ある日突然、不細工が細工になった
                   
                     第一話「鏡は正直者」





高倉 宗司の朝は早い。

いつも、5時くらいに起きてはランニングに行くからだ。

故に、最低でも4時45分には目が覚める。

目覚まし時計には頼ったことが無い。

癖になってしまうと、目覚まし無しでは起きられなくなってしまうからだ。

武闘家として、それは如何なものかと宗司は思う。

かくして、昨日は風邪っぽかったのだが、いざ起きてみると何とも無かったため、

いつも通りにランニングでもしようかと、頭を上げたときである。


(あれ、なんか……。)


……頭が、重い。

痛いわけではない。重いのである。

いつもなら、決して味わうことの無い重量感が頭にあるのだ。


(……?)


とりあえず、上半身を起こす。

否、起こそうとしたら急に、髪の毛が引っ張られた。

それがどうも、自分の尻に髪の毛が引っかかって居るらしい事をぼんやりと感じた

そして、直後に自分の髪の毛がそんなに長くないことや、先の重量の原因が、この髪の毛のせいであったことに気がつく。

恐る恐る、後頭部に手をやると其処には……

いつもの天然パーマでゴワゴワで、クラス中から「チリチリ」と呼ばれし我がヘアーではなく、


サラッ……


と言わんばかりに手触りが良く、手櫛で髪先までスムーズに梳かせるようなロングでストレートな……

………………………………………

…………………………………

……………………………

………………………

…………………

……………

………

……

…はい?

何デスカコレハ?

コレガ僕ノ髪ノ毛デスカ?
















15分経過………














バタンッ!……ゴトトトトトトトトトッ!


派手な音を立てて扉を蹴飛ばし、これまた派手な音を立てながら階段を駆け下りる。

目指すは洗面所。

目的は、無論、この異常変化が事実であるかどうかを確認するためだ。

そして、洗面所に辿り着き、目を瞑ったまま鏡の前に立つ。

深呼吸をして、溜まった唾を飲み込む。


ゴクッ……!


意を決し、瞼をゆっくりと開ける。

ゆっくりと開ける。

開ける。

開け切った。


「…………。」


そこに映っていたのは、いつも見慣れた不細工フェイスではなく……。


「な、ななな……」


まるで、テレビに出てる有名「女優」<=(コレ大事)のような……。


「なんじゃこりゃああぁぁぁぁっ!」


女顔になった、宗司であった……。
























更に15分経過……
















幸いにして、あれだけ叫んでも家の連中が起きることが無かった。

とりあえず、今は現実から逃げるようにランニングの真っ最中だ。

急に長くなった髪の毛を、洗面台に置いてあった珠洲美のゴムで縛り(無断拝借)、ポニーテールのような風にしている。

フードのあるジャージを選んで、フードを深く被りながら、早朝のランニングコースを走っているのだが……

イマイチ気が乗らなかった。

おまけに、着替えているときに気づいたのだが、体毛が殆ど抜け落ちて、ベッドの上か、パジャマの内側にくっ付いていた。

因みに、慌てて確認した所、男の勲章は存在していたが、陰毛は全て抜け落ちていた……(茫然自失)

更に言うと、さっき叫んだときに気づいたのだが、声が異様に高くなっているのだ。

一体、昨晩の間に何があったのだろうか?

そのときにふと気づいたら、目の前に公園があった。


(丁度いい、ココで少し頭を冷やそうかな……)


そう思い、公園の中へと足を踏み入れた。

時刻としては、5:45分ぐらい。

少しぐらい、人が居るかと思ったが誰も居ないようだった。

辺りを見渡すと、上手い具合にベンチがあったため、そこに腰掛けることにした。


「はぁ〜…」


だいぶ落ち着いた。


(分からないことを考えていえも仕方が無いな。)


無論、どうしてこうなったのかと言うことである。

実際、原因が欠片も見当たらないし、こういった事例があったということも聞いたことが無かった。

分からないことを不毛に考え続けるよりも、これからのことを考える方が有益だろう。

そして先立っての問題と言えば……


(これをどう説明すればいいんだ?)


である。

害があるの訳ではないのだが、かなり戸惑うだろう。

クラス連中はともかく、身内である家族は。

親父は別にどうだっていいのだが、母や妹たちにはどう言ったものだろうか?

とは言っても、自分でも全く理解不能なこの状態をなんと説明しろと?

う〜んと考え込んでいると、視界の端に人影が見えた。


(おっと……。)


人に見られたからといってやましい事など何も無いのだが、なんとなく見られたくなかったので近くの草むらに身を隠す。

そして、公園の新たな入園者を見てみると、それは意外な人物であった。


(香乃……?)


何で、香乃がこんな時間に公園なんかに……?

なんとなく、持ってきていた携帯電話のディスプレイに目をやると5:55分である。

生粋のお嬢様である香乃が、何故?

少し……いや、かなり気になったのでそのまま隠れて様子を見ることにした。


「ふぅ……。」


小さくため息をつきながら、偶然にも先程、俺が座っていたベンチに腰掛ける香乃。

つまり、俺のすぐ近くである。

話は様子見はしやすくなったが、逆を言えば俺がデバガメしていることもばれやすくなった。


「お見合いかぁ〜…」


(……!?)


なんですと!?

いきなりの爆弾発言に、大声を上げそうになるのを必死で止めると耳を澄ます。

今朝のハプニングよりはマシだが、これもまた驚愕に値する事実であった。


「早すぎるって言ってるのに……母さまったら……。」


(香乃のお母さんか……。)


香乃の邸宅(そう言うのがふさわしい)に招待されたときにお会いしたのだが……

なんと言うか……

香乃とは、似ても似つかない。

美人ではある。

だが、それだけといった印象が強かった。

高飛車な性格に、かなりの几帳面で、使用人を叱り飛ばすのが好き。

なんというか、典型的な金持ちの妻といった感じの人だ。


「それに、私には……が居るし……。」


……?

かなり小さくて、聞き取りづらかったが、多分、文彦のことだと思われる。

まあ、あの様子だとお見合いは断るかな?

妙にホッとした感があるのを自覚しつつ、これ以上聞いているのも悪い気がしたので、早々に立ち去ることにしたが……


「今日にでも宗司に相談してみようかな?」


俺の名前が出てきて、足が止まった。

相談してもらえるのは嬉しいけれど、俺に聞くには筋違いな事だと思うけどなぁ。

それに、今の俺が学校に言ったときの騒ぎを想像すると、相談を受ける暇があるのかどうかも分からない。


「反対……してくれると嬉しいな……。」


今度こそ、ハテナマークが頭の上で盆踊りを始めた。

何で、俺が反対すると嬉しいんだろうか?

なにやら、モジモジしながら照れている香乃。

分からん。

これが、女心と言う奴なのだろうか?

しばらく、モジモジしていた香乃だったが、ふと思い出したように時間を確認すると、慌てて公園を出て行った。

かなり、慌てた様子だったので、やはり、今の時刻は外出禁止だったようだ。


(結構、お茶目なんだな?)


普段は規則や、約束事をきっちり守る優等生なのだが、こういうところもあるんだな。

結構、長い付き合いになるが、ああいった姿は始めてみる気がする。


(って、悠長に考えてる場合じゃないな。俺も早く帰らないと)


家から、学校までの距離を考えると、7:30には、家を出ていないといけない。

現在は6:15分。

帰る時間を15分と考えると、6:30分。

結構ギリギリになるかな?

帰ってからどうするか……

まあ、どうにかなるだろ。

なんか、考えるのが面倒になってきて、考えを放棄して家に向かって走り出した。




























つ、着いてしまった……

だが、最早退路は無い!

腹は括った!いざ、出陣!

と、家のインターホンに手を伸ばす。


キンコーン♪


「あ、兄さん?今開けるね〜!」


ガチャッ……

インターホンに答えて、玄関を開けてくれたのは菘だった。

爽やかな笑顔を向けながら玄関口を開けてくれたのだが、今の俺の姿を見て、俺では無いと判断したのか急に態度を変えた。


「どなたですか?また、父に用事ですか?」


こうして、聞いてもらうと分かるが、親父を訪ねてくる女性は多い。

そして、娘が居ると知って、残念そうに帰っていくのが定番パターンだった。


「やっぱり、分からないか……?」

「はい?……何を言ってるんですか?」


やばい人が来たと思ったのか、身構えて警戒色に染まる菘。


「そんな身構えないでくれ。俺は宗司だよ。高倉 宗司。」

「は?……え?」

「納得できないなら、何か質問してくれ。」

「……血液型は?」

「A型。」

「身長は?」

「175cm」

「体重は?」

「52kg……ってあれ?俺って体重とか身長って教えてたっけ?」

「兄さんの事だから……」


兄さんのことだからって何だっ!?

って言うか、理由になってないぞ!


「Hな本の隠し場所は?」

「押入れの中……って何で知っているっ!?」


いかん、考えに気取られて、男が答えてはならない回答を素で言ってしまった。

慌てて、否定しようと菘の顔を見たとき、背筋に氷河期が訪れた。

そこには、般若の仮面を被った鬼姫が居られました……


「……そんなとこにあったんだ?」

(し、知らないっ!こんな顔をする菘なんて知らないっ!)

「最近、見つからないと思ったら……押入れに隠していたのね。」

「い、いや……そのな?今はそれを聞いているんじゃないだろう?」

「兄さんだって事は分かってたから。」

「じゃあ、何で確認の質問なんか……」

「言う必要あるの……?」

「すみません。ごめんなさい!失言でしたっ!」

「よろしい。」

「ま、まあ、とにかくただいま。」

「お帰りなさい。……後で処分しておいてね?さもないと……」

「直ちに取り掛からせて頂きますですっ!」



慌てて、部屋に戻ってエチィ本を始末しているときに思った。

「案外、簡単に受け入れられたな。」と……

この分なら、珠洲美も大丈夫かな……

と、高を括ったのが間違いだった。





















「…………。」

「え〜と……珠洲美さん?」

「に、兄ちゃん……なの……?」

「そう……なんですが……?」

「…………。」

「…………。」


現在は、居間にて食事の真っ最中。

そして、居間の会話は自分の分かる範囲での、状況説明を終えた直後のものだ。

母である、孤呼音(ここね)は、説明直後から「まあまあ……」と呟いたまま黙り込み、

菘は、何事も無かったかのように食事をしている。

親父は……もうすぐお迎えが来る頃だろう。

何故かと言えば、数分前に……


「ややっ!そこな美人!お名前をお聞かせ頂きたい!」

「……宗司だ。」

「…………は?」

「だから、高倉宗司っ!貴様の息子だっ!」

「…………宗司。」

「何だ?」

「そうか……お前、俺を愛するが故に性転換をしてまで……」

「はあっ!?何言ってんだっ!?」

「俺には、同姓愛の趣味は無いっ!しかし……!」

「うわっ!は、離せっ!この変態っ!!」

「このような、美人であらば仕方が無いっ!共に畜生道に堕ちようぞっ!」

「い、嫌だあぁぁぁぁぁっ!!」


ゴトンッ!!


「……いい加減にしてよね?父さん……!」





「な……!菘、そのバットは一体何処から……!」

「五月蝿いっ!!私の兄さんに触るなっ!!この変態親父ぃぃぃっ!!!!」


ブォン……ゴグシャッ!!


「く、釘がっ!釘が痛いっ!止めて……止めてくれぇぇぇっ!」



ぐぎゃああぁああああああぁぁぁぁぁっぁあああああああああぁぁぁあああっ!!!!!!!!!





凄まじかった……

まさか、菘がここまでやるとは、思いもしなかった。

今、思い返しても寒気が……いや、考えるのはよそう。

終わったことを考えても、仕方が無い。

珠洲美だ。珠洲美に納得してもらわねば……!

その珠洲美はといえば、さっきから俯きっぱなしである。

しかも、何かをブツブツと呟いているようなのだ。


「……でも……そんな……いや……!」

「…………?」


もっと、よく聞こうと顔を近づけたら、珠洲美は急に目をカッと見開いて俺を見る。


「うわっ!?」


そして、瞬時に俺の両肩を痛いくらいに掴むと、顔を真っ赤にしてどもりながらこう切り出した。


「あ、あの!」

「は、はいっ!」

「私のお姉様になって下さいっ!」

「はいっ!……って、はいぃぃぃぃぃっ!?」


お、お姉様ってなんでしか?(誤字にあらず)


「ちょ、ちょっと珠洲美!何考えてるの、兄さんは男なのよ!?」

「関係無いの!……外見は問題無いわ。後は少し、化粧でもすれば……」

「い、嫌だぞ!俺は!」

「そんな……珠洲美は、レズだから安心だと思ってたのに……!」

「何ですか、その新事実は!?お兄ちゃんは知りませんでしたっ!」

「さあ、お姉さま……?私の部屋で、真の姿に戻りましょう?それはきっと素晴らしい事なのですよ?」


恍惚とした表情の珠洲美が、ゆっくりと、一歩一歩近づいてくることに底知れない恐怖を感じる。

そして、本能と理性が、全力で撤退することを推奨する前に、宗司は逃亡を始めていた。


「か、母さん。俺、もう学校行くから!後片付けよろしく!」

「あ、ちょっと兄さん!?」

「すまん、後は頼んだぞ!」


そう言い残すと、脇に待機させていた、鞄を引っつかんで玄関に飛び込む。

そして、素早くドアノブを引っつかんで回し、外に飛び出した。


「待ってくださいっ!お姉さまぁっ!!」


き、聞こえんっ!

俺には何も聞こえないぞっ!

そして、両耳を塞ぎながら、通学路をひたすら走る宗司であった。























全力逃亡の末、只今バスの中。

かろうじて、珠洲美の魔の手から、逃れることに成功した。

しかし、現状はよろしくない。

何故なら、今、痴漢にあっているからだ。

おい、俺が男だって事に気づいているか?

制服見りゃ分かるだろう?

触られても気持ちの悪いだけで、それ以外はなんとも思わないのだが、10分も続けばいい加減堪忍袋の尾も切れるって物だ。

穏やかに言ってやろうじゃないか。「男の尻触って気持ちがいいですか?」と。

そして、いざ言おうと口を開いたときに、後ろに居た男子学生が、痴漢犯に掴みかかっていた。


「おい、あんた!いい加減にしろよ!嫌がっているだろう!?」

「うわっ!何をするんだね!」


あはは……気のせいかな?

この男子生徒の声には聞き覚えがあるよ。

ついでに言うと、痴漢をしていた奴のも。

ゆっくりと、後ろを振り返ると、そこには怒った顔の文彦と担任教師である独楽野 宇木津(こまのうぎつ)の姿があった。


「ってお前は、宇木津っ!?あんた、何やってんだ!?」

「ふ、文彦君じゃないか。何ってただ学園にバスで向かっているだけだよ。」

「嘘をつけ!今、この子の尻を触っていただろう!?」

「い、言い掛かりは止したまえ!何処にそんな証拠が……!」

「君、触られていただろう?」

「あ、ああ、まあな。」


男の尻だけどな?


「ほら見ろ!教師がそんなことをしてもいいと思っているのか!?」

「ち、違う。彼女は出鱈目を言っているんだ!」


と言いながら、俺の目の前にビシリと人差し指を突きつける宇木津。

これには、流石にカチンと来た。


「……往生際が悪いな、宇木津?お前、前にも女学生に手を出して、俺に捕まったのを忘れたのか?」

「……は?お、お前は誰だ?私に君のような知り合いは……」

「君だと?気持ちが悪いな。いつものように、高倉と呼び捨てにしたらどうだ?」

「……高……倉……?お前が……?何を馬鹿な……」

「信じる、信じないは別として、どうだった?男の尻の触り心地は?」

「!?」


とたんに青ざめて、己の手を見つめたと思ったら、そのまま逃げていった。

つまりあいつは、女の尻を触ることにより、悦に浸ると言う変態さんなのだ。

男の尻に触ったことが余程、効いたらしい。

乗客にぶつかりながら、逃げていく様が余りに滑稽で笑いを堪えていると、横から呆然とした表情の文彦が、

我に帰ったのか、物凄い剣幕で、話しかけてきた。


「そ、宗司っ!?」

「ああ、そうだが?」

「……じょ、冗談きついなぁ!お嬢さん!」

「制服見て、男だと分からないか?」

「……宗司のエチィ本は、俺があげている、マルかバツか?」

「マルだ。」

「次だ。宗司はエチィ本を主に何処に隠すか?」

「……押入れだ。」

「そんな……そんな、馬鹿なぁっ!?」


グワンと、金ダライが、頭に落下したかのような音と共に崩れ落ちる文彦。

……芸が細かいなぁ。

っていうか、俺の判別方法が、全部エチィ本が決定打になっているのは何故だ!?


「お、学校に着いたな。……降りないのか?」

「……降りますよ。降りますとも!」

「……何、切れてんだよ?」

「だって、不細工じゃない宗司なんて、宗司じゃな……ガフウッ!?」

「死ぬか?」

「ゲホッ……謹んで……遠慮させて……いただきます。」

「んじゃ、行くか。」

「うう……。」


なにやら、さめざめと泣く文彦を従えて俺は校門をくぐった。





















前にも言ったと思うが、俺は視線が嫌いだ。

何故なら、小学校、中学校と影で、「キモイ」と言われ続けていれば、トラウマにもなろう。

それ故に、視線というものに敏感になった俺にとって、この集中豪雨にも似た視線の嵐は地獄といって差し支えないだろう。


「どうしたんだ、宗司。」

(……復活したのか)「……周りの視線がきついんだよ。」

「ああ、なるほどな。前から嫌がってたもんな……こういうの。」

「そういうことだ。」

「教室だと、どうなるかね?」

「…………。」


考えたくも無かった。























不安バリバリ、心臓バクバクである。正直、もう帰りたいです。

しかしながら、状況はそれを良しとはしない。

今、自分の席に座って待機しているのだが、隣の女子、鎌倉 霧葉(かまくらきりは)の視線を痛いほどに感じる。

そして、その視線は多くを語らずにこう告げているのだ。


(あんた誰?)


席替え当初に、最も渋い顔をしていた彼女ならではの驚き方だろうと推測する。

多分そろそろ、確認をするために声を掛けてくる……


「あ、あの……」


ほらきた。


「なんですか?」

「クラスを間違えてませんか?……後、その席は、あの……」

「高倉宗司のだって言いたいんでしょう?間違えてませんよ。」

「へ?……だって、その、あなたは……」

「顔が違うって?そりゃ、朝に起きたらこの顔ですからね。驚きましたけど。」

「……マジ?」

「マジです。」

「…………。」

「……鎌倉さん?」

「うえぇぇぇぇぇーーーーーっ!?」


絶叫。

皆、何事かと視線をこっちに向けると、俺を見て固まる。

文彦は何かを悟ったかのように、自分の席で空を見つめていた。

そんな中、いち早く我に返った香乃が、こっちに近づいてきた。


「宗司なの?」

「ああ、そうだよ。」

「……本当だ。宗司だね。」

「分かるのか?」

「何と無くだけど……ね。なんか分かるの。」

「それは、凄いな。」


菘といい、香乃といい、どうしてそんなに簡単に俺だと分かるのだろうか?

不思議でしょうがないな。

そんな事を思っていると、副担任である繭畑 詠美(まゆはたえいみ)が教室に入ってきた。


「は〜い!皆さん!席についてくださいね!」


しかし、皆は無反応。

一瞬、怪訝な表情を浮かべるが、気を取り直してもう一度、声を張り上げる。


「STを始めますから、席に着いて下さい!」


それでようやく、のろのろと動き出す。


「どうしたんですか?全く……宇津木先生も、急にお休みするって帰っちゃうし……」


今朝のあれのせいでか?

よっぽど堪えたらしいな。


「それはさておき、皆さん風邪ですか?他のクラスでは流行っているそうですから気をつけてくださいね。

 それでは出席を取ります……雨野君……」


気もそぞろな生徒たちの出欠席を上手い具合に取っていくその姿は、聖職者としては立派ではある。

実際な所、生徒たちの異変に気づけない鈍感先生の称号も見事に会得してしまっているが……


「高倉君!」

「……ハイ」

「?……あなたは?」

「高倉宗司ですが?」

「……代替でも頼まれたのですか?」

「違います。本人です。なんなら、DNA鑑定でもしてください。」

「……なるほど。さきほどから生徒たちの様子がおかしいと思っていたらあなたのせいだったんですね?」


おおっ!

これだけの情報でその事実に辿り着けるとは、やるな先生。

鈍感先生の汚名返上だな。


「まあ、いいです。連絡事項は特に無いので、好きにしててください。」


いやそれでいいのか?

って言うか、なんか様子が変だぞ。

そう思っていたら、さっさと教室から出て行ってしまった。

しかし、やはり動揺していたのか、数刻後に、廊下から詠美先生の「有得ないぃぃっ!!」という悲鳴が聞こえてきた。























ただ俺は、これらの出来事はただの始まりでしか無かった事をこの後に思い知ることになる。

しかし、いつも回りに振り回されてばかりいた俺にとって、今の振り回している状況は新鮮だった。

故に、楽しかった。

不幸ではない。

寧ろ幸福である。

だけれど、心の奥底で、何かが違うと叫んでいるのを見過ごすわけには行かなかった。

























「僕、君に興味があるなぁ。ねえ、名前を教えてよ。」

















 あとがき


お久しぶりです。

ACE3の発売が決まって、舞い上がっているU.Hです。

ようやく、第一話を書ききりました。

思っていたよりも、構成が練れずに悩みっぱなしでしたが、なんとか区切りがつきました。

次は、もっと上手く出来るように精進したいと思います。







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