「な、何か緊張して来たわね……」

 森の中を枝をつたって走り抜けていると、後ろの方でサクラがそう呟いた。二次試験が始まって少ししか経っていないにも関わらず、右の方から悲鳴のような声が響いてきた。サクラはその悲鳴が聞こえた時からそわそわと周りを見回しながら、俺とサスケに付いて来ている。

「ね、ねぇ二人とも、さっきの何だったと思う?」

「決まってるだろ。もう戦闘が始まっているんだ。あんな無様な悲鳴を出すなんて、やられた奴はクズだな」

「サスケの言う通りだな。てかサクラよぉ。この試験は戦闘する事を前提にしてんだから、悲鳴の意味なんて簡単に分かるだろうが。ま、それ以外の事で悲鳴上げたんなら、そいつはこの試験生き残れねぇよ。そんな事より……俺達がお前に合わせて走ってるの分かってんのか?口より足を動かせよ」

「う……わ、分かってるわよ!………ナルトの癖に…」

 おい、聞こえてるぞデコ介。後ろをチラッと振り向いてみたら、額に貼った湿布を撫でながら、俺達に付いて来るサクラの姿が見えた。あれで少しは懲りたと思ったんだけど、やっぱりサクラはサクラか。

 それは俺達がゲートを出発する少し前。俺の事を一次試験の時に馬鹿にしてたと思われるこいつの額にデコピンを喰らわせたんだ。勿論ただのデコピンなんて俺がするわけもなく、サクラの額に傷がつくかつかないかのギリギリの強さのデコピンを喰らわせてやった。

 サクラの奴そんなデコピンを喰らったもんだから、後ろに勢いよく倒れると地面に後頭部をぶつけてすげぇ痛がってた。

 俺とサスケはそれを見て一通り笑ってから、サクラの痛みが治まるまで待つことなく出発した。サクラは泣きながら付いて来て、しばらく鼻を啜る音を出してたな。

 そして、今に至るってわけ。サクラの事を意識から飛ばしてチャクラの気配を探ってみると、俺達の方にクソ弱いチャクラが近寄って来るのが分かった。

 こいつは大蛇丸じゃないな。放っておくか?……いや、これは使えるかもしれないな。

「なぁ、もう少し行って今日の拠点にする場所を決めたら、一旦別れて食料探しに行かねぇか?」

「そうだな。拠点があるとないとじゃ違ってくるだろう。サクラもそれでいいか?」

「うんうん。私もそれに賛成!」

 最初にサスケに振ってからサクラを同意させる。これが、第七班での俺の意見を通す時の暗黙のルールになっている。ま、そんな事は横に置いておくとして……サスケとサクラの二人は他里の忍びと戦った経験がこの前の波の国の任務が初めてだったわけだ。

 俺としてはここいらでサスケとサクラには他里の忍びと軽く戦ってもらって、経験値を稼いで貰いたいわけよ。これから先、他里の忍びとは何度も戦う事になる。サスケはまだ良いが、サクラの奴にはこの二次試験相当頑張ってもらわないとな。

 それに……俺は大蛇丸からの襲撃に備えないといけないしな。

「よし、なら少しスピード上げるぞ。サクラ!ちゃんと付いて来ないと……またコレ、だからな」

 中指を弾く動作をすると、サクラが慌てて「わ、分かったから。ちゃんと付いて行くからそれはもう勘弁して!!」と返してきた。俺とサスケはそれに笑みを溢して、枝から枝へとつたって走っていく。

 そして、約一時間後。ちょうど開けた場所に出たので今日はここを拠点にする事を決めて、俺達はそれぞれ担当するものを決めて探しに出かけた。

 俺の担当は、主食となる肉か魚。予め、ここに来るまでに目星を着けていた場所に行ってみると、案の定でっかい熊が爪で木を傷つけているところを見つけた。縄張りだと主張してんのか?とか思ってみたりして。

 熊の後ろに跳び下りて、そのでっかい背中に拳を叩きつける。傷つけることを前提にした拳打は、熊の背骨を折ってそのまま前に倒した。これで、俺のノルマは達成だな。さて、それじゃあ戻ってみますか。

 熊を倒すのは一瞬で終わったけど、ここから拠点まで行って帰って来ると時間はちょうど一時間くらいかかる。ま、本気で走れば半分の三十分くらいで着くし何より飛雷神の術を使えば一瞬だけど、それじゃあいつらの為にならないし、俺はゆっくり行こうかね。

 どっこらしょっと、熊を背負うようにしてから俺は歩き出す。前世で小さい頃に歌った事のある歌を口ずさみながら…。

「ある〜日、森の中〜」

▼ ▼ ▼ ▼

 ナルトが森○熊さんを歌っているその頃、サスケとサクラは拠点となる開けた場所でナルトを待っていた。

「ナルトの奴遅いな……」

「本当……あいつどこまで行ったのかしら」

 二人はそんな会話を既に何回と繰り返していた。なぜそうなっているのか、答えは至極簡単。ナルトがそうなるように仕向けたからである。それを知らない二人は、帰りの遅いナルトにイライラしながら待つ事になっている。

 また、これはナルトのあずかり知らぬ事だが、サスケがサクラの事を意識し出しているのも原因の一つでもあった。

 アカデミー時代。それから波の国の任務に行くまで。サスケはそれまでサクラの事を他の鬱陶しい奴らと同じと思っていたが、今日まで同じ班で一緒に活動していると、サクラがそいつらと違うように見えて来て、それからはナルトが間にいなければいつもこの気まずい時間を過ごすようになっていたのだ。

 サクラも気まずい空気が流れている事を感じていたが、それはサスケが自分のことを嫌っているからだと思っていたし、何より自分は二人の足を引っ張るお荷物なのではないかとも、ここ最近の任務から感じはじめてもいた。だから、この空気を何とかしようにも、ナルトという仲介がないと何もできないサクラなのであった。

 サクラがこの時サスケの思いに気が付いていたら、この時間はとても甘い時間になっていたかも知れない事に、サクラはこの時気付きもしない。

 そして、更に待つ事数分。二人の目に鮮やかな金色の髪とオレンジ色の服を着た少年が飛び込んできた。二人の待ち人でもあるナルトであった。

「いやぁ、遅れて悪い悪い。これを狩るのに時間掛かったってばよ」

 そう言ってナルトは手に持つ野ウサギを二人に見せながら近づいて来る。

「あんたそんな小さいの狩るのにこんな時間掛けてたの!?掛かり過ぎよ絶対!どうせ、どこかで寄り道でもしてたんでしょ」

「あ、ばれた?実はここに戻る途中にトイレしたくなって、そこらでしてたんだってばよ」

「…………」

 サスケはナルトにいつもは見せない目を向けて、腰を下げて構える。

 そして、サクラがナルトの言葉を聞いて「あんたは……レディの前でそんなこと言うな!!」と近付こうとした瞬間、サスケは一瞬でナルトの前に移動し、ナルトの顔へと右の拳を叩きこんだ。上体を仰け反らせて、ナルトはそのまま木に叩き付けられる。

(……え?)

 その余りの出来事に一瞬言葉を失うサクラだが、「サ、サスケ君……幾ら何でもそこまでしなくたって…」と、殴られて顔を押さえているナルトを見ながら口を開く。

「な、何すんだってばよ!!」

 木に叩き付けられたナルトは、手で顔を押さえながらゆっくりと起き上がった。しかし、サスケは敵に対峙した時のように眼を細め、「本物のナルトは何処だ!」と、切り返す。

「え?」

「きゅ、急に何わけわかんねぇ事……」

 どう見ても眼の前にいるのはナルトだと思うサクラは、サスケとナルト?を交互に見る。サスケはサクラが分からない事に対して溜息を一つ出し、人差し指をナルト?の左足へと指す。

「手裏剣のホルスターが左脚に付いている。ナルトは右利きだ。それに決定的に違うのは……あいつが俺の攻撃をただ黙って喰らうかよ。お前は、三流の忍者だな」

「!!」

 サクラは言われて見て初めて違いに気が付いた。「直ぐに気付け馬鹿」と、サスケに言われても仕方ない。

「ククク・・・・アンラッキー!バレちゃあ仕方ねぇ!!巻物持ってんのはどっちだ?」

 くぐもった笑い声を上げ、ナルト?の身体が白煙に包まれる。すると、その白煙から現れたのは口に変な器具を取り付け、目元を布で隠した忍。

 そして、よく見れば全身タイツのような服……所謂『変態』がそこにいた。額当てには『雨隠れの里』を象徴する4本の縦線が入っていて、サスケとサクラは反射的に戦闘態勢を取る。

「こうなったら実力行使だ!」

 雨隠れの変態が狙いを定めたのは……サクラの方だった。サスケと違って戦闘能力が低いと判断したのだろう。雨隠れの変態はサクラに跳びかかったが、そこにサスケが術を行使してそれを防ぐ。

≪火遁・鳳仙火の術ッ≫

 口元に手を添えて体内で練られたチャクラを炎の性質へと変換させ、無数の火球を変態に繰り出す。だが、それは雨隠れの変態の素早さが高いせいか、次々と回避されてしまう。

 それを見たサスケは、雨隠れの変態に徒手空拳を繰り出す。サスケの拳が、掌底が、肘が、膝が、足が次々と雨隠れの変態を襲う。何発も当たるが有効打とはなっていないのだろう。急所を守りながら雨隠れの変態は後方へと跳び、距離を開こうとする。しかし、それを許すサスケじゃない。

「逃がすかよ!」

 サスケは自分のチャクラを雷の性質に変化させて、それを左右の手に持った四本のクナイへと流し、左右の腕を交差して雨隠れの変態に投げつけた。

 雷遁のチャクラを纏ったクナイ。雨隠れの変態は三本のクナイを避ける事に成功した。だが、最後の一本は避け切れずに利き腕の左肩に喰らってしまう。

「ッグ……」
(…利き腕をやられた……こいつはアンラッキー!気配を消す為に単独で来たのが仇となったか……だが、只で終わる訳にはいかねぇ!)

 怪我をした左肩などお構いなしに、変態は振り返りサスケにクナイを投げ付ける。

「フンッそんなもの喰らうかよ!!」

 サスケは口元を釣り上げ笑みを溢し、クナイを逆手に持って向かってくる六本のクナイを弾いていく。だが、それも弾いたクナイが爆発した事で焦ったものに変わる。

(起爆札かっ!)

 近くに弾いたクナイが突き刺さり、爆風がサスケを襲う。腕を交差して何とかダメージを最小限に抑え、サスケは地面に降り立つ。そして、サスケが変態がいると思われるところを見てみるがそこに姿はなく、後ろからサクラの悲鳴と変態の声がしたので、振り返ってみると……。

「これぞラッキー!動くとこいつを殺す!!巻物を大人しく渡せ!」

「サスケ君!!」

 サクラがサスケの名を叫んだ。敵を弱いと決めつけ油断していた自分に怒りを覚えるサスケだが、状況は変わらない。サクラの首にクナイを突き付ける変態は、ニヤッと笑みを浮かべた。

「さぁ早く巻物を渡せ!でないと、ククク…」

「さ、サスケ君……」

「……分かった巻物は渡す。だからサクラを「おいおい、そこで諦めちゃ駄目だろサスケ〜」ナルト!?」

 サスケは自分の言葉を遮って、サクラ達の後ろに現れたナルトを見る。そこには大きな熊のような動物を背負いながら、呆れたような顔を浮かべる本物のナルトの姿があった。

▼ ▼ ▼ ▼

 あぁ〜あ〜〜終わったかなぁって来てみたら何だよ。負けてんじゃんかサスケの奴。いや、敵の肩に抉れた痕があるからサスケは勝ってたのか?それを、あのデコりんが捕まってオジャンにしたと……はぁ…こいつはまたお仕置きが必要か?

「ナルト、遅いぞ!」

「いやいや、これ担いでこんくらいの時間で戻ったら大したもんだろ。それにどう見ても俺にはサクラが足を引っ張ったようにしか見えないんだが?」

「それは……いや、今はそんな事よりサクラを助けるために巻物を渡すぞ。それで「ばぁか。だから諦めんの早過ぎだっての。仕方ねぇなぁ……」」

 熊を下ろして瞬身の術で変態の後ろに移動し、そいつの首を掴み上げサクラを解放してやった。

 サクラの奴は開放された瞬間こそ俺を見たが、次の瞬間には泣きながらサスケのところに駆け寄っていきやがった。助けた俺に礼の一つもしないとか……あのデコ、ボコる。絶対ボコる。

「……まぁそれは後でやるとしてだ。なぁお前。巻物持ってるか?」

「お、お前どうして……」

「そんな事聞いてねぇだろ?巻物持ってんのか持ってねぇのか、どっちだ?」

「そ、そんな事言うと「だよな〜。なら、お前倒して探す事にするってばよ」ゲグァッ」

 首を掴む手にギュッと力を入れると、変態は人間が本来出さないような声を上げて気絶した。まぁこんな奴ここで殺しても仕方ないしな。さて、それじゃ…………なぁんだ。やっぱりこいつ巻物持ってねぇよ。

 ポイっと変態を投げ捨てて、サスケとサクラの所に向かう。こうして、俺が二人に経験値を稼がせようとした戦闘は終了した。

▼ ▼ ▼ ▼

 俺達はさっきまで戦闘していた場所から2キロ程離れた場所で休憩……地面に座り込んで反省会のようなものをしていた。

「さて、お前ら……何か弁解の余地はあるか?」

「ないです…」

「ないな…」

 サクラは泣いて赤くなった目を隠そうともせずに俯いて返事をし、サスケは悔しそうにしながら俺と目を合わせることなく返事をした。

「だろうな。俺があのタイミングで現れなかったらサスケは巻物を渡してたろうし、サクラは悪ければ死んでたかもな」

 サクラを見ると、また泣きそうになってやがった。こいつ…泣けば許してもらえるとか思ってんじゃねえのか?んで、サスケ。お前はもう少し反省しろ。何腕組んで不貞腐れた顔してやがんだよ。

「はぁ……お前達油断し過ぎだっての。これは中忍試験なんだぞ?死ぬかも「しれない」じゃねぇんだ。一歩間違ったら「確実」に死ぬんだぞ?波の国の時みたいにカカシ先生がいる訳でもねぇ」

「うん…ごめんナルト…」

「フンッ……悪かった」

 まぁ、こんくらいで許してやるか。大蛇丸がいつ来るかもしれないから少しでも時間は必要だしな。

「よし、なら今からは今後こういった事がないように、作戦を考えるぞ」

 それから、原作通りか分からねえけど、三人が一旦バラバラになった時に暗号で受け答えする事、片時も油断しないで常に緊張感を保っている事等を話し合った。

 その際に、デカいチャクラを持った奴が地中に潜んでいる事に気付いたが、離れていったのでまだ襲ってはこないと判断して、その時が来るのを待った。間違いなく、あれは大蛇丸だ。気持ち悪い視線が俺とサスケにいってたしな。

 そして、その時が来た。それは、サスケが再び「今度は巻物は死んでも渡さない。だから、今度も俺が持つがいいか?」と聞いてきた時だった。

 風が吹いた。しかし、それはそよ風のように柔らかいモノじゃなかった。確かな殺意を持った風が俺達に向かってくる。

「痛っ…なんでいきなり石が……」

 サクラがむき出しにしていた、自分の足を押さえながら飛んできた小石を拾い上げる。

 その風は、益々威力を増して俺達を襲う。来やがった!

「新手か!!」

 これが異常な風だと理解したサスケが叫ぶ。俺は印を瞬時に組み、向かって来る風に向けて術を放った。

≪風遁・大突破ッ≫

 大蛇丸が放っただろう術と同じ術を放って相殺する。小手調べのつもりか知らねぇが、こっちは端からお前をボコる気満々だっての!

「おい、そこにいるんだろ?出て来いよ変態野郎。さっきから気持ち悪い視線送って来やがって」

「あらあら、フフフ……ナルト君、あなた面白いわね」

 森の奥の方に指を差すと、オカマ口調と共に三人の姿が見えてきた。編み笠を被り、額当てには『草隠れの里』の印が刻まれている。大蛇丸以外の二人邪魔だな……サスケに任せるか。

「サスケ、お前は横にいる二人と戦え。サクラ、お前はサスケの援護だ。…さっきの失敗を挽回して来い!」

「フンッ!直ぐに片付けてやる」

「分かったわ!」
(やってやるわよ!恐いけど…気合だぁ!!しゃ〜んなろ〜!!!!)

「作戦会議は終わったかしら?フフ…それじゃあんた達は、金髪の子と桃色の子を相手にしな「それは悪いな。あんたの相手は俺だってばよ!!」へぇ面白いじゃない!」

 大蛇丸の言葉を遮り、瞬身の術で背後を取って回し蹴りを繰り出すが、それを難なく回避される。大蛇丸の横にいた二人が俺に攻撃をそれぞれ繰り出してきたが、そいつらの腕を取りサスケとサクラのいる方に投げる。

「そいつらは任せたぞサスケ!!」

 サスケとサクラ、そして俺が投げ飛ばした大蛇丸の部下二人が、ここから離れて行くのをチャクラの反応から察知する。

 そして、俺は意識を完全に大蛇丸一人にだけ向ける。大蛇丸は俺の攻撃を回避してからは俺の行動を観察していたようだった。

「フフフ……本当に面白い子。あなた、九尾の子よね?あの子がこんなになるなんてねぇ。…サスケ君が欲しいけど、あなたも欲しくなったわ」

「ハハハハハ……それはそれはありがたい…って言うか!!気持ち悪いんだよお前!」

 大蛇丸と対峙する。こいつは、基本蛇の名前が付く技しかしてこなかった筈…。なら、ここはあいつがまだ俺の事を舐めている今が絶好のチャンス!

「……私に勝てるかしらボウヤ?」

 殺気を叩きつけられるが、そんなチャチな殺気じゃ俺には効かないぞ変態!

 風遁、雷遁を右足、左足にそれぞれ纏わせて一気に大蛇丸と距離を縮めて繰り出すのは『風雷連脚』。脚に風と雷の性質変化を加えて相手を連続で蹴る俺がさっき即効で考えた技。

 それは、自分の殺気をものともせずに攻撃してきた俺に驚いている大蛇丸には、回避する事が出来ずに風遁を纏った右足は左腕を、雷遁を纏った左足は右腕をそれぞれ急襲した。

 ボキッ…そんな音がした事から、骨を完璧に折った事が分かる。だけど、こいつは脱皮なんていうふざけた、『術』があるから期待はしない。俺は立て続けに蹴りを繰り出すが、大蛇丸も伝説の三忍と呼ばれた忍者……俺が只の下忍じゃないとこの時になって理解し、攻撃を回避して後方に跳んだ。

「……あなたの事甘くみてたようね…。今度はこっちから行くわよ!」

≪潜影蛇手ッ≫

 大蛇丸の折れた腕から蛇が何匹も出て来て俺に向かってくる。それをクナイで斬り裂き、今度は風遁を纏わせたクナイで斬りつけようとするが、大蛇丸はそれを口からビュっと刀を出して防いだ。これは、草薙の剣……風遁を纏わせたクナイが切り裂く事が出来ない程の業物。

 更に大蛇丸は口からニュルルっと脱皮して、折れた腕も俺の予想通り治った状態になっていた。しかもその腕に、口から出していた草薙の剣を持ってだ。

「これは、そんじょそこらの剣じゃないの。あなたのクナイじゃ傷もつけられないわよ」

 そう言って、草薙の剣を振るう大蛇丸。はッ!俺がこの時のためになんの準備もしてない訳ねぇだろうが!

 右の親指を噛み千切り、左の甲に書いてあった文様に親指を走らせる。

≪口寄せ・チャクラ刀『妖刀村正−天狼』≫

 ボン…と白い煙と共に俺の右手に握られるのは、五尺にもなる大太刀。これは父さんと九尾、それから俺の三人で修行中に造った物。九尾のチャクラと俺のチャクラを流しながら、父さんが持っていた玉鋼を使って父さんが打ってくれた俺のためだけの刀。

 九尾のチャクラが流し込まれたせいか妖刀となってしまったが、切れ味は草薙の剣と同等か、それ以上。

「俺のコイツもそんじょそこらの刀じゃないぞ。さぁ、俺のコイツとあんたのそれ、どっちが上かな?」

 俺のその言葉に大蛇丸が、それまで浮かべていた笑みを引っ込めて、草薙の剣を片手に持って俺に向かって振り降ろして来た。それを天狼で受けて俺の馬鹿力で押し返す。

「グ……」

 うりゃあああああ!!!

 押し返して、振り抜いた。それを大蛇丸は剣を引いて横に避ける。天狼が地面に叩きつけられ、軽いクレーターを作るがそれを無視し、俺は大蛇丸に今度は切り上げをくらわす。

 天狼が大蛇丸の体を切りつけたが、ボンっと音がして丸太に変わる。変わり身の術か!本体は……そこか!!

 手裏剣を三枚取り出し、モーションを小さく大蛇丸がいるであろうところに投擲する。

 草薙の剣で弾かれるが、俺はそこに天狼を振り降ろした。タイミング的には回避は不可能で、草薙の剣は横に泳いでいる今防ぐ事も出来ない。天狼は、俺が思った通りの軌跡で大蛇丸の胸から腹にかけてを切り裂いた。

 大蛇丸は剣を持たない手を胸に当て、後方に跳ぶ。俺は天狼を地面に突き刺して、印を組む。

≪影分身の術≫

 三体の影分身を出し、それぞれ性質変化を着けた螺旋丸を作る。俺は火遁。三体がそれぞれ、風遁、土遁、水遁。それぞれもちろん5本の指バージョンだ。

「それは危険ね……流石の私でも死んじゃうかも」

「当たり前だ。俺ははじめから『大蛇丸』、あんたを殺す心算(つもり)で戦ってたんだ」

「!?私のことをどこで知ったのか分からないけど……今日はこの辺で、退いた方がいいみたいね」

≪口寄せの術!≫

 大蛇丸が自分の血で口寄せしたのはでっかい蛇。

「逃がす訳ないだろうが!!」

 蛇の鼻の中にニュルっと入りこんだ大蛇丸。俺は影分身達と同時に跳び蛇の顔面を俺が、そして三体がそれぞれ違う場所に螺旋丸を叩きこんだ。

 蛇の体が吹き飛び、血肉が俺達の体に振りかかるがそれを構うことなく、大蛇丸を探す。目をそこかしこに走らせるが、姿はない。目を閉じて大蛇丸のチャクラを探ってみると、俺が探れる限界ギリギリのところにいる大蛇丸を見つけたが、逃げ脚だけは早いらしく直ぐに分からなくなってしまった。

「クソッ……まぁいいか。天狼でつけた傷はそう簡単に治癒しないし、いくら大蛇丸にカブトがいるって言っても大丈夫だろう。サスケの呪印イベントを阻止出来たんだし、それで良しとしておくかね」

 影分身を消して、地面に突き刺していた天狼を口寄せの応用で俺の家の自分の部屋に戻し、俺はサスケとサクラの二人がいると思われる場所に向かった。

▼ ▼ ▼ ▼

 サスケとサクラがいる場所に着いてみると、二人が背中合わせで地面に座り込んでいるのを見つけた。何やってんだこいつら??

「おいサスケ、サクラ」

「「!?」」

 俺の声にビクッと体を震わせて、俺の方に顔を向けて来る二人。体には切り傷やら土汚れやら血やらが付いているが、どちらも健康そのものって感じだし大丈夫だな。

「な、ナルト、あんた大丈夫だったの?」

「ああ、この通り少し汚れてるが俺は平気だ。お前達も頑張ったみたいじゃないか」

 二人の座るところから少し離れたところに大蛇丸の部下だと思われる二人が倒れていた。サスケを鍛えといて正解だったな。てか、サクラがちゃんとしてるかしてないかで、こんなに違うのかよ。

「フンッ…さっきの失敗はこれでチャラだろ」

「そうだな、これでチャラだ。それじゃ、食料を放置してきた場所に行こうぜ。他の奴らに奪われるのとか、勘弁して欲しいからな」

 二人に背を向けて腕を後頭部で組んで歩き出す。後ろの方で、サスケとサクラが立ち上がる気配がした。

「待ちなさいよ、ナルト!私達疲れてるんだからもう少し」

「……俺が肩を貸してやろうか?」

「え……でも………いいの?」

「いいって言ってるだろ!……早くしろ」

 後ろでこんな会話がされてるが、俺は空気を読んで何も言いません。吊り橋効果っていうのかこういうのって?

 第二の試験、一日目。何とも濃い一日はこうして終わりを告げた。

 あ、でもやっぱりウザかったから、二人を冷やかして甘い空気を出すのを止めさせた。そん時にサクラが文句を言ってきたから、デコピンを喰らわせたのは言うまでもない。




あとがき
次回の更新も出来るだけ早くします!



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