予想以上に上手くいったな。最も苦労すると思っていた九尾の人住力が、こんな手で心を惑わすとは…。クク……本来なら、血継限界のガキを使ってイタチの弟、日向の姫、もしくはあそこにいる小娘のいずれかを殺し、人柱力を混乱させ、暴走させる手筈だったが……。

 まさか、あの血継限界のガキが人柱力の『友』だったとは…。あそこまで動揺するとは思わなかったぞ。本当に面白いガキに育ったものだなぁ…四代目よ。それに、鬼人を殺さずにこっちに付ける事が出来たのも大きいか。はじめは邪魔になると思い、血継限界のガキを差し向けたが…。クク……霧隠れの鬼人も所詮は人の子だったという事だな。

 戦況も悪くない。人住力は混乱して動けず、イタチの弟は血継限界のガキと戦っているが、写輪眼を開眼していない今ならば勝負は目に見えている。そして、最も邪魔だったはたけカカシも鬼人との戦いで手が塞がっている。クク……ハハハ!これで九尾は俺のモノだ。十二年前に忘れていった物をここで貰って行く。

 霧が出ていつもより暗い森の奥で、仮面を付けた男が嗤う。だが、それに気付く者はいない。

▼ ▼ ▼ ▼

 鉄と鉄とがぶつかり合い削り合うような音を立て、俺とカカシは切り結ぶ。俺は相棒の首斬り包丁、カカシは忍びならば誰もが持っている普通のクナイだ。

 首斬り包丁をここまで駆使しても倒せないとはな……。流石はコピー忍者のはたけカカシ、というところか。…ならば!

 カカシの胴を両断しようと首斬り包丁を横に薙ぐが、それをカカシは後ろに跳んで回避する。だが、本当の狙いは距離を開けて術を行使する時間を稼ぐ事だ。

 複雑だが、もう何万回と組んだ印を組んでいく。

≪霧隠れの術≫

 今度の術は風遁でも吹き飛ばせないぞ、カカシ。それくらいチャクラを練り込んだからな。

(また、霧隠れの術か。俺に同じ技は効かないぞ、再不斬。≪影分身の術≫)

 カカシの気配が複数になったな…おそらくは影分身か水分身。そして、風遁ではこの霧を吹き飛ばせない事を理解した、か。…だが、それだけじゃ俺を殺す事は出来ないぞ、カカシぃ!!

 この霧の中を音を立てないで移動するお前は優秀な忍びだろうが、俺様も霧隠れの鬼人、無音殺人術(サイレントキリング)の達人と言われた忍びだっ!

≪水遁・千針の術!≫

 霧に含まれる水分を針にして霧の中をそれで張り巡らす。それも、俺の場所以外に。術発動から三秒もしない内に分身は針に削られて消え、カカシ本体にもダメージを与えた事が分かる。血が地面に落ちる音がするからだ。

 さて、それじゃトドメと行こうか、カカシ。首斬り包丁を下段に構え、血の音がする場所に瞬身の術で移動する。そして、それと同時に首斬り包丁を振りおろす。

「くっ!」

 カカシの背を切り裂いたが手応えは浅かった。咄嗟に前に一歩踏み出してダメージを軽減したか……。カカシが振り向きざまに、俺の頭を狙ってクナイを投擲してくるが、右に首を傾ける事でそれを避け、瞬身の術で距離を取る。

 油断や慢心はしないぞカカシ、お前の目はまだ死んでねぇ。なら、最後まで俺も俺の戦闘スタイルを貫くまでだ。

▼ ▼ ▼ ▼

 カカシ先生と再不斬っていう怖顔の忍者との戦いは、この霧で見えないしサスケ君とあの仮面を被った少年との戦いは意味分かんないし、もうどうすればいいのよ!!

 サスケ君があの少年に向かって駆けて行ったら、急に二人の周りに鏡みたいなモノが現われて二人を囲んでしまった。かろうじて鏡と鏡の隙間から二人の状況は分かるけど、サスケ君が押されている事しか分からない。

 だって、鏡が出てきたと思ったらあの少年ってばいなくなってたし、それに合わせてサスケ君が千本で攻撃されてるのが見えたんだもん。

 それに……ヒナタはさっきからナルトの傍でおろおろしてるし、ナルトに至ってはそこで呆けてるだけ…。

「何やってんのよ、あんた達!サスケ君がピンチなのよッ!ナルトッあんた強いんでしょ!?なら助けに行ってあげてよ!ねぇ聞いてんの!!」

 私が声を張り上げても、いつもなら冷やかな目で見て来るナルトが何の反応も返さない。

「何で?どうして助けに行ってくれないの!?あんたが私の事を嫌ってるのは分かってるわよッ!その理由が私が悪いってことも!でも……でも、サスケ君とあんたは仲が良かったじゃない!はじめはそうじゃなかったみたいだけど、それでも最近は私が嫉妬する位、仲が良かったじゃない!!なのに、なんでなのよッ!!?」

 私がそう言ってる間にも、サスケ君の体がボロボロになっていくのが見える。どんな攻撃を受けているのか分からないけど、クナイや手裏剣のように鋭利な忍具じゃないことが分かるから、あれも千本でやられている可能性が高い。

 でも、そんな事がわかっても私にはどうする事もできない。サスケ君にも、ましてやナルトにも勝てない私があそこに行って何が出来るの?サスケ君の足を引っ張って、何も出来ないで終わるに決まってる。それに、タズナさんを…この人達を守らなくちゃいけない。でも……それでも!

「………分かったわよ。ナルト、あんたには失望したわ。私はね、最近あんたの事を認めなくちゃいけないって思ってた。でも、変なプライドと親の言っていた事が頭から離れなかったから、あんたにあんな態度を取ってたの。私に失望されたから何だって、あんたは思うかも知れないけど……でもね、仲間のピンチを救おうとしない奴は、本当に最低な奴だと思うわ。私はそうはなりたくない」

 お洒落のために髪の上に上げていた額当てを、その名の通り額に付け直す。そして、深呼吸を一つしてヒナタに顔を向ける。

「ヒナタ、ここはあんたに任せるわ。私はサスケ君を助けに行く」

「は、春野さん……」

「それから、そこの馬鹿に言っておいて。最低な奴になりたくなかったら、その不抜けた顔じゃなくて、いつもの憎たらしいくらい元気な顔で来なさいって」

 はぁ……何言ってんだろ私。こんなに言っても反応しないこいつに、まだ助けに来てほしいとか考えてるって事?…………ま、期待しないで待ってるかな、一応同じ班の仲間だしね。

「タズナさん、ごめんなさい。ホントはここを動いちゃいけないんだけど、私行かなくちゃ」

 それまで黙って見ていてくれた、護衛対象のタズナさんは「いいから行って来い。わしゃあ大丈夫じゃ」って言ってくれた。ホント、この人には振り回されてばかりだけど、今はいい人って思えたかな。

 タズナさんに頷き、ヒナタの返事を待たずにサスケ君と仮面を付けた少年のいる場所に向かって走る。するとそれまで姿が見えなかった仮面を付けた少年が姿を現した。私は走りながら、ホルスターから手裏剣を四枚取りだして両手で投げる。

 でもそれは、千本を投げられて相殺される。私は鏡から2mくらい離れた場所で足を止めて、その術を全体から見て考える。これは、内と外同時に攻撃したら解ける結界忍術かもしれない。……ならっ!

「サスケ君!私が外から攻撃するから、サスケ君は内から攻撃して!そうすればこの術は解ける筈よっ!」

「!?…分かった。タイミングは俺に合わせろ。……行くぞ!」

 サスケ君はクナイを逆手に持って、少年から距離を取る。その際に、ポーチから取り出したクナイを二本少年に向かって投げた。それを少年が千本を投げて相殺しようとしたけど、サスケ君の投げたクナイは威力を弱めることなく、千本を弾いて少年に向かって行く。

 生半可な攻撃はこの鏡には効かない筈……それなら、これでどうッ!少年がそれを避けるため、逆方向に跳んだ。今がチャンス!

 サスケ君が投げて来た手裏剣に合わせて、私もクナイを投げる。起爆札付きのね。サスケ君も私と同じ考えだったみたいで、手裏剣に起爆札が巻かれていた。そして、手裏剣とクナイが同時に鏡の一枚に突き立った瞬間、爆発を起こした。鏡はその爆発に耐えられなかったみたいで、バラバラになり、サスケ君もそこから飛び出してくる。

「ナイスだ、『春野』」

「さ、サスケ君……」

 飛び出て来たサスケ君は傷だらけの体を苦も無く起こし、私の方を向かずにそう言ってくれた。私の名前を言ってくれた…名字だけど……初めて名前を言ってくれた。

「呆けている場合じゃないぞ。あいつも出て来るみたいだ」

「そ、そうね」

 そうだ。今はそんな事で舞い上がっている場合じゃないんだ。しっかりしろ私!

 バラバラになったその鏡以外の鏡が溶けるように、その姿を消すと少年がその向こうから歩いてくる。

「………………」

 何か言いなさいよ!そんな変な仮面付けて、無言とか恐いんだってば!!

「春野、こいつは血継限界だ。さっきの術を受けてみて分かったが……スピードはカカシ並だ」
(氷忍術なんて聞いた事ないからな。それに、あいつの印は俺が知るものじゃなかった。ッチ、厄介な。だが……)

 血継限界?それってカカシ先生のあの目みたいなものってこと!?それにカカシ先生と同じくらいのスピードって………私ここで死ぬのかな…。

「だが、そのスピードにもやっと慣れて来た。だから、俺があいつの動きを一瞬だけだが封じる。その隙に…分かったな」

「慣れてきたって……サスケ君、その目!?」

 私はサスケ君に視線を移すと、サスケ君の目が赤くなってて、何かの模様が中心にあって……。その目って、カカシ先生と同じ……。

「ああ、俺もやっと開眼したみたいだ。うちはの血継限界……写輪眼が」

 不敵に笑うサスケ君の横顔は………すごくカッコいい。やっぱりあんな不抜けより、サスケ君の方がカッコいいよ!

「行くぞ。あの仮面野郎の仮面を剥いで、素顔晒してやる!」

「うん!」

 ナルト。あんたが来ても、来なくてもやっぱりサスケ君には勝てないわあんたは。だって、こんな頼れる男の子他にいないもの!

▼ ▼ ▼ ▼

 俺が思っていた以上に使えるようになっていた春野を、名前で呼ぶ事にした。ま、名字だがな。

 そして、このよく見える目。こいつがあれば俺はどんな奴にも負ける気がしねぇ。仮面野郎の動きは、鏡に入っていない時はそこまで早くない。なら、鏡を出される前に叩くだけだ!

 俺が駆け出すのと、仮面野郎が駆け出したのは同時。交差する瞬間、俺は見切った。それまで見えなかった仮面野郎の俺の頭を狙う千本の突きを、首を捻るだけで回避して体勢を低くして踏み込む。

 懐に入ったところで仮面野郎の膝が襲いかかってくる。お互い速度が乗っているため回避するのは難しい。だが、甘い。ニヤリと笑みを浮かべ、打ち上げられる膝の横に掌底を当て、軌道を逸らす。

 仮面野郎は千本で突いたせいで上体は流れ、膝を上げたせいで片足立ち。いわゆる、死に体だ。そして、俺はその掌底を当てた運動を利用して攻撃を可能にする。これでも、喰らいやがれ!

 一回転して来てからの肘打ち。回転の速度と肘打ちの速度を足したそれは、仮面野郎の体をくの字に曲げる。

 これだけで終わらせねぇぞ。くの字に曲がった仮面野郎が後ろに吹き飛ぶ前に、地面を強く蹴り下から突き上げるアッパーを顎にぶち当てるが、仮面野郎はそれを両手の掌で威力を殺し、後ろに跳んだ。

 チッ、まぁ肋骨は何本かいったろ。これで、あいつのスピードはまた遅くなる筈だが……右肩を見てみると千本が突き刺さっていた。…ッチ!変な所に刺さったか?右手がさっきから動かねぇ。

 あいつも只じゃ喰らわないってことか。ま、春野に少しの時間あいつを止めるって言っちまったからには、止めるがな。右手を無理やり正面に持って来て左手と合わせて印を組む。寅の印から始まるそれは、うちはに続く忍術。

≪火遁・豪火球の術≫

 口から出るは、炎の塊。それも視界がそれでいっぱいに成る程大きいモノ。これを喰らう、喰らわないに関わらず、あいつは何かしらの対応を取る筈。そこに、もう一度火遁をお見舞いしてやる!

 印を組みながら仮面野郎を見ると案の上氷忍術で相殺し、俺に向かって千本を投げる動作に入っていやがる。

 もう一発だ仮面野郎!!

≪火遁・鳳仙火の術!≫

 豪火球の術とは違い、何発もの炎が仮面野郎に殺到する。これを相殺するのは面倒だぞ仮面野郎。これは俺の意思で動くからな。周囲を取り囲んだ火の玉に仮面野郎が一瞬動きを止めた。

「今だ、春野!」

「おりゃああああああ!」

 女とは思えない掛け声とともに、三本束にしたクナイが仮面野郎に向かって行き、俺の鳳仙火にそれが当たると爆発を起こした。

 ほぅ、起爆札を巻いたクナイ三本を束にして投げたか。伊達にくの一で成績トップを取ってねぇって事か。

 これは、いくらあの仮面野郎でも喰らった筈。爆発が起こった場所を見ていると春野が俺に駆け寄って来た。

「サスケく「ッ!避けろサスケぇ!!」」

 ナルト?何をい…グァッ

「サスケ君!?」

 春野の言葉を最後に俺は意識を手放した……。




あとがき
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