魔法世界流浪伝




















第5話 襲われる流浪の旅人



あれから数日。
相も変わらず光司は世界を転々として世界を旅し続けていた。
管理、管理外、人が住んでる、住んでないに関わらず色々なところをだ。
と言っても、この数日間で回れたのは2つだが。
光司が人が住まないところにまで回るのは訳がある。
人の住めない環境は別にして、その世界を回るのは単純な自身の鍛錬のためである。
いかに人を助けるとはいっても、それは実力が伴ってこその話。
だからこそ、自分を鍛えなおすために定期的にこういった世界を訪れ、大型生物や竜種などを相手にする事をしているのであった。
今回訪れているのは、その世界。
単純に自然資源が豊富または人工物がないような世界に来ている。
数日単位で基本世界を移動している光司だが、この世界には1月程いようと考えているのであった。
そうして、荒野を1人歩いていたのだったが、すぐに気配を感じた。
振り返ると、そこにいたのはピンクの髪をポニーテールにした女性。
出で立ちは如何にも騎士といった感じで、右手には剣型のデバイスと本を持っていた。

「見つけたぞ」

光司にはその出で立ちに見覚えがあった。

「その姿にその本……闇の書の騎士か」

「如何にも。悪いが、貴様の魔力ここで頂く」

「……どうやら僕はとことん運が悪いようだ」

(一度ならず二度も遭遇する事になるとは……)

嘆息すると、光司はデバイスとバリアジャケットを展開。
戦闘態勢に入り、目つきと気迫が変わる。
それを見、受けたピンクの髪の女性「シグナム」は、一瞬震える。

(!……なるほど。ヴィータから聞いてはいたが、思った以上の魔導師のようだ)

だが、それはヴィータの物とは違い、武者震いだった。
強敵と戦える。
それが嬉しくてシグナムにはたまらなかったのだ。

「……いくぞ!」

自身のデバイス「レヴァンテイン」を持ち、シグナムは光司に踊りかかった。
光司は、それを抜刀術で振り返ると同時に受け止めるのだった。























2人の戦いは苛烈を極めていた。
互いに当たれば一撃必殺とも取れない剣戟を高速で繰り出す。
しかし、シグナムはその中で相手の技量に内心驚嘆していた。

(くっ……!ヴィータに聞いた通り、速い……!空中戦のため魔法を使っているとはいえ、スピードがテスタロッサに勝るとも劣らないレベルだ。これが本当に 魔力Bランクの実力か!?)

互いにすれ違う度に剣戟が交じり合う。
しかし、シグナムは速さだけでは知っている敵とほぼ同等だと思ったが、技量に関してはそうではなかった。
すれ違ったと思った相手が、いきなり切り返して、下から逆袈裟の一撃を切り上げてくる。

“光天閃”

「くっ!」

ガキィン!!

かろうじて剣を振るって防ぐも、剣圧までは防げずシグナムの肩に傷が走る。
だが、それで手を緩める光司ではない。
鋭い眼光が光ると共に、今度は上から唐竹の一撃。

“光墜閃”

しかし、その追撃はさすがに当たらず、シグナムは後方の飛ぶ事でその攻撃を回避した。
互いに離れたところで、剣を構える。

「貴様、名は何と言う」

シグナムの言葉に光司は鋭い声で答える。

「……流浪の旅人、天城光司だ」

「天城……か。その実力、驚嘆に値する。攻撃魔法や防御魔法に頼らず己のデバイスによる剣戟や攻撃で戦う。ヴィータから聞いていた通りだ。峰打ちなのが少 々疑問ではあるが」

正直、ヴィータから聞いてはいたものの、本当に予想外だった。
攻撃や防御に魔法を使っていないにも関わらずこの攻撃力とその速さ。
何より自分ですら押す剣の腕前。
どれもが予想外で強かったが、シグナムにとってこれほど嬉しい予想外はなかった。

「ヴィータ……。あの鉄槌を持った少女か」

だからこそ、言う。

「ああ。だから、ここからは全力でいかせてもらう。闇の書の騎士が将シグナム!参る!!」

その瞬間、シグナムの剣から炎が立ち上がった。
その炎は瞬く間に剣を覆う。

「炎熱変換性質か……。来い」

光司が刀を納刀し抜刀術の構えを取る。
その言葉と共にシグナムが飛び出した。
高速で接近し、一気に剣を横薙ぎに振るう。

「紫電一閃!!」

互いに渾身の一撃を放つ。

ガキィン!!

しかし、その一撃は互角。
互いに振った一撃は一度交わった後、すれ違った。
だが、それで終わりではなかった。

“2段抜刀術 相光閃”

光司のデバイスの一部である鞘がシグナムに襲い掛かっていたのだ。

ガキィン!!

決まったかと思われたそれは決まってはいなかった。

(こっちも鞘!!)

咄嗟にシグナムが引き上げた鞘が振るわれた鞘をかろうじて防いでいたのだ。
互いにこれ以上の一撃が出せないとわかると同時に飛び退る。

「まさか相光閃を防がれるとは思わなかった」

「私も、まさか2段構えの抜刀術で来るとは思わなかったぞ」

そう言うと、互いに油断なく構える。

「はああああっ!!」

「───!!」

そしてまた再び剣を構えて同時に飛び出した。


























さらに戦闘から数分後。
その戦闘に徐々に変化が現れ始めていた。

「はあああ!!」

シグナムが切りかかり、それと同時に光司も切りかかる。
しかし。

ドガッ!!

「ぐはっ!」

シグナムが受けたのは蹴りだった。
蹴りを喰らわせた光司はそのまま足を振り切り、シグナムを地面に叩きつける。
斜めから地面に突っ込んだシグナムは、受身を取っておりすぐに態勢を立て直して立ち上がり、剣と鞘を構える。
そう、変化が現れたのは光司の戦法だった。
剣や鞘だけでなく、それを利用した蹴りなど変幻自在の物に切り替えてきていたのだ。

「……刀を振りかぶっているからといって、刀が飛んでくるとは限らないぞ」

「……くっ!」

シグナムはその言葉に歯軋りする。
確かにあの時シグナムは間違いなく刀が飛んでくると思った。
その裏を見事にかかれてしまったのだ。
何せ足が飛んできたのは剣を構えていた右側。
さすがに鞘を防御として使っているとはいえ、持っているのは左側。
いきなり不意打ちで飛んでくる右側の蹴りはすぐには防げない。
しかし、間合いはまだ離れていない。
追撃として光司が今度は横薙ぎの一撃を振るってくる。

(っ!この間合いでは避けきれない!)

回避しきれないと悟ったシグナムはすぐに反応する。
選択したのは剣によるガード。
放たれた抜刀術をすかさずシグナムはレヴァンテインでガードしようとした。

スカッ!

しかし、ここでまさかの事が起きた。
相手の攻撃した右手に刀がなかったのだ。

(っ!これは!?)

いつの間にか刀がなくなっていた一撃に目を剥くシグナム。
だが、本命はここからだった。
その刀は既に光司の左手に握られている。

(!!まずい!!)

鞘のガードすら間に合わない。

“光環閃 虚”

「がはっ!!」

容赦なく横薙ぎされた一撃は、シグナムの横腹を捉え、彼女をそのままの勢いに吹き飛ばす。
地面を転がるシグナム。
だが、それで身をまかせるような愚行は犯さず、すぐに体を回転させてシグナムは距離を取った。
しかし、肩は上下し、既に息を切らせている。
対する光司はまだ息を切らせるには至っていない。

シグナムは既に状況把握と次の一手を考えていた。
既に先ほどの一撃も加えて、あちこちに傷を負っている。

(……先ほどから徐々に速さを上げられている。目で追えない物が出てきた。加えて、先ほどの一連の変幻自在の動き。これは、もう目で追えない。これ以上の 戦闘は厳しいか……)

一方、光司も今までの戦闘を反芻した上で、相手がどう出るか思考していた。

(速さを徐々に上げてはいるのに、よく付いてきている。虚まで出さなければ有効打にならないくらいだ。……しかし、こちらの動きに対応できなくなってき て いるのも事実。速さを後1段階上げれば、恐らくもう付いて来れない。だが、それは相手もわかっているはず。……狙いは、まだ出していない手による一撃必 殺…さて、どうくる?)

油断なく無形の位で構える光司。
対するシグナムも剣と鞘を構えている。
少しの間、その状態で拮抗していたが、シグナムが動いた。

「レヴァンテイン!カートリッジロード!」

〈Explosion〉

剣から薬莢が排出される。
すると、剣の形態が変化していく。

〈シュランゲフォルム〉

変化した末に出てきたのは、連結刃。
光司はそれを以前数える程だが、目にした事はある。
剣としては中距離攻撃を得意とする、珍しい反面扱いが難しい物だ。

(……なるほど。間合いの外からの攻めで圧倒する気か)

相手の思惑をそう判断し、刀を握る光司。
シグナムもそれに呼応するかのように剣をしならせ、一気に振るった。

「飛龍一閃!!」

変幻自在の一撃が放たれた。
まるでうねる様に連結刃が光司に襲い掛かる。
その時光司が刀を振り上げながら、呟いた。

「スラッシュモード」

〈転換(コンバート)〉

デバイスから呼応のボイスが流れた瞬間、振り上げていた刀が白い大刀へと変化した。
鞘や円輪も消え、柄も唾もない無骨な形へと変化する。
シグナムはそれに驚きはしたが、既に一撃を放っていたため光司目掛けて剣を操る。
そして、切っ先が光司へと吸い込まれるその瞬間だった。

「ふっ!!」

裂帛の気合と共に刀が振り下ろされたと同時に、途轍もない巨大な斬撃波が発生した。

「───!!」

それが迫っていたシグナムの連結刃を衝撃で吹き飛ばし、飛ぶ斬撃が彼女の腕を掠めて通過していく。
驚愕の事態に、シグナムは回避も防御もできず目を見開くだけに留まっていた。
そして、斬撃波が治まった頃、地面には深い亀裂が入り、シグナムのバリアジャケットの袖は切り取られ、掠めた肌からは血が滴っていた。

「……っ何だ?今のは」

かろうじて出せたのはその言葉。
それに応じて光司は大刀を担ぎ、シグナムの質問に答える。

「光牙天空」

「……それが、先ほどの技か?」

「ああ。僕のデバイスの刃先一点に集中させた魔力を斬撃と共に一気に放つ事で斬撃そのものを巨大化させて飛ばす、剣技と魔法を複合させた僕だけの技だ。ス ラッシュモードにはこの機能が搭載されているため、このモードでのみ使用する事ができる。この技には基本魔力を集中するだけでいいから魔力は少なく てもできるし、個人的には砲撃系に劣らないとも思っている」

「………!」

なるほど。
確かにそれなら、飛龍一閃が弾かれたのも納得できる。
小細工や間合いすら吹き飛ばす一撃必殺の魔法。
これを見せられたシグナムは思わず戦慄した。

「1つ言っておくが、この技は加減が難しい。このまま続けるなら、次はその腕では済まなくなる」

鋭い眼光でそう宣言されたシグナムは意図せず一歩後退してしまう。
撤退する。
そう考えた時だった。
不意に光司が行動を起こした。
何故かいきなり体を捻って回転させると同時に何もいないはずの背後へ攻撃を仕掛ける。

“光環閃”

その瞬間、いつの間にか光司の背後で手を先ほどまで光司のいたところへ突き出していた仮面の男がカウンターを受けて吹き飛ぶ。
その男は頭部に攻撃を受け、地面に転がった。

「ぐぅ……」

頭部を抑えて仮面の男はすぐに起き上がる。
仮面は先程の攻撃で皹が入っていた。
その証拠に当たった箇所を片手で抑えている。
いきなりの乱入者を察知していた光司は殺気を込めた眼光で仮面の男を睨む。

「……誰だ、おまえは。闇の書の騎士ではないな」

「くっ……」

だが、シグナムはこの仮面の男に見覚えがあった。

「貴様は!」

「顔見知りか?」

声を荒げたシグナムにそう反応した光司の言葉に、彼女は頷く。

「あ、ああ。以前一度私に蒐集を勧めてきた男だ。正体は私も知らないが……」

「……そうか」

その言葉を聞いて光司が視線を戻すと、仮面の男がそこで初めて口を開いた。

「っ……まさかこの俺のステルスを見破るとはな」

「……殺気と気配が丸出しだ。それで隠れていたつもりだったか」

「くっ……」

すると、男の足元に転移魔法特有の魔法陣が現れる。

「逃がさん!」

一足飛びで光司は間合いを詰めると、刀を振り下ろす。
しかし、一瞬遅く男の姿は消え、手応えもなかった。
辺りを静寂が包む。
振り下ろした刃を光司は引き上げ、大刀を肩に担いで振り返る。

「どうする?また、やるか?」

しかし、シグナムはそこで首を振った。

「いや、やめておこう。今お前に勝つのはさすがに無理なようだ」

だが、シグナムの目はどこか燃えていた。

「だが、次に会うときは私が勝つ」

その言葉に、光司は苦笑した。

「そうか……。こちらとしては、戦うのはごめんなんだがな」

その言葉にシグナムはフッと笑うと、転移魔法によりこの世界から撤退して行った。
それを見て、光司もデバイスとバリアジャケットを解除する。

「……僕の知らないところで色々起きているようだな」

だが、出元がわからない以上光司には手の出しようがなかった。
あまりにも情報が少なすぎる。
それにあいにく自分から戦いに赴く性分でもない。
昔は状況や思いがあったからこそ、そうしていた時期もあったが、その時期が過ぎ去って以来そういう事はしなくなっていた。
管理局ならば、その事態を認知している可能性もあったが、あいにく光司はもうあの組織とは関わりたくなかった。

「ぐだぐだ考えても仕方ない。僕は僕で、目の前の人達を助ける事に専念するか……」

そう呟くと、置いてきた荷物を担ぎ、光司は1人荒野へと消えていった。
これ以降、光司の知らないところで闇の書に関する事件は解決され、これ以降光司がその守護騎士達と戦うという事はなくなった。
そして、光司が彼女達と再会するのはこれより10年も先の話である。





















あとがき

6話でまとめてします。



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