〈ケラベローズ〉要塞は、全滅したSUS第7艦隊本拠地の要塞とは大きく異なる部分がある。それはエネルギー源の確保が、自力でも可能な事にあるという事だ。
外部から多量のエネルギーを吸収する必要もないその所以は、本要塞の大きさに関係してくる。第7艦隊拠点の場合は全長が3qしかなく、しかも要塞内部にはなるべく多くの艦船ドックや造船所、兵器工場等を戦場に必要なものを詰め込んでいた。
勿論要塞自体にも動力炉はあるが、ハイパーニュートロンビーム砲と強力なシールドを同時併用できるだけの出力を得る事が出来ない。
そこで外部動力炉となる人口太陽を建設し、要塞へのエネルギーを供給し続けたのである。
 だが〈ケラベローズ〉の場合、全長10qと遥かに巨大なサイズな事もあり、要塞砲とシールドを併用できるだけの出力機関を搭載できていたのだ。
そして要塞の攻防の要となる防御船〈ガーデルス〉のシールド発生装置には、ある特徴と欠点が存在していた。
まずは、5隻の内で1隻のみが、特別な使用であること。その1隻は、主砲を搭載する他にシールド発生装置が埋め込まれており、その他武装は殆ど施されてはいないタイプだ。
 それに対して残る4隻は、砲身以外に多数のビーム砲を装備している。これは〈ガーデルス〉1隻のみでシールドを展開するための防御用エネルギーと、主砲以外の迎撃に回す攻撃用エネルギーの両立を図る事が出来ない事が原因であった。
なにせ波動砲を防ぐことも出来るシールドだ。膨大なエネルギー量を賄うには荷が重すぎる。そこでSUSは、攻撃専門の〈ガーデルスA〉と、シールド専用の〈ガーデルスB〉の2種類に分けて運用する方法を採用したのである。
 そしてシールド搭載型で装甲から露出しているシールド発生クリスタル。この弱点に対しては、〈ガーデルス〉共々、発生させるシールドで包み込めれば問題はない。
しかし、シールド発生と要塞主砲の同時運用は無理だったようで、莫大なエネルギーを使いながらも両立は不可能とされてきたのである。
連合軍は過去の戦闘、およびガーウィックらの情報提供でそれを掴んだ。解析の結果、主砲発射直後の5秒まではシールドは消えていると分かった。

「主砲、斉射ぁ!」

 その隙を、バーン中佐は見事に付くことに成功したのである。 6発の砲弾は尽くが〈ガーデルス〉の天辺に搭載されている、赤いクリスタル状のシールド展開装置に命中。
そして、シールド装置に命中した弾頭が深くめり込むと、間を置かずして爆発した。日本が開発したアナログ式時限信管だ。戦艦とは違い、重装甲の要塞ともなれば徹甲弾は浅い表面で爆破する可能性がある。
そこで役に立つのが機械式の時限爆破装置だ。波動エネルギーを極限まで封入したものが一気に解放されたことで、クリスタル状のシールド装置は見事に砕け散った。
 要塞に陣取るベルガーは唖然とした。まさか、この偉大な要塞のシールドが、戦艦1隻如きの策略で破壊されようとは!

「総司令、〈ガーデルスT〉のシールド装置が完全破壊されました!」
「分かっておるわ! 小生意気なあの戦艦に、主砲を浴びせろ! 塵ひとつ残すなぁ!!」

怒号を上げる彼は、完全に逆上していた。ここは素直に要塞内部に待機させていた、支援艦に攻撃命令を下すべきであった。冷静さを失った彼は、2度目の失態を演じる。
 〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の反応は素早く、そして冷静に対応した。1つの巨大な砲身が、こちらへ狙いを定める。バーンはこれを逆手に取った。
向けてきた砲身の内部めがけて、再度、コスモ徹甲弾を斉射したのだ。防衛軍の射撃術は群を抜いている。戦艦を3隻並べられる程の巨大な砲口を狙うなど、難しい話では無い。

「第二射、撃てぇ!!」

要塞主砲1門が充填中を示す赤い光を輝かせていたが、その砲口に6発の砲弾が飛び込んだ。6つの砲弾は砲身内部の奥深く、発射装置に届くと爆発した。
発射するために限界まで負荷をかけているコンバーターに衝撃を与えたらどうなるか、ボイラーに爆薬を投げつけるようなものである。
砲身の奥深くで、波動エネルギーの爆発により強制的に解放される、主砲自身のエネルギー。砲口から流れ出るのではなく、砲身内部で暴発するが如く、大爆発を引き起こした。

「な、何事だ!?」
「大変です、敵砲弾が主砲内部に命中、発射機構が誘爆を引き起こしております!!」
「何だとっ!?」

 迂闊だったと気づくには遅い。〈ガーデルスT〉が敵を狙い撃つ暇も与えられず、内部から粉砕されてしまった。巨大な砲身が木っ端微塵に吹き飛ぶ様に、彼は愕然とした。
さらには、莫大なエネルギーが望まない形で解放された事もあり、凄まじいまでの衝撃波とエネルギー流が近場にいる〈ケラベローズ〉要塞、残る〈ガーデルス〉を襲った。

「全艦取り舵反転110°最大戦速で離脱! ECMポッド、再稼働!!」

〈イェロギオフ・アヴェロフ〉は一目散に離脱を図る。あの爆発だ、相手はこちらに気を向けている暇など無い。バーンはスクリーンでその光景を見た。
残された〈ガーデルス〉は衝撃波を真面に受け、体制を大きく崩している。並んで直立していたのが、斜めに傾き、バラバラな状態へと変わり果てている。
 この様子は嫌がおうにもディゲルも視認できた。あの要塞主砲が、まさか1隻の戦艦如きに粉砕されようとは! 悪夢でも見ているのか!

「〈ガーデルスT〉完全に破壊されました!」
「地球人めぇ……!」

彼は全てを理解した。我々が追っていたのは、敵の本隊でもなければ艦隊でもない。単なる囮だったのだ。何たることだ、SUS艦隊がここまで手玉にとられようとは……!
荒れる波に揉まれるが如く、要塞は体勢を大きく崩している。要塞上面に溜まっているエネルギーの“海”も、大きく揺られて荒れている。
その海に“着水”待機していた空間歪曲波搭載艦と〈ガズナ〉級数隻が荒波に揉まれ、挙句の果てには僚艦と衝突、大破、或いは衝突した衝撃に耐えきれずに爆沈する艦も出た。
 この様子では直ぐに戦闘は無理だ。ディゲルは艦隊を直ちに反転させて、小生意気な戦艦を叩こうとする。が、ここでも運に突き放されてしまった。

「長官、再び敵の妨害電波が!」
「……もうよい。最大戦速で前衛艦隊と合流する。第10戦隊も続け!」

通信が出来ない以上、可能な距離にまで接近して行うしかあるまい。第1戦隊は第10戦隊を伴い、前衛艦隊へと向かった。
連合軍め、毎度毎度のこと、予想外の手を見せつけてくれるではないか。こうなれば、前衛艦隊を一時的に後退させるしかあるまい。
我らと合流し、態勢を整えさせる。数では今だに我らSUSが上回るのだ。総力を持って全面攻撃を仕掛けてやるまでだ。同時に、この〈ノア〉の力を見せつけてくれる!
 そのSUS前衛艦隊は、連合軍の猛攻の前に辟易寸前にまで追い詰められていた。彼らは一時的に回復した後方の様子に愕然としてしまった。
無敵要塞を誇るはずの、〈ケラベローズ〉要塞の主砲が粉砕されてしまったのだ。破壊された瞬間は莫大なエネルギー反応と共に確認されている。
まさか、あの要塞主砲が破壊された! 兵士たちはこぞって浮き足立ち、全軍の士気は低下の一途を辿るばかりであった。
そしてルヴェルは艦隊の統制を執るのに精一杯だ。彼自身も、要塞主砲たる〈ガーデルス〉が破壊されたと聞いた途端、愕然とせざるを得なかった。

「馬鹿者! 要塞は墜ちてはいない、浮き足立つな!!」
「しかし、司令! 友軍は確実に損害を増やしつつあります。士気の低下も著しく……!」

 参謀も額に汗を浮かべていた。だが、士気を下げるSUSとは反対に、連合軍の士気は大いに上がりつつあった。

「戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉より通信! 『我、敵要塞シールド、並びに主砲1門を破壊せり!』――以上」
「やったぞ!」
「SUSめ、ざまぁみろ!」

連合軍総旗艦〈シヴァ〉の艦橋内、及び他艦は歓喜の声を上げた。あの巨大要塞の防御の要を潰したばかりか、主砲1門を完全に破壊したと言うのだから、当然だ。
だが、本題はここからだ。敵を欺き、本拠地に一発蹴りを入れてやったことで、SUS前衛艦隊も狼狽えている様子がよくわかる。
艦隊の統制が崩れつつあり、後退すべきか、留まるべきかと判断に迷いを生じさせているのだろう。ここが正念場なのだ!

「分散した敵が戻る前に、前衛を多く叩くのだ!」






 マルセフが突撃命令を下す以前に、既に突入を開始している艦隊が大半だ。第2特務艦隊、エトス艦隊、フリーデ艦隊などは、倍の相手に対して猛撃を加えている。
大口径砲でSUS戦艦を薙ぎ払う地球艦隊とエトス艦隊。速射砲とミサイルの乱打そしてラムによる体当たりを行うフリーデ艦隊の奮戦は見事であったと言えよう。
これらの艦隊を相手にしているSUS各戦隊は、どれもが陣形を崩されているばかりか、4割の兵力を失うに至った。両翼端の管理局、ベルデルは押さえつける状態を維持している。
SUS艦隊は総崩れ状態もいいところだった。が、中央の第8戦隊は違う。戦力こそ、半数120隻弱にまで撃ち減らされてしまってはいるが、その闘争心はいまだ健在だ。
 この時、ルヴェルは全軍が崩壊を始めている事には、既に気づいていた。当然であろう。だが、これ以上の損害は好ましくは無い。
とは言うものの、ディゲルの第1戦隊と第10戦隊が間もなく到着する頃だが……。

「司令、ディゲル長官より入電! 『一端後退するべし』――以上!」
「……後退、か」

彼の胸中は複雑だった。レイオスの敵討ちをする筈が、まさか此処までやられるとは思いもよらなかった。この責任は重いものになるだろう。
かと言って、このまま突っ込んで行く訳にはいかない。一度戦線を立て直し、連合軍を叩きのめすのが最善だろうか……。
何よりも、無駄に戦力を擦り減らすことはディゲルが許す筈もない。ここは素直に従うべきだろうな。だが問題が無いとは言えない。
 多くの戦闘において難しい問題は数多く存在する。その中でも難しいもの、それは敵と交戦しながらの後退であろう。
一気に距離を引き離すことが叶わなければ、後退しながら追い打ちをかけられるばかりだ。しかも、相手はタキオン兵器を多く残している。
空間歪曲波が放たれているとはいえ、タキオン兵器を歪曲させるだけの出力を放ってもらわねば、後退して安心したところで波動砲を撃ち込まれかねない。
この心配が絶えないルヴェルであったが、ディゲルもそれくらいの事は考えていた。要塞で荒波に揉まれていた空間歪曲波搭載艦は全滅したわけではないのだ。
命令を受けて後退を開始した数秒後、歪曲波が辺りに強力な妨害を施した。

「歪曲波、最大出力で放射されました!」
「今だ、全艦最大戦速で後退! 敵の砲撃は命中はせん、距離を取れ!!」

連合軍のみならず、SUS側もビームが大きく歪曲するが、それは問題ない。後退できればよいのだから。
 この妨害を前に、マルセフは追撃を断念すべきかどうか迷うところであった。攻撃は効かないだろうが、これは並行追撃戦のチャンスでもあるのだ。
このまま追撃してSUS前衛艦隊と着かず離れずを維持、そのまま要塞へ肉薄するという手がある。が、問題がないわけではない。
長期の激戦を続けた結果、兵士たちの疲労は予想以上に溜まっていたのだ。それに戦力数も相手側が上回り、いざ相手が包囲戦を展開しようものなら、一貫の終わりだ。
 それだけではない。古代の報告によれば、かのSUS第7艦隊は要塞主砲の射線内にいる敵味方問わず砲撃を実施したと言うのだ。
この例が一回だけであるが故に、目の前にいるSUS艦隊がどういう対応するか分かったものではない。迂闊に接近しようものなら、要塞主砲が火を噴く。
しかもこちらは予備戦力が無い。接近戦に持ち込んだからと言って油断したところを、味方ごと巻き添えを食らいかねない可能性がある。

「……全軍に告げる。追撃中止だ」
「総司令、よろしいのですか?」
「止むをえんよ、参謀。SUSは見方さえ巻き添えにする例があるのだ。がむしゃらにくっ付いて行っても、巻き添えにされたら何も出来まい?」
「分かりました。では、一時待機させ、全艦に艦の補修と休憩を取らせましょう」

それが懸命だ。コレムも副長席で指示しながらもそう感じた。今前進しても、相手に空間歪曲波がある限り波動砲すら使えないのだ。
一気に勝負を決めるには、波動砲による斉射でSUS艦隊の相当数を減らすしかない。幸いにして、要塞の方はバーン中佐らが弱体させる事に成功したのだ。
 連合全軍に一時後退命令が下されるのと同時に、この待機命令に不満げな反応をする者も少なくなかった。ゴルック等は特に、勢いを削がれたことに不満をあらわにする。

「……チッ、一時待機か。もっと攻め込んでやりたいところだがな」
「しかし、提督。敵の歪曲波は強力です。それに巻き添えを受けないとの保証もありませんし……我が艦隊も、損害は多大なものとなっております」
「分かってる。だからこそ、このまま勝負を決めたかったんだが……。決まったことは仕方ない。直ちに負傷者の救助、及び補修を行え」
「ハッ!」

そう、連合軍は勢いに乗ってはいたものの、損害はかなり蓄積していた。彼の艦隊も2割近く失っており、残る兵力は97隻といった所である。
しかも突撃戦を行った代償も小さいものではない。生き残った艦の半数以上が何らかの損傷をきたしている状況なのだ。
他の艦隊――エトス、ベルデルの損失もフリーデと同じものだ。エトス艦隊は残り112隻、ベルデル艦隊に至っては79隻にまで減っている。
管理局の次元航行部隊も損失は少なくない。〈デバイス〉攻撃部隊との連携で何とか持ちこたえてきたものの、残すところ317隻だ。
地球艦隊――特に第2特務艦隊の損害が大きく、残り48隻あまり。第1特務艦隊は62隻あまりが残った。全軍にして3割近くを損失――715隻にまで減ってしまったのだ。
 第1機動部隊旗艦〈アースラU〉の艦橋において、指揮官クロノと参謀のはやてが、より深刻な表情を作っていた。

「どの艦隊も、損害が酷いな」
「全軍にして3割の損失や。普通なら、撤退もんやろうけど……」

撤退は出来ない。そう言わなくても、皆が分かっている。第1機動部隊は艦艇こそ失ってはいないものの、この激戦で遂に〈デバイス〉隊に損失を出した。
20機の〈デバイス〉の内、帰還してきたのは19機。内、再出撃可能なのは16機。3機はSUS戦艦の主砲を直撃こそしなかったものの、機体へのダメージは免れえなかった。
そして1機は、SUS戦艦の主砲で撃墜されてしまったのだ。幸いとは言えないが、フェイト、なのは、シグナム、ヴィータの4名は無事に帰還を果たしている。

「マルセフ提督は、どうなさるつもりなのか?」
「……SUSの空間歪曲波を取り除かな、波動砲すら撃つことは出来へんし……ん?」

 そこで彼女は、スクリーンに映る戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉に目線が止まった。そして、数秒間ほど思考に深け込む。
静かになった参謀を、どうしたのかと見やるクロノ、そして参謀の相棒たるリィンフォースU。どうしたのですか、と聞こうとした時だ。

「そや、これは使えるかもしれへん!」
「ど、どうしたんだ、はやて?」
「何があったですか?」

途端に声を上げるはやて。2人は何がどうしたんだと言わんばかりに、彼女に聞き返す。今の彼女は、先ほどの深刻な表情とは掛け離れた、希望を手にしたような表情だった。

「クロノ君。至急、マルセフ提督に連絡を取ってほしいんや」
「……分かった。ルキノ、〈シヴァ〉を呼んでくれ」
「了解」

〈シヴァ〉を呼び出すためにコンソールをいじるのは、〈アースラU〉に通信主として配属になったルキノ・リリエだ。
以前は戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の操舵を握ったが、今回は正式な辞令を受けて当艦配属となっていた。

「……〈シヴァ〉が出ます!」

数秒で通信が繋がり、スクリーンにマルセフの姿が映される。だが、彼と話すのはクロノではない。彼の参謀、はやてである。

『どうしたのかね』
「提督、実は八神二佐から、提案がありまして……」

その言葉にマルセフは驚きを示したものの、直ぐにその提案とやらに耳を貸した。はやての提案を聞くうち、彼は何度か頷いて理解を示す。
全てを聞き終えると、彼は言った。

『よろしい。貴官の案を取り入れよう』
「ありがとうございます!」

即決だった。時間がない以上、余計なロスは避けたいところである。彼女が提案した新しい作戦案が実行されたのは、戦闘が一時終結してから凡そ1時間後の事だった。





 両軍は僅かな時間で艦の補給と補修を行い、再びその距離を縮めつつあった。その様子を、ディゲルは玉座で確認していた。

「敵軍、横列陣で進軍を開始。このままですと、10分後には砲戦距離に入ります」
「奴らめ、好き放題してくれたものだ。このツケは、倍では済まさんからな……全艦、砲撃用意!」

SUS第2艦隊は連合軍との激戦の末、1500隻あった艦隊は980隻にまで撃ち減らされていた。実に500隻近い艦艇を失ったが、まだ数の優位は彼らSUSにある。
それに要塞も主砲を4門残し、空間歪曲波搭載艦も3隻だけだが無傷にある。相手のタキオン兵器など恐れるに足らない。この〈ノア〉の力を見せつけてやるのだ!
そして劣等生物共よ、覚悟するがいい。次こそは貴様らの最後であることを思い知らしてやる。だが、その前に確認しておかねばならない事がある。

「敵の総旗艦――〈シヴァ〉はどこだ?」
「は、地球艦隊左翼の中央におります」

 彼にとって〈シヴァ〉という戦闘艦がどれ程に目障りな存在であるか、部下は知っていた。現に、あの〈ムルーク〉を仕留めたのも〈シヴァ〉なのだ。

「よいか、我が戦隊は敵総旗艦の直属艦隊を集中的に攻撃しろ。他にはかまうな、そいつらを優先的に叩け!」

ディゲルがここまで固執するのには、〈ムルーク〉を沈められたことだけが原因ではない、この〈シヴァ〉だけが有する、次元潜航能力を注視していたのだ。
何かとうろちょろとされると厄介だ。しかも単艦だけも相当な戦闘能力を有する。速攻でこれを叩いて然るべきであろう。
レーダーに確認される〈シヴァ〉を叩き潰すべく、彼は戦闘意欲を掻き立て、全軍を鼓舞する。だが、この勢いは予想外の展開を前に、空振りに終わる事となる。
 SUS第2艦隊の後方で距離を取りつつも〈ガーデルス〉4隻を要塞前方に配置するベルガーは、一際に不機嫌を露わにしていた。
当然である。自慢の要塞のシールドを破壊された挙句、主砲が地球の戦艦1隻に破壊されたのだ。何が何でも、連合軍を叩き潰さねばならない!

(だが……これで艦隊が負けるようなことがあれば……)

その時は連中を道連れにしてやるまでだ。どうせ負けて帰っても、敗戦の責任を取らされるのに変わりはない。処刑されるくらいならば、戦死の方が遥かにマシだ!

「射程距離まで、あと5分!」

 距離を縮めていく双方の艦隊。いよいよだ、とベルガーが思った、まさに、その時である。突然、要塞のレーダーに30から40の物体を捉えた。
しかも、要塞方向からして後方である。

「6時方向よりミサイル群! 本要塞に……!」
「撃ち落とせ!」
「駄目です、近すぎます!」

突然出現したミサイル群に、兵士達は勿論のことベルガーも驚愕した。馬鹿な、敵は前面の筈だ。兵力を割いたとでも言うのか!
内心で動揺するベルガーを余所に、突然出現したミサイル群はお構いなしに要塞へと襲い掛かった。が、直撃を受けたのは要塞そのものではなかった。

「!? 総司令、空間歪曲波部隊に直撃、撃沈破多数!」
「何だと、奴ら、それが狙いか!」

そう、ミサイル群の標的は要塞ではない。本当の目標は、要塞に駐留していた空間歪曲波搭載艦の部隊であった。そして、通常の戦艦よりも武装の少ないこの部隊の壊滅に、時間は殆どかからなかった。
水面上より慌てて上昇しようとしたところを狙い撃ちにされ、そのまま再度、エネルギー水面へと墜落する。レーダーに艦影もないのに、何処から来たというのだ!
 空間歪曲波搭載艦は残り2隻、これらまで破壊されたら、奴ら――連合軍はタキオン兵器を使用する筈だ。ベルガーは大至急、歪曲波の出力を最大限に上げさせなければ!
そう判断した直後、〈ケラベローズ〉要塞後方、上方45度のポイントに1隻の大型艦の姿を捉える事が出来た。それを見た瞬間、彼の精神に何度かわからない衝撃を叩きつけた。

「〈シヴァ〉だとっ!? ば、莫迦な! 奴は正面にいる筈ではないのか!!」
「いえ、間違いなく〈シヴァ〉です!」

そんな筈はない、奴は目の前に、ディゲルらの正面にいる筈だ。それに奴の1隻目たる艦は、太陽系にて修復中だと聞いている。この次元空間に新たに転移したと言う報告もない。
彼が狼狽するのは当然だった。この新たに表れた艦は、正真正銘の〈シヴァ〉に他ならない。が、ベルガーにそれを考える暇などなかった。
 後方に現れた〈シヴァ〉の航行管制室――第2艦橋では、敵の裏をかいてやったと言わんばかりに、クルーの多くが無言の歓声を上げる。

「亜空間航行から通常空間航行へ切り替え完了!」
「敵空間歪曲波搭載艦、3隻の撃沈を確認! 残り、2隻!」

エメラルドグリーンの波間を分けて姿を見せた〈シヴァ〉は直ぐに残る艦艇に狙いを済ませる。何故、彼らは此処に現れたのか。それは亜空間航行だけが要因ではない。
彼ら連合軍は、先のはやて提案の作戦を実行した。それは、〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の幻影能力を使い、本艦を〈シヴァ〉に見立ててしまうと言うものだ。
さらに細工を施した。〈イェロギオフ・アヴェロフ〉が、幻影の〈イェロギオフ・アヴェロフ〉を作り上げた事だ。これにより、SUSからみれば不審に思われる事はない筈だ。
この間に、本物の〈シヴァ〉は先に行動を起こす。亜空間航行に突入し、〈ケラベローズ〉要塞の後方に出るというものだった。
歪曲波は幸いにして亜空間航行に被害を与えるほどのものではなく、〈シヴァ〉はSUSの目を盗むことが出来たのである。

「測的よし、照準よし。砲撃準備よし!」
「全砲門、斉射始めっ!」

 マルセフの攻撃命令が飛んだ。ベルガーら要塞側にとって、〈シヴァ〉は余りにも近距離すぎた。〈ガーデルス〉も要塞の前方に配置している故、迎撃できない。
〈シヴァ〉の主砲、副砲合わせて30門が一斉に火を噴く。使用したのはコスモ徹甲弾。弾数も残り少ないが、出し惜しみはしない。
実弾が砲身から飛び出し、高速回転しながら空間を突き進む。空間歪曲波搭載艦が出力を高めようとしても、その効果が瞬時に出るわけでもない。
 回避行動も間に合わず、残る2隻は総計23発が命中した。実弾がめり込み、内部で大爆発を引き起こす。これ程の弾量を食らい、原型を残せるわけもなかった。
文字通りの木っ端微塵だ。さらに外れた7発が要塞のエネルギーの海に飛び込む早々深くない底の部分に突き立てられると、コンマの時間差で爆破。
直径10qとはいえど、〈ケラベローズ〉を揺さぶるには十分な衝撃であった。精神的にも、物理的にも……。
兵士たちは狼狽えた。あの〈シヴァ〉が、懐に現れて要塞に攻撃を仕掛けてきている! しかも、あの歪曲波搭載艦が破壊されてしまった!
 マルセフは空間歪曲波が完全に消滅したことを確認すると、再度、亜空間航行に突入した。この場に長居することは最善とは言えない。
SUSの艦載機も大勢残っているのだ。〈シヴァ〉といえど、1000機もの艦載機を相手にしては無事では済まされないだろう。

「亜空間へ潜航開始!」
「了解。亜空間へ潜航開始!」

レノルド航海長が復唱し、巨大な艦体を亜空間の海へと潜らせていく。一連の流れに乗るようにして、〈シヴァ〉は奇襲攻撃を完了させたのだ。
そして同時に、これは連合艦隊――とりわけ地球艦隊にとって待ちに待った瞬間でもあった。





「総司令より緊急電! 歪曲波搭載艦の撃破に成功したとの事!」
「良し! 拡散波動砲発射用意!」

 〈ヤマト〉艦橋では、艦隊総司令の代理を任された古代が、戦艦全てに拡散波動砲の発射準備を命じた。空母、巡洋艦、駆逐艦には、いざと言う時のために待機を命じる。
主砲有効射程距離まであと3分。が、波動砲にとっては既に射程距離圏内だ。チャージ完了までに3分も掛からず、猛攻を浴びる前に斉射できる計算になる。
だが問題なのは、波動砲を斉射したからと言って全滅させることは叶わない、ということである。連合軍全てが波動砲搭載艦なら話は別だが……。

「SUS艦隊、進撃速度に鈍りを生じさせました!」
「焦っている証拠だろう。艦長、絶好のチャンスです!」
「あぁ。この機会を逃すわけにはいかんな」

またこの時、両翼に分散配置された次元航行部隊でも、アルカンシェル砲の一斉発射準備が下令されていた。アルカンシェル砲の射程は波動砲より短いが、主砲射程よりやや上をいく程度で、この距離なら効果は十分に出せる筈だ。
 SUS艦隊は進軍中の訃報に激しい動揺を見せた。まさか、あの総旗艦が単独で後ろに出るとは! 目の前のあれは何だと言うんだ、いったい!
とりわけディゲルも、言葉が出ないほどに動揺する。この自分が、まさかまた裏をかかれると……。艦隊に乱れが生じる。そして、オペレーターから報告が入った。

「長官、地球艦隊に高エネルギー反応感知! タキオン兵器の前触れではないかと!」
「さらに管理局からも、広範囲破壊兵器の発射体制が確認されました!」
「中央戦隊は、20隻単位で分散しろ! 両翼の戦隊は艦を散開、回避せよ!! 第1戦隊は出来うる限り〈ノア〉の後方にて密集せよ!」

ディゲルは持ちえる手をすべて打つ。地球艦隊のタキオン兵器は拡散する性質がある。だが拡散故に隙間も存在する訳で、艦隊をなるべく密集させる方が生き残れると判断した。
そこで少数単位で密集させたのだ。そしてアルカンシェルは拡散はしない。だからこそ、艦隊を散開させるしか手は無い。それに全艦は戦闘モードで固定されている。
緊急転移には時間が多少かかるものだ。そして、僅か20秒後には連合の必殺兵器が輝いた。

「アルカンシェル、発射ァ!!」

 オズヴェルトはアルカンシェル砲を斉射させる。主に〈XV〉級80隻前後から放たれたそれらは、回避しかけていたSUS艦隊の両翼部隊に着弾。巨大な光球を作り上げた。
SUS戦艦の機動性能があっても、膨大な損害は免れえなかった。一瞬にして、両翼の艦隊は合計して300隻近くを破壊されてしまう。
だがこれで終わりではない。今度は真正面の地球艦隊だ。艦首の発射口に輝きが曲限度に達した瞬間、古代は号令を発する。

「全艦、拡散波動砲発射!」

瞬間、青白い閃光が辺り一面を一時的に支配した。そして、20数隻による戦艦からの波動砲は空間を引き裂いて直進。SUS艦隊の真正面で、分散炸裂した。
数十と言う光弾が数百と言う数に倍増し、SUS艦隊の中央部隊を一瞬にして飲み込んだ。その中には、〈マハムント〉も例外なく含まれた。
 だが通常の戦艦よりも強力な防御シールドを搭載している。瞬時にエネルギーを防御に回し、分散した波動砲を弾き返す。
ルヴェルは肝を冷やしたが、それで済んでいる分、随分とマシだと言えよう。そして波動砲の嵐が過ぎ去ったあと、その空間に残るSUS艦隊の惨状は酷いものであった。

「第2戦隊、第3戦隊、第4戦隊、第5戦隊全滅!」
「第9戦隊および第10戦隊、6割を損失!」
「我が第1戦隊も5割を損失! 第8戦隊は旗艦以下数隻を残し壊滅!」

何たることだ! ディゲルは指揮席の肘掛を思い切り殴りつける。SUS艦隊は拡散波動砲とアルカンシェル砲という、ブレンドを施された一撃を前に壊滅状態に陥った。
総旗艦〈ノア〉、第8戦隊〈マハムント〉他、残ったのは170隻前後。もしも、波動砲搭載艦が倍以上いたら数隻以下に減る可能性は十分にあっただろう。
 同時に味方側もこの威力を前にしてに戦慄した。アルカンシェル砲もそれなりのものだが、たった20数隻で510隻程を消滅せしめた地球艦の方が遥かに強力だ。
ガーウィック、ズイーデル、ゴルックら司令官勢も唖然とせざるをえない。彼らは波動砲そのものを自分らの目で直接見たのは1回のみ。
それも〈ムルーク〉を葬った時のだ。だが、今回は規模が違う。拡散であるばかりか、それが20隻分。そして、その戦果が510隻というものだ。

「地球を敵に回していたら、我らもあの餌食となっていた訳か」
「味方ながらぞっとします。地球と協力して正解でした、提督」

 〈リーガル〉艦橋でガーウィックの漏らした言葉に同調するウェルナー大佐。全く、SUSはこんな連中相手に喧嘩を吹っかけて来たと言うのか。
もっとも、あのメッツラーとバルスマンの奴らは、その地球艦隊を前にして敗れ去ったのだ。当然の報いだろうな。

「……! 提督、敵の超大型艦、及び〈ムルーク〉級らを中心に、密集体系を取りつつあります!」
「ディゲルの奴め、突っ込んでくる気か」

SUS艦隊は残存艦170隻を糾合し、密集隊形を取る。ガーウィックの予想通り、それは前進を始めた。もはや後戻りはしない、刺し違えてやるという意思を感じた。
この様子に次元航行部隊は、SUSの恐ろしいまでの執念を見せつけられた。もし管理局勢がSUSの立場ならば、その場で転移して離脱を図るに違いない。
だがSUSはそうはしない。全滅を覚悟で突っ込んでくるのだ。

「降伏さえしないのか……」
「分からへん。降伏することを許されてへんことも有り得る」

クロノも、はやても、相手の自暴自棄ともいえる突撃に恐ろしさえ感じる。地球防衛軍は平和のために全滅覚悟で戦ってきたが、SUSはそれとは全く違う。
 だがここで、古代による容赦ない第3撃がSUS残存艦を襲った。ディゲルは失念していた、いや、刺し違えることで支配され、鼻から頭になかった。
〈ヤマト〉は通常の〈ドレッドノート〉や〈スーパーアンドロメダ〉とは違う、6連装波動エンジンを搭載しているという事を……。
先ほどは拡散波動砲で1つの炉心を使用したが、まだ5つの炉心が残っているのだ。しかも、チャージは全て完了している。

「波動砲収束モードへ切り替え完了!」
「第2射目、発射準備完了!」
「発射ッ!」

〈ヤマト〉艦首から2度目の発光が当たりを覆う。通常よりも幾倍か輝きを増したそれは一瞬のためを置き、再度、次元空間を突き進んだ。密集しているSUS艦隊目がけて。
ディゲルは咄嗟に回避命令を下す。だが、〈ヤマト〉の方が遥かに発射が早く、SUS残存艦隊は散開する間もなく飲み込まれてしまった。

「タキオン兵器が……!」
「シールド最大だ!」

 〈マハムント〉艦橋で叫ぶルヴェルだったが、この第2射目の波動砲は、彼の想像しえた物とはだいぶ異なっていた。そうと気が付くのと、彼が消滅する時は同時だった。
艦橋に眩い閃光が飛び込む。耐えきれると自負したルヴェルだが、オペレーターが恐怖の声を上げた瞬間に崩壊する。

「シールドがオーバーロード状態です!」
「馬鹿な! 耐えきれない訳が……!!」

無理もなかった。〈ヤマト〉が放った第2射目、これは波動炉心を2つ分使用しているものだったからだ。かつての6つの炉心を使った波動砲に鑑みて、調整できるようにしたのだ。
つまり、少なくとも2倍の威力を誇る波動砲だ。〈マハムント〉は1発分なれば、何とか凌ぎ切れただろう。だが、2発分では荷が重すぎ、遂に限界を超えた。

「た、耐えきれません!!」
「ぬうっうああああああああああっ!?」

波動砲の圧力に負けた〈マハムント〉は崩壊をお越し、爆発、消滅した。レイオスの仇討どころか雪辱すら果たせずに、その存在を抹消されたのである。
 が、真に驚くべきはその後だった。波動砲の光が収まり、連合軍はSUSが完全消滅したものだと思っていたのだ。

「……! 艦長、あ、あれを!!」
「……っ! 何だと!!」

爆炎と閃光の中から姿を現したのは、あの超巨大戦闘艦――〈ノア〉であった。波動砲を防がれた経験はあるが、今回は訳が違った。
2発分を纏めて撃った波動砲の筈だ。これは〈ゴルバ〉級要塞や〈ゼスパーゼ〉級要塞の装甲あるいはシールドを突破しうる威力を誇るものなのだ。
それを、あの超大型戦闘艦は耐えきって見せた! どれ程、恐ろしい強固なシールドを搭載していると言うのか……。

「そ、そんな……」
「化け物か、あの艦は!」

 〈アースラU〉艦橋でも、ルキノはこれに唖然としてしまい、クロノも平然としていられる筈がない。地球艦隊の決戦兵器が防がれてしまったのだ。
はやても、〈ノア〉の凄まじいまでの防御性能に舌を巻いた。同時に、彼女の頬を冷や汗が流れ落ちる。波動砲が通じなかったとなると、本当に倒せるかどうかさえ、不安になる。
あの〈ゆりかご〉の比ではない。彼女らの不安を余所に、古代はただ黙然としているわけにはいかず、全軍に凹型陣を執るように命じた。
 対するディゲルは、指揮下の艦艇の殆どを失い、自暴自棄になりつつあった。

「ク、ククク……奴らめ、本当に、どこまでも、私に恥をかかせてくれる」
「ちょ、長官?」

何かが切れてしまったのだろう。彼の様子に幕僚が慄いたが、部下の心配など受ける間もなく、冷静さと言うものを次元のかなたにかなぐり捨た。

「全速前進! 全兵装一斉攻撃、目標、連合軍だ!!」
「し、しかし長官、大勢は既に決して――っ!?」

幕僚の言葉は、ビーム音と共に強制的に遮られた。ディゲルの銃が、幕僚の額を撃ちぬいたのだ。ドスン、と重々しい音を立てて崩れ落ちる幕僚。
他の幕僚陣も狂人を見るような目で、ディゲルに目を向けた。

「馬鹿が。そんなことは知っている。だからなんだと言うのだ? 撤退しろとでも言うつもりか、この臆病者め」

周りの者は口も開けない。誰もが、彼に意見をいう事など出来ないと悟ったからだ。

「何をボサッとしている? さっさと攻撃準備を整えろ、奴らを一人残らず地獄に引きずり込んでやるのだ!!」

怒りに任せたような怒鳴り声に、兵士たちは恐る恐ると戦闘準備を整えていく。誰にも彼を止めることは出来ない。死と言う形でしか……。





 〈ノア〉が有効射程に突入する直前に、古代は全軍へ向けて号令を発した。

「全艦、撃ち方始めっ!」

代理総旗艦〈ヤマト〉から全軍に通達される。凹型陣に展開した連合軍は、射程に入った〈ノア〉に向けて一斉砲撃を開始する。
様々なエネルギー・ビームが飛び交い、〈ノア〉に着弾した。だが、ダメージを与える事が出来ない。それも当然とは言えば当然であるが。

「そんな攻撃が〈ノア〉に通じると思ったか! 砲撃準備急げ!!」

ディゲルが叫ぶ。同時に〈ノア〉の表面装甲が次々と開いていく。そこには数えきれんばかりの射出口がずらりと並んでいるではないか。その数、実に810個にも及んだ。
主砲と思しき収納式砲台も45門が全方位を向く。拙い、あれは相当なものだ! 古代がそう察した時には、ディゲルも攻撃を命じていた。

「全ミサイル、主砲、斉射ぁ!!」

凄まじい光景だった。320発余りの対艦ミサイルと400本ものビームが、包囲しかけている連合軍に突き立てられる。
その尋常とも言える戦闘能力に、皆は唖然とした。エトス、フリーデ、ベルデル、次元航行部隊に万遍なく、強力な攻撃が降り注ぎ、被害を蓄積させた。
副砲とは言っても、〈ノア〉の機関出力レベルから言って、通常戦艦の主砲より高威力を誇る。次元航行部隊等は、この攻撃を前に、30隻が被弾、戦闘不能に追いやられた。

「〈フェアリー〉轟沈! 〈キルキス〉大破! 〈ガルダット〉も轟沈!」
「第4艦隊被害甚大!!」
「何と言う奴だ!」

 次元航行部隊総司令オズヴェルトは狼狽した。立った1隻のSUS艦の攻撃で30隻も落とされるとは! ミサイルとビームの乱打を前に、多くの次元航行艦が血祭りにあげられる。
さらに撃沈数を増やす次元航行部隊。このままでは、我が艦隊は全滅してしまう。と危機感を募らせた矢先だ。1発のミサイルが〈ラティノイア〉の左舷艦首に突き刺さった。

「っ!?」

装甲を突き破った直後に爆発、凄まじい衝撃が〈ラティノイア〉を襲い、乗組員全員をなぎ倒した。衝撃が原因で右に傾く〈ラティノイア〉。
艦内部ではミサイルの爆破による火災が発生した。左舷艦首に大きな大破口を作り上げた〈ラティノイア〉だが、オズヴェルトが懸命に指示を飛ばした。

「くぅ……負傷者の救助を最優先! 被弾した個所の隔壁を急ぎ閉鎖せよ!」
「第二派、来ます!」
「!」

今度は右舷艦体中央に2発左舷後部に1発、それぞれビームとミサイルが直撃した。瞬間、先ほどよりも強力な衝撃が艦内外に響き渡った。
 艦体はおよそ右半分が分断され、機関部もミサイルの爆炎に巻き込まれて機能を完全に消失。総旗艦〈ラティノイア〉が撃沈した瞬間である。

「クロノ提督、〈ラティノイア〉が……っ!!」
「何だと!?」
「オズヴェルト提督の消息は? 確認を急いで!」

はやてはオズヴェルトの消息を確認するよう、急がせる。数秒もしない内にルキノが重苦しい表情で応えた。

「〈レマー〉が撃沈を確認、脱出者は……ない、と」
「そう、か……」

司令官を失った次元航行部隊だが、悲しむ暇はない。直ぐに代理の司令官が指揮を執らねばならない。その選任者は、第5艦隊司令官アルゴン・レグシア少将だ。
 次第に手足をもぎ取って行く〈ノア〉は第二、第三、と斉射を繰り返した。応戦している連合軍だが、傷を負わせられない。連合軍は悲鳴を上げた。
この攻撃に、連合軍は60隻近い艦艇を失った。古代は〈ノア〉の驚くべき戦闘能力に驚かされはしたものの、艦隊を密集体系に変更させる。
ぶつかり合うような形にはなるが、こうすることで〈ノア〉側面の副砲群の射程から逃れようとしたのだ。だがこのままでは被害が増大するばかり……と考えていた矢先。
〈ノア〉の後方に〈シヴァ〉が出現する。この状況を見かねて出て来たらしい。

「出て来たな、〈シヴァ〉め! 貴様にはたっぷりと礼をしなければならんかならなぁ!!」

口元を大きく釣り追上げたディゲルの表情はまさに悪魔そのもの。この〈ノア〉が〈ムルーク〉とは違う事を、その身を持って味わうがいい!




〜〜あとがき〜〜
暑い日が続きますが、皆さまは大丈夫でしょうか?
さて、この時点で艦隊戦に決着をつける予定でしたが……大幅に予定が狂いました(汗)
ある意味で決着はついたものの、まだまだ、〈ノア〉の見せ場を作ろうとしてこのザマです。
まだ要塞も残っていますし……如何なものかと迷っています。
だんだん予想外の方向へ転がり込んでいく……。

あ……それと、SUS要塞のシールド設定に関しまして、復活編二次創作を書かれている、別の方の解釈をお借りしました。
そうでもしないと、映画のアレは説明がつけられないので(汗)



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.