第6話『亡国の新総統』


〜CHAPTER・T〜



「……遅かった」

  大ガミラス帝星の変わり果てた有様を宇宙艇越しに目の当たりにしたジュラは、何も出来ずに呆然となっていた。
  大マゼラン銀河を支配下に置いていた栄光ある大ガミラス帝星の威光は消え去り、崇高な都市と自慢げに語っていたガミラスの政府高官の言うデスラーパレスは、見るも無残な残骸へと変り果てていた。そればかりか、城下町とも言うべき大都市の殆ども瓦礫の山へと変り果てており、ゴーストタウンと言うに相応しい有様であろう。
  今尚も戦闘の傷跡らしい火災や黒煙が吹き続けており、他にも活火山が噴き出す噴煙の量からみても、戦災だけではなく自然災害によるものも影響していることも窺えたものである。大量のマグマが火山口から吹き出し、或は新たに噴出口を形成して、街並みを飲み込んでいったのだ――もっとも、その自然災害も戦闘による二次被害的なものではあったが。
  栄華を誇った大都市の姿を失ったデスラーパレスを見つめ続けるジュラは、今度こそ、本当にどうすべきかと迷いを生じさせた。

「もっと早く行動を起こしていれば良かった……」

  ジュラはサイレン星での戦闘の一件の後に、〈ヤマト〉の協力を受けて住居の修理と宇宙艇の修理を完了させ、しばしサイレン星に留まり続けたのだが、どうしても取り切れない不安がジュラを突き動かした。気付けば宇宙艇に乗り込み、自動操縦でガミラス星へのコースを取っていたのだ。全速力で駆けつけたものの、その結果は目の前の光景が示していた通り。
  懸念していた通りに、デスラーはガミラス星を本土決戦上として〈ヤマト〉を迎え撃ったのだ。この廃墟と化した街並みを見れば、その凄まじさが否応にでも伝わってくる。同時に大多数の民間人も巻き添えとなって、瓦礫の下に埋もれてしまっているのだろう。
  どうしようもない無力感に苛まれるジュラは、この死の星に変わり果ててしまったガミラス星を前に、しばし立ちすくんでしまった。

「どうすれば……いいの……?」

  このままサイレン星に戻るという選択肢もあるが、まだ生き残っているかもしれない人々の意思も感じられる。そうなると、見殺しにも出来ない。かといって自分1人ではどうすることも出来なかった。
  何もできないまま、無駄に時間だけが流れる中、今もなお生きている人々の心の声が聞こえてくる。
  助けてくれ、痛い、苦しい、死にたくない……ジュラの心に圧迫を強いる悲痛の声だった。

「……ごめんなさい……」

  ジュラが死に追いやった訳ではないが、助けることも出来ない自分の存在を愚かしくも思う。
  だが、そんな時であった。ジュラの宇宙艇のセンサーが反応し、違う何かがガミラス星に接近している旨を知らせて来たのだ。
  それが何であるかはジュラも最初は分からなかったが、スクリーンに映る艦影を見た時に理解した。ジュラも良く見たことのある艦艇シルエットだ。モスグリーンを基調とした艦体色に、何処となく鮫を彷彿させるようなシルエット。それは間違いなく、ガミラス国防軍の艦隊であった。加えて、その中の1隻はかなりの大型艦で、ガミラスの高貴な色とされる青色をしている。
  それを見て、安心すべきか警戒すべきか、迷うところではあったのだが、それよりも先に動き出していたのはガミラス艦隊だ。艦隊の旗艦と思しき青い大型艦艇からの通信が、ジュラの宇宙艇に向けて発せられた。

『こちら、ガミラス国防軍戦艦〈デウスーラU世〉、ヴェルテ・タランだ。聞こえるか、こちらガミラス国防軍――』
「!」

  ジュラは、通信を送って来た声の主を知っていた。直ぐに通信機を操作し、〈デウスーラU世〉との回線を映像付きで開いた。

「聞こえております。私はジュラ……ジュラ・メルディアです」
『ッ……ジュラ様……ですと!?』

  思わぬ返答とジュラの姿に、ヴェルテは驚きを隠せずに表情と声に出てしまっていた。

「お久しぶりですね、タラン将軍」
『お久しぶりでございます、ジュラ様。よもや、此処でお会いするとは……!』

  感動の再会を果たした親子とでも言わんばかりに、ヴェルテの表情は感動に満ち溢れていた。ジュラにとっても、ヴェルテ・タランという人物には悪い印象を持ったことは無く、寧ろ公平で分け隔てなく接してくれたことをよく覚えていた。それに頭脳明晰で、ガミラスでも随一のテクノクラートなのだ。
  国防相という肩書も持つ以上は、ガミラスの命運を掛けた一大決戦で戦っていたと思っていただけに、後からこの場に現れたことに対して、多少の疑問も湧いてしまうが、それについてはヴェルテが事情を話した。

『私も一大決戦に向けて、機動要塞都市第2バレラスで指揮を執っていました。ですが、〈ヤマト〉の反撃によって要塞都市は崩壊……私共は崩壊寸前の所でジャンプして難を逃れたのですが……』

  それには続きがあった。無差別ワープを行った結果、予想以上に離れた宙域に出てしまったのだ。加えて、都市要塞と半ば一体化していた状態から、無理を強いた強制ワープによって機関部に支障をきたしたうえに、ガミラス本星へ戻ろうにも敵対勢力との接触も幾度か重なった結果、決戦場へ舞い戻ることが出来なくなってしまったのである。
  敵対勢力の偵察部隊や小艦隊による追撃を受けたものの、ヴェルテの乗艦する〈デウスーラU世〉はデスラーを乗せるべく建造された強力な戦闘艦であり、小艦隊レベルの部隊を単独の火力で難なく撃退していった。何せ480oクラスの陽電子ビームカノン砲塔は、ガミラス艦艇でもトップクラスの艦載砲だ。なお、それを上回るのが一等航宙艦であるゼルグート級の490o陽電子ビーム砲であったが、貫通力を向上させたカノン砲塔である480oビームカノン砲塔の方が総合的には高火力と言えた。
  一方の敵対勢力は、この未確認であった新型戦艦を沈めんとして襲い掛かるものの、たちまち倍する火力の波に浚われたのだ。
  ただし幸いだったのは、ガミラス本星に帰還途上に幾つかの友軍と合流できたことだろう――厳密には落ち延びた部隊だが。何せ、この時点でガミラス軍の前線は崩壊を始めており、多くの部隊は後退を重ねていたのである。そこへ、ヴェルテの〈デウスーラU世〉の様子を知って駆け付けてきた次第であった。
  とはいえ、結果として〈ヤマト〉との決戦に舞い戻ることは叶わなかった。本星に辿り付く前から、帝星司令部に連絡を取ろうとしていたものの、完全に連絡が途絶えたことを知ったヴェルテは、半ば途方に暮れていたところでもあったのだ。
  そんなところへ、ジュラの乗った宇宙艇を見つけて今に至る。

「私も、もしやと思いましたが……このような結末を迎えてしまったのは、本当に残念です」
『申し上げる言葉もございません……ですが、今此処で、ジュラ様とお会いできたのも奇跡ですが……ところで、母君のメラ様は如何なされましたか? ご一緒ではないのですか』

  メラの一件は、ヴェルテは知りようもない。いや、デスラーがユークレシア星系に迫る〈ヤマト〉を排除する為に、敢えて母娘を葬ろうという意図があったのは察していたところだった。
  実際には、目の前にジュラがいる以上はメラもいる筈だと思っていたのだ。

「母は……亡くなりました」
『ッ……失礼をいたしました。御無礼をお許しください……』
「いえ。知らなかったのですから……気にしないでください」

  無神経なことを聞いてしまったと反省するヴェルテに、ジュラは気にしないでほしいと付け加える。

『寛大な御心に感謝いたします。それでは、一先ずお迎えに参ります。此方へ御移りになられては如何かと』

  ヴェルテの提案にジュラは頷いて肯定した。
  〈デウスーラU世〉と少数艦艇が接近した後、ヴェルテらの遠隔操作によってジュラの宇宙艇は〈デウスーラU世〉に接舷される。ドッキングされたタラップから、最新鋭艦の床を踏むこととなったジュラ。そのジュラを、出迎えていたヴェルテが、心から再会できたことへの喜びを露わにした。

「御足労をお掛けしました、ジュラ様」
「いえ……タラン将軍の方が、大変でしたでしょう」

  見るからに、ヴェルテの表情にも披露の影が見えていた。それも当然であろう。本星に辿り付くまでに、敵の追撃を跳ね除けながら来たのだ。加えて本星も壊滅し、指導者であるデスラーも戦死しているとあれば、精神的なショックも多大なものである。
  だが、ヴェルテの表情には疲労の影が見えるこそすれ、ジュラに弱音を吐くような素振りは一切見せなかった。寧ろジュラに再会したことで疲労が消し飛んだようにも思える。
  そのまま艦橋へ案内されたジュラは、ヴェルテから概ねの事情を聞いた。もはやガミラス帝星としての威光は消え去り、各宙域で頻発する叛乱や決起のみならず、敵性勢力の果敢な反撃によってガミラス軍は総崩れ状態にあると。本星がこの有様では、体勢を立て直すことはほぼ不可能だ。最高指導者がよりにもよって全て失われた今、ガミラスを統治できる指導者は皆無であり、前宙域に散らばるガミラス軍も動きようが無く、降伏か全滅か逃亡かを迫られている。
  かくいうヴェルテらの艦隊も同様だ。本星に帰ってきても壊滅した星で何が出来るのか? ガミラス星も居住可能な星ではなくなり、寿命を縮めた死滅寸前の星に成っている。これ以上、この星で再建することは無意味にであった。

「これから、どうするつもりですか」
「私としても、分かりかねるところではありますが……やることは幾つかございます」

  まずはガミラス本星を壊滅に追いやった張本人である〈ヤマト〉の処置だ。如何に決戦で敗れたとはいえ、多くのガミラス兵が納得する訳がなく、本星を死の星にされた屈辱をどうにかして晴らしたい一心であった……が、今の現状では〈ヤマト〉を追撃する余裕はない。
  現時点で決めなければならないのは、生き延びる為に果てしの無い航海を行うか、敵勢力の軍門に下るかだ。

「ヴェルテ将軍は、既にお気持ちを決しておいででは?」
「ハッ……ですが、これは大変な旅となりましょう。それを覚悟せねばなりませんが」

  降伏しても処刑されるのがオチだ。まして、親衛隊らが滅茶苦茶な制裁を加えてくれたおかげで、他勢力はガミラスと名の着くものを許すことは無いだろう。
  となれば、生き残る為に動かねばならない。生き残りを掻き集めて、再起を図れる星を探すのだ。
  無論、その再起の為には〈ヤマト〉に一矢報いてからという前置きがあった。

「〈ヤマト〉は、ゾル星系テロンへ急ぎ戻ろうとするでしょうが……兵士達も、このまま終わらせる訳には参りません」
「つまり、〈ヤマト〉を討とういう訳ですね」
「仰る通りです。多くの兵士は、この結果に納得できていないのでが現状です。彼らを討ってからではないと、新天地を求めての航海は、恐らく望めませんでしょう」

  ヴェルテの言わんとすることは、ジュラにも分かる。本当ならば〈ヤマト〉を追撃するのは望ましくはないだろう。ヴェルテにしても、本心としては〈ヤマト〉を放っておいて態勢を整えることに尽力したいところではあるのだが、生き残りの兵士達が十分に納得してくれるとは到底言い難いのだった。彼らの鬱憤を晴らさないことには、今後の長い旅に支障をきたしかねないのだ。



  その肝心の新天地については、ジュラも以前よりガミラス星の寿命に関して知るところである。

「元々は、父デスラーも新たな母星探しを兼ねて、版図を広げていました。私達が、その続きをすることとなる訳ですね」
「やはり、ジュラ様もご存じだったのですね。我が母星を寿命を」
「えぇ。かのエーリク・ヴァム・デスラー大公殿下の時代から、最大の課題であることは知っておりました」

  大マゼラン銀河と小マゼラン銀河のみならず、天の川銀河にも侵略の手を伸ばした真の理由は、ごく僅かな者のみが知ることだ。ヴェルテは、デスラーの右腕的存在として補佐している立場上、デスラーから教えられていたのである。
  新たな母星探しを成し得るのは、何年どころか何十年と覚悟せねばならない難事業だ。その間にも、ガミラスを快く思わない敵性勢力が攻撃してくるだろうが、それをも乗り越えねばならない。
  また、この難事業を成し得る上で必要不可欠なものが彼らには無かった。

「しかしながら、この目的と達する為には我々を束ねる指導者がおりません」
「それは……」

  指導者――アベルト・デスラーに変わる新たな指導者がいなかったのだ。今この場で最高位であろうヴェルテは、自分はあくまで官僚であって指導者としての資質は無いと自負しているだけに、名乗り上げるには難しい。
  ではどうするか……答えは目の前にあった。

「非礼を承知で申し上げます。ジュラ様……貴女に、ガミラス臣民を束ねる指導者として立っていただきたいのです」
「ッ……冗談、ではありませんね」
「勿論です。今のガミラスを立ち上げるには、もはや貴女しかおりません。私などでは到底割に合いません。しかしながら、ジュラ様はデスラー総統の血を引いておられる、いわば正当な後継者であられます」

  熱意のこもった視線と思いを乗せて、ジュラに指導者として立ってほしいと懇願するヴェルテに、ジュラは素直に承諾しかねる問題だとして返事を躊躇った。自身に指導者としての力量があるとは思えないこともさることながら、まずもってサイレン人という血を率いている事実を、多くの生き残りはどう思うかが問題であった。純血ガミラス人を信奉する様な貴族達だったら、即座に反発するだろう。あのゼーリックなどが生きていれば、真っ先に反発していたであろうことは、想像するに難しくはなかった。
  だが、今はガミラス民族の危機である。デスラーの血を引いているという事実は代えがたいものであり、彼女以外にあり得なかった。
  またヴェルテにしてみれば、欲を出して権力を振りかざしたがる貴族軍人らに、自分らの未来を託すことはできよう筈も無い。彼らに比べれば、ジュラの方が余程に指導者としての資格もとい資質もあると見ていたのだ。

「……本当に、私でよろしいのですか?」
「はい」
「サイレン人の血を持つ人間が相応しいと?」
「ゼーリックの様な過激な貴族社会主義者ならば反発したでしょうが、多くの臣民は違います。そもそも我らガミラスは、併合した星々の住民との一体化を図るために、純血主義を良しとせず、出来る限りの改革を執り行ってまいりました」

  ヴェルテの言う様にガミラスは多くの星々を併合し、あるいは支配していたが、その数が多くなれば多くなるほど統制するのは困難を抱えるものである。如何に併合されたとはいえ、不満があまりにも蓄積し過ぎれば一斉に暴発されかねない危険性がある。まして、あの親衛隊が過激になっていく中、常識を弁えた官僚達は海人を悩ませたものであった。
  そこで、併合していった星々を上手く統治する為に取られたのが、純血主義に変わり立てられた功績重視の政策だ。他民族であっても、功績を立てればガミラス臣民の権利を受けることが叶い、生活においても純血ガミラス人と同等の生活水準や権利を受けられた。早い段階から推し進めた結果、軍内部でも少しづつ他惑星の軍人が上に昇り、市民生活レベルでも少しづつ変えられていったのである。
  とはいえ完全とは言い難く、寧ろ中途半端な部分もあってか貴族出身のガミラス人らとの待遇の差は依然として大きく、加えて多くが下等臣民などと卑屈に呼ぶことも少なくなかった。
  蔑ろにされる一方で、貴族以外のガミラス人からすれば他惑星の臣民に対してそう卑屈な視線は向けることはなかった。
  何を置いても彼らガミラス臣民は、デスラーを熱狂的に信奉しており、そのデスラーが示した国策や政策に対して従ったからだ。つまるところ、デスラーでなければ従わなかったとも言えるだろう。
  独裁体制だからこそ、臣民の多くはデスラーの意思に従って他民族との共同歩調を取っていったのである。

「ジュラ様に立って頂きたく」
「……分かりました」
「おぉ……ッ!」

  ヴェルテの熱い想いを受け、遂にジュラは承諾した。

「ただし、私は見ての通り、まだまだ未熟なものです。満足な指導が出来るとは限りませんが」
「ご安心ください。その為に、私がサポートいたします」

  要するに傀儡であろう……などとは決して言わなかった。ヴェルテには、ジュラを傀儡人形しようなどというつもりはサラサラなく、彼は彼なりにジュラを最大限にサポートしていく決意だ。彼女とて彼の内心を理解し、信じて彼に任せた。

「このタラン、ジュラ総統に何処までも付いてゆく所存でございます!」

  ビシリとした敬礼で、ジュラを新総統として迎えたヴェルテ・タラン。その彼に合わせ、艦橋にいた兵士もジュラに向け敬礼する。

「「「ガーレ・ガミロン!!」」」
「「「ガーレ・ジュラ!!」」」

  その掛け声は一斉に全艦艇に向けて放たれ、驚くほどの一体感を見せつけたのであった。

(私にできること……今は、これが精一杯)

  掛け声が心に響き渡り、ジュラは気持ちを一新させた。母を失い、父も失ったジュラ。天涯孤独の身となった自分に、何もすることが出来ないと失意を抱え込んでいたが、今の自身に何が出来るのかを確信したのだ。彼らガミラス人らの心の支えになるというのであれば、それを引き受けよう。新たな新天地を発見し、ガミラスを復興させる為にも、彼らの拠り所となろうと決意したのである。
  少数の艦隊だが、その気迫は正規艦隊を圧する勢いであった。
  その直後に新たな反応が検知されたが。

「タラン将軍、レーダーに反応!」
「!」

  早々に訪れたのは敵の来訪であろうか。
  タランは一瞬にして表情を引き締めると、直ぐに全艦に戦配備を命じた。

「全艦戦闘配備!」
「了解、全艦戦闘配備!」

  戦艦〈デウスーラU世〉に備え付けられている480o陽電子ビームカノン砲塔が、格納された状態から展開される。艦橋両舷側にある上甲板から迫り出した砲塔4基と、艦底から下方へ迫り出した2基が牙を向く。その他、各砲塔も感知された方向に切っ先を向けた。
  付き従う12隻の戦闘艦艇群も戦闘配置を完了し、未確認艦を迎え撃てるよう構えた。
  しかし、その緊張も直ぐに解けることになる――未確認艦隊と思われた艦隊から連絡が入ったからだ。

『こ……ら……ガミラ……軍。艦……司令官……ディッツだ……』
「っ……ディッツか!」

  聞き覚えのある声と名前に驚愕するヴェルテ。艦橋のクルーも急ぎ解析を完了させた。

「閣下、識別完了しました。識別コード・グリーン……あれは友軍です!」
「全艦、戦闘配置を解け。通信士官、直ぐに通信回線を開け!」

  レーダーに確認されたのは、見間違うことなきガミラス艦艇であり、その数は60余隻に上った。
  スクリーンの別枠に表示される味方艦識別コード表の中に、親友ガル・ディッツの座乗艦も含まれていたことからも、確実にディッツが帰還してきたことを確信させていた。
  回線を開かれると、ヴェルテは直ぐにディッツに返答を送った。

「こちらはヴェルテ・タランだ。ディッツ、聞こえるか?」
『おぉ……やはり、タランだったか』

  スクリーンに映ったディッツの表情に、ヴェルテも安堵する。
  さらに、ディッツだけではなく、弟のガデル・タランもが合流済みだったことを知ることになった。

『兄さん、無事で……』
「あぁ。ガデルも、良く戻ってこれたな」
『全くだよタラン。俺もガデル中将も、戦力の掻き集めに奔走したが……芳しくなくてな』

  版図内にて戦力を掻き集めるのは簡単そうに見えて、実はそうでもなかったのだ。そればかりか、ヴェルテが苦労したように奥深く進行してきた敵勢力との接触も少なからずあって、思う様に動くことも出来なかったのである。版図内である筈なのに、ガミラスの庭先ではなくなっていた現状に、ディッツもガデルも危機感をより鮮明としたものだった。逆に援軍を求められるのが実情であり、帝星司令部からの増援はまだなのかと催促されたほどである。
  しかも、ガミラスに不満を持っていた植民星の艦隊からも狙われる羽目となり、余力のある部隊を探し出すことすら困難だった。
  結果として彼らが集められたのは、版図内で警備活動に従事する警務艦隊やパトロール艦隊が大半であった。それでも、2人は合計60隻余りを集結させることが出来たのであるから、まずまずの結果ではないだろうか――決戦に間に合いすればであるが。
  再会できたのは良いとしても、今のガミラス星の現状は知らずにいるディッツに、ヴェルテは手短に話した。

『やはりか……通信が途絶えて以降、嫌な予感はしていたが……』
『母なる星もこの有様のみならず、デスラー総統も亡くなられたとは……兄さん、これからどうするのですか』

  滅亡した本星を前にして如何すべきか、これは今の彼らにとっては一番肝心なところであった。指導者を失ったガミラスが再起できるはずもなく、このままゲリラの様に潜伏を続けるしかないのであろうか。
  だが2人は、新たな指導者として立ち上がってもらったジュラのことを、まだ知らないのだった。



〜CHAPTER・U〜



  ヴェルテは改まった表情で、2人に伝えた。

「そのことだが、指導者は既にいらっしゃる」
『なんだと? デスラー総統の後継者となる人間が居たというのか?』
『それは誰ですか?』

  指導者を擁立したというヴェルテに、訝しげな表情で見返すヴェルテとガデル。デスラーには家族らしい家族はいなかった。兄だったマティウスは遠い昔に亡くなり、その妻も暴徒のクーデター未遂に巻き込まれて死亡していた。もし家族と呼べるものがいたのならば、それは数年前に他惑星へ追放された愛人と娘だけの筈だった。
  ユークレシア星系と呼ばれる辺境の星域に閉じ込められているのも聞いているが、よもや彼女達のこととは考えにくかったのだ。

「ご紹介する」

  2人からすると、ジュラの姿がヴェルテの陰に隠れて見えていない。ジュラも察して玉座から立ち上がると、ヴェルテの背中越しに声を掛ける。ヴェルテも立ち位置をずらすと、ジュラの姿が2人の目線に晒された。

「ディッツ提督、ガデル将軍、お久しぶりです。ジュラです」
『な……ジュラ様、だと!』
『まさか……兄さん、その方は本当に!』

  久々に見たデスラーの娘に、驚かない筈が無かった。

「そうだ。正真正銘のジュラ様……いや、ジュラ総統だ」
『ジュラ……総統……!』
『に……兄さん……どういうことです!』
「私から説明しましょう」

  驚く2人に、座席から立ち上がったジュラは自ら経緯を説明する。

「ガミラスの決戦を知った私は、急ぎ足を運んだのですが、残念ながら間に合いませんでした。その直後に、ヴェルテ・タラン将軍と再会することになったのです」
『ですが、ジュラ様……母君であるメラ様は……?』

  再会する経緯は分かるとしても、ジュラの母でありデスラーの愛人でもあったメラの所在が気になるガデルが問いかける。
  一瞬だけ目を伏せ、ジュラはメラがこの世の人ではなくなったことを告げたのだ。
  不味いことを聞いてしまったと反省するガデルだが、それを気に留めることなく謝罪は不要である旨を伝える。

「ディッツ、ガデル。この場で再会を果たされたのは、偶然ではないのだと思うのだ。ジュラ様には、瀕死となったガミラスを束ねて頂く為に、デスラー総統の跡を継がれるよう私から説得している。ジュラ総統には、ご理解を頂いている」
『馬鹿な、正気で言っているのかタラン!』

  いまだ10代半ば程度の若い女性に、いかなデスラーの血筋を引いているとはいえ無茶ではないか。強要したのではないかと疑ってしまうのも無理はないであろうか。
  ジュラは、それと察して口を開いた。

「私が自分の意志で受けました。決して、ヴェルテ将軍に強要された訳ではありません」
『ですが――』
「ディッツ提督のご心配は尤もです。私の様な若輩者が立つ等と、俄かに信じ難いでしょう。ですが、この国難にあたり、これまで護られてばかりだった私は、何かできないものかと苦心した故の決定なのです」
『むぅ……ですが……』

  納得しかねる様なディッツの表情。ガデルも、なんとも言い難いものだと表情をしかめていた。
  だが2人とも分かっていたのだ。今の滅亡も同然であるガミラスを復興させるには、ジュラの名が必要不可欠であると。デスラーのたった一人の娘ジュラ以外に、正当な後継者がいないのである。
  まだ垢抜けない外観のジュラだが、彼女の秘めたる決意に対して、遂にディッツもガデルも受け入れたのだった。

『了解した。ジュラ総統、このガル・ディッツ、総統に忠誠を誓います』
『ガデル・タランも、最大限のお力添えを致します』

  他に正当な指導者となるべきものがいない以上、ジュラを正式な指導者として迎え、あどけない彼女をサポートすることを誓う。
  ジュラも、2人の有能な人材が承諾の意を示してくれたことに安堵し、そして感謝した。普通ならば自分の様な女性など相手にもせず、反発して去っていくことがもっとも考えられる可能性だったからだ。
  此処にジュラを新たな指導者とする新生ガミラスが誕生した瞬間であったが、それは実に小さなものであろう。
  だが、これから大きくしてゆけば良いのだ。そして同時に、大ガミラス帝国の復興を必ず成し得るだけでなく、新たな母星をも見つけることも目標として掲げられる。亡きアベルト・デスラー総統の跡を継ぎ、ジュラが背負う重大な目標だった。

「有難うございます、ディッツ提督、ガデル将軍」

  改めて礼を述べるジュラだが、早速にお願いしたいことを申し付けた。

「早速ではあるのですが、お願いがあります」
「なんなりと、総統」
「この星には、まだ多くの命が残されています。如何にか救助は出来ないでしょうか」

  ジュラ特有の能力で発覚した臣民の命だ。大半が火山活動による大噴火や、戦災によって命を落としたとはいえ、辛うじて生き残っている命も少なくない。これから新天地を求めるうえで、彼らの命を出来得る限りは救っておきたいというのである。

「承知いたしました。直ぐに救助部隊を編成し、民間人の救出にあたりましょう。ディッツ、ガデル、そちらからも応援を頼む」
『分かった。だが、まだ火山活動が治まり切っていない不安定な状態だ。次に大噴火を引き越さないとも限らんが、出来る得る限りのことをしよう。あと、本星には無傷の軍港や宇宙港も幾つかあるようだから、そこから民間船や護送船らを回収しつつ、物資も出来得る限り回収しておこう。これから先、補給が何処でも受けられるとは限らんからな』
『では、私が民間人の救出を担います。ディッツ提督は物資や船の調達をお任せしたいと思いますが……よろしいですか』
『俺は構わんよ、ガデル中将。総統閣下も、よろしいですか?』
「はい。お願いします」

  ディッツは無事な艦艇と物資の調達を、ガデルは臣民の救出を行った。火山活動は、ディッツの言う様に完全に収まっているとは言い難く、何かの拍子に大噴火を引き越さないとも限らない。そうなった場合、辛いところではあるが作業を切り上げていかねばならない。ジュラもその点は承知し、全てを彼らに託したのである。
  2人の懸命な指揮によって、輸送艦25隻、補給艦33隻、工作艦20隻、護送艦14隻が確保され、保管されていた物資も多くが搬入された。臣民ら民間人も、火山活動による火砕流や火山弾、溶岩、そして戦災による天井岩盤の崩落、ミサイルなどの誤爆……挙げればきりがない程の災難を生き抜き、救出されたのは凡そ1万3600人前後であった。またガミラス軍兵士の生き残りも確認され、兵員凡そ4630名余りだった。70〜71億人規模の臣民が居たことを考えると、今回の戦災と自然災害がもたらした被害の大きさが如何ほどのものかが窺い知れよう。
  本当であれば、もっと多くの人命を救助したいところではあったが、火山活動の不安定化により再噴火の兆しを見せたことに寄り、止むを得ず中断することとなり、後ろ髪を引かれる思いではあったが、ガミラス艦隊は本星を離れたのである。
  なお〈ヤマト〉については、未だにイスカンダルへ寄港中だ。滞在して約3日目に入ろうという所で、どうやら何か問題が生じているらしかったが、此処で彼らはどう行動すべきかを決める為に緊急会議を執り行った。

「総統、〈ヤマト〉は未だに出航する気配はありません」

  総旗艦〈デウスーラU世〉の艦橋に、通信で繋がれているディッツとガデル、そしてジュラを前にしてヴェルテは現状を報告した。

『星を再生させる装置――コスモリバースシステムの受け取りに手間取っているようだが……どうする』
『イスカンダルに滞在するところを狙う訳にもいかないでしょうが……旅立った直後を狙いますか?』

  理由は分からないが、未だに飛び立つ気配が無い以上、こちらとしても態勢を整える時間は取れるということだが、その時間も長くはあるまいとして、迎撃する場所が求められる。
  ガデルの言う様に、イスカンダル星はガミラス星と双子星であり、神聖不可侵の領域として長年に渡り軍が入ったことは無い。彼の言う様に、イスカンダル星付近で戦闘を交えることなく、やや離れた処で迎え撃つのが妥当な線であろうと考えた。
  だが、それは一か八かの賭けでもあった。

「いや、この近海で迎え撃ったとして、〈ヤマト〉が我々を相手にするとは限らないだろう」

  そう懸念したヴェルテは、〈ヤマト〉が中央を突破して一気に離脱する可能性を示唆したのだ。確かに、〈ヤマト〉がこれ以上にガミラス軍に付き合う要素は何処にもない。一刻も早く地球へ戻ることを第一優先事項として、自分らを強引に潜り抜けるに違いないのだ。まして、1万隻単位の大艦隊の真っただ中に突撃した戦艦である。
  これに比して、今の戦力はたかだか70数隻程度にすぎない。〈ヤマト〉ならばあっという間に突破してしまうであろう。

『では、何処で迎え撃つのです』

  ガデルの問いかけに対し、意外にも答えを導き出したのはジュラであった。

「……“ゲシュ=タムの門”」
『ッ……!』
『今、なんと仰られましたか、総統閣下』

  ディッツとガデルが驚き視線を向けた先に、ジュラが遠慮がちではあるものの、ハッキリと繰り返し述べた。

「“ゲシュ=タムの門”です。あれを通らなければ、航海に膨大な時間を費やすのでしょう? ヴェルテ将軍」
「仰る通りでございます。〈ヤマト〉はバラン星のハブステーションを介して、大マゼラン銀河の外園まで着ました。帰るならば、同じ所を通過せざるを得ません」
『流石ですな、総統閣下。タラン、バラン星に先回りし、そこで迎え撃とう』
『小官も賛同します。途中で残存する味方と合流することも出来ましょうから、より戦力を増強させることも出来ましょう』
「……わかった。ジュラ総統、総統のご提案に沿って、バラン星で迎え撃ちますが、よろしいですか」
「お任せします、ヴェルテ将軍」

  細かいことは彼らに任せておけば良い。ジュラは方向性を決めるだけなのだ。

「全軍に通達、バラン星に向けて移動を開始する。残存する味方部隊にも呼びかけておけ」
「了解」

  道中で合流できる部隊があれば幸いであるが、果たしてどれ程の数が集まるかは未知数の世界だ。あまり大々的に通信を送り過ぎれば、敵勢力に感づかれてしまいかねない為、最少限度の呼びかけで我慢する他なかったのである。



  ……ガミラス艦隊が移動してから凡そ1週間後、彼らの予想に反して早々にして合流した部隊があった。

『第13空間機甲旅団司令ギュンター・クロイツェ少将。招集命令を受け馳せ参じました』

  地球で言えば40代後半程のガミラス人指揮官であり、機動戦術を活かした通称破壊作戦を得意とすることで派手さはないものの確実に敵の弱体化を図る縁の下の力持ち的な存在だ。ヴェルテの脳裏にも、そういった功績から良く記憶されている人物であった。因みに対ヤマト戦で散っていった雷撃隊隊長カリウス・クロイツェの兄でもある。
  また第13空間機甲旅団が駆け付けたのを皮切りに、ヘルマン・ベール准将の率いる第9空間重突撃機甲大隊、イワン・ハルトマン大佐の率いる第5空母打撃群らも途中合流することに成功する。無論、その他にも落ち延びた残存艦隊や、警務艦隊、補給部隊らが順次合わさり、次第にその数を増やしていったのだ。
  当然であるが、彼らはデスラー総統が戦死したことは知らないでいた。それを知ったのは合流してからであり、ディッツとヴェルテが事情を説明したが、それ以上に驚かせたのはジュラの姿であろう。これ程の若い娘が率いるのかと不安になった者も多かったのだが、良識派として知られる2人の説得に加えて、参謀部でも良識派の軍人として名の知られたガデルの説得も相まって大半はジュラを後継者として認めていったのである……というよりも、他に身寄りとなるべき場所が無かったから、という部分もあったが。
  そして、バラン星まで2ヶ月の行程を残した時、新たな部隊との合流を果たしたのだが、ある意味で問題を抱えた存在だった。

「よもやあの男とはな……」

  通信回線を繋げた直後に正体を知ったヴェルテは、出来得る限りの小さな声で嘆息した。彼の心配する対象が通信スクリーンに出ており、大半のガミラス軍兵士は、それを見て良い表情をしなかった。兵士達の反応からして目の前の人物の人望の無さを象徴しているのだが、当人は気づいていない様だった。

『グレムト・ゲール少将、総統閣下の名の下に掛け付けるべく、ただいま見参いたしました!』

  やけに気持ちの昂った様子の男――グレムト・ゲール少将は叫んだ。如何にも大げさな身振りと手振り、鼓舞を含んだ熱意を交えながら訴えた。自称“精鋭”艦隊と共に宇宙を放浪し、立ち塞がる難敵を打ち払い薙ぎ払いながらも、総統の御身を案じていたのだと……。無論、この壮大な放浪記を信じるのはゲール本人であり、他の者は呆れかえって言葉も出なかったが。
  グレムト・ゲールは元銀河方面軍作戦司令長官の肩書を持っていたが、その所以はヘルム・ゼーリックの後押しがあったからだとされる。詰まるところゲールという人物は、自身の実績や功績によって選ばれたのではなく権力者に媚び入った結果であった。帝星司令部としても大して強力な外部勢力も居ないと踏んでいただけに、敢えてゲールの推薦を黙認していた節も無いとは言い切れない。
  これも気付く者は直ぐに察するだろう。華々しい功績をたてるのであれば激戦地での勝利が早いものだが、敢えて対抗勢力の無い方面を任せた時点で、ゲールの能力は水準を下回るものだと考えざるを得なかったからだ。
  ゲールの軍人としての評価のみならず、人間としての評価もマイナス方向に傾くのだが、彼の一番の自慢できるところはただ1つ……デスラー総統への絶対なる忠誠心であった。若くしてガミラス星を統一した英雄であり、容姿端麗さだけではなく誰しもが認める手腕を内外に知らしめた人物。ゲールも貴族出身で出世欲も強かったが、旧貴族体制に固執する貴族軍を華麗に蹴散らしていくアベルト・デスラーの姿には、ある種の神々さを感じ、必然と引き込まれてしまったのだ。

「全宇宙を統べられる方は、ただ御一人……デスラー総統であらせられる!」

  ……と、ゲールはアベルト・デスラーにすっかり心酔し切ってしまった。故に、無能ではあろうとも絶対の忠誠を誓う忠臣的存在ではあった――デスラー自身は気にも留めなかったが。
  絶対の忠誠対象であるデスラーの戦死をゲールは信じてはいなかったが、面と向かってヴェルテに「デスラー総統閣下は戦死された」と聞かされるや愕然としてしまい、見事なほどにわざとらしくも思える程の涙を流してしまった。

『そ……総統が……総統が戦死されるとは……ぐぅ……!』

  地球換算で言えば47歳の中年男性が見せる泣き顔に誰も同情はしなかったものの、彼に対して声を掛けたのがジュラであった。

「ゲール将軍」
『うぅ……ッ!?』

  突然、透き通った声で声を掛けられたゲールは、ジュラを見た瞬間に硬直した。

「ゲール少将。こちらは、デスラー総統の後継者たるジュラ総統閣下だ」

  傍に控えていたヴェルテが、ゲールが何かを言わんとする前に機先を制する。

『総……統……!?』
「そうだ。デスラー総統が亡くなられた今、我々を導かれるのは正統な血を引き継がれるジュラ様ただ御一人だ。異論があるならば、離脱しても構わ――」

  ヴェルテが凛とした表情でゲールに釘を刺すのだが、そのゲールの目は驚きを禁じ得ないとばかりにジュラを凝視していた。他の女性ならば、中年男性から威圧的にも捉えられる視線を受ければ顔を背けてしまうだろうが、ジュラはゲールから目を逸らさない。
  ゲールが凝視している様子に、ヴェルテも失礼だと注意を促そうとしたのも束の間だった。

『お……お初にお目に掛かります、私めはグレムト・ゲールであります!』
「ジュラです。遠路はるばる、呼びかけに応じて頂き有難うございます、ゲール将軍」
『勿体なきお言葉! 先ほどは、とんだ醜態を晒し失礼を致しました。よもや、デスラー総統の後継者たるジュラ様にお目に掛かれるとは……このゲール、無上の喜びにございますッ!』

  反発するかと思いきや、ゲールの姿勢にはヴェルテも虚を突かれた。アベルト・デスラーを強く信奉するだけに反発が予想されていたのだが、ジュラをあっさりと指導者として受け入れた姿勢には疑問も出てきてしまうものだ。

「父アベルトの意を受け継ぎ、全力でガミラスの再興を成し得る決意です。ゲール将軍も力を貸して頂けませんか?」
『勿論でございます! お若いながらも、我らガミラス人の為に先頭に立たれる御意志……ご立派です。不肖このゲール……何処までもジュラ総統に付いてゆきます故、どうかご安心ください!』

  熱意を余計に含んだ視線を送る姿勢には、やはり大半が目を背けるであろう。
  戦死したアベルト・デスラーの後継者ジュラを目の当たりにしたゲールは、ジュラを女神の様に受け取っていたのだ。デスラー譲りである金髪のロングヘアに、アイスブルーの瞳、年齢に比して落ち着いた振る舞い……一瞬にして引き込まれたのであった。そう、まるでアベルト・デスラーの美貌とカリスマ性に一目惚れしたように、ジュラにも一目惚れしたのだ。無論、それは恋愛感情などではなく、信仰対象としての感情だったが。
  意外な程すんなりと受け入れたゲールに、信じ難いような、或は納得した様な、複雑な表情を作るヴェルテであったが、兎も角はゲールが納得したのだから一先ずは良しとすべきである。これ以上に問題は起こしたくはない。
  以上の様にして、ゲール率いる艦隊が無事に戦力の一部として合流することとなった。
  だが、ゲール並に厄介な存在もいたことが数日して発覚する。

『タラン……例の艦隊が合流したいと言ってきておるが、どうする?』
「間違いないのか、ディッツ」
『あぁ……照合したが間違いない。ゼルグート級1番艦〈ゼルグートU世〉と中央軍の残存艦隊だ。連絡をよこしたのは〈ゼルグートU世〉艦長のバシブ・バンデベル准将だそうだ』
「バンデベルか……確か、ゼーリックの派閥に与する貴族だったな」
『そうだ』

  この時、彼らに合流せんとしてきたのはバシブ・バンデベル准将という貴族出身の将官だった。ゼーリックの貴族社会主義に同調したガミラス人で、クーデターに加担していたことから危険思想人物として指名手配されていた。バラン星での一件の後、ゲールがゼーリックの座乗艦に居座ることを拒絶して自分の座乗艦に戻ったのを機に、バンデベル率いるゼーリック派の艦艇は航路を逸脱して宛ても無く途方も無く、広い宇宙を彷徨っていたのだ。
  更にはガミラス本星も陥落したのでは……という情報が飛び込んで来たことから、いよいよ本当に流浪する羽目になったものの、ジュラ率いるガミラス艦隊の招集を受けて藁にすがる思いでやって来たのである。
  あまりにも都合の良い連中だと批難されても仕方がないが、ジュラは咎めなかった。帰る星も無くなった今、誰しもが拠り所を求めている。過去のいざこざはどうであれ、ジュラ自身は全てを水に流すとまで明言したのだ。借りにもデスラーの命を狙った面々であり、ヴェルテやディッツも忠告はした。それでも、一致団結する時だとして、ジュラは2人の忠告に感謝しつつも、意思を通したのだった。
  とはいえ、ジュラからの同行許可を受けた後にディッツは個別回線を使い、バンデベルに対して厳重に言い渡した。

『バンデベル准将。ジュラ総統の御恩情を無駄にしてくれるなよ』

  厳重に釘を刺すディッツに、バンデベルはひたすら姿勢を低くして了解の意を見せる他なかった。それでも見捨てられる心配をしていたバンデベルは、同行を許可されたことに安堵したものだ。
  ただし、若い女性が新たな指導者と知って愕然としたものだったが。

「馬鹿な、あんな小娘が総統だと……!」

  合流することが先決だと考えていただけに、バンデベルの落胆と失望は甚だ大きなものだった。こんな小娘で大丈夫なのだろうか――クーデターに参加していた自分自身を差し置いて心配していた。とはいえ今さら離脱も出来かねるもので、兎にも角にも身の保全を第一に考えた結果、大人しく着いていくことにしたのであった。
  この様にしてジュラは、来るものを基本的には追い返すことなく同行を許可していった。共にガミラスの再興を目指して欲しい旨を強調しいと訴えかけながら。
  だが、それ以上に整理しておかねばならないことがある。

「……〈ヤマト〉」

  総旗艦〈デウスーラU世〉艦橋で独り言ちるジュラ。
 これから対峙することとなる〈ヤマト〉のことを、しばし思い浮かべるのであった。




※主要登場人物


名前:ギュンター・クロイツェ
年齢:48歳
肩書:第13空間機甲旅団司令
階級:少将
詳細――
  冷静沈着な軍人で、長身に体格の良い巨躯の艦隊司令官。七色星団で散ったカリウスの兄。機動戦術に長けており、それを活かした通商破壊作戦を得意としている。
  招集命令にいち早く駆け付ける。


名前:グレムト・ゲール
年齢:47歳
肩書:艦隊司令官
階級:少将
詳細――
  元銀河方面軍作戦司令長官。権力者に媚びを売り、部下に無理を強いる典型的な中間管理職(悪い意味で)のお手本となる軍人。
  指揮能力は平均以下だが、デスラーへの忠誠心は他の追随を許さない。
  〈ヤマト〉の攻撃で重要拠点だったバラン星を失い、放浪していた所へ招集命令を受けた。
  ジュラを新たな指導者として信奉する。


名前:バシブ・バンデベル
年齢:45歳
肩書:〈ゼルグートU世〉艦長
階級:准将
詳細――
  ヘルム・ゼーリックに同調していた貴族出身の軍人。軍人としての能力は平均以下だが、それで巨艦〈ゼルグートU世〉の艦長に成れたのもゼーリックの後押し故である。
  旧貴族時代に回帰することを望んでいたというより、貴族として安泰に暮らせればよいと考えていた。



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