機動戦艦ナデシコ

〜The alternative of dark prince〜








第■話 『過ぎ去りし日々』と憂鬱と















はじめはバカな人だと思った。





優柔不断で。

アニメ好きで。

無茶ばかりして。

熱血漢のくせしてすぐ落ち込んで。

女の人に弱くて。

いつも逃げ回っていて。

不誠実で。

全然頼りなくて。

ヘラヘラしていて。

コックとパイロット兼任なんて中途半端な仕事をしていて。

答えを出そうとしない甲斐性なし。





そんなふうに思っていた。





あの人は話しかけてきた。

無口な私に。

愛想のない私に。

可愛くない私に。

純粋な眼で。

無垢な瞳で。

嘘のように優しい笑顔で。





それを。

煩わしいと思った。

鬱陶しいと思った。

どうして放っておかないのかと。

どうして私に構おうとするのかと。

だから、私は冷たく接した。

必要以上のことは話さなかった。





でも……あの人は笑っていた。





あのひとは優しかった。

優し過ぎたのだ。

だから、いつも答えを出せずにいた。

私はそのことを身をもって知った。



いつの間にか、私はあの人を目で追っていた。

それは好奇心だったのかも知れない。

そうじゃなかったのかも知れない。

ただ私は。

あの人のことが気になった。





気付かないふりをしていた。

私はそうじゃないと。

私は違うのだと。

クールを装って。

子供だからと言い訳をして。

自分を抑え付けて。

自分に嘘をついて。





滑稽だった。





あの人は鈍感だった。

私の気持ちを知るはずもなかった。

それが何故か苦しかった。





それでもあの人は。

私に笑いかけてくれた。

私の名を呼んでくれた。

私の心を溶かしてくれた。

私を人として見てくれた。

私を庇ってくれた。

私の肩を抱いてくれた。

嬉しかった。





そして。

気付いた。

今まで眼を逸らしていた自分の気持ち。

本当の想い。

私は――





あの人に恋をしていた。





ただの憧れだったのかも知れない。

錯覚だったのかも知れない。

でも、その気持ちは。

今まで感じたことのないもの。

悪くはないと思った。

そして、それは確信になった。

もっともっと好きになっていった。





だけど。

あの人には好きな人がいた。

いつもあの人を追い回していた彼女。

私にないものをたくさん持っていた。

明るさ。

無邪気さ。

純粋さ。

歳。

スタイル。

人を惹きつける力。





……共に過ごした、時間。





彼女は私の知らないあの人をいっぱい知っていた。

勝てるわけがなかった。

不公平だと思った。

彼女より早く出逢っていたら。

私がもっと早くに生まれていれば、と。

でも、あの人たちは私にも仲の良い恋人のように見えた。





だから私は諦めようとした。

諦めきれなかった。





あの人たちは結婚した。





あの人の作るチキンライスが好きだった。

あの人の作るラーメンが好きだった。

あの人の料理をする姿が好きだった。

あの人の威勢の良い声が好きだった。





あの人の側にいたかった。

だから、私はあの人の屋台を手伝った。

一生懸命働いた。

どんなことでも苦にならなかった。

あの人の力になりたくて。

あの人に喜んでもらいたくて。

あの人に褒めてほしくて。





あの人の近くにいたかった。

近くにいるだけで良かった。

笑顔を向けてくれるだけで良かった。

それだけで、私は満たされた。

それだけで、私は幸せだった。





本当は満足していなかった。

私は、きっと。

いえ。

疑いなく――。





それなのに……。





あの人は……。





あの人は……逝ってしまった。





私を残して。





私ひとりを残して。





私は。

またひとりぼっち。

ずっと……。

これから、ずっと……。

そんなのは、イヤです。





ひとりは、イヤ……。





どうして逝ってしまったんですか?

どうして私も連れて行ってくれなかったんですか?





お願い。





側に……いて。





私はひとり、屋台を引いた。

いつあの人が帰って来ても良いように





でも。

どれだけ祈ろうと。

どれだけ待とうとも。

あの人は帰って来なかった。





私は泣かなかった。

どうなってしまうか怖かったから。

自分が壊れてしまうのが怖かったから。

あの人の想い出も面影も、全てが流れてしまうのが怖かったから。

そして、信じたくなかったから。





私は信じたくなかった。

真実に眼を向けたくなかった。

受け入れてしまえばあの人はもう帰って来ないと、そう思ったから。

私は愚かだった。





それでも、時は流れた。





私は軍に戻った。

ナデシコB.。

二代目のナデシコ。

オモイカネ。

新しい仲間も出来た。

タカスギ・サブロウタ。

サブロウタさん。

木連出身のエステバリスパイロット。

軽そうだけど、腕は一流。

マキビ・ハリ。

ハーリーくん。

私と同じ身の上の子。

でも、私と違って様々な表情を持っている明るい子。

それは育ててくれた人がいるから。

私には与えられなかったもの。

それを私は羨ましいとは思わない。

だって。

あの人に逢えたのだから。





ナデシコはやっぱりナデシコだった。

それはとても心地よかった。

私の心を縛る鎖も緩んでいく気がした。





でも……。





それは仮初。

それは虚ろ。

私はもう――





ヒトを――することはないのだから。





そして。





彼に出逢った。





出逢ってしまった。





あの人にそっくりな彼。

そんなはずはないのに。

私は心のどこかで期待していた。

姿は少し変わってもあの人ではないかと。

いつか記憶が戻って。

私の名を呼んで。

笑いかけてくれるのではないか、と。





でも、彼はあの人ではなかった。





きっとあてつけだったのだろう。

あの人の真似をしないで、と。

あの人を思い出させないで、と。

私は彼に残酷なことを言った。

私は訊いた。

「あなたは誰ですか?」と。

彼の苦悩を知っていて。

彼の反応を承知の上で。

その言葉がどれだけの棘を持ったものかも分かっていたのに。





私は嫌な女だった。

でも、彼はいつも通りだった。

いつも通りに振舞った。

いつも通りに私に話しかけた。

いつも通りに私の側にいた。





まるで、あの人のように。





だけど……。

話しかけてくれることはあっても。

私に笑いかけてはくれない。

側にいてくれたとしても。

私を包み込んではくれない。

だって。

彼はあの人じゃないのだから。





あの人は――





もう――。















アキトさん――





私は――





あなたじゃないと、駄目なんです。




















<あとがき……か? これ>

こんにちは、時量師です。

そういえば、上手い具合に十三話で前半が終わっていますね。でも、本当に偶然なんですよ。黒い鳩さんに指摘されるまで気が付きませんでしたし。

そもそも、劇場版が十三話ぴったりに終わるかどうか分かりません。無理に十三話に分けると多分おかしくなってしまうと思いますからね。

さて、今回は……難しかった。

アキくんの一人称より大変でした。上手く書けたかどうか全く自信がありません。勉強が足りませんね。

さあ、次回からはいよいよ劇場版に突入です。

アキくんの正体は勿論バラすつもりですし、アキトくんも登場します。

そしてアノ人もソノ人も。

あっ! っと驚く展開になるかは分かりませんが出来るだけ読者さんの裏をかいてみたいです。

時量師はとても楽しみです。

ではでは、後半でまたお会いしましょう。





感想

ははは…前回は感想を途中で投げ出すような事をしてすいません(汗) 

本当に駄目ですね、感想くらいは並にこなさないと誰もサイトに来てもらえなくなりますよ?


って、前回はあんたのせいやん!

原因を作ったのは貴方です。

うっ、ま…まあいいとしよう、今回はルリ姫昔語りですね♪

そう、高貴ゆえに孤独な私に微笑んでくれた王子様、アキトさんに関する回想録です♪

ははは…全体的にルリ姫の心の物悲しさを語っているのでいいと思いますよ♪ 私のいった部分なんかも乗せてくれていたりして、ありがたいで す♪

まあ、それほど間違っても居ないでしょうけど100%といえる事でもありませんからね…
 

でもま、すり合わせはしているからそれほど違う事は無いと思うけどね。

責任は取れないでしょうけどね。

ははは…(汗)
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