機動戦士ガンダムSEED Destiny  〜Whereabouts of fate〜




外伝 「アカデミーのとある休日」






これは、今から少し前、まだシンがアカデミーにいた頃の話……。





その日、メイリン・ホークは市街地を一人で歩いていた。

休日になるとこうして出歩くことの多い彼女だが、一人で街を歩くのは久しぶりだった。

いつもなら姉と一緒なのだが、生憎と姉は補習を受けており、この場にはいない。

なので、彼女は一人でぶらぶらとウィンドウショッピングを楽しんでいた。

「……はぁ、やっぱり一人だとつまらないなぁ。話し相手もいないし」

訂正、あんまり楽しそうじゃなかった。

「お姉ちゃんも、なんで得意教科が偏ってるんだろ?」

その不満は、今頃補習を受けている姉に向かったようだ。

彼女の姉であるルナマリアは、こう言ってはなんだが、苦手科目がわりと多い。

射撃は平均程度だが、MSでの砲撃はあまり良くない。

デブリ内でのMS戦闘も得意ではない。

その代わり、ストーキング等の諜報技術には優れているのだが。

なのにパイロット科に在籍している姉を思い浮かべ、メイリンは小さく溜息を吐いた。



それから街をぶらつく内に、いつの間にか夕方になっていた。

プラント内を照らす照明は朱色になり、人工的に作られた夕暮れが街を緋色に染め上げている。

そんな中をメイリンは特に目的もなく歩き、ふと気が付くと大きな公園の前にいた。

「公園かぁ。ちょっと休もうかな」

歩き疲れていたからちょうどいいやと思って公園に入り、その中心部にあるベンチに向かった。

やがて、大きな噴水の前を囲むようにして置かれたベンチの一つに、見た事のある人影を見つけた。

「あれって……シン?」

彼女が見つけたのは、アカデミーの同期であり、姉の同級生であるシン・アスカだった。

夕日に照らされ、その白に近い灰色の髪は綺麗な朱色に染まり、どこか物悲しい雰囲気を醸し出している。

だからだろうか。

どこか苦手に思っていた筈なのに、メイリンは無意識の内に、シンの側に歩み寄っていた。





その日シン・アスカが公園にいたのは、全くの偶然だった。

あまり趣味を持たない彼は、特にする事もなく、暇を持て余していた。

とりあえず洗濯物を片付けたり部屋を掃除したりしたのだが、それも午前中の内に終わってしまった。

ならば昼寝でも、と思ったのだが、昨晩十分な睡眠をとったおかげで眠気がない。

そうなると本当に何もする事がなくなり、どうしたものかと悩んだ末、街に出る事にした。

別に何か買い物がしたかったわけでもないが、寮でぼうっとしたまま一日を過ごすよりはいいだろうと思ったのだ。

まぁ実際は、補習で機嫌が悪くなっているであろう同級生の八つ当たりから逃れる、という目的もあったのだが。



そうして街に出たはいいが、特に目的もなかったので、出て早々に悩む羽目になった。

とりあえずは電気屋に行き、形見である妹の携帯の充電を頼んだ。

それが終わってからは本屋に行ったりと適当にうろついていたのだが、その途中で公園を見つけ、そこに入った。

その公園は比較的大きなもので、噴水のある広場を中心に、周りを雑木林で囲まれている。

そして、周囲の木々は紅葉で紅く染まっていた。

「……懐かしいな」

その光景に、シンはぽつりと洩らした。

「まだオーブにいた頃、秋になるとよく皆で紅葉を見に行ってたなぁ……。
雑木林に敷き詰められた落ち葉の上に横になるのが好きで、俺が寝転んでいると決まってマユが落ち葉を顔に落としてきて。
それで飛び起きた俺を見たマユが笑いながら逃げて、俺はそれを、追いつかない程度の速さで、やっぱり笑いながら追いかけて……」

目を閉じれば、あの頃の光景が鮮明に映し出される。

それは失ってしまった、シンが幸せだった頃の、ずっと続くと思っていた日常の象徴とも言える光景。

「父さん、母さん……マユ……」

もう二度と戻らない過去を思い出し、シンは妹の名を呟くと共に、静かに涙を流した。



暫くそうして涙を流していたが、ふと我に返ると慌てて涙をぬぐい、辺りに人がいないのを確認してほっと息を吐いた。

その後、これからどうしたものかと思い辺りを見回すと、噴水の前にあるベンチが目に映った。

「……折角だし、少し休むか」

昔を思い出して少し暗い気分になっていたから、一息ついて落ち着こうと思い、ゆっくりとベンチに腰を下ろした。

それから何をするでもなく、ただ俯いて紅く染まった地面を見下ろしていたると、そこに一つの影が入り込み、

「こんにちは」

上から投げかけられた声に顔を上げると、そこには、どこか緊張したような表情を浮かべた、同じ年頃の少女がいた。





「こんにちは」

メイリンがそう呼びかけると、シンは顔を上げてメイリンを見た。

誰かに話し掛けられるなんて思ってなかったのか、どこか驚いたような顔で呆然と彼女を見上げている。

そんなシンに、声を掛けたはいいがこれからどうしようとメイリンが迷っていると、シンが口を開いた。

「えっと……?」

その言葉に、メイリンは少しむっとした表情になる。

こっちはちゃんと名前を覚えているのに、仮にも同期である自分の名前を知らないなんて……。

そこまで考えた時に、こうして面と向かって話すのは初めてだという事を思い出した。

それ以前に、彼と言葉を交わした事も無かったのだ。

そう考えると、シンの対応も当然と言えば当然かもしれない。

なので、まずは自己紹介から始める事にした。

「あ、えっと……私、メイリンです。メイリン・ホーク」

「ホークって事は……ルナマリアの?」

「はい。お姉ちゃんの妹で、一つ下です」

「あぁ、そういや妹がいるって言ってた気がするな……。言われてみれば、顔立ちも似てる……か?」

「……なんで疑問系なんですか」

心外だと言わんばかりに少しだけ目を細めると、シンは困ったような顔で頬をかいた。

「あぁ、悪い。えっと……シン・アスカだ。ルナマリアの一つ下だから……君と同い年か」

「あ、そうなんですか?」

「そう。だから、別に敬語を使わなくてもいいよ。同い年なんだし、タメ口でいい」

「あ、はい。……じゃなかった、えっと……うん」

「まぁ、別にいいけどね。それよりいつまで立ってるんだ? 座らないのか?」

「あ、それじゃあ……」

そう言ってシンの横に座る。

「はぁ……」

思いのほか疲れていたのか、自然と声が出た。

その際にシンが少しだけメイリンの方を見たが、彼女は気付いた様子もなく目を細め、溜息を吐いている。

そのまま何も話さないまま、時間だけが過ぎていく。

ちなみにこの間、シンは特に気にした様子はなかったが、メイリンはこれからどうしようとひたすら悩んでいた。

彼女の頭の中を覗いてみると、

「(座ったはいいけど……これからどうしよう? 何か話そうにもどんな話題がいいのか分からないし……。
って、思えば私、男の人と二人っきりなんてお父さん以外は初めてだよ!?
ど、どどどど、どうしよどうしよ!?)」

と、結構パニック状態だった。

隣にいるシンは、相変わらずの無表情。

しかもなまじ顔立ちが整っている分、どことなく怖さや威圧感を感じさせる。

そんな状況が暫く続いていたが、不意にシンが立ち上がり、公園の奥へと歩いて行く。

「あ、あれ? シン?」

メイリンが困惑したような声を掛けるが、シンは気にせずにそのまま歩いて行ってしまった。

それを見て、メイリンは少しだけ落ち込んだような表情になった。

「あう……嫌われちゃったかな?」

どこか寂しそうな声で呟くと、がっくりと肩を落とした。

数分ほど落ち込んでいたのだが、足音が聞こえてその方向に目を向けると、シンがこちらに向けて歩いていた。

そうして再びメイリンの隣に座ると、彼女に向けて左手をすっと差し出してきた。

その手には、一本の缶ジュースが握られている。

「……?」

「疲れてるみたいだったからさ。俺の奢りだよ」

まだ困惑した表情のメイリンに缶を握らせると、自分の分と思われるコーヒーのプルタブを開け、ベンチに凭れながらそれを飲み始めた。

それを見て、ようやくメイリンは笑顔を浮かべた。

「それじゃぁ、いただきます」

プルタブを開け、その中身を口に含む。

清涼飲料の類らしく、柑橘系の味がする液体が喉を通ると、全身から疲れが抜けるような気がした。

「はぁ……美味しい」

幼い感じのする仕草でほっと息を吐いていると、不意に隣から視線を感じ、目を向けた。

隣ではシンが、特に感情を浮かべているわけでもないが、どこか優しさを含んだような瞳でじっと彼女を見ている。

「え、えっと……私の顔に何かついてる?」

「ん? ……いや、大したものはついてないよ」

「あぁっ、酷い! 大した事ないって言った!」

「いや、そういう意味じゃないから……」

苦笑しながら言うシンを、メイリンはむくれながら見ている。

そんなメイリンを見て、シンは懐かしさを感じていた。

「ただ……妹に似ていたから、ね……」

さっきのやり取りも、そしてメイリンがジュースを飲んでいる時の仕草も、妹―マユと同じような気がした。

年齢も顔立ちも違うのに、妹を思い起こさせる。

「……妹さん?」

「ああ……。仕草が似てたから」

「ふ〜ん。妹さんっていくつなの?」

「……九歳だけど?」

「……それって、私が子供っぽいってこと?」

ジト目で見てくるメイリンに、シンは慌てて首を振った。

「そんなのじゃないよ。ただ、懐かしいなって思っただけ」

「……むぅ〜」

弁解はしたものの、横ではまだメイリンが不服そうに唸っている。

そんな彼女に苦笑して、シンはゆっくりと立ち上がった。

「さて、と……。俺はもう帰るけど、メイリンはどうするんだ?」

「あ……じゃあ、私も帰ろうかな。お姉ちゃんもいい加減補習終わってるだろうし」

「……そうだな。多分レイ辺りが八つ当たりの対象になってるだろうし……帰ったら謝っておくか」

「シン、ひょっとしてそれが嫌で外に出てたの?」

「……否定は出来ないな」

どこか悪戯っぽい笑みで見上げてくるメイリンから顔を逸らし、困ったように言う。

それを聞くと、メイリンは可笑しそうにくすくすと笑っていた。

「そんなに笑うような事か?」

「ううん。ただ、シンって少し怖い感じがしてたけど、話してみたら案外普通なんだなって……」

「……そうか?」

「うん。いっつも無表情で、なんか人形みたいだったんだもん」

「……心外な」

その言葉通りの顔をして言うシンにまた笑いながら、メイリンは隣を歩いていた。





二人がアカデミーの宿舎に戻ると、廊下で不機嫌そうな顔のルナマリアと、どこかぐったりとした感のあるレイに出会った。

「あ! シン、どこに行ってたのよ!? 部屋に行ってもレイしかいなかったし……って、なんでメイリンも一緒なの?」

「ああ、外で偶然会ってな。それで、暫く一緒だったんだ」

シンがそう言うと、ルナマリアは不機嫌そうな顔から面白いものを見つけたような顔になった。

「ふ〜ん。私が補習を受けてる間、シン君はメイリンと楽しくデートだったんだぁ〜。ふ〜ん、へぇ〜」

「お、お姉ちゃん!?」

その言葉にメイリンが赤い顔で抗議する。

「ルナ、メイリンが困ってるだろ……。それに、補習を受けるはめになったのはお前の自業自得だろ?」

「なによ!? 私が悪いの!?」

「悪いも何も……講義中に寝てたのは何処のどいつだよ……」

「あ、あれは……そ、そう! あの教官の話がやたらと長いのが原因なの!」

「……そうか?」

「いや、特に長いとは思わんがな」

「だよなぁ。大体あんなに気持ち良さそうにぐーすか涎垂らして寝てりゃ、教官だって怒るよ」

「ああ! レイまで一緒になって! それにシンもそんな出鱈目言わないの!」

ギャーギャーと言い争う(と言ってもルナマリアが図星を突かれて怒っているだけだが)二人を見て、メイリンは苦笑していた。

その横に、いつの間にかレイが移動している。

「……まったく、あいつらは……」

「まぁまぁ、仲がいい証拠ですよ」

「そのとばっちりを受けるのはいつも俺なんだが……」

「えっと、その……ご愁傷様です」

その言葉が止めになったのか、レイは更に疲れた顔になる。

そんなレイといまだに言い争いをしている二人を見て、メイリンは楽しそうに笑う。





これはミネルバが航海に出るずっと前……まだ、シン達がつかの間の平和の中にいた頃の、ありふれた日常の話……。







あとがき

こんにちは、トシです。
種運命外伝其の一をお届けしました。

これはシン達がまだアカデミーにいた頃の話です。
一話前編で触れていた、“メイリンがシンと話すようになったちょっとした切っ掛け”、それについてのお話ですね。

今後も時折こんな外伝を交えていくと思いますので、本編ともどもよろしくお願いします。

それでは。



感想

ああ、最近種運命見てない…

何と言うか、見る機会を逃しっぱなしで、何十話も見てない気がする(汗)

シンとメイリンのお話は面白かったです♪

今後シンとのカラミが楽しみですね♪

そういえば、この作品でもユリカさん役の桑島法子さんキャラが死亡してますね…(汗)

そういえば、そうだね…彼女の役どころはフォウかロザミィだったからね…

まあ、しゃあない、といえばしゃあないんだけど…

ガンダムだと彼女死に役とか不幸になる役とか多いね(汗)

でも、いい役どころが多いのも事実ですね、最近出ている作品多いですし。

そうだね、確かに今度のトランスフォーマーにも少しでるらしいし、絢爛舞踏会ではヒロインだったし。

探偵学園Qの美南恵とか、鋼の錬金術士のロゼとか、忘却の旋律のボッカとか、犬夜叉の珊瑚なんてのもやってるね。

まあ、そういうことです。

桑島さんは実力派というべきなのか、結構いろんなタイプをしていますね、

最初の頃はナデシコのイメージかボケキャラが多かったですけど、

ナタル・バジルール大尉も、フレイ・アルスターも、ステラ・ルーシュもみんなタイプが違いますしね。

絢爛舞踏会のべスもどちらかと言えばナタル寄りですね。

そうだね…そういう意味ではラーゼフォンのクオンなんて良かったかな。

あれは、むしろ私とキャラが被っている気がしますが(汗)

どちらにしろ、法子氏は偉大になっていますね…

まあ、私は伝説になっていますからいいですけど。

ほんまかいな(汗)

ふふふ、どういう風に伝説か見せてあげましょうか?

いえ、結構です!(滝汗)

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