「よし、これから10問目を出題する!」

 やっと45分過ぎたのか…。ふぁああ…。横を見てみるとテンテンは俺同様に書き終わって暇だったのだろう、鉛筆の尖った方を指に乗せてバランスを取りながら遊んでいる。対して、テマリの方はというと……ついさっき教室を出て行ったカンクロウが帰って来るのを待っているみたいだ。

 てか、今さら思い出したんだけど、この試験って最後の10問目だけ答えりゃ良かったんじゃなかったか?もしかしなくてもめんどい事してたんだな…。ま、まぁ、過ぎた事はいいとしよう。

 俺がそんな事を考えていると、横にいるテマリの顔がどこか焦ったようなモノに変わっているのに気付く。心境としては、「早く帰って来いカンクロウ!10問目が始まる前に答えを渡す手はずだろうが!!」って感じだろうか。

 大丈夫だってテマリ。この試験、10問目解ければ一次は通るから。

「…と、その前に一つ最終問題に付いてのちょっとしたルールの追加をさせて貰う」

『『!!?』』

 イビキの言ったその言葉に、下忍の大半が眼を見開いた気配がした。ていうか、サクラが纏う空気がまた変わった。あいつ、イライラし出したぞ絶対。内なるサクラの気配がする…。

 ガラッ

 イビキのせいで変な空気が漂よっている教室。そんな時にそんな音がしたので、受験生、試験管関係なく皆一斉に音のした方へ顔を向けた。

 そこにいたのは、音の発信源であろう教室の後ろ側のドアを開けて、中忍に扮した人形を引き連れて戻って来た、砂の姉弟の真ん中、カンクロウだった。

「フッ強運だな…」

「!?」

「『お人形遊び』が無駄にならずに済んだみたいだな?…まぁいい、座れ」

 カンクロウの顔が一瞬だけ苦いものに変わるがそれも一瞬だ。

 ドアから自分の席へと戻って行く途中、テマリの横を通り過ぎた瞬間、テマリの手へ試験問題の答えが書かれている、まぁ所謂カンペを渡して自分の席へと戻り着席した。それを受け取ったテマリは、急いで問題を解こうとしているのが分かる。

 でも、イビキの言葉を聞き逃してはいけないと、視線はイビキに固定したままだ。砂の姉弟の姉と兄がこんなにも焦っている中、末っ子の我愛羅だけは腕を組んで冷静にイビキへと顔を向けている。

「では、説明しよう。これは絶望的なルールだ」

 イビキの視線が鋭いモノに変わった。

▼ ▼ ▼ ▼

 ナルト達が中忍試験を行っている頃、木ノ葉の里のある空き地では、一人の少女が子ども達にアイスを配っていた。

「お姉ちゃん、アイスちょうだい!」

「はい、ありがとうございます。何味がいいですか?」

「う〜んと…う〜んと…イチゴ!」

「イチゴ味ですね。はい、どうぞ。溶けない内に食べてくださいね」

「はぁ〜い!」

 手を振りながら走り去って行く女の子に向かって、僕も手を振って応える。あの子が転ばないか心配ですが…きっと大丈夫でしょう。あの子の友達が助けてくれる筈です。

 僕の目に映るのは、あの子の向かう先に二人の男の子がいて、早く来いと言っている姿。

 そんな二人の男の子達も僕の作ったアイスを手に持っています。女の子が男の子達の所に着くと、三人で「お姉ちゃん、ありがとう!」っと言って今度は三人並んで走って行きました。

 フフ、ありがとうですか…。こんな僕がここに来て、何度この言葉を聞いた事でしょう。ここに来て3日くらいは数えていましたが、もう数えるのは止めました。

 1ヶ月前、ナルト君からの紹介でここ木ノ葉の里にやって来た僕と再不斬さん。ナルト君にとっておじいさんのような存在であると教えられた火影様と話している時は、恥ずかしいですがビクビクしていました。

 だって…あの時の火影様ですが、僕が今まで対峙した忍びと比べられないくらいのオーラを体から出していましたからね。

 正直、僕一人でいたら何も出来なかったと思います。でも、ナルト君が隣で手を握ってくれたので、幾らか安心してお話を聞く事が出来ました。

 火影様は始めは渋っておられたようですが、ナルト君の「こいつらはもう、悪い事はしないってばよ!俺が保障する!!」という言葉に笑みをこぼして、僕たちは晴れて木ノ葉の雇う忍者となる事が出来ました。

 火影様の言葉は絶対なようで、僕達を警戒していた上忍や暗部の人達は渋々納得したみたいでした。

 そして臨時となるからには、僕達は何かしらの仕事をしなければならなくて、僕は自分の血継限界を利用したアイス屋を開く事にしました。

 再不斬さんは、最後まで忍者以外の仕事は嫌だと言って、ナルト君と火影様を困らせましたが、ナルト君に僕からもお願いすると、どうにか再不斬さんの仕事は暗部の方たちの仕事を手伝うというモノになりました。

 ナルト君はやっぱり優しいです。火影様の所から帰宅した後再不斬さんには、お説教しました。我儘は、もう出来ないという事をきっちりと分からせないといけませんからね。

 それから僕は小さな屋台みたいなモノを火影様から頂いて、アイス屋のお姉さんとして木ノ葉の里で生活しています。ありがたい事に、ナルト君のお友達も何度も来てくれてました。

 中でもヒナタさんといのさんは任務が終わると必ず来てくれて、三人で一緒にアイスを食べながら、任務の話やお化粧の話、それから僕達に共通するナルト君のお話をしました。

 いのさんとは、ナルト君が紹介してくれた時に知り合いまして、他にもシカマル君、チョウジ君、シノ君にキバ君と仲良くなりました。

 サクラさんとサスケ君ともお友達になりたかったのですが、サスケ君に至っては、終始顔を俯かせていましたし、サクラさんは僕を睨んでいたようなので、こちらからお話できませんでした。少し悲しかったです。

 ナルト君に聞いたらサスケ君は照れていて、サクラさんは嫉妬しているという事でしたが……。他にも、ナルト君が尊敬しているというイルカ先生にも会いました。ナルト君の言う通り素晴らしい方で、ナルト君が尊敬する理由も分かりました。

 それからは、いのさんに僕もナルト君が好きだという事を告げて、三人でライバルですねと笑ったり、ナルト君にいのさんがプレゼントするというので、僕とヒナタさんもプレゼントを買いに行ったりと、ここに来て過ごした一か月は、僕が今まで過ごした年月より短いのに、とても暖かくて、幸せな時間で……僕の大切な宝物になりました。

 そして、今日からナルト君達は中忍試験。昨日、ナルト君が皆を連れてきて、「次に会う時は俺達全員中忍になってるからな!」と笑っていました。本当、ナルト君がそう言ったらそれが本当になるようで、僕も「なら、その時はアイスを御馳走しますね♪」と言ってしまいました。

 本当に、こんな楽しい時間がずっと続いてくれたらいいのに。そんな事を言ったらナルト君に怒られてしまうと思いますが、僕は願います。

「この幸せな時間が続きますように………」

 空を見ると、綺麗に晴れた青空が見えました。

▼ ▼ ▼ ▼

 絶望的なルールか……頬杖をつきながらイビキの言葉に耳を傾ける。

「まずお前らには、この第10問目の試験を『受ける』『受けない』のどちらかを選んで貰う」

「え…選ぶって……もし10問目の問題を受けなかったらどうなるんだ!?」

 テマリが声を張り上げる。いや、なんとなく予想はつくだろテマリ。これは中忍試験なんだ。受けないみたいな否定的な事を言ったら…。

「『受けない』を選べば、その時点でその者の持ち点は0となる。…つまり失格だ!勿論、同班の2名も道連れ失格だ!」

 やっぱりか。まぁ、受ける以外ここでの選択肢はない。だが、そこは拷問大好きなイビキの事だから…。

「ど、どういう事だよ!?」

「そんなの『受ける』を選ぶに決まってるじゃない!!」

 下忍達が一斉に騒ぎ始めるか…。騒いでる奴らは自分で考える事を放棄している奴だ。そんな奴らが中忍になろうなんてのが間違いって事なんだろうな。

「そして!もう一つのルール…」

 イビキがその騒ぎを無視して、話し出す。騒いでいる下忍を黙らせる事もなければ、注意する事もない。この試験は、そういうところも見てるって事に気付かない奴は……この試験落ちたな。

「『受ける』を選び、正解できなかった場合………その者については今後、永久に中忍試験の受験資格を剥奪する!!」

『『!!』』

 それまで、騒いでいなかった奴もこのルールには唖然として、イビキを睨みつけたり、初めに騒いでいた奴らと同じように騒ぎ出した。これが、拷問大好きなイビキの意地悪な問題だ。人間の心を揺さぶる問題、こんな問題を提示されたら普通の下忍なら、『受けない』を選ぶのは自明の理。

 だが、ここで『受ける』を選び正解する事が出来る者だけが中忍という小隊のリーダーになれる。それが、上が求める忍びだ。これに気付けなければ一次試験突破は無理だぞ皆。

「そ、そんな馬鹿なルールがあるか!!ふざけんじゃねぇ、お袋に聞いたぞ!中忍試験は年に二回。一回落ちても、次受けて合格すれば中忍になれるってな!」

 頭に乗せている赤丸と一緒にキバが抗議の声を上げる。はぁ…やっぱりお前はそっち側かキバ。もう少し考える事が出来たらお前もいい忍者になれると思うんだけどなぁ。

「クク……運が悪いんだよ、お前らは。今年はこの俺がルールだ。その代わり、引き返す道も与えてるじゃねぇか……」

「は?」「ワゥン?」キバと赤丸がそろって間抜けな声を出す。キバよ〜ヒナタにモテたいならもう少し考えてから行動した方がいいと思うぞ。

「自信のない奴は大人しく『受けない』を選んで、来年も再来年も受験したら良い」

 甘い毒。その名が相応しいように、徐々にイビキのその言葉が下忍達に浸透していく。というか、この茶番早く終わんねぇかな。こちとら、次に出て来る変態野郎をどうやって料理するか楽しみで仕方ないんだっての。

「では、始めようか。この第10問目、『受けない』者は手を挙げろ!番号確認後、此処から出て貰う」

 すぐに手を挙げる者は居ない。自分のせいで他の二人を失格にしてしまう。もう一生下忍のまま。この二つの思考が下忍達の頭の中をループする。

 数分が経過した……と、1人の受験生が手を挙げた。

「お、俺はッ……やめる!『受けない』ッ!!す、すまない…岩!ナル!!」

 悩んで悩んで、悩みぬいて出した選択だ。それなら仕方ないだろう。だけど、そんな甘い考えならもう一生中忍になるなんて考えない方がいいぞ。少なくとも俺はそう思う。ま、こいつが試験管側が準備していた「さくら」だったら違うけどな。

「50番、失格。130番!111番!道連れ失格」

 試験官の言葉に、50番というそいつの仲間が表情を曇らせながら起立する。そいつらも、半ば仕方ないと諦めている。演技なんだろうけど、俺やカブト、我愛羅とか実力がある忍び以外の奴らは引っ掛かるなぁ。

「お、俺もだッ!!」

 そして、案の定1人の下忍が手を挙げると…。

「わ、私も……」

「す、すまない。みんな!」

「俺もやめる!」

「わたしも、止めます…」

 て、こうなるわな。最初の奴を発端に、次々と『受けない』を選び退出していく下忍達。ま、引きとめる理由がない限り俺は何もしない。キバとかチョウジが辞めるとか言い出した時に、何か言えばいいだろ。

(ナルト……何で手を挙げないのよ!)

 サクラがそんな思いを乗せた視線を向けて来ているみたいだけど、そんなもん俺に向けるなってのデコ介。それに、お前はこの一次試験が終わったら……俺を馬鹿にした事を後悔させてやるんだからな。

(あんたが、強いのは…悔しいけど認めて上げるわ。でも、あんた勉強は駄目じゃない!それに、あんたイルカ先生みたいな忍者になりたんでしょ?……はぁ…何で私あんたの事なのにこんなに考えなくちゃいけないのよ。……でも、私そんなあんたの夢、無くさせたくないみたい。だから…)

 ん?ってあの馬鹿サクラ!何手を挙げようとしてんだ!!ふざけんな!あぁもう、仕方ねぇ、ここしかねぇか。

「え?」そんな消えそうなサクラの声と、いのとヒナタの「「ナルト!ナルト君!」」という大きな声が教室の四方からしたがそれを無視して、サクラの手が挙がる前に俺は手を挙げる。

「「!!」」

 他にも何人かが俺のこの行動にびっくりしているみたいだけど、俺は『受けない』を選ぶ訳じゃなねぇよ。

「15番か…では、54b「なめんじゃねぇ!受けてやるよ!!一生下忍のまま?はっ、いいぜ。もしその問題を解けなかったら下忍のまま強くなってやる。そして、その下忍がお前や他の中忍、上忍なんかより強いって事を証明してやるってばよ!!」……」

 振り上げた右腕を叫びと同時に机に叩き付けた。破裂音のような音が響き、叩きつけられた机は、隣のテンテンとテマリの所にまで罅が入った。

(ナルトの奴、俺達の事なんか全く考えてなかったみたいだな。それに、あいつは既にここにいる奴らより強い。クク…本当にお前と会ってから退屈しないな)

(そうよね…アンタ、そういう奴だったわよね。ていうか、もしかしてあいつここにいる全員に喧嘩売った?)

「もう一度聞く……人生を賭けた選択だ、やめるなら今だぞ?」

「上等だっての。俺の人生だ。誰にも指図は受けねぇよ」

 一度しかない人生を俺は何の縁があってか、二度目を送っている。それも、こんなびっくり世界でな。…なら、ちょっとやそっとの壁が出たくらいで躓いてらんねぇだろうが。

 俺が叫んだ事によって、他の下忍達にも変化が起きた。さっきまで不安や焦りの表情でいたが、今となっては笑みを浮かべている者もいる。隣のテンテンとテマリに至っては…。

(この子やっぱり面白いかも♪)

(うるさいガキだが、その言葉には賛成だな)

 と、そんな事を考えているだろう顔で俺を見て来ていた。

(15番の言葉で、こいつらの不安が消えやがった…78名か、予想以上に残ったが……)

 審査員である中忍達にイビキが目配せをして、それに対して中忍達は笑みを浮かべ、一斉に頷く。これは、決まったか?

「良い決意だ。では…此処に残った全員に……」

 下忍全員がイビキの出題するであろう問題の一字一句を聞き逃さないと言った風に身構える。俺はもう仕事したから踏ん反り返ってるけど。

「……『第一の試験』の合格を申し渡す!!」

 はいはい、合格合格っと。その言葉に、俺以外の下忍達(この時ばかりはカブトや我愛羅も)は息を合わせるように、あっ気に取られたようでポカンとしていた。

「ちょ、ちょっと、どういう事ですか!?いきなり合格なんて……10問目の問題はどうしたんですか!?」

 お?サクラがはじめに反応したか。というか、あいつの場合二つの精神があるからってのが理由としては適切だな。

「そんなものは初めからない。言って見れば『さっきの2択』が10問目だな」

「え?いや、ちょっと!!じゃあ、今までの1〜9問は何だったんだ!?まるで無駄じゃないか!」

 カンクロウにカンペを貰ってまで問題を解こうとしていたんだ。テマリが、そう思っても仕方ないか。

「無駄じゃないぞ。9問目までの問題はもう既に、その目的を遂げていたんだからな」

「は?」

 いやいや、テマリさん。あんたってばもう少し頭良いと思ってたけど、なんちゃっての人だったのか?

「お前達、個人々々の情報収集能力を試すと言う目的をな!」

 イビキの奴、さっきまでと雰囲気がガラッと変わってやがる。本当に拷問が始まるかもとか思った奴いたかもしれないなぁ…。

「まず、この試験のポイントだが…最初のルールで提示した『常に3人1組で合否を判定する』と言うシステムにある」

 イビキがこの試験について説明していく中、俺は隣のテンテンと話し中。勿論小声でな…。

「ねぇねぇ」

「ん?何か用ですか先輩」

 テンテンは人懐っこそうな笑みを浮かべながら、俺を見ていた。

「君ってば私の使ってた鏡見てたよね?」

「ありゃ、ばれてました?すみません。自分の力こんな所で出すのって、なんか損した気分になっちゃうじゃないですか。先輩には悪いと思いましたけど、便乗させてもらいました」

 ばれてたか。ま、ばれないようにとか気をつけてなかったからなぁ。兎に角無様じゃなけりゃいいって思ってたし。

「ふふふ。なら、貸し一個ってことでいいよ。後で返してね、金髪君」

「はいはい、分かりましたよ先輩」

 と、そんな会話をしていると、イビキが頭に巻いていた額当てを取って、俺達に見せてきた。うわぁ…痛そ。

「何故なら情報とは、その時々において命よりも重い価値を発し、任務や戦場では常に命懸けで奪い合われるモノだからだ」

 途中からだけど、おそらく自分の経験と合わせて説明してんだろ。テンテンも、今はイビキの方を向いて話聞いてるし。

 ヒナタといのが、びくっと体を震わせてたから、びっくりしたんだな。

「敵や第3者に気付かれてしまって得た情報は『既に正しい情報とは限らない』のだ。………これだけは覚えておいて欲しい!誤った情報を握らされる事は仲間や里に、壊滅的打撃を与える!!」

 そう言ってイビキは額当てを元に戻す。

「その意味で我々は、お前らにカンニングと言う情報収集を余儀なくさせ、それが明らかに劣っていた者を選別した……と言う理由だ」

「でも…何か最後の問題だけは納得行かないんだけど……」

 隣のテマリが少しだけ唇の先を尖らせ、不満の声を上げた。え、何この可愛いテマリ。漫画にも、雑誌にも載ってないぞ!!……ここに転生して良かった!

「しかし、この10問目こそが、この第一の試験の本題だ」

『…………』

 下忍達はイビキの言葉に耳を傾けている。

「説明しよう。10問目は『受けるか』『受けないか』の選択…。言うまでもなく、苦痛を強いられる2択だ。『受ける』を選び、問題を答えられなかった者は『永遠に受験資格を奪われる』……実に不誠実極まりない問題だ」

 その言葉を聞いても、キバとか馬鹿な奴らは首を傾げている。テマリはここで分かったらしく、フンっと鼻を鳴らして頬杖をついた。

「では……こんな2択はどうだ?お前達が仮に中忍になったとしよう。…任務内容は秘密文書の奪取。敵方の忍者の人数、能力、その他、軍備の有無が一切不明。更には敵の張り巡らした罠と言う名の落とし穴が有るかもしれない…さぁ『受ける』か?『受けない』か?」

 イビキは再び、俺達に問う。決まっている。答えは…。

「そう!答えは『受ける』だ!いや『受けない』という選択肢などここでは出てこない。どんな危険な賭けであっても、降りる事のできない任務もある。ここ一番で仲間に勇気を示し、突破していく能力。これが中忍と言う部隊長に求められる資質だ!」

 『受けない』を選びここから出て行った下忍達は、それが理解できていなかった。いや、ここにいる何人かも理解していなかったろうな。俺が止めたから。

「いざと言う時に自らの運命を賭せない者、『来年があるさ』と不確定な未来と引き換えに心を揺るがせる…。そんな密度の薄い決意しか持たない愚図に!中忍になる資格などないと俺は考える!!」

 力強い言葉がイビキから発せられる。というか、俺もこの言葉には賛成だ。そんなふざけた気持ちで中忍になろうとしている奴は……忍者を辞めるべきだ。そんな奴がいて、俺達に利益なんてある訳がないからな。

「『受ける』を選んだお前達は、難解な10問の正解者だと言っていい!これから出会うであろう困難にも立ち向かって行ける筈だ。入口は突破した、『中忍選抜第一の試験』は終了だ……お前達の健闘を祈る!」

 第一の試験を合格した俺達にそう笑みを浮かべて話すイビキ。それに、よっしゃあ!!と叫ぶ奴、フンっと照れ隠しに鼻を鳴らす奴と様々だったが、俺は窓の外から『あの人』が飛び込んでくるのが分かっているから、そっちに気を張る。

 そう思ったと同時に窓ガラスをブチ破り、黒い布で包まれた『あの人』が飛び込んで来た。

「!!敵かっ!?」

 突然の出来事に、誰かがそう言うと中忍とイビキ以外の奴らのほとんどが、忍具を構えた。

 真っ黒い大きな布から2本のクナイが飛び出し、黒板に刺さる。黒板に布がクナイによって張り付けられ、布が広がり長方形になった。そして、中に包まれていたと思われる人物が姿を現した。そう、『あの人』が。

「あんた達、喜んでる場合じゃないわよ!!私は第二試験官!みたらしアンコ!次行くわよ、次ぃ!!」

『…………』

 出てきたのは皆さんご存知、特別上忍みたらしアンコさん。変態野郎に捨てられて健気にも生きてきた、元気いっぱいのお姉さん。

 でも、そんなアンコさんの自己紹介は、教室内にいた忍び全員を黙らせて、全員の視線を一人占めにした。

「空気を読め……アンコ」

『第二試験官 みたらしアンコ見参!!』と大きく描かれた真っ黒な布の近くにいたイビキが、はぁ〜と溜息を出した。

 その言葉に頬を赤らめるアンコさん。うわ…可愛いと、俺が考えていると話は進んでたみたい。

「まあ、それは良いとして……ひい、ふう、みい……78人!?イビキ、あんた!26チームも残したの!?」

 アンコさんはそう言って、イビキに詰め寄った。でも、イビキもアンコさんの言葉に首を振って答える。

「今回の第一の試験、甘かったみたいね」

「今回は、優秀そうなのが多くてな」

 優秀か…。ま、それはそうだろうな。カブトいるし、我愛羅いるし、俺いるし……ま、他の奴らも下忍にしておくにはもったいないくらいの実力者達だからな。

「フン!まあ、いいわ……次の『第二の試験』で半分以下にしてやるから…。ああ〜ゾクゾクするわ!詳しい説明は場所を移してやるからついてらっしゃい!!」

 アンコさんはそう言うと、窓から飛び出そうとしてイビキに止められて、渋々ドアから出て行った。ホント、この人いろんな意味で可愛いな。

 こうして、第一の試験は幕を降ろした。次はいよいよ、第二の試験。変態野郎との初対決だってばよ!!!



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