プロローグ3


ショウマをつれてきて早くも4ヶ月が過ぎた。

彼は教えたことをスポンジが水を吸収するかのように覚え。自分のものにしていく。

そんな中、私は次なる作戦に間に合うように次々と仕事を片付けていく。

特殊交渉士のネメシア曰く、ガラクタ遊びらしいが・・・。

まぁこの体もそんなガラクタで出来ているのだからガラクタも馬鹿にできない。

なんと言ったかな、そうこちらの言葉で正式名称を 「Felis silvestris catus」

だったかな、なじみのある言葉でいえば、「ネコ」とか言うらしい。

さすがにそのネコのなりではガラクタいじりは若干面倒ではあったが

尻尾にはワイヤー式の隠しマニュピュレーターもあったし、

補佐のマシンを作ってしまえば後は簡単だった。

ソフトウェア関係は非常に楽で、高性能の電子頭脳が予想以上に役に立つ。

その点を考えれば多少のハードウエアの構築が面倒なのもあまり気にならない。

ジョロとか言うメカの部品とデータを元に小型の多目的ロボットが思いのほか役に立ったので

量産して20体ほど造りテストでアカツキの家を群れなして走らしたときは実に面白かった。

あの、クールな顔の引きつりようは思い出しただけで笑える。

なんでもジョロは数年前は敵の兵器だったらしい。

私はそのジョロの大まかなデザインを特に変えることをしなかったので

そんなものが群れをなして屋敷を走り回っていたら驚くのも当たり前であろう。

しかし、残念ながらそんな趣味で実用的で可笑しな日々も長くは続かない。

1歩間違えば命取りの日々に変わっていくのが我々の常である。





「さて、ここか。」


そう猫が告げると。


「ここが、ヤツらのラボですか。」


「そう、作戦の目的はテンカワ・アキトをここから逃がすこと。

 あと我々の潜入後、数体のジョロを投下し、破壊活動にでる。

 派手にやるからガレキの下敷きになるな。」


「了解、ですが目標はうまく逃げてくれるのでしょうか?」


「さぁ、どうかな、それは運次第ってとこかもな。」


「なるほど。で、どうなんです。フロックスさんは運気のほうは?」


「体を失い機械の猫の姿、これで運がいいといえると思うかい?」


そう眼だけを動かして少年を見る。


「そうですね。向こうも新婚早々拉致ですから運がいいと思えませんし・・・。」


やれやれとした表情でいう。


「そうですね。じゃぁ、運の無さは実力でカバーするしかないようですね。」


「そうだな。」



などとニヤリと二人で笑い意気投合する。すると二人は顔をキリリとさせ

フロックスの毛の色を変色させ光学迷彩化し、

少年は自分の装備を最終確認して

合図と共に二人は別々に森の中を走り抜けていった。

二人は無線で連絡を取り合いながら行動をする。

主に少年が派手にドンパチをやり陽動し爆弾を仕掛けて爆破させていき、

猫が研究室のシステムを誰にも気がつかれないように掌握していくという作業であった。

ショウマは、銃撃戦においても人を超えた能力であったし

また猫は、サイズとその光学迷彩から見つかることもなく

ハッキングも電子頭脳でらくらくこなしていったのでなんら計画に問題は無かった。


「ショウマ、目標テンカワ・アキトのほかにもう一人捕獲されてる者がいる。いまデータを転送する。」


データを転送された端末の画像をマシンガンを連射しながら確認すると、

ピンクの長い髪に金色の瞳にすける様な白く美しい肌。


「あ、かなりカワイイですね。好みのタイプですよ。」


と元気よく答える。しかし、その声の裏では銃声の音が激しくなっている。


「うむ、なかなかだろう? って、君の趣味を聞いているわけではない。

 だが、データからすると、彼女は10代前後ぐらいと思われるが?」


「え?そうなんですか。まぁそれもいいですよね。」


「む、お主なかなかいい趣味してるな。とそれは置いといて、なんだか余裕だな。」


あまりに何事もないような言葉で喋る少年に猫は驚いていた。


「いえ、そんなことないですよ。結構実は危険なんです。銃弾とか銃弾とか銃弾とかバンバン飛んできますし。」


「そ、そうか・・・気をつけろよ。」


「了解!それでは、先客が遊んでほしいといってますのでこれで。」


このときフロックスはすでに驚きを超えて飽きれていた。

しかしその反面、危険な時もジョークを言える精神を持ち続けていることを心強いとも思っていた。




       ∽





すでに死亡とされた男がそこにいる。狭い鍵のかかった個室。

いつもなら静かな部屋が僅かに揺れていた。

どれもボンヤリとしか見えない眼であるがその振動を体で感じることができたので

はっきりと分かった。すると、ガキンとドアの電子ロックが開く音がした。

その後誰かが入ってくる気配は無い。僅かに見える視力と手探りでドアまでいき

ゆっくりと空けてみる。すると、爆発音なども聞こえてきた。

これは、逃げ出すチャンスかもしれないと青年は廊下を走る。

どこで、どう走ったかはよくわからないが、時折、黄色い饅頭のようなものが

降ってきているのが見えていた。

そんな中、廊下で見慣れぬピンク色の何かが見えた。

青年はそれがなんだか始めは分からなかったが、ようやく少女であると分かった。

少女はボーっと立っていた。


「き、君は?」


返答はなかった。


「こんなところにいたら危ないよ。この建物は崩れるかもしれない。」


そう言うも、やはり返答はない。彼の視力は余りにぼやけてしまっているので

本当にそれが人なのか不安になってきてしまっていた。すると、


「私はラピス。ラピスラズリ。私はいいの、お兄さんは逃げて。」


そう返事が返ってくる


「ここにいたら死んじゃうよ。ほら行こう。」


すると少女が首を振ったようにピンクが動くのが見えた。


「いいのここ以外行くところもうないし、私は死んだほうがいいの。」


「なに馬鹿なこといってるんだ!君はまだこうして生きてるじゃないか。」


青年も、その大きな声で怒鳴っているのに自分でも驚いた。

この2年近くの歳月でそんな感情はなくなってたと思ってたのに。


「ご、ごめん、驚かしちゃったね。君みたいな子がそんな子といっちゃだめだよ。」


そう言いながらしゃがみ、おどらく顔がそこにあるだろう高さに自分の顔を合わせる。


「オレ、もう眼がほとんど見えないんだ。ボンヤリとしか。だからさ、僕の眼の代わりに

 君が出口まで教えてくれないかな。」


そう青年が優しく言いながら、少女の手を取る。

すると、少女はコクリと頷いた。


「よし、じゃぁ、いこうか、オレはテンカワ・アキト。よろしくな。」


「テンカワ・アキト・・・」


そう少女は聞こえないように名前を復唱した。

そうして二人は手をつなぎ崩壊しつつある建物の廊下を走り出す。

すると、先ほどから時折見えた黄色い巨大な饅頭のような物が廊下に立ちふさがっていた。


「アキト!!」


そう少女が叫ぶと青年は止まり少女が足にしがみつく。


「あれは何んだい?ラピス。」


「ロボット・・・虫の形してる。ロボット。


すこし怯えながら少女が答えると、

青年はハッと気が付いた。黄色い饅頭に見えた虫型のロボット。


「ジョロか!」


そう言い青年が身構えると、ジョロは突然姿を消してしまった。


「ラピス、あのロボットどこだ?」


「いない・・・どっか消えちゃった。」


「ラピス、ちょっと待ってろオレが様子を見てくる。」

そういい単独でさっきジョロがいた場所へ向かっていく。

ボンヤリ見える視力で曲がり角を見るも黄色い饅頭は視界にうつらなかった。


「大丈夫みたいだな。さぁラピス行こうか。」


と振り向きながら言うと突然の振動、そして少女がいる天井が割れて落ちてくる。

なぜかボンヤリしか見えない眼でも天井のガレキが落ちてくるのが見えた。


「ラピス!!にげろ!」


と走りながら叫ぶも見えない眼では壁破片を踏んでこけてしまう。

ラピスも人間の反射反応で頭を抱えて座り込んでしまっていた。

もう間に合わない。そんな中青年の脳裏には助けられなかったあのときの少女が

走りこんでいた。アイちゃんと言う名の少女が頭いっぱいに広がっていた。


「ラピス?ラピス??」


そう錯乱しながら瓦礫のほうを見つめ叫ぶ。


「俺は、また、俺は、また、俺は!!うわぁぁぁーーーー!!」


青年はありったけの声で叫んでいた。


「まぁ、そう悲観するな。間一髪で滑り込みギリギリセーフだ。」

見知らぬ男の声にアキトはハッとすると、瓦礫の山が一部消し飛んだ。

ぼやけてる目ではよく分からなかったがラピスは安全だったようだ。


「ら、ぴす!?よかったーはぁー。一体どうして?」


「なに、ちょっと防壁の魔法をつかったのさ。お前さんを昔守ってたのと同じ力だよ。
 
 さぁこの建物は持たない、さっさと脱出するぞ。」


青年は男の声の主を探すがまったく見つからない。キョロキョロするばかりである。


フロックスは光学迷彩を解除していたが彼の眼では見えていなかった。


「テンカワ・アキト・・・眼、見えないのか!?」


その質問をすると、隣の少女がコクリと代わりに頷く。

そして、少女は青年の手を取り猫に案内され建物を出てそのまま走り開けた場所にでる。

すると細長く先がとがった戦艦が置かれていてそれに二人と一匹は乗り込んだ。

戦艦の名は「ユーチャリス」

ブリッジいや、この造りだとコクピットといったほうが良いだろうか?

中央にシートが一つだけ。そこには短髪長身男が座っていた。


「ハイ、2名様ーご乗車アリガトーゴザイマース。」


など変な訛りでジョークを交わす。


「貴方達は?」


そう盲目の青年は問うと、


「そだな、ネルガル会長アカツキ・ナガレ専属の警備隊って言うのが表向きの肩書きだな。

 それい以上は機密事項で教えられない。」


そのどこか懐かしい名前を聞くと少し安心をした。


「アレ、少佐ー? ショウマショウネンハ?」


と、突然、コクピットに座った男が聞くと


「まだだ。少し時間がかかるかもしれんが、大丈夫なはずだ。」


とシリアスな顔付きで猫少佐は答える。大丈夫だを僅かに強調して。

それを見てアリウム少尉はリョウカイと返答した。

このとき猫の目にはジョロからの映像が常時入ってきていた。

そしてそこには、ショウマともう一人、傘を頭にかぶった男が写っている。




「ホクシンとか言ったな。以前の借りを返しにきた。ついでに利子も付けて返えそうか。」


「出来るかな?しかし手間が省けたな我がつれてくる必要もなくなったか。」


そう言い終わるとショウマは一瞬で間合いを詰める。

ほんの僅かな線が空間に走る。


「抜刀術か、生身の人間ならかわせないなそれは。」


それは確かに速かった。純粋にショウマの中でも速いと認識された。

そしてそれを交わされたにもかかわらず、傘の男の口元はわらっていた。

そして、ショウマが今一度間合いを詰める。

すると、今度はキーンと甲高い音がして空間を切る細い線は途中で止まる。

ショウマの手にはジャックナイフ。それも超硬炭素材と鍛え抜かれた鋼の複合の刃。

数秒両者動きがそのまま止まる。そして両者一気に動き出す。

それの動きは見えない速度、ただあるのは両者の刃が通った軌跡の残像のみが

ひたすらに百分の一秒単位で刻まれる。だが、その戦いに水を差すかのように

天井の瓦礫が落ち、両者は離れる。


「次で利子も返させてもらう。」





「瓦礫に埋もれるなんて無粋な死に方はするなよ。実験台。」


互いが距離をつめ、空間をひたすら切り刻む。

だが、いつの間にかショウマの左手には銀色のオートマチック。

刃物戦の至近距離でそれが咆哮を上げる、1発、2発とホクシンの体に叩き込むも

防弾チョッキか何かで防がれる。

それに気がつきそのまま顔に当たる角度に銃口を変え引き金が引かれる。

それを傘男はなんとかかわすも無理な体勢でかわしたので、ショウマのナイフに追いつけない。

その隙を狙い、左目に一撃。北辰は後ろに後退するも間に合わず左目をバッサリと切られた。

それの決着を待ってくれてたのか天井が一気に崩れだす。

そしてショウマの左耳についた通信機が撤収だと告げる。

それを聞くと、瓦礫をみて、即座に建物からの脱出を始めた。



その後ユーチャリスはショウマと駆動可能なカスタムジョロを回収。

ネルガルの月支部までボソンジャンプ。

月支部でユーチャリス、アキト、ラピスを受渡したあと、

3人はフロックスによる生態単体ジャンプで地球に帰還。

月支部ではアキトの失った五感を調整。しかし、結局のところその時点では治せず、

彼専用のバイザーを作製し一部の五感を補佐することになる。

そしてそれから2ヵ月後、彼は事実を知りながら漆黒の復讐鬼になりてブラックセレナを纏い、

ラピスを連れてユーチャリスで暗い暗い闇を旅することになる。





そして地球。ショウマがボソンジャンプで着くなり大声を上げる。


「ああ!少佐!!なんだかゴタゴタしてて大事な事忘れました!」


「どうした?」


「大変です。折角助けたのにラピスちゃんと会話しませんでした!!」


「・・・あ、私も声を聞いてないぞ!って、

 まぁ、いずれその運命がくれば嫌でも話すことになるさ。」


「ああーでもちょっとショック・・・。」












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