機動戦艦ナデシコ

〜The alternative of dark prince〜









第一話 ありきたりな『再会』?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……暑いな……」


どうしようもない喪失感と自分の非力さ矮小さを嘆きつつ、うだるような暑さの中大
通りを歩く。

この地球のこの日本では今は四月の終わりのはずだが、何故にこうも暑いのか。まる
で追い討ちをかけるように……。

畜生、そんなに俺が憎いのか?

体が重く感じる。

地球温暖化って百年前に解決したんじゃなかったのかよ。まぁ、体が重いのは単に暑
さのせいだけじゃないのだけれど。


「どうしたもんかなぁ?」

 
誰に言ったわけでもないが、俺はそう呟いた。もしかすると誰かが答えてくれるかも
しれないという可能性は無きにしも非ずだが、それは、考えるまでもなく考えるだけ
無駄だった。

バイト先イコール住居であった俺は、それまでの住家を追われ、すべての生活品を肩
に背負っている。故に、体が重く感じているのだ。

しかし、その生活品もリュックサックひとつで十分足りている。

まぁ、いわゆる自由業無職というわけで。


「体が重いっていうより、気が重いのかな……」


最長記録だったんだけどなぁ。バイトが続いたの。

今しがたの出来事を思い出す。

……理不尽だ。

店の親父さんも良くしてくれたし、俺が何か重大な過失を犯したわけでもない。むし
ろ、精一杯働いていた。クビにされるような理由が何一つ思い浮かばないのだ。

しかし、そんなことは今に始まったことじゃなかった。この半年、あらゆるアルバイ
トを経験してきた俺だが、長続きしたためしがない。それは、今回のように突然クビ
にされるだけでなく、原因不明の事故や誤解などによるものもあった。

これが理不尽でなくて何というのか。ちょっと泣きそう。

何度経験しても、職を無くすというのはやはり気分が鬱になってしまうものだった。

 
そんなこんなで、次のバイトを探さなきゃとか雨風しのぐ場所を探さなきゃとかお金
落ちてないかなとか考えながら、漫画のように肩を落とし俯いて歩いていた。

ふと、視線を上げる。

……と、一人の少女が目に入った。

真っ赤なTシャツに真っ白なプリーツスカート。人形のように白い肌。整った顔立
ち。この暑さの中、涼しげな無表情。美人というよりは美少女といった風貌。十代半
ば……くらいだろうか。自分とそんなに歳は離れていないだろう。

いや、それより何より俺が目を引かれたのは……その金色の瞳と、瑠璃色のツイン
テールだった。

少女は俺に気付いた様子もなく歩いている。が、何かおかしい。っていうか、滅茶苦
茶ふらついている。……千鳥足。酔ってる? わけはないからこの暑さと日差しのせ
い、だろうか? 顔は無表情でそんなことをされるとなかなか滑稽だ。って、そんな
こと考えてる場合じゃないだろ。今にも倒れそうだし。おいおい、そっちは道路だ
ぞ。しかも待ち構えてたように後ろからトラックが………。





「っおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 


何故そんなことをしたのか分からない。が、俺は反射的に駆け出していた。

運動神経には多少自身があったけど、距離的には五分五分。いや、それより確率は低
かったかもしれない。

だが、俺は少女を抱えて脇に飛び退くことに成功した。自分でも不思議だったが、と
にかく少女を助けることが出来た。

なんなんだよ。今日は厄日か?


「バカヤロー! 死にてぇのか!」


トラックの運転手はそれだけ言い残して走り去っていった。

畜生。人の気も知らないで。


「……あの」

「えっ?」
 

その声は俺の下から聞こえた。

 
「そろそろ離して頂けますか?」

 
俺と少女は……何といいますか、見方によっては抱き合っているような状況だった。


……というより、俺が少女を押し倒しているようにしか見えなかった。

周りを見ると、段々野次馬も集まりはじめている。

 
「あっ、えっと、ごめん」


このままでは完璧に、その、アレだと思って慌てて手を離す。

 
「……いえ」


少女はスカートを払いながら立ち上がる。

俺もそれにならって立ち上がる。

 
「助けていただいてありがとうございまし……た。……えっ?」


礼を言いながら顔を上げた少女には驚きの表情が張り付いていた。俺の顔を凝視した
ままフリーズしている。

何だ? 俺が何かしたか? もしかして押し倒されたから?

俺はどうしたら良いのか分からず、軽いパニックに陥ってしまった。
 
いや、落ち着け。俺。こういう時は冷静に、冷静になるんだ。

と、気付く。何だか視界が広くなったような……。
 
さっきまでしていた眼鏡がない。さっきので吹っ飛んだのか? どこだ、どこへいっ
た? 眼鏡は……。

 
バキッ


…………。
 
ああ、心地よい破壊音が聞こえたような気がした。

それが幻聴であってくれたならどんなに良かっただろう。

……高かったのになぁ。だが、人間諦めが肝心だ……って、そんな簡単に割り切れた
ら人生苦労しないよ。俺は貧乏だっていうのに。覚えてろよあの運転手。

仕方なくスペアをかける。










「……キト……さん?」










……え?

何だ? 今何か聞こえたような……。どこから? もしかしてこの少女……か?

いや、それより……今、なんて言った?

それは、その名前は……。

 
「今、何て」

 
少女は俺の言葉にはっとする。どうやら現実に戻ってきたようだ。










場所は変わって、とある喫茶店。あの暑さはさすがにキツイ。というか、周りの視線
が嫌だった。

俺と少女は向かい合わせに座っている。

沈黙に耐えられなくなって、俺は口を開いた。

 
「君は……」

「あ、すみません、黙ったままで。……そうですよね。生きてるわけ……。」


少女はまだ混乱しているようで、最後のほうは独り言のようにブツブツ言っていた。


 
「君は……俺のことを知っているのかい?」

 
さっきからそんな感じがする。

もしかして、以前に会ったことがあるのだろうか? こんな子に会っていたのなら忘
れるはずはないと思うのだが。

ただ、それがこの半年の内だとすれば、だ。


「あっ、いえ」

「実は、俺記憶喪失なんだよね。笑えるだろ? それで、半年前までの記憶が無くっ
てさ。だから、それ以前に会ったって言うなら忘れてるだけだと……思うんだけど」


「……記憶喪失」


そう、俺は記憶喪失だった。半年前までの自分に関する記憶がすっぽり抜け落ちてし
まっていた。

今がいつでここがどこなのか、とかは分かるのに自分のことは分からないっていうの
は変な感じだ。

 
「あのっ、……失礼ですが、名前を聞かせてくれませんか?」


声が震えている。少女は少し興奮しているようだ。


「……テンガ・アキ」

「テンガ、さん……ですか」


少女は落胆しているようだった。あの、人形のような無表情からはあまり考えられな
かったけど、感情の変化はそれなりにあるようだ。

「すみません。やっぱり人違いだったみたいです。それでは、危ないところをありが
とうございました。勘定は私が済ませておきますから」


言って、少女は立ち去ろうとする。

駄目だ。ここで彼女を行かせちゃ……。そう、やっと手がかりが見つかったんだか
ら。


「待って」

「?」


呼び止められるとは思っていなかったのだろう。少女は目を丸くする。

 
「さっき君、アキト……アキトって言ったよね?」

「ええ、言いましたけど……」

「それってもしかして、テンカワ・アキトって人のこと?」


それは、それは俺の記憶に唯一残っている自分に関係のあるはずのワード。


「知ってるんですか? アキトさんのこと」


少女はさっきの千鳥足からは想像出来ないほど俊敏な動作で座りなおし、俺に詰め
寄ってきた。


「あ、うん。知ってるというか。名前だけ、なんだけど……」

 
少女に気圧されながら答える。

えっと、何かすごく、怖いんですけど。


「随分親しげだけど、そのテンカワってどんな人?」


少女は小首を傾げて少し考えるようにする。

ああ、なんか可愛いな。

そして、目を瞑りながら言った。


「大事な人です。すごく……すごく、大事な人です」


それは、この少女と出逢ってから最も少女らしい表情だった。きっとこれが、この少
女本来の……。

少し見惚れてしまった。


「そう……」

「それで、アキトさんがどうかしましたか?」


少女は控え目ながらも興味津々といった感じで聞いてくる。

 
「あ、うん。その人について、詳しく教えてくれないかな?」

 
少女はまた、考え込んでしまう。次に、値踏みでもしているのかのように俺を一通り
観察した。

そして、口を開いた。

 
「本当に……知りたいですか?」


少女は敢えて理由を訊かない。それが、ありがたかった。

俺の答えなんて決まっている。この機会を逃すわけにはいかないんだ。


「……ああ」

「分かりました。着いてきてください」


少女に促され、俺たちはその喫茶店を後にした。

会計は少女持ちだった。

だってほら、俺無職だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき……か? これ>

こんにちは。新参者の時量師です。

まず、こんな作品を掲載して下さった黒い鳩さんに大感謝です。この世知辛い世の中
にこんなにも懐の広い方がいらっしゃるとは、何とも嬉しいじゃあないですか。世の
中、まだまだ捨てたもんじゃないですよ。皆さん、精一杯生きてゆきましょう。

さあ、第一話ですよ。

主人公はアッキーことアキくんです。オリジナルキャラ(?)です。メガネっ子で
す。いきなり危うく犯罪者です。みんなで応援しましょう。

アキトくんは出てません。……ばればれですか?

そういえば、あの少女は名前出てませんね。誰でしょう?

でも、最終的にはアキトくんとルリちゃんは良い感じなります。多分。まぁ、それが
僕の野望ですから。

アキくんは貧乏です。何となくあの三流貧乏探偵さんが混ざってるみたいになってき
ますが、アキくんの場合は頑張って働いてもすぐクビになってしまうのです。可哀想
なヤツです。これは誰かの策略っぽいです。

この話、劇場版の三ヶ月前なのですが、なかなかその劇場版の場面まで辿り着いてく
れません。次回もだらだらと進みそうです。でも、読んでほしいです。

そんな感じで、また次回。

あ、<あとがき……か? これ>まで呼んでくださった皆様、本当にありがとうござ
います。今後とも時量師をよろしくお願いします。





感想

さてさて、主人公の名前が出てきましたね♪ どれくらいの間アキ君なのか微妙と言う所も気になりますが、色々展開していきそうな予感がしますよ。

記憶喪失というパターンは少ないで すし貴重ですね…しかも! あの女の事も覚えていないみたいですし… ふっふっふ…

あの女って…そこまで言わなくても…

でも、これで障害はなくなりました ね♪ 記憶を無くしたままでも構いません! ラブラブ一直線です!

ははは…一応本人じゃない可能性もあるんだけど…

へ? どうしてです?

プロローグの時少年って書いてあったと思うんだけど?

じゃあ、本人じゃないとすると…ア キトさんの子供? まさか…バイトのできる年齢になっているなんて考えられません! だって、覚えが無いんですから(ポッ)

って、あほかい! 実子な分けないじゃないか! 可能性としては、遺伝子的な…ね?

私達と同じ種類の人間と言う事です か…ありえなくも無いですが…最後はアキト×ルリにしてくれるって言いますし…

まあ、その辺がどうなるかは、期待して待つとしましょう。

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

時 量師さんへの感 想はこちらの方に。

掲示板で 下さるのも大歓迎です♪


次の頁に進む   前の頁に戻 る


戻 る

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.