静けき夜 巷は眠る  この家に我が恋人はかつて住み居たりし

彼の人はこの街すでに去りませど  そが家はいまもここに残りたり

一人の男 そこに立ち  高きを見やり

手は大いなる苦悩と闘うと見ゆ  その姿見て 我が心おののきたり

月影の照らすは  我が 己の姿

汝 我が分身よ 青ざめし男よ  などて 汝 去りし日の

幾夜をここに 悩み過ごせし  我が悩み まねびかえすや
 





ペルソナ〜罪に抗いし者〜
第一章 始まりの扉





ガタンガタン

電車の走る音が聞こえてくる。

外はすでに暗くなっており、部屋の中を満たしているのは外の雨の音と
付けっぱなしになっているテレビとゲーム機だけ。

少年は暗いベッドの上で横になっていた。

その少年は疲れきった声で

「・・・はぁ。なんかおもしろい事ねぇかなぁ・・・つまんねぇ。」

彼の名前は鳴神統也 どこにでもいる平凡な大学生である。

今年の四月にとある大学に入学したのはいいが、何か物足りない日々を過ごして
今日で三ヶ月になる。

入学する前は、自由な時間が増えると思っていたのだが、いざ入って
みると、以前より時間に縛られる事が多くなっていた。

毎日の同じ事の繰り返しにうんざりもしていた。

だんだんと眠たくなるのを感じながら、物思いに耽る。

「・・・やりたい事かぁ・・。とくにないんだよなぁ・・
・・ふぅ、俺にしかできない事でもあればなぁ・・・」

と、途方もない事を考えたりしている。

とくに勉強ができる訳でもなく、運動もそこそこできる程度なので
どうしても、これだというものが思いつかない。

結局その問いの答えが浮かんで来る事はなく、そのまま眠りについていった。








翌日、何時も通りに大学へ行き、半分寝ながらフラフラと歩いていると
自分が見知らぬ場所に立っている事に気が付く。

「ん?ここは・・・・どこだ?」

周りを見渡すも、まったく見たこともない建物ばかり。

「とりあえず、元来た道を戻るのが手っ取り早いか・・・」


・・・数十分後・・・


「・・・・だぁぁぁ!一体ここはどこなんだよぉぉぉ!」

「・・くそぅ。この年で迷子を体験中かよ・・・」OTL

数分後、なんとか立ち直りながらも周りに黒いオーラを放ちながら、再びふらふらと歩き出す。

ふと、不思議な感じを纏う場所にたどり着いた。

「・・・工場?なんの工場やろ?
でも人がいねぇっぽいから、潰れてんのかなぁ・・」

見た目は他の工場とさして変わらないのだが、自分の目の前に建っている
建物は他とは違った空気を放っていた。

「変な所もあるもんだな・・。まぁ、いまは無事に家に帰還する事の方が・・」



にゃ〜〜〜〜

・・・ハッ!!



声のした方に顔をむけると、そこには一匹の猫がこっちを見ている。

知り合いの間でも猫好きで有名な統也は驚くべき速さで猫に近づく。

「お〜♪猫はやっぱかわいいなぁ〜♪」←かなりの猫好き

撫でようとした瞬間・・

「あ!?」

工場内へ逃げられてしまった。

普通の猫好きなら、逃げちゃったならしょうがないかと思って帰るだろうが・・



この男は違った・・・

「・・逃がさん・・・絶対に撫でてやるぜぇぇぇ!?」

妙な意地を見せ、工場内へ走り出した。




「お〜い、どこいったん〜〜」

にゃ〜

「・・・む!二階か!?」

すぐさま階段まで行き、二階へ直行する。

階段を駆け上がると前方に目標を発見!!

「おったーーー!?」

突然の大声に驚いたのか、猫は近くの部屋の中へ逃げてしまった。

すぐさま追いかける。

中に入ると入り口と反対側の窓から猫が飛び出していくのが見え

「あぁぁ・・・完全に逃げられちった・・・」

敗北感にうちひしがれ、逃げていった窓から離れ、帰ろうと出口へ行こうと
した瞬間・・・






・・・グシャ・・グニャ・・・



突然、景色が歪んでいく。

目に映っている映像が、曲がるように変化してゆく。

「な、なんだ!!何が起こってんだよ!!」

統也は周りで起こる異常に恐怖を感じていた。

すると、部屋の奥にたくさんの錠で閉じられている扉が見つけた。



・・・扉?あんな大きな扉入ってくる時あったか・・・?



ガン・・ガン・・・ガシャァァァン・・!!



その扉は、何度も大きな音を立てた後、・・・・開かれた。



ビュシュゥゥゥ

開かれた扉から、物凄い風が吹き荒れる。

!!

・・風・・なんで建物の中で・・

扉の先から滞りなく吹き荒れる風は、体にまとわり付くように
流れてくる。

・・・突然、めまいに襲われ膝を地面につけてしまう。

「な・・んか。体から力が抜けていくような・・」

だんだん意識が薄くなっていく中、俺は声を聞いたような気がした・・・





・・人間と・・・のは・・・イレギュラーな・・・関わることで・・
・・変え・・・・できるのか・・・未来を・・・
見せ・・・おう・・結末を・・





その声は期待する様な、見下す様な・・・・冷たい声だった。

頭の中に声が響く中、統也は気を失った。

・・・統也は意識が薄れる中、吹き荒れる風の向こうに



どこまでも深く、淡い色の青い扉が見えたような気がした・・








「・・・うぅ。」
「あれ・・。俺・・どうなったんだ・・・。」

頭の中に先程の映像が思い出されていく。

・・・強い風・・不思議な声・・・そして、青い扉・・・



「・・あれは、何だったんだ?」

虚ろだった意識が、少しずつ覚醒していく。

うまく働かない頭を必死で働かし、

「とりあえず、外に出てみるか・・。」

部屋を出て、出口に向かって歩いていく。


「・・ん?なんか入ってきた時と中の作りが違うような感じがすんな。」

辺りを見渡す。

「まぁ、あんまりじっくりと見てた訳じゃないし、気のせいだろ。」

と思い、少し痛む頭をさすりながら出口へと向かって歩いていく。



工場を出て、大きな敷地に出た所で、立ち止まった。

・・・何だ?何かで見られているのか・・

先程から、異様な視線を感じていた。

いままで感じたことのない視線に体から冷や汗が流れ始める。

「だれだ!?・・だれかいるのか?」

背後に振り返り、辺りを見渡すと・・・



「ケケケェ。ニンゲンガイルゾォォォ」

!!!

・・・な、なんだよ・・こいつは・・・・

目の前にはかぼちゃの化け物が浮かんでいた。

黒いマントを身に付け、緑の先の尖がった帽子を被り、カンテラ(だっけか?)を手にしていた。

「かぼちゃのお化け・・・か?」

「ケケ?ボクラガミエルゾォォ。ナンデナンデェ?」

目の前のかぼちゃがケラケラ笑い出す。

呆然とその光景を見ていると、同じ姿をしたお化けが集まってきた。

「ケケケ。ボクラトアソボウヨォォォ」

「は?何を言って・・・!?」

「イックゾォォォォ!!」

統也の顔が次第に青ざめていく。

一体のかぼちゃの手にしていたカンテラの火が強く燃え上がる。

火は炎と呼べる程の大きさに燃え上がり、統也に向かって放たれる。

錯乱状態になりながらも、必死で逃げようとしたが石につまずき転んでしまった。

先程まで立っていた場所を炎の塊が通り過ぎていく。

凄まじい光景を前に、悪寒が走る。

「ケケ、ハズレチャッタァァァ。オニイサンヤルネー!」

「・・デモ、マダマダイクゾォォォ!!」

「・・・う、うわ!?や、やめろ・・」

かぼちゃの化け物達は、次々と炎を放ってくる。

「ひ!?」

逃げようとするが、足が震えてうまく走ることができない。

「ヒャハヒャ」
「ケケケェ」

・・・怖い・・どうすれば・・・・

初めて味わう恐怖に必死で逃げ道を探す。

・・そ、そうだ。出口へ・・少しでもここから離れるしかない

前方に開いている門が目に入る。

「・・あれだ!?あそこまでいけば、誰かいるかもしれ・・」

出口の方へ一瞬注意が向いた瞬間・・・

迫っていた炎が左手にわずかに掠めた。

「ぐああぁぁぁ!?」

左腕から激しい痛みが全身を駆け巡る。

おもわず、地面に倒れこんでしまう。

「ケケケ、ダメダヨォォ。ニゲチャァァ」

左腕からの痛みに必死に耐えながら
顔をあげると、化け物たちに囲まれていた。

「ヒャハハ!ボクモウアキチャッタカラ・・・
モウシンジャエエェェ!?」

一斉に炎が放たれ、迫ってくる・・





・・・俺は・・死ぬのか・・・?

目に映っているものすべてが、スローモーションのように感じる。

・・迫ってくる炎の塊・・・・嘲笑っている化け物・・・

左腕の痛みすら鈍くなっているような感覚に陥る。

俺は・・・こんな所で・・死んじゃうのか・・・

何もわからず・・何もできないまま・・・消えるのか・・

すると、自分の中で一つの感情が浮かび上がってきた。

・・・いやだ・・死ぬのは・・・・いやだ・・

・・悔しい・・抵抗することすらできない弱い自分が・・・

その感情を引き金にするかのように、心の奥底から溢れ出してくる。

「・・死にたくない。こんな所で死にたくなんてない!?」





「死んでたまるかーーーー!!」





ドクン

・・なんだ・・・この感じは・・

ドクン

・・来る・・・・何かが・・・俺の中から・・・

突如、頭の中へ声が響いてくる。



・・・我が手をとれ・・



「あんたは・・・何だ?」

左腕には激痛が走り、化け物の襲われているのに・・
・・統也は静かにその声に耳を傾けていた・・・



・・我は汝が半身にして、冥王サテゥノスなり・・・



「俺の・・・半身だと?」



汝、我を受け入れよ・・我が手をとれば、我が力 汝に託そうぞ・・・



悔しくて、何もできなくて、もう自分の先には道は続いていないと思って
いたのに・・・それでも一つの、一つでも進む事ができる道があるとわかったから・・

迷わず、答える。

「力を貸してくれ・・。助かるなら、生き抜くことができるのなら」

フシュウゥゥゥ

統也の髪が風が吹いているかのように舞い上がる。

自分の中から出てくる力に意識を集中する。



・・・我は汝 汝は我 我が力は汝とともに・・



統也の中から解き放たれるように、冥王サテゥノスの姿が浮かび上がる。

その姿は左目は閉じられ、右目は深い青色に染まっている。
肩まで伸びている髪、右手には剣先の赤く染まった紅の剣を
持ち、左肩の上には紫の球体が浮かんでいる。

サテゥノスは漆黒の鎧を身に纏い、冥王と呼ばれるが所以の威圧感を放つ。

左手を今にも襲い掛ってきそうな化け物に向ける。

衝撃波らしきもの放たれる。

化け物たちは避けることができないまま、直撃を受け

「ギ、ギャァァァァァァ!?」

化け物は吹き飛ばされ、灰のように消え去っていった。

サテゥノスの姿は霞がかるように消えてゆく。



辺りは静寂に包まれる。

「助かったのか・・」

「ふぅ、助かったのはいいけど何が起こったのかまったくわかんねぇ・・・」

・・・俺の半身か・・

まぁ、考えててもしょうがないし一旦帰るか

統也が立ち上がろうとした瞬間・・


バタッ


統也の意識は一瞬の内に闇の中に沈み、眠ったかのように地面に倒れていた。





倒れる統也の頭上を一匹の金色に光る蝶が飛び去っていった。





             第一章 始まりの扉 終わり




昭和さん に代理感想を依頼しました♪


代理感想を依頼されました昭和でございます。

その節はありがとうございました。

私もペルソナはやったことが無いんですが、他の皆さんもやったことが無いそうで。

ティルさん直々のご指名により、僭越ながら、一筆取らせていただきます。


ふむ。ティルさんはこういったSSを書くのは初めてだそうですが、そうとは思えないくらいの巧みな文章ですね。

綺麗でわかりやすいですし、この調子でがんばってください。


肝心の内容ですが、うーん、これはトリップ物なのでしょうか?

それとも、ゲーム自体がこういう内容なのかな?

とにかく、主人公の統也君は、平凡な学生生活から一変、とんでもない事態に巻き込まれてしまったようですね。


今後の展開を含めて、人物紹介にあるおそらくはヒロインと思われる女性も、どう関わってくるのか楽しみです。




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