機動戦艦ナデシコ

〜The alternative of dark prince〜








第十四話 そして始まる『物語』















星の数ほど人がいて。





星の数ほど出逢いがある。





そして――










――別れ。















「こんにちは」

「艦長、誰に話してるんですか?」

「……別に」










ぴこんっ


『『『『『サブちゃあ〜〜〜〜〜ん』』』』』


サブロウタさんのデスクのウィンドウが開き、留守番映像が再生される。

立体映像となって出てきたのは若い女の人たち。全員が全員、派手な衣装とややキツめの化粧。

どこかで見たことのある顔だ。

確か、あの人たちは――


『最近ご無沙汰じゃなぁ〜い』

『『『『『ツケ払えよ!!』』』』』


やっぱりそうだ。サブロウタさん行きつけの店の女の人たちだ。

……あなたも借金抱えますよ。


ぴこんっ


『こぉら、サブ!?』


次に出てきたのは人一倍気の強そうな女性。

初めて見る顔だ。ずいぶん親しそうだけど、彼女の人だろうか?


『何で電話くれないの? ホントにもう。他の女といちゃいちゃしてたら許さないんだからぁ!』


……さっきの見たら大変だろうな。

まったくこの人は。

もう少し真面目になれば良い副長なのに。別に期待しているわけじゃないけど。


『留守番映像サービスは以上です』


ぷつん


「モテモテですねぇ。サブロウタさん」


ずっと自分のコンソールに向かい、呆れた顔をしていたハーリーくんが言った。

うん、ここで口を出すのがハーリーくんだ。


「お、見てたの?」

「見たくなくても見えるでしょう」


ハーリーくんは大袈裟な動作でやれやれ、と言わんばかりだ。


「あ、そっか」


サブロウタさんはさも今気付いたように言う。

そんなサブロウタさんの態度にハーリーくんは「はぁ」と溜息をついた。


「僕は、木連の軍人さんは真面目で勇まし〜い人たちだとばかり思っていました」


ハーリーくんの言葉にはアクセントが所々に盛り込まれている。

厭味なのだろう。

俺は真面目で勇ましいかどうかは兎も角、木連の人はみんなゲキ・ガンガー好きだと信じていたのだが。


「あ〜あ〜。それはどうも〜」


それを適当に受け流すサブロウタさん。

まあ、いつものことだ。


「タカスギ大尉っ!」


ハーリーくんは叫んだ。

分からないじゃないけど、ハーリーくん、ブリッジの皆さんに笑われてるぞ。

ルリちゃんだけは無関心なようで、文庫本を読んでいるが。

しかし、この船、やたらと女性クルーが多いよな。何故?


「お、そうだ。坊主、お前にもメッセージが来てるぞ」

「え?」


サブロウタさんはいきなりこっちに話を振ってきた。

俺にメッセージ? 誰からだろう。

俺にそんなものを送ってくるような人は……。

シノさんはそんなことをするくらいなら絶対直接会いに来るし、ジンは俺の隣にいるからわざわざそんなことはしない。

もしかしたらソウさんということも考えられるが。……いや、それはないか。出発前に「鍛錬を欠かすんじゃねぇぞ。帰ってきたら覚えてやがれ」とそれだけ 言って、もう用はないって感じだったしな。


「誰からすか?」

「開けてみりゃあ分かるだろ。ほれ、お前の方に送ってやるから」


うーむ。何となく嫌な予感がするのだが。

仕方がない、か。見てみないことには何も分からない。

サブロウタさんに送ってもらったメッセージを開く。

あ、サブロウタさんがニヤニヤしている。ジンの奴は顔を逸らせ肩を震わせている。

し、しまった! 何だか嵌められたっぽいぞ。

俺は判断を誤った。


ぴこんっ


『……』


現れたのはルリちゃんくらいの年齢の女の子だった。


『あ、あの……テンガ、さん』


消え入るようなか細い声。特徴的な垂れ眼。肩口までの少し赤色が混じった髪。どこかオドオドした表情。さっきの女の人と違って化粧も薄く清楚な感じのする 子だ。だが、その着ている服がそういう服だけにアンバランスだった。

俺の名前を知っている。

あれ? この子は……。


『えと……テンガさんの連絡先知らなくて、それで……タカスギさんのところに。迷惑……ですよね? でも……』


見覚えが……。


『……あれから来てくれないから、その、わたし……』


ああ、そうだ。この子は……。


『あの、テンガさん……テンガさんが、わたしのはじめてのお客さんだったんですよ。……はじめて指名してもらえて……わたし、わたし、嬉しかったです』


ぼそぼそ喋るのでうまく聞き取れない。が、何だか拙くないか。


『テンガさん……』


彼女は何かを決意したようにそれまで下を向いていた顔を上げた。

来る。

うわ、みんな聞き耳立ててるし。

拙い。何が拙いって、ブリッジには当然艦長であるところのルリちゃんがいるわけで……。

再生を止めなければ――










『わたし、寂しいですっ! 逢いたいんですっ! わたし、わたしずっと待ってますから!』











……。





…………。





………………。





……………………。





…………………………。





………………………………。





……………………………………。





…………………………………………手遅れだった。


「アキさん、あなた……」


ハーリーくん、その眼はやめてくれないかい?

軽蔑の眼差し。

ううっ。俺が悪いんじゃないんだ。サブロウタさんが無理矢理に。

それに、あの子が相手してくれないとクビになるって泣きながら言うもんだから、人事に思えなかったんだ。可哀想だったんだ。放っておけなかったんだ。

ああ、もう。みんなヒソヒソ話をしないでくれよぅ。

視線が痛い。突き刺さる。

俺は何もやましいことはしていないんだ。ただ喋っていただけ。嘘じゃない。

だから、その汚いものを見るような眼を止めてはいただけないだろうか。

お願いだから止めて下さい。


<大丈夫?>

<頑張れ>

<生きて>

<格好良いよ>


俺の周りを飛び回る小さなウィンドウ

あぁ、ありがとうオモイカネ。分かってくれるのは君だけだ。


<女殺し>


……畜生。裏切り者。

だが、救いはあった。


ぴこんっ


『前方にターミナルコロニー「タギリ」確認』


正面に現れたのは長細い円錐。どデカイ花のつぼみのようにも見える。

あれがゲートなのだろう。

ふぅ。通信士の人ナイスだ。

良い仕事してますよ。今度お礼に行こうかな。

そして、先ほどまでの行動とは打って変わって、てきぱきと動き出すクルーたち。

流石は戦艦。分別はわきまえている。……ジンだけがいまだに笑い転げているが。

働け。

給料差っ引くぞ。

そして俺が貰うぞ。

明日のために。


「ディストーション・フィールド、出力最大っ!」


サブロウタさんもちゃんと仕事の顔になって職務をこなす。伊達に副長はやっていない。


「ルート確認。『タギリ』、『サヨリ』、『タギツ』を通って『アマテラス』へ」


ハーリーくんはいつも真面目だ。その真面目さがたまに変な方向に向いてしまうのだが。

サブロウタさんに半分くらい分けてあげれば丁度良くなるんじゃなかろうか。


「光学障壁展開」

「各員最終チェックよろしく」

「通信回線閉鎖」

「生活ブロック、準備完了」

「エネルギー系統、OK」

「艦内警戒態勢、パターンB」

「フィールド出力も異常なし。その他まとめてオールオッケィ!」


ぴぽんぴぽんっ


<たいへんよくできました!!>


聞き慣れない言葉で色々確認するクルーたち、とAI。

何だか凄く戦艦のそれっぽい。

あの、俺にも何か……。

言わせてはくれないのかな?

除け者な気分だ。

そんな俺を他所に、つぼみが開く。

目の前に広がる水銀のような波。

ボソン・ジャンプの仕組みは良く知らないけど、これを通ると違うコロニーまでひとっ跳びらしい。

火星の遺跡が見つかって以来、ボソン・ジャンプの研究が各所で進められ、現在はボソン・ジャンプ時代とも呼ばれるそうだ。

そして、この太陽系を繋ぐ『ヒサゴプラン』がその成果である。

俺はボソン・ジャンプはこれが初体験だ。



「フェルミオン、ボソン変換順調」

「艦内異常なし」

「レベル上昇。6、7、8……9」


ルリちゃんのナノマシンが輝きを増す。

ん? 今俺の手が光ったような――










「……ジャンプ」

あ、この感覚、何だか……。










ぴこんっ


『ようこそみなさん。ターミナルコロニー「アマテラス」に』


バーチャル映像の女の人が正面の大きなウィンドウに現れた。


「こちらは地球連合宇宙軍、第四艦隊所属、ナデシコB。『アマテラス』の誘導を願います」

『了解』


オモイカネはバーチャル映像にしないのだろうか。もしオモイカネに体があったなら、俺は女の子だと思うのだが。


「これからが大変だぁね〜」


こんなときでも軽い口調のサブロウタさん。


「サブロウタさんっ!」


そこへ律儀に突っ込みを入れるハーリーくん。

この二人、良いコンビだよな。


「航行システム、『アマテラス』にコネクト。車庫入れお任せします」

『了解』










俺は感じていた。

サブロウタさんの言葉じゃないが、きっと無事では済まされない。

ここには何かある。

ここでは何かが起こる。

俺にとって重大な何かが。





俺はそう、感じていた。















そのころ……。


「行くのね?」

「……ああ」

「止めても無駄のようね」

「……ああ。あそこには――」

「そう、だったわね。でも、取り戻してどうするつもり?」

「……」

「ごめんなさい。いらない詮索だったわね」

「……行くぞ、ラピス」

「……うん……」

「敵も来るわ。……気をつけて」




















<あとがき……か? これ>

改めまして、こんにちは。時量師です。

まず最初に、なんと! メールで感想を送って下さった方がいるのです。紅さんという方なんですけど。読んでくれていますか?

さて、後編が始まりました。

と、いうより十三話までがプロローグで十四話からが本編って気分なんですけどね。

アキくんはまたも修羅場です。これに関しては以前伏線っぽいものを張ってみたのですが、皆さん覚えていますでしょうか? 

何だか続きがありそうですね。書けるかな、続き。

さて、次回は勿論あれです。そう、臨検査察ってやつですね。

アキトくんの登場はもう少し待ってください。

ではでは、また次回。


感想

劇場版に移りましたね〜♪ 今後の展開はどういったものになるのか、特にアキ君の行動に注目させられる所です! 

なかなか出てこないから、私がさがしに行っちゃう所でした。


いや、作品外から探しに来られても…(汗)

でも、ようやくですね、時量師さん は素早いですからかなり展開が速いですけど、それでも本編開始まで結構かかっちゃいました。

まあね、長いお話になりそうだから…でも劇場版のスパンを考えるならカウントは20も無いとは思うけどね。

でも、駄作作家ならカウント100くらいになってしまうんでしょう?

ははは…まあ、余計な話は結構しきだし(汗)

その点、時量師さんは見事にスケジュールをこなしています。次回の臨検査察面白い物になると良いですね♪
 

私は…私は…

どこにもたどり着けないまま朽ち果 てなさい。

突然追加、ボソンジャンプに関する考察コーナーです。

作品とは関係直所で改訂するのはど うかと思いますが…まあ、気付くのが遅れたのは脳みそゼロ作家の面目躍如ですから、仕方ないですね。

ははは…(汗) 事実だから言い返しようがないや…

そんな貴方がボソンジャンプの事が 分るんですか?

グッ…まぁさわり程度だけどね、解釈は個人個人で違うから何ともいえない部分はあるんだけど、ボソンジャンプは三つのプロセスからなっている。

先ず一つ目、フェルミオン。ボソン変換。

まあ、簡単に言えばフェルミ粒子(電子,陽子,中性子)とボース粒子(光子,フォノン,(電子対))から出来ている物質というものを全て一度ボース粒子に 置き換えます。

どうやってですか?

ははは(汗) 現実には今の所不可能です。

兎も角、プロセス2はそれを先進波という過去へ言ってしまう波(ボース粒子)に乗せます。

そのんなの本当にあるんですか?

先進波はトンデモ話のレベルです。現実にそんな話しても笑い話にされてしまうのがオチでしょうね。

でも、立証されていないので、あるのか無いのかは分らないんです。ので、この場ではあるものとして話しますね。

先進波は過去へ行く波の事です。ですので、先進波にのると過去へと向かう事になります。

その間は物質ではなく波の状態ですから、あらゆる行動は不可能です。

そして、恐らくは遺跡演算ユニットイワトに登録されている、基準時間まで戻ります。

なぜわざわざ基準時間までもどるん ですか?

理由はそうした方が演算ユニットの演算時間が短くて済むからです。

それぞれ別の時間に方向転換するのではめんどくさいですし、遺跡もオーバーヒートします。

効率を考えると当然の処置だと思うのですが…絶対とはいえませんね。

そして、先進波に乗り換え、ゆっくりと目的地まで漂います。

最後に実体化、これはボソン、フェルミオン変換と言う事になります。

この三段階を経てボソンジャンプが完成するわけですね。


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