貴方は知らないの



私がどれだけ貴方を想っているか。



私がどれだけ失う事を恐れているか。



けれど伝える事は決して許されない。



それは私の罪  それは私の罰

















機動戦艦ナデシコ




〜日常、或いはそれさえも平穏な日々〜

裏編 〜罪と罰〜











ザァァァァァ



シャワー室から聞こえてくる水の音。


その音を聞きながら

緊張でがちがちになった男がベットに座り込んでいた。


男の名はテンノアキト、3年ほど前に記憶喪失となり

以降はホシカワルリと名乗る記憶を無くす以前に知人だったという少女――いや、女性と暮らしてた。

女性は男を献身に支え、女性のおかげで男は何不自由なく過ごしてきた。


それは誰の目から見ても愛・・・もしくはそれ以上の感情を男に向けているのがわかるほどだった。

妖美なほどに容姿端麗、それも若く、聡明な、まるでどこかのお姫様のような女性。

それがかたやヒモ同然の冴えない年上の男に何故そこまで尽くすのか。

それは誰もが首をかしげるほどだった、当人であるアキトですらそう思っていた。


そして、今日の日―――おおよそ1時間前に、男は女性―――ホシカワルリに告白した。

周りからすれば、身の程知らずと言えるような物だったが

ホシカワルリは迷う事なくテンノアキトの告白に応じ、めでたく2人は結ばれたのだった。


3年間一緒に暮らし、それだけ献身的に尽くされてきて、何をいまさら・・・と思うかもしれないが

男を責めないで欲しい、それには深い事情があったのだ。


記憶を失い、何もかもわからない状態で支えてくれ、恐らくは自分に愛を持って接してくれる存在。

それだけでも人が人を愛するには十分な理由になり得る。

実際アキトがルリに愛という感情を持つのに、さほど時間はかからなかった。

その感情が確かな物だと確信するまでと考えても、半年も無いだろう。


そう、アキトはルリを愛している。

そして、ルリもまた、アキトを愛してくれていたのだろう。


この部分こそが3年間を費やした事情である。

アキトにはどうしても超えられない壁が存在していたのだ。

それは『記憶を無くす前の自分』である。


ルリが愛してくれていたのは前の自分、ならいまの自分は?

その考えこそがこの3年間を無駄に費やしたアキトの最大の壁。

そして、もし駄目だったなら、いまあるルリとの曖昧な生活すらも失ってしまう。


それでももう我慢が出来なかった。

そして、今日アキトは命を懸けるほどの決意の元に、告白をしたのだ。

結果は見てのとおり、ルリの本心はわからないが結果としていまのアキトを受け入れた。


―――そして、今夜が同棲生活3年目にして、初めて結ばれる夜。





キュッ シャワーが止まる音。


カチャリと音がして、思わず振り向く。

そこには、ほんのり上気した白い肌をタオルで隠した彼女。


「わっ、ご・・・ごめんっ」


慌てて後ろに振り返る。

顔が熱くなっているのがよくわかる、というかこの展開だといまから

これ以上の事をするのだろうから、いまさらなのだが。

それでもどうしようも無いほどにこの雰囲気に呑まれていた。



「・・・アキトさん、こっちを向いて」


「う・・・」


すぐ近くから聞こえた、悲しげなルリちゃんの声色。

もしかしたら傷つけたかもしれないと思い、それでも恐る恐る振り向く。


「わ!?ルルルルリちゃん!?」


「私の身体・・・汚れてませんよね・・・?」


ルリは思いつめたように真剣な表情だった。

だから滅茶苦茶に気恥ずかしかったが素直に答える。


「あ・・・う、うん・・・すごく・・・きれいだよ・・・」


「良かった・・・この白い肌、昔はコンプレックスだったんです・・・」


「そんなこと気にすることじゃないよ!

ルリちゃんの肌は、その・・・すごくきれいで、透き通ってるみたいだから・・その・・」


「くすっ・・・記憶がなくたって、やっぱり貴方はアキトさんです・・・だって・・・」


微笑み、アキトの胸に静かに抱きつく。


「だって貴方はいま、昔と同じことを言いましたよ・・・」


ドクンと、アキトの胸の鼓動が跳ねる音がルリに伝わる。



「聞こえますか・・・?私の心臓、すごく早く鼓動してます・・・」


聞こえているだろうか?伝わっているだろうか?


鼓動も、想いも―――


2人の間に隔てるものが無ければ良かったのに。


「ルリ、ちゃん・・・」


「アキトさんが綺麗だって言ってくれたから、私はこの白すぎる肌も、誇りに思ってこれました」

「アキトさんが綺麗だって言ってくれるから、私はこの白い肌も、誇りに思います」


「この心も、身体も、全て貴方だけの物」


「だから私を、『今度こそ』貴方だけの私にしてください・・・貴方の色に、私を染めてください」







そう言った彼女の瞳は、恐れと不安に揺れていた。


聡明な彼女ですら、自分と似たような不安を抱えているのだと知り


それを少しだけ嬉しく思い、安心出来るようにその背を強く抱きしめた。



















貴方は知らないの。


私がどれだけ貴方を求めているか。


私がどれだけ貴方以外を拒絶しているか。





―――そう、私に触るのも、私に色を付けるのも、貴方だけ。


私を壊すことも、私を変えることも、全て貴方だけの特権。




いまここにいる私は、貴方が作った私。


この黒い感情を秘めた心さえも、全て貴方が作った。




私を作ったのは貴方、だから他の誰にも私を変えさせない、誰にも私を壊させない。


貴方だけが、私という世界の全てなのだから。




『許して欲しい』なんて絶対に思わない。


貴方を騙している事が私の罪であり、貴方の心を守るという私の贖罪だから。


もし許されてしまえば、私は貴方のそばに居る資格を失ってしまう。


貴方の事だから、言えばきっと私を許してしまう。


だから、私はこれからも貴方を騙し続けて生きていく。




―――全ては、貴方と共に在る未来のために――――


















後書き


多くは語りますまい・・・(笑)


100万HIT記念に出したやつの後日という感じですね。

いまさらですがセットで読んでいただけるとありがたしw


感想

雪夜さんの作品後日譚です。

100万HIT記念作品が増えてこちらとしては万々歳です〜♪

そう ですね。

雪夜さんグッジョブです!!

私とアキトさんの初夜!

まあ、場所はシャワー室ですけど…


おお、以外にシュチュエーションとか気にするんだ?

てっきり、アキトとならどこでもいいのかと思ってたけど。

確か に、アキトさんが求めてくれるなら多少シュチュエーションが悪くても我慢しますが。

やっ ぱり初夜なんですし、お姫様抱っこで抱いていってもらって。


きちっとベッドで抱いて欲しい です(///)

あは…あははは(汗)


 

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