外伝『魔の海峡、アルデバラン星域会戦(後編)』


  宇宙戦艦〈ヤマト〉を旗艦とする、地球防衛軍特務艦隊が出発した後のボラー連邦軍の侵攻。地球連邦はこの非常事態に全兵力を投入することを決定した。
それに呼応してアマール国とエトス国も援軍として艦隊を派遣、首脳部は地球・アマール・エトスの3ヶ国連合軍を結成し、大挙侵攻してくるボラー連邦軍をアルデバラン星系の中心部にて迎え撃つ事となったのである。
  連合軍は地球艦隊の拡散波動砲による先制攻撃を実施するも、ボラー連邦の大胆な策の前に浪費で終わった。さらには奇襲という不意打ちを受けてしまい、心理的にも打撃を被った連合軍であったが、数に劣りながらも対当に渡り合い、遂にはボラー連邦軍の1個艦隊が壊滅的打撃を被ったのである。
地球軍 第11艦隊の追随を許さぬ戦闘と、そこから機転を見出して連携するエトス艦隊は、まさに巧妙と言うに相応しいものだった。
ボラー連邦軍 第35打撃艦隊は指揮官レーヅィン中将を失ってバラバラとなり、その被害率は50%にも及んだ程である。
  旗艦〈クニャージ・スヴォーロフ〉でも、友軍2個艦隊の活躍ぶりは見えており、指揮官席にてジェーコフは舌を巻いていた。

「第11艦隊、エトス艦隊、ボラー軍左翼の1個艦隊を壊滅させつつあり」

連合軍右翼部隊は危うい展開も見られたものの、レミオスの冷静な対応とコッパーフィールドの的確な支援、そして両者の連携により態勢を立て直すどころか第35打撃艦隊を短時間で一方的かつ徹底的に叩きのめしたのであった。
第11艦隊とエトス艦隊を合した約120隻前後の艦隊から放たれる主砲のエネルギーが、指揮官を失い右往左往する第35打撃艦隊を撃ち減らす。
この壊乱した第35打撃艦隊の残存艦は、指揮官を失った事で組織的な抵抗も出来ずに、散発的な反撃しかできていない有様だった。
  もっとも、それを鬱陶しいと言わんばかりに罵声を浴びせたのは、皮肉にも他のボラー連邦軍艦隊の方であったろう。
この纏まりのない第35打撃艦隊の残存艦が、第33打撃艦隊の射程距離内の一部で右往左往しているのだから邪魔なことこの上なかったのだ。
ボラー連邦軍 総司令官ヴェールキン大将は、味方残存艦の混乱を収拾せようと後退命令を送ったが、それがマイナスに働こうとは思いもよらぬ事である。

「司令、敵左翼艦隊が、壊滅した残存艦と交錯して混乱している模様」
「どうやら、後退しようとして結果的に味方を妨害したようですな」

  中肉中背の体躯に少々ゴワゴワとした口周りの髭、薄い黒髪をした35歳の男性――地球軍第9艦隊参謀長 マンフォート・ゴルドキン准将が呟いた。
彼の言う通り、第35打撃艦隊の残存兵力は、後退しようとして後方から迫る第33打撃艦隊の射線により深くに突っ込んでしまったのである。
勿論この敵の致命的失策を連合軍の友軍らが見逃す筈もなかった。
  コッパーフィールドも、レミオスも、流れる時間の中で敵が落とした最大限のチャンスを見つけ出し、その素手で見事に掴んだのだ。
交錯して更なる混乱の生じた第35打撃艦隊に、容赦なくビームとミサイルを叩きつけたのである。数的には同等の筈だが、戦死したレーヅィンは勇戦しえなかった。
友軍の混乱に巻き込まれ、味方残存艦と一緒になって宇宙の塵へと変わり果てる。ようやく残存艦が後方に下がった時には100隻を切っているものだった。
態勢を整えたとはいえ劣勢に変わりはなく、第33打撃艦隊の指揮官マンドロフ中将は苦戦を強いられる事となった。
  連合軍左翼のアマール艦隊は、右翼部隊が善戦する前から苦戦を強いられている状況にある。指揮官ペテロウス将軍は、もともと攻勢を得意とする人物だ。
反面として防御戦はイマイチなのだが、彼は局地的な攻勢を仕掛け続けて切り崩そうとしていたが、それは対する第34打撃艦隊が許さなかった。

「おのれ、目の前の指揮官は、守備に長けた強者と見える」

  旗艦〈ガルネシア〉の艦橋で、ペテロウスは忌々しげにボラー艦隊を睨み付け吐き捨てた。彼の突撃は幾度か阻まれてしまったばかりか、逆に圧力をかけられて瓦解の憂き目を見ているのだから、焦りと苛立ちの双方を膨張させてしまうのも無理は無かったろう。
目前の第34打撃艦隊が取った巧妙な動きに翻弄され続ける事に、彼も不快感を覚えざるを得なかった。
  第34打撃艦隊は、砲火を集中するポイントに、アマール艦隊のシールド艦を集結させると、即座に別のポイントを集中砲撃してくるのだ。
その艦隊旗艦 バルドラム級〈ゴンドロール〉に座る、地球換算で48歳のボラー軍人 ミオルフ・ブルガット中将は笑みを浮かべていた。

蛮人(アマール)め、我らをボラー連邦に勝とうなど、夢物語で終わらせてくれる」

ボラー連邦が銀河の支配者であることを信じる彼は、アマールらを弱小国と罵り、必ず服従させる事を誓っていた。
地球といえども、あのSUSとの戦争で疲弊しているのだ。此処に居る地球艦隊でさえ寄せ集め艦隊に過ぎない事は、分析班からの情報で分かり切っている。
旧式や鹵獲艦で立ち向かおうとは笑止千万! このボラー連邦軍は17年間で取り揃えた精鋭であり、混成艦隊如きが崩すことは不可能だ。
  そう信じているのだが、気に入らないのは艦載機隊の方だ。地球艦隊が有していた艦載機は述べ約320機。対するボラー艦隊は全部で約1200機だ。
その戦力規模の内でドッグファイトを繰り広げていたのは、地球艦隊の直掩機220機、ボラー艦載機は第1次攻撃隊600機あまり。
地球の場合は攻撃隊に回すよりも、全てを直掩機にして全力で防空に当たる事を選んだ。その甲斐あってか、艦隊への被害は驚くほど少なかった。

「地球人め、中々やりおるわ」

ブルガットは憎々しげな表情を作りながら、艦載機戦の差を認識せざるを得なかった。戦闘機や爆撃機含め約130機もの未帰還機を出したのである。
対する地球艦載機の未帰還機は12機。圧倒的なパイロットの技量は、相も変わらず地球軍が勝っていたのであった。
  彼は艦載機戦による大打撃を期待こそしてはいなかったが、気分の良いものではない。

「‥‥‥なれば、アマールに大攻勢を掛けて一気に揉み潰してやるまで」

と決断する。
  だがこの時になって凶報が舞い込んだ。ボラー連邦軍左翼部隊の第35打撃艦隊が、いつの間にか5割の戦力と指揮官を失って潰走したと言う報告が入った」。
この衝撃は他のボラー艦隊に波紋を呼んだのは間違いない。彼でさえ、まさかの友軍艦隊の大敗が信じられなかった。

「馬鹿な、レーヅィンは何をしておたのだ!」
「左翼戦線、戦況不利!」

第33打撃艦隊も第35打撃艦隊の混乱に巻き込まれて大損害を受けつつある。このままでは、恐れている事態がボラー連邦軍を敗北に導かせることになる。
立ち止まるような暇はない。ここは一刻も早くアマール艦隊を叩き潰さねばならないのだ。
  ブルガットは命令を発した。

「これ以上、弱小国に時間を取られてはならん。両翼を伸ばして鶴翼の陣に移行しつつ右舷へ転進、アマール艦隊左翼に砲火を集中する。急げよ!」

第34打撃艦隊は、艦列を横に引き伸ばし両翼がやや前方に出た鶴翼陣を取り、アマール艦隊の左舷前方を圧迫して一気に圧潰させようと図った。
  この判断は間違ってはいなかった。戦術構想としては素晴らしいものでアマール艦隊に圧力をかけて押し崩した勢いを持って、そのまま中央部の地球艦隊、さらに反対側のエトス艦隊をもなし崩しにしようと目論んでいたのだ。
これが成功すれば彼の咄嗟の判断と行動は、全軍に逆転の好機を作り上げたとして実に輝かしい実績と功績だと賞賛されて然るべきものであったろう。
だが机上で描いた戦術が失敗する訳はないが、実戦に移してすんなりと事が運ぶと信じきっているのならば、それは油断大敵であり、愚将と呼ぶべきである。





  アマール艦隊もまた、この瞬間に時の女神が意味が微笑んだ、と確信したのだ。ペテロウスは咄嗟に声を張り飛ばして命令を発した。

「チャンスだ、敵は陣形を広げた。盾艦前へ、全艦凸型陣で、10時30分方向の敵艦隊中央を突破する!」
「しかし、それでは味方との連携が‥‥‥」

味方との連携を崩し各個撃破されるのでは、との懸念の声を上げる幕僚の参謀の1人がいたが、ペテロウスはその懸念を一括して吹き飛ばしてしまった。

「護り手になったら、それこそ我らに勝ちはない。ここで崩されるより、先手を打って敵を突き崩すのだ」

半ば強引ではあったが、時間が無い故に説明する暇もない。アマール艦隊は盾艦を前面に押し出し、後続が大口径の主砲を斉射をしながら突撃を開始した。
  アマール艦隊の咄嗟の突撃戦は、第34打撃艦隊の心理に激しい警戒を打ち鳴らした。ブルガットも自棄になったアマール艦隊に罵声を浴びせながらも対応する。

「突撃してくるとは、余程死に急ぐと見える。奴らを宇宙のチリにしてやるのだ」

突撃するアマール艦隊に対して、第34打撃艦隊は羽を合わせるが如く広げた両翼を素早くアマール艦隊へと振り向かせた。
正面と左右から砲火を加えて瞬時に消し飛ばしてやる。ブルガットは自分へそう言って聞かせ、何ほどのことは無いと落ち着かせようとした。
  だがこの場合、包囲する側より、包囲される側の方が遥かに強かった。ペテロウスは攻勢に定評のある軍人なのだ。
アマール艦隊は持てる限りの全ての砲火を第34打撃艦隊の中央部に集中させ、速度を一切落とすことなく突撃していった。
この速度に第34打撃艦隊は付いていけなかった。両翼で挟撃することに“半ば”成功させつつあったが、それよりも早くアマール艦隊の先方が食い付いたのだ。

「左右に構うな、突破する事のみに専念せよ!」
「敵戦艦1、2時方向より接近」
「右舷主砲旋回、斉射ァ!」

  旗艦〈ガルネシア〉は、まさに先頭に有って渦中にあった。迫るボラー戦艦の砲撃をシールドで弾く。その報復にと三連装主砲の斉射を見舞った。
しかし、撃沈に至らない。400mを超える巨体に相応しい耐久力だが、続けて斉射を受けると、さしもの戦艦とは言え耐える事が適わず沈んで逝った。
この様に第34打撃艦隊の中央部隊は、アマール艦隊との壮絶な撃ち合いを演じた。
  アマール艦隊は突撃戦などを得意とする艦隊であり、その特性が良く出ていたのだ。時には、艦の両舷側に並んだ副砲が帆船時代さながらの砲撃戦を再現する。
第34打撃艦艇と擦れ違う瞬間に、副砲群と主砲が火を噴いて敵艦の装甲を乱打する。乱打された方はたまったものではなかった。
元々、彼らは兵装を前方集中配置型で採用しているのだ。側面攻撃にも対応できるよう副砲群を備えるが、それはアマール艦の比ではない。

「将軍、敵の後背に出ました!」

激戦の末にアマール艦隊は中央突破を成功させた。その対価として、中央突破で数隻の数隻の7隻を失い、9隻が中破から大破という損害を被った。
  だが第34打撃艦隊もまた、立ちはだかった代償として、18隻あまりの戦闘艦を撃沈破されてしまう有様だった。

「敵艦隊に中央を突破されました!」

そして、突破された旨を報告されたブルガットは、半瞬だけ思考を停止させた。
  しかし、悪い報告は続く。

「提督、敵艦隊が背後で左右に展開!」

ペテロウスが凡庸ではない事を証明する艦隊運用である。彼は中央を強行突破し、瞬時に第34打撃艦隊の背後で反転、逆包囲体制を完成させたのだ。
数に勝る第34打撃艦隊だったが、この時ばかりはアマール艦隊に利がある。ペテロウスは間髪入れずに斉射を行った。

「撃ちまくれッ!」
「回頭させる暇を与えるな、撃ちまくるんだ!」

その的になったのは、後衛に配置させていた空母部隊である。手薄な背後を突かれ、空母部隊は恐慌状態に陥ってしまう始末だ。
後背からの全力斉射に、ブルガットは焦りを抱かずにはいられなかった。
  しかし、彼はそこで揺れる心理状態を落ち着けると、全艦に対応策と激励を飛ばした。

「臆するな、背後に回られたからと言って何ほどの事があるか。敵が後ろから押すのならば、我らは前進するのみ。前進して目前の敵を粉砕するぞ!」

彼の言う事は粗雑でありながらも、この急場で判断したその判断力こそ、賞賛されるものだろう。目前の敵とは、即ち地球軍 第10艦隊の事なのだ。
しかも、この艦隊も旧式艦や鹵獲艦の寄せ集めであり、戦線も膠着状態にあった。そこに彼ら第34打撃艦隊が急進して、第10艦隊の左側面に直撃を加える。
さすれば、これと戦っている第32打撃艦隊との十字砲火(クロスファイヤー)が成し得るのだ。そう信じ、彼らは前進を加速させたのだった
  ペテロウスは仰天した。その大胆不敵とも言える前進行動と、その読みに。後背を襲われての急反転は混乱を招く恐れがある分、前進しようと言うのだ。
しかも自分らの執った行動が、今度は友軍に危機を投げつける結果を生んでしまった。彼は拳を握り締め、これを追撃して戦力を一気に削がんとした。
同時に第10艦隊にも、この危険を伝えた。これでも最大限の義務を果たしたつもりだ。後は自分らがどれだけ打撃を与えられるか、味方がどう動くかである。





「ボラー軍 右翼の1個艦隊、9時20分より、全速で我が方へ向かって来る!」
「大胆かつ極めて効果的な戦法を選んだわけだな、あの艦隊指揮官は」

  第10艦隊旗艦 最上級〈青龍(セイリュウ)。急編成された当艦隊の旗艦たる〈セイリュウ〉は、装甲の厚い戦艦ではなく最上級巡洋艦であった。
戦力規模が拡大したのに従い戦艦に身を移さなかったのは、旧式艦に不安を覚えていたわけではなく、単に乗り慣れた艦から離れるの拒んだ為だ。
旗艦〈セイリュウ〉は、アルデバラン星系内における防衛艦隊旗艦として運用されていた艦だ。それに指揮能力も決して不足している訳ではなく、彼の基に集められた戦力数から見ても現用艦の最上級巡洋艦なら十分に機能は間に合うのである。
ともあれ過去において主力艦隊旗艦として巡洋艦を当てた例は存在する。その典型が第二次世界大戦時における、アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊 第5艦隊旗艦として重巡洋艦〈インディアナポリス〉がそれであり、もう1つの例として同大戦時の大日本帝国海軍総旗艦として軽巡洋艦〈大淀(オオヨド)〉などがあった。
  その〈セイリュウ〉艦橋では、座り慣れた指揮官席に腰を下ろす司令官ウランフの姿がある。オペレーター達の動揺する有様を見ても、そのスクリーンに映る敵艦隊の急速前進を見ても、彼は動じる気配を微塵も見せる事はなかった。
アマール艦隊からも警告の通信を受けていた彼は、対応策を素早く練って形にしたのだ。後は実現出来るかどうかだが、やってみなくては分からない。
それに、この行動は友軍艦隊との連携も必要不可欠なのだ。彼は無理を承知で援護要請を打電していた。上手く動いてくれれば良いものであるが。

「左舷の敵艦隊、急速接近」
「砲撃来る!」

  オペレーターが悲鳴に近い声を上げた。第34打撃艦隊が前進の勢いをそのまま武器として、ビームを叩き込んで来たのだ。
それも怒涛と言うべきで、本来の持ち味である火力投入は侮れない。
  このままでは本当に壊滅してしまうのではないかと思ってしまいものだが、ウランフは違った。彼は味方が混乱せぬ様、叱咤しながらも行動を起こした。
前方と左方から挟撃されるかと思われた第10艦隊は、突然として急速後退を始めたのである。それも全速で突撃してくる第34打撃艦隊に対して、巡洋戦艦シュメイサー級を中心とした戦艦隊が、第34打撃艦隊の先頭集団へ猛烈な砲撃を浴びせ返しつつ、という捕捉付きであった。
  この後退という行動には、第10艦隊と対峙していた第32打撃艦隊にしてみれば、第10艦隊が怯んだと思わず思い込んだ――実情は大きく違ったが。
第34打撃艦隊の突入進路に居た筈の第10艦隊が、突然でかつ乱れのない迅速な後退で外れてしまったのだ。

「敵艦隊後退、我が進路から急速に外れる」
「くそ、悪あがきをしおってからに。追え、進路を右舷方向へ――っ!」

ブルガットは進路の修正を指示したが、先頭集団が命令に反する動きをした。彼は激怒したが、この時、ウランフの巧みな手腕が混ぜ込まれていたのだ。
それは第34打撃艦隊に対して反撃の応酬をさせる際に、ピンポイントで先頭集団の右側面に砲火とミサイルを集中させてきたのである。
各艦艇指揮官には、時として自分の行動で艦を回避させて危険から身を護る必要がある。その心理を、彼は見事に突いたのだった。
  強力な砲撃とミサイルが右舷側に集中するともなれば、艦艇指揮官達あるいは、戦隊司令達は、大体の確率で左舷へと回避行動を執るであろう。
そして、その予見は的中した。先頭集団が意思に反して左方へと軌道修正してしまったのだ。

「馬鹿者が、そっちは友軍が居るんだぞ! 急ぎ右舷へ反転し、第32打撃艦隊の右舷へ並ぶのだ!」
「っ!? て、提督、第32打撃艦隊がこちらへ回避行動を!」
「馬鹿な!!」

ブルガットが驚愕する事態。それは第32打撃艦隊が、時を同じくして右舷方向――即ち自分らの方へと転進してきたのである。
その原因は、ウランフの要請を受けたジェーコフにあった。第32打撃艦隊が追撃するのを見計らって進路先に予めミサイルと魚雷を9ダース分もばら撒いたのだ。
無論、ジェーコフ自身の第9艦隊も目前の第31打撃艦隊と交戦中だったが、指向性に有利なのミサイル・魚雷などの兵器の全てを、追撃戦で油断しきっている第32打撃艦隊にぶつけたのだから相手もたまったものではなかったのだ。
  第32打撃艦隊は迎撃行動を執りながらも、右方へ無理矢理に押しやられたのである。この行動が第34打撃艦隊との衝突を起こしかけだが、あわや回避した。
――この瞬間だった。ウランフが待ち望んだ絶好の機会だ。彼はジェーコフの援護に感謝しつつ、後退を止めて急速前進を開始したのである。

「全艦、10時方向への敵艦隊――第34打撃艦隊に向け、最大戦速!」

それは右翼側と似たような光景にあった。ここでもまた、ボラー連邦軍は連合軍の連携によって手玉に取られたのである。
一番近い距離にいる第34打撃艦隊に向けて第10艦隊は突進した。瞬発的な加速力を見せつけると、回頭中の第34打撃艦隊の右舷前方に火力を叩き込む。
  旧式と揶揄されたアンドロメダ級と旧ドレッドノート級戦艦は、年式を感じさせない砲撃戦能力を果敢に見せつけた。
アリゾナ級戦艦〈ミズーリ〉は、46cm砲、25cm砲の合わせて12門を同時に放ち、ボラー連邦軍の艦艇2隻を同時に沈めて見せた。
POW級戦艦2隻〈ネルソン〉〈ロドネイ〉やノーウィック級戦艦2隻〈エカチェリーナ〉〈セヴァストポリ〉も、これまで過去に沈められた姉妹艦の仇討だと言わんばかりに主砲と魚雷・ミサイルを放ち続け、その合計撃沈数は瞬く間に7隻を記録したものだ。
またビスマルク級戦艦〈ティルピッツ〉などは、対艦ミサイル・魚雷を一度に50発も飛ばして第34打撃艦隊に打撃を与えたのである。

「調子に乗るな、蛮人ども! 右舷回頭、あの小癪な地球艦隊を‥‥‥!」
「後背より、先ほどの敵が来ます!」

  ブルガットが対応するよりも早く、流れに乗ったアマール艦隊によって後背を痛撃される。そして、前方からも猛牛の大群のように第10艦隊が流れ込んだ。
今度は連合軍による完璧な挟撃戦が形となる。容赦のない、絶え間のない砲撃の連続が降り注ぎ、前後から艦列を引き裂いていくのである。
この時の第32打撃艦隊は、友軍の退路を確保せんがため急速後退しようとしたのだが、ここでその目論みは破綻した事を知る。
  アマール艦隊は艦列をやや伸ばしつつ左方向へ転進させた。その横移動は、後退しようとしていた第32打撃艦隊の右側背を突く事に成功したのだ。
しかも第10艦隊もアマールの行動に連動した。左方向へと艦隊を移動させることで、ボラー連邦軍右翼までもが半包囲陣形に置かれてしまったのである。
第34打撃艦隊は前後に挟撃された事で4割を失い、第32打撃艦隊も2割近い損害を負った。
  この時点で、ボラー連邦軍の損失は600隻中180隻余りに上っていた。対する連合軍の損失は、346隻中60隻余りを失っている状況にある。
損害率はボラー軍が上回ってはいるが、連合軍にも限界が近づこうとしている。
  連合軍総司令官ジェーコフは友軍らの奮戦ぶりを賞賛していた。両翼の半包囲連携が見事に功を奏して、ボラー連邦軍全体を半包囲しようとしていたのだ。

「ペテロウス将軍も、レミオス提督も、良き手腕の持ち主でありますな」
「本当であります。彼らが友軍で、頼もしい限りです」

ゴルドキン参謀も賞賛の声を送り、コルチャークも賛同している。とはいえ、ボラー連邦軍は瓦解したわけではなかった。
なおも中央の艦隊――第31打撃艦隊はジェーコフの手腕に劣らぬものであり、第9艦隊と同レベルなのだ。それは、先のレミオスとも同じ状況と言えよう。
他艦隊が苦戦してもなお、その艦隊は全軍崩壊を辛うじて防ぎ、どうにか逆転の機会を掴もうとしているのではないか。
  正確には逆転を狙おうとしていた訳ではない。ボラー連邦軍総司令官ヴェールキン大将は、撤退のための機会を掴もうとしていたのだ。
それ故に組織的な抵抗は非常に強く、半壊した第35打撃艦隊等は戦線に復帰して防衛戦を支えている。

「‥‥‥波動砲、発射用意」
「! 司令、恐れながら申し上げます。この距離では近すぎ、効果は望めません。そればかりか、ここで拡散させては両翼の友軍に被害が出ないとも言い切れません」

ジェーコフの命令にゴルドキン参謀は咄嗟に意見を差し出した。確かに、現在の両軍の距離は拡散波動砲を使用するには近すぎた。
ある程度は射界を調整出来るとはいえども、下手をすれば拡散した波動砲のいずれかが、両翼に当たらないとも言えないのだ。
  彼もそれは承知している。包囲殲滅に波動砲は逆効果なのだ。そこで拡散ではなく通常モードでの発射を指示したのである。

「よろしいのですか」
「構わん。2、3隻で良い。敵を混乱させるのが目的だ」

それでも大胆な方法である。しかし、司令官が言うのだ。ゴルドキンもそれ以上に言う事を避け、波動砲の発射準備を数隻の戦艦に命じた。
  一方のヴェールキンは、自軍の敗北を察して撤退の準備を進めていた。組織的に動かねば、撤退しようにも各個撃破されるだけなのだ。
しかし、その準備を満足にさせる前から、地球艦隊による一手が繰り出された。それは4隻あまりの戦艦から超高エネルギー反応が検出されたことから始まった。

「地球艦隊の一部から、エネルギー反応!」
「――タキオン兵器!? 全軍、射線軸上から退避せよ!」

そう叫んだ瞬間、地球の戦艦4隻から波動エネルギーが撃ち出された。





  ヴェールキンは動揺を隠せなかった。まさか、このタイミングで発射させるとは! しかし、何故だ、何故こうも無謀な事をするのだ。
波動砲はボラー連邦の憎き敵――ガルマン帝国が用いる破壊兵器と同類の艦隊決戦兵器の筈ではないか。しかも奇妙な事に、あえて収束させて撃ったのだ。
被害は20隻に留まりはしたのだが、その被害の少なさに反比例するように、士気が大暴落した。

「タキオン兵器だ!」
「あれに消し飛ばされるぞ!」

  波動砲という兵器を実際に見たのは、初めてだったようだ。彼らは地球艦隊の底知れない力に戦慄する。恐らく、他のボラー連邦将兵も同様だろう。
余りの破壊力故に損害云々の前に、全軍は士気崩壊を起こしてしまった。ボラー連邦の過去で、艦隊が波動砲による攻撃を受けた例は数える程度もあるかどうかだ。
一例として第二の地球探しに出て来た地球の幾つかの探査船団を襲った時だ。大概は奇襲攻撃で反撃を与えぬままに撃滅したものだったが、その中でアメリカ船団の護衛艦〈アリゾナ〉には思わぬ反撃を喰らった事がある。
当初は調査船団の護衛艦と言っても良くて5隻程しかつけておらず、〈アリゾナ〉は多勢に無勢のボラー連邦艦隊に一矢報いる為に波動砲を発射したのだ。

「このままでは全滅する!」
「総司令部へ、救援を請う!」

  通信網の中を颯爽と走り回る恐怖の声に、ボラー連邦軍は完全に崩壊したことを察せざるを得なかった。包囲網に置かれたボラー連邦軍は単なる的に過ぎない。
組織的な抵抗も効果を無くし、前後左右から飛んで来るビームに串刺しにされる。駆逐艦は暴発するように粉微塵になり戦艦も艦体を大きく抉られる。
中には反撃して一矢報いるものの、忽ち数百倍の砲火が襲い、宇宙の藻屑へと変貌を遂げていく。急速に数を減らすボラー連邦軍に、威信も威厳もなかった。
  もっと早くに指示するべきだった、とヴェールキンは悔やみたいが、そうしている場合でもない。悔やむ暇があるなら、指示をするのだ。

「終わったな‥‥‥全艦隊に次ぐ、直ちに戦場から離脱する」
「ですが、我が艦隊は包囲されつつあります。離脱は難しいかと‥‥‥!」

それは分かり切っていた。だが、チャンスが無い訳ではない。それは、スクリーンの隅から映し出されている物体が離脱の鍵であった。
連合軍がそれを探知した時、何が飛んで来るのかと正体を知った時、驚き呆れた。

「本艦隊の7時方向より、ボラーのダミー艦隊接近! 数、200から240!」
「流れ弾じゃあるまいし、今更になって‥‥‥」

  コルチャークはタイミングの悪さに舌打ちしつつ、回避運動を命じようとして、息を呑んだ。それでは包囲網を崩す事になるではないか、と。
ジェーコフもそれに気づいており、運命の女神とやらに悪態をつく。ダミー艦となるものが、外見ならともかく中身まで成功に造られているわけではい。
中身はエンジンを除いて空っぽに近い筈だ。砲撃しても、エンジン部分を打ち抜かない限り爆発もしなければ撃沈もせずに、流れ弾状態で向かって来る。
だからと言って回避しない訳にも行かない。炎の川を乗り越えられるだけの強度を誇る性能だ。装甲もそれなりにあると見ていいだろう。
  そして、このダミー艦と言う名の流れ弾は、エトス艦隊やアマール艦隊にも迫っていた。ボラー連邦軍の用意したダミー艦とは400m近い巨大なものだ。
ぶつかってしまえば、それなりの損害は出てしまう筈だ。そればかりか全軍の包囲網が崩れる事は間違いない。

「今だ、地球艦隊の中央部へ目がけて、全軍突撃せよ!」
「撃て、ここでしくじれば、生き残る事は出来んぞ!」

ヴェールキンは離脱を命じ、エルベールト参謀も珍しく声を張り上げている。400隻余りに減ったボラー連邦軍は、陣形を崩しながらも連合軍の一角に突進した。
兎に角も、ボラー連邦軍は砲撃と前進を続けた。砲撃が当たろうが当たるまいが関係ない。包囲網を崩してくれるだけで良いのだから。
  中央部に位置していた第9艦隊は、隙をついて突進してくるボラー連邦軍全体を受け止められる筈もなかった。
ジェーコフは、狂信的な軍人でもない故に、真面目くさって正面から受け止めようという真似はしなかった。
ダミー艦を回避しつつ、第9艦隊はボラー連邦軍の進路から退くように動いたのだ。その結果、無駄な被害を出すことなく進路を譲らせることに成功する。

「ボラー艦隊、中央を突破。そのまま前進していきます」
「炎の川へ飛び込むつもりでしょう。如何なさいますか?」

  ボラー連邦軍は速度を落とすことなく、真っ直ぐに炎の川へと向かう。参謀の問いにジェーコフは数秒沈黙し、指揮席の肘掛を指でタップさせる。
このまま逃がすか? 勝敗はもう決しているのだ。連合軍勝利は確定している。だが、考えてみるのだ。相手は大国ボラー連邦である。
物量で責め立てる敵国は、惑星破壊をも辞さない様な性格だ。また後になって、ゾロゾロと遠征軍を派遣してくるに違いない。
しかも、今度は惑星ごと破壊しにくるかもしれない。あくまで可能性だが、否定も出来ないのが辛いところだった。
  友軍のウランフ、コッパーフィールド両少将、さらにレミオスとペテロウスも、指示を仰いでくる。

『ジェーコフ提督、敵は潰走しております。このまま放っておくべきでは?』
『いや、炎の川までは、出来うる限り撃ち減らすべきだろう。敵は物量で押し寄せてくる大国です』

放っておくべきかと意見するのはレミオスで、追撃するべきだと意見するのはペテロウスである。後の2名に関しては、どちらかと言えばペテロウスに近いものだ。

『ですが、敵と言えども勝敗は決しております。提督、無用な血を流すべきではありません』

武人としての教えを叩き込まれているレミオスにしてみれば、追撃はやり過ぎではないか、と感じるのだろう。逃げる敵を撃つのに気が引けるのだ。
ペテロウスは侵略国に揉みくちゃにされた祖国の経緯もあって、侵略者であるボラー連邦軍をこのまま逃がすのは気が済まないのだろう。
こうしている内にも、ボラー連邦軍は炎の川を渡り始めてしまう。議論している時間はない。
  そして、タップさせていた指が止まった。同時に、彼自身の方針を、全員に告げたのだが、それはペテロウスにしても、度が過ぎたようにも思えるものであった。

「全艦、追撃態勢に移る。速度に乗った後、直ちに波動砲の発射準備に入る」
『!?』

レミオスは唖然としたのは勿論、ペテロウスも動揺した。残る2人は、それも止む無しと言わんばかりに、軽く頷いたのだ。

『提督、ご再考の余地は有りませんか。それでは大量虐殺にすぎません』
『矛盾を言うようですが、小官としても、波動砲の一斉殲滅はやり過ぎかと思います』

反発――とはいかないが、レミオスは波動砲の発射に強く反対しているのが分かる。ペテロウスも、己の矛盾を自覚しながらも、波動砲に躊躇った。
確かに地球内部でも、波動砲は大量殺戮兵器である、と非難する一般人も少なくない。それは軍内部においても同様であった。
  ジェーコフもそれを自覚している。いや、自覚しているからこそ、と言うべきなのであろう。これがなければ地球も優位に戦う事は難しいのだ。
それに大量殺戮者であるという事は、軍人を務めている以上、常に身に纏わねばならないものだ。特に指揮官ともなれば。

「御二方の意見を、軽視するつもりはない」
『なら――』
「残念だが、再考の余地はない。我々は、地球市民を、全人類を護る為に波動砲を使用する。詭弁に聞こえるかもしれんが、この先の為に使う」
『‥‥‥了解しました』

彼女は不服そうな表情こそしなかったものの、どこかやりきれないのだろうか。武士道を教え込まれた者からすれば、許されない事なのだろう。





  反転した連合軍は最大戦足で追撃を開始した。その中の地球艦隊は、新旧含めた戦艦部隊を纏めて編成して先頭に立たせる。
スーパーアンドロメダ級戦艦とドレッドノート級戦艦、他の旧式艦艇で編成されており、それだけでも40隻あまりを数えた。
地球艦隊が波動砲の発射を行おうという事には見向きもせず、ボラー連邦軍は炎の川を越える事にのみ集中していた。超えれば追っては来るまいと踏んでいたのだ。
  だが、先ほどの様子から分かるように、ジェーコフが徹底主義だったのが彼らボラー連邦軍将兵達の不運であった。
それでもジェーコフは、好んで波動砲を使用しようとは思わない。これも、これから先の地球や同盟国を護るためなのだ。

(大量虐殺と言われても仕方がない。土方元帥も、この重い言葉を甘受したのだろうか)

かの土方 竜元帥を思い出す。彼もまたガトランティス戦役で使用した。前衛艦隊を波動砲で消滅させた事は軍事的に正しかっただろうが、人道的にはどうか。
だが、それを考えだした時の議論は際限のないものとなるのは容易に想像がつく。我々は軍人だ。軍人は市民を護りぬく義務がある。
  その為に彼は到底、ボラー連邦艦隊を生きて返すような事は考えてはおらず、徹底して叩きのめす事を考えていた。
一見は冷静沈着で派手さのない男に見えるジェーコフ。だが戦争という世界では甘さが後に取り返しのつかない事に繋がりかねない、という思考も持ち合わせている。
特にボラー連邦等の大国相手の艦隊に、余力を残す内に逃しては後の脅威になる。後顧の憂い絶つ為に全滅させるという覚悟を持って戦ねばならないのだ。
 そして、この逃さずに殲滅させるという結果は、後に心理的な作用を大きく働かせる事も可能だった。それが、恐怖心だ。
あの敵国の艦隊は手ごわい、殲滅されてしまう、生きては帰れない、等という恐怖を植え付けてやるのだ。
その例として、先程の波動砲発射に対する、エルベールトや、ボラー将兵達の反応がまさしくそうだ。心理とは意外に馬鹿には出来ないものである。

「波動砲の発射まで、あと1分!」
「ボラー艦隊、炎の川までおよそ50秒!」

まだ平気だ、波動砲の射程距離内だ。ジェーコフ焦らずに指揮を執り続けた。波動砲を発射する手筈の戦艦は、慣性の法則で前進しつつ準備を整えようとしている。
波動砲を使用する時は大概、艦の動きを止めて撃つパターンが多く、こうも進みながらというのは無い。
  第31打撃艦隊 旗艦〈マドヴェーレ〉艦橋でも、地球艦隊らの動きは見て取れた。動かない相手に安堵しつつも、オペレーターが報告する。

「第32、第34打撃艦隊、敵の有効射程距離から離脱しつつあり!」
「炎の川へ突入!」
「よし、ここを抜けたらそのまま全速で星系外延部まで行くぞ」

ヴェールキンも、やや安堵していた。敵の連合軍は追撃を断念している様子だ。その証拠に足を緩め始めている。これなら、離脱できるだろう。
だがこの考え方がいけなかった。炎の川へと突入したために、地球艦の波動エネルギーを感知出来なくなっていたのだ。
まさか逃げる自分らへ、炎の川を渡る自分らを撃って来るとまでは、気が回らないでいた。

「‥‥‥っ!?」

 そして、彼の人生は灼熱の川の中で一生を閉じてしまった。渡り終える直前になって地球艦隊からの拡散波動砲が襲い掛かったのだ。
分散した数百という波動エネルギーの束が、灼熱の大河の中で炸裂し後方を疎かにしたボラー連邦艦隊に襲い掛かった。
艦体を撃ち抜かれて爆沈するのはまだ良いかもしれない。中には掠った時の損傷口より、灼熱の気流に艦内を蹂躙される。
兵士達は生きたまま焼き殺されるか、或は灼熱の気流へ吸い出されて一瞬で窒息死と灼熱の焼死を同時に味わう。
  さらに味方艦の残骸が熱エネルギー流の流れに乗り他艦に激突する。バランスを失った戦闘艦はそのまま、恒星アルデバランへ吸い込まれていってしまう。
結果として、この波動砲発射が最終的な幕降ろしとなる。炎の川を渡ろうとして失敗したのは300隻を超過した。
波動砲を受けつつも、何とか渡り切れたの50隻もいるかどうかだ。

「ボラー艦隊、完全撤退を確認!」
「ふぅ‥‥‥やったな、参謀長」
「そうですな、司令」

  〈クニャージ・スヴォーロフ〉の艦橋内部で歓喜が上がることは無かった。ジェーコフは溜まった疲労が溢れ出したのか、ドサリ、と指揮席に身を深く沈める。
我々は何とか危機を脱したのだ。非人道的だとか非難されるだろうが、それで将来の地球や同盟の市民が護れるなら、それも甘受しよう。

(レミオス提督には、不快な思いをさせたであろうか)

一番に非賛同的だったレミオスを思い浮かべた。彼女も軍人なのだから、分かってくれても良いだろう等と彼は軽薄に考えなかった。
彼女には彼女なりの考え方があって当然であり、祖国の伝統を受けて育ってきた軍人なのだ。無理は言わないが、ある程度の相互理解は必要だろう。
この先も、何かと手を取り合わねばならないのだ。ジェーコフは今一つ溜息を吐く。ボラー連邦も、これで大人しくなってくれれば良いのだが、どうであろうか。
  帰還の途に付いていた最中、ゴルドキン参謀が被害報告と戦果報告のレポートを持って来た。

「総司令、我が方の被害、及び敵に与えた損害を纏めました」
「ご苦労」

  最終的な撃沈数報告は次の通りになる。連合軍346隻中:地球艦隊34隻:エトス艦隊18隻:アマール艦17隻、計69隻
ボラー連邦軍:600隻中562隻を損失[/b]。ボラー連邦は、このアルデバラン星系における戦いで、実に5個艦隊を失うという圧倒的な大敗北であった。
艦載機にしても、地球艦隊:37機を損失、ボラー艦載機:1000機以上を失ったのである。
  『アルデバラン星域の会戦』と称される戦いで、ボラー連邦はオリオン腕方面への機動戦力の半数近くを失ったとされている。
国境宙域の警備を強化する事に専念せねばなかった。さらにはガルマン帝国の攻勢に対応せねばならず、再度、ボラー連邦の旗色は悪くなる傾向を見せ始めたのだ。
そしてこの戦いは、周辺国家に大いなる反応を与えた。特に敏感に反応したのは、元大ウルップ星間国家連合の面々だ。
地球連邦とエトス国、アマール国の3ヶ国による連合艦隊が、軍事大国の艦隊を退けたという事実。

「地球こそ、平和の為に戦う国ではないか?」

各国家の首脳陣たちは、そのような意見を出した。あのSUSという身勝手極まりない奴らよりも、地球連邦の掲げる平和の方がよっぽど良いのではないだろうか?
地球連邦は他国へ要求して連合軍を編成した訳ではない。アマールもエトスも、自主的な行為により共同戦を申し出たのだ。
  だが、それだけ地球連邦がやり遂げた行動は大きい事を意味しているのではないか、と思える。でなければ手を差し伸べはしないだろう。
ここは地球連邦に歩み寄り、お互いの良き関係を築いて平和の輪を広げる事は可能ではないか‥‥‥。SUSの様なやりくちで偽りの平和を獲得するのではなく、お互いの信頼関係を強固にしたうえで、大同盟を築けた方が国としても市民にしても、悪いことは無い筈だ。
  だた、そうなるにはまだ数百年は要するかもしれない。ガルマン帝国、ボラー連邦がいる中で無駄に勢力を拡張すれば、警戒の目を向けられるだろう。
後さき考えずに行動するのは危険だ。ここは少しづつ、丁寧に進めていくべきなのではないか。と、多くの指導者は地球連邦という存在を中心に平和の構図を描きつつあった。
そして、この構想は118年後の西暦2345年という予想よりも早いに期間に、見事実現するのである。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。
やっと、というより、もう8月が終わってしまいました……バイトに明け暮れていたため、それ程に夏を堪能出来ませんでしたがw
さて、今回は外伝編の後編を仕上げましたが、いかがでしたでしょうか?
中編、後編と戦闘描写が殆んどを絞めているという……書こうと思えば、出来るものですね(←何を言っているんだかw)
しかも地球艦隊による波動砲のオンパレードをやってしまいました。幾らなんでも、撃ちすぎたと思っております(汗)。
今後、外伝編は恐らく書くかもしれません。本当なら本編を優先させるべきでしょうが……。
中には別物のクロス作品でも手を付けてみようかと、無謀な事を思う次第……ただし、短編系で(ヤメロw)。
では、次回からは本編に移りますので、よろしくお願いいたします。

拍手リンクにつきましては、次回本編の最後でお返事させていただきます。



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