地球防衛軍、時空管理局他、連合軍艦隊がSUS艦隊の前衛艦隊を捉えたのは、出撃しておよそ12日後の事だ。次元航行艦船の足を考慮すればこそ、この時間を要した。
防衛軍のみであれば、6日から7日前後で到着できるのであろうが、今回に限ってそれは控えなければならなかった。

「SUS艦隊、発見しました!」

索敵管制室の第3艦橋から報告が入るなり、艦橋内部および全艦隊に緊張が走る。方角11時50分、仰角13度! とSUSのいる方角が引き続いて入ってくる。

「全艦隊、総力戦用意。直掩機隊、発進準備!!」
「了解!」
「艦載機隊、発艦準備!」

連合軍総司令マルセフの号令が各艦隊の回線を貫いて走ったのは、SUS艦隊の前衛艦隊を発見した直後の事だ。最初にその姿を捉えたのは、他ならぬ〈シヴァ〉だ。
各分担のオペレーター達がコンソールを操作して距離を測り、時間を測り、命令を伝達していく。防衛軍は特に、シークエンス移行を早く終える。
同時にレーダーで捉えた反応から、SUS艦隊の戦力を解析し終えた。ディスプレイに映された計測数が読み上げられる。

「艦隊の分析完了。正面に前衛と思しき3個艦隊、およそ600隻が展開! 後方に、3個艦隊およそ630隻……いえ、さらに艦隊を発見! 総計、1500隻余りです!!」
「何だと……話しと違うじゃないか」

 結果を報告するレーダー長の報告に追加され、おもわず顔をしかめたのは戦術長ジェリクソンだ。それは他のチーフ達も同様で、揃って深刻な顔を見合わせた。
SUS要塞にいたガーウィックらの報告では、1100〜1200隻程の戦力だった筈だ。それが300隻上乗せの1500隻の大艦隊とくるのだ。戦力差はさらに開いたも同然である。
元々、戦力不足から連合軍側に不利がある事は誰もが承知していた。次元航行艦が約半数を占める艦隊編成では数ほどの力は発揮できず、質として見るとSUS艦隊の2分の1――即ち2倍の敵艦隊を相手取る事を意味していた。
 だが、先の報告からすれば、連合軍は3倍の敵を相手取る計算となる。SUSは艦隊数にして20個艦隊分を揃え、連合の前に立ちはだかっているのだ。
数の上では1.5倍の敵であるが……とラーダー参謀長等も、顔をひきつらせていた。やはり、敵は戦力不足に陥ってはいなかったのだ!
しかも、レーダーの中に一際大きな反応が2つある。エネルギー放出数値からして、それは通常のSUS戦艦とは比にならない。
これに該当するものが……あった。

「司令、これはレベンツァ星域で確認した大型戦艦と、ほぼ同じものです」

 そう告げたのは技術長ハッケネンだ。これに皆は驚いた。全高1.5qの巨大戦闘艦――もとい小型要塞のことは、まだ記憶に新しい。
砲撃能力は〈シヴァ〉を上回り、防衛軍艦船も何隻かがこれに食われてしまった。こんなものがまだ、SUS艦隊に残されていたのか。予想外の事に戸惑いを覚える。
それだけではなく、さらに後方で陣取る2qの超大型の戦闘艦、あるいは要塞の異様に気圧されてしまう。なんだあれは、SUSの新兵器か!
 通信に画面にガーウィックおよび古代が現れる。ガーウィックは、この新型艦の存在は初めて確認したと口にする傍ら、古代も見たことのないタイプだと言う。

『SUS要塞にいたとはいえ、これほどの艦を保有していたのは予想しなかった。恐らく、あの〈ムルーク〉以上の戦闘能力を持っているとみて、間違いあるまい』
『私も銀河系で遭遇したSUSでは、これほどの戦闘艦は確認してはいません。戦闘能力も未知数です』
「分かりました。あの艦の動向には一層の注意を向ける事に致しましょう」

そこで通信を閉じ、マルセフはSUS超大型新鋭艦に対して警戒を怠る事のないよう厳命した。どのような性能を有するかは分からないが、まずは緒戦で優位に立たねばなるまい。
地球艦隊は120余隻、その内で無人艦は30余隻を占めている。だが肝心のダミー艦隊はここには居ない。戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉と共に作戦行動で別にいる。
実は出撃時に際してダミー艦艇の殆どは姿を見せてはいないが、これには理由があった。連合軍、とりわけ防衛軍で警戒していた、SUSの次元潜航艇の存在だ。
 亜空間に入り込み、偵察行動に出てくるであろう事を予測していたのだ。事実、管理局の管理空間において、少なくとも2回その姿を確認している。
となれば、当然、自分らが出撃してくる時にも監視されているとみて、然るべきだ。そこでマルセフらは、わざとダミー艦艇を出撃させなかった。
同時に密かに動かしていた亜空間・次元空間探査機を広範囲に配置させ、SUS次元潜航艇の動きを逆に監視していたのだ。この探査機はレーダーに発見されにくい程、小型だ。
そして出撃直後にまでSUS艦艇をわざと泳がせた。自分らの戦力を、SUS本陣に送らせるためだ。案の定、SUSの多目的支援艦〈ガゼル〉からの微弱な電波を受信。
途端にマルセフは波動爆雷を散布、〈ガゼル〉に離脱させる暇を与えずに撃沈せしめたのであった。

「敵が誤報を信じてくれればいいのだがな……。囮部隊は予定通りの航路を進んでいるか?」
「はい。後は、我が艦隊との連携と、囮部隊の行動次第、といった所です」

コレムがマルセフの問いに答える。連合軍の執った策、それはまず囮を使って敵を動揺させることだ。そしてもっと肝心な事。それは――

「囮を本隊と誤認してくれれば良いのだがなぁ……」

 そこにこそ、敵を切り崩すチャンスが生まれる筈なんだ。そうボヤいたのは戦艦〈リットリオ〉艦長のフォルコ・カンピオーニ大佐だ。
いつもながら真面目なのか判別の付きにくい男だ、とエミー・クリスティアーノは思う。だが、不真面目そうな彼が本気になる時の、そのギャップにほれぼれとする時もある……後々に後悔することも多く、そう感じた自分を殴ってやりたい。

「全ては連携に掛かっていますからね。艦長も、もっとシャキッとしてください」
「……あぁ、分かっているよ。エミー」

まただ、いつのふざけた雰囲気と違う、惚れ惚れとするような表情だ。思わずドキリと高鳴るものの、表面には出さない。それぐらい、お手の物だ。
 そんな時である。オペレーターの1人が報告する。

「艦長、我が艦隊の攻撃隊が、間もなく敵艦隊に到達します!」

艦載機隊による攻撃部隊は、艦隊が交戦可能距離に入るずっと前に出撃を完了させていた。出撃していく際に、艦橋越しで編隊を組んで飛び立っていく彼らを見送ったのだ。
この攻撃隊は地球軍機約490機とベルデル軍戦闘機約700機、そして管理局の特殊攻撃隊約120機で構成されており、その数全体でおよそ1300機の大編隊となった。
ベルデル艦隊に残されているベルデルファイターは1300機あまり。マルセフや古代、そしてベルデル艦隊司令ズイーデル中将と話し合った結果、ベルデルファイターにSUS艦載機を抑えて貰い、その傍ら防衛軍機は対艦攻撃に専念する事になったのだ。
 攻撃隊となる〈ヤマト〉率いる第1特務艦隊で270機強、〈シヴァ〉率いる第2特務艦隊で220機前後。通常であれば1個艦隊あたり430機であるが、今回は事情が大きく異なる。
第1特務艦隊は定数72隻を満たすものの、その内部編成はスーパーアンドロメダ級5隻、ドレッドノート級7隻、戦闘空母1隻、巡洋艦25隻、駆逐艦33隻だ。
主力艦隊の残存艦隊を糾合して再編されており、戦闘空母は1隻のみに留まっている。さらに、スーパーアンドロメダ級戦艦も5隻しか編入されていない。
第2特務艦隊に至っては、スーパーアンドロメダ級2隻、ドレッドノート級5隻、巡洋艦7隻、駆逐艦9隻、戦闘空母1隻という内容。補助として無人艦が36隻程編入されてはいる。

「生きて帰れよ……」

カンピオーニはSUS艦隊に突入していく連合軍艦載機隊に、静かながらエールを送るのであった。

「敵連合軍より、小型機多数確認。 敵の艦載機隊と思われます。数、およそ1300!」
「敵艦載機隊の到達まで1分半!」
「長官、敵は我が方と同じく艦載機による攻撃で、戦力をすりつぶす腹でしょう。直掩機で迎撃すべきです」

 SUS艦隊総旗艦〈ノア〉艦橋にて、連合軍艦載機の報告に幕僚の1人が対応を進言する。新しい玉座で、ディゲルは薄めで戦況スクリーンを睨み付けたまま、沈黙する。
連合軍、もとい地球軍の艦載機が攻撃の要に違いあるまい。所詮、ベルデルの艦載機では対艦攻撃には不向きであることは、前々の戦闘データからでもよくわかっている。
丁度彼らSUS艦隊も、攻撃機隊を発艦させており、連合軍に所詮で打撃を与えるべく向かっている。その数、およそ1260機前後。〈ガズナ〉級6隻から飛び立ったものだ。
その内、前衛艦隊旗艦〈マハムント〉の艦載機隊も含まれ、勇躍出撃していった。この〈ガズナ〉級は、後方支援砲撃に参加することは無い。
 空母としての役割を持つ艦が余計な事をして、沈められては元も子もないからだ。それに、後々に陸上部隊を乗せてミッドチルダに向かわねばならないのだ。

「よろしい。後方部隊に打電、直掩機を出して艦隊の防空にあたらせろ」
「ハッ!」

SUS艦隊の直掩機は600機。これだけでは、連合軍の艦載機隊を防ぐことは難しいだろう。だがディゲルは、連合軍が艦載機戦による先制攻撃を仕掛けてくるであろうことを予測しており、そこで要塞に配備されている艦載機隊を回してもらうよう、ベルガーに進言していた。
要塞の直掩機だけでもおよそ1000機あまりを数えるもので、この半数余りが直掩機として既に艦隊防空に回されている。対策は万全を期すものだ。

「……さて、お手並み拝見と行こうじゃないか」

ドッグファイトから幕を開ける決戦に、ディゲルは心奥底で牙を研ぎながら細く微笑んでいた。





 SUS艦隊機隊1260機もの大編隊は、連合軍攻撃隊と擦れ違う形で進撃してきた。同時に相手も同じことを考えているのだろうとの察しが容易に付く。
この艦載機戦でどれだけの戦果が出せるかは、パイロット達の腕に掛かっている。そして、護衛をするベルデルファイター部隊の働きにもよるのだ。
メイン・スクリーンには、数えきれない数の光点が散りばめられており、SUSも相当数の艦載機を投入してきたのだと実感する。

「直掩機隊、敵艦載機部隊と交戦! 同じく、我が攻撃隊も敵直掩機部隊と交戦状態に入った模様!」

ベルデルファイターで構成された直掩機部隊600機が、SUS艦載機隊の迎撃にあたっていた。純粋な戦闘機である分、性能差では多目的なSUS戦闘機にやや勝る程度のものだ。
艦隊防空の要とされたベルデルファイターのパイロット達は、皆して自分らに掛けられた期待に応えるべく奮闘した。次元空間内部は、たちまちに小さな花火で照らされる。
緑色のパルスレーザーと、赤色のパルスレーザーが網目のように空間を縫っていく。それに狩られた戦闘機もまた、小さな光球となって消滅する。
 このドッグファイトにおいて、ベルデル軍戦闘機隊は短時間でかつてない撃墜数を誇った。戦闘開始から僅か6分余りが経過した頃には、40機余りを撃墜したのに比して、ベルデルファイターの被撃墜数は17機あまりだった。
ただしコスモパルサー隊に比べれば、その撃墜数は比較するのにまだ数が足りないものの、初戦におけるドッグファイトでは期待以上の戦果を挙げた。
とはいえ2倍近い艦載機隊を防ぎきる事など不可能である。それも予想ずみなマルセフは、ドッグファイト開始時には新たな命令を下していた。

「全艦対空戦闘用意。主砲1番から6番、9番から10番、副砲1番から2番、コスモ三式弾を装填!」
「方位、11時30分、俯角5度!」
「コスモ三式弾、装填完了まであと20秒!」

 〈シヴァ〉艦橋のマルセフから指示を受けて、ジェリクソンは前部主砲と副砲に対して、エネルギー弾ではなく実弾兵器――コスモ三式弾の装填を伝達させる。
同時に前部主砲を全て、計算された方角へ向けた。〈シヴァ〉の正面砲撃能力は連合軍艦艇のどれをも凌駕するのだ。その破壊力は計り知れない。
そして、コスモ三式弾は所謂、対空特殊弾である。第2次世界大戦などでは、より効率的に艦載機を落とすために開発されたのが、ある意味で原型と言えるだろう。
 しかし三式という名称を使うところから、開発したのは欧米諸国ではないのが分かる。開発に成功し、防衛軍全体に広めたのは軍需産業の主力、南部重工業である。
波動エネルギーを、初期開発されたものよりさらに密度を濃く封入しており、敵編隊内部で自動的に爆破した途端、広範囲にわたり波動エネルギーを散布するのだ。
さながら小型の拡散波動砲と言っても過言ではない、防衛軍取っておきの兵器である。ただし、実体弾であるがゆえに、弾薬に制限があるのも事実であった。

「全弾装填完了!」
「司令、全艦、コスモ三式弾装填完了しました!」

準備は整った。レーダーと戦略スクリーンには、ベルデルの防衛網を突破したSUS艦載機隊が直進してくるのが分かる。腹を空かせたシャチの群れの様だ。
だが、発射するにはタイミングが早い。コスモ三式弾を有効的に活用するには、やはり敵艦載機がある程度の数でまとまってくれている必要があるのだ。
見たところでは、まだ数にばらつきがある。もう少し、引き付けてからの方が良いな、とマルセフは冷静に見定め、全艦に発射を控えさせた。

「艦長、まだでありますか!」

 〈シヴァ〉とは別にして、〈ヤマト〉艦橋では発射命令を今かと待ち続ける、若き戦術長の上条了が言った。それに対して、古代は頷きはしない。

「まだだ、上条。総司令の命令を待て」

上条は熱血に類するタイプの青年で、一見すると猪突猛進と勘違いされる事もある。だが戦闘における艦の指揮は的確かつ、冷静な手腕を有していた。
上官に窘められる上条は、反論する事もなく、了解の一言で待機を継続する。他にも同じように焦りを見せる人間もいるが、それが暴発には繋がらないのは見事と言えよう。
 やがて、総旗艦〈シヴァ〉レーダー管制室からの詳細情報が、攻撃のタイミングを導き出した。コスモ三式弾の影響範囲に、味方機は巻き込まれることは無い。
今だ、マルセフは艦隊防空戦闘の第一声を放った。それに続き、コレムが〈シヴァ〉の砲撃指示を下す。

「全艦一斉射、撃てッ!!」
「ファイアッ!!」

 ――瞬間、〈シヴァ〉主砲24門、副砲6門が、ビーム砲とは違う発光炎を輝かせ、砲身が一斉に火を噴いた。それとほぼ同じタイミングで、他の戦艦群から放たれた。

「……信管作動、今!」
「おぉっ!!」

戦艦から放たれたコスモ三式弾の威力は絶大だった。これはマルセフの発射命令のタイミングが的中していたことを告げるものであった。
コスモ三式弾は、SUS艦載機隊の前衛に突入したと同時に、波動エネルギー特有の青白い閃光を放った。そしてそれは、SUS艦載機隊の前衛を瞬時に飲み込んでしまったのだ。
解放された波動エネルギーは当たり一面に、小型ながらも極めて強力なエネルギー放射を行う。それは衝撃波や強力な放射熱を伴った、恐るべきものである。
 地球世界で言う花火が宇宙空間に咲き乱れたようだ。防衛軍兵士たちは、改めてその威力目の当たりにすると、思わず驚きの声を上げた。

「敵編隊、およそ200機を撃墜!」
「残り900機あまり、編隊を広げてきています」
「打つ手が早いですな。瞬時にコスモ三式弾の対応策を繰り出してきました」

ラーダー参謀長がSUS艦載機隊の対応能力に感嘆の声を上げる。が、この指示は艦載機隊を指揮する者の結果ではない。後方にいるディゲルの指示だった。

「全機直ちに散開、密集しては食われるぞ! ……おい、あの攻撃なんだ」

 コスモ三式弾が爆発し、艦載機が瞬く間に蒸発した光景に大声を上げるまでにはいかないものの、ディゲルは地球軍の思わぬ新兵器に表情を引き攣らせていた。
驚く暇があれば命令を出す。彼はそれを精力的にこなす傍ら、問いかけられたオペレーターはコスモ三式弾のデータ解析を報告した。

「地球軍のタキオン粒子反応が検出されました。波動砲の小型兵器ではないかと!」
「あの殲滅兵器の応用か……味な演出をしてくれる」
「下等生物め、姑息な真似を!」

ギリッと歯ぎしりするディゲルの側では、彼の幕僚が感情に任せて地球艦隊を罵った。とはいえ、どの道艦載機隊の事はパイロット達に任せる他あるまい。
逆に連合側艦載機隊はSUS直掩機部隊との壮烈なドッグファイトを繰り広げるものの、ベルデルファイターの果敢な攻撃の前に防空網はズタズタに寸断されつつあった。
いつもながら、期待以上の戦闘を魅せてくれるではないか、連合軍め。怒りとは別に、ディゲルは再び、管理局本局会戦と同じような高揚感に近い感覚を味わった。
だが、この後目にする驚きの光景に、彼のみならずSUS軍将兵は驚き慄くことになる。





「食らいやがれ!」

 連合軍艦載機隊の攻撃隊長を務めるのは、〈シヴァ〉艦載機隊長の坂本である。彼はコスモパルサーを自在に操り、敵艦隊に突入、ミサイルと撃ち放った。
忽ちにSUS戦艦が火だるまとなり果てる。今まで好き放題にやってくれた例だ、受け取りやがれ。それは、SUSにより虐殺された市民、そして戦死した戦友たちの仇である。
火だるまになった戦艦は、残った兵装で果敢に迎撃してくるが、彼の叶う相手ではない。機体をローリングさせながら、全てを避けきると同時に、その戦艦の後ろに出た。

「沈めぇ!!」

残ったミサイルが、SUS戦艦のエンジン噴射口へと命中する。爆発は瞬く間に艦内を蹂躙し、内部から外側へ向けて強力な力が働き、まるで風船が破裂するが如く戦艦は爆沈する。
 だがそれでもSUS軍に痛恨の一撃を与えたとは言えない。1500隻規模もの大艦隊で、1隻落としたくらいではどうにもならないのだ。
ふと別の機を見る。スーパーアンドロメダ級戦艦に搭載されている、対艦兵装型の彩雲が実態弾装備のキャノンを発射、電磁幕を易々と貫通せしめ、大穴を開けている。
さらに例の〈デバイス〉も、中々の奮戦ぶりだ。白い機体が縦横無尽に次元空間を飛び回り、コスモパルサーの遥か上を行く重装備で、SUS戦艦を撃沈していく。

「やるな、彼女らも……」

恐らく、あの機体はハラオウン一尉のものだろう。模擬訓練の同様、良い動きをしている。初めて戦場に出て、相手を殺すことに動揺していなければいいがな。
 ヴォルケンリッターや、本局防空戦闘で出動したと言う高町 なのはなどは、まだ幾分かは大丈夫であろうとは思った。がフェイトは違う。
彼女は血生臭い戦闘を直接に見ている訳ではない故、相手を殺した時の動揺すえるだろか。いや、そんな事は本人にしかわかるまい。
何回かの模擬訓練の前後に直接話していたが、彼女は芯の強い人だ。彼女ならば、この最初で最期となるであろう過酷な戦いに、耐えられるかもしれない。
そんな事を短い間に考えながら、残ったミサイルを叩きつけるべく、機体を翻させた。

「何だ、あの機体は!?」
「直掩機は何をしているか、さっさとあれを落とせ!!」

 〈マハムント〉艦橋には、連合軍艦載機隊により次々と被害を被る味方艦隊の姿が映し出されていた。航空参謀は落とせと叫び、ルヴェルは初めて見るその機体に目を奪われる。
いや、機体と言うには大きすぎるものだ。あれは大型爆撃機――いや、小型の突撃艇と言うべきか。紡錘型で、綺麗な流体曲線を描くその機体。
それこそ、防衛軍の協力で開発された秘匿兵器〈デバイス〉級戦闘艇だ。高ランク魔導師が使用できる、管理局の切り札的存在。それが戦場で華麗に舞っているのだ。
全長こそ50mだが、機動性能は戦闘機に迫るものだ。〈デバイス〉ら攻撃部隊の攻撃性能は驚くべきものだった。まずは、その火力に注目すべきであろう。
 両翼に備え付けられた大量の対艦ミサイルが、1隻のSUS戦艦の上部甲板を破壊し尽くす。砲塔は爆撃の影響で全て吹き飛び、艦内も大規模火災に見舞われる。
元々は防衛軍性のミサイルであるだけに、その威力は管理局自身にしても驚くべきものがある。とはいえ操縦者に動揺している暇など、戦場にはない。

「五月蠅い蠅共が……! 直掩機隊に告ぐ、単機で落とそうとするな。各編隊はフォーメーションを崩さず、複数で追い詰めて撃破するのだ!」

〈デバイス〉を撃ち落とすことすらできない味方機に苛立ちを募らせつつ、ルヴェルは3〜4機からなる集団で攻撃するように伝えた。
だが撃ち落とせないのも無理はなかった。それは〈デバイス〉の運動性能もさることながら、単機での電磁幕装置を搭載し、艦載機のパルスレーザーを弾いてしまうのだ。
かつて模擬戦闘で相手を務めたエースパイロットの坂本でさえ、かろうじて引き分けに持ち込んだ性能を有している。コスモパルサーと拮抗していると言っても過言ではない。
 SUSの有する戦闘機ですら、コスモパルサーに劣るのだから、〈デバイス〉に対抗するには性能不足と指摘されても致し方が無いであろう。
だがSUSの基本戦闘スタイルは戦闘艦艇による大火力で、敵を蹂躙または圧倒することにある。その典型的例が第1次移民船団を撃破したSUS艦隊でもあるのだが……。

「畜生、なんだあのバケモンは!」

そう叫ぶのは迎撃に出ているSUS軍戦闘機のパイロットだ。50mという戦闘機ならざる相手に対して、機銃を当てること自体は易しい。
しかし、何百発撃ち込もうが効果が見えないのだ。しかも迎撃火力が半端では無い。見るだけでも砲座が4基、さらに多量のミサイルポッド、そしてシールドを有しているのだ。
ルヴェルの命令により、4機編隊で集中攻撃したものの、相手の弾幕射撃で纏めて薙ぎ払われ蹴散らされるだけに終わってしまうのだ。
 しかも、大型ミサイルを撃ち尽くした一機がこちらに狙いを定めて襲いかかって来た。たちまちの内に十機余りが叩き落とされ、集団攻撃が為に集まっていた大編隊が追い散らされてしまう。
ルヴェルからの再びの命令、艦砲の射線に追い込めという無茶な命令に悪態をつきながら従うよりほかなかった。
 〈デバイス〉は両翼に装備された大型対艦ミサイル2発、両用ミサイル6発、そして機首下部に装備された対艦砲1門を1隻のSUS戦艦に向けて撃ち放つ!
SUS戦艦は機銃と主砲で撃ち落とそうと必死になるが、それを尽く回避していく〈デバイス〉の前には無力だった。そして、上面から落とされたミサイル群が、炸裂した。
一瞬で上甲板は火の海に晒され、戦闘能力の半分以上を削り取られた。

「戦艦〈ユーセラ〉大破っ! せ、戦闘不能!?」
「司令……!」
「狼狽えるな、馬鹿者が!! 」

ルヴェルは周りの狼狽える幕僚を叱咤する。ここで騒いで戦況が良い方向に傾くわけが無かろうが! このままでは、あの新兵器に艦隊をすり減らされてしまう。
 それだけではない。地球軍からの艦載機攻撃も驚くべきものがある。多量のミサイル攻撃に、我が方の戦艦がまた落とされる……!
彼にとって初めて、地球軍と刃を交える。それ故、地球軍艦載機などは気にも留めていなかった。以前のディゲル直接の指揮で戦った本局会戦でも、その存在は確認されていた。
だがその数は恐れるほどのものでもなく、艦隊同士が既に射程距離にあったのだ。これで無暗に艦載機戦を仕掛ければ、それは味方艦載機を撃ち落とす結果になりかねない。
戦闘機としては侮れないとは聞いていたが……まさか、対艦攻撃でも我が方を圧するとはな。初戦で不意を突かれたルヴェルは、ここで焦る気持ちを抑え込んだ。

「敵に被害は与えているのか!」
「ハッ。現在における攻撃隊の戦果報告を纏めました。地球軍の巡洋艦1、駆逐艦2を撃沈確実。エトス軍は2隻、フリーデ軍は4隻、ベルデル軍は3隻、撃沈確実」
「時空管理局は?」
「大型1撃沈、中型3撃沈、小型4撃沈――計20隻を撃沈破した模様」
「……チッ、艦載機でこの程度か」

 そう不満を漏らすルヴェルではあるが、SUSパイロットは実に奮戦したと言えよう。ベルデルファイターとF・ガジェットの防衛網を突破し、防衛軍の対空砲火を掻い潜ったのだ。
艦隊内部に突入してもなお、連合軍の砲火は予想以上に濃密であった。特に対空火器を充実させている防衛軍艦艇は、SUS攻撃機隊を多く撃墜した。
もっとも、ルヴェルの予想では40隻近い撃沈破を期待していたのだが、それも難しい注文だったと言わざるを得ない。無様な……艦載機戦は、これっきりにしてやる。

「艦載機を引き揚げ次第、敵艦艇に攻撃を開始する。全艦、砲撃用意!」
「砲撃用意!」

艦載機戦では不覚を執られたが、この次が本番なのだ。覚悟していろよ、連合軍め。レイオスの仇は俺が取ってやる。俺の艦隊で、粉微塵に潰してやるからな!





 連合軍艦隊もSUS艦隊と同様、迫りくる大編隊を前にして奮戦、退ける事に成功した。だが、強力な防御陣をもってしても、無傷とはいかないものだった。
総旗艦〈シヴァ〉航行管制室には、他艦からの被害報告が次々と入り、それを集計したものを情報・分析管制部から送られてきた。

「被害報告! 我が艦隊は、 巡洋艦〈アトランタ〉〈村雨〉、駆逐艦〈トライバル〉〈デュプレクス〉〈アンザック〉の5隻が撃沈!」
「空母〈赤城〉中破。その他巡洋艦1隻、駆逐艦3隻中波、7隻が小破!」

空母〈赤城〉は、古代率いる第1特務艦隊の航空戦隊だ。敵も果敢に攻撃してきたらしく、後部飛行甲板などは3割以上が破壊されてしまった。
幸いにして戦闘能力、及び航行能力に支障はない。さすがは戦艦の改造版といった所か。〈赤城〉艦長も、戦闘意欲を失ってはいないようであった。

「管理局側からの報告! 〈XV〉級1隻撃沈、〈L〉級3隻撃沈! 〈LS〉級5隻撃沈。戦闘不能な艦は5隻」
「エトス艦隊から報告! 戦艦2隻撃沈、戦闘不能な艦は皆無」
「フリーデ艦隊、ベルデル艦隊からも報告! フリーデ艦隊は4隻撃沈、ベルデル艦隊は3隻撃沈。戦闘不能な艦は皆無」
「以上、23隻が撃沈。中破した艦艇は7隻、小破13隻です」

 艦隊に取りつかれる前に200機以上のSUS艦載機を撃ち落としたものの、殲滅するのは遥かに難しい。艦隊はソリッド陣形で対応したものの、僅かな隙間を縫って攻撃してきた。
SUS軍の艦載機が投下する実弾兵器は、地球性よりも威力が小さいものだった。が、集中的に狙われれば撃沈されるのは当然の事。
空母は中破に至ったが、戦艦の損失はない。これから行われる砲撃戦では、戦艦が主力となるはまず間違いないのだ。が、波動砲を使用する事は出来ない。
歪曲波が依然としてこの空間全体を覆っているからだ。本来ならばこの歪曲波を放つ間を潰すべきだったのだが、相手はそれを予想済みだったらしい。
艦隊内部にはおらず、恐らくは遥か後方――要塞付近にいるのではないかと言う予想だ。

「敵の被害は?」
「ハッ! 艦載機隊の情報を纏めました。SUS艦の43隻を撃沈した模様」
「34隻……もっと撃沈数を稼いでおきたかったものですが」

 ラーダーはやや無念そうに言った。だが、SUSも1000機前後の直掩機部隊を差し向けてきたという。その状況下で、30隻以上を撃沈したのは見事と言えるだろう。
20隻の〈デバイス〉部隊などは、初陣にも関わらず12隻の撃沈数を叩き出した。ベテランパイロットなった日には、おそらく1人1隻を撃沈させるに違いない。
それを考えると、管理局に協力したレーグ少佐も恐ろしいものだ。まさか、これほどの性能を有する戦闘艇を作り上げたとは、正直驚くばかりである。

「致し方あるまい、参謀。我が方の被害よりも多くの艦を撃破したのだ。それだけでも、十分に賞賛に値するだろう」
「そうですな。ですが、第2波攻撃は控えるべきでしょう」

被害報告にある、艦載機部隊の未帰還数は、地球軍で83機、ベルデル軍で162機、管理局では〈デバイス〉級は幸いにして皆無。ガジェットが45機が撃墜された。
攻撃隊未帰還率は実に2割を超えるものだった。それだけSUS艦隊の防空も固いものだという事だ。次に出せば、その被害はさらに増えるだろう。

「これからが本番だ。波動砲を使わずに、どれだけ善戦しうるか……。全艦隊に告ぐ、砲撃用意!」
「全砲門、砲撃用意!」
「……射程距離まで、あと5分!」

 いよいよだ。地球軍とは別に、後方に配置されている管理局艦隊の面々は緊張度を増したようだ。そして第1機動部隊も例外ではない。
旗艦〈アースラ〉の広々とした艦橋内後部の見下ろせる位置に、クロノはいた。司令官席に座る彼の表情は、今までの事件解決の時に比べると真剣さがより滲み出ているようだ。

「艦長、第1機動部隊、全艦の砲撃準備、整いました」
「ご苦労。命令あるまで、各自待機だ」

第1機動部隊の戦闘準備が整ったことを、オペレーターが報せる。砲撃命令まで、まだ数分ある。

「……提督、緊張してはるん?」
「まぁ、ね。そういう君こそ、緊張しているのと違うかい?」

司令官席のやや左後ろに設けられた、参謀用のコンソール付き座席に座るはやてに、クロノは目線を移した。彼女とて、初めての艦隊戦だ。緊張しているのは同じであろう。
そして、彼女の肩にはパートナーのリィンフォースUが座っているが、どこか心配そうな表情でもある。

「それにしても、なのはちゃん達が無事に戻ってくれたのは安心やったね」
「そうだな。けど、その安心はまだ先に延ばすべきだろう? はやて参謀」
「そや。ここで死んだらアカンわ。死ぬ時は……年老いて、寿命をまっとうしてからやで」

でもなければ、先代リィンフォースに顔向けも出来んわ、と思いつつも傍にいるリィンフォースUに左手を優しく添えた。添えられた方も、その小さな手で彼女の指を掴む。
そして、艦隊全体にマルセフの命令が達せられた。第2幕目とも言えるの、血戦の幕開けである。

『全艦、砲撃開始!!』
(始まった!)

通信から聞こえる砲撃命令。その瞬間、前方にいる地球艦隊、エトス艦隊、フリーデ艦隊、ベルデル艦隊の4艦隊は一斉に砲撃を開始した。




〜あとがき及び改訂のお知らせ〜
どうも、第3惑星人です。
全開に引き続きまして、大変お待たせいたしました!
このところ中々時間が取れない他、ネタ構成がうまく進まないのが現状でして……。
お盆を利用してやっとこさ完成した次第。とはいえ艦載機戦ですべてを使ってしまうとは!
これでは3話分は軽く使用してしまいそうです(汗)
次回から艦隊同士の激闘が始まりますので、投稿までしばしお待ちくださいませ!

改訂につきまして、お知らせがあります。
まずはベルデル軍の設定についてですが、航空戦艦のみではなく、独自設定で戦艦を追加設定いたしました。
理由ですが……ベルデル艦隊は全てが100機並みの航空機を搭載しているとのものでしたが、やはりそれでは人員的な問題が生じました。
単純計算で1個艦隊の航空機は7200機規模になります。それが3個艦隊で21000機……幾らなんでも多すぎる(汗)
と言う訳で、今更ながら航空戦艦を護衛するための“戦艦”を追加した次第です。

続きまして、フリーデ艦隊の旗艦〈フリデリック〉ですが、通常戦艦から旗艦用大型艦に変更しました。
仕様は設定集に加えます。一応、この設定(旗艦仕様とかではなく、デザイン設定で)は復活編が完成する前の、デザイン設定集の一部から引用させていただきました。



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