外伝『チビ狸部隊長』


  本局が陥ちた‥‥‥しかし、そんな事に構っている余裕はない。第六戦術教導団司令の内示を受けるより早く、はやては動き出した。
マキリア・フォード技術主任と折衝を行い、自らのプランを本局第二技術部の指導という形式で組織同士のパイプを作る。
これで建造機材やドックは融通して貰えるだろう。さらに運用部責任者たるレティ・ロウラン提督に事情を話して必要な資材と部品の確保を要請した。
  ところが此処で、はやては思わぬ壁にぶつかってしまうこととなった。

「資材がない? 本当ですか?」

面食らったように彼女は言う。レティも彼女の反応を予め予想していただけに、申し訳なさそうな表情をする。

「えぇ。本局陥落で、事実上管理局の機能は半分以下になってしまったわ。傷ついた艦船は、各拠点で必死の修理と強化措置を行っているけど、数が多過ぎるのよ」

レティは今置かれている状況を淡々と述べていく。
  資材運搬に関して、一般貨物船だけではなく管理局の艦船も動員している状況である。無傷の艦船は勿論の事、傷の浅い次元航行艦まで使って資材を運ばせてもなお、あっという間に在庫切れになるという状態だと言うのだ。
長くて1ヶ月近くはこのような状態が続く、とレティは推測を口にした。

「そんな‥‥‥」

はやては予想しなかった事態に対し思わず呻く。1ヶ月もあれば、試作機が作れるほどの期間だ。それまで待っていたら、日が暮れて朝になってまう! と、我ながら酷い突っ込みだと思いつつも話しを続ける。
もはや言葉に地が出てしまっているが、気にしている暇はなかった。

「何とかならんもんですか? ウチらも、取り敢えず試作機1機分を確保できれば1ヶ月は待てます。このままだと、人だけで肝心の物がない部隊編制になってまう」
「そうは言ってもね、こっちとしても資材が出てくる魔法の杖を持っている訳でもないの。頼みの綱の地球防衛軍からも、色良い返事が貰えなかったし‥‥‥」

レティが地球防衛軍と言った瞬間、はやては閃いた。その手があった! 彼らから資材を融通して貰えばいいんやないか。
  ところが、持てる僅かな希望に顔を輝かせるはやてに、レティは厳しい目を向ける。

「やめておきなさい。ただでさえ、前回の交渉の余波があるのに‥‥‥一度クール期間を設けるのが妥当よ。19歳の二佐“ごとき”が出る幕じゃないわ」
(クール期間‥‥‥やて?)

いったいどうゆう事なのか、と尋ねるはやてに、レティは前回の合同会議の顛末を話す。
  管理局も不足する資材や部品の製造を防衛軍に依頼したのだが、勿論のこと、その原料は管理局側が〈トレーダー〉へ輸送するという条件だった。
しかし管理局一同が期待した反応とは裏腹に、マルセフは兎も角として増援部隊の劉提督らが激しく反対してしまい、危うく決裂しかけたのだというのだ。
  そう言いながらもレティは、先日の会議で提案された防衛軍の条件項目のリストをはやてに渡した。いったいどんな条件を出してきたのやら、とそのページに眼を通した瞬間に、彼女の眉が磁石に反応する貴金属の如くピクリと持ち上がった。

(何やこれ‥‥‥資源惑星の譲与に独自行動の承認、さらには軍事的行動における防衛軍の指揮権集中やて? こらまたとんでもない内容やな)

落ちぶれたとはいえ、管理局もこれ程の無茶な条件に納得するわけがない。

「貴女の反応も妥当なものよ。あの会議で、平然としていられたのはキール元帥ら3人ぐらいよ。私やリンディでさえ、防衛軍の提案には平然としてられなかったわ」

と言いつつも、当時の会議の騒然とした様子を思い浮かべていた。
片やはやては、渡されたリストを捲りつつも、たまげたと言わんばかりの表情で眺めやっていく。これじゃあ、決裂寸前に行ってもおかしくはないわな‥‥‥。
  一通り読み終えた彼女は、軽く溜息を吐きながらリストを閉じてレティへと返した。

「けど今から思えば、劉提督の反対の方に理があったわね。彼らは此処にマルセフ提督の応援として派遣されたのであって、管理局を養う為じゃないのだから」

それに彼らの言う、資源世界1つ丸ごと譲与して頂きたい、というのも頷けない訳ではなかった。途中から古代提督までもが反対に回ったのも納得出来る事なのだ。
また地球防衛軍からすれば、自らの艦隊を満足に戦える状態に持っていく為に、常に大量の資材を必要としている。只でさえ本局陥落で前回の約束“艦隊規模での次元間転移装置の開発”は、反故にされたと言っていいのだから。
  自らを守る力は最低限残しておきたい。それが彼らの本音だろう。

「結局は譲与して、彼らが地球へ帰る時に返還という条件に落ち着くのでしょうけど。一度入ったヒビは修復に手間取るものだし、難しいわね」
(こないな所で打ち揚げられてしまうなんて‥‥‥)

レティの諦観とも言える言葉を放った。それを聞いたはやても唇を噛みしめていた。





「はやて、何しょぼくれてるの! 頑張ってる私の身にもなってよね!!」


  帰り道、とぼとぼと歩くはやては、後ろから声を掛けられて思わず跳び上がってしまった。それは、実に懐かしい10年前の言葉使いである。
驚いて振り返れば、そこには金色の髪と吊り目がちの勝気な瞳がある。その容貌に一瞬だけだが、旧友であるアリサ・バニングスに見てとれた。
しかし、それも直ぐに違うと気づく。アリサの真似事をしていたフェイトが、そこに居たのだ。少しでも似せようと、わざわざ上手い具合に髪の毛を隠してセミショートに見せ、人差し指で目の両端を釣っているのだった。
普段の彼女なら、このようなお茶目な事はしないだろう。

「ふふ、元気なさそうだったから、アリサの真似をしてみたの」
「なんや‥‥‥フェイトちゃんか」

  はやてとフェイト、そして高町一尉ことなのはの幼馴染であるアリサ。懐かしき彼女のことで話が咲く。そういえば、アリサちゃんどうしてんやろか?

「アリサもすずかも、心配してたよ。今度は異世界の地球と手を組んで戦争だって答えたら、また仲間外れって剥れられたよ」
「とは言っても、直接来られるのもなぁ」

さすがに平行世界(パラレル・ワールド)の地球から来ました、で済む問題ではないだろう。大混乱は確定である。剣十字(シュベルトクロイツ)の件からも個人的に巻き込みたくないのだ。

「異世界の地球が、前の戦争で無茶苦茶になっても何度も復興してるって聞いてて、『何か手助けできればいいんだけど』って言ってたんたけど‥‥‥」
「ヘ?」

  これに、はやてはあっけに取られる。23世紀の地球へ、21世紀ちょい前の地球が手助けだと言うのだ。なんやそら? 必要ある訳ないやんか。

(無理言うのも、程々にせなあかんよ、アリサちゃん)

とはやては首を横に振ったが、対するフェイトは手を差し伸べてくれている2人の提案を潰えさせる訳にもいかない、と説得する。

「いや、だから‥‥‥歴史とか、文化とか、お料理とか?」

フェイトも何を言っているのか、解らなくなったようで答えがしどろもどろになる。
  だがその時、彼女の言った苦し紛れでありつつも何気なく放った言葉に、はやての記憶が反応した。その記憶の中には、ある映像が鮮明に浮かび上がる。
地球連邦へのガミラス帝国の遊星爆弾攻撃、放射能をたっぷり含んだ隕石を使用した地表爆撃で地球の全生命が危うく絶滅しかけたのだ。
消えた国家や文化も10や20では効かない。パラレル・ワールドであるならば、同じでなくても似たものならある筈とちゃうんか!

「フェイトちゃん!」

  黙り込んでいたはやてが突然、フェイトの肩をがっしと掴んだ。そして、驚き慄くフェイトを無視して詰め寄った。

「今からすぐ、アリサちゃんとすずかちゃんに連絡とってや! 97管理外世界の歴史と、文化と、お料理と、お裁縫と‥‥‥兎に角、ありったけのデータを寄越してって伝えてな!」
「は、え、ちょ‥‥‥ちょっと! 管理局員が管理外世界のデータに手をつけるのは違法だっ‥‥‥」

違法だと彼女が言う前に、はやては口を開いて封じる。それはもはや、反論を許さぬ勢いだ。

「んな違法なんぞ、熨斗つけて返しちゃる! 常温核融合炉と、実用超伝導素材の基幹データだけで、元は取れる筈やで!」
「そんな無茶苦茶な!?」

頭の痛いやりとりが続いた後、彼女達が行動に取り掛かったのは30分後の事であった。

「‥‥‥とんでもない事を思いつくのね、貴方達は」
「やってはあかんことですけど、何しろ時間がありません。防衛軍との会議を早期に開始させるためにも、これしかないと思うんです」

  はやてとフェイトがまず向かった先は、リンディの居る執務室であった。到着早々、はやてはリンディに先ほど思いついた自分らの提案を出したのである。
それを聞くや否や、リンディは半ば呆れた表情ではやてとフェイトを見返した。第97管理外世界の文化・歴史等の全種データを、防衛軍へ提供するという内容だ。
だがそうする事は、管理局の定められた法律に触れてしまう。そんな事をしてしまえば、謹慎処分では済まない筈だ。リンディも僅かばかり躊躇った。
  今の状態が緊急事態といえば、あながち間違いではないのだが、はやての言う文化データを抽出して防衛軍へ提供しても良い、という理由にはならないのだ。

「そこを何とか、お願い出来ないかな、義母さん。ここで機会を逃したら、SUSがまた‥‥‥」
「分かっているわ、フェイト。SUSの再進撃に何としても間に合わせなければ、次はないでしょうし‥‥‥」

思わず2人の頬が緩んだ。どうやらリンディは覚悟を決めたようだ。
だが、この提案を実現させるためには問題が山ほどあり、何と言ってもまずは自分らと同じ局員達への説得だろう。これには多大な苦労が予想されている。
次に、第97管理外世界のデータ収集だ。これも容易ならざる調査作業であり、完了させるのにどれ程の時間が必要か‥‥‥。
  此処で言っても始まらない、とリンディは早速行動に移った。まずはレティの説得から始まった。その様子を、フェイトとはやては傍で見守っていたのだが、案の定、長年の親友でさえ良い表情はしなかった。

『リンディの言う事も尤もだけど‥‥‥上層部がそれを快く受け入れてくれるかしら? かと言って、勝手に事を進めればどうなるか‥‥‥』
「だからこそ、貴女にも理解して欲しいのよ。他の高官達には、私からも説得するわ」
『状況が状況だから仕方ない、と言って簡単に理解してくれる人が、何人いるかしらね。まぁ、私としても躊躇していられないわ』

運用を管理する彼女にしてみれば、先日の会議での物資流通に関する件を即座に解消したい思いもある。これで、レティの方は説得できたことになる。
問題は他の者達だ。幕僚長のレーニッツは、どうにか理解を示してくれるだろうと思う。
  しかし、法律に煩い人間――特にマッカーシー辺りはどう反応するだろうか? 以前、はやてとマリエルが提案した、波動エンジン搭載型の新型艦建造に何とか賛成してくれていたのだが、今回はおいそれと許可してくれるとは思えない。
地上本部責任者のフーバー中将であれば、まだ可能性はある。彼はリンディやレティなどに対して、良く理解を示してくれている人物だ。

「こちらは任せて、貴女達は作業を進めて頂戴。準備しておくことに越したことはないでしょう」
「「はい」」
「それと、マルセフ提督にもきちんと話しておいてね。後に私からも正式な通達を送るつもりだけど‥‥‥」

  退室間際にリンディがそう付け足した。このマルセフに伝える役目を持っていたのは、彼に直接の指導を受けているフェイトだ。彼女ならば、問題ないだろう。

「ほな、頼むで」
「分かってるよ。きちんと伝えておくから」

そう言うと、フェイトはマルセフが待っているであろう管理ドックへと足を向けた。対するはやてと言えば、彼女には第97管理外世界へ通信を入れねばならない。






「さぁて、懐かしい再会がてら、お願いせんとな」

  フェイトが向かった方向とは逆方向へ足を向ける。はやてが向かうのは通信室だ。そこから第97管理外世界へと繋ぎ、友人達へ連絡を取ろうというものだ。
しかし、連絡を取ると言っても相手側がどの様な通信手段を有しているのか。これに関しては、アリサ、すずかの携帯電話へと繋ぐことで、会話が可能であった。
  とはいえ通信後に上層部が許可を降ろさなかった、等という事態になっていたらどうしたものか。それは笑えもしない冗談だ。
無許可でデータを収集したと言われ、厳正な処分を受けてしまうに違いない。戦術教導団の長を務め、兵器運用のプロジェクトにまで足を突っ込んでいる状態だ。
これでクビにでもなったら、全てが終わる。ここは、リンディやレティの手腕に期待するしかない。

「さてと‥‥‥直ぐに出てくれると、有り難いんやけど‥‥‥」

  通信席へ到着早々、彼女は各回線を繋いでいき、最終的には友人の持つ携帯電話番号へと接続させる。後は、向こうが出てくれるのを待つだけである。
繋がっている事は確かなようで、相手が電話に出たのは凡そ6秒後の事だった。

『はい』
「あ、アリサちゃん? ウチやけど‥‥‥」

まず電話に出てきたのはアリサである。はやての声を聞くや否や、彼女は電話越しで驚きの声を上げた。

『は、はやて!? どうしたの、最近大変な事になってるって聞いてたんだけど!!』
「あははは、心配せぇへんでええよ。ウチらは大丈夫や」

いきなり直球に聞いてくるアリサに、苦笑いしながらも大丈夫だと話す。
しかしアリサは、管理局が今どの様な状態になっているかまでは詳しく知らされていない。あくまで、戦争状態に入ってしまっている、とフェイトから聞かされているだけで、本局が陥落した等と言う心臓にも悪い話は聞かされていなかったのだ。

『フェイトから久々に連絡を寄越して来たら、戦争してるって言うじゃない。貴方達が危険な目に遭ってるのに、親友として放っては置けないわよ!』
「ホンマ、心配してくれて有難うな、アリサちゃん。実はな、今回はその事に関して手を貸してほしい事があるんよ」

手を貸してほしい、と聞いた瞬間に彼女は食いつく。それこそまさに、通信機からアリサの手が実際に出てくるのではないかというものである。
進んで協力してくれる友人に、心内で感謝した。

「地球のあらゆるデータを集めて欲しいんよ」
『え? あらゆるデータって‥‥‥』

  あまりにも漠然としすぎしたらしい。はやても、思わず簡潔に言い過ぎたと反省して言い直した。全世界の歴史、そして文化を中心に集めて欲しいのだと。
文化にしても、あるだけのもの全てだと言った。例えば、食の文化であったり、世界遺産であったり、衣服や建造物に関する文化等‥‥‥挙げてもきりがない。
これらのデータをなるべく早急に集めて欲しいのだ、とはやては懸命に通信機越しで伝えていったのである。
地球に居るアリサは、最初こそ唖然としていたが、真剣に聞き入っていた。
  全てを聞き終えるや否や、アリサは一呼吸を置いてから話し出した。

『‥‥‥わかったわ。どこまで出来るか分からないけど、全力で集めて見せるわよ』
「ホンマに有難うな、アリサちゃん」
『気にしないでよ、照れくさくなるじゃない。ところで、これはすずかにも伝えたの?』
「まだや。これから伝えようかと思っとったんやけど」

それに関しては私から言っとくわ、とアリサが言う。その方が早いでしょ、と言うのだ。確かにはやてから再度連絡するよりも、アリサからの方が早いだろう。
しかし、はやてとしては、すずかの声も直接に効いておきたかったが‥‥‥。それはそれ、とまた後に電話を掛ければいいと割り切った。

「それじゃぁ、お願いな。すずかちゃんにもよろしく頼むで」
『分かったわ。それで、連絡する時はどうするの?』
「もう一度こっちから掛けるわ。そっちはどれくらいの期間に集められそうなん?」

  携帯電話は何処でも通じる代物ではない。ましてや、次元空間へと繋がる筈もないのだ。それを可能としているのは、管理局の中継能力に他ならない。
だが管理局側から掛けられても、地球側からは掛けられないのだ。ましてや、地球製の一般携帯電話ともなればなおさらである。

『そうね‥‥‥全部は無理ね、明らかに。けど、集めておくから、集められた分だけ順次送るわ』
「分かった。じゃあ、頼むで」

そこで一旦通信を切った。次に掛けるときは4日後程だろう。取り敢えず、地球側の協力者は確実となった。

「地球の文化‥‥‥か」

  場所は歳97管理外世界――通称、地球であり、日本の海鳴市という街だ。その町のとある邸宅に、はやての話し相手であったアリサがいた。
勝気な雰囲気は昔のままだが、変わったと言えば、ロングヘアーだった金髪の髪が、大学院生になってセミショートになったくらいであろう。
携帯電話を閉じて数秒の間、考えに深け入る。

(はやては電話越しであぁも言っていたけど、本当は切羽詰っているんじゃないの?)

と向こう側の状況を推察してみたが、その推察は概ね当たっていた。正解だと言う者は誰一人としていないのだが。

「さて、すずかにも伝えておきますか、と」

  再び携帯電話を開くと、登録してあるすずかの番号へとかける。呼出には差ほどを時間を要さず、すぐにお目当ての人物の声が耳に入る。

「もしもし、すずか?」
『えぇ。どうしたの、アリサちゃん?』

あまり時間を駆けられない事態のため、アリサは彼女に事の内容を伝えていった。すずかもまた、アリサと同様に管理局の内情は良く分からいものの、危機にあるのではないかとの強い不安を抱えているものであった。
  それ故に、アリサから持ちかけられた話を聞き、即座にOKを出した。

『分かった。こっちも出来る限りのデータを集めてみるよ』
「うん‥‥‥あ、そうだ」
『どうしたの?』
「あのさ、2人でどの範囲を集めるか、決めておかない?」

1人で作業するよりも、2人で作業する方が少しでもデータは多く集められる。しかし、2人して同じようなデータを集めてしまっては元も子もない。
そこで、どちらがどういったデータを収集するのかを決めておこう、というのだ。効率の良い方法に、すずかも賛成した。
  まずは日本の歴史資料と文化資料のデータから手を付ける事になった。アリサが歴史関連の資料を担当し、すずかが衣食住に纏わる文化資料を担当する手筈だ。
各国のデータを点でバラバラに調べるよりも、集中的に集めようという魂胆だ。

「私は歴史の資料を片っ端から引っ張って来るけど、すずかは大丈夫?」
『大丈夫‥‥‥とは言えないかもしれない。文化は調べても出て来ないものもあるからね。けど、やるだけやってみるよ』
「わかった。こっちに余裕が出たら、そっちを手伝うわ」

それだけ言うと、2人は電話を切った。
  やる事が決まったのなら、後は実行あるのみ。まずは、この日本に関するものを徹底的にかき集めてやろうじゃない!
それにしても、協力の要請を受けたのが大学の長期休み中で幸いだった。この間に調べられるものは、どんどん調べておかねばならない。
今一度気合いを入れ直したアリサは、資料の詮索のために行動を開始した。





  視点は切り替わり、時空管理局の第2拠点。地球で行動を開始した2人と同じく、フェイトはマルセフに事の内容を伝えていた。

「成程、文化データの提供か」
「はい。管理局としても、早急に態勢を整えたいのです」

フェイトとマルセフは〈シヴァ〉の艦長室に居た。そして丁度、フェイトからの要請が伝え終わったところであった。
彼女から聞かされた、文化交流会と会議の早期再開の提案にマルセフは考え込んだ。正直な話、防衛軍側としてもこのまま会議を長引かせたくはない。
  だが、先日の様な軋轢を残した状態で会議をすることは、状況を悪化させかねないのだ。そこで出て来たのが、文化交流会を催すということ。
会議とは関係なく、お互いの中を少しでも進展させようとするための交流会。さらに地球が失った多くの文化資料の提供だというのである。
マルセフとしても、これは地球の文化を取り戻す大きなチャンスだ。見逃す手はない‥‥‥ないのだが、同時にマルセフはこうも思った。

(会議のクール期間、そして協力関係を深めたいとはいえ、これはまた魅力的な条件を出してきたものだ)

これが、あの八神二佐の打ってきた手なのか。若いながらも、頭の良く回る娘だ。これでますます、彼女の将来への期待が高まる。
  苦笑しつつも、フェイトへ返事を返した。

「分かった。文化交流会の件と、会議の早期再開は私から皆に伝えておこう。ただし、リンディ・ハラオウン提督からの連絡待ちだがね」
「はい。提督のご協力に感謝いたします」

彼の対応に深々と感謝を示すフェイトに、マルセフは気にしないでくれと返す。兎に角、これで防衛軍の事は、マルセフに任せれば大丈夫だ。
  はやてとフェイトの行動は、これらの様に迅速を極めた。はやては地球に連絡を取って親友達に協力を要請し、フェイトはマルセフに会議決裂後のクール期間短縮を依頼させ、戦略会議でも技術会議でもなく“文化交流会”を企画。
その席にて、第97管理外世界のデータを披露するのだ。地球では度重なる戦乱で、国家も文化も滅亡に追い込まれ、自らと家族だけが生き残ったという実例が幾らでもある。
そんな彼らに、自己同一性(アイデンティティ)の復活を示唆し、プロモーション分のデータを提供するのだ。
  後日、防衛軍は見事にこの策に嵌ることになった。下は宇宙戦士から、上は司令まで人類の生存の為に1つに纏まっていたのだが、年代が高い程、自らを育んだ文化に愛着が深いものであるのは、何処の時代、何処の世界に居ても共通のことであったのだ。
若い世代でも「自らがどこから来て、どこへ向かうのか?」という防衛軍のお決まりの宇宙の平和と、人類の生存に納得はできても釈然としない者がいるのも確かだ。
はやては、この隙間を突き切り崩しを図ったのだ。

「人類は1つ‥‥‥良い言葉なんやけど、100年や200年そこらで出来へんわ。自分の個性を包む膠があって、膠同士がくっついて、初めて1つになれる‥‥‥その膠こそ文化や」

と、はやては後に宣っている。
  こうなると防衛軍としても、交渉の為のはったりを続けにくい。何しろ相手は此方の上から下まで、欲する物を持っているのだから。
少なくとも、交渉の席には着かねばならない‥‥‥だが、はやてはそれに待ったをかけたのだ。まず自分は、所詮は二佐という士官でしかない。
このような席で名前が出れば、レティやリンディの面目が丸潰れだからだ。
  下手をすれば、自分が局員規定に抵触した咎で首が飛ぶ。そうならないよう、“文化交流会”を連続して行い、その裏で交渉の詰めを行うのだ。
カレドヴルフ社が保有しながらも、危険生物のおかげで開発できなかった資源世界で防衛軍主導の艦艇資材工場を新設させる。
そしてカレドヴルフ社は、今まで見ることもできなかった防衛軍の技術を、その目とデータで得ることができるから満足だろう。
  管理局は名目上交渉を有利に成立させ艦艇資材を得る。地球防衛軍は失われた文化と限定的ながら自らが自由にできる拠点を得る。
カレドヴルフ社は死に体の資産を有効活用し、僅かなりとも防衛軍の技術を得る。第97管理外世界すら、バニングスやすずかを通して新規技術を得ることができる。
はやては、この利害を見事に捌ききったのだ。それこそ、大小様々な歯車を上手く噛み合わせて時計の針を動かすが如く、である。
 そして第1回目となる文化交流会は、先日の会議から凡そ10日後に行われた。結果としては満足に終わったのだが、些細なトラブルもまた発生した。

「ハァ‥‥‥まさか、途中で酒盛りになってレティ提督が絡むわ脱ぐわ、で大騒ぎになるとは‥‥‥すっかり忘れてたがな」

後に苦笑いするはやてである。こうしてクールダウンを置いた次の会議で、あっという間に交渉は纏まり、管理局と防衛軍は戦力を回復する事になる。
  いや、どころか増強を可能としたのだ。そしてはやては、どのように立ち回ったのか、試作機50機分の資材を獲得していたのである。
根回しが用意周到だったという事を鑑みれば、はやての働きは充分、若さ以上のものであったと賞賛されてしかべきものであった。
のだが、それと同時に、何処からどう漏れたのか、防衛軍内部にも伝わり管理局だけでなく防衛軍にまで“ちびたぬ部隊長”の名前が鳴り響いたのは本人を愕然とさせるに十分な破壊力を有していた。

「な、なんで防衛軍に、そないな噂がひろまっとるねん!?」


‥‥‥等と当人は絶叫していた。とある金髪の執務官は、語っていたそうである。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。近頃は寒さも厳しいうえに、地震もまた発生してきているみたいですね。
また関東大震災の様な悲劇がおこるとなると、ゾッとしてしまいますが‥‥‥自然には逆らえないですね。
さて、今回は本編での文化交流会を行うために、裏ではやて達がどういった行動を起こしていたのかを描いてみました。
ネタは頂いていただけに、再構成するのにどうしたものかと頭を悩ませた結果が‥‥‥ごらんのとおりです(汗)
まだまだリリカル〜側の知識が足りない故に、第97管理外世界と管理局の間でどの様に連絡を取るのだとか(主に私的関係で)、地球と管理局(本局や拠点から)の間は転移装置1回で済まされるものなのか、だとか‥‥‥こういう細かい所の情報が不足しているゆえ、書きずらいですね。

あ、そういえば小説とは関係ありませんが、リメイク版ヤマト『宇宙戦艦ヤマト2199』が公開間近となりましたね。
しかしテレビ公開ではなく劇場公開と言うのが、ちと気にくわないとも思いましたが‥‥‥それでもみたいですね。
リメイクとだけあって、内部設定はかなり細かくなってきています。
まず、ヤマト作品全編を通して防衛軍内部の階級が不明確だった部分を、今回は補ってくれております。
ただし階級表の基準は、自衛隊を模範としている様です。例として、古代、島、雪が『1等宙尉』となっていました。
そして沖田艦長が『宙将(提督)』です。予測ですが、『宙将』の下が『宙将補』ではなかと‥‥‥陸海空ではなく宇宙の軍であるだけに、的確な名称だと思いました。
防衛軍の設定も固まって来ている様子。艦載機に国ごとの国旗を付けたりだとか、結構、国連軍として様になっているみたいです。
画像に関しては、綺麗な1言に尽きます。しかしながら、旧作来のファンの方、アナログ派の方にとっては、CG映像に不快感を示すようで‥‥‥私は割かし好きなんですね。
旧来ファンにしても、新作ファンにしても、是非とも楽しく視聴して頂きたいです。私自身もファンですから、やはり駄作だのつまらないだの、という酷評には何故か心痛みます。

‥‥‥と、今回もまた私的な事で長文となりました。感想へのお返事は、本編でさせて頂きますので、ご了承くださいませ。



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