〇:五八:三九 グレートヤマト
SUSとの戦闘が始まったな。
管理局&地球の連合艦隊は勝てるのか?
SUSは、盾がないと戦えないのか?
エトスらを盾に後方で攻撃とは……。
次回、ヤマト艦隊出撃&合流か?

>>毎回のコメント、ありがとうございます!
SUS艦隊は使える者は何でも使って切り捨てる性格ですからね。
この際は壁にしつつ三か国をも潰そうとしたのですが……駄目でしたねw

[八六]投稿日:二〇一一年一〇月二二日八:五一:二 EF一二 一
宇宙戦艦同士の撲殺合戦‥‥。管理局の提督連もこれだけの艦隊決戦と一瞬で多数の人命が失われていく様を見るのは初めてですからね。戦慄するのも無理はないですね。
はやて達若手は戦局に貢献できない無力感に切歯扼腕中。まあ、元々こんな戦闘は想像すらしていなかったわけですから、仕方ないといえば仕方ないのですが。
むしろ彼女達の舞台は生き延びることができれば巡ってくるんでしょう。
で、古代進と愉快な仲間達の足音はすぐそこまで‥‥。

>>コメントありがとうございます!
管理局の面々は度胆を抜かれる思いと言いますか、数百隻単位の艦隊運用など例が無いでしょうからね。
はやて一同に関しましては、原作の主人公達である事も確かなので、どことなく活躍の機会を与えてみたいと思う次第。
ただし、その瞬間にマルセフ一同が影に隠れてしまうかもw
古代たちは次回こそ、登場しますので、お待ちください。



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