サイトが兵員に関しての窮状を訴えた陳述に、軍令部からの返電が来た。
以外なことに、軍令部は定数割れでも構わないと回答してきた。
それどころか王都に駐屯している軍2万人を補充すると言ってきた。
サイトとしては願ったり叶ったりのことであったが、副官のマティアス中佐は「これには裏がありますね」とあくまで懐疑的だった。
正直に言えば、サイトとしても裏があることくらい分かっていた。
だが、2万人と合流するために一度は8万人の北方軍も王都に入ることができる。
これは北の地がトリステインに併呑され、軍が組織されてからはじめての、快挙と言えることなのだ。
そこが、サイトにはたまらなく嬉しかったのである。
今まで虐げられてきた人々もようやく認められた、と。
もしかしたら、サイトはそう思い込むことで少しでも自分が持ってしまったトリステインに対する不信感を拭いたかったのかも、しれない。




軍令部から回答が来て数日、今度は遅れて輜重隊がサイトの管轄オルニール領に来た。
難民のための食料を要求したが、どうやらそれも受け入れられたらしい。
しかし、サイトが驚いたのはその輜重隊を率いていた隊長だった。
サイトの執務室に来たその人物は、よく知った人間だったのである。

「物資の搬入が終了しましたので、ご報告に参りました」
「ああ、ご苦労――!?」

意味有りげな笑みを浮かべているその男は間違いない。

「君、レイナールか?」

記憶に間違いなければ、目の前の輜重隊長はサイトの同期、軍学校七十期生である。

「その通りであります」
「ああ、そんな堅苦しい話し方はしなくていいよ。今この部屋にいるのは私と君だけだ」
「そうでありますか。では失礼しまして。……一瞥以来だな、サイト」
「ああ、そうだな」

サイトは椅子から立ち上がり、レイナールと握手を交わした。

「そちらのソファーに」

レイナールに座るよう促し、サイトも向かいのソファーに座る。

「何も出せなくて申し訳ないが」
「北の地だ、仕方ないだろう」

レイナールは気にした風でもなく答える。

「そんなことより、貴様は俺に聞きたいことがあるだろう?」
「そうだな。そもそも、輜重隊が来た時まさか君が来るとは思わなかった。君は禁軍、いや近衛隊の兵站を担当していたはずでは?」
「そうだな、確かにそうだった。しかしそれは半年前の話だ」
「なんだって?」
「左遷されたんだよ。近衛隊で物資の不正な流出があった。それを指摘したら、ね」

レイナールは決して軍学に優れている男ではない。
しかし決して不正を許さない、公平さを持つ男として同期生の中では有名だった。
また、トリステイン軍の花形、近衛隊の兵站を担当していたことから、レイナールが後方支援関連のことを得意であることが分かる。
当然、その実力を買われて近衛隊にレイナールは配属になったはずだ。
そして同期生の中ではルイズに次ぐ出世株として期待されていた。

「君を左遷するとは……近衛隊も堕ちたものだ」
「サイト、それは違うな。近衛隊はとっくの昔に堕ちていたのさ」

レイナールは自嘲気味に笑った。

「考えてみろ。今トリステインは大きな戦争をしている。にも関わらず、兵員が一切替わらない部署がある。それが近衛隊だ。そして、出征している軍の3倍も4倍も金を使っているのも近衛隊なのだ」

まあ俺が左遷されたから兵員は最近変わったけどな、とレイナールは付け足した。

「そうか……それで、君は今どこに所属しているんだ? 一応、私の要請で輜重隊は来たはずだから、近衛隊とは言わずとも中央軍管区なのだろう?」

トリステイン軍の管区は非常に明瞭で、近衛隊含む王都の管区から、後4つは東西南北の方角で合計五つの管区に振り分けられている。
サイトの部隊は北の地で編成されているので分かる通り、北部軍管区である。

「まあ、確かに中央軍管だったよ」
「だった?」
「ああ、そのことを忘れていた。俺、と言うか俺の輜重隊は全て貴様の指揮下に入ることになっているんだが」
「なんだと? 聞いてないぞ、そんな話」
「おかしいな、辞令が軍令部から辞令がきていなかったか? 王都の部隊の一部を貴様の隊に合流させる、と」
「待て。その話は確かにきたが、私が受け取った辞令には王都で二万人と合流、と書いてあったぞ」
「手違いではないのか? 確かに私は物資を運んでそのまま貴様の指揮下、と聞いていた」
「ううむ、軍に有るまじき失態だな。ここまで情報が錯綜しているとは」

サイトは頭を抱えてうめいた。

「まあそう固く考える必要はないだろ。取り敢えず、俺の輜重隊五千が早く合流した。今はそう思えばよかろう」
「それでは軍律が」

顔を上げ、レイナールを見る。
レイナールは肩をすくめてみせた。

「横紙破りが大好きなルイズに比べて、貴様はそういうところが本当にお固いよな」
「ルイズは、型にはめて戦わせてはいけない。それを無理にやらせたから……」
「まあ、そうだよな。それは俺達同期が一番分かっていたことさ。はあ、これは貴様にだから言うけどな、貴様とルイズが互いに将軍としてガリアと戦っていれば、こんな4年も戦争なんてしてなかったと俺は思うぜ?」
「まさか。ルイズはともかく、私が将軍だって?」

サイトは「冗談はよせよ」と続けて言いたかったが、レイナールの目が本気だったので言葉を飲み込んだ。

「現に、今同期生で1番階級が高いのは貴様だからな。その次がルイズ。俺の考えはやはり間違っていないだろう」
「しかし、現実に私は一部隊の」
「一軍の指揮官だ、貴様は」
「――そうだな」
「ま、今のは戯言だ。忘れてくれ。さて、と。言いたいことは言ったし、俺はそろそろ隊に戻る」
「ああ。補給の件は本当に助かった」
「なあに、俺はただ自分の職務を全うしただけさ。それじゃあまたな」

さっそうとレイナールは執務室を後にした。
サイトは久々に会った同期生と話せたことで、素直に喜びを感じていた。
それはレイナールが去った後も、名残惜しそうにソファーに座っていたことから簡単に察することができた。



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