こんにちわ、ホシノルリです。

突然ですけど、明日は2月14日・・・
バレンタインデーという、お菓子業界の策略が渦巻くイベントの日です。


私も明日、日ごろの感謝と・・・その・・・色々な想いを 込めて

アキトさんにチョコを作ってプレゼントしたいと思います。

私も、まんまとお菓子業界の策略にまんまとはまったというわけです。

・・・まぁ別にいいんですけど。



でも、単に日ごろの感謝の気持ち(と赤裸々な感情(恥))からチョコを送るだけじゃなくて、

ほんの些細な、私にとってとても大切な約束を守るために、チョコを送るんです。


まずはその辺りから説明しないといけないと思います。




説明!?私の出番のようね!!


お呼びじゃないですよ














シルフェニア 10万HIT記念&バレンタイン

機動戦艦ナデシコ

〜お手製チョコはビター味〜




<前編>










「・・・ふぅ」


深夜、自室で布団に包まったルリは、

頭の中をぐるぐると同じ思考が巡り眠れないでいた、その原因は・・・


「バレンタイン・・・か」


そう、明日2月14日は、好意を抱いている異性にプレゼントを贈るというイベントの日。

俗に言うバレンタインデーというやつである。

それにともない今日の朝方、ナデシコ内で一つの反乱が起こった。

女性クルーの約半数が集まり、食堂を占拠して男性クルーの食堂への立ち入りを禁止するというものであった。


けれども男性クルー達は夕飯を食べられなくなったという事態に対し

ほとんどが特に反論する事もなかったので大騒動にはならず、各自適当な夕飯を摂るという事で解決した。

尚、この女性グループの中には、艦長及び運航に重要なクルーが多数居たため、プロスペクター氏も

「まぁ今日1日だけですからねぇ、明日以降はしっかりお願いしますよ、皆さん」

とあっさり引き下がり、女性クルー達の反乱は正式なものとして、事なきを得たのだった。



さて、食堂を占拠した女性クルー達は食堂に篭もり、それぞれ作業に取り掛かった。

手に持つ器具はそれぞれ違えど、全員に共通して持っている物、それはチョコレート。

彼女達は手作りチョコを作るという事のために、食堂を占拠するという暴挙に出たのだった。

かくして占拠された食堂だったが、食堂を管理するホウメイはそれには参加も否定もしなかったのだが。

料理を補佐する通称『ホウメイガールズ』達はしっかり参加していたため

ナデシコ食堂は人手不足のため休業ということになった。




その他、反乱に参加しなかった女性クルー達は立ち入りを禁止されてはいなかったものの

食堂が休みのため男性クルー達と同じくそれぞれ個々に部屋で食事を取っていた。

ホシノルリ、彼女も参加しなかった女性クルーの1人。

彼女の場合は、彼女の相談役であるミナトハルカを含め、女性ブリッジクルーの全員が

反乱に参加していたため、情報が人伝には伝わらず、朝方ブリッジに入った情報

『食堂が占拠されて男性クルーは立ち入り禁止』

という情報のみが伝わるだけの結果となった。









昼時、昼ご飯を食べに行ったルリは食堂の前で呆然としていた。

「・・・なに?コレ」

食堂内に充満する甘ったるい香り、顔中チョコだらけの女性クルー達・・・


「食堂の事は知ってたけど、こんな儀式だったわけ?」


そう見えても仕方がないほどの阿鼻叫喚の地獄絵図と言った感じの食堂内

怪しげな雰囲気と奇怪な行動を取っている一部の女性達を無視してとりあえず全体を見回してみる。

大半の女性達は真面目に手作りチョコを作っていたのでルリはすぐにこの儀式の本質を理解した。

彼女達はチョコを作っているのだ、一部の人達は例外である、きっと本当に儀式をしているのだろう。


かといって何をしているのかわかったとしても、ルリ自身が何かを思うわけでもない。

「そういえば、バレンタインなんてのがあったっけ」くらいに思い

すぐに興味が薄れた、それよりいまは食事をとりに来たのだから。


カウンターへ行ったルリはまたも呆然とした。

     『本日休業』

との張り紙がカウンターに吊るしてある。

ナデシコ食堂の味に慣れ、ジャンクフードの味に不満を感じ始めたルリは

休業は恐らくは今回の反乱によるものと的確に判断し、

ほんの少しだけ怨みの込もった視線をチョコ作りに集中し続ける女性達に送った。


「はぁ、バカ・・・」


小さな呟きに諦めのようなものを含んで、視線を出口に向ける。


「おや、ルリ坊じゃないか」


出口に向けた視線と、足を戻したのは、ナデシコ食堂の主ホウメイさん


「悪いねぇ、見ての通り今日は休業でねぇ」

「いえ、別にいいです、お構いなく」


そう言いつつ再び出口へと足を向ける、男性クルーも買っているとすれば

いつもは買う人もほとんど居ない自動販売機も売り切れてしまうかもしれない。

ジャンクフードだとて、育ち盛りの身としては昼抜きは少々辛いところなのである。


「あー、待ちなよ、ルリ坊」

「・・・なんですか?」


無視するわけにもいかず、振り返りホウメイさんの言葉を待つ。

まぁ、いまさら急いでも大差がないかもしれない事ではあるが。


「いやね、あたしも仕事がなくて暇でね、ルリ坊さえ良かったら何か作ろうかい?」

「え・・・いいんですか?」

「いいっていいって、ルリ坊は育ち盛りだからねぇ、ジャンクフードばっかじゃ身体に悪いっていつも言ってるだろ?」


確かに各自の部屋には一応の調理器具などはあるが、ルリは料理などしたことがない。

食堂が休みとなると、必然的に手軽に自動販売機で買えるジャンクフードになる。


「じゃ、お言葉に甘えます」


ともあれ、好きでジャンクフードを食べているわけではない

いまは、誰かの手で作った『料理』が好ましいと思うようになった。

ナデシコに乗って、きっと私は変わったと思う、多分、良い方向に。

ナデシコに乗ってからずっと、ルリはそう感じていた。




「ごちそうさまでした」

「はい、おそまつさま」


食べ終わった食器をホウメイさんに手渡し、ふと辺りを見回してみる。

相変わらず甘ったるい香りのする食堂では、いまだ作っている最中の者、

作り終わったチョコを昼ご飯代わりに食す者、

チョコ以外の物質を作ろうとしている者など、様々ではあったが

大半は作り終えて、雑談に華を咲かせている者が多かった。


「ルリ坊はチョコ、作らないのかい?」

「興味ありません、私、少女ですから」


ついそっけない返事で返してしまった、だけど正直バレンタインデーなんて、自分には縁のない事柄だと思う。


「別に好きな人にだけってわけじゃない、誰か親しい人にでもあげてみたらどうだい?」

「私からもらっても、きっと嬉しくないと思います」


ふと頭に浮かんだ、親しい男性クルー、と言ってもまともなのはほとんど居ない。

多分彼らは喜ぶと思う、それも血の涙を流して、でもそんなの見たくないし、あげたくもない。


そして唯一まともっぽい人、パイロットのテンカワさん、あの人はどうだろうか?

でも、私みたいな無愛想な子供からもらっても、もしかしたら嬉しくないのかもしれない。


(それに、テンカワさんはなーんかモテるから、きっと私なんかからもらっても、どうってことないんだろうな)

そう思ったら、なんかむかむかしてきた、テンカワさんがチョコをもらっても、私には関係ない、思考中断。


「ま、とにかく私には関係ないと思います、ホウメイさん、ごちそうさま」

「あいよ、ルリ坊!また来なよ」



とりあえずは男性クルーは通常どおり働いているし

操縦も今のところ安全な区域だから、自動操縦に切り替えてある。


(午後は私の出番は無し、昨日は夜勤だったし、部屋に帰って寝てようかな・・・)



「アキト〜〜待っててね、明日はユリカの愛の込もった手作りチョコをあげるから♪」

「艦長っ!アキトさんにはわたしがチョコを送るんですから、

艦長はジュンさんにでもあげたらいいんじゃないですか?きっと涙を流して喜びますよ?」


そんな声が後ろから聞こえて、ため息の後にいつもの台詞を呟いて、食堂を後にする。


「バカばっか」





通路を歩く、歩く、歩く・・・

頭に浮かぶのは、この後のスケジュールの事。

確かに昨日は夜勤だったから睡眠時間が十分だとは言えない

しかしいまから寝るには少し早すぎる、どうしたものか。



それにしても・・・

道すがら時々すれ違う男性クルー達の顔は

どれしもがにやけた・・・もとい、明日の期待を隠し切れないでいるようだった。

中には自分に向けて期待の込もった視線を送ってくる者も多大に居た。

ま、期待しても何もでませんけど。



そんな明日への希望に満ちた男性クルー達の中唯一、明らかに他の男性クルーとは

正反対の顔色をした男性クルーを見つけた。


「まずい・・・どうしよう・・・このままじゃ命の危険さえありうるぞ・・・」


その人は自販機前の前のベンチに座り込み、壁を見つめてぶつぶつと何かを呟いている

思いっきり不審者に見えたが、仮にも自分内で『親しい人物』と認定しているので声をかけてみる事にした。


「テンカワさん」

「あーもーなんで毎回毎回俺がこんな目にあわなけりゃいけないんだよ・・・」


「・・・・・・」(むっ)


「大体にしてユリカの料理の腕はやばすぎるって、あれはもう凶器・・・」



『テンカワさん』


「どわああああっ!!?」




突然目の前に現れた巨大なルリの顔のウィンドウ

アキトはベンチごと後ろにひっくり返り、後頭部を強打。


「いてて・・・ってルリちゃん、いきなり驚くじゃないか」

「さっきから声かけてました、気づかないテンカワさんが悪いです」


アキトの抗議の声はあっさりと斬り捨てられた。

声をかけたのに気づいてくれなかった、それだけの事に何故か妙に腹が立った。


「それよりどうかしたんですか?何か悩んでたみたいですけど」

「え?あぁ・・・それは」


「ま、どーせ明日もらえるチョコの量にでも悩んでたんでしょうけど」

「え?」

「いえ、なんでもありません」

「そ、そう・・・?(冷や汗)」


とりあえず曖昧に返事を返したアキトだったが、しっかり小声の所も聞き取っていた(笑)


(ルリちゃん、なんで怒ってるんだろ、チョコがどうのこうのって・・・
もしかしたらチョコ作ってて失敗したとかでいらいらしてるのかな(汗))


「そ、そういえばルリちゃんは作ったの?チョコ」

「えっ?あ・・・つ、作ってません」

「そっか、まぁルリちゃんはこういうのはあんまり興味ないか」


むかっ


「興味がないって、私みたいな子供にはチョコ作りは早いって事ですか?」

「ええっ!?いや、そういう意味じゃないって!」

(や、やばい・・・余計怒らせちゃったみたいだ、どうする!?)


「そうですよね、テンカワさんは明日になればたくさん貰えますし、流石に余裕ですね?」

「い、いや・・・その、そんな事はないと・・・」



口から出る言葉は、いつもの冷やかすような、冷たい感じのまま

けれどこの胸には燃えるような怒りの感情

普段はそんな物は押さえつけられる、いやそんな物は感じすらしない

いまテンカワさんと話しているだけで、見ているだけでこのイライラが胸を締め付ける。

話せば募るばかりなのに、話してないと爆発しそうなほどに心を占めていた。



「だったらどうだっていうんですか?まぁどうせ私みたいな子供から

チョコをもらって喜ぶような人は異常な人だけでしょうし、それでもいいですよ」


「そっそんな事ないよ!ルリちゃんみたいな可愛い娘からだったら誰でも喜ぶって!」


―――時が止まった気がした―――


(あ、やば・・・)

アキトがそう思った時には、すでに遅すぎた、数秒間の沈黙の後――


ボン!


というような効果音が聞こえそうなくらいの勢いで、

ルリはその真っ白な肌を真っ赤に染めて俯いた。


「あ、いや、その・・・ご、ごめんルリちゃん、その、えーと・・・」


完全にパニくるアキト、頭の中は真っ白なままで弁解の言葉を捜す。


「いえ、いいです・・・それじゃ私、部屋に戻りますので」

「あ・・・」


俯いたまま、ルリは立ち去るように通路を走り去る、アキトは呆然とその後ろ姿を見る事しかできなかった。

一人残されたアキトは、呆然とルリの去った方向を見て一言呟く。


「こんなところであんな変な事言ったらそりゃ怒るよなぁ、ごめんルリちゃん・・・」


アキトは色々な意味で、救いようのないほどの鈍感であった。




そして物陰から人を殺せるほどの殺意を送る人影・・・

自称ルリルリ親衛隊、ウリバタケ班長その人であった。


「アキト・・・あんの野郎ォォォ!!」


目から、いや全身から出る殺意は危険察知能力が高い野生動物ならば

すぐさまナデシコから逃げ出すほどの濃度だった。


その日の夜、密かに行われた集会でウリバタケの提案により

『テンカワ謀殺同盟』が結成される事となったが、

本作品では出ないので忘れてもらって結構である(笑)














そして――


「バレンタイン・・・か」

冒頭シーンである(笑)




『ルリちゃんみたいな可愛い娘からだったら誰でも喜ぶって』


ボンッ


昼間の事を思い出すたびに、真っ赤に染まり、思考は散乱する、そして


『ルリちゃんは作ったの?チョコ』


チョコレート、バレンタインデーに送る物の定番・・・


「バレンタイン・・・私が、ねぇ」


自信がなかった、自分にチョコが作れるのか、それに送って喜ばれるのか。


『ルリちゃんみたいな可愛い娘からだったら誰でも喜ぶって』


本当に、喜んでもらえるのだろうか、それならば・・・


「作って・・・みようかな・・・」


そう決めた直後、急激に眠気が訪れた。

悩みが解消されたせいだろうか、そんなに自分は悩んでいたのか。


「あ、昨日・・・夜勤だったんだっけ・・・オモイカネ・・・明日は、早めに・・・ね」

『了解、おやすみなさい、ルリ』

ウィンドウの確認と同時に、ルリの意識は沈んでいった。







明朝、食堂にて


「・・・嵐の後?」


反乱から丸一日経ったが、いまだに食堂は男性禁止のままであった。

片付けた後は見当たらず、昨日の儀式の最中そのままの状態の食堂。


「・・・ま、いいけど」


むしろ道具が手の届く位置に放置したままなので、やり易いとも言える。

チョコレートは冷蔵庫に使わなかった分が残っていたので、拝借。

器具などは誰かの使い終わったのを洗って使った。

この分だけでも彼女達の反乱に感謝することにしよう。

――ともかく、ルリの戦いが始まった。














そして昼食後、ルリは傷だらけの手に、小さめの箱を持ってアキトの部屋の前に居た。

箱はシンプルな作りの物で、ラッピングはしていない。

それに気づくよりも、ルリは深刻な事態に陥っていた。


昼食後に冷蔵庫からチョコを取り出してから、ずっと心臓の高鳴りが止まらず、

アキトの部屋の前に来て、その緊張はいま最高潮に達した。


ドクン、ドクン、ドクン


心臓の音が耳に響く、目の前のインターホンが酷く遠く見えた。


どうにか腕を動かした、が、インターホン手前からどうにも動かせなかった。


ドクンドクン、ドクンドクン


一際、心臓の音が大きくなる、インターホンに手が届き―――


「あらぁ、ルリルリじゃない、どうしたの?」


「〜〜〜っっ!!!???」


一瞬でドアから飛びのき、振り返る、そこに立っていたのは、ミナト・ハルカ。


「・・・ミナト、さん」


全身の力が抜けるのと同時に緊張も吹き飛んだ気がした。


「ルリルリ、それって・・・もしかしてチョコぉ?」

「えっ?」


ミナトの視線の先・・・ルリの手・・・箱。


「ちっ違います、これは、その・・・」

「いいっていいって♪それよりアキト君なら居ないわよ?」

「居ない・・・?」


「アキト君ならさっきバーチャルルームの方に走ってったから・・・まだバーチャルルームにいるかもね」

「そ、そうですか・・・で、でも私は別にテンカワさんにどうってわけじゃ・・・」

「いいからいいから♪早く行かないと逃げられちゃうかもよ?」

「ちょ・・・ミナトさんっ!」


ミナトに背を押され、ルリはアキトのいる道へ歩き出す、歩く足は心なしか早めだった。




「がんばれルリルリ、ライバルは多いけど、お姉さん応援してるからね♪」


ルリを見送りながらミナトはそう呟いたが、ルリの耳には届かずに、通路へと消えた。









「はぁっ・・・はぁっ・・・」


いつの間にか、歩調は走りに変わっていた。

バーチャルルームへと続く通路を、息を切らせながら駆ける。

早く渡したとて変わりはないのに、少女は急く、青年の元へと。


「はぁっ・・・着い、たっ」


ゴールまであと少し、あと少しで扉の前に――。


プシュッ


――扉が、開いた――


中から出てきたのは、青年ではなかった。

メグミ・レイナード、青年を慕う女性の、一人。



「あ・・・」


反射的に手に持った箱を隠した。

彼女は、やはりアキトにチョコを渡したのだろうか――


そう思ったら、なんだか自分のやってきた事が虚しくなって

知らないうちにルリは元来た道へ走り出していた。













「・・・何やってるんだろ、私・・・」


ルリは息が切れたところで、近くにあったベンチに座り込んだ。

奇しくも、そこは昨日アキトに会ったのと、同じ場所。

手に持っていた箱、そっと蓋を開けてみる。


「・・・」


箱いっぱいの大きさに作られたはずのチョコは、割れてしまっていた。

走ってる間に、その衝撃に耐えきれず砕けたチョコ。

自分の心象に重なってしまい、それが重い心を更に重くしていた。


「・・・ふぅ」


いつまでも気が滅入ったままでは勤務に差し支える。

元々こんなものだったろうし、第一自分にはそんなのは似合わない筈だった。

自動販売機でオレンジジュースを買って、渇いた喉を潤す。


「そろそろ・・・ブリッジに行かなきゃ」


ふと時間を確認したら、与えられた休憩時間はとっくに過ぎていた。

プロスさんにお小言を言われるかもしれないなと、またも重い気分になった。


で、ブリッジに向かう途中で、テンカワさんに会った。


「あっ、ルリちゃん・・・」

「テンカワさん・・・」



壊滅的に絶妙なタイミングで、この人は私の前に現れた。

なんとなく、気まずい雰囲気、先に口を開いたのはアキトだった。



「ごめん!ルリちゃん・・・俺、無神経な事言っちゃって・・・怒ったよね?」

「え?」

「ルリちゃんの気持ちはよくわかる、誰だってあんなこと言われたら怒るよな・・・」

「というか何のことを・・・」


言いかけて、止めた。


「いいですよ、気にしてませんから」


本当は凄く気にして、そのせいでチョコを作って、

あんな嫌な思いまでしたけど、なんだか謝ってもらったら、少し落ち着いた。



「それよりこれ、テンカワさんにあげます」


手に持っていた箱を、当初の目的通り差し出す、不思議と緊張は全くない。


「え・・・これって・・・チョコ?」

「そうですよ、テンカワさんに作ったチョコです」


何気に恥ずかしい事を言っていたけど、恥ずかしくない。

それよりも早くそれを食べてみて欲しかった。


箱を開けると、チョコは割れ、所々溶けて、見るに耐えない物になっていた

そうだった、突然の出会いと、謝罪されて舞い上がって、忘れていた事。

アキトの手からチョコの箱をすさまじい速さで奪還する。


「ご、ごめんなさいテンカワさん、やっぱりこれは返してください・・・」

「えっ、どっどうして?」

「不注意で割れてしまって、すいませんテンカワさん」


珍しくうろたえるルリ。

アキトは、そんなルリを見て苦笑、隙を見てルリの手の中から割れたチョコを1枚抜き取った。


「あっ!」


ぱく、もぐもぐ・・・


「・・・うん、ありがとうルリちゃん、凄くおいしいよ」


そう言って微笑む、極上のアキトスマイル


「い、いえ・・・そんな・・・」


ルリは真っ赤に染まりきって、アキトの顔を直視できずに俯いた。


「はは・・・まさかルリちゃんからチョコをもらえるなんて思ってなかったし

義理でもすごく嬉しいよ、ありがとね、ルリちゃん」



ふとアキトの口から出た単語、『義理』

アキトは、ルリが自分に好意以上の感情を持っているとは思わず。

ルリからもらったチョコを義理チョコだと思った。

ルリも、特別な感情から渡したのかどうか、自分ではわからなかったが

アキトの口から『義理』と出て、昨日の口論の時と同じ感情が沸いて、口調を尖らせた。



「・・・でも、テンカワさんメグミさんにもチョコをもらったんじゃないんですか?」

「え?メグミちゃん?あ、いや・・・まだ、貰ってないというか貰いたくないというか・・・



「え・・・テンカワさん・・・それってどういう・・・」



「アキトぉ〜〜〜〜!どこ行ったの〜〜〜!!



通路中に響く声がルリの台詞をさえぎる。

声はすれども姿は見えず・・・

通路の遥か向こうから聞こえる声の主、ナデシコ艦長、ミスマルユリカその人であった。



「やばっ、ごめんルリちゃん!またねっ!!」



そう言い残し、アキトは声の逆側へ全力で走り出した。



「えっ?あっ、テンカワさん待っ・・・」



あわてて声をかけようとしたが、すでにアキトは通路の先の角を曲がり、見えなくなっていた。




「アキトぉ〜〜〜〜!!!!」




そして、逆側からユリカがアキトの名を叫びながら走ってくる。



「あっ、ルリちゃん!アキト見なかった!?」



手には綺麗にリボンされた包み、内容は言わずとも、当然チョコレートである。

料理の腕前は言うまでもなく、もはや兵器と言える。

先ほどのアキトは何かから逃げているようだった

あの怪しい儀式で作られたチョコから、逃げていたのか。


「テンカワさんは・・・さっき食堂の近くで見かけましたよ」

「ほんと!?ありがとルリちゃんっ!じゃあね」

「いえ、それじゃ」



食堂へと走って行く艦長、けれど本当はテンカワさんが行ったのは格納庫方面。

食堂方面とは別のを通路を通なければ行けない。

心の中で、走っていった艦長に謝っておく。

嘘をついたのはテンカワさんは艦長から逃げていたから、という理由もある。

けど、ナデシコに乗る前の私だったらきっと艦長にテンカワさんの行ったほうを教えた。

この違いは、なんだろう?

いまはまだわからないけど、この先、いつかわかると思う、ナデシコという場所に居れば、きっと。


「私も、結構ばかよね・・・」


呟き、手元に残ったチョコレートの欠片、その1つをつまんで食べてみる。

もぐもぐ・・・


「っっ!?!?〜〜〜〜〜〜!!?」


口いっぱいに広がるはずの甘さは、何故か苦かった。

苦い、甘いはずのチョコが、何故かとてつもなく苦い

『不味い』なんて、一言では表しきれないほどの味だった。

アキトは、おいしいなどと言ったが、とてもじゃないがそう言えるような味ではない。

彼は、無理をしておいしいと言ってくれたのだ。


(来年は、きっとちゃんとしたのを作ってみせますね、テンカワさん)

そんな淡い思いのまま、ルリにとって初めてのバレンタインデーは終わる。

また来年へと、思いを馳せながら――。












そして次の年――


テンカワアキト、ホシノルリ、ミスマルユリカ。

彼らはナデシコを降り、彼らの関係も変わって行った。

アキトとユリカの関係は恋人へ、彼らとルリは家族という関係。

1つの想いは実り、1つの想いは秘められたまま、再びバレンタインを迎える。

私が『テンカワさん』から『アキトさん』と呼ぶようになってから、そう遠くない日のことです。








そして、再戦の日――。


「アキトさん、ユリカさん」

「「ん・・?どしたの?ルリちゃん」」


朝、私は出勤前のアキトさんとユリカさんに話を持ちかけた。


「今夜、ホウメイさんの所に泊まりに行きたいんですけど、いいですか?」


私の言葉に、アキトさんは頭に?を盛大に浮かべていた。

ホウメイさんのお店は、ここから比較的遠くない場所にある。

アキトさんは料理の師匠、という関係ではあったけど、私との接点はそう多くない。

私がホウメイさんの所に泊まりに行くと言うのは、少し妙に思えるのだろう。


「あ、ホウメイさんのほうにはもう了承はもらってます」

「いや、それよりなんでまた・・・」


「あーーー!!なるほどぉ!!」



アキトさんの声を完全に遮り、いままで黙って何か考えていたユリカさんが叫んだ。


「うんうん、いいじゃないアキト!ホウメイさんもいいって言ってるんだし」

「あー、まぁそうだけど・・・」


ユリカさんは何か思いついたようだった、おおかた

『明日はバレンタインだから私がいると邪魔になるから泊まりに行く』

とでも解釈したのだとは思うけど、まぁそのほうが都合がいいのでよしとしよう。


「ルリちゃんもたまにはお泊まりに行きたいんだよ、いいじゃないの〜」

「お願いします、アキトさん」


形勢逆転(といっても反対してたわけでもないけど)不利になったアキトは簡単に折れた。


(まぁ、ホウメイさんのとこならそんなに遠くないし、大丈夫か・・・)

「ルリちゃん、気をつけて行ってくるんだよ?」


とまぁ、こんな感じで私はホウメイさんの家に泊まることになりました。







ガララ

「おっ来たね、いらっしゃいルリ坊、入りなよ」

「おじゃまします」


昔ながら、といった感じの扉をくぐり、ホウメイさんのお店に入る。


「ホウメイさん、今日はお世話になります」

「ああ、ルリ坊の頼みだったらこんくらいなんでもないさ、そのかわり・・・あたしゃ厳しいよ〜?」


ホウメイさんは笑いながら話す、だがこちらも妥協するつもりはない

今回は、完璧でなければいけないのだから。


「よろしくお願いします・・・」


扉の外、『本日臨時休業』と書かれたプレート、その上に張り紙がある。

『2月13日は、一身上の都合により臨時休業に致します、ご了承ください』

かなり前からの計画だったようである。









そして夜、テンカワ家では・・・



「ただいま〜」

「おかえり!アーキト♪」


ユリカが抱きついてくる、ルリが居ない間にいちゃいちゃしようというのだ(笑)

ユリカをひっぺがして、家の中に入る。

何か、それに妙な違和感を覚えた。

いつもは狭くすら思っていたそれが、妙に広いと感じる。

まるで自分の一部が欠けたように、喪失感が漂う。


(ああ、ルリちゃんが居ないだけで、こんなに違うんだ・・・)


ここは、3人で完結する家、俺達は3人で完結する家族。

それが酷く大切なものだと、再認識でできた。

(まぁ、明日になればルリちゃんも帰ってくるし、1日のしんぼうか)


そんなことをぼーっと考えていたが、ふいに背中に衝撃と重量を感じた。


「おわっ、ユ・・ユリカ!なにすんだよ、危ないだろ?」


不意打ちを叱咤するアキトだったが、ユリカは意にも介さずに言う。


「アキト、明日は何の日だか、わ・か・る?」


「明日ぁ?・・・・・・がっ!!?・・・バ、バレンタイン・・・ッッ!!?」

「あったりぃ〜♪明日はバレンタイン、乙女の日なんだよ〜♪」

「・・・あ・・・悪夢だ・・・」


ユリカの性格上100%手作りのチョコを送ってくるに違いない、そしてユリカの料理の腕・・・絶望だ・・・。


「だ・か・ら♪」

ユリカはおもむろに抱きついてきた。


「な・・・なんだよ・・・」


「1日早いけど・・・バレンタインチョコは、私をあ・げ・る♪」


「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁっ!?」






アキト脳内会議(笑)


いや、待てよ・・・俺たちは結婚するんだ、別に・・・その、しちゃっても問題ないんじゃないか?


いや、むしろそれよりもここでバレンタインのプレゼントがユリカって事はチョコの代わりにユリカをって事だろ!?

つまりはユリカの今年の手作りチョコは無し!最高の展開じゃないのか!!?

やったぜ!俺バンザイ!!バレンタインバンザイ!!ありがとう、神様!!

(約0.1秒)




開き直った俺は後ろを振り返り、ユリカの目を見つめて――


「ありがとうユリカ・・・俺、必ず幸せにするからな・・・」

「もーアキトったらぁ〜〜大好きっ♪」



抱きついたままのユリカの腕に更なる力が込められる。


(うんうん、きっとこれで良かったんだ、全て丸く収まって・・・)


「あ、今日は私だけど、ちゃんと明日は愛のこもった手作りチョコをあげるからね、アーキト♪」



「・・・・・・・・・なっ!!!!???」


一瞬で凍りついた、天国から地獄とはまさにこの事か

・・・・・・神様のばか、バレンタインなんて嫌いだ。



「駄目だ駄目だ駄目だぁぁああああーーーーーーー!!!」


「えっ?ちょっ・・・どうしたのアキト!?ねぇ、アキトったらーーー!!」


こうして15指定になることもなく、1人欠員のテンカワ家の夜も更けて行ったのであった(笑)







続く。









懺悔室


みなさんこんにちわ、この駄文を読んでいただき、真に光栄であります♪

さてさて、今回は前後話というわけなのですが、後編はまた近いうちに提出いたしますので、

気長にお待ちいただけたらありがたいです(汗)


バレンタインはとっくに終 わりましたけど・・・


ぐあぁっ!(グサッ)


まぁ貴方にはまったく縁の ないイベントですし、日にちも覚えてなかっただけでしょうけど


ぐはっ(グサグサッ)


それより、長編のほうはど うなっているんですか!?早く書いてください


うう・・・(メソメソ)


もしかしたら応援してくだ さっている奇特な方もいるかもしれないというのに・・・駄目作者


しくしくしくしく・・・がんばります〜(滝涙)


ま、もう見捨てられました ね


く・・・これから挽回していくのだ!それよりチョコは?


あるわけないでしょうが!



感想

さすが雪夜さん!

ほろ苦いバレンタインの思い出を見事に表現なされていますね♪

うぅ、でも私はユリカさんにリード されてます! このままじゃアキトさんの貞操の危機ですよ!

そうはいっても…もう結婚の約束しているみたいだし、ブランクオブサードイヤーズの正史に当てはめてるんだからその辺はどうしようもないと思うけど?

何を言っているんですか! アキト さんは古風な方ですから、新婚初夜はハネムーン先のだったんです。介入する余地はありますよ!

策士やのう(汗)

当然です、歴史もアキト×ルリなら容認してくれます♪

うそ(汗) まあそれは置いておいて感想だけど、やっぱり皆生き生きと書かれているね。 ノリとか勢いって言うのは重要だからとてもいい出来だと思う。

そうですね、私の心理も良く書かれ ていると思います。

そういった意味で、一人称が上手にかけるのは素晴らしい事だといます、今後もノリのいいものを書いてくださるといいですね♪

ほう、無難に纏めましたね…

 

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