「茶々丸、用意していた夕飯をタッパーに詰めて持たせろ。その間に、私はコイツと話をする。」





 茶々丸にそう指示を出して、エヴァはのどかを促し、ソファに再度座らせた。



「さて、宮崎のどか。貴様は、長谷川千雨をどう思っている?」



 のどかは不思議そうな顔をして首をかしげた。



「ふむ、では言い方を変えよう。貴様は、長谷川千雨の今後をどう思っている?」


「今後…ですか?」



 依然として怪訝な顔を浮かべたまま、のどかはエヴァの言った意味を考えていた。



「やつの殺し屋としての技量、戦闘能力は知っての通りだな?おそらく、私たちに見せた物でさえ、全力には程遠いだろう。やつの本当の意味での全力は私に匹敵するやもしれん。それも、気も魔力も用いない人間が、だ。」


「…何が言いたいんですか、エヴァンジェリンさん?」


「つまりだな、あいつは遅かれ早かれ、少なくともこの麻帆良に居る間に、また戦いに身を投じることになる、ということさ。否応なくな。」



 エヴァはぬるくなった紅茶を飲み干し、ティーカップを机の端に置き、再度のどかを睨むように直視した。



「今はまだ、あいつの脅威は麻帆良の魔法使いにはそれほど浸透していない。しかしそれも時間の問題だろう。この麻帆良に居る全ての魔法使いが、やつの敵に回ると考えていい。」


「で、でも千雨さんは、自分から手出しすることは…。」


「そんなのはやつの事情だ。麻帆良の魔法使いは、この学園都市を守るために活動している。そいつらにとって長谷川はどう見えると思う?間違いなく危険人物だ。そんな人間を野放しにしておけると思うか?」



 それにな、と溜め息を交えながら続ける。



「一度染みついた業からはそう簡単には抜け出せん。あいつの夢の中を見ただろう?あのおぞましい断末魔、凄惨な光景。例え誰が癒そうと慰めようと、一生そいつを苛んでいく。そして、自然とそういう場を引きよせてしまうものさ。まるで呪われているかのようにな。そしてまた―――――背負う物が増えていく。」



 その言葉にのどかは項垂れる。千雨の夢の中で見た、あの地獄の竈の中のような光景と怨嗟の声。それが一生千雨を苛み、苦しめてゆく。そしてまた、死と隣り合わせの日々を引き摺りよせ、彼女の抱える怨嗟が増えていく。それがまた彼女を苛む糧となる。彼女の命が果てるまで、延々とその繰り返し。
 それは―――――――正しく、地獄ではないか。



「貴様はあいつの心を救ったつもりかも知れんが、それは違うぞ。あいつは一生苦しむし、一生それを忘れられない。もちろん、あいつはそんなこと覚悟の上だろうが。例え平穏無事に暮らせたとしても、一生救われないんだよ、殺人者ってやつはな。」



 のどかは何も言わない。初めて知る殺人者の覚悟。あの夜電話越しに聞いた、「幸せになってはいけない人間」の意味。生きるために人間を殺し続けてきた人間が背負う罪業と運命。それは、平和な世界で過ごしてきた彼女にとっては、あまりにも凄惨過ぎるものであった。



「さて、その上で問うぞ、宮崎のどか。長谷川千雨は今後、間違いなくまた殺し合いの日々に身を投じることになる。またも人を殺すことになるだろう。やつの望む平穏など、未来永劫訪れない。それでも―――――お前は、長谷川千雨に付き合っていくつもりか?」



 それは「覚悟」を問う言葉。彼女が築く屍山血河を直視していく、その「覚悟」を。






 しかし、不思議と静かな心で、宮崎のどかはそれに答える。



「私は―――――――――――――――」










#10 愛と誠




 桜咲、龍宮との交戦後、のどかの提案で私の部屋でマクダウェルの用意してくれた晩御飯を食べることにした。
 香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。タッパーには焦げ目まで美しく焼けている一枚肉を中心に、彩りを添えるサラダと、柔らかそうなパンが入っていた。



「この鶏肉の香草焼き、絡繰さんの自信作だそうですよ?まだ暖かいですから、早く食べちゃいましょう。あ、絡繰さんから伝言です。『毒は入れてないのでご安心を』だそうです。」



 …ということは、考えつきはしたんだな。別に私に敵意を燃やすのは構わないが、そんなどこぞの砂の星みたいな殺伐とした思考は持ち合わせないでほしい。


「いただきます!」


「…いただきます。」



 手を合わせ、ナイフを使って肉を切り分け、口に運んだ。肉汁とソースがからみ合って、非常に美味しい。さっきまであまり食欲なかったけど、不思議と胃に入って行った。
 のどかも美味しいですね、と喋りかけてきながらパクパクと食べている。





「…さっきは済まなかったな。迷惑掛けた。」


「ふふっ、まさか私が千雨さんを助ける側に回る日が来るとは思いませんでした。」


「そういや、あいつら結界がどうたらとか言ってたが、どうやって入ったんだ?」


「エヴァンジェリンさんが出るときに、結界をすり抜ける符を持たせてくれたんです。そのうちあいつが襲撃された時に、私だけでもすぐに脱出できるようにって。」





 それはナイスタイミングだったな。まさかマクダウェルもそんなすぐに使われるとは思ってなかっただろうが。



 ご飯を食べ終え、食器を洗ってから茶を淹れる。マクダウェルのところで出た美味しい紅茶の後で市販の緑茶を飲むのは、ちょっと気がのらなかったが、こればかりはしょうがない。お盆の上に緑茶入りのコップを乗せて台所から運び、のどかの前に置いた。
 私は、のどかの真正面に座った。そろそろ、本命の話題を切り出す頃合いだろう。



「…それで、何があったんですか、千雨さん?」



 のどかが真剣な面持ちで聞いてきた。気付いているのだろう。私が、気付いてはいけない何かに気付いたことに。それはきっと、とんでもない爆弾であることに。そうでなければ、自制心を失って桜咲と龍宮を打ちのめしたりはしないはずだ。
 …話さないわけには、いかないんだろうな。



「…のどか。これから私が話すことは、何の確証もない、単なる憶測だ…。だが、これが正しければ、全てのことに説明がつく。その代わり、最悪の現実でもある。それでも聞きたいか?」



 のどかが静かに頷く。その眼にはいつか電話越しに見せたあの力強さが宿っていた。
 私はゆっくりと話し始める。その、最悪の予想を。










 20分くらい経っただろうか。あらかた話し終わり、正面ののどかの顔を見ると、恐怖に打ち震えたような青ざめた顔をしていた。とりあえず話し疲れたので、冷蔵庫の飲み物を取りに行く。2人分のコップと共にリビングに戻り、のどかの正面に飲み物を置いた。
 互いに飲み物を啜りながら、しばらく無言の時が続いた。



「…何か、感想はあるか?」



 沈黙に耐えかね、私から話しかけることにしたが、どうしても変な聞き方になってしまう。



「…何て言ったらいいんでしょうね。怖いというか許せないというか…。でも多分、千年の恋も冷めた、っていうのは、こういうのを言うんでしょうね。」



 のどかの言葉から沈み切った感情がありありと伝わってくる。その反応に私自身も項垂れる他無かった。予想していたこととはいえ、こんな悪辣な事実を告げられてショックを受けないやつはいないだろうし、親友の恋を自らの手で潰してしまったのだからなおさらだ。



「…ゴメンな、お前の恋まで潰しちまった。でも、ネギ先生を恨まないでやってくれ。あの少年は何も悪くない。利用されてるだけなんだ。」



 そう言うとのどかは、ふっと弱弱しい笑みを浮かべ、こう言った。



「…大丈夫です。ネギ先生への恋心は、もう無くなってましたから。」



 それは、正直意外すぎる言葉だった。驚いた表情を浮かべている私を見て、のどかは続ける。



「…あの桜通りの夜、ネギ先生が千雨さんを助けてくれてたら、って、今でも思うんです。きっと千雨さんは、それまでと何も変わらず、平穏な日々を過ごせていたんだろうって。そう思うと、いつも腹立たしく思うんです。先生なら、生徒の安全を優先しろって。もちろんネギ先生が全面的に悪いわけじゃないんですけどね。」



 そこまで言うと、のどかの顔から笑顔が消え、また電気が切れたような沈痛な表情に戻った。



「―――――けど、それも時間の問題だったんですね…。酷すぎます、私たちをチェスの駒か何かだとでも思ってるんでしょうか。そんなことのために、私たちの人生はあるわけじゃないのに!」



 最後は拳を握りしめ、精一杯の激情をこめて叫んでいた。思えば、のどかがここまで怒りを露わにするのは初めて見る。しかしその気持ちは痛いほどよく分かる。それほどこの計画は悪辣極まりないし、何より私も当事者の一人だ。私がのどかの立場なら、そこらへんの壁や鏡に思いっきり拳を叩きつけていたに違いな い。


 しばらくの沈黙の後、口を開いたのはのどかだった。


「…千雨さんは、どうするんですか…?」



 ―――――私は、か。
 私の背負う怨嗟と一生付き合い、それでも長谷川千雨としてやっていく、平穏な人生を送る、その決意が固まった矢先にこれだ。やはり一度入った畜生道からは抜け出せるものではないらしい。
 ―――――でも、それでも、これだけは譲れない。譲ってはならない。


「間違いなく、この真相に気付いてるのは私だけだ。そしてこのまま放っておけば、取り返しのつかないことになる。」


 そこで私は一息置く。溜め息はつかない。









「私が―――――やるしかないだろう。この馬鹿げた計画をぶっ潰す。」








 この計画は間違いなく、麻帆良の上層部の連中が外部の何者かと結託して建てた、かなり長期にわたる計画だ。そして私たちはその計画に必要不可欠な、しかも無自覚のまま生贄に捧げられる人柱だ。例えるなら私たちは、狼を育てるエサとなる牧場の羊だろう。牧場の柵は壊され、狼はすでに侵入している。後は、豪勢なディナーとなるのみだ。









―――――上等だ。柵の中にいるのが羊だけだと思うなよ。羊の皮を被った悪魔の恐怖を、その身に刻んでやろうじゃねぇか―――――!









 まずは武器をどうにかしなければならない。こうなったら本格的に、シルヴィアの代わりを手に入れる必要がある。それに拳銃とか、その他の武装も欲しいところだ。
 そこで、ふと、気になる音が鼓膜を打った。素早くのどかの方に目を向けた。






 のどかは、泣いていた。






「お、オイ!どうしたのどか!!」



 慌ててのどかの傍に駆けよった。のどかは嗚咽こそあげていないが、静かに泣き続けていた。



「何で…っ!」



 小さくしゃくり上げ、瞼をこすっている。



「何で、またっ…!千雨さんが、戦わなくちゃ、いけないん、ですか…!?」



 私が―――――?



「千雨さん、せっかく血で血を洗うような日々から解放されたのに…。平穏無事に過ごしてたのに…。それを自分から捨てなきゃいけなくなるなんて、そんなのあんまりじゃないですか!千雨さんにだって、平穏な日々を過ごす権利が、あるはずじゃないですかっ…。」



 そう言ってまた泣きぬれるのどか。
 ああ、本当に―――――いい女だなぁ、こいつは。
 私がまた戦いの日々に戻ることを、誰よりも、私自身よりも、悲しんでくれている。私がまた傷つくことを、心配してくれている。
 泣くのどかの頭を撫でながら、言葉をかける。


「…大丈夫だよ、のどか。薄々感づいてはいたんだ。何か厄介事が襲ってきそうだって。ある程度覚悟はしてた。また、戦わなきゃいけないことは。それに、私以外戦える人間はいないだろ?」


「分かって、ます。千雨さん、以外、この計画を、阻止できる、人間は、いないって。だからこそ、余計に、悔しいんです。不甲斐ないん、です。
 …エヴァンジェリンさんが、言ってました。『殺人者は一生救われない、呪われたように戦いの日々を引き寄せる』って。でも、私は、そうは、思わない。千雨さんが、どんな過去を、背負っていようが、平穏を謳歌する、権利くらい、あるはずです。でも…。」



 そうか、マクダウェルがそんなことを言ったのか。おそらく私が家を出てからそういう話をされたんだろう。あいつの言うとおりだ。畜生はどこまで行っても畜生でしかない。
 ああ、全く―――――至言じゃないか。大いに見直したぜ、マクダウェル。



 私はその言葉に何も返答しなかったが、それこそが私の答えを何よりも雄弁に表していたのだろう。のどかが悲しげな表情を浮かべ、俯いた。



「…千雨さんは、平穏を捨てるんですか…?」



 平穏。私が求めてやまなかった宝。殺して、奪って、傷つけて、殺されて、ようやく得ることが出来た、大切な物。
 ―――――それが、こんなにも脆く儚い物だったなんて、信じたくなかった。



 でも。それを諦めてでも、手に入る物があるのなら。



「…捨てたくはないよ。けどさ、それで守れるものがあるんだ。安いもんだ。」



 精一杯の笑顔を浮かべ、のどかの頭を撫でた。のどかは少しの間されるがままにしていたが、突然一歩下がり、何かを探すように辺りを見回した。そして、ある一点を見たかと思うと、そちらの方へずんずんと歩いていく。
 そして、のどかがそれを手に持ったのを見た。






「千雨さん。」





















『私は―――――千雨さんと共に戦い、生きていく覚悟なんてありません。』


『何―――――?』


『怖いからじゃありません。嫌いだからでもありません。望まれていないからです。戦うことを。
 きっと千雨さんは誰よりも戦うことが嫌いです。戦う姿が嫌いです。戦う自分が、嫌いです。それは、千雨さんにとって、戦うことは殺すことに他ならなかったから。戦わなきゃ、殺さなきゃ、自分が死ぬだけだったから。そんな想いを、私にしてほしいと思うはずがありません。』


『……………』


『単なる逃げだと思っていただいて構いません。実際単に自分に対して言い訳しているだけかもしれません。だけど、これが私の戦いです。戦わないことが、私の戦いなんです。』


『ほう…その心は?』

























 私は、止めることも出来ず、












 のどかが、ハサミで自分の前髪をばっさり切るのを見た。










 絶句、とはまさに今の自分の心境を言うのだろう。口をポカンと開けたまま、のどかの暴挙をただ眺めているだけだった。一通り切り終えた時には、机の上にはのどかの髪の毛が散らばり、鏡もない状態で適当に切っているだけなので、散切り頭のようになってしまっていた。女の子としては致命的だぞ。明日からどう 生きていくつもりだ!?



「お、おい、のどか…。」


「これは、私なりの決意の証です。」



 その静かな声に、続ける言葉を失う。声に潜む強い意志。先ほど龍宮を怯ませた、隠すつもりのない強い感情が、今、私一人に注がれていた。



「私は、戦えません。戦う力も無いし、支える頭脳もないし、度胸も覚悟もない。足を引っ張るだけです。それに、私が戦いの場に出ることを、千雨さんは望んでいません。」



 当たり前だ。何のために戦っているのか分からなくなる。



「でも、足手まといは嫌です。全てを知って、千雨さんだけ戦わせて、自分だけのうのうとしていられるほど、私は腐っていません。だから、せめて―――――――――」















「―――――千雨さんの、帰ってくるべきこの日常を、何よりも大切なこの平穏を、守らせてください。そして、必ず私たちのところへ帰ってきてください。私は、千雨さんの帰ってくるこの場所で待ちます。何一つ変えることなく、守り続けて待ち続けます。」















「千雨さんの大切な物(へいおん)は私が守ります。だから、千雨さんは、一人で抱え込まないでくださいね?辛い時はいつでも帰ってきて、私に辛いこと全部ぶちまけてください。千雨さんは一人じゃありません。私にも、少しくらい背負わせてください。」



 ぐっと目頭が熱くなるのを感じた。駆け寄り、のどかの矮躯を抱きしめた。
 ホントにこいつには泣かされてばっかりだ。何でコイツは、私の心の不安をピンポイントで取り除いてくれるのだろう。
 のどかは抱きすくめられたことに一瞬驚いたようだったが、すぐに両手を私の後ろに回してきた。のどかの全身の温もりが伝わってきて、不思議と心安らかな気分になった。



 子供の頃憧れた、テレビの中のヒーロー。泣き叫ぶ子供と残虐非道な悪の怪人。颯爽と駆け付けたヒーローは、目の前の敵を倒すことよりも、泣き叫ぶ子供を安心させることを優先させていた。誰かが言っていた。ヒーローとは、悪を倒す者のことを言うのではない、弱き人の心を救う者のことを言うのだと。
 ―――――そして今、私が抱きしめているこの小さな体の同級生は、私にとってのヒーローだった。のどかにとってのヒーローは、私だったかもしれない。でも、私にとってのヒーローは、のどかだった。



「…ありがとう。辛い役目任せちまうな。」


「…確かに、辛いかもしれませんね。でも、絶対に後悔しませんし、挫けたりしません。千雨さんの親友の名にかけて、この役目を全うすることを誓います。」



 ゆっくりとのどかの体から離れ、互いに笑顔で見つめ合った。前髪をばっさり切った彼女の瞳に、私の顔が映り込む。のどかも、私の目に映る生まれ変わった自分の姿を見ているのだろう。
 大丈夫だ。コイツになら、安心して私の背中を任せられる。



「―――――このふざけた計画、二人でぶっ潰してやろうぜ、“相棒”」


「もちろんです!好きにさせてたまるもんですか!」



 後ろの心配はしなくていい。私は眼前の敵だけ見据えていればいい。
 私の居場所は、頼りがいのあるパートナーが守ってくれる。





 さあ、まずは――――――――相棒の髪形を、まともにすることから始めようか。




side out




「…上機嫌ですね、マスター。」



 食後の紅茶を淹れながら、茶々丸がエヴァに話しかけた。エヴァはのどかを送りだしてからずっと上機嫌で、不気味な微笑を浮かべ続けていた。



「ククク…まあな。非常に有意義な時間だった。宮崎のどかめ。あれほど強い人間だとは思いも寄らなかった。感心したよ。」



 長谷川千雨にとっての平穏を守る、それが自分の戦いだと、彼女は言った。それは、長谷川千雨に未来永劫平穏は訪れないと断言したエヴァンジェリンを、完全に否定するものだ。エヴァンジェリンにはそのことがたまらなく愉快だった。



「いや、全てはその中心にいる女―――――長谷川千雨の賜物か。面白い女だ。何もかもを引っ掻き回し、混沌と戦乱を呼び込むか。そしてすでに私たちもその渦の中に飲み込まれている。特に茶々丸、お前は手遅れだと言えるな。」



 笑みを絶やすことなく、エヴァは傍らに立つ従者に目を向ける。千雨の話題が出た瞬間、茶々丸は全身から怒りと悔しさの入り混じった感情を立ち昇らせた。それがまた、エヴァの享楽心をそそり立たせる。



「オ、ドウシタ妹ヨ。随分ト殺気ヲ漲ラセテルジャネェカ。ケケケ。」



 突如会話に割り込んできたのは、エヴァの従者たる殺人人形、チャチャゼロである。



「ああ、チャチャゼロ、お前も魔法球での茶々丸の戦闘訓練に参加しろ。茶々丸に近接戦闘を教えるついでに、お前も勘を取り戻しておけ。だいぶなまってるだろうからな。」


「オ、殺シ合イカ?ヒョットシテ夕方ニ来タ、ゴ主人ヲ殺シカケタッテイウ女カ?戦エルノカ?」


「ああ、やつは間違いなく、近いうちに私たちと戦うことになる―――――桜通りの時とは比較にならない、全力での殺し合いだ。なまった体のままでは、一瞬で跡形も無くなるぞ?」



 エヴァがそう口にした瞬間、チャチャゼロは狂ったように哄笑を始めた。


「ケケケケケ!!ソリャイイ!!最ッ高ニ楽シイ戦イにナリソウダナ!!コウシチャイラレネェ、今スグニデモ訓練シヨウジャネェカ妹ヨ!!」


「はい、それはもちろんですが、姉さん?長谷川さんは私の獲物です。殺し合うなら一番手は譲ってもらいますよ?」


「――――ケケケ、本当ニゴ執心ダナ妹ヨ。ダガ、ソイツハ譲レネェナァ。アリトアラユル敵ヲ切リ刻ムコトガ、オレノライフワークナンダヨ。スッコンドケ。」


「―――――仕方ありませんね。姉妹逆転といきましょうか。」



 その言葉を最後に、二人ともリビングから出ていった。
 後に残されたエヴァは、満面の嬉悦の相を浮かべ、いつ来るか分からない、されど必ず来るであろう戦いを夢想していた。
 久しく味わっていない、真の闘争。それが、もうすぐやってくる。










 戦争が、始まる。
 そして、歴史が動き出す。












(後書き)

 第10話。燃え上が〜れ〜ガン○ム〜♪回。ちなみに次話のサブタイはガンダムです。



 何か都合良過ぎる気もしますが、ご都合主義と主人公補正を抜いたら創作活動なんて成り立たないぜ!と開き直ってみます(爆)



 後、千雨もエヴァも、別にネギを無視してるとか蔑ろにしてるとかそういった事は一切無いです。千雨はネギも被害者の一人だと考えていますし、エヴァもネギの血無くして麻帆良は脱出出来ないわけですので。ただしネギとの決闘は、エヴァにとっては前菜扱い、メインディッシュは千雨に定めています。…いや、ネギの血をもらうってことは、食前酒扱いか?



 今回のサブタイはまたもやアリプロ。「愛と誠」はアルバム「Dilettante」と、「Grand Finale」に収録されています。バージョン違いなので、両方聞いてみて下さい。特にGrand Finaleはスゴイ。



 それでは、また次回お会いしましょう!

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