外伝『エースの決意』



「な……何これえええええ!?」


  ある日、時空管理局第二拠点の第六戦術教導団専用区画に響き渡った声の持ち主は、管理局のエース――高町 なのはである。
局員生活でも、普段の生活からしても、これ程までの絶叫もとい悲鳴を上げた事はない。それはもう、誰しもが初めて聞く、驚きのあまりに振り返るほどの凄まじい声量であった。
そして、同時に羞恥に顔を染めるほどの元凶が、彼女の着用しているだ物。それは地球防衛軍――特に〈ヤマト〉乗組員が見たのならば、ごく平然とした反応をしたに違いない。
  デバイスを通じて自らに着装されたバリア・ジャケットは地球防衛軍の女性乗組員用制服と言えなくもない。いや、制服と言うには語弊が生じる。
何も知らないで見れば、それはダイバースーツだ。

(う、嘘でしょ!? こ、こんな恥ずかしい姿……!)

ある機体の飛行訓練と調整のために、それ専用のジャケットを着るよう、友人の八神 はやてに即されていたのだ。その時、はやては意味深な笑みを浮かべていた。
その理由が、ようやく分かったのだ。なのはの相棒〈レイジングハート〉にインプットされていたソレの恰好に、彼女が驚く事を予想していたのである。
  普通のダイバースーツなら彼女も絶叫はしなかっただろうが、これは生地はそれ程に薄くないのに、身体のラインがそれより浮き出ているのが最大の問題だった。
言う人が言うのであれば、裸よりも色っぽい衣装、と表現するだろう。何故、こんな恥ずかしい恰好が、パイロット用の制服なのか……羞恥で顔は茹蛸、頭はパンク寸前である。
恥ずかしさのあまり、彼女はロッカーの中に飛び込み、ガタガタと震える始末。これで海をダイビングすると言うならまだしも、これは作業服に類する制服。
本当にこれを来て外に出るのか、と考えていた時だった。

「なのはちゃん、どこにおるんや〜?」

友人のはやてが、マリエルと、あと別の人物と共に、なのはを探しに来たのは――。





  絶叫を上げる二〇分ほど前の事である。第六戦術教導団専用区画に、地上勤務だった筈のなのはが着任した。彼女は期待と不安を織り交ぜて、その場に足を踏み入れる。
ここへ到着する前に、彼女はミッドチルダで娘のヴィヴィオと、しばしの別れをしてきたばかりなのだ。再び会う事を約束したが、その時の何かに耐える娘の表情が忘れられない。
SUSの侵攻によって大きく揺れ動く管理局。管理世界の平和を護らんがために、たまたま遭難した地球防衛軍と協力関係を結び、さらには地球連邦政府とも承諾を得た。
とはいえ、管理局の中心である本局は、SUS艦隊に大打撃を与える代償として陥ちてしまった。なのはも、ミッドチルダでSUSの攻略部隊と死闘を繰り広げたものだ。
  同僚や後輩の死を間近に体験し、心理的な傷も負ってしまった。しかし、それを、あの古代との会話で傷を和らげ、新しい決意のもとで立ち上がったのだ。
彼女が精神的に立ち直ったのと同じく、管理局は地球防衛軍と手を差し伸べあいながらも、戦力の再編成を急ピッチで進めている。
それだけではない。かつては敵だったという、エトス、フリーデ、ベルデルの艦隊も加わった。祖国――日本で言う『呉越同舟』のような状態とも言えるだろう。
今や敵ではないとはいえ、そんな彼らと共に戦えるのだろうか。多くの局員は勿論の事、地球防衛軍将兵や、エトス軍らも思った事であった。

(……だけど、信じなければ、私達は生き残れない)

  かつてアレリウス・レーグの件で、何故防衛軍に編入されているのかと驚いたことがある。が、例のナンバーズの娘達の事を考えれば、一概に否定や非難しえるものではない。
新しい仲間――戦力を加えた連合軍。その中には、無論彼女も含まれている訳であり、今日がその貴重な戦力を担う事になる日であると知った時には、驚きを示したものだ。

(フェイトちゃんも、第六戦術教導団に編入されたって聞いたし……。いったい、どんな部隊なんだろう)

はやてからも詳しい内情を教えてもらっていないだけに、どのような形で戦力の一部を担うのだろうか。やっと力になれると思う反面、不安もある。
噂では新型艦という事らしいのだが、もしそうだとしても、自分に操縦できる筈がない。そのような類は、かつての〈アースラ〉操縦者達の方が適任ではないか。
  しかし、そんなことを言ってしまうと、フェイトはどうなのか。彼女は乗用車の運転こそ出来るが、戦闘艦または航空機などの操縦は全くの素人の筈である。
自分の世界である地球、日本では航空自衛隊がある。その戦闘機パイロットになるまで、一年そこらで完璧に乗りこなせるようなものではないのだ。
一年も持つかもわからない、この次元空間の戦争。いったいどうしようというのだろうか、はやては……。
  そんなことを 思いながら歩いていると、その真正面から聞き覚えのある声が聞こえる。噂をすれば何とやらか。

「なのはちゃん、おそーい!」

親しみとも不機嫌とも聞こえる、聞きなれたはやての声に、なのはは反射的に背筋を伸ばす。親友の間柄とは言え、組織内にあってはメリハリをつけねばならない。
ビシッと敬礼を決めると、上司であるはやてに、自らの着任を報告した。

「失礼しました。八神二佐、高町一等空尉、第六戦術教導団に着任いたします」
「着任を確認した」

はやても小さく頷きながら言うと、敬礼を降ろした。彼女の肩には、パートナーのリィンフォースUがいる。
  さらに、久々に会うマリエル・アテンザ技師。マリエルも敬礼してなのはに応える。だが一番驚かされたのは、もう一人の存在だった。
管理局の支給している制服ではなく、それは黒ジャケットとスカーフ、白スラックスに鍔付きの海軍帽、まさしく地球防衛軍の士官・将官専用制服である。
しかし一番に驚かされたのは、防衛軍の軍人だからというわけではない。その人物自身に驚かされたのだ。

「初めまして。私は地球防衛軍所属 装甲巡洋艦〈ファランクス〉副長のアレリウス・レーグ少佐です」
「ぁ……こ、こちらこそ、お初にお目に掛かります。高町 なのは一等空尉です」

彼女にとって、初めて会う事になる異星人との対面である。映像で見た人物とは言え、最初はその容貌に違和感を覚えてしまう。
  その表情の微妙な変化に気づいたレーグは、苦笑しながら言う。

「違和感を感じられるのも、無理はないでしょうね。灰色の皮膚を持つサイボークともなれば……」
「いぇ、そんなつもりでは……」

 肌の違いや機械人だ、と人種差別をしている訳ではない。そして彼女が、ただ純粋に、驚いているくらいの事はレーグにも分かる。
なのはが必死に弁明している姿が、はやてには滑稽な姿にも見える。親友があたふたとするのに微笑んで念話を飛ばした。

『大丈夫やで、なのはちゃん。なのはちゃんが、差別的思考(そないなこと)を持っていない事くらいわかるよ』

これ以上、彼の肌についてどうこう言うのも悪い。なのはは一言、うん、と頷いてその場を収めた。それから改めて、はやてがレーグのこれまでの経緯を話した。

「なのはちゃんは、管理局の新型艦については、知っとるよね?」
「うん。詳しい事は知らないけど、前々からそういう噂は聞いてるよ」
「実はね、ここにいらっしゃるレーグ少佐が、その新型艦の開発に協力して下さっているんよ」

  そう言いながら、後方にいるレーグに目線を移す。それに合わせて、自然となのはも彼に視線を移すと、彼も軽く会釈する。
なのはは思い出した。この人物が機械文明が著しく発展した国の生まれである事を。その祖国を失っているというのだから、その時の衝撃は大きいものだろう、と彼女は思う。
事実、レーグが捕虜の時にそれを聞いて、愕然としていたものである。

「八神二佐はそう仰いますが、協力と言うほどの事ではありませんよ。大半はこちらにいるアテンザ技師と、八神二佐によるものです」
「まぁた、謙遜されずともいいじゃないですか。実用にこぎつけられたのも、不備な点を解消できたのも、少佐のご指示があってこそじゃないですか」

  謙遜しなくてもいい、とマリエルはレーグに言う。その会話の様子からして、大分レーグという人物は管理局でも影響を与えている様子が分かる。
以前の管理局ならば、異世界の技術者を招いて新型機を造る等としないだろう。ここらではカレドヴルフという会社、他にはヴァイデンという大手企業がいる。
そちらへ依頼することぐらいはあっても不思議はなかった。が、残念ながら彼ら企業だけでは、まったく期待できないのが今の現状である。
それに比べ、地球防衛軍もとい地球連邦は、一〇〇年、二〇〇年と先を行く未来の世界。太陽系内だけでなく、銀河間をも往来している彼らが、遙かに優れているのは一目瞭然だ。
なのはは、以前に公開された地球の歴史を思い返しながら、改めて地球連邦の科学力の凄まじさを感じ取った。

「ま、取り敢えず歩きながらでもいいから、細かい事を説明せなあかんね」

  そう言うと、五人は揃って第六戦術教導団の専用区画の一つ、開発部へと歩みだした。地球防衛軍もといレーグの協力を受けて、新型艦を完成させた事は勿論、今回わざわざ第二拠点まで赴いた理由は、なのはの乗る新型艦の調整に立ち会うためでもある事だと言う。
さらに今回設立された、第六戦術教導団の事も説明を受けた。

「正直、元機動六課全員集めたかったけど、何分急な編成でな。隊長と副隊長だけや。その代り前と違うて本局、地上本部、技術部の全面バックアップを受けとる」

新型艦の噂もそうだったが、第六戦術教導団についても、なのはは話だけでも聞いている。例の新型艦の設計・運用を行っている場所であり、防衛軍の技術士官――即ちレーグを招いて、SUSに対抗できる魔導師専用の戦闘艦が建造されているという部署。
  だからこそ不安になる。先ほどから会話に出てきている新型艦という言葉。自分は戦闘艦など操縦した事などない。それを察したのかはやてが口を開く。

「大丈夫や! なのはちゃんは空を飛ぶのに意識したことないやろ。それと同じ。なのはちゃんの思考を、デバイスがトレースして機体を動かす」

テレビゲームとたいして変わらへん、と気軽に言うはやての笑み。その様な表情も出来るだろう、何せ操縦するのは彼女ではなく、なのはなのだから……。
やや皮肉を織り交ぜながらも、心中にある不安が取り除かれるはずも無い。後は実際に飛ばしてみない事には、どうと言えないのだ。

(……本当に大丈夫かな)





 設計局内に入り驚く。第六戦術教導団は一週間前に結成された新部署の筈。既に数十人の技術官が、各自の業務を行っている。それに内部空間への窓の外側に目線を向けた。
それが何なのか、例の新型艦であると察した瞬間に、窓辺へと思わず駆け寄る。

「綺麗……」

そこには白く塗装された一隻の船が鎮座していた。円錐を平たく押しつぶした外見に、翼を左右前方へ突き出した前進翼を取り付けた異色のフォルム。
艦と言うには目測で五〇m前後と小さいが、それでいても違和感を感じさせず、流麗かつ俊敏といった外見をイメージさせる。
さらには船体底部後方だけ異様な膨らみがあり、その美しい形状に凶悪さを付け加えている。
  そして船体側面に達筆なミッドチルダ文字で書かれている〈レイジングハート〉の銘――

「管理局の叡智と防衛軍の技術を融合させた、新型次元戦闘艇〈デバイス〉級ですぅ!」

〈デバイス〉級に見とれているなのは。その隣で、自慢げに胸を張るリィンフォースUだが、はやてはこつん、と突きながら話しを継いだ。

「正直、あの大きさだとデバイスの疑似空間に収納するのは無理やった。それでも、この艦はデバイスの一部なんや」
「しかし実質、そちらの管理法に反する代物となります。……とはいえ、今の状況を鑑みれば、そんな事を言っている場合ではありませんからね」

はやてに続いてレーグが言う。それに対して、なのはの頭に疑問が過ぎった。いったい、どう処置したというのだろうか。そんな疑問に、はやてが答える。

「“蛇の道は蛇”っちゅうこって、魔導師のデバイスという事で押し切った。無論、上にはリンディ提督、レティ提督、そしてマルセフ提督から口添えしてもろうた」

成るほど、となのは頷いた。管理局内でも影響力のある良識派の二人、そして協力者である防衛軍の長(現時点での)から言われれば、上も納得するだろう。

「だからこそ、あの艦は、貴女の相棒〈レイジングハート〉の銘が付けられているの。なのはさんだけの、なのはさんのための……新しい翼」

マリエルが話を繋げ、なのはのデバイス〈レイジングハート〉を返す。もう調整終わったんだ……と、なのはは驚く。昨日持って行ったばかりなのだ。
いったい、どんな調整を受けたのかしら。今の話からするに、新しい〈デバイス〉級を操縦できるように、〈レイジングハート〉を調整したのだろう。
  そんな時だった。そのなのはを押しのけるようにフェイトが現れ、マリエルに話しかける。急ぎ足の様で、なのはには気づかなかったらしい。

「ちょっとマリエル、推力の切り替えに〇.〇四の誤差が出てるけど。それに砲角が四度も右へズレてる」
「えぇ! またぁ?」

先に〈デバイス〉級を試していたのだろう。何やらズレを修正してくれと、鬼気迫る勢いだ。当のマリエルも、同じ修正を迫られた事で、頭を抱えている。
そこにフェイトの修正要請に応えるべく、レーグが自ら入って来た。

「ふむ……私が、直接具合を見ましょう」
「ぁ、ありがとうございます。御手間を取らせてしまう様で申し訳ないです」
「いえ。私もこの計画の参加者ですから。技術者としても、これくらいの事はやって当然です」

マリエルは彼の助力に感謝する一方、フェイトは彼がここに居たとは予想外だったらしい。気づくのが遅れ、慌てて敬礼する。レーグも答礼しながらも、修正作業に取り掛かった。
さらに、後ろでポカンとするなのはにも、笑みを見せて軽く会釈する。反射的にぎこちない笑みを返すが、彼女がポカンとする理由はフェイトの姿にある。

(あれ、フェイトちゃん、何でソニック・フォームっぽい姿で動き周ってるの? 男の人もいるし、恥ずかしいと思うんだけど)

  なのはは怪訝な顔でフェイトを見る。因みにソニック・フォームとは、フェイトのバリア・ジャケットの一形態であり、高速機動に適した形状をしている。
とはいえ管理世界や管理局を知らない者が見れば、その姿に面食らうのは間違いない。理由はその外見……所謂、身体のラインが浮き彫りになる黒のレオタードである事だ。
通常時のバリア・ジャケットは、黒いジャケットに黒い短めなタイトスカートに白いマント、という出で立ちである。が、そのソニック・フォームとやらになると……。
  もっとも、なのは等元機動六課には見慣れた姿なのだが、今のフェイトの姿は、また別の意味で面食らうものであった。
頭以外の全身を、ダイバースーツの様なものに身を包んでいるんのだ。両足、両腕が露出していない辺り、真面なものと思われる。
それにダイバースーツなればこそ、厚めの生地の御かげで、余程の事が無い限り、身体のラインが浮彫に目立つ事は無いだろう。
  だが、今彼女が着用している物は、ダイバースーツのそれよりも若干薄めに思える。つまり、身体のラインが浮彫になっているという事だ。

(……気にしないのかな?)

そんな疑問を余所に、フェイトは再びマリエルとレーグの会話に夢中で、気にもしていない様子だった。よく周りの人達も平然としていられるものだと思う。
因みにフェイトの着用するスーツは、防衛軍のパイロット達にとっては、馴染の物だ。防衛軍パイトロットは男性、女性を問わず、その類のスーツを着用するからだ。
これは昔から比べれば、随分とさっぱりとしたパイロットスーツだ。が、それもこれも、時代の進化の賜物である。これだけでも、相当なG対策がなされているのだ。
  なのはは、三人の会話に混じれずにオロオロとしていると、突然はやてにど突かれた。

「はい! ぐずぐずしとらんと、向こうのロッカーでジャケット展開してくる。直ぐ、あの機体で調整始めるで」
「う……うん」

急ぎ足でロッカー室に向かうなのは。その後で、はやてが含み笑いをしていたのは御愛嬌だろう。そして1分も経たない内に、素頓狂な悲鳴が構内に響き渡る事になる。





  ここで時系列は冒頭に戻る。震え上がるなのはを探しに、はやてが入って来た。続いて、悲鳴に驚き入ってくるフェイトとマリエル。
レーグは念のため、というよりも女性更衣室に入るのは気が引けるため、入口付近で待機していた。

「いませんね……」

今、ロッカー室にははやて、フェイト、マリエル以外はいない。はやては想像ができていたのか半ば笑いながらリィンフォースUをけしかける。
彼女は早速と言わんばかりに、かくれんぼの鬼の様に、あちらこちらを探し始めた。マリエルも、半ば予想できていたとはいえ、ここまで悲鳴を上げるとは思わなかった。
  片やフェイトの場合、なんでそんなに悲鳴を上げるのかな、と怪訝な表情であった。勿論、なのはがそういった類の服装に苦手意識をしているのは理解しているつもりだが。
ただし、周りの異性同性からすれば、フェイトのバリア・ジャケット――ソニック・フォームに関して、皆同じ事を言う筈だ。

「貴女が言えた事か?」

……と。滅多にソニック・フォームになる事は無いとはいえ、やはりどうにかするべきものだろう。余程の者ではない限り、彼女の姿は福眼を通り越して毒であろうから。
それを考慮しているのか、していないのか、その姿で任務に従事できるのだから、彼女も只者ではあるまい。

「なのはちゃん、どこにおるんや〜? 往生際が悪いでぇ、とっとと出てこんかい!」

  それはさておき、はやてはなのは探しに専念している。が、狭いロッカー室ともあって直ぐに見つかった。 

「なにコレぇ! こ、こんな格好、恥ずかしくて外に出られないよぉ!!」

ロッカーの一つが、ガタガタ揺れて声を上げることから、なのはは恐らくその中だろう。ジャケットを戻せばいいのに、立て篭もっているのは相当に混乱しているからか。
無理もないか。マルエルはひとつ溜め息を吐く。予想通りの反応、今回のバリア・ジャケットは、ある目的の為にその他の機能は限界まで削ってあるのだ。
  その結果が体にぴったりとフィットした全身ダイバースーツ形状なのは、前述したとおりだ。生地がやや薄めなため、裸より色っぽい衣装とも言えてしまう。
が、なのはの事情に斟酌している余裕もない。なるべく冷たく無機的に言葉を紡ぐしかないか、とマリエルが思った時だ。
マリエルの後ろで待機していたレーグが、冷酷とも言える冷たい、そして無機的な声で彼女を叱咤した。

「高町一尉、私が言うのも何だが、通常のバリア・ジャケットでは……貴女は死ぬ事になる」
「ど……どういう事、ですか?」

レーグの声にビクリとしつつも、なのはは訝る。バリアジャケットの形状は基本自分で決められる筈なのだ。こんな恥ずかしい格好に、何の理由があるのだろうか。
  その発想自体が、人を寄せ付けない、自然の壁の恐ろしさを知らぬ事を証明している。理由となる現況を知らぬ彼女には無理もない事だった。
次に発言したのはマリエルだ。彼女の口からは、数日前の事件が明かされる。

「七日前、本局の試験場でこの子と同形機が強奪されたのよ」

マリエルは話しながら、ロッカー室から窓越しにデバイス級を眺める。そこには相も変わらず、スポット・ライトに照らされて美しく輝く様は、まるで貴婦人のようだ。
単なる貴婦人ならいいものだが、彼女の美しき姿の下には、見えぬ血塗れの大鎌が隠されており、乗った者に対していつでも振り下ろせる状態になっているのだ。
そう……気まぐれな貴婦人が、大鎌を振りかざしているが如く、である。

「どこかの企業か、犯罪組織の指示を受けた管理局内の違法魔導師でしょうね。当時、私とレーグ少佐は管理室にいて、フェイトさんの機体調整をしていたわ。そんな時だったのよ、違法魔導師が堂々と乗り込んで、鮮やかに起動キーを盗み出したの。しかも機体周辺の、腕の立つ警備魔導師三人を倒してまで、〈デバイス〉に乗り込んで逃走したわ」

  けど、私が覚えていたのは魔導師が飛び込んで来た時まで。後は、その魔導師に攻撃されて気を失ったわ。と、マリエルは自分の記憶が途中で途切れている事を告白した。
そこで終わりかと思いきや、今度はレーグが再び切り出した。彼は最後まで、その事件を見ていたのだから。

「だが、事件はそれで終わりではなかったんですよ、高町一尉。どうなったと……思いますか?」

さらにトーン・ダウンしたレーグの声に、不穏な気配を察し皆が押し黙る。

「一時間も経たずに、自動操縦で戻って来たんですよ。皆はホッとしましたが、私は直ぐに救護班へ頼んで待機してもらいました」
「因みに、その時駆けつけてきたのは、丁度居合わせていたスバルよ」

マリエルが補足する。あの()が……と、なのはが思う間もなく、またレーグが切り出す。

「ナカジマ一等陸士は、直ぐに自分のデバイスでハッチを破壊し、出入り口を確保しました。私が傍で立ち会って、最初に中を除きましたが……何があったと思います?」
(え……“何が”?)

  なのはは戸惑った。震えていた身体は止まっていたが、その冷たい口調からして、彼女は自身の体温が急に下がっていくのが分かった。
人ではない、とでも言いたい表現だ。冗談を言う感じではない、本気の言いようである。何も答えられないなのはに、トドメの一撃を繰り出した。

「そこにあったのは、人間じゃなく……人間“だった”幾つかの肉塊ですよ」
「!?」

その一言に、なのはの体温は強制的に下げられてしまった。血の気が引くとは、こういう事を言うのだろうか、とさえ思う暇もない。
彼女はゾッとした。周りにいる者は直接に見なかったが、報告だけは聞いていた。証拠写真など、見せられたものではない、と死体解剖に立ち会った者は拒んだほどだ。
耳で聞いただけなら、どれだけ幸せな事か。だが、直接に目にしてしまった不幸な者がいた。それが、救出活動に参加したスバルである。

「今日の朝御飯も、まともに食べられらなかったそうよ。あの元気溌剌娘がね」

  この〈デバイス〉級を設計するのにあたって、マリエルとレーグは何度も議論を重ねたのだ。そして出た結論が、“現状ではSUSに対抗する戦艦では意味はない。SUSを圧倒するだけの性能がなければ価値はない”というものであった。
そしてその答えは、人間の限界を超えた運動性能と、敵戦闘艦を複数纏めて撃破可能な火力を併せ持つ、小型機動兵器と言うものだったのだ。
  そんなものは無理と思うだろう。だがレーグの提案したプランは、まさしくとんでもない代物だった。かつてレーグの祖国――デザリアム帝国では、刻々と滅びゆく自らの星と、民を救おうと様々な試みがなされた経緯があったが、地球侵略もその一つである。
他にも、自らを完全に機械の体に入れ替え、機械生命体として生きながらえようという試みもなされたのだ。その可能性が『機械艦隊計画』。
  宇宙戦艦の電子頭脳に自らの意識を移し替え、銀河系を縦横無尽に動き回るという狂気の産物である。彼のプランは、これに改良を加えたものである。

「魔導師の摸擬戦で見た戦闘能力を生かせないか?」

彼はそう考えた。魔導師は防衛軍の戦闘艦はおろか、戦闘機にも敵わないだろう。だが彼女達は魔導師であり、通常の人間からすれば“超人”たる身体能力を持っている。
そんな彼女達が、防衛軍の戦闘艦を操るのならどうだろうか。勿論、地球防衛軍にも無人艦は存在する。
  しかし、それはあくまでも人間が人工知能に対して、事細かに指示してやらなければ役に立たない代物である。
役割も限定されたものに過ぎなかった。では、その無人艦に人工知能の代わりに“超人”を乗せたらどうだろうか?
攻防の性能は、防衛軍並であり運動性や機動力で有人艦ではできなかった凄まじい加速や慣性にすら“超人”は耐えられる。
  そう、魔導師の展開するバリア・ジャケットにこそ、このプランの突破口はあると看破したのである。レーグ共々、その開発に専念した。
この破天荒極まりない、しかも恐ろしい兵器の行動に対応できる、次元空間生存能力と慣性防御能力に特化したバリア・ジャケットを開発した結果が、コレであったのだ。
そして、そんな事は露知らず、通常のジャケットで乗った違法魔導師の末路……。なのはは絶句するしかない。これでは、自分達魔導師は、兵器の部品にすぎないではないか!





「勝つためですよ」

  レーグが強く、冷酷に呟いた。

「かつて、我が祖国デザリアムが、高度な科学力と機械力に己惚れ、全てをそれに頼りきった代償として、己の純粋な生命力と繁栄力を縮める結果を生んでしまった。それと同じく、管理局は今、驕り外に目を向けなかった代償を支払わされている。貶し憎んでくれても構わない。それで勝てるのであれば、私は悪魔にでも魂を売る。貴女にも守りたいものがあるから、ここに来たのではないのですか? 高町一尉、そんな半端な気持では、戦場でのたれ死ぬだけですよ。守りたいものも、守れない……良く、考える事ですね」

辛辣とも言える冷酷な言葉を突き付けられ、なのはは呼吸すら忘れる程の衝撃を受けていた。彼が、滅び去った国の生き証人であり、軍人であるからこそ、迫力と説得力がある。
そして、守りたいものを守れないという言葉……それは、彼女の愛する娘も含まれているのだ。
  そこで彼女は、以前見た、あの悪夢を思い出す。燃え盛るミッドチルダに、瓦礫に埋もれる住民や局員、息絶えるシグナム、ヴィータの姿は、今も鮮明に映る。
娘のヴィヴィオが、SUS人に撃ち殺されてしまうであろう、その寸前までの記憶が、なのはを戦慄させた。

「……なのはさん、私も少佐と同意見よ。非道でもいい、兎に角、悪魔にでもしがみ付かなければ、この戦いで生き残れないの。貴女もそれくらいの事は、分かる筈よ。……それと、この部屋の階下が搭乗口になってるわ。やる気があるのなら、そこから貴女の機体に乗り込みなさい」

マリエルも突き放すように言ってロッカー室より出た。この時のフェイトは、なのはに半分同情し、半分は同情ようとは思わなかった。
  同情しないのは、コスチュームに関してどうだこうだと抗議するのは論外であること。残り半分は、自分らは兵器の部品に過ぎないのか、というショックに対して。
とはいえ、フェイトも魔導師だけの力で、戦争に勝てるとは思ってはいない。艦隊戦で身に染みて分かっているだけに、消耗品だのと扱われるのは、今までもなお仲間意識の強い彼女らからしてみれば、酷な話であったろう。
無論、レーグはそんな彼女の想いを全てを否定しているつもりはなかった。この場において、どうしてもなのはの意識を変えさせるための、強硬手段にすぎないのだ。
  ロッカー室を離れるレーグ、そしてマリエル。二人の後を、はやてとフェイトらが付いて行った。やや駆け足で近づくと、はやてが詫びを口にする。

「すみません、レーグ少佐。本当だったら、私が言うべきですのに……」
「気にしないでください。それに謝らなければならなのは私だ。なんら関係のない、初対面の私が出しゃばって、あのような事をズケズケと言ってしまったんですから……」
「でも……」
「もう言ってしまった事は仕方ありません。それに、彼女はあくまで、あのコスチュームに懐疑的なだけであって、戦闘に対しては問題ないでしょう」

その通りだった。なのはは、自身の姿に羞恥しただけの事。それに慣れてもらうだけで、あとは問題ない。それに、彼女は死闘を経験しているのだ。
レーグも資料を拝見し、はやて達からもミッドチルダの一件を耳にしている。彼女ならば、戦闘に対して立ち止まるような事はないだろう、と。
それに嫌われても致し方ない事だ。これで彼女がやる気を出してくれたのならば、安いものである。
  一方でマリエルは、はやての方を問題だと言い返す。

「それより問題は貴女よ、はやて。貴女の方なの。先日の査問会の指示を振り切って、運用責任者への異動と特定の魔導師への違法な人事勧誘、この組織だって表向きは偽っているんでしょう? 二度目は無いわよ」

査問会とは、遂数日前に行われたものである。しかし、今までは査問会なるものが実行された経験はなく、初めてそれを受けたのが、はやてであった。
この査問会と言われる物の目的は何か。はやてにも思い当たらない節が無い、と言い切れる訳ではなかった。それは、彼女が進行させている計画に関してである。
当然ではあろう。管理法を尽く侵してまで、質量兵器をふんだんに取り入れた新型艦の開発を主導した他、そのための魔導師の人事異動に関する問題等、山積みなのだから。
  その点を大いに指摘され(半ば弾劾に近かったが)つつも、途中から第六戦術教導団の運用に関しての問題も取り上げられた。
創設者ははやてに違いないだろうが、その太鼓判を押したのは陸のマッカーシーである。指導・運営は、はやてにあって然るべきだろうが、それに待ったをかけたのだ。

「八神二佐を本局幕僚部に編入し、第六戦術教導団の兵器開発運用は専門委員会の下で、継続するべし」

要は、はやてが第六戦術教導団を指導・運営するに問題が無いか、という疑問が本命であり、管理局としては直接目の見えるところで、運営させようというものであった。
これには、流石のはやても驚愕させられたと同時に、防衛軍と協力して扱ぎ付けた努力と結果を、横から奪い去るのか、という怒りが心底から芽生えたほどである。
  しかし、これには表沙汰にはできないであろう、裏の理由があった。その理由と忠告を口添えしたのが、査問会の参加者の一人であったリンディ・ハラオウンだ。
もし、はやて主導の下で新兵器開発が成功すればどうなるか。それは即ち、新兵器の開発・製造利権を求める兵器メーカーが、こぞって彼女に群がる事だ。
若手であり、魔導師としても、指揮官としても、優秀である。しかもこの開発が成功し、それで戦争の勝利に貢献したとなれば、はやての功績は巨大すぎるものとなろう。
昇進は確実であり、やがては提督の地位も周ってくる。彼らメーカーはそこまで考えて、自社の独占的利益を得ようと、彼女に対して様々な手を打ってくるに違いない。
  彼女は管理世界の平和と安定のためにと紛争しているが、知らぬうちに、周りの者達によって、利権の渦中に放り込まれる事になるのだ。
それを教えられた途端、はやてはそれこそ愕然とした。

「ウチは、そんなつもりでやってきた訳やない。利益や功績なんかいらんのや。ただ、世界の平和を、安定を、みんなを守りたい一心やのに……どこで、間違ったんや」

利権を求める輩の的になるのは、まっぴら御免である。そんな奴らのために、防衛軍の無償とも言える協力を得て、新兵器の開発に従事してきた訳ではない。
等とどう言おうが、その利権の抗争から抜けることは出来ない。ましてや、はやてがリンディから聞いた次の言葉にも、心臓を抉られるかと言う程の衝撃を受けた。

「管理世界の平和と安定の為、と言って揺るぎ無い信念を持ちながら、違法な手段でそれを成し遂げようとした者――レジアス中将にそっくりよ」

平和への思いが強すぎるがために、結局は己の命を落とす結果を生んだ男、レジアス・ゲイズ。はやては彼を批判し、JS事件と関わり有と疑っていた事もある。
それがどうか、いつの間にやら自分が、彼と同じ道を進み始めているのではないか。彼女自身、恐ろしさのあまりに震えが止まらなかった。
  リンディはそれを危惧し、はやてがそういった類の道に進まぬよう、こういった査問会という形を利用して、形式上でも立場をはっきりさせようとしたのである。
さらに彼女を始めとした穏健派や良識派が考えたのが、彼女を本局の直轄において、開発を進める事。これでどうにか、はやてが利権抗争に巻き込まれるのを防ごうというものだ。
一局員が、外からの利権の対象にされ、担ぎ上げられる事などあってはならない。政治家と軍人が、互いの利権のために腕を組むような愚行をさせないのと同様である。

「だから、はやてさん。ここは一歩退きなさい。真面目な貴女が、己の利権を求める輩の渦中に巻き込まれるような姿は、見たくないの」

  そのようにリンディから引くように言われた休憩時間の後、残る時間で査問会は続いた。はやては、そこでふと、協力者である地球防衛軍の事を考えてみたのだ。
何だかんだと言って、彼らはお人好しである。関係のない世界で、関係のない人達のために戦い、そしてその地球連邦政府すら、己の不利も構わず増援を送ってよこす。

『世界の平和と全人類の共存』

そんな抽象的な文言一つで、時空管理局に味方しているのだ。逆に考えてみる。彼らからすれば、それすら危うい世界に生きているからこそ、その尊さが分かるのではないのか。
私達にとって、当たり前の事が当り前として通用しない世界だからこそ、彼らは綺麗事やお人好しと呼ばれ続けていても、それを貫くのだろうか。
なればこそ、とはやては査問会の終了直前になって、こう言い放ったのである。

「現在開発が成功するかも判ってない本プロジェクトをそのまま投げ出す気にはなりません。さらに開発面で私の不備があったとしても運用面はまだ始まってもいないのが事実です。私を本プロジェクトの運用責任者にスライドさせ専門委員会の指導の元、開発を続行するのが至当と考えます」

この予想もしなかった発言に、査問会一同は騒然とした。リンディも何か言おうとする前に、はやては言いたい事を、全てを吐き出し切ってしまったのだ。
防衛軍がお人好しならば、自分もそうなってやる。“今”を何とかする間だけ、お人好しになってやる、と決め込んだのである。
  ……と、そのような経緯があったのだ。はやては、査問会を思い浮かべながらも、マリエルに反した。

「管理局が滅びれば、どの道同じや。やれる事はやっておきたいし、後悔だけはしたくないねん。それに誓ったんや。一〇年前の悲しみを繰り返さんと」

自分勝手な思い込みではない。ただ皆とこの世界を守りたい。皆の命と未来を紡いでいきたい。なんとなく地球防衛軍が、〈ヤマト〉が、〈シヴァ〉が、『宇宙の平和と全人類の共存』を唱えているのかが良く分かる。
自らの融合騎を見ながらはやては言葉を締める。レーグも黙ってそれを聞き終え、マリエルも無言のままだが、その表情は何処か微笑んでいる。

「……覚悟を決めたみたいだね」

艦に搭乗者が居る事を確認したフェイトが呟く。

「次元間戦闘艦デバイス級〈レイジングハート〉起動準備! 各員は所定の位置についてください」

マリエルの声と共にまた1隻の艦に命が吹きこまれたのである。
  その日、無事に〈レイジングハート〉は宙を舞った。初めてとは言い難い、立派な操縦であったとはやて達は言う。フェイトに劣らない、彼女らしい飛び方だった。
飛行試験を終えて、そのデータから最終調整を行う事になる。なのはは機体を降り、ロッカー室へと向かった。やはり、今のコスチュームに違和感を覚えざるをなかったが。
フェイトは、まだ粘りたいという事で、まだ乗り続けているが、なのはよりも先に乗り続けている事で、機体の具合も良好なのだろう。
なのはは初めてという事もあり、今回は予定通りに切り上げさせてもらった。早く慣れないと、と思いながらもロッカー室のドアを開けた。

「……っ!」
「こんにちは、高町一尉」

  そこには見知らぬ女性が一人立っていた。服装からして防衛軍の女性士官のようだが、初めて見る顔だろうか。いや、違う。見覚えが一度だけある。
直接的ではなく、写真で見た顔だ。紅茶色のロングヘアーに、アイスブルーの瞳をした欧州系の女性だ。たしか、艦の艦長を務めているという人物である。
名前を思い出そうとしたところで、その女性が先に名を明かした。

「初めまして。地球防衛軍、巡洋艦〈ファランクス〉艦長を務める、ジュリア・スタッカート中佐よ」
「こちらこそ。第六戦術教導団所属、高町 なのは一等空尉です」

びっくりだ。まさか防衛軍の女性艦長が、このロッカー室にいるとは予想だにしていなかった。思わず、防衛軍の人間は神出鬼没なのかとさえ思う。
  動揺するなのはに対してスタッカートは、クスリと笑った。

「驚かせてごめんなさいね。そんなつもりはなかったのよ」
「そうですか。しかし、艦長ともあろう方が、何故、ここへ……。視察でもされに?」
「そんなところね。ところで、高町一尉」

急に話題を切り替えた。

「先ほどは、うちの副長がキツイ事を言ったみたいで、失礼したわね。ごめんなさい」
「ほぇ……?」

突然の謝罪だ。何故、そのような事を、と思った時だ。スタッカートは〈ファランクス〉艦長と言っていたが、先のレーグは同艦の副長だと言っていた。
まさか、わざわざ、それを言うためにここへ来たというのか。困惑するなのはに、スタッカートは続けて言う。

「彼は悪気があって言ったわけじゃないの。あぁ見えて、結構、人の気持ちを正確に察するのよ。けど、どうしても不器用でね」
「あの……その、私は気にしていませんし、それは私が我が儘を言ってしまっただけですから。しかし、わざわざそれを言うために、ここに来られたのですか?」
「気にしていないのなら、嬉しいわ。それと、これは個人的だけど視察は本当よ。たまたま、副長と貴方達が話しているところに出くわしただけ」

  個人的という言葉に引っかかった。ようは、お忍びと言うものだろうか? そのような疑問を余所に、スタッカートは続ける。

「まぁ、恥ずかしがるのも無理ないわね。パイロット用のは、宇宙空間でも耐えられるように出来ているから、男性も女性もそんな格好になるのよ」
「あ……」

そこまで言われた時、自分は今だ特殊ジャケットのままである事を忘れていた。あっけにとられて気づかなかったのだ。咄嗟に両腕を交差させて、肩を抱くしぐさをする。
顔を朱色に染めながら、恥ずかしげに隠そうとするしぐさに、スタッカートも思わずクスリと笑った。よっぽど恥ずかしいのだろうな、と彼女はなのはの心境を悟った。
とはいえ、いずれは慣れてもらわねば困る話だが、大丈夫だろう。そんな事を想いつつ、スタッカートは退室する事を決めた。

「御免なさいね。すぐに出るから」
「は、はい……」
「あ、それと……」

  なのはの傍を通り掛った時、スタッカートは彼女の耳に呟くように言う。

「貴女は十分に綺麗なんだから、恥ずかしげにしなくても良いと思うわよ。貴女の好きな人が見たら、きっと惚れるわよ?」
「……っ!?」

瞬間、なのはの羞恥メーターはオーバーヒートを起こした。母性的であり、時に魅力的な色目を見せるスタッカートの言葉は、強烈だったのだろう。
なのは自身、気になる人がいない、というと嘘になる。が、交際をするほどまでの関係にないのが実情である。
それを知ってか知らずか、スタッカートはなのはを勇気づけよう、という気持ちで言ったのだから、そら恐ろしいものだ。
真っ赤に染まった顔に気づくこともなくスタッカートは、また会いましょうね、と言って今度こそ本当に退室した。
ただ一人、残されたなのはが硬直状態のままで、練習を終えたフェイトに発見されたのは、およそ一〇分後の事であったと言う。



〜〜あとあき〜〜
どうも、外伝編となりましたが、ネタを提供して下さった方には感謝いたします。
今回は主に、高町 なのはと、八神 はやて辺りにスポットが当てられましたが、本当ならば査問会なるエピソードも考えました(というより、そのネタを頂いておりました)。
ただ一部読者からは、余り暗すぎる(裏ネタ)は止めて欲しい、というご要望もありました。
しかし私としては完全に削除するのも、ネタを提供していただいた方にも悪いと思い、今回のような形を取らせていただきました。

なんだかんだ言って、ヤマトの女性制服って色っぽいですよね。特に二一九九では女性キャラクターが増し、魅力的な部分も増しているだけに。
きっと、初めて着用したときは、大半は恥ずかしいとか思ったはず(幾ら地球の運命を背負っている真面目な事とはいえ)。
また、リリカル側の女性バリア・ジャケットも、いろいろと突っ込みどころがあるわけで……。特にフェイト・テスタロッサは良い例でしょう。
ナンバーズとやらも、同じでしょう。よくもまぁ、あんな格好をさせるものだと思いますよ、あのマッド・サイエンティストは。
どちらの作品も、女性の服装に難ありなところが共通してますがな。まぁ、それも作品の魅力の一つという事で、良いかとw

――以下、私事――
つい最近、さりげなくガンダム シードディスティニーとやらを、某動画で拝聴してましたが、思い立った事が一つ。
何話か分かりませんが、月基地の決戦兵器『レクイエム』という超々射程なビーム兵器が発射される場面がありましたが、これがヤマトの反射衛星砲のシーン(二一九九ver)と合致。
そこで考えたのが、この発射場面にヤマト二一九九の新BGM『ヤマト渦中へ』をバックに流すと、ピッタリじゃないかと思った次第。
実際にやってみると……不思議や不思議、驚くほどに合ってましたよ。二一九九verの冥王星攻略戦を見た人なら、ピッタリと言う筈です。

さらに欲を出して、月基地が攻撃されるシーン(特に駐留艦隊がMSらの攻撃に晒される場面と、戦艦『ミネルバ』が基地に艦砲射撃を行う場面)にも、同じ事を実行。
これまた合いましたね。シーンも概ね合致します。二一九九verの場合は、ガンダムシードより後年の作品になりますが、まぁ、シチュエーションはたまたま被ったのでしょうね。
もし気になった方はお試しになられては?(個人差はあると思いますが)俗称『ブンチャカヤマト』は新作における傑作な曲だと思います。
というか、誰か動画にしてあげてもらいたいとか思ったり(←オイ)。

それにしても、ヤマト系BGMを作曲した宮川 泰先生や、息子の彬良先生を始めとした作曲家の方々は、本当に凄いと感じます。
息子さんの彬良さんには、今後もさらにご活躍を願っています。
それと、別にガンダム作品を批判しようとか、そういうつもりではないんです。純粋に、BGMを入れ替えると雰囲気がかなり変わるなぁ、と言いたいだけですので。



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