アンコさんに連れられて、俺を含む下忍達は不気味な場所へと辿り着いた。目の前には巨木が立ち並び、森の奥が真っ暗闇に包まれているため何も見えない。更にその森を囲むように、高く頑丈そうなフェンスが張り巡られている。

 『立ち入り禁止区域』と書かれた注意書きがフェンスに掛けられている事から、ここは木ノ葉でも何がしかの理由がなければ絶対に入らない所だろう事は容易に想像がつく。

 ここが二次試験の会場か…。漫画で読んでいる時は良かったけど、実際に目の当たりにすると入りたくねぇな…。

「此処が『第二の試験』会場、第44演習場……別名『死の森』よ!!」

 俺のその思いなどブチ壊すように楽しくてたまらないといった笑みを浮かべるアンコさん。俺以外の下忍達もこの森に嫌悪感を出しながら、アンコさんの説明を聞いている。

「…何か、薄気味悪い森ね……」

 サクラからそんな呟きが漏れるが、これには同意見だ。試験じゃなかったら絶対に俺は入りたくない。強くなるのにこんなとこで修行する必要性は全く感じないからな。

「フフ…ここが『死の森』と呼ばれる所以、すぐに実感する事になるわ」

 アンコさんがサクラの呟きを耳聡く拾い、それに応えるように笑みを浮かべてサクラを見る。はぁ……この人、大蛇丸の元部下だけあって思考がなんか変態に近いんだよなぁ…。でも、綺麗だからそれが妖艶に見えちゃうってのが、この人のずるいとこ。

 それにしても……さっきから粘っこい視線が俺とサスケに向けられてるんだけどよぉ…。これってどう考えてもあの蛇野郎だろ?俺がそいつの視線を感じるのは隣にサスケが居るからだと思う。いや、そう思いたい。原作でも俺ことナルトは、あんまり欲しそうにしてなかったし!

 そして、アンコさん。あんたさっきから、俺のことジロジロ見てるけど何か用ですか?お願いですから舌なめずりしながら、そんな楽しそうな顔を向けないでください。

「フフ♪君は何だか他の子達とは違うみたいね。私の話を聞いても恐そうにしてないし」

 いや、アンコさん。俺は今そんな事よりも、貞操の心配をしてるんです。何だか、お尻の穴がさっきからむずむずして……。

 と、おしりに片手をやって苦笑を浮かべながらアンコさんの視線からを逃れようと思っていたら、この人俺に向けてクナイ投げてきやがった!

 アンコさんは変態野郎の元部下であり、特別上忍でもある。そんな人が投げるクナイのスピードって言ったら……それはもぅ相当なモノでした。

 俺は咄嗟にお尻にやっていなかった片手でそのクナイをパシッと掴んでしまったが、こればっかりは仕方ない。条件反射で体が動いてしまったのだから、今のは無しにしてほしいんだけど……そうは問屋がおろさないってか?

 俺がクナイを掴んだ事がそんなに驚きだったのか、吃驚したのはアンコさんだけでなく、他の下忍達も同様だったみたいで、一気に警戒心を持たれてしまった。その中で「ナルト!?」「ナルト君!?」と、いのとヒナタが俺の名を叫びそれぞれ近くに寄ってきた。

 はぁ…こんなところで目を付けられたくなかったのに。ハハハと頬を引き攣らせながら笑い、俺は手にあるクナイをアンコさんに返した。その際に、いのとヒナタに大丈夫だというのは忘れない。

「ありがと。へぇ……イビキの言う通り、今回は活きの良いのがいるみたいじゃない。フフフ♪」

 俺がクナイを手渡す時に、さっきよりも面白いモノを見つけたような顔でそんな事を言われた。いや、ホントもう勘弁して下さい。なんか俺、この人苦手な部類かも……。

 後ろにいるだろう変態野郎も俺に対して粘っこい視線だったものを、今はドロドロのネチャネチャなものに変えてやがるし……。うぇえ……気持ち悪…。

「それじゃ、第二の試験を始める前にアンタらにコレを配っておくわね!」

 と、話を戻すべくアンコさんが下忍達全員に聞こえるように大きな声を上げて、プリントの束を頭上でバッサバッサと左右に振った。

 アンコさんから渡されたプリントを見てみると『同意書』と書かれていた。ああ、死んじゃってもこっちには責任ないよ〜っていうアレね。

「これは、同意書。こっから先は『死人』も出るから、それに付いて同意を取っとかないとね!そうしないと、後で私の責任になっちゃうからさ」

 楽しそうに話すアンコさんを下忍達は睨むようにして見ているが、アンコさんはそれを気にするでもなく、俺にウィンクをしてくる。本当に止めてください。何かいのとヒナタがさっきから、恐いチャクラを俺にだけ向けて放って来てるので…。

「まず、第二の試験の説明をするけど、その説明の後にこれにサインして、班毎に後ろの小屋に行って提出してね」

 後ろにある小屋を親指で指しながら笑うアンコさん。いやぁ〜そんな笑顔で見られたら、気の小さな下忍君達は行くに行けないでしょうよ。

「じゃ!第二の試験の説明を始めるわよ。早い話、ここでは極限のサバイバルに挑んで貰うから」

 サバイバルと聞いて嫌な顔を浮かべるシカマルとチョウジ。シカマルはただ単にめんどくさいからで、チョウジに至ってはお菓子がそれまで食べる事が出来ないと分かったからだと思う。

「まず、この演習場の地形から順に追って説明するわね。この第44演習場はカギの掛かった44個のゲートの入口に円状に囲まれていて、川と森、中央には塔がある。その塔からゲートまでは約10キロメートル。この限られた地域内で『ある』サバイバルプログラムをこなしてもらう」

 タメをわざわざ作って、俺達の反応を楽しみながらアンコさんは話していく。この人、確かに大蛇丸の元部下だわ。イイ性格してるよホント。

「……内容は各々の武具や忍術を駆使した、何でもアリアリの『巻物争奪戦』よ!!」

 何でもアリアリ。それは例え殺してでも巻物を奪ってもいいという事。それはここにいる木ノ葉の下忍以外の他里の下忍達にとっては願ってもない事。しかし、そんな事木ノ葉の下忍達も簡単にはいかせない。

「『天の書』と『地の書』、この2つの巻物を巡って闘ってもらう。ここには78人、つまり26チームが存在する。半分の13チームには『天の書』、もう半分の13チームには『地の書』を、それぞれ1チーム一つずつ渡す。そして、この試験の合格条件は……」

 そこまで言われれば自ずと分かる。アンコさんは右手に『天の書』、左手に『地の書』を持ち俺達に見えるように前に突き出した。あれを奪い合うって事だ。

「天地両方の書を持って、中央の塔まで3人で来る事。ただし、時間内にね。この第二の試験、時間は120時間。ちょうど5日間でやるわ!」

「5日間もサバイバル……という事はナルトと寝る時も一緒!?」

「わわ……凄い…」

「お菓子がぁ!!ご飯がぁ!!お肉がぁ!!!食べられないよぉおおお!」

「めんどくせぇなぁ、おい」

「ハハハハハ!!いいぜいいぜッやってやるっての!!」

「……問題ないな」

「サスケ君と一緒……(やったぜ!しゃ〜んなろ〜!!)」

「フンッ、一番に辿りついてやるさ」

 木ノ葉の俺を除くルーキー達がそれぞれ勝手になんか言っているが、その中でも女3人は……駄目だな。頭がおかしくなってやがる。

「食料は自給自足!仮にもあんたらは忍び、頭と体、それからこれまで培ってきた技術、全部使って這い上がってきなさい!あ、人喰い猛獣や毒虫、毒草には気を付けてね♪」

 アンコさんのテヘペロをイラっとした気持ちで見つつ、次の試験に向けて体と心の準備を済ます。まずは、五日分の食料を確保してそっからサスケを鍛えながら、ボチボチ巻物奪って行くか。 

「それからこれは最初に言っておくけど、13チーム39人が合格なんてまず有り得ないから。行動距離は日を追うごとに長くなって、回復に充てる時間は逆に短くなっていく。オマケに辺りは敵だらけ。迂闊に寝る事もままならない。つまり、巻物争奪で負傷する者だけじゃなく、サバイバルの厳しさに耐え切れず死ぬ者も必ず出る。ま、そうならない用にあたしら試験管がいるんだから、あんたらは試験を頑張ればいいわ」

 1チームで天地それぞれ一つずつなんて言ってないから、それ以上奪っても良いという事。俺以外にもそれに気付いた奴らは、当然1個でも多く奪う事で、脱落者を増やそうと考えるだろうな。

「続いて失格条件について話すわよ!まずは一つ目、時間内に天地の巻物を塔まで持ってこれなかったチーム。二つ目、班員を失ったチーム又は、再起不能者を出したチーム。ルールとして途中のギブアップは一切無し。5日間は森の中にいること!そしてもう一つ……巻物の中身は塔の中に辿り着くまで決して見ない事!」

「途中で見たらどうなるんだ?」というサスケの問いに、アンコさんは極上の笑みで「それは見た奴のお楽しみ♪」と言って返す。

「中忍ともなれば、超極秘文書を扱う事も出てくるわ。これは、その信頼性を見る為よ。説明は以上!同意書3枚と巻物を交換するから。その後はゲートの入口を決めて、一斉にスタートよ!最後にアドバイスを一言……死ぬな!」

 俺はそのアンコさんの激励に、「分かってるってばよ!」と挑発するような笑みを浮かべて言ってやった。これは、さっきまでの鬱憤を晴らすためであったし、アンコさんにこれを言わないといけない気がしたからだ。案の定、アンコさんは「そう、なら頑張りなさい♪」と、純粋な笑みで以って返してくれた。

▼ ▼ ▼ ▼

 そろそろ、こいつと巻物を交換しに行く時間だな。アンコさんからの説明を受けてから約10分。木ノ葉のルーキー達は一塊になっている。その理由として、3チームで合同に進んだ方がいいか。それとも、それぞれで向かう方がいいかという事だった。

 俺としては、それぞれで向かった方が良いと思うんだよなぁ。これは仮りにも中忍の任務を仮想したモノで出来ている。任務を遂行する場合も通常4マンセルから3マンセルで行う。なら、ここも班毎で別れた方が絶対に俺達自身の為にもなる。ま、後は大蛇丸の事もあるからな。

「ねぇナルト、一緒に行きましょうよ。その方が絶対にいいって!」

「い、いのちゃんの言う通りだよナルト君!わ、私がいればすぐに相手チームの事見つけられるし!」

「俺は別にどっちでも構わねぇけど、楽な方に乗らせてもらうわ」

「楽な方って……あんたいつもそうやってメンドイ〜って言ってるけど、ちょっとはやる気出しなさいよ。私は反対。確かに大人数で行けば戦闘は楽かもしれない。でも、それが本当にメリットだけとは限らないわ」

「春野の言う通りだ。中忍とは仲良しごっこしていて成れる程、簡単になれるものではない筈だ」

「シノとサクラに賛成ってんじゃないが、俺も自分がどんくらい強くなってるか知りたいと思ってたところだ。何よりこれはチーム戦。本戦に行けば俺達同士で戦うことになるかもしれねぇ。それなのに、自分の手の内をさらすなんて俺はしたくねぇよ。なぁ赤丸!」

 ワンワンッ!!

「僕はどっちでもいいや。どうせ、お菓子はこの一袋だけなんだし…………」

「俺もこいつらに賛成だ。仲良しこよしもいいと思うが、俺達は忍者だ。自分達の危機は自分達で乗り切る。ナルト、お前はどう思う?」

 うん。一通りこいつらに話し合わせたけど、やっぱりイノ・シカ・チョウの三人とヒナタだけのほほんとしてるかな。サクラの奴も内心じゃ、サスケと二人っきりになりたいが為に言ってるかもしれねぇけど…。

「そうだな。俺も別々に行動する方に一票だ。俺ら個々の力を試すのは勿論の事だが、この試験が中忍の任務を仮想しているところに注目するべきだ。任務は本来4マンセルか3マンセルでやるもんだしな」

 俺がそう言えば、それぞれ思う事があったんだろう。いのとヒナタは恥じ入るように下を向き、シカマルとチョウジは適当に頷き、サスケとシノ、キバの三人は挑戦的な笑みを俺に向けてきた。サクラは…サスケの横顔に夢中で俺を見てさえいない。

「それぞれ思う事もあると思うけど、ルーキー全員で本戦行こうぜ!」

「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」

 右の拳を全員で突き出して、誓う。それを遠巻きに他の下忍達が見ていたようだが、俺達にはそんなものは関係ない。突き出していた拳を引き、俺達は三つに分かれた。

 俺達第七班はすぐ傍の小屋に歩いていき、同意書を提出して巻物を手に入れた。巻物は『天の書』だった。

 そして、小屋から出て少し歩くと、俺達に割り当てられたゲートの入口に立ち、スタートの合図を待つ。

▼ ▼ ▼ ▼

『ナルト、サスケ、サクラ』がいるゲート

「誰が巻物を持つ?」

「サスケでいいんじゃね?」

「私もサスケ君でいいと思う!」

「分かった。なら、俺が持つ」

 サスケはポーチの中に巻物を入れ、ゲートの向こう側に顔を向ける。サクラはそれに吊られるようにして森の方に体を向け、ナルトは屈伸を一つしてゲートが開くのを待つ。

▼ ▼ ▼ ▼

『キバ、シノ、ヒナタ』がいるゲート

「やってやる、やってやるぜ。ナルトより、早く中央の塔に行ってやる!」

「…………」

「ナルト君……ううん。私は強くなるって決めたんだ。頑張れ私!」

 キバはナルトに対抗心を燃やし、シノは自分の実力を試すべく、ヒナタは思いを寄せる少年を思い、スタートの合図を待つ。

▼ ▼ ▼ ▼

『シカマル、チョウジ、いの』がいるゲート

「めんどくせぇけど、俺だってやる時はやるってところをみせてやらねぇとな」

「ご飯…お菓子…お肉……」

「ナルトはああ言ってたけど、やっぱり一緒に行きたいし……そうだ。偶然ばったり会っちゃったら仕方ないわよね。フフフ、待ってなさいよナルトぉ〜!!」

 シカマルは先程サクラに言われた事が何気に傷ついたのかいつもとは違う真面目な表情をし、チョウジに至ってはまだ未練がましくそう呟き、恋する乙女と化しているいのは違う意味で燃えていた。

▼ ▼ ▼ ▼

 音忍3人組がいるゲート

(フフ……やっと、この機会が来た。公然と我々の使命が果たせるチャンスが。待っていてくださいねうちはサスケ君)

 全身を包帯で巻いている無口な男、ツンツンに立てた黒髪と不機嫌そうな顔の男、特に目立った外見をもたない女。この3人が狙うのは原作通りうちはサスケ。その事をナルトは覚えていなかった。

▼ ▼ ▼ ▼

『カブトチーム』がいるゲート

(サスケ君、君の実力試させて貰うよ。それにうずまきナルト……フフ、本当にこの里は実験材料に事欠かない)

 カブトは嫌な笑みを顔に浮かべる。その時に丸眼鏡がキランっと光ったのは当然である。

▼ ▼ ▼ ▼

『我愛羅、カンクロウ、テマリ』がいるゲート

(敵チームもそうだが、我愛羅と5日間もいるのとか……不幸じゃん…)

 不安が全開のカンクロウは肩を下げて顔も俯いている。

(うずまき、ナルト……!!何を考えているんだ私は!)

 一次試験の時に隣だった木ノ葉の下忍の顔がテマリの頭に浮かぶ。金色の髪に、整った顔立ち。テマリは頬を赤くしながらスタートの合図を待つ。

(うずまきナルト、俺はお前と戦いたい!)

 自分の殺気を当てられてもどこ吹く風。また、自分より濃密な殺気を放てる木ノ葉の下忍を思い出し、チャクラを渦巻かせて我愛羅は待つ。

▼ ▼ ▼ ▼

 大蛇丸のいるゲート

「フフフ、サスケ君が欲しいけど、うずまきナルト……貴方も欲しくなったじゃない♪」

 変態のその言葉を聞き、同じチームの二人がお尻を押さえる。このチーム、ナルトにとって一番厄介な存在になる事必至である。

▼ ▼ ▼ ▼

『ネジ、リー、テンテン』がいるゲート

「ガイ先生……僕はやります!そしてサクラさん、あなたの元に今馳せ参じます!」

 自分を鍛えてくれた尊敬する先生と、一目惚れしたサクラの事を思いながら、ゲジまゆことロック・リーは吠える。

「うちはサスケ、それにうずまきナルト……」

 眉間に皺を寄せて森を睨むネジ。

「金髪君……なんか会える気がするんだよねぇ〜何で貸しを返してもらおっかなぁ♪」

 女の勘に寄ってナルトと会えると確信するテンテンは面白そうに笑みを浮かべる。

▼ ▼ ▼ ▼

 そして、全てのチームの準備が終わった。みたらしアンコが腰に手を当て森を見る。

「全員、担当のチームについてそれぞれのゲートに移動して!これより30分後に一斉にスタートする!」

 その言葉と同時にゲートのカギがそれぞれ開けられて行く。

「これより、中忍選抜第二の試験!開始!!」

 そして、アンコの号令と共に第二の試験が始まった。

「あの3人ですね?」

「ガキどもを探せ!!」

 大蛇丸率いる3人組が凄まじい速度で駆け出して行く。狙うは、第七班。ナルトのいるチームだ。

「それじゃあ、行くってばよ!!」

「ちょっとナルト、サスケ君より前に出ないでよ!」

「フンッ」

 そしてナルト達第7班もスタートする。




あとがき
あけましておめでとうございます!ちょっと仕事の方でバタバタしてしまいましたが、これから執筆活動再開します!
今年もナルト、いちご、二度目、三つともよろしくお願いします。



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