本を閉じた。





そろそろ自分の番だ、呼ばれるまではちゃんと待っていたほうがいいだろう。

本に集中し過ぎて呼ばれたのに気づかなかった、なんて事になれば教師から注意されてしまう。



視線を前に向けると、金髪の男の子がでっかいモグラとのキスシーン……もとい契約の儀をしているところだった。


モグラ……モグラといえば土だ、きっと彼は土系統のメイジなのだろう。


確かクラスメイトの……名前はなんだったろうか……。



そんな事を考えてる間に、次の出番の女の子が召還のための呪文を唱える。


するとまばゆい光と共に大きな鏡が空中に現れ、そこから蛙が飛び出した。


蛙は水に関連する生き物、彼女は水系統の使い手だから、水に関連する生物を召還した。


絶対的とは言わないが、基本的に使い魔は主の得意な系統を召還する傾向があるようだ。



なら私の場合はどうだろう。

私は風系統の使い手だ、だとすればきっと風に関する生き物が出るだろう。




風……風といえば、一般的なところで言えば鳥だろうか。     あと3人。




できれば大きな生物だと嬉しい。

私は遠出をする必要があるので、背に乗って移動できるとしたら実に便利だ。  あと2人。





欲を言えば、強い生物だったら凄く嬉しい。

私は戦わないといけないから、私の使い魔も強くなければ生き残れない。

主人を守るのがその使命だとしても、使い魔が死んでしまったりしたら、それはきっと、凄く悲しい事だろうから。  あと1人。







さて、風系統で人を乗せられるほど大きく、空を飛び、そして強い。

そんな生物はなんだろうか?



グリフォン、マンティコア、風竜―――。


いや、いくらなんでもそれは少し高望みしすぎだ。  次。





「では次、ミス・タバサ」


「はい」





トリステイン魔法学院の教師、コルベールが次の出番の者の名前をあげる。

その声に従い、私は集まった生徒達の輪の中心まで進み出る。




1歩踏み出す足に緊張が走る。


失敗への懸念に、杖を持つ腕がかすかに震える。




これから行うのは、使い魔の召還、及び契約の儀式。


これらの儀式は、さほど難しい事ではない。



形式に沿って儀式を行えば普通に魔法を扱える者であれば

召還したモノがなんであれ、何かしら召還できるだろう初歩的な魔法だ。



例外的に言えばクラスメイトに魔法がうまく扱えない少女がいるが

その少女が儀式に成功するかどうか、それは私には関係がない。




要は特に問題さえなければ成功するだろう魔法だという事―――。






つまり私には1つだけその『問題』とやらがあるのだ。


別に私が魔法が使えないわけじゃない、問題は―――。




「……ん? どうかしたかね?」


「なんでもありません、ミスタ・コルベール」


「そうか、では儀式を……時間は限られているからね、ミス・タバサ」




―――タバサ。



それは私の名前。





でも本来それは私の名前ではない。


理由あって私は本名を隠し、タバサと名乗っている。


タバサとは、『もうひとりの私』の名前。





それがこの儀式において重大な『問題』になりつつあった。






召還する事、契約する事。


これらには名前が必要だ。


契約する者の名をもって、契約を宣言しなければならない。








しかし私の本当の名前はあまり公けにできる物ではない。



ましてや此処はトリステイン魔法学院。


生徒達は全て貴族の子供であり、そこから私の名が漏洩しないとも限らない。


その生徒達のいる前で本当の名を名乗る事なんてできるわけがない。



「ん……? どうかしたのかね? ミス・タバサ」



しかし悩んでいる暇もないらしい。

教師の再度の催促に応じ、意を決し、杖を掲げる。





「我が名は―――」







―――それでも。


少なくとも今はまだ、私は本当の私に戻るわけにはいかなかった。






「我が名は、タバサ」





だから、宣言したのは、偽りの名。


祝福を持って名づけられた名前ではなく、偽るための名前。



もう後戻りはできない。


きつく目を閉じ、どうか召還が成功するようにと、心に強く願いながら呪文を紡いでいく。




(使い魔……私の使い魔)




「五つの力を司るペンタゴン」




(どこかにいる、私の使い魔)




「我の運命(さだめ)に従いし使い魔を」





(どうか、この召還に応えて欲しい)





願う、使い魔を。



強く、大きく、空を自在に駆ける、風を。







(でも、私が本当に欲しいのは、羽ばたく翼? 鋭い牙? 突き立てる牙?)







閉じた暗闇に、もう思い出にしか存在しない父の顔が

虚ろな表情で人形を抱いていた、母の顔が浮かぶ。




そして最後に、自分の全てを奪っていった、憎き敵の顔が。






(……違う)






私が、タバサである私が欲しいのは翼じゃない、爪でも、牙でもない。


欲しいのは剣。 憎き敵を斬り裂くための―――剣。






(母さまを救い出すための……父さまの仇を討つための力を、私に―――!)





「―――召還せよ」





融解した感情の火を乗せるように、杖を振り下ろす。






直後、強い光が目の前の空間に現れた。

光は徐々に収束し、徐々に四方形の扉を形作っていく。






(成功、した……?)





そう安堵した瞬間、扉から熱風と強烈な光が飛び出した。












ゼロの使い魔 SS


青の使い魔


プロローグ2 願いし剣











そこから現れたのは、人の姿をした生き物だった。


その他には何もいない、召還したはずの鏡も既に無く、後ろには青々とした草原が広がっている。








周囲の生徒はその奇妙な光景にざわめく。


しかし、誰一人としてそれを声に出して囃し立てる者はいない。


それほどまでに、このタバサという少女と周囲の繋がりは薄い。






誰もが発する言葉を失い、渦中にいる2人すらただ呆然と見つめあうという、微妙な空気。








召還に失敗した?


でも、召還の扉は出た


そして扉が消えた後には人間が1人。





だとすればこう考えるほうが自然だろう。


人間を、召還してしまったのだ―――と







タバサがそれを理解した瞬間、真っ先に頭に浮かんだのは落胆だった。






―――これが使い魔 私の使い魔。





どうみても人間―――それも杖も持たない、ただの平民。





人間を召還したなんて話は聞いた事が無い、やはり偽りの名前を使ったからだろうか。


それとも、召還の時に剣を思い浮かべてしまったから、剣を使える者が出たとでも言うのだろうか?


だとすれば自分の愚かさをこれほど悔やむ事は他に無いだろう。





召還された少年は、かけられる言葉も無く。


かけるべき言葉も見つからずにぼけっと座り込んだままこちらを見上げている。





翼も無い、鋭い爪も、牙も無い。



見るからに、戦いという行為からほど遠い、ただの人間にしか見えない。





これではダメだ、とても生き残れるとは思えない。



ならばいっそ……



「ミスタ・コルベール、召還失敗しました」



一縷の望みをかけて、儀式を見守っていた教員、コルベールに召還のやり直しを求める。

しかしコルベールから返ってきたのは私にとっても、召還した彼にとっても、残酷な言葉だった。



「いや、ミス・タバサ、召還は成功している、確かに彼は人間のようだが……

一度召還してしまった以上、君は彼と契約しなければならない

……召還の儀は神聖なものだからね、気持ちはわかるが……儀式を曲げるわけにはいかない」




撤回は無理そうだ。


失敗の理由を言うわけにはいかないし、恐らく何度やろうと成功はしないのだろう。

自分でわかっていて誤った儀式をしているのだから、これは仕方の無い事だ。




なら、形式上だけでも成功という形を取れただけでも、まだ良かったほうだと思う事にしよう。




改めて召還した人間のほうに振り向いてみると、まだ自分の置かれた状況を把握できてないのか

地面に座り込んだまま、ぼーっとこちらを見上げていた。




貴族を見慣れてないのだろうか。


妙な服装をしているし、もしかしたら貴族の少ない田舎の地方からでも召還されたのかもしれない。


それに、この国では珍しい黒髪……確か学院のメイドに同じ黒髪の者がいたような気がする。





―――まあ、どうでもいいことだ。




少し、召還してしまった彼について考えて見たが

タバサにとってはどうでもいい事だった。



目の前の彼がどうであろうと、それらは全て意味が無い事。


手があるのだから、武器くらいは使えるだろう。

だけどそれが何になる、剣が少し使えたところで、届かなければ意味がない。





私が欲するべき使い魔は強く、便利な使い魔。

そして現れたのは戦えないただの人間、それだけが結果。





それなら、早く契約を済ませてしまおう。





―――でも、果たしてそれで契約は成立するのだろうか。




神聖な儀式を曲げるわけにはいかないと、先ほどコルベールは言った。


でも、そんなものは既に曲がっている。





「―――我が名は、タバサ」





契約を求める側が、嘘の名前を名乗る、これは立派な契約違反ではないだろうか。





「五つの力を司るペンタゴン」






偽りの契約に、どれほどの価値があるのだろう。






「この者に祝福を与え」






この召還にはきっと祝福などない、私にも、彼にも。







「我の使い魔となせ―――」







そんな事を考えながら、唇と、契約が交わされた。














あおがき。



なんかごちゃごちゃして自分でもわけわかんなくなってしまいました。。。


本当はこんな文見せられたものじゃないですが……。


でも書かずに出さないよりは、先に進んで書き続けて見ようかと思いました。(作文?)


あーでも書いても下手だとせっかく見てくてれる人もどんどん減ってしまうというジレンマがwww






タバサ視点難しいなぁ……タバサ視点での心理的描写とかやったせいで

召還された少年側の描写が全然入れれませんでしたー。

もう自分でもわけがわからず orz




でも心理的描写を入れないと自分が自分でいられないのですよ・・・っ。 (何言ってんのこの人ー)




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