地球防衛軍(E・D・F)時空管理局(A・B)が正式に協力関係を築き上げてから、一ヶ月が経過しようとしている。
その間に防衛軍は、先日の資源惑星で起きた苛烈な戦闘で資源地帯を確保した。開拓を急ピッチで進め、少量づつながら資材製造を確実なものとしている。
対する管理局は、ミッドチルダの首都クラナガンの復興および戦力再編に全力を上げていた。
  あの無人管理世界0006での困難な状況を乗り切った防衛軍は、〈トレーダー〉へ多量の資源を送り込み、資材不足を完全に補えるようにまでなっていたのだ。
現場での功労者である兵士達、そして魔導師達の活躍の御かげであった。司令官だった東郷も、魔導師の活躍ぶりには高い関心を示しており、当然、マルセフにも伝わった。

(これは、今後の関係にも良い効果を生み出してくれる筈だ。互いが協力し合い、成し遂げる。今後の戦いでも、より連携を生み出すための第一歩と考えても良いだろう)

  ミッドチルダの様子はといえば、すっかりとがれきの撤去は終わっている。次に必要なことがあるとすれば、それは崩壊した部分の再構築になるであろう。
民間人の避難解除も出され、郊外の住宅街などでは既に八割近くが帰宅している。だが都市部では四割程の市民しか戻っていない。都市部での戦闘が苛烈だったのだ。
顕在している建造物でも流れ弾や、半壊した状態のもの多い。それらの修理作業も行うために、仮設住宅での生活を余儀なくされているのだった。
建築業者もピッチを速めて作業に取り組んでいる。市民たちはこうした中で、いまだ恐怖を抜け出せずにいるのも多い。無理もないと言えば、その通りだ。
J・S事件とは比にならない、大規模な戦争が始まったのだ。それも首都で、だ。いつまたそのような事になるだろか、と不安の声を上げている。
  特にメディアは盛んに活動していた。管理局でさえ歯が立たなかったSUSを退けた、外世界の軍隊という存在を大きく報道していたのだ。それは瞬く間に広がった。

「カメラ、スタンバイOK。無線も異常なし」
「こちら中継二号車。中継準備が整いました。いつでもいけます」

記者会見会場となった〈ムーンライト〉では、もうすぐ始まる会見を前にして記者団がスタンバイを終えようとしていた。二〇〇名は入れる特設会場内が、記者で満席だ。
簡易なパイプ椅子に座り、メモ用紙とペンを片手に持つ者。会見内容を録音するために録音をスタンバイする者。会場後方でカメラを三脚に乗せ、待ち構える者。
  その集団の中にはMT情報局のエース記者、マイク・ルーディもいた。いつにない緊張した雰囲気の中で、彼は高揚した気分にある。それもそうだろう。
この目で初めて見ることになる、連合軍の総司令となった男――マルセフに会えるのだ。これが、燃えずにいられるか! 彼の記者魂に火がついている。

『チーフ、こちらはスタンバイOKです』
「ん、後は会見映像を本部に送るだけだな。しっかり頼むぞ」

通信機で話かけきたのは、部下のツェンバーだ。後方でカメラ機材を操作しており、その映像は中継車にいる同僚のクーパーへと届けられる。
そこからクーパーが、本部へと送信していくのだ。ほぼ生放送扱いとして、今回の会見を放映するために、ミスは許されないものとなっている。
  メディアの中でも有力な彼らMT情報局。これを中心とした報道を前に、激戦後の絶望にあった市民は次第に活気を取り戻していった。
だが悲しいかな、それとは逆に管理局への関心は落ちつつあった。ニュースでは防衛軍或いは他の国家軍のことばかり。管理局に関しては、そうそう注目が集まってはいない。
あったとしても、非難の目がまだまだ多いと言っても良いだろう。MT情報局もまた、管理局への報道は激減しており、防衛軍関連の情報が中心となっていた。
  それだけ、彼ら情報局あるいは市民達には、防衛軍という存在が大きく見えた証拠でもある。社長のマーク・デミルもその一人と言っても過言ではない。

「社長、中継車からの受信、完璧です」
「よし。皆はそのままスタンバイだ。」

  MT情報局本部の情報管理室にいるデミルは、自らが陣頭に立って放映準備の指揮を執っていた。多くのスタッフ達が、コンピューターを前にして忙しく動く。
この情報管理室は、所謂中央指令室のようなものだ。各中継車や外世界の情報は全てここに集められている。スタッフたちも、他の契約会社等への対応に追われる。
何と言っても、地球防衛軍の最高司令官――厳密に言えば連合軍最高司令官の、初の会見なのだ。現場にいるルーディと同じように、デミルも闘志を燃やしていた。

「……マイク、聞こえるか?」
『はい。聞こえています』

現場にいるルーディに確認を取るため、彼はポケットから携帯端末を取り出して呼び出した。放映だけならツェンバーにまか任せても良いのだが、一番のミソは質疑応答だ。
こちらの質疑にどう答えてくれるのかが気になる。マルセフという外世界の軍人が、どこまで期待に応えてくれるだろうか……。精々、ガッカリさせないでくれよ?
  ふと、会見の時間が差し迫ったのスタッフが報告した。これは生放送だ、くれぐれも放送事故など起こさぬようにしなければならない。
管理室にある幾多のディスプレイ。その中で、会見席を映していたカメラ映像が左に向きを変えた。するとそこには例の軍人が入室してきた様子が映っていた。来たぞ、彼だ!

「一斉送信、開始!」
「はい」

指示に従い、スタッフが送信システムをONにする。瞬間、ツェンバーの撮る映像が全地域へと流れた。電波の状態は、概ね良好のようだ。
  会見室に現れたマルセフを、早速記者たちがカメラを手に取ってシャッターを切る。いつもながら、手の早い連中だ。という自分らも、行動が早いものだが。
マルセフが席の前で止まり、記者団に向き直ると被っていた軍帽を外して机の上に置いた。まずは彼の自己紹介から始まった。その次からは、現状報告になる。

『現在、我々防衛軍は資源の確保を完全にし、戦力の増強に従事しております』
「マルセフ提督、SUSを相手にして、勝算はおありですか?」
「我々が得た情報では、現在のところの勝率は、およそ四割とみております。難しいでしょう」

ミッドチルダ首都クラナガン、臨時会見場となったホテル〈ムーンライト〉にて、多数の記者に囲まれるマルセフの姿があった。記者を相手にした、初めての会見に緊張はした。
  しかし顔に動揺した様子は見られてはいない。そこは軍人、表情に関する気配りや注意も怠りはしなかった。そんな彼の姿に興味を持つ記者も少なくない。
特に、MT情報局記者のマイクは、滅多にないチャンスだと言わんばかりに質問攻めを開始していた。その様子には、さしものマルセフも、怯みを覚えたものだ。
メディアというのは、何処の世界でも変わらぬ存在だな。とりわけ、あの青年は勢いが強い。間違った報道をしなければ良いが……。

「それでは、今後の様子では勝ち目はあるということですか?」
「はっきりとは申せません。我々が戦力の拡充を行っている間にも、SUSも力を蓄えつつあるのです。時間を延ばしたところで、勝率が高まるという保証はありません」
「しかし、それでは市民達が納得しないのではありませんか? いつまでも、この戦争が続くことに不安が増えております」

  今度は別の記者だ。勝算は無い、と決まっている訳ではないのだが、大局から見ればSUSの方に利があるのは明白だった。この情報基はエトス星からである。
彼らは何せSUS要塞の内部にいたのだ。ガーウィックは抜かりなかったようで、SUSにバレることのないよう、戦力情報を収集していた。
これは貴重なデータとして、防衛軍へと渡された。だがそれは限定された情報でしかない。そこから出す勝算率は、目安にもならないであろう。
  だからと言って出鱈目なことを言うなど言語道断、無責任にも程があるというものだ。先の記者が言うように、市民はいつ終わるかわからない戦争に負担を強いられている。
長引けば長引くほど、犠牲者は加算されてゆく。市民へのさらなる精神と生活への負担も増加してゆく。結局、一番に苦労を科せられるのは市民達なのだ。
だが悲しいかな、この戦争、短くなることはないだろうというのが、マルセフを始めとした防衛軍幹部の考えであった。長くても三年、短くても……一年か。
  これは単なる憶測でしかない。過去の例を見れば、彼ら防衛軍の中で最も長い戦役は、ガミラス戦役の凡そ八年に他ならない。
それに比べて他の戦役は長くでも半年から一年だ。このSUS戦が半年から一年で終息できるのであれば、市民に対する不安と負担もだいぶ違ってくる。

「その気持ちはお察します。我らの地球も長き戦乱の時代を迎えておりました。市民の苦しむ姿は、嫌というほどに見てきております」
「それだったら、尚の事、早期終結のため目的、目標はあるのでは?」

そうだ。ここまで言うのならば、何か考えがあるのではないか。ルーディにしても、他の記者団にしても、同じような考えを持っていた。





  この記者会見の様子は、生中継として放映されている。つまりは市民の多くが見ているだけではなく、管理局、そして他の管理世界にも流れているということになる。
その視聴者の一部である、はやて、フェイト、ティアナ、シャーリーの四名もまた、第二拠点で成り行きを見守っていた。

「この記者も、相変わらず突っ込みが多いわ」
「大抵は皆そういうものだと思っていたのですが、取り分けこの人は違いますね」

ディスプレイに映るルーディへの、はやてのコメントに対して同意するティアナ。彼女らにしても、メディアのしつこさというのは、よく知っているつもりであった。
最悪の事件と称されたJ・S事件を解決した機動六課、と報道で担ぎ上げられた時期もあった。それを鎮圧した功労者の一人として、はやて等は広く知れ渡っているのだ。
ほとぼりが冷めるまで、それ相応の時間を要しており、彼女自身も精神的に滅入ってしまうこともあった。

「あの時は堪忍や……。下手に答えることも出来へんし、まかり間違えば変な情報が広がってまうし……」
「そうだね。あの時は、はやてが一番苦労したから」

  フェイトの言葉に、はやては如何にもという嫌そうな表情を作る。もっとも、英雄的な存在として見られている分、まだいい方かもしれないが。
その傍ら、マルセフが一体どのような回答をするのだろうかと気になる。先の早期解決のための対応策は、果たして存在するのであろうか。
事の時の彼女ら、いや、恐らくは全世界の人間が想像だにしない回答を、マルセフは公言したのだ。

『早期終結……。そのための考えは、練ってあります』
『ほぅ? 是非とも、そのお考えをお聞かせくださいますか、マルセフ総司令』

やや皮肉交じりにも聞こえるルーディの言葉。皆もシンと静まり返り、マルセフの言葉を待った。

『……それは』


早期講和です



『……は?』
「「……!?」」

  その場の空気が、時間が止まった様な気がした。殆どの人間が疑問の声を上げるか、ポカンとした表情で固まっている。今のは、聞き間違えであろうか。
あまりの予想外な回答に、次の声が出てこない。会場はたっぷり一分は静寂に包まれたかもしれない。いや、実際は三〇秒も経っていないであろうが、そう思えても仕方がない。
現に放映を見ていた、はやて達も唖然としてしまった。彼女らだけではない。今こうして中継を行っている、デミルは勿論のこと、陸上部隊のマッカーシー、フーバー等は勿論、聖王教会のカリムやシャッハも唖然とする。
  早期講和、聞き間違えではない。マルセフはそ言ったのだ。だがそれを現実逃避するかの如く、ルーディが今一度聞き返していた。

『……失礼ですが、もう一度お願いできますか』
『もう一度言いましょう。早期講和です』

馬鹿な! 記者団、市民、局員の大半はそう叫んだ。早期講和だと、何を考えているのかこの男は! 瞬く間にルーディとは別の記者達も、戸惑いと怒りに近い声を上げた。

『貴方は、一体何を考えておられるのか!』
『我々が聞きたいのは、そんな事ではなく、SUSに勝つための策です!』
『勝つつもりがあるのですか、あんたがた防衛軍は、そんな生ぬるい考えしかできないのか!?』

最後などもはや罵声に近い。だが、それでもマルセフは動じることはなかった。相も変わらず、肝が据わっているというべきであろうか。むしろ、予想した反応だという様子だ。
  はやては内心で思う。マルセフの回答には、視聴者の九割を納得させるのは不可能に近い。彼らの思惑を、考えをよく知りうる者でなければ難しいのではないか。
罵声を浴びせ続ける記者団だが、やがてそれを遮る程の怒号で会場内を激震させる。

『敵を皆殺しにする事が、我らの目的ではない! それは単なる大量殺戮に過ぎない!!』


  今までにない剣幕で、記者団を黙り込ませるマルセフ。その気迫は、東郷に迫るものがあった。死線を乗り越えてきた者が見せる迫力というものだろう。

『この戦いで、親、兄弟、友人を亡くされた方は大勢居ることでしょう。我が地球も同様です。過去の歴史において、数十億以上の犠牲を出しました』

マルセフが敢えて早期講和という方法を選んでいる理由は、その過去においての教訓にあった。地球はガミラス帝国の攻撃により全人口九割を失うことになった。
ガミラスは地球にとって憎むべき敵。それは誰しもが持った感情である。だが、その感情にあった者達がガミラス本星を殲滅して、快く思ったはずもない。
  あの古代が、以前なのはに向けて言った言葉の通り、血で血を洗うような惨劇を繰り返すことは避けねばならない。
無論、地球市民達全員が、ガミラスを未だに受け入れている訳ではないのだが、太陽暴走とディンギル戦役の件でかなり緩和されてもいた。
敵だった相手を受け入れる、これはガミラスに限らずガトランティスの残党にも行った処置であり、また、良き例としてレーグがいる。
共存が望めるのならば、それを選ぶ。だが次元世界の大半は、それを直ぐに理解できない。恐らくは、徹底的に叩き、完全勝利を望んでいるに違いない。
  かの旧日本軍も同様だった。連合艦隊長官の山本 五十六は早期講和を望んでいたものの、市民やメディアは打倒、欧米を叫んでいたのだ。
如何に早く戦乱を静めるか、それは講和しかないだろう。それが彼――山本の考えていることでもあった。勝つことが不可能なら、それしかないと分かっていたからだ。

「マルセフ提督の世界だからこそ、言えることかもしらへん」
「うん、そうだね。互いが死ぬまで戦うのは、本来は望まない事だって言っていたし……」

  はやて、フェイトはマルセフの言わんとする事を理解した。直接に話した事のある二人から見れば、よくよく考えれば納得も出来たのだ。
とはいえ、本当に講和など出来るのであろうか? 現実はそう簡単に講和が可能とは思えない。SUSは、多次元世界へ手を出している強大な国家なのだ。
戦力数も管理局や防衛軍と違って、桁違いに大きい筈である。よしんば次元空間で勝利を得たとして、SUS本国は早期講和を良しとする可能性は低い。
  後に軍備を整えて再侵攻してくるだろう。それでも早期講和を望む、とのマルセフの意志は固かいものである。
それでもSUSが早期講和を拒んだ場合はどうするのか、という問いかけに対して彼は答えた。

「我々は、この次元空間からSUSの脅威を取り除くまで……最後の一兵まで戦い抜きます」

先ほどの甘い考えしか言わない男が、一八〇度打って変わり冷徹な軍人へと変貌した! という印象を記者団は持った。最後の一兵まで、という言葉は恐らく嘘ではないであろう。
彼らは全滅を覚悟した上でSUSと対峙し、戦い続けるのだろう。或いはそれを、単なる無謀だと言う人もいるだろう。いいさ、それでも構わない。それが防衛軍のやり方だ。
SUS第七艦隊と戦った古代もそうだ。卑劣な支配には屈するつもりはない、最後の一兵まで戦い、平和を勝ち取るのだと言ったのだ。全ては、偽りなき平和のために……。





  会見はものの三〇分で終わりを告げた。この会見の一部始終を見ていた市民たちの反応は様々だった。防衛軍の活躍に期待する者、単なるロマンチストだと評する者、危険な存在だと危惧する者、場当たり的と意見する者。
それでも活躍に期待する割合の方が多く、今の時点では信頼するが七割、信頼できないが二割、どちらともいえないが一割というものであった。

「中々、面白い男ではあったな」

デミルの感想である。人を見る目はある方だと自覚している彼だが、マルセフの会見内容には一〇〇パーセントの満足は無くとも六割がたは満足しているようであった。
  管理局の中には平和を謳い、自らが平和の立役者だと主張する高官が多い。実績を示す者もいるが、中には大言壮語だけの者も少なくはない。
そして防衛軍のマルセフの場合、デミルは一切の偽りといった雰囲気は感じられなかった。特に注目すべきは彼の目だ。あれは、アマチュアな人間の目ではない。
歴戦であることを証明している戦士の目だ。かつてのレジアス・ゲイズとは違う、戦う軍人の目。レジアスは、リアリストでありながら酔狂な所も混じっていた。
平和の維持には彼の功績が大きい。それは事実だ。しかし、あまりにも現実的に考えるあまり、機動六課などを批判する事も多々あったものだが。
  聖王教会大聖堂の執務室には、先の会見を見ていた騎士カリム、シャッハの二名に加えて、ユーノ・スクライアとヴェロッサ・アコースという、珍しい組み合わせだ。
ユーノは無限書庫を失ったものの、データの移送先である教会大図書館に移り管理を続けていた。かたやヴェロッサは、視察という名目での来訪だった。

「早期講和……か。現実的であって、現実的ではないね」

小さな溜息とともにそう言ったのは、ヴェロッサだ。提案内容としては最善ではあるものの、それが実現できるかと言えば、不可能だろうと言いたいようだ。
それに同意したのはカリムとシャッハの二名である。マルセフには一度会っているカリムとしては、彼の早期講和という目標は困難を極める筈だと思っている。

「無益な流血は好まないのは分かります。しかし、SUSはそれを考慮するほど、甘い敵ではないでしょう」

しかし、ただ一人同意しなかったユーノの見解はやや異なっていた。

「僕も講和は難しいとは思うけど、可能性は完全に無いと決めつけるのも出来ないかな」
「それは何故?」

  そう問いかけたのはシャッハだ。ユーノによれば、防衛軍の提供した過去のデータを見ての考えだという。
残虐非道だと言われたガミラスは、地球と対等な関係にまで進んでいる。同じく地球を焼け野原にしかけたガトランティスにさえ、降伏を勧告して流血を抑えようとしていた。
デザリアムの生き残り、レーグを始めとする僅かな捕虜もそうだ。地球が滅亡の危機に瀕したにも関わらず、彼らは敵国に対して共存出来るような処置を施してきのだ。
  もしかしたら、講和はできないこともないのではないか。

「どこまで出来るかは、防衛軍、管理局、そして他国の力と、SUSの対応次第だけどね」

そう言いつつも、用意された紅茶に口をつけるユーノ。それに対して、付け加えるような言葉は無く、静まり返る室内で同じようにティーカップの紅茶を口にした。





  同じ時刻、次元空間を航行するエトス星艦隊の姿があった。地球艦隊総司令、マルセフとの話し合いにより頼まれた、輸送路および周辺の安全確保を行っているのだ。
あまりに地味だが、戦うことが本命の軍人である以上、このような任務は性に合わないものだ。と、彼は思っている訳ではない。この輸送航路の確保こそが、大切なものなのだ。
戦争において、補給路の確保は必須だ。それを絶たれてしまうだけで、軍隊は枯渇し、戦意を大きく低下させかねない。それくらいのことは、ガーウィックでもわかる。
この地味とも思える任務のおかげで、輸送航路を通過する輸送艦隊の輸送率は大幅に向上していた。管理局としても、民間企業としても、大変に大助かりだ。
  その任務をこなすエトス艦隊。幻想的な空間内部で輝くその姿は、やはり武人としての風格を醸し出している。
その戦艦〈リーガル〉艦橋には、いつものように堂々とした風格を放つ軍人、ガーウィック中将が航路警備の任務を淡々と続けていた。
だがその傍らで彼を含む艦橋要員達は、先ほどの会見の中継の全てを見ていた。唖然とするクルーが二名程、他にも首を傾げる者もいる。

「……提督も、総司令のお考えに賛同しておいでですか?」

  そう問いかけたのは艦長のウェルナー大佐だった。幾ら軍人であり武人であっても、無駄な流血は好まないところだ。しかし、相手が相手である。
決定に沿わない国には武力制裁を行い、人命や兵士を道具としか思ないような扱い。これでは幾らなんでも、早期講和による和平はできないのではないか?

「マルセフ総司令と話し合った結果だ。個人的にも、早期講和が締結されるなら大いに賛同する」

腕を組みながらも同意見であると返すガーウィック。何よりも、命を預けると決めた身だ。大方はマルセフの指示に従うつもりであるし、勿論意義がある時は上申する。
マルセフもそれを聞き入れぬ程に傲慢ではない。互いの主張を尊重しており、他の指揮官からも信望は高まりつつある。

「ですが、やはりSUSは降伏することは無いと、小官は予想します」
「うむ……そればかりは、我らにはわからぬ。互いどちらかが消えるまで、戦うことになるであろうかもな」 

  そこまで行ったとき、クルーの一人から報告が入る。

「提督、D航路周辺に異常はありません」
「そうか。このまま警備を続行させる。予定では、あと一時間ほどで輸送艦隊が到着する筈だ」

管理局の船だけでなく、管理世界の輸送艦も多い次元空間。SUSの脅威から守ろうと護衛についてくれるエトスを始めとした艦隊に対して、管理世界は心強く思っていた。
とはいえ、外世界に住まう軍隊に航路を預けるという行為は、全ての者に理解を得たわけではない。中には拒絶反応を起こす輩も多いのだ。
それも当然の反応だった。何処とも知らぬ者に、道の安全を任せるのは不安だろう。ましてや、SUSに加担していたことのある軍隊ならばなおさらのことである。

「……世間では、我々をどう見ているのでしょうか?」
「どうしたのだ、突然」

  残り一五分を切った辺りでウェルナーはぽつりと言葉を漏らした。何を言い出すのかとも思ったガーウィックであったが、彼にそのまま続けさせる。

「本国の要請で、こうして地球艦隊と戦線を組む事になりました。それ自体、小官は構わないのです。軍人として、名のある相手と共に戦えるなら不満もありません。しかし……」

時空管理局、はては次元世界の人間は自分らをどう見ているか。初めて会談で対面した時、彼らの中には不快な表情をする者も少なくはなかった。
警戒されるのも致し方ないとはいえ、これは本当に信用していいのか。民間人を大量虐殺したツケが、ここに回ってきたのではないかとも思えるのだ。
あの反応からして、その虐殺に手を貸したことは知られていよう。ガーウィックもそれは予期していた。防衛軍の話を聞いた管理局が、我らを快く思う訳がない、と。
  だが、拒絶されてしまうよりは良い。これから戦わねばならないという時に限って、そのような事になっては目も当てられないのだ。

「貴官の不安も最もだ。しかし、共に戦う以上、いがみ合うわけにもいくまい」

そう、彼らにしても管理局を快く思っているのではない。SUSのように、一つの巨大な組織体が広範囲の次元世界を治めている、という状態に不快感を示したのだ。
SUSほどでもないにしろ、それまでは彼らが次元世界を見守ってきたのだという。とはいうものの、その法律を聞くや否や、地球の面々が示した反応を、ソックリ感じた。
  魔法のみの力でしか、事件にも、突発的な行動にしても、対抗することができない……という風に捉えてしまうのだ。大胆に考えれば、確かにその通りであろう。
個人でデバイスを所有せず、魔力を使えない一般人からすれば理不尽極まりない。ガーウィックも、この考え方にはおかしいと疑問を持たざるをえなかった。
それでもSUSと比べれば、まだまだマシな方だ。局員の中には本気で平和を守りたいと、切に願う者も多いと、マルセフから聞いている。
  対するSUSは、平和というのは殆ど建前に過ぎない。真の狙いは資源の確保のみだ。人間など、生きていようが死んでいようが関係ない。資源を取る、ただそれのみ。
敢えて住民や国家を破滅させずに、同盟国として引き入れていったのには別の意図もある。自国の戦力だけでは、はっきり言って銀河一つを掌握するのは不可能に近い。
彼らSUSは、他世界の次元をも支配しようとしているのだ。余裕など出るはずもないため、ならばいっそのこと他国の戦力を利用してはどうか?
雪だるまのように、他国戦力を配下に置いていくことで、残る国家に重圧を掛けていく。さすれば、必然的に戦わずに降伏するか、あるいは連合軍として膨大な戦力を持ってして、敵国を完膚なきまでに叩きのめせばよいだけのこと。
  天の川銀河にいた第七艦隊は、そのようにして属国を増やし、領土を拡大化させたのだが、その高圧的な態度と行動によって、他国から見放される原因ともなったのだが。

「管理局すべてが、我らに対して非協力ではあるまい? マルセフ総司令から聞いたが、キール元帥やハラオウン提督、などは、十分に信用できるようだ」
「あのご老体三人と、女性提督でしたか」

ウェルナーは直接の面識がない故、記憶を手繰り寄せる他ない。

「そうだ。彼らがいる限り、心配はいるまい……」

  そこまで行ったとき、オペレーターが報告を入れる。予定の輸送艦が次元転移を果たして来たとの事だった。この話題は、一端中止せざるを得ず、任務に専念することになった。
同じように、疑惑の目を向けていたのは彼ら連合艦隊の面々だけではない。話に上がった時空管理局のある面々もまた、同じようなものの考え方をしていた。
  ガーウィックが上げた者達に関しては、まだよい。問題は、いまだに残る強硬派の人間だ。今はこうして穏健に事は進んでいるのだが、如何せん、疑惑の念が消えた訳ではない。
そして、地球防衛軍の存在もまた、彼らにとって目障り極まりない存在である。SUSとの戦争が終わったとき、彼らは本当に資源惑星を返還するというのだろうか?
戦争が終ってもなお、この次元空間に居座り続けるのではないか。そして、知らぬ内に管理局にとって代わるようなことになるではないか。考えればきりがない。
  その不安を会議の場で申し立てた強硬派の高官達だったが、穏健派として名の上がるリンディ、レティらにより退かれてしまった。

「先日、防衛軍……いえ、地球連邦(E・F)政府は、正式に惑星の返還を約束しました。それも、元帥閣下らが直接に交えた話です」
「連邦政府も、大統領が対談しています。これで内容を裏切るのであれば、それは地球が信頼を損なうだけではなく、今、協力関係にあるエトス、フリーデ、ベルデルの三ヶ国からも、批難の的となりましょう。今まで過酷な状況を生き抜いてきた彼らが、そのような事を考慮しないとは考えにくいです」

彼女らの推測は正しかった。地球連邦政府は、過去の経験からして敵勢力を増やそうとは思ってもいない。それこそ、地球は永遠に続く戦果の渦へと放り込まれてしまうからだ。
平和を主張する彼らが、自らが不利益になるような行動に出る筈がない。会議に同席していたジャルク提督などは、直接に見て来ただけあって、強くそう思っていた。
  中には傲慢な人間もいるであろうが、大統領のバライアンをはじめ、司令長官である山南の人柄からしても、裏切るようには見えなかった。
それに各管理世界では、地球防衛軍に好意的な態度を見せ始め、その数は徐々に増えつつもある。特に非魔法文化世界にとっては、その圧倒的軍事力に憧れてしまう始末だ。
しかも防衛軍の使用する兵器類の魅力にひかれて、それら兵器を導入したいと考え始める政府高官も現れる。

「彼らの武器があれば、我々も身を護れる」

  また特に不安な事――それは防衛軍の技術を巡り、介入してくる輩が必ず出てくるであろうことだ。まだまだ管理局には、扱うには難しい波動エンジン。
それが流出してしまったらどうなるか。独自の進化を遂げ、管理局すら上回る兵器を作ってしまう可能性だって十分にある。もしそうなれば、第二の戦争が発生するだろう。
醜い争いの繰り返しが続き、管理局は全管理世界の平和を守り抜く事などできなくなる。そうあってはならない。管理局が上に立って、平和を守らねばならないのだ。
  管理局高官と各世界政府高官、お互いに立場を主張して譲らなかった。

「武器を導入させては、争いの火元になる」
「だが、我ら世界の安全を護るには必要だ。それに、管理局だけがその技術を持っているのであれば、それは不公平ではないか」

このような具合である。既に波動エンジンに関する資料は、管理局の手に渡っている事もあって、各世界も納得するわけはない。各技術部も、新兵器の開発に余念がない状態だ。
自分らの兵器が通用せぬ以上、これらを抹消すること等、マイナス効果しかない。ならば、管理局以外に波動エンジン技術が漏れぬよう、徹底関する他ない。
管理局だけで独占状態を作り上げること、これしかないのだ。とはいえ、兵器関連企業も絡んでこようとするだろう。
  特にカレドヴルフ社、ヴァンデイン社らには気を付けねばならない。彼らに武器が流出し、そこからさらに外世界へと武器が出回ったらどうなるか。
それで戦争状態に陥れば、防衛軍が鎮圧のため、と大義名分を立てて割り込んでくる可能性もある。そうなれば、管理局は対応の不手際から何やらと責任を問われるだけはない。
管理局という組織自体が解体されかねないのだ。解体された後には、恐らく防衛軍の傘下に形を変えて加わることになろう。
それは何としても避けねばならない。我々、管理局が潰えてしまうなど、断じて許されないのだ。





〜〜あとがき〜〜
 どうも、また遅れての投稿になります。今回はどうもストーリー構成に悩んだ挙句、このザマですw グダグダ感がにじみ出ております。書きたいことはいろいろとあったのですが、それをどう繋げるべきかと、非常に悩んでおります。そして今になって悩まし事が他にもできました。
多くの方はすでにご存じだと思いますが、間もなくリメイク版ヤマトが放映されます。登場するメカニックについてですが……驚くことにどの艦もかなり大型化しておりました!
〈ヤマト〉が二六〇m程から三三三mと、七〇mも大幅に大型化、さらにはガミラス駆逐艦が巡洋艦に変更になったうえ、二五〇mにまで大型になってます(本来は一八〇mという説があるようです)。
さらに二六〇m級のシュルツ艦が、三五〇m級の弩級戦艦へと変貌……(汗)防衛軍側は、大きくて二〇〇mなので許容範囲なのですが、〈ヤマト〉がこうも大型化するとは……。
今書いているこの作品、全長データをすべて見直す必要があるようで、非常〜に悩んでますw

 それと、これは皆さんのお声によっては変えようかと思うことがあります。
それが……地球防衛軍の階級表です。当作品では、少尉・中尉・大尉、少佐・中佐・大佐、准将・少将・中将・大将、という形にしております。
しかし、復活編および二一九九では、日本の自衛隊が使用する(またはリリカル〜の管理局が使用する)、三尉・二尉・一尉、三佐・二佐・一佐、将官、となっています。
世界各国で共通させるならば、少尉などの呼称がしっくりくるんですけどね……自衛隊式だと、割に合わないんですね。特に将官クラスが(あっても宙将か宙将補でしょう)。

 次は私的ごとですが、宇宙戦艦ヤマト復活編(ディレクターズカット版)を拝見しました。私は元々、修正前でも馴れてしまった口でしたが、やはり昔ながらの砲撃音の方がしっくりきますね。
全体的な評価は、まぁまぁといったところでした(個人的に)。足りないシーンを追加するなどといった点は、大いに評価できます(冒頭と中盤の艦隊戦、アマール艦隊が軍港から飛び立つシーン等)……が、何故でしょうか、シーンの切り替えにキレがないのと、テンポの悪さ感じました。
やけに無音のシーンが多かった様な気がしますし、特にゴルイ提督の特攻シーンでは、曲の入り方が遅く、鳥肌を感じさせてはくれませんでした。
SUS要塞戦もそうです。交響曲を使っていた時の方が、まだテンポがいい気がします。
とまぁ、これは本当に個人的な評価ですので、あしからず(修正前の方を五回以上は見たせいで、それに慣れすぎたのかもしれないです)。
多くの人は、ディレクターズ版が良いと仰る方が多いと思いますが、そこは賛否両論ですね。
 最後のシーンでは、やけに旧世代艦が多く出ていました。当作品でも、旧式艦は出していたので良いのですが、問題はガミラス時代の磯風型宇宙駆逐艦が、多数出ていたことです。
まさかここまで出すとは予想外! どうせなら、金剛型宇宙戦艦も出してくれればよかったのですが……。

あ……それと最後に。宇宙戦艦ヤマト、銀河英雄伝説、マクロス、タイタニア等で監督や演出を務められた、石黒昇氏が亡くなられたそうですね。
ネット新聞で知ったのですが、思わず唖然としました。当サイト様で活動される空乃涼さんも、お書きになられていましたが、本当に惜しい方を失ったと思います。
あぁ……ヤマトに関わった方々が次々に世を去られていくのは、心苦しい限りです。


〜拍手リンク〜
[一三〇]投稿日:二〇一二年〇三月二四日一七:五一:八 EF一二 一
更新ありがとうございます。
に〇ふぁんは今、粛清(?)の嵐です。
小学館や講談社、サンライズ作品絡みの二次作品はほぼ潰滅です。
ヤマトやリリカルなのは、松本零士、集英社、角川グループの作品は今のところ粛清の対象外ですが、原作からの引用が目立つとかで抹殺された作品がありました。
私も気をつけないと‥‥。
で、いよいよ採掘と“駆除”作業ですね。
しかし、今は地球艦隊がいるからいいとして、事態が解決して、彼らが撤収した後はどう維持していくんでしょうね。
地球側は原住生物を根絶させる事には抵抗があるようですし、採掘はこれからも行わなくてはいけませんしね。
ところで、時期的には、エトス、フリーデ、ベルデル艦隊の面々と管理局の面々の話も必要ではないでしょうか?
地球側とはだいぶ打ち解けたようですが、新たに加わった3ヶ国は管理局に対してどんな印象を持ったのでしょう‥‥?

>>感想書き込み、感謝です!
そちらでは、まだヤマトが対象外であるようで、ホッとしております。それが対象になった日には……。
資源惑星はどのみち返還しますが、その後をどうするかは、まだ決めかねています。
管理局としては、このまま資源を採掘しようかと考えるのでしょうが……。
エトスらの心境を書いてみましたが、いまいちだったと反省(汗)



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.