機動戦艦ナデシコ

〜The alternative of dark prince〜








第十九話 あしたのためにその1、『君子危うきに近寄らず』















で。


「いやー、悪かったな。アイツにそっくりなもんでよぉ」


女の人とは思えないほど豪快に笑い、女の人とは思えないくらいの力で俺の背中をばしばしと叩くリョーコさん。

何かに引っ掻けたのか俺の背中の傷は開いたので、とてつもなく痛い。

ところで、何故統合軍のリョーコさんが連合軍の戦艦にいるのかというと、

「細かいことは気にすんな!」だそうだ。


「まー、オレも朝のことは黙っててやるからよ、それで水に流そうぜ」

「うぅ、はい」


それを言われては何も言い返すことが出来ない。

アレがハーリーくんやシノさんやその他モロモロの人たちにバレたら…………確実に十回は死ねるな。


「おめぇ」

「はい?」


ズズイと顔を寄せてくるリョーコさん。

いや、その、そんなにじ〜っと見られると恥ずかしいんですけど。


「本当にそっくりだな。実は兄弟なんじゃねぇのか?」

「違いますよ。俺ひとりっ子らしいすから」


あの個人情報によれば、俺に兄弟はいなかった。


「らしい?」

「あ、いや、ははは……」


笑って誤魔化す。

リョーコさん、見かけ通りに鋭い。気を付けなくては。

俺は自分が記憶喪失であることをルリちゃん、ハーリーくん、サブロウタさん以外には話していない。というのも、何故かルリちゃんが他人にはあまり言うなと 念を押したからだ。

そういえば、あの日――『日々平穏』からの帰り道、ルリちゃんは「もう少しアキさんのことについて調べてみます。何か分かったらお知らせしますから、それ まで待っていて下さい」と言っていたけど、あの日から今まで何も聞かされていない。もう失った記憶については諦めた方が良いのだろうか。


「ふぅん」


リョーコさんは納得いかなさそうな顔で頷いた。


「ところでよぉ」

「なんですか?」

「おめぇの操縦、ありゃ何だ?」

「ぐむ」


どうやら俺のエステバリスの操縦はリョーコさんに見られていたらしい。


「素人たぁ言わねぇけどよ。一応軍人なんだから、もうちっとまともに動かせねぇのか? ルリの奴、良くこんなのをここに乗せたな」


こんなの、かよ。酷い言われようだ。

まぁ、でも、エステバリスの操縦に関しては否定出来ないのだが。


「……俺、軍人じゃないっすから」

「はぁ? そんなとこまでアイツにそっくりかよ」

「……」


アイツというのは――――テンカワ・アキト。

そう、リョーコさんもナデシコAのエステバリスパイロットだったそうだ。


「そういやぁ、アイツの操縦も見ちゃいられなかったなぁ」

「そうなんすか?」

「ああ。最初はな」


そこで何を思いついたのか、リョーコさんはニヤッと笑った。

その仕草がもの凄く格好良い。同時に何となく嫌な予感。


「よーっし。オレが稽古をつけてやる。シュミレーターはどこだ?」

「え? あっちですけど」

「おしっ! 行くぜ!」

「あ、はぁ」


リョーコさんは俺の指した方向へずんずん歩いていってしまう。

……行くしかないのか。


「アッキー」

「ん? って、おわっ!」


いつの間にかジンが隣にいた。さも当然とばかりに。

気配……なかったよな? やはり姉弟か。


「あのヒト……まさかスバル・リョーコとちゃう?」

「お前なぁ……ああ、そう言ってた。それがどうしたんだ?」


こいつに突っ込むなんて、どうせ馬鹿を見るだけだ。


「どうしたもこうしたもないやろ。あの方をどこの誰と心得るっ!? スバル・リョーコやゆうたら、あの統合軍最強と名高いエステバリスチーム、『ライオン ズ・シックル』のリーダーやぞ! いちエステバリスパイロットとして知っとらなおかしいで」


ジンは大袈裟な身振り手振りで演説する。


「へぇ」


『ライオンズ・シックル』か……聞いたことくらいはある。だけど、俺の本業はパイロットじゃないし、あまり良く知らなかった。

と言ったら「こんのドあほうっ!」とジンにど突かれた。


「ってぇ。なんだよ」

「失礼やろが! それに、かの有名なナデシコAにも乗っとったちゅう話やぞ!」


熱弁を奮うヤソガミ・ジン。

今日はやけに熱血だな。シノさんに何かされたのか?


「知ってるよ」

「そう、ナデシコA! 僕の尊敬するプロスペクターが乗っとった艦……」


ほぅ、と遠い眼をするジン。眼見えないけど。

って、結局はそれなのかよ。


「で、何の用だよ?」

「アッキーに用はない。僕はあのヒトにプロスペクターの武勇伝を聞くかせてもらうんや。そして、あわよくば連絡先を!」

「武勇伝ってお前……」


プロスペクターさんって非戦闘員じゃなかったっけ。ああ、でも、それは公式な対場で裏では……とか延々と聞かされたっけ。正座で。

ジンがここまで慕うプロスペクターとは如何なる人物なのだろう。直接会ってみたくなってきた。


「そうと決まれば、あ〜〜ねさ〜〜〜〜ん!!」


そう叫んでジンはリョーコさんのもとへと駆けていった。

……あねさん? 

間違っちゃ、いないかな。


















ちゅど〜ん


「ぎゃあああああぁぁぁ!!」





……。





…………。





………………。





……………………。





…………………………。





「いやぁ〜。流石あねさん! 強いっすね〜」

「ったりめぇだろ。ま、おめぇもなかなかだったけどな」

「ホンマですか? 嬉しいな〜」

「……」

「なんやアッキー暗いなぁ。三十連敗したんがそんなにショックやったんか?」

「ぐ」


畜生、はっきり言うなよ。宇宙戦って難しいんだよ。ぐるぐるするんだよ。悪いかよ。

そこにいたジンを混ぜて、一対一対一のバトルロワイヤルと俺とジン対リョーコさんの二対一を合計三十戦やって、結局一勝も出来なかった。ていうか、瞬殺 だった。

相手の攻撃を見切ることは出来るのに、俺のエステバリスは思うように動いてくれないのだ。


「アッキー、いつものことやんか。そな気にすることやないで」


ジンは俺の肩に手を置き頭をフルフルと動かしながら言う。

凄く惨めな気分になるからそれはやめろ。


「……わかってるよ」

「あーあー、熱血君のくせしてすぐ落ち込むんやからなぁ。あねさん。あねさんからも何か言ってやって下さいよ」

「……」

「あねさん?」

「……」

「あねさ〜ん、どうし――」

「ふっ!!」

「っ!」

「おお〜」


何のつもりか、リョーコさんは突然俺に向かって正拳を繰り出してきた。

が、間一髪、俺は反射的に体をずらしその腕を掴んだ。


「危ないじゃないっすか!」


いや、あの殺気。殺る気満々だったよな。


「ふぅん。動体視力と反射神経はなかなか」

「へ?」

「つまりはそういうことだ」

「は?」


ナニイッテンスカ? 


「分からねぇのか?」

「全然分かりません」


ていうか、意味不明です。話がみえません。

その前に、何故俺は殴られなきゃならないんだ? 理不尽じゃないか。


「アッキーは物分りが悪いなー」

「まったくだな」

「っ!」


分かったのか!? あれで!?


「つまりはそーゆーことや。ねぇ、あねさん?」

「……おう」

「……お前、本当は分かってないだろ」

「む、失敬やな。ふむ、良いだろう。僕がおつむの弱〜いアッキーでも理解できるように易し〜〜〜く説明して進ぜよう」

「……ああ」


……何かもう、どうでもいいや。


「つまり、アッキーはなぁ、IFSに頼り過ぎなんや。そらイメージ伝達も大事やけどや、本来ロボットちゅうんはレバーがあって、それをガチャガチャ動かす だけ。まぁ、姿勢制御とかは除いてやけどな。アッキーの大好きなゲキ・ガンガーもそうやろ?」

「うーん、そうか? 勢いだけで動かしてる気もするけど……」

「ドあほっ!」


またど突かれた。

何でこいつのは避けられないんだ?


「ってぇな! だから何だよっ!」

「折角僕がええこと言っとるのに話の腰を折るなや!」


慣れないことはしない方が良いと思うけどな。


「……はぁ、分かったよ。それで?」

「動きは見える。どう動けばいいか判断出来る。体もそれに反応する。それやったらやることはひとつ! まにゅある操作や!! ばばーん!!」


ビシッ! と俺に指をさす。

えーと、マニュアル……操作?


「あ」


そうか。考えてみればその通りだ。どうして今までそんな簡単なことに気付かなかったんだ。

確かにどんなロボットアニメでも操縦桿のみで動かしている。当然IFSなんて存在しない。

ならば! 俺にだって出来るはずじゃないか!


「分かりましたよ、リョーコさん! そういうことだったんすね!?」

「……お、おう」


「おーい、アッキー。僕は? って無視かいな」


あれ? どうしたんだろう? さっきまでの威勢がなくなっている。


「どうしたんすか?」

「……て」


「でもなぁ、全部まにゅある操作なんて出来るわけないから……」


「え?」

「……て」


「もう少し左を使ってやなぁ……」


「て?」

「……いい加減にぃ」


「こう脇を締めてや……」


「……あ」

「手を……」


「抉り込むように……」


「離せっ! 馬鹿野郎!!」

「打つべしっ!!」

「げふぅッ!!」


強烈なリバーブロー。

よ、避けれねぇ。

…………。

へへっ。燃えたぁ……燃え尽きたぜ。真っ白にな…………がく。


「じょおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」



















眼が覚めたら、そこは、不思議の……いや、地球でした。

ルリちゃんの話によると、次の任務は月で建造中のナデシコCに乗り、先日『アマテラス』で発見された遺跡を奪還する極秘任務だそうだ。

そして、それには正規の軍人は使えないということで、まずはここ地球において旧ナデシコクルーを集めるのだと言う。

で。


「と、いうわけで、私どもがお手伝いすることになりました」


そう言いながら名刺を差し出す眼鏡にちょび髭、赤いベストという変わった外見の男。

ジンに聞いていたのとは少し印象が違うけど、こ、この人が……。


「ぷろすぺくたぁ〜?」


これはサブロウタさん。


「本名ですか?」


こっちはハーリーくん。

って、あんたら、知らないのか!? あのプロスペクターが眼の前にいるんだぞ! どうしてそんな暢気なこと……あ、そうか。サブロウタさんもハーリーくん も裏の顔を知らないんだ。まぁ、本当なのかはまだ分からないけど。

ジンがここにいたらきっと血涙流して喜ぶんだろうな。話をするだけで鼻血出すくらいだから。

サインくらい貰っておいてやろうか。


「いやいや。ペンネームみたいなもんでして。それでは、各人手分けして人集めといきましょうか。歴史はまた繰り返す。ま、ちょっとした同窓会みたいなもん ですかな」

「はい……」

「まぁ〜、それにしてもルリさん! お久しぶりですねぇ」

「ええ、本当に」





「あ、あのプロスさん」


別れる前に俺は思い切って声を掛けてみた。


「はい、何でしょう?」

「あの、ですね」

「はい」


ここで聞かなきゃ男じゃないよな。


「一夜にして、長崎中のヤクザを半殺しにしたって本当ですか? それもたった二人で」

「……ほう」

「そのあと、何故か中国マフィアまで壊滅させたっていう……」

「その話、どこで?」

「ええ、まぁ、ちょっと」

「ところでぇ、テンガさん?」

「はい?」

「あなたは『殺戮のソウ』さんのお弟子さんなのですよね?」

「は?」


『さつりくのそう』? 

えーと、『さつりく』は殺戮で、『そう』は……ソウさん!?

師匠、スゲぇ物騒な二つ名だよ。いや、ぴったりなのか?

いや、それよりどうしてプロスさんがソウさんのことを知っているんだ?


「ひとつお手合わせ願いたいのですが、どうでしょう?」


プロスさんはニヤリと笑い、眼鏡がキュピーんと光る。

そして、纏っていた雰囲気ががらりと変わる。言うなれば、白から黒へと。


「あ、あうあう」


や、やばい。やばいぞ。きっとあの話は本当だ。このヒト、確実に何人か殺ってるよ。

ああ、地雷踏んじゃったんだなぁ。

スマン、ジン。サインは貰えそうにない……ぜ。















ふぃ〜。今回もマジで死ぬかと思った。

現在、俺たち四人は最初の旧ナデシコクルーに会うため、あの大通りを歩いている。


「僕らがいるじゃないですか? 僕ら三人なら敵なんて……勝てますよ!」


……ハーリーくん、俺は?















で。


『先生、調子どうすか?』

「はい、もしもし、ぼくはーりー」

『え? 先生? どうしたんですか!? 先生!?』

「ちいさいからわかんな〜い。じゃ」

『先生!? せんせ〜い!!』


がちゃり


「はぁ……自己嫌悪」

「は〜い、オッケーオッケーその調子ぃ。ルリルリ、そこ61で……」

「はい」

「サブちゃん、点描そこラブリーね♪」

「うぃ〜す」

「アキく〜ん、カレーは超辛で♪」

「は〜い」


何故ハーリーくんは電話の番をしているのか?

ルリちゃんとサブロウタさんはどうしてアシスタントをしているのか?

そして、何故に俺は激辛、いや、超辛カレーを煮込んでいるのか?

クルー集めの最初は、リョーコさんと同じエステバリスパイロットだったアマノ・ヒカルさん。

今は売れっ子の漫画家らしく、アパートは漫画の作業場と化していた。

任務の参加には二つ返事でOKしてくれたのだが……その変わりにこの状況に陥っているのだ。


「ひとりで無理でも五人ならなんとかなるっ!! さぁ〜、あと十二ページ、が〜んばろ〜♪♪」


……あ、タバスコ一瓶入れちゃった。

ま、いっか。















そのころ……


「地球に、行くのね?」

「……ああ」

「どうして?」

「……」

「貴方の目的はミスマル・ユリカの奪還じゃないの?」

「……」

「ルリちゃんのことはシークレット・サービスに任せておけば良いのに?」

「……行くぞ。ラピス」

「……うん……」





「…………ばか」




















<あとがき……か? これ>

こんにちは、ご無沙汰しておりました時量師です。

まずは楽しみに待って下さっていた皆様、大変申し訳ありませんでした。言い訳なのですが時量師は試験中でした。

はい、やっと書けました。何日も離れていると文章を書けることが嬉しくてたまりませんでしたよ。時量師は幸せです。

さて、第十九話。

やっと地球に帰ってきて、クルー集めが始まりましたね。プロスさんがちょっと危険です。

今回、本当はまだ地球に着かない予定だったのですが、キリが良くないのでヒカルちゃんのところまで一気にいってしまいました。

そして、アキトくんは地球へ! どうなるアキくん!?

では、また次回。




感想

時量師さんお久しぶりです♪ 試験をやってらっしゃったのですね、ご苦労様です。 

学生さんは大変ですね、うちの駄作家は仕事もダメダメですから、時間だけは余ってますけど…


最近はそうでもないんだよ、更新スピード上がったのは嬉しいんだけど、他の人のサイトを見て回る時間がなくなってね(汗)

むしろ駄作家なんかに来られなくて そのHPの管理人さんたちも清々しているかも知れませんよ?

ううぅ、確かにそういう可能性もあるけどさ…(汗)

ほら、そんな事より 感想に行かなくてどうしますか!

あっ、そうだったね、えっと、今回は前半がリョーコちゃんとアキ君のシュミレーションバトル、後半はとうとうナデシコCの乗組員集めの開 始。

話が大詰めに近づいてきましたね、いよいよアキトさんと二度目の再会(?)のシーンも近づいてきました。


ああ、電車に変質者がのっているやつね。

そうそう、幼児誘拐魔とすれ違って 怖かったって! 何を言わせるんですか!!

ははは、いや事実だろう?

アキトさんは確かに変質者っぽい格 好でしたが、あれは黒い王子様の扮装だから仕方ないんです! 電子の妖精にあわせてくれたんですよ!

関係ない気もするけど…(汗)

何か言いましたか?

いえ…(滝汗)
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