機動戦艦ナデシコ

〜The alternative of dark prince〜








第十一話 芽生え始めた『気持ち』










ずきん









ずきん










ずきん










気のせいでは……ない
















「うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」


ずどばこーーーん。










ずりずり


「坊主、お前さ」

「…………はい」

「〜〜〜♪」




ずるずる


「才能ないんじゃないか?」

「う」

「〜〜〜〜〜♪♪」


ずずずずず


「二ヶ月くらい経つけどさ、あの操縦はないぞ」

「うう」

「♪♪♪」


サブロウタさんは俺のエステバリスの操縦を見かねてそんなことを言ってきた。

分かっている。俺の操縦が拙いことくらい。

今までバイトで動かしてきたものと違って、エステバリスはそう簡単にはいかなかった。だが、初心者でも操縦できるようになるというのがIFSの売りではな かったか。

これは俺の技術の問題だけではないと思う。

……。

いや、ちょっと待て。


「……………………あの」


ずり……


「なぁに?」

「……いえ」


ずりずり


「俺が教えてやってんのに何で上達しねぇんだ?」

「違うんすよ。何か俺のIFS、反応が鈍いんす」

「んふ♪」


ずるずる


「はあ? そのIFS偽者なんじゃねえか?」

「でも、動くんですからそれはないでしょう」

「んふふふふ♪♪」


ずずずずずず


「最初から思ってたけど、やっぱお前変な奴だな」

「はあ」

「んんん〜♪」


最初からかよ。

……。

やはり突っ込まないといけないのか。


「……………………あの」


ずり……


「なぁに?」

「……」

「いややわぁ。そないに見つめたら照れてしまうやないの」

「いや、だから。どうしてずっと俺の腰に引っ付いてんすか?」

「もうテンガはんったら、いけずなおヒトやわぁ。そないな分かりきったこと、うちに言わすつもりなん? 二人の間に国境はないんよ」

「分かりませんよ」


意味不明です。

エステバリスの訓練が終わると、シノさんは俺の腰にゆったりとした動作でさも当然のようにしがみついてきた。

仕事ないんですか?

あのあと……。

ジンを問い詰めてはみたものの、返ってきた言葉は俺に理解を与えてはくれなかった。むしろよけいに混乱した。

ジンのやつが言うことには、「そういう季節なんや。僕にもよう分からんのやけど、何や姉貴には惚れやすなる時があってな。兎に角、アッキーは姉貴に惚れら れたっちゅうこっちゃな。ま、良かったやないの。これで姉貴に命を狙われる心配はなくなってんから。……僕の命の危険も……」だ、そうだ。

どんな体質だよ。

シノさんはジン以上に良く分からない人だ。

好意を持ってくれるのは嬉しいんだけど、会うたびにこうして引っ付かれたんじゃあ困る。……世間体とか、道徳とか。最近ではわざわざ会いに来てまでくっ付 こうとするし。

さらには。


「テンガはんがウチの食堂の新人さんだったやなんて、やっぱりうちとテンガはんは赤い糸で結ばれてたんやなぁ」


何となく予想はついていたが、シノさんはナデシコ食堂の料理長だった。

確かに、シノさんならメニューを全部和食にすることくらい可能だろう。誰も逆らわないのも理解出来る。

ていうか、ルリちゃんもサブロウタさんもそれが分かってて俺をコックにしたのか。

薄情な仲間たちだ。サブロウタさんは面白がってるだけだろうけど。

それとも、俺に何とか出来るとでも思ったのだろうか。


「赤い糸というか、鉄の鎖って感じですねぇ」

「あらあら、タカスギはんたらお上手なんやからぁ」


氏のさんは怒らない。

サブロウタさんはシノさんの性格を上手く掴んでいるようだった。流石は希代の女垂らし。


「しっかし、お前もやるもんだなぁ。あの料理長さんを口説き落とすなんて。俺でも出来ないぞ」

「口説いたわけじゃないす」

「タカスギはん、失礼なこと言わはったらあかんぇ。うちとテンガはんが出逢ったんは運命なんやから」


そう言って、シノさんは今度は俺の首に腕を回してきた。

シノさんと俺の身長差から、必然シノさんは俺の首にぶら下がるかたちになる。

首絞まりますよ、シノさん。それと、胸当たってます。


「おーおー、熱いですねぇ〜」

「んふふ♪」

「笑ってないで助けてくださいよ」

「いいじゃないの。お似合いだぞ」


まったくジンといいこの人といい、俺を遠目から見て面白がるのはやめてくれないか。

俺は見世物じゃない。

そこへ……。





「仲がよろしいんですね」





「っ!」


静かだが重みのある声。

心臓が止まった。

次に、しまった、と思った。


「る、ルリちゃん! いつからそこに!?」


声の主はルリちゃんだった。

まずい。良く分からないが何かが決定的にまずい。

そうだ。

首に引っかかっているヤツだ。


「あらまあ、艦長はん。どないしはったんどす? うちのテンガはんに何か用事でも?」


さらりと「うちの」とか言われてるし。


「おおっとぉ。修羅場だぞ、坊主。どうするどうする?」


こちらは小声で囁いてきた。

アンタは黙ってろよ。


「あああ、あの、ルリちゃん? どうかした?」


別にやましいことはない、はずだ。

だが、何だ? このもの凄く悪いことをしたような気分は。


「いえ。ただ通り掛っただけですよ」

「そ、そう」


ルリちゃんはいつもの無表情で答えた。

いつものことだ。

いつものことなのだが、どうも落ち着かない。シノさんがぶら下がっているせいだろうか。


「では」


ルリちゃんはそれだけ言い残して去っていく。

俺は、何かが引っかかる。

だから。


「シノさん」

「なぁに?」

「お願いがあるんすけど」

「だ〜め」

「まだ何も言ってないっすよ」

「うちが許すとでも思うてはるの?」

「う」


駄目だ。

背中の辺りから妙な気を感じる。さらには、首に回された腕に徐々に力が入ってきているようだ。

逃げられない。

諦めかけたそのとき、ふ、と首にかかっていた力が弱くなった。

そして、シノさんはとすんと軽やかに地面に着地した。


「冗談よ」

「へ?」

「ほら、何ぼ〜っとしてはるの。はよ追いかけな」

「そうだぞ、坊主。お前に用事がなきゃ艦長がこんなとこまでくるわけないだろ」

「あ」


そうだった。ここはシノさんを除いてパイロットくらいしか寄り付かないような場所だ。

ルリちゃんがこんなところに来る理由はない。

それがさっきから気になっていたことだ。どうして気付けなかったんだ。


「ほ〜らぁ、はようせな」

「行っちまうぞ?」

「はい! 行ってきます」

「あ、テンガはん」

「?」

「ちゃあんとうちとこ戻ってきてなぁ」

「……」


最後のは聞かなかったことにしよう。

走る。走る。走る。

彼女の背を追いかけて。

ルリちゃんにはすぐに追いついた。


「待って。ルリちゃん」

「? どうかしたんですか?」


ルリちゃんはさも意外と言わんばかりに聞いてきた。

そのわざとらしくないところが何となくわざとらしい。


「ルリちゃんこそ、俺に用があったんじゃないの?」

「っ」


ルリちゃんは嘘を見抜かれたかのように少し目を逸らした。

それは決定的だった。

やっぱりそうだったんだ。


「遠慮しないで言ってよ。護衛がいるの?」


ルリちゃんはすこし躊躇っていたようだが、やがて口を開いた。


「はい。ですが、良いんですか?」


シノさんのことだろうか。


「良いんだよ。行って来いって言われたからさ」

「……」

「さ、行こう。今日はどこへ行くの?」


ルリちゃんがまだ躊躇っているので俺はその手を引いた。


「あ、ええと、ちょっと買い物へ」

「そっか。じゃ街まで出た方が良いね」


俺はルリちゃんの手を引いてどんどん行く。

たまには逆の立場になるのも良いだろう。


「あの、ちょっとアキさん」

「何? たまには俺にエスコートさせてくれないかい?」

「いえ、そうじゃなくて。私まだ着替えてないんですけど」

「あ」


そう言えば、ルリちゃんは制服のままだ。

そして、俺はルリちゃんが着替えるのを待ってから出掛けることにした。

ルリちゃんを待っている俺はどこかうきうきした気分だった。

しかし、それが何に起因するものなのかその時の俺はまだ、知らなかった。










そのころ……。


「……俺のでば「私の出番はまだ!? 待ちくたびれたわよ! こら! 会長の権限でなんとかしなさいよ!」

「いくら金持ちでもそんなこと出来るわけないでしょ〜」

「それをなんとかするの!」

「まあまあ、落ち着きなって。美人が台無しだよ?」

「そんな言葉に騙されるもんですか! さあ、今すぐ私を出しなさい!」

「…………ラピス」

「だいたいねべっ!!」

「……しん、だ? ……」

「あ〜らら」

「……良くやった」

「……うん。これ、気に入った……」

「…………」

ぴくぴく。


やはり賑やかだった。















<あとがき……か? これ>

こんにちは、時量師です。

ご無沙汰しておりました。すみません、遅くなってしまって。

前回、前々回の『コンボマスター』に続き今度は『方言マスター』なる称号をルリさんから賜ってしまいましたが、そちらもまだまだかと思います。ですが、執 筆をしながら京都弁を覚えられたら良いな、と思います。

さて、第十一話。今回もシノさんが目立ってしまっている感じですね。でも、安心してください。正規のヒロインはルリちゃん。そして、世紀のヒーローはアキ トくんのはずです。

話は変わりますが、この「The alternative of dark prince」もそろそろ中盤な感じでして、もう少ししたら劇場版のシーンにいこうかと思っています。

そこで、先日劇場版ナデシコをレンタルして観直してみました。

やはり何度観ても良いものですね。

改めて思ったのが、ラピスの声を担当している仲間さんなんですが、どうして出演しているのでしょうね? 最初にCAST紹介を観た時から気になって。

ではでは、また次回。



感想

お話は既に中盤戦、このままいくなら、2ヶ月程度で完成と言う事に…時量師さん凄いです! 

無軌道作家な貴方となんか比べるだけ失礼ですが、言って 置いてあげましょう、貴方は話を纏める能力がありません。 少しは時量師さんを見習う事ですね。

うぅ、そりは…(汗) でも、時量師さん話を二部に移行するんですね…となれば、アキトも…出る…かなあ?

さあ? まだアキさんの正体が掴め ていませんからね…考 えるだけなら色々考えられますけど…

そうだね、今後に期待と言う事で… 感想としては、正直今回もシノさん大活躍だったし、面白いお話になったと思いますよ。。

…彼女を見ていると、何か思い出したくない人 物を思い出してしまいそうですね…(汗)

今回は甘えるお姉いさんは好きですか?といった感じだね。

彼女には何れ世間の厳しさを教えて あげます!!

ふう…何がいけないと?

アキトさん似のアキさんは私の子供 かも知れないんですよ!! 自分の子供の心配をして何が悪いんです!?

本気?(汗)

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