深い、深い闇の世界

光も届かない、それでいて冷たい世界

そこに、1人の青年がいた

闇に同化するような漆黒の服を纏った青年

彼の心は周囲の闇に飲み込まれていた



少し昔、青年が少年だった頃

少年には女の子の幼馴染がいた

少女にとって少年は『王子様』だった

少女は毎日のように少年の元に遊びに行き、彼を太陽の下へと引っ張っていった

半ば強制的とも呼べる少女の行動に少年はただただ従うしかなかった

好奇心旺盛な少女に振り回され、少年がウンザリする日も少なくはなかった

でも、そんな日々を少し楽しみにしていることに少年は気がついていなかった

しかし、別れは突然やってくる

少女の一家が突如その地を離れる事になったのだ

そして少女との別れの日に、彼は大事なものを失った

少女の一家を見送る為に訪れていた空港、そこでテロが起きたのだ

運良く彼は巻き込まれる事も無く無事であった

だが、彼の両親はそれに巻き込まれ命を落とす

少年は幼くして天涯孤独となってしまったのだ

しかし、これは少年の不幸の始まりに過ぎなかった

少年が青年になった頃、1つの争いが幕を開ける

突如現れた虫型の無人兵器

人々の叫びと無人兵器の虐殺行為

そこで出会った小さな少女との一時の安らぎ

そして、少女を助ける事が出来なかった無力感

彼は絶望や悲しみを経験した

しかし、彼は闇に飲み込まれる事も無く、立ち上がり前へと進んだ

料理人と言う、自分の夢を叶える為に

そして彼は出会いを果たす

仲間と呼べる人達と

護ると誓った少女と

そして、愛すべき女性と

そう……彼は幸せを手に入れたのだった


しかし、それも長くは続かなかった


大切な仲間に見送られ

護ると誓った少女との一時の別れ

彼は愛すべき女性と新婚旅行に向かおうとしていた

彼とその周囲を包み込む人々の幸せな時間

その幸せな時間は、唐突に終わりを迎える

彼と愛すべき女性を乗せたシャトルが爆発し、2人は行方不明となってしまったのだ

結局、彼等は発見される事も無く、人々は2人の死を認めた

しかし……彼等は生きていた

愛すべき女性は『遺跡』と呼ばれるオーバーテクノロジーとの融合を

青年は実験と言う名の拷問を受け続けていた

そして、彼は料理人になるという夢を失う

五感を……味覚を失うという絶望を迎えて

彼は闇に染まってしまったのだ


護ると誓った少女と同じ能力を持つ少女を、失った五感を補う為の道具として利用し

黒い鎧を纏った機動兵器と白き戦艦、そしてそれを制御する思兼級AIを駆り

愛する人を奪われた……その恨みを晴らす為に

自らの夢を奪った者達に復讐を果たす為に

彼は全てを犠牲にして力を手に入れた

しかし、彼が完全な闇となった訳ではなかった

恨み・復讐はあくまで彼の行動の原動力とする為のモノだった

闇の力を欲した皇子が望む事

それは、愛する女性を取り返す、大切な少女を護る、それが彼の願いだった

そして彼の戦いは終わりを迎える

愛すべき女性も救出され、護ると誓った少女との再会も果たした


しかし、失った時間が戻ってくることはなかった


愛すべき女性は『遺跡』との融合により衰弱し、数週間足らずでその一生を終えた

護ると誓った少女も、彼女の持つ力を恐れた愚かな人間の暴走によりその一生を終えた

そして少女の部下として共に居た仲間達も少女と共にその一生を終えた

彼の願いは無残にも叶えられる事はなかったのだ

そして皇子様は完全なる闇と化す

ただひたすら破壊を繰り返すだけの存在へと変貌していったのだ

歯向かう者には容赦なく、逃げる者にも容赦なく、敗北を認める者にも容赦なく

少女の最後の機転により破壊を間逃れた思兼級AIも、少女の仇を討つべく協力を申しで、その行為は加速していく

そしてその行為は、五感を共有する少女にも伝染し、その心を完全に破壊してしまった


彼はたくさんのモノを失った

残ったのは大きな悲しみと絶望

そして、小さな願いだった

彼が願う最後の思い

それは…………この世界から、繁栄と災いをもたらす存在と共に消える事だった

古代火星人が生み出したとされているオーバーテクノロジーの塊である『遺跡』

そして彼がこの様な人生を歩んだ原因と言うべき遺跡の産物、特殊な転移技術『ボソンジャンプ』

彼は『遺跡』と共に、『ボソンジャンプ』でこの世界から消える事を望んだのだ


世界はこの『遺跡』に振り回され、大きな争いを生んだ

たくさんの人が死に、そしてたくさんの悲しみが生まれた

それは人が生み出した結果である

しかしそれは『遺跡』という争いの種が存在したからだと青年は考えた

そして、『遺跡』が存在する限り、人類にとっての争いの火種となる事であろう

だから彼は望む

皆で守ろうとした、この世界が平和になる事を――――


そして

――――その時はやってきた

『遺跡』の強襲・強奪に成功し、邪魔する者達を無力化し、彼は全ての準備を終えていた

邪魔する物も無く、静まり返った宇宙

そこで彼は人々にメッセージを送る

戦争に巻き込まれ、人生を狂わされた青年の悲痛な叫びを

戦争という行為が招いた現実と、裏で行われた悲劇の数々を

それらが人々の心に刻まれる事を祈りつつ、彼はメッセージを送ったのだった


そして彼が遂に、この世界と決別する時が来た

『ボソンジャンプ』はイメージが重要な鍵となる転移技術

彼はイメージをした

深い闇を――――

冷たく深い闇を――――

光も届かない、深い闇を――――



こうして、彼はこの世界より姿を消した




そして



――――彼は出会う

彼と同じく、人の欲望によって歪められ、破壊の力を振りまく存在と化した――――

『蒐集』

一冊の書物と



この物語は、一冊の書物とそれに選ばれし少女

――――そして、闇に染まった皇子様の出会い

大きな絶望と悲しみを背負いながらも、新たな家族と共に歩んでいく

――――そんなお話である





魔法少女リリカルなのは ―夜天の主と闇の皇子―





1.発端



それは悲惨な光景だった。

一隻の戦艦が、同型艦へ向けて強大な力を持った砲撃を行っていたのだ。

つまり自軍の戦艦へ砲撃を行ったということである。

一見、愚かな行為にしか見えないこの状況。

――――これは苦肉の策だった。

砲撃で消滅した戦艦には、あるモノが保管されていた。

第一級捜索指定遺失物 ロストロギア『闇の書』

過去、様々な持ち主の手を渡り歩き、そして破壊の力を振りかざし、やがて主すらも飲み込む呪われた魔道書である。

その、魔道書を厳重に封印し、護送中だったのがエスティアと呼ばれた戦艦だった。

厳重な封印を施された闇の書。

――――しかし、魔道書はその封印を破るとその力の一端を見せた。

封印から開放された闇の書は暴走を開始し、エスティアのシステムを乗っ取ってしまったのである。

そして結果は……アルカンシェルと呼ばれる魔道砲で闇の書とエスティアを共に消滅させるという悲惨な結果であった。

その際、一人の若き提督が戦艦と共に消滅し、大きな犠牲の元、闇の書事件は一旦幕を閉じる。

そう、一旦である。

アルカンシェルの直撃を受け、その場から姿を消した闇の書。

しかし、闇の書は消滅していなかったのだ。

それは今、再び次元世界を彷徨っていた。

転生機能、そして無限再生機能。

本来なら跡形も無く消えるであろうアルカンシェルの一撃を受けても消滅を間逃れたのはその2つの機能が働いたからである。

しかし、それらの機能を持つ闇の書でも無傷と言うわけにはいかなかったのか、大きなダメージを受けていた。

修復を完了しない事には、新たなる主の下へと転生できない。

闇の書はその場での修復に専念しようとした。

まさにその時である――――

まるで引き合うかのように、巨大な何かが闇の書の眼前に転移してきたのだ。

それは巨大な白き戦艦、そして漆黒のロボット。

所々に損傷は見られるが、それらからは膨大なエネルギーが発せられていた。

たった今修復を考えていた闇の書、そして目の前には膨大なエネルギー。

そうなるとすべき事は1つ。

『蒐集』

闇の書がゆっくりとページを開かれると、無機質な声が発せられる。

すると深い、闇をイメージさせる紫色の光が周囲を包み、やがて戦艦とロボットは光に飲み込まれてしまった。

闇の書は、戦艦とロボット吸収したのである。

そして、それによって気づかされた事があった。

ロボットの内部に、人がいたのである。





2.闇と闇



「私の声が聞こえるだろうか?」

無機質な、しかし先ほどとは違い女性の声が辺りに響き渡る。

声の主は1人の無表情な女性であった。

「……………………」

それは、1人の青年に向けて発せられていた。

しかし、青年は意識を失っており、その言葉は届くことはなかった。

「…………では――――」

目覚める気配の無い青年の反応に、声の主は少し悩むと

“私の声が聞こえるだろうか?”

彼の頭に直接語りかけ始めた。

俗に言う、念話というものである。

「だ、誰か……そこに……居るのか?」

その直接的な方法が効果的だったのか、青年は反応を示した。

「気がついたようだな」

青年がゆっくりとだが声を発したので、女性は念話をやめ直接話しかけた。

「……………………」

しかし、青年は再び黙り込んでしまった。

彼の瞳も開いており、確かに意識は取り戻しているようである。

だが、青年は声に反応する事は無かった。

「もしや……ふむ、やはりな。五感の機能が麻痺しているようだな」

そう、青年は眼が見えず、音も聞こえず、触れても何も感じられなかったのだ。

その事を青年に触れることで理解した女性は再び念話で話し掛け始めた。

“こちらなら聞こえるだろう?”

「やはり……気のせいでは無い様だな」

ここで反応を返してくるのだから女性の考えは当たっている様である。

“あぁ、念話で直接語りかけている。これなら五感に障害が無くとも問題あるまい”

「念話?……それに……ここは、どこなんだ?」

彼は自分の状況が全く理解出来ていなかった。

まぁ何も感じられないのだから仕方がないことである。

“ここは闇の書の内部だ。念話は初級の魔法のことだが、魔法のことを知らないようだな”

「――すまない……さっぱりわからん」

“だろうな。では直接頭に詳しいことを送ることとしよう……と、その前に名前を聞いておこうか”

「……アキトだ、テンカワ アキト」

“アキトか。ではアキト、少し頭が痛くなるかもしれんが我慢してくれ”

そう言うと女性はアキトと名乗った青年の額に手を当てた。

「――っ!?……がっ、ぐぁっ!?」

するとアキトの肉体が輝き始めた。

「これは……ナノマシンか。なるほど、五感の麻痺はこれが原因というわけか」

その現象に心当たりがあるようで、女性はアキトの肉体を観察しながらそう呟いていた。

「ぐっ!?……はぁ、はぁ、はぁ」

一方のアキトは、彼女の言う痛みと戦っていたが、それも徐々に収まっていき、呼吸を整えていた。

“どうだ、理解できたか?”

「あぁ……何とかな。しかし魔法とはな……信じがたいことだな」

アキトの脳内に女性が送りつけた情報は、次元世界と呼ばれる数多の世界、そして魔法とその基礎についてだった。

ちなみにだが、アキトの居た世界は送られた情報の次元世界とは繋がっていない事が後に発覚する事となる。

“私としてはボソンジャンプと呼ばれる転移方法の方が信じられんことだがな”

つまり、ボソンジャンプと呼ばれる技術は、次元世界のどこにも存在しない技術なのである。

「それについては同意権だ……っと、何故その事を?」

“あぁ、情報を送るついでにアキトの過去を少し見させてもらった。それにこちらとしてもアキトの対応に困っていたのでな”

女性は器用に、情報を送りつつ、読み取っていたのである

「なるほど。それで俺の対応とは?」

“アキトの記憶を見ておいて申し訳ないがはっきりと言わせてもらおう”

アキトのどの記憶を見てそう思ったのか、申し訳なさそうな表情を浮かべる女性の声が、アキトの頭の中に響き渡る。

“闇の書がアキトの力を…………そして共に吸収した物質に興味を示している。自分の力として行使出来ないかと”

「――――結局、どこに居ようと俺と遺跡は争いからは離れられないんだな」

アキトは自らが居た世界から争いの要因を少しでも取り除こうと、遺跡と共に消えた。

そして自分は転移先で息絶えるだろうと考えていた――――というよりもそうなる運命だろうと考えていた。

彼の肉体はナノマシンに侵され、肉体は既に限界だったのである。

治療方法は無く、あと一月も生きられれば十分――――それがアキトの状況だった。

だから彼は、命尽きるまでボソンジャンプを使用し、誰も居ない、遺跡が悪用されぬところまで転移しようとしていた。

しかし、彼女の言葉を先ほど送られて来た情報を元に考えると、魔道書の機能の一部として存在させられるということである。

それは彼にとって大きな絶望であった。

“だが、それは闇の書……防御プログラムの考えであって私は悩んでいる”

「――どういうことだ?」

“私は少なくともアキトには感謝している。貴方のおかげで損傷を回復するのに十分な力を貰ったからな”

そう言いながら女性はゆっくりとアキトの頬に手を添える……といってもアキトはわかっていない。

“そして先ほど記憶を見させて貰った時、貴方は安らかな眠りを求めていることを知った”

アキトの頬をゆっくりと撫でながら女性は語り続ける。

“アキトが望むのならば、私は覚める事の無い、安らかな眠りを貴方に見せることが出来る”

「それはつまり……肉体や遺跡のことを忘れて夢を見るということか?」

“あぁ、その通りだ”

「そうか……ならば遠慮させてもらおう。遺跡やボソンジャンプの力を無責任に放棄する訳にはいかないからな」

ボソンジャンプの技術がこの世界に無い以上、これを巡って戦いが行われるかもしれない。

そして、これを利用し、戦火が広がるかもしれない。

結果がわかっている様なモノを、アキトが無責任に放棄出来る訳が無かったのだ。

“わかった、では先ほどの提案は無かったことにしてくれ……ただ、このままアキトを闇の書の外部に出すことは出来ない”

「こちらの言い分を理解してくれることには感謝するが、脱出できないと言う事か?」

“少し違うな。例え私がアキトを外部に出そうとしても、防御プログラムがアキトを飲み込んでしまうことになるからだ”

「…………今更で悪いのだが、防御プログラムとは?それに君は誰なんだ?」

“私は闇の書の意志。防御プログラムとは別の存在だ”

今のアキトの状況を完結に述べると、闇の書の意思がアキトを保護しており、今は彼女の権限で防御プログラムが手を出せない。

しかし、外に出そうとすれば、そこで防御プログラムが介入し、アキトを取り込むことになるのである。

一度防御プログラムに取り込まれれば、闇の書の意思である彼女でもどうしようもないのだ。

「そうか。それで俺はどうなるんだ?」

“アキトが選択できるのは2つ。1つは先ほど説明した安らかなる眠りだが……これはダメであろう?”

「あぁ、それは出来ない」

“では残される選択は1つ。今のアキトを外部に出すことも出来ない以上、私はこの方法以外の案がない”

「それはいったいどんなものなんだ?」

“アキトという存在を、私と同等の存在にすることだ”

闇の書の意思が言う同等の存在とは、今の肉体をベースにプログラム化するというものである。

と言うのもナノマシンに蝕まれたアキトの肉体を治療するのは非常に困難なものである。

そこで、肉体を調整するためにプログラム化するのが闇の書の意思の提案である。

「それは……人で無くなるということだな」

“厳密に言えばそうだ。年をとらなくなってしまう以上はな。しかし、私の権限でアキトを自由に出来る方法はこれだけだ”

「どちらの選択も厳しいものだな」

1つ目は全てを放棄して安らかなる眠りを――――

2つ目は年をとる事の無い、人とかけ離れた肉体への変貌――――

どちらを選べといわれても非常に辛い選択であった。

“すまない……”

言っている本人もそれを理解しているからであろう、闇の書の意思も辛い表情だった。

「まぁいいさ。どのみち遺跡を持って来てしまった以上、それを守り抜かなければならないからな」

しかし、アキトは決断した。

先ほども言ったが、遺跡を放棄する訳にはいかない。

もう1度ボソンジャンプをするという手段も存在するが、彼が望む誰の手にも届かない場所は存在しないかもしれない。

だから、ボソンジャンプは出来ない。

だが、少なくとも2つ目の案ならば、遺跡を守り通す事が出来るであろう。

「自分の世界から争いの元を無くすと言う、俺の自己満足でこちらに遺跡を持ち込んでしまったんだ」

アキトの言うように、彼の行為は自己満足に過ぎない。

そもそも古代遺跡を発見するきっかけも人の醜い欲望が生んだ結果である。

アキトもそれを理解していた。

たとえ、遺跡が無くなろうとも人は争いを再び行うかもしれない。

でも、それでもアキトは遺跡を持ち出した。

もう、自分の様な犠牲者を出したくなかったから。

「そんな自己満足でこちらの世界に迷惑をかける訳にはいかない。それに年を取らないならそれはそれで好都合だ」

そして、肉体が回復すると言う事は、少なくとも自分が護って行く事が出来るはずなのである。

“そう言ってもらえると助かる”

「ボソンジャンプをした先で、君に会えたことは幸運かもしれないな……ありがとう」

ここに来て、アキトは初めて笑った。

今まで大人びた表情を浮かべていたアキトであるがその表情は少し子供っぽかった。

“いや、こちらは謝罪せねばならぬくらいだ”

「俺が言いたいんだ。気にするな」

“そうか”

そしてその笑顔は闇の書の意思の表情を柔らかくしていた。

“さぁ、ではゆっくりと調整していくとしよう”

「あぁ、頼む」

“次に目が覚めるのは数年後となるだろう。それまではゆっくりと休んでくれ”

「わかった。じゃあ……おやすみ」

“おやすみ”

ここで闇の書の意思はアキトに魔法を使った眠りを与える。

アキトは長い眠りに入ったのだ。


そして……10年後

「眼が覚めたようだな、アキト」

「あぁ、おはよう」

アキトは目を覚ましていた。

「体のほうはどうだ?」

「あぁ、問題はなさそうだ。君の姿も見えるし、声も聞こえる」

「そうか、それなら安心だ」

「それで俺は何年くらい寝ていたんだ?」

「約10年だ」

「10年……そんなにか」

アキトは眠っていた……というよりもコールドスリープの状況に近かった。

その為、時間的感覚はほとんど無かったのである。

「あぁ、プログラム化にはそれほど時間もかからなかったのだがな、アキトの力となるものを調整するのに手間取ってな」

「俺の力?」

「そうだ、アキト専用のデバイスを作っていた。デバイスについての情報は知っているだろう」

デバイスとは、この次元世界で魔法を使う者にとって重要な役割を担うものである。

簡単に説明するとほとんどの魔導師の必須アイテムである。

「デバイスについては知っているが……そんなものまで用意してくれたのか?」

「頼まれたのでな」

「頼まれた?誰に?」

「彼らにだ」

そう言いながら闇の書の意思は青い宝石のついたネックレスを2つ取り出す。

「それはCCか?」

CCとはチューリップクリスタルと呼ばれるボソンジャンプの鍵となる青い宝石の様な物質のことである。

「待機状態はアクセサリー型の方が便利なのでな、アキトの記憶を元に再現させてもらった。それと――――」

『マスター、お久しぶりです!』

「彼女の願いでもある」

闇の書の意思の言葉に合わせるように、突如聞こえた声。

「俺をマスターと呼ぶのは……まさか、ゼフィランサスか!?」

数回点滅した宝石を見ながらアキトは驚いた顔をしていた。

『そうです!マスター、お元気そうで何よりです♪』

ゼフィランサス…………それはアキトが共に戦場を駆け抜けたパートナーの1人だった。

思兼級AIの1つであり、アキトを支えた大事な存在である。

当初は戦艦の制御を担当していたが、のちにアキトが搭乗する起動兵器のサポートに回っていた相棒でもある。

『彼女の力を借りることで私は喋れる様になったのですよ♪』

「そうだったのか。じゃあもう1つにはオモイカネが?」

「あぁ、だが彼は眠っている」

『オモイカネは遺跡を封印してくれているんです』

ゼフィランサスよりも濃い色をした宝石、そちらの中にはアキトを支えたもう1人の相棒……というよりも親友のオモイカネがいるようだ。

「そうか、ではこの中に遺跡があるということなのか?」

「そういうことだ。封印は厳重にしてあるのでな、解除にはアキトの他に闇の書の主となるものの力が必要となる」

「では遺跡の力が封印されているということになるのか?」

「いや、完全にではない。ゼフィランサスを通じる事でボソンジャンプの使用が可能だ。ただし跳べるのはアキトのみだ」

「そうか、大体の事は理解した。これからもよろしく頼むぞ、ゼフィ」

『有事の際は私にお任せください♪』

再びアキトと共にいられることが嬉しいのか、先ほどよりも一際光ってみせるゼフィランサスであった。

「さて、準備も整った。アキト、行ってくれるか?主の下へ」

「そうか、主は見つかったのか」

「見つかりはしたがな、まだ幼いが故に守護騎士プログラムを召喚できない状態だ」

守護騎士プログラムとは、闇の書の防衛機能の1つである4人の騎士プログラムのことを指す。

本来ならば主が見つかればすぐさま召喚されるのだが、今回の主はまだ幼く、召喚する事が出来ないらしい。

故に闇の書はただ主の傍でひっそりと封印が開放されるのを待っているのである。

「数日後、主は8歳となられる。その日ならばアキトだけであるが外に出ることが可能なはずだ」

「わかった。闇の書の主を守るのも俺の仕事の1つだからな、任せておけ」

アキトの存在は闇の書と共にある。

しかし、アキトは闇の書について、詳しいことはあまりわかっていなかった。

そして闇の書の意思もそれを話せずにいた。

アキトが知ることは闇の書を守らねば彼の存在も危ういということだった。

「…………召喚の日まではまだ数日程時間がある。その間にゼフィランサスの機能を確認しておくといいだろう」

「そうだな。ではゼフィ、頼むぞ」

『了解しました、マスター』

アキトはゼフィランサスを持ちその場を離れていく。

そして残された闇の書の意思は

「貴方たちならば、私を悲しみから解放してくれるだろうか?」

アキトが自分にとっての希望となることを祈った。


そして数日後

アキトとゼフィはボソンジャンプと闇の書の意思の協力により、主の下へ向かうのだった。





3.出会い



――――6月3日 PM23:58――――


第97管理外世界 地球

そこに、足が不自由ながらも日々を生きる1人の少女が居た。

少女は幼い時に両親を亡くし、身内も居なかったために1人暮らしを余儀なくされていた。

日々生きていく為に必要なお金の管理は、亡くなった父親の友人が管理しているおかげで困ることも無かった。

住む家に関しても彼女1人では大き過ぎる程の立派なもので、問題なく日々を過ごしていた。

しかし、一人で暮らすと言う事は少女にとって想像以上に辛く、寂しいものだった。

そして、その日は特にその思いが強くなる日だった。

明日は彼女の誕生日なのである。

だが、祝ってくれる人はほとんどいない。

唯一祝ってくれるのは父親の友人くらいだろう。

しかしそれも会う訳ではなく、手紙とプレゼントが贈られてくるだけであろう。

足が不自由な為に学校にも行けず、同学年の友達が彼女にはいない。

結局、彼女を直接祝ってくれるような人は周囲に居ないのである。

そして少女はそんな寂しい思いを抱きつつ、リビングにあるソファで眠ってしまった。

いつもならベッドで眠りにつく少女であるが、ついそのまま寝てしまったようである。

電気もつけていなかった為、それらも眠りを促進したのかもしれない。

そして残されたのは静寂だけ。

ゆっくりと時間は過ぎていき、今日が終わろうとしていた。

コチコチと秒針が時間を刻んでいき、やがて全ての針が12時を指した――――その時だった。

彼女が普段寝室として使っている部屋で、変化が起きたのだ。

リビングと彼女の部屋を仕切る扉の隙間から漏れる紫の光。

それは徐々に強くなり、何かが地面に着地したような音が伝わってくると、光は力を失ったように消えていった。

「ここが、闇の書の主の住んでいるところか」

すると、そこに1人の男が出現した。

誰も居なかったはずの部屋に現れたのは黒いロングパンツに黒いノースリーブのシャツを着た一人の男性――――

先ほどの光は彼、テンカワ アキトが闇の書より出現した際に放たれたものだったのだ。

『はい、こちらで間違いないようです。ただ主はこの部屋には居ないようですが』

そんな黒尽くめのアキトが唯一身に着けている物が2つのネックレスであり、そのうちの1つがアキトの問いに答えるゼフィランサスである。

「そのようだな。それで、その主はどこにいるんだ?」

『この部屋を出て直ぐの位置に反応があります。この家にはその反応以外には誰も居ないようです』

ゼフィランサスはデバイスとしての力で周囲の調査を行っていた。

そしてその結果は8歳の少女の反応のみという、意外な結果だった。

「そうか……とにかく様子を見てみるとしよう」

そしてその事実はアキトに幼い頃の事を思い出させていた。

しかし直ぐに頭を切り替えるとアキトは少女の下に近づいていく。

『それがよろしいかと』

ゼフィランサスの言葉を聴きつつアキトは引き戸をゆっくりと引いていく。

そしてそのままゆっくりとリビングへ入ると、すぐに目的の人物を発見した。

“この子が……闇の書の主か”

“はい、そのようです”

ソファで眠る少女に気を配ってか、彼女を起こさないように念話に切り替える2人。

“しかし……本当にこの家には彼女しかいないのか?”

“それはほぼ間違いありません。この家から感じられる生体反応は彼女のみです”

“ゼフィが言うなら間違いはないのだろうが…………未だに信じられないな”

アキトにとって、ゼフィの探索能力はデバイスとしては高性能で信じられる情報ではあった。

しかし、どうしてもアキトには信じられないことだった。

理由の1つは彼女の年齢だ。

闇の書の意思の話では彼女はつい先ほど8歳になったばかりの少女だ。

この年で1つの家に1人で住むというのは少しありえないとアキトは思っていたのだ。

そう、あくまで先ほどまでは少しありえない。

――――その程度の疑問であった。

だが、この部屋に入ってから、その疑問は大きなものとなった。

彼女の眠る傍に、車椅子が置いてあったからである。

アキトは知らぬことだが少女は足が不自由だ。

そして車椅子の状態や彼女の足を見ればアキトはそのことを理解できた。

彼女は車椅子がないと日々の生活が出来ないということに。

“全く、こんなに小さな、それも足が不自由な子を1人で暮らさせるなんてどういう神経をしているんだか”

“マスター…………”

アキトも幼い頃に両親を亡くし1人だった。

孤児院に引き取ってもらい、面倒を見てもらうことで幼い時を過ごしてきた。

孤独を感じ、寂しい思いを何度もした。

それでも、周囲に人がいるだけで、その気持ちを紛らわせることは出来た。

だからこそ、この少女が1人で暮らしているという事実が彼にはどれほど辛いものか理解できた。

“…………はぁ、とりあえずこの子をベッドで寝かせてあげよう”

“ですね。それがよろしいかと思います”

しかし、今そんなことを言っても仕方がないと頭を切り替え、彼女をゆっくりと抱きかかえると、先ほどの部屋へと向かった。

そして少女をベッドに寝かせたアキトは、とりあえず彼女が起きるまでリビングで待機しておくことにしたのだった。



――――6月4日 AM7:00――――


「……ん……ふぁぁぁぁっ…………うぅん、もう朝かぁ……ん?あれ、昨日はたしか……」

朝の日差しの眩しさに目覚めた少女。

ゆっくりと上半身を起こし、体を伸ばして意識を覚醒させていく。

そして感じる1つの違和感。

「うーん……たしか昨日はベッドに戻るのも面倒になってソファで眠ってしまおうと思ったはずなんやけど――――」

少女は、昨日ベッドで寝た記憶がなかったのである。

普通の人ならば、本能でベッドに戻ったと考えれば説明がつくであろう。

「そーいえば車椅子もないようやし…………まさか――――」

しかし、彼女は足が不自由であり、いくら寝ぼけていようとベッドに戻るのは不可能なことであった。

そしてそんな少女が考え出した結論とは

「妖精さんが運んでくれたんやろうか?」

ちょっとありえない考えだった。

「とっ、ボケとる場合やないわ。うーん、何とかリビングを目指すしかないやろうなぁ」

一応本気で言ったわけでは無い様で、自らのボケに軽くツッコミを入れると、少女は腕を使ってゆっくりとベッドの端へと移動を開始した。

「ふぅ、無事到着や。さて、ここが難関やね」

そしてベッドの端に到着した少女を待っていたのは高さ約50cm前後の崖。

――――もとい段差であった。

「この程度負けへんでぇ!……よいっしょっとっとっとっきゃっ!?」

それに勝つ気満々?で果敢に挑んだ少女であったが、腕を滑らせて腰から落下という無残な結果に終わった。

「うぅ……いたたたた。はぁ……なんでこんなことになったんやろうか」

そして敗北という結果がショックだったのか、落ち込み始める少女。

そしてテンションは徐々に降下していき、様々な考えが頭を過ぎる。

どのようにしてベッドで寝たのだろうか?

――――寝ぼけての行動とは思えず、答えが見つからない。

そして、答えが見つけられない少女は根本的な事に疑問を持つ。

何故……私は歩けないのだろか?――――と。

彼女の悩みはほぼ、これに行き当たる。

病院で検査を受けてもわからない。

様々な治療を受けているが進展は見られない。

最近では担当医も諦めたのか、彼女を哀れむような視線をおくってくるほどだ。

彼女を支える人もおらず、悲しい日々が過ぎていく。

「……はぁ、私は…………何で生きているんやろうか?」

もう、彼女は生きる気力も無いに等しかった。

そんな彼女に運命を変える出会いが始まる。

「音がしたと思ったが、どうやら目を覚ましたようだね」

「へっ!?……えぇっと……」

自分以外誰も居ないはずの家。

自分以外開けられる事が無い扉が開いた。

そして、そこから現れる1人の男性。

彼女にとって予想外の連続だった。

「はじめまして、闇の書の主」

一方予想外な存在の男性は、普通に少女の元にやってくる。

「や…闇の書の主?それはえっと……私のことやろうか?」

そんな相手の言葉に普通に返してしまう少女。

「あぁ、その通りだ。俺はテンカワ アキト。良ければ名前を教えてもらえるかな?」

「は…はい、八神 はやて言います」

結果的にアキトの質問に対し、普通に答えてしまっていた。

「そうか、はやてか。よろしく」

そう名乗る男性はゆっくりと右手をはやてと名乗る少女に差し出す。

「は、はぁ……よろしゅう頼みます」

少女もそれにあっさりと釣られ、握手をしてしまっていた。

「…………ってちゃうがな!お兄さんは誰や!?……まさかとは思うけど泥棒とちゃうやろうな?」

絶妙な間で行われるノリツッコミはさて置き、少女は目の前の男性を警戒し始めた。

と言っても純粋に何者かが気になるだけで恐怖はそれほど存在しなかった。

それは彼と握手した時に合った目が、とても優しげで、暖かい眼差しだったからである。

「泥棒ではない。これだけははっきりと言えるかな。まぁちゃんと事情を説明させて貰うよ。でもまずは――――」

泥棒と言われた事に苦笑しつつ、アキトははやてを抱きかかえると――――

「とりあえず車椅子のところに向かおうか」

リビングへと移動を開始するのだった。



「えぇっと、信じがたい事実が盛りだくさんやけどつまりや、テンカワさんはあの本から出てきた守護騎士さんな訳やね?」

「あぁ、一応そういうことになるな。信じられないような事ではあるがな」

「うーん、本当に信じられへんような内容やねぇ。それにしても私が魔道書の主ねぇ」

「それに関しては魔道書がはやての元にある以上、間違い無いはずだよ」

はやてを車椅子に乗せてから数十分後、どうにか大まかな説明が終わったようである。

「あの本は私が物心ついた頃からあるんやけどな、古い本やとは思ってたけど……まさか魔道書やったとはねぇ」

「突然のことで信じられないことばかりだが、信じてもらえないだろうか?」

「まだ半信半疑やけどね、実は夢で本に語りかけられたことがあるんよ。今思えばそれが闇の書のことなんかもしれんね」

本来ならば、頭のおかしい人と認識されてもおかしくない様な内容を話すアキトに対し、はやては意外と冷静だった。

と言うのも、曖昧な記憶ではあるが、夢の中で数回ではあるが本に話しかけられたことがあるらしい。

細かい事は記憶に無く、今まで疑問に思うことは無かったが、今考えてみればそれが闇の書だったと思えるそうである。

「それにや、テンカワさんってなんやウソを言ってる様に見えんしね」

「そう言ってもらえると助かるよ。まぁ一応こちらの切り札を出しておくよ。ゼフィ、頼む」

『お任せを、マスター。はじめまして、はやて様。私はゼフィランサスと申します』

アキトの切り札、それはゼフィランサスと言う存在であった。

「えぇっ!?まだ誰かおるん?」

突如聞こえてくる声にはやては周囲を警戒した。

「あぁ、このネックレスが喋っているんだ。これは俺の相棒のゼフィだ」

しかしその声ははやてにとっては意外な場所より聞こえてくる。

『今後ともよろしくお願いいたします』

「へぇ!これが喋ってたんか。こちらこそよろしゅう頼みます」

声とともに発光するゼフィランサスに軽く触れながら、2人は互いに挨拶を交わす。

「俺とゼフィは、はやてにとっての闇の書と似たような関係なんだよ」

「へぇ〜。つまりや、闇の書も喋ったりするんやろうか?」

「そこまではわからないな……ゼフィ、わかるか?」

『確かなことは、次のはやて様の誕生日に、闇の書は第1の覚醒を迎えます』

「私が9歳になったらってこと?」

『はい、その通りです。そこで本来の守護騎士システムが起動しますから賑やかになると思いますよ』

「守護騎士システムって言うとテンカワさんみたいに誰かが来てくれるん?」

『はい、私が聞いた話では4人ほど』

「それは賑やかになりそうやね♪わぁ、今から楽しみになってきたわ♪」

ゼフィランサスと言う、はやての世界ではありえない存在を目の前にすることで、彼女はアキトの話を信じることにした様だ。

そして、来年に姿を現すという守護騎士の事を考えると楽しくてしかたがないようである。

「それまでは俺とゼフィがはやての傍にいるから――――っと、居てもいいだろうか?」

突然現れて、住ませてくれ――――とはさすがに言えないだろう、と言うことで確認を取るアキト。

「ほ…ほんまに傍にいてくれるん!?」

それに対するはやての反応は期待の眼差しである。

「あぁ、はやてみたいな子を1人にする訳にはいかないからな」

この子は自分の幼い頃よりも不幸かもしれない。

自分の幼い頃以上に孤独かもしれない。

そんな少女に、アキトは何かしてあげたかった。

それは個人的な自己満足。

それはただの御節介。

だが、自分が幼い頃に欲したものを自分は彼女に与えることが出来るかもしれない。

だから、アキトはあえてこの言葉を使う。

「それでどうだろうか?守護騎士として……いや、家族として一緒に暮らしてもいいだろうか?」

アキトが――――はやてが幼き日に失ったモノ。

特にアキトにとっては2度も失ってしまった大事なモノ。

家族と言う言葉に若干の躊躇いがあったのはその為である。

自らが護ろうとして、そして護れなかった大事なモノ。

また失ってしまうかもしれないという恐怖。

だが、アキトは言った。

これはアキトにとっての誓い言葉――――

今度こそ、護って見せると言うアキトの意思。

「っ!?……うん、傍に、家族として居てほしい!」

そしてその言葉は、はやての心の隙間を埋めるのに十分な言葉だった。

こうして、アキトとはやては家族となるのだった。





4.家族として



2人の出会いから1ヶ月後。

「アキトアキト!散歩に行きたいんやけどいいやろうか?」

「そうだな、今日はいい天気だし出掛けるか」

「うん♪」

はやては、テンカワさんからアキトへと、呼び方がかなりのバージョンアップを遂げていた。

ちなみに、現在に落ち着くまでの過程はというと、お父さんからお兄ちゃんなど様々なものがあったのだが、なんとかこれに落ち着いている。

なお、お父さんにはさすがのアキトも泣きたくなったらしい。

「ほなアキト、外出用の車椅子まで抱っこ♪」

「はいはい、少々お待ちください、お嬢様」

「ふふふ♪」

そして、アキトに対して、過剰に甘えるようになっていた。

と言うのも当初、はやてはアキトに対し、ある程度の遠慮があったのだ。

それは自分にとって始めての家族と言ってもいい存在に、どのように接すればいいかわからない事が原因であった。

そんな彼女にアキトは、子供は甘えるものと教えること数日、徐々に甘え始め今に至るのである。

はやて的には、スキンシップが可能な抱っこなどが特にお気に入りの様である。

なお、自分で出来る事はやるというスタンスを持っており、怠けはなく『甘える』と言う手段として1日に数回実行している。

「はぁ、アキトってホンマに暖かいなぁ」

こういった温もりを感じるのも今までに無い経験だからか、はやては少なくとも10分以上は引っ付くと心に誓っている。

「はやて、そんなに引っ付かれたら降ろせないんだけど?」

「ほなこのままでいいで♪」

「そうか、じゃあご近所さんにはやての甘えっぷりを見せに行くと致しますか」

「そやねぇ、ちゃんと子供らしくアキトの言った通りしっかりと甘えさせてもらいます♪」

なお、実際にこのまま外に出掛けたりするのがアキトであり、はやてだったりする。

そしてこのやり取りは既に何度も行われており、周囲の住人には癒しを振り撒いていたりする2人であった。

とまぁ、周辺住人を癒しつつ、2人は家族としての日々を満喫した。



そして時間は跳びに跳んで、はやての9歳の誕生日前日。

途中、近所でロストロギアを巡って数人の魔道士が争っていたりで焦る日々も多々あったが、無事にこの日を迎えていた。

そして――――

「アキト、次は八百屋のおっちゃんのところに行くで!」

「あぁ、わかったよ」

現在は近所の商店街を訪れ、料理の材料を調達していた。

「はぁ、しかし短かったような、やっぱり短かったような1年やったねぇ」

何となくおかしな日本語を使うはやて。

「はやて、一応長かったような短かったようなと言っておこうな?」

「それはアカン。私とアキトのラブラブな日々がたった25行ってのが納得できんのや!」

どうやら色々と納得がいかなかったようである。

「はぁ…………そうか、あれからもう1年も経つんだな」

「私を無視して進行してる!?」

「さぁ、はやて。八百屋さんについたよ」

とまぁ、反抗するはやてを他所に2人は目標の八百屋に到着していた。

「ふん、うちは進行なんかさせへん!断固拒否や!」

しかし頑なに進行を妨害するはやて。

「おやっさん、こんにちは。今日のオススメはどれです?――――えっ?はやてのことですか?――――気にしなくていいですよ」

だが、無常にも話は進むのであった。

さらに顔見知りである八百屋のおっちゃんから繰り出される視線が若干痛かったりする。

「うぅ……あかん、ここで諦めたら私とアキトの最近では珍しいドロドロじゃない昼ドラ並みの思い出が伝わらんやんか!?」

しかし、それでもはやてには譲れない何かがあるらしい。

「はい、じゃあこれで――――あぁ、いつもサービスしてもらって申し訳ないです」

しかし、アウトオブ眼中なアキトははやて抜きでどんどん突き進む。

「それではおやっさん、また来ますね――――はい、次に来る頃にははやても元通りと思いますよ」

こうして、アキトとはやての買い物は終わりを向かえ、家路に着くのだった。

「あ…アキト!ここまでほったらかしにされるとこっちも意地になるでぇ!?」

「あっ、そういえば醤油がそろそろ切れそうだったな」

「うぅ〜こっちも意地にぃ……」

「まぁ帰り道に買えるし問題なしだな」

「もう私が悪かったから構ってぇやぁ!?」

「はぁ…よしよし」

「ぐすん、25行の恨みはいつか晴らしたるからなぁ!?」

こうして、はやては何かに敗北するのだった。


さて、話が逸れたが現在の2人は、はやての9歳の誕生日に向けてパーティーの準備中だった。

なお、そこに祝われる人であるはやてが入っているのは、これから出てくるであろう騎士達を迎える為だったからである。

そして





5.もう1つの出会い



――――6月3日 PM23:58――――

はやてとアキトは料理を無事に完成させ、それらを食卓に並べると、主役の登場を待っていた。

もちろん、闇の書をちゃんと持ってきており、今は車椅子に乗ったはやてが抱きかかえている。

一方のアキトは、時報で誤差を修正した時計を見ながらその時を待っていた。

「はぁ、楽しみやわ♪」

はやてにとっては、自らの誕生日と新たなる家族との出会いと言う事もあり、とても楽しそうな表情であった。

「はやて、あと1分で時間だぞ」

「ホンマか!?ってアカン、ちょい緊張してきた!?」

しかし、残り1分と言う状況になって、はやては少し緊張し始めた。

「はやてらしくないな。俺のときは冷静だったじゃないか」

「あれはアキトやったからやね。アキトの目を見たとき、暖かかったから♪」

「そうか。それは嬉しい限りだよ。まぁ時間は後10秒だ」

「はっ!?よ、よし、ドンとこいや!」

そして10秒と言う時間も直ぐに過ぎ、6月4日を迎える。

「はやて、誕生日おめでとう」

『おめでとうございます、はやて様』

「うん♪ありがとうな、アキト、ゼフィ。あっ!?闇の書が」

まずははやてへのお祝いの言葉を送るアキトとゼフィランサス。

それに満面の笑みで答えるはやて。

そんな微笑ましい中、闇の書が光を放ちながらはやての手を離れると空中で静止した。

それとともに、闇の書を封印していた鎖が消滅し、第一の封印から開放される。

「へっ!?な、なんなん、これ?」

すると、はやての胸が光り始め、やがて1つの小さな光の玉が出現した。

『ご安心下さい。その球体はリンカーコアと言って、はやて様を認識する為の儀式に必要なものですから』

突然起きた出来事に驚くはやてであるが、ゼフィランサスは不安にさせないために落ち着いた口調で伝える。

『蒐集』

するとゼフィランサスの言葉通り、闇の書ははやてから出現したリンカーコアを認識する。

そして再び光を放つ闇の書は、魔方陣を展開し、やがてそこに4人の守護騎士が出現した。

「闇の書の起動を確認しました」

「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を護る守護騎士にてございます」

「夜天の主の下に集いし雲」

「ヴォルケンリッター、何なりと命令を」

黒い服を身に纏い、跪くとそれぞれの言葉を述べる4人の騎士。

「へぇ!凄いなぁ!えっと、私が闇の書の主をやらせてもらってます。八神 はやて言います」

それをパチパチと拍手しながら驚きの表情を浮かべるはやて。

しかし、すぐさま頭を切り替えて自分の自己紹介を済ませる。

「早速やけどみんなの事を教えてもらえるやろか?」

そして今度は、騎士達に自己紹介をさせようとしていた。

「はい、主はやて。私はヴォルケンリッターの将、剣の騎士 シグナムと申します」

中央で跪いていた紫よりの桃色、といった感じの長い髪をポニーテールで纏めた女性が名乗る。

将というだけの事はあり、真面目な表情を浮かべながらハキハキとした口調でしっかりと述べていた。

「私は湖の騎士 シャマルと申します」

それに続いたのは、キレイな金髪をショートボブヘアーで整えた女性。

先ほどの将とは違い、愛想の良い笑顔を見せていた。

「鉄槌の騎士 ヴィータ」

3人目は、赤茶色の髪を2本の三つ編みでまとめた小さな少女だった。

その容姿ははやてよりも幼い姿ではあるが、その年代にしては愛想のない少女である。

「我は盾の守護獣 ザフィーラと申します」

そして最後になったのは現れた騎士の中で唯一の男である。

男と言う事もあり、この中で一番体格が大きく、また、獣のしっぽと耳が生えたちょっと見た目的に不可思議な存在である。

「シグナムにシャマルにヴィータ、それにザフィーラやね」

「はい、以後よろしくお願いいたします」

全員が紹介を終えると、はやては全員の名を確認する意味を込めて呼び、シグナムは代表としてそれに答えた。

「そやそや、この人はアキトや。みんなと一緒で闇の書から出てきてるんやけど知ってるんやろか?」

「アキトだ、よろしく頼む」

「彼のことは伺っております。我等とは少し立場は違うが騎士同士だ、よろしく頼む」

「あぁ、こちらこそな」

そういってアキトとシグナムは握手をしていた。

「ふふふ♪じゃあとりあえずこれでそれぞれの自己紹介も終わった事やし、ご飯にしよか」

そんな様子を笑顔で眺めつつ、はやては料理を並べた机を見る。

「えっと……ご飯でしょうか?」

その言葉に全員がそちらに視線を向けるのだが、それを見た守護騎士達は驚きの表情を浮かべていた。

そんな驚きの表情を浮かべる騎士達の代表なのか、シグナムが状況を判断する為に動いた。

「主はやては闇の書の能力については既に……」

「闇の書の能力?リンカーコアを蒐集する事でページに文字が浮かび上がり、666ページ全てを埋めると力を発揮するってやつやんね?」

ゼフィから聞いたよ〜っと軽いノリで答えるはやてにシグナムは続けて述べる。

「はい、その通りです。そして見たところ主はやては足が不自由なご様子。命じていただければ我等は今すぐにでも蒐集を開始いたしますが」

未だに跪いているシグナム達からは、はやての様子がよく理解できた。

「それは闇の書の力を使えば私の足が治るからやろうか?」

はやてはその質問の意図を理解し、逆に聞き返していた。

「その通りです」

「それやったら、私はみんなにそんな命令せぇへんよ」

「「「「はっ?」」」」

はやては、それらを理解した上で命令を下さないでいたのだ。

その発言には、シグナムだけでなく他の守護騎士たちも驚きの表情を浮かべていた。

「私はな、確かに歩けるようになりたいとは思うよ。でもな、蒐集行為は人様に迷惑をかけてしまうことになるんやろ?」

そんな彼らを見て、はやては騎士達の疑問に答えるように真面目な表情で語り続ける。

「自分のわがままで迷惑をかける訳にはいかん。だから私はそんなこと命令できひん」

「主はやて……」

まだ幼い、でも威厳を感じさせる少女の言葉にシグナムは先ほどとは別の驚きを見せていた。

「だから皆には別の命令……というよりお願いやね。私がマスターの間は、戦いの事は忘れて一緒に居てくれへんかな?」

そして、蒐集行為を行わせないはやての命令はお願いであり、彼女にとってはごく普通のものだった。

「お願い……ですか?」

その言葉に守護騎士達は更なる驚きを見せていた。

と言うのも、騎士達にとってこの様な命令は初めてのものだったのだからである。

「そやそや。で、どうやろ、守護騎士の皆は?」

今までに無い命令を受け、騎士達は困惑の表情を見せる。

そしてそれが伝染したのか、それを見てはやても少し不安になっていた。

「「「「……それが、主の望みとあらば」」」」

そんな、はやての様子を見てか、騎士達は笑顔を浮かべて答えるのだった。

「そうかぁ♪じゃあ、今度こそご飯にしよか」

こうして、新たな家族を迎える事となるのだった。


その後、はやてとアキトが用意した料理を恐る恐ると言った感じで食べ始めた守護騎士達。

だが、それも1口目を入れるまでで、その後の騎士達はどんどんと料理を口に運んでいくのだった。

そして、それを満足そうに見ていたはやては、いつの間にか眠ってしまい、彼女を寝かせる事となった。


「我等の為に無理をしてくださったようだな」

「でもあのお料理は本当においしかったです」

「はやてとしては無理しているつもりなかっただろうがな」

「そうか」

はやてをベッドへと連れて行き、アキトは後片付けをしていた。

そして守護騎士達はと言うと、シャマルはアキトと共に食器洗いを、シグナムとザフィーラは食器類の運搬を担当していた。

ちなみにヴィータははやての付き添いで今頃は夢の中であろう。

「しかし我等にとっては驚きの連続であったな」

アキト達が洗い終わった食器を拭き、それを食器棚に直していくザフィーラがふと思い出したように先ほどの事を話し始めた。

「たしかにね、アキトさんが先に来ている事は知っていたけど、まさか料理まで作って待っていてくれるなんてね」

「そして我等へのお願いか。様々な主に仕えてきたがこんな願いは始めてだ」

シャマルとシグナムもそれぞれの仕事をこなしつつそれに答えた。

「そうか……もしかして嫌だったのか?」

そんな彼等に、一応確認のつもりか、アキトは質問していた。

「いや、それはないな。突然のことで混乱はしたが、我等の身も案じてくれているのだろうからな」

しかし、アキトの質問は杞憂であり、シグナム達ははやてのやさしさを理解していた。

「それはそうだろう。はやてにとって皆は家族だからな。もちろん俺にとってもだがな」

それが彼女なりの、家族への愛情表現の1つである。

「わ、私たちが」

「家族だと?」

「あぁ、はやてにとっては」

しかし、騎士達にとって、それは本日最大の驚きだったかもしれない。

「俺たちがプログラムと言う存在であろうと、はやてには関係ない」

「私たちも家族……か」

「ふふふ、良いですね。家族って言葉」

「だな。さて、これで片付けも終わりだ。みんなもご苦労様」

「初めての仕事が食器洗いって言うもの初めての事よね」

「ふふふ、違いないな」

とりあえず、大人4人組みはかなり打ち解けているようであった。

「ところでだ、ザフィーラの耳と尻尾は……本物なのか?」

そんな4人は後片付けも終わったのでゆっくりと座って休憩をしていた。

そこで、アキトが疑問に思っていた事を口に出す。

「そういえば我等の事をアキトは知らぬようだな」

「あぁ、それでそれは?」

「これは本物だ。我には――――この様な形態もあってな」

すると光と共に、ザフィーラは狼の様な姿に変化していた。

「なるほど、それで守護獣という訳か」

「そういうことだ」

狼の姿になっても喋る事は可能なようで、普通に返事を返しているザフィーラだった。

「しかし……もしかするとそちらの姿の方がここでは都合が良いかもしれないな」

そんなザフィーラの姿を、アキトはゆっくりと確認しながらあることを提案する。

「そうなのか?」

「あぁ、人の姿では耳と尻尾を隠さねば外に出るのは大変だろうからな」

と言うのも、見た目的には狼の容姿に酷使しているが、犬などにも狼の血を受け継ぐ犬種も確かに存在している。

そしてなにより耳と尻尾を隠すよりは面倒も無くなると言うものである。

「たしかにそうね。この世界には魔法の文化がないようだし」

そのアキトの意見にシャマルもいつ調べたのか、この世界の情報を元に意見を述べる。

「あぁ。それにザフィーラに失礼かもしれないがな、はやては犬や猫の様な生き物と一緒に暮らしたいと思っているみたいなんだ」

そして、これが一番と言ってもいいのだが、はやての望みを叶えると言う事である。

それは、足が不自由なために、半ば諦めていたペットを飼うと言う夢の事である。

しかし、それはザフィーラにとってはペットとして生活しろと言っている事に等しい。

「ふむ、主の願いとあらば叶えるのが我の役目。よって我はこの形態でいる事としよう」

だが、ザフィーラの考えとしては、主の望みが第一の様であった。

「すまないな」

「ふっ、アキトが謝る必要もあるまい。これは我の意思だ」

「そうか」

こうして、八神家に2人の女性と1人の少女、そして1頭の犬(狼?)が迎えられ、新たなる生活が始まるのだった。

そして翌日。

「ふかふかやわぁ♪」

ザフィーラのサプライズ?に表情が緩々の少女が居たそうな。





6.穏やかな日々、そして……



守護騎士お出迎えパーティーも無事成功し、出だしも好調な新八神家はその後も賑やかな日常を送っていた。

守護騎士達の服や日用品を買いに出掛けたり、皆で散歩に出掛けたりと、大勢で出掛けるという事を楽しんでいた。

最初は戦う事も無く、穏やかな生活にいろんな意味で気を使っていた騎士達も今ではそれを当たり前のように受け入れていた。

しかし、そんな騎士達に大きな決断を迫る出来事が起ころうとしていた。

それは、10月下旬に起こった出来事だった。

主である八神 はやての病気が悪化したというものだった。

はやては足が麻痺しており、その為に歩く事が出来ない。

その麻痺が、徐々に上の方へと進行しているのだった。

つまり、いずれは内臓機能が麻痺してしまうと言う事である。

それを、アキトがこちらに来て数ヵ月後に担当医となった医師より聞かされたシグナム達は、何が原因なのか直ぐに突き止めてしまった。

それは――――闇の書の力によるものだったのだ。

闇の書は、はやてが生まれたその日よりずっと傍に居た。

それが、まだ未成熟だったリンカーコアを持つはやてには大きな負担となり健全な肉体を維持出来なかったのだ。

そして、9歳の誕生日に封印から開放された闇の書の力はさらにはやての肉体に負担を与えてしまい、今に至る。

湖の騎士 シャマルは回復などの魔法を得意とするが、その力をもってしてもはやての麻痺を治すことも、進行を遅らせる事も不可能だった。

このままでは、はやては闇の書に蝕まれ、その命を落としてしまう。

わずか数ヶ月という時間。

それは守護騎士達とはやての出会いからの時間である。

その数ヶ月の時間は、守護騎士達が生きてきた時間に比べればほんの些細な時間。

だが、守護騎士達にとって、その数ヶ月はとても大きなモノだった。

主であるはやてが、主でだから大切なのではなく、家族として大切な存在と思えるほどのモノだった。

そして、この穏やかな生活がこの先もずっと続く事を信じていた。

しかし、その生活が崩壊しようとしている。

それ以前に、はやてを失ってしまうかもしれない。

その現実に直面した騎士達は悩んだ。

そして、彼等は決断する――――例え主との約束を破ってしまおうとも、彼女を救う為に行動を起こす事を

「アキト、我らは今から主の命を破り、蒐集活動を開始する」

それは、はやての望まない蒐集行為を行う事。

「はやてちゃんを救うには闇の書の完成させるしかないんです!」

深夜を回って静まり返った町の、1番高いビルの屋上に、騎士達は集まっていた。

「闇の書が完成すれば、少なくとも我等が主の病は止まる」

そして、アキトの前には、4人の騎士がそれぞれの誓いを胸に立っていた。

「はやての未来を血で汚したくないから人殺しはしない。だけど、それ以外なら、なんでもするっ!」

全ては主であるはやてを思っての事だった。

「みんなの覚悟はわかっているつもりだ。それに俺もはやてを救いたい。だから俺も――――」

当然、アキトも同じ気持ちだった。

だから、彼らと共に蒐集活動を行うつもりでいた。

「いや、アキトは主はやての傍にいてあげて欲しい」

「蒐集は私たちが行いますから、アキトさんははやてちゃんを護っていてください」

「我らが主も、アキトが傍にいれば安心できるであろう」

「だから、あたし達がいない間、はやてを支えてやってくれよ!」

しかし、守護騎士達はそれを拒み、はやての傍で護っていてくれる事を願った。

自分たちよりも長い付き合いのアキトがはやての傍に居てくれれば、悲しませる事もないと考えての事だった。

「お前たち……」

「それに、お前には別の役目があるのだろう?闇の書より聞いている、だからアキトの力を表に出すわけにはいかない」

そしてもう1つ、アキトには大事な使命があったのだ。

遺跡と、ボソンジャンプの力を護るということである。

蒐集行為をしていれば、いずれ邪魔者も現れるであろう。

しかし、殺しをしないと誓っている以上、目撃者は当然生き残る訳で、アキトの力を隠し通す事は不可能かもしれない。

だから、アキトを参加させる訳にはいかないのである。

「だが、皆だけで大丈夫なのか?」

しかし、それでもアキトにとっては皆の事が心配である。

「ふっ、アキトよ。我等ヴォルケンリッターは負けぬ」

「それに元々私たち4人で活動していましたから」

「そういうことだ、案ずる事はない」

「なっ?だからアキトはさ、はやての傍に居て欲しいんだ!」

しかし、彼女達も騎士と名乗るほどの者達である。

彼女達の自信に満ちた表情を見れば、信頼できるものだった。

「わかった、俺ははやての傍で彼女を護る事にする。だがいくつか条件がある」

だからアキトは、騎士達に蒐集を任せることとした。もちろん、条件付であるが。

「なんだ?」

「1つ目は、必ず毎日帰ってくる事。2つ目はローテーションを組むなどして休みを取り、はやてと一緒に居る事。この2つは守って貰おう」

「そりゃ、はやてやアキトの御飯はギガウマだからちゃんと帰ってくるけど、休んでいる暇があったらどんどん蒐集しねぇとダメだろ」

「そうやって御飯の時だけ帰ってきて、すぐに出掛けていたらはやてが悲しむぞ。それでいいのか、ヴィータ?」

「うっ!?そ、それは……」

はやての悲しい顔を想像したのか、ヴィータは何も言い返せなくなってしまった。

「効率は落ちることになるだろう。だが、皆が体調を崩したりする事もはやてにとっては負担になる」

「たしかに、な。わかった、アキトの条件を受け入れる事としよう」

そして結果的に、ヴォルケンリッターの面々が条件を飲む事で同意した。

「では、アキト。早速だが言ってくる」

「今日は初日と言う事なので全員で行って来ますね」

「我等が主が目覚めるまでには戻る」

「だから……はやてのことを頼むぞ」

「あぁ、皆も気をつけてな」

ヴォルケンリッターの騎士達は、それぞれ四方に移動すると、中央に体を向ける。

それをアキトは、少し離れたところで見ていることとした。

「申し訳ありません、我等が主。ただ1度だけ、あなたとの誓いを破ります」

シグナム・シャマル・ヴィータはそれぞれのデバイスを持ち、魔法を使役し始める。

シャマルの指輪型デバイス クラールヴィント

ヴィータのハンマー型デバイス グラーフアイゼン

シグナムの剣型デバイス レヴァンティン等がそれぞれ光を放ち、魔方陣を展開する。

それは4人の足元を照らす巨大な魔方陣となり、騎士達は各々が騎士甲冑と呼ばれる、はやてがデザインした鎧を纏う。

シグナムは騎士と言うよりも剣士の雰囲気をした、彼女のイメージカラーとも言うべき紫色の騎士甲冑を

シャマルは清楚なイメージの淡いグリーンのドレスを

ヴィータはゴシックロリータ調の赤いドレスを

ザフィーラは人型へと姿を変え、青いジャケットをそれぞれ身に纏うと

「我等の不義理をお許し下さい」

シグナムのこの言葉と共に、それぞれが散開し、蒐集活動を開始した。

それをアキトは何も発することなく、ただ見ているしかなかった。





7.暗躍



その日を境に、八神家では家を空ける者が増えた。

唯一アキトのみが、はやての側についており、日替わりで残りの騎士が休息として家で休む。

それでも、食事には全員が揃い、相変わらず賑やかな家庭であった。

全ては、はやてに黙って蒐集行為を行うためのこと。

騎士達は、主への隠し事に罪悪感を感じながらも、懸命に頑張っていた。


そして、1ヶ月が過ぎようとした頃、大きな変化が訪れる。


「ただいまー」

「あぁ、おかえり、はやて。ん?シャマルはどうしたんだ?」

その日は、八神家とはやての友達である月村 すずかを招いて鍋をしようと考えていたのだ。

ちなみに、月村 すずかとは、はやてが図書館で出会った同い年の少女である。

はやてにとって、初めて出来た同世代の友達という事もあり、また本という共通の趣味があることから2人は非常に仲が良い。

そんな彼女を招く為にも、はやてとシャマルは材料を求めて買い物に出ていた。

しかし帰ってきたのは、はやてだけであったのだ。

「シャマルやったら買い忘れがある言うてそこまで帰って来てたんやけど慌てて出かけてしもうたわ」

はやての話によると、シャマルは突然慌て始めると逆走を開始したそうである。

「そうか……相変わらずシャマルはどこか抜けてるんだな」

「ま、まぁ、否定はせんとくわ」

八神家では、シャマル=抜けている という方程式が確立されつつある今日この頃。

「そうなるとシャマルのことが少し心配だな」

とまぁ、そんなシャマルを心配するアキトであるが、

「そやねー。確かに女の人が1人で歩き回るには遅すぎるかもしれんね」

「いや、忘れ物とか言って何を買って来るか心配なだけだよ」

何気に酷いことを言っていた。

「はははは……たしかに」

そして、はやてもそれを否定するつもりは無いようである。

「たしかすずかちゃんが来るのはもう少し後だったかな?」

「そやよ。お家の車で来るそうやから心配は無いと思うで」

「そうか、なら俺はシャマルの様子を見てくるよ。ついでに皆も拾って帰って来るから準備を任せてもいいかな?」

「ふふふ、八神家の台所長に任せとき♪」

「頼もしい限りだな。じゃあ、鍋の準備ははやてに任せるとして、じゃあ行って来るよ」

「うん、気ぃつけてね」

こうして、自他共に認めるはやてを残し、アキトは家を出た。

そして途中、すずかを乗せた車に遭遇し少し話した後、アキトは人気の無いところへ向かって移動を開始した。

“ゼフィ、本当に結界が張られているんだな?”

やがて人の気配が無くなると立ち止まり、先ほどまでの穏やかな雰囲気を吹き飛ばした。

先ほどまではやてに見せていた表情とは違う、険しい表情を浮かべながら彼は相棒との念話を始めたのだ。

“はい、間違いありません。どうやらシャマルさんは外部に、残りの3人は内部に閉じ込められています”

アキトは、突然シャマルが街に戻ったと聞いた時、ある確信があった。

はやてが戻ってくる少し前より、ここより離れた場所で大きな結界が展開されていたのだ。

そして、その場からはヴィータとザフィーラの反応が確かにあった事から、アキトは2人が閉じ込められたと気がついた。

後に、シグナムもその中に入っていくのを感じ、シャマルが慌ててその現場へ向かった事からアキトは不安を抱いていたのだ。

“ゼフィ、ここからでも状況はわかるか?”

“はい、シャマルさん達の会話を拾いました。それと周辺のネットワークに侵入、映像を出します”

さすがは思兼級AIと言うべきか、ゼフィは周辺のカメラなどをハッキングして、それらの映像をアキトの頭に送った。

“さすがだな。しかし、この少女達は”

“相手は管理局魔道士だそうです。それも以前に蒐集に成功した少女を含む、シグナム達と戦闘経験のある者達のようです”

ゼフィの見せた映像には、アキトの知る人物が映っていた。

“この子達がシグナムの甲冑を抜いた……ん?もしや闇の書の覚醒前に起きたロストロギア事件の関係者達か?”

その人物とは、まだ闇の書が覚醒する前、近所で起きたロストロギア事件の関係者達であったのだ。

“はい、その通りです。どうやら前回の敗北を期に、カートリッジシステムを搭載してきたようです”

“これは……すこしマズイかもしれないな”

映し出される映像には、カートリッジシステムを使いこなし、シグナムとヴィータと対等に戦う2人の少女。

と言うか、既にヴィータは押され始めていた。

そして――――

“た、大変です、マスター!?闇の書を持ったシャマルさんが捕まっています!”

シャマルが管理局魔道士に後ろをとられ、身動きの取れない状況となったのだ。

“っ!?ゼフィ、俺達も介入するぞ!”

それを聞いたアキトは焦り、そして決断した。

“マスター!?”

“遺跡の力を護る事も大事だが、闇の書を奪われる事もマズイ!”

今の遺跡は、オモイカネが封印しているが、元を辿れば闇の書に繋がるのである。

つまり、闇の書を奪われる事は危険な事である。

“それに闇の書が奪われればはやてに危害が及ぶかもしれない”

まして、それにはやてが巻き込まれる事は絶対に阻止しなければならない。

遺跡を護る為に家族達を危機に晒す事など、アキトにとって許せない事なのだから。

“わかりました、では――――ご命令を!”

そして、その思いはゼフィランサスも同じであった。

“いくぞ、ゼフィランサス――――セットアップ!”

アキトは、首にかけていたネックレスを外し、宝石を掌に載せるとそれを突き出した。

“認証確認!フォルム【黒百合】に移行します!”

すると眩い光を放った後、アキトを黒い球体が包み込み、その中でアキトは黒い鎧を纏う。

大型のアーマーを全身に纏い、両腕には巨大なリボルバータイプのカートリッジシステムを搭載したガンドレット。

脚部は大型のブースターユニットと化し、そして全身の至る所に小型のスラスターユニット。

背中にも大型のブースターユニットを2機装備されており、それには数本ほど板状のパーツが取り付けられている。

最後には認識阻害の魔法を展開するバイザーを装備することにより、黒の騎士は誕生する。

見るからに重装甲の鎧を纏ったそれは彼の愛機、ブラックサレナの意思を継いだかのような姿であった。

“騎士甲冑、展開完了!続いてIFS接続!”

続き、アキトとゼフィランサスはIFS――――イメージフィードバックシステムを通して一体化する。

この機能が、アキトのデバイスにとっての必須事項なのである。

一瞬、アキトの全身にナノマシンの文様が浮かび上がると、それはすぐに消えてしまう。

“IFS、接続完了。行けます、マスター!”

しかし、それはすでに接続完了の合図だったのだ。

“さぁ…………いくぞ、ゼフィ!”

こうして、戦う準備が完了したアキトは空へと飛び上がる。

“お任せを!ボソンジャンプ、いつでもいけます!”

“あぁ、イメージ伝達――――ジャンプ!”

そして空中で静止すると、アキトは転移先をイメージし、ゼフィランサスはナノマシンを通じてそれを忠実に、遺跡ユニットへ伝達する。

これにより、アキトはその場から転移を遂げる。





8.漆黒の騎士



「状況は……あまり良くないな」

相手側の使い魔――――アルフと呼ばれる女性と戦っていたザフィーラは焦っていた。

「シグナムやヴィータが負けるとは思わんが……ここは引くべきだ。シャマル、何とか出来るか?」

彼等は結界に閉じ込められ、徐々に押され始めていたのだ。

「何とかしたいけど、局員が外から結界を維持しているの。私の魔力じゃ破れない」

そんな中、結界の唯一外にいるシャマル。

だが、彼女の魔力では、この結界を破る事は出来ないでいた。

「シグナムのファルケンか、ヴィータちゃんのギガント級の魔力を出せなきゃ」

「2人とも手が離せん……やむをえん、アレを使うしか」

結界を破る事の出来るシグナムとヴィータは、管理局の魔道士との戦いで手が出せない。

そして、ザフィーラの言うアレとは、この状況でも、結界を破る事の出来る唯一の方法だった。

それは、闇の書の蒐集したページを消耗する事により、強大な魔力を持った一撃を放つというものだった。

「わかってるけど……でも――――っ!?」

しかし、それは蒐集したページを消耗するという、諸刃の剣である。

その事で躊躇いを見せたシャマルは、周囲の警戒を疎かにしてしまった。

「シャマル、シャマル!?」

突然黙ってしまったシャマルの様子にザフィーラは嫌な予感がしていた。

「捜索指定ロストロギアの所持・使用につき、あなたを逮捕します」

その予感は的中しており、シャマルは管理局魔道士に後ろをとられていた。

「抵抗しなければ、弁護の機会があなたにはある。同意するなら武装の解除を」

この状況に、シャマルにどうする事も出来ず、焦りを見せていた。

「………………」

「………………」

シャマルはこの状況から抜け出す為の案を、頭の中でいろいろとシミュレートする。

一方、背後を取った管理局の魔道士の少年はシャマルが少しでも抵抗を見せれば攻撃できる様、彼女の動きに注意していた。

もちろん、邪魔が入っても大丈夫な様に、少年は周囲の警戒を怠ってはいなかった。

「悪いが同意できん!」

「「えっ!?」」

しかし、少年の警戒は意味を成すことも無く、第三者の声が響く。

「っ!?――――ぐっ!」

それと共に、シャマルの背後をとっていた少年が吹き飛ばされる。

“大丈夫か、シャマル。皆も無事か?”

少年を殴りつけたのは黒の甲冑を纏った騎士、アキトだった。

“えっ!?あ、アキトさん!?”

“何だと!?アキトがいるのか!?”

“アキト……お前”

“なんでアキトがここにいるんだよ!?”

しかし、シャマルをはじめ、ヴォルケンリッターの面々は驚きを隠せなかった。

“どういうことだ、アキト!?お前の力を見せる訳にはいかないだろう!”

助けられた事も忘れ、怒りを露にするシグナム。

彼女達は、アキトの過去も含めてある程度の事を聞かされていた。

だからこそ、アキトに戦いをさせたくなかったと言うのがヴォルケンリッター達の共通の考えだった。

そして、隠すべき力を持つことから、アキトに蒐集を行わせない事は簡単だったのだ。

だが、アキトはここに来てしまったのである。

“そうも言ってられないだろう。たしかに遺跡などの力は隠すべき事だ”

“だったら何で出てきたんだよ!”

だからそこ、彼女達は怒っていた。

ヴィータは、アキトの事がはやてと同じくらい好きだった。

だからこそ、アキトも悲しませたくなくて頑張っていた。

でも、結局は今の状況になってしまった。

“だがな、皆を犠牲にしてまで護り通すつもりは無い!”

アキトは皆が自分の事を思っている事が嬉しかった。

だが同時に、自分達を犠牲にしてでも、遺跡の力を護ろうとする騎士達の事を悲しく思った。

“俺は遺跡を……そして皆を護る為に戦うと決めたんだ”

だからこそ、皆と共に戦い、皆を護る。

それがアキトの誓いだった。

“……わかった、アキトが決めたのならば我等は何も言わぬ。ただ、我等もアキトを護ってみせるさ”

“ありがとう、シグナム。では……守護騎士としての初仕事だな、闇の書――――蒐集”

『蒐集』

共に戦うということで、アキトは闇の書を呼ぶと、一撃で気絶させた少年のリンカーコアを蒐集した。

“さて、皆。早速だが緊急事態だ”

とりあえず闇の書の蒐集という騎士の仕事を初体験したアキトだったが、突然表情を険しくなる。

“制限時間、24分前後。この時間内に皆が帰らないとはやてを悲しませる事となる”

それは、守護騎士達にとってやってはいけない事の常に上位を占める行為である。

「「「「なっ!?なにぃぃぃぃ!?」」」」

当然、焦った守護騎士たちは念話で喋るのも忘れて大声で叫ぶ。

と言うかただ1人、シャマルらしくない口調ではあるがこの際無視である。

とまぁ、そんな感じのリアクションは対戦相手となっていた者達も思わずビックリするほどであった。

“俺が家を出た直ぐ後にすずかちゃんと出会ったんだ。もしかすると皆を助けるのに手間がかかるかも知れないと考えてな――――”

そこで一旦、話を区切るアキト。

アキトの言葉の続きに嫌な予感を感じたのか、意気を呑むヴォルケンズの4人。

そして語られる出来事は――――

“30分で帰ると約束してきた。もし30分経っても帰ってこなければ、はやてをすずかちゃんの家に招待してあげて欲しいとも頼んでおいた”

彼等にとって、恐ろしい事だった。

つまりはこんな感じである。

@    鍋パーティ中止

A    はやて、寂しそうにすずか邸へレッツゴー

B    はやてにお電話、「ううん、わたしは怒ってないよ…………」と本当は怒りたいのに無理して気を使う健気な子

C 次の日、どうやって会えばいいかわからずに気まずいはやて&ヴォルケンズ

という、悲劇が起きかねない状況であった。

そして、彼等はそれらを想像してしまった。

「テスタロッサ、この勝負預ける!」

「タカマチナントカッ!次はゼッテーぶっ潰す!」

「守護獣については今度じっくり語ってやる!」

「長距離転送の準備いいわよ!」

結果は、大慌てで撤退の準備も始める4人だった。

一方、叫んだと思ったら今度は撤退を開始するヴォルケンズを見て、未だに固まっていた管理局魔道士が大慌てで行動を起こそうとするが

「紫電一閃!」

「ラテーケンハンマァァァ!」

シグナム・ヴィータのダブルアタックが既に結界にヒットしており、穴を開けてその部分より3人は離脱した。

しかし、管理局側もまだ諦めておらず、シグナム達の後を追おうととしていた。

だが――――

「ここを通す訳にはいかない!」

そこにアキトが立ちはだかるのだった。

“時間稼ぎはこちらに任せておけ。皆は足が付かない様に確実に逃げるんだ”

“本来ならばそんな事させる訳にはいかないのだが、今だけは任せる!”

シグナムはアキトの能力、そして悲劇を起こさない為に、あえてアキトの案を採用した。

そして、追跡者が居なくなったヴォルケンズは、早々と転移魔法を駆使し、一旦この世界より退避するのだった。

一方、その場に残ったアキトはと言うと、

「……………………」

何も発する事なく、ただ空に浮いていた。

あくまで進路を防ぐだけのアキトの行為に、少女達は一旦距離を置いて停止した。

そして、少しの時間を置き

「時空管理局嘱託魔道士 フェイト・テスタロッサです。捜索指定ロストロギアの所持・使用につき、あなたを逮捕します」

アキトと同じく黒をメインとした配色のバリアジャケットを纏った少女は、自分の持つデバイスをアキトに向けながら管理局魔道士としての仕事をする。

「え、えっと、もしかして闇の書の主の方ですか!?」

一方、それと正反対の色をした、白のバリアジャケットを纏った少女はここで浮上した疑問をぶつける事とした。

それは、目の前に現れた人物が闇の書の主ではないかと言う事だった。

そんな考えを抱くきっかけとなった原因は、彼女達の仲間である1人の少年からの念話だった。

それはアキトが彼女達の前に立ち塞がった時の話である。

“なのは、フェイト!その人の動きに気をつけるんだ!”

アキトと睨み合いの様な状況となった2人の少女――――なのはとフェイトに念話を繋ぐ者がいた。

“ユーノ君!?”

それはユーノと呼ばれる1人の少年――――彼は結界内で闇の書が存在しないか探索していた。

“その人が突然転移して来たんだけど、不意討ちとは言えクロノが一撃でやられたんだ!”

そんな中、先ほどアキトが倒したクロノと言う少年の事を聞かされ、現在その場に向かっていたのだ。

“えっ!?”

“クロノが!?”

一方、その発端の人物と対立している少女達はその報告に驚いていた。

クロノと呼ばれる少年は、幼いながらも実戦経験豊富で彼女達が所属する部隊では切り札とまで言われていたのだ。

つまり、その少年を倒した目の前の青年はそれだけの実力があると言う事である。

“僕は今からクロノの救援に向かう。だから2人はその人を……もしかすると、その人は闇の書の主かもしれないから”

ユーノの予測、それが彼女達の疑問の出所であったのである。

“この人が……闇の書の主”

“うん、クロノはリンカーコアを吸い取られているみたいなんだ。その人の手によって”

“クロノ君は大丈夫なの!?”

“うん、でもかなり衰弱してるみたいなんだ”

“わかった、こっちは私達に任せてユーノはクロノの事をお願い!”

“任せて!2人も気をつけて!”

こうして――――

「え、えっと、もしかして闇の書の主の方ですか!?」

話は先ほどの場面に戻る。

「だったらどうする?」

なのはの質問に、アキトは肯定とも取れる曖昧な答えるを出す。

「同じ事です……あなたを逮捕します!」

しかし、そんな返事などどうでもいいのか、フェイトはデバイスを構える。

“なのはは援護お願い――――いくよ、アルフ!”

“おうさ!”

“う…うん!”

フェイトが指示を出し、アルフとなのはも戦闘態勢に入る。

「来るか…………」

そして、戦いが始まる。

フェイトとアルフは、アキトに向かって最短距離を一直線に飛行していく。

一方、それに続く事も無くその場でデバイスを構えるなのは。

「アクセルシューター――――シュートッ!」

彼女は桜色の魔方陣を展開すると、手の平サイズほどの弾丸・12発を発射した。

それらは先行していたフェイトとアルフを追い抜くと、複雑な軌跡を描きながらアキトに向かっていく。

“マスター、あれは誘導操作型の魔法ですね”

“そうか……それなら、射撃の性能テストをさせてもらおう!ゼフィ、カートリッジロード!”

“了解、腕部カートリッジシステムダブルロード!”

それを確認したアキトは、ゼフィランサスにカートリッジロードを要求し、両腕のカートリッジが炸裂する。

すると、ガンドレットの形状が変化し、両腕がハンドガンへと姿を変える。

“ゼフィ!”

“お任せを”

たったこれだけの念話――――しかしIFSで繋がっている2人にはそれで十分だった。

突如、浮遊魔法を解除して急降下をし始めるアキト。

当然、誘導弾であるアクセルシューターもそれに反応し、追跡を開始する。

“弾道予測――――完了!”

“喰らえっ!”

その急な方向転換をし始める弾丸に向けてアキトは正確な射撃を行う。

ゼフィランサスの弾道予測と、アキトの機動兵器で培った経験を元にして放った弾丸。

一瞬の間にアキトが撃った弾丸の数は片腕で6発の計12発。

その12発の8発がアクセルシューターの弾丸を撃ち抜いた。

「えっ!?で、でもまだ!」

その正確な攻撃に焦りみせるなのは。

だが、12発から4発になった事で彼女の負担は軽減した。

と言うのも誘導系の魔法は弾数が増えれば増えるほど、1発1発の操作が大変な事になる。

つまり弾数が減少した事で、アクセルシューターはより複雑な軌道を取れるようになり、更に速度を上げてアキトに迫る。

しかし、アキトは地面に激突する瞬間に浮遊魔法は発動、さらにアーマーに組み込まれたスラスターから黒い魔力を噴射して姿勢を整えると

“ゼフィ、高軌道モード!”

“了解、背面カートリッジシステムロード!”

背中に備え付けられた2機のブースター、その間の位置に隠されていたカートリッジシステムをロードした。

するとロードされた魔力がアーマーを通して全身に伝わり始める。

それはやがてアーマーの至る所に搭載されたスラスターに供給される

これにより、出力が向上したアキトは有り得ないほどの速度を発揮してアクセルシューターの弾幕を駆け抜ける。

その、アキトが弾幕を通り過ぎた瞬間、残りのアクセルシューターは全て破壊されてしまっていた。

「そんな!?」

その一瞬の出来事についていけなかったなのはは驚愕の表情を浮かべる。

「バルディッシュ・ハーケンフォーム!」

「喰らえっ!」

しかし、援護として撃たれたなのはの攻撃は有効だったのか、アキトの動きを追っていたフェイトとアルフが一撃を放とうとしていた。

アキトから見てフェイトは右側から、アルフが左側と左右からの同時攻撃である。

“フィールド出力安定。マスター、タイミングは私にお任せを!”

“あぁ、頼む!”

だが、アキト達は既にこの状況の対策を考えており、空中で静止すると攻撃が来るのを待ち始めた。

「「はぁぁぁぁぁっ!」」

フェイトとアルフ、息の合った2つの攻撃が全く同じ、完璧なタイミングで放たれる。

しかし、それはアキトに迫る瞬間、黒いフィールドが出現し2つの攻撃を受け止める。

更に、アキトは全身のスラスターを使ってその場で1回転を行う。

それによりフィールドも回転し、フェイトとアルフの攻撃は打点をずらされ、そのまま弾かれてしまう。

「この隙は逃さん!」

ここでアキトは念話ではなく普通に声を出す。

両腕のハンドガンをフェイトとアルフに向け、体勢を崩した2人にハンドガンを放った。

「――――っ!?バルディッシュ!」

「ちっ!?」

その攻撃に対し、フェイトはデバイスの機能を使ったバリアを展開、アルフは両腕をクロスして受け止める。

「ぐわっ!?」

「アルフっ!――――っ!?」

しかし、アルフはダメージを受け止めきれずに吹き飛び、フェイトはフォローに回ろうとするがアキトは既に彼女に迫っていた。

“ゼフィっ!”

“右腕部カートリッジシステムロード・フィールド収束!”

「ディストーションフィールドアタック!」

右腕の形状はいつの間にかハンドガンからガンドレットに戻っており、高出力のエネルギーが収束した拳を一気に突き出した。

「バルディッシュ!」

『Sonic Move』

それをフェイトは高速移動を可能とするソニックムーブを発動し攻撃を回避すると落下中のアルフを抱きしめる。

“なのはっ!”

そしてアルフを確保すると、上空で隙を窺っていたなのはへ合図を送る。

「大きいのいくよ、レイジングハート!」

『All right』

彼女は上空で、チャージを完了しており、準備は完璧だった。

「ディバイィィィン――――バスタァァァァッ!」

そして放たれるのは彼女が最も得意とする砲撃魔法。

“ゼフィ、フィールド強化!”

“背面カートリッジシステムロード・フィールド出力上昇!”

しかし、アキトはフィールドを強化すると、その場で身構える。

逃げようとしないアキトに迫る桜色の強大な魔力は、黒いフィールドに向かって突き進む。

遂には、なのはの砲撃魔法とアキトのフィールドがぶつかり合う――――はずが、砲撃はまるでフィールドを避けるかのように弾かれてしまう。

“出力を上げれば砲撃系の魔法は無効化出来そうだな”

“そうですね。ディストーションフィールドは魔法戦闘でも十分対応可能な様で安心しました”

ディストーションフィールドは時空歪曲場と呼ばれる物で、周囲の空間を歪ませる防御機能である。

ただ、この世界にもディストーションシールドと呼ばれる同等の効果を持った魔法が存在した。

ディストーションシールドはとても燃費が悪く、1人での使用は困難なものなのである。

だが、アキトが使用するディストーションフィールドの効果は同じでも、詳細は違っていた。

それはゼフィランサス独自のプロセスを持って発動し、膨大な魔力を必要としない物なのである。

まぁそれでも消費する魔力は通常の防御系魔法よりも大きく、常に全力展開は不可能である。

それを解決するのが背面のカートリッジシステムであり、フィールドの出力を強化したそれは、砲撃魔法を弾くのに十分な強度だったのである。

“一応はじめての戦闘だった訳だが、問題は無さそうだな。それに時間も稼ぎも十分だ、撤退するぞ”

今回の戦闘、実はアキトとゼフィランサスにとっては初の戦闘だったのである。

実際に騎士甲冑を纏った事はあるものの、まともな実戦は今回が初めてだった。

一応、イメージトレーニングの様な物だがゼフィが頭に仮想戦闘のデータを送り、それを元に戦闘訓練などは行ってはいた。

それの結果が今回の戦闘と言うわけだが、当初の予定などに関してはクリアーしている。

そして既に10分以上が経過しており、シグナム達もそろそろ戻ってくる頃なのである。

“了解しました。では、アーマーパージに紛れてボソンジャンプで離脱いたしましょう”

“そうだな。では――――”

「たしかフェイト・テスタロッサにアルフ、それに……たかまちなんとかだったかな?」

「高町 なのはですっ!な・の・はっ!!」

フェイトは先ほどの紹介で、アルフは先ほどフェイトが叫んでいたので知ることが出来た。

しかし、なのはの名前はヴィータが呼んでいたことでしか知り得なかったので微妙に間違えていた。

「それはすまないな。まぁ、今日は顔合わせのつもりだったのでな。そろそろ引かせて頂くよ」

それに対して一応謝罪をすると、アキトはゆっくりと上空へと飛んでいく。

「逃がしはしません!」

その動きを見て、フェイトはアキトよりも高度を高くとると逃げ道を削っていく。

「あまり、近づかない方が良い……では失礼する」

そんなフェイトの動きに気を配りながら、アキトは別れの言葉を述べる。

それとほぼ同時に、アキトの纏っていたアーマーがパージされ、周囲にばら撒かれる――――と同時に魔力爆発が起きた。

それはパージされたアーマーに残留した魔力を爆発させて起きた現象だった。

結果、アキトの周囲で連鎖的に爆発が起こり、その周囲を魔力の爆風が襲う。

それに視界を奪われたなのは達を後目に

“イメージ伝達――――ジャンプ!”

アキトは音も無くその場を離脱するのだった。





9.鍋パーティー



爆発に紛れて撤退したアキトは、本日最初にボソンジャンプをした地点に戻ってきていた。

“ジャンプアウト終了。マスター、お疲れ様でした”

“ありがとう。ゼフィもご苦労様”

そこは八神家から数分の位置でジャンプアウトしたアキトは、騎士甲冑を解除すると何食わぬ顔で歩き始める。

“ところで時間はどうだ?それとシグナム達は今どの辺りにいるんだ?”

“時間は10分少々ございますのでここからならば問題はないと思われます。シグナム達も既に近所に戻ってきておりますよ”

アキトの目的は先ほども言った通り時間稼ぎである。

しかし、それと同時に制限時間もある。

シグナム達の撤退の時間を稼ぎつつ、はやてを悲しませぬ様に早急に戻る必要があったのだ。

それを踏まえるとアキトの残した結果は好成績であった。

“とりあえずは安心だな――――シグナム、聞こえるか?”

戦闘などでは改善の余地などもあるだろうが、とりあえず初戦闘を乗り切った事に満足のアキトであった。

“アキトか!?ふぅ、どうやら無事の様だな”

とまぁ、とにかく念話を繋ぐと、相手側のシグナムはすぐに返事を返してきた。

“あぁ、そっちも戻ってきている様だな”

お互いが無事に戻って来れた事を確認し、一安心のアキトとヴォルケンズ。

“こちらは全員揃っている。今全員で走っているから5分もかからないだろう”

と言いたいところだが、家に帰るまでが遠足と言った具合に、彼等は帰るまで安心できない。

と言うか後10分程で悲劇が起こると言う事もあり、走って家に向かっているヴォルケンズ。

“そうか、こちらはもう家に着くから門先で待っているよ”

“了解した。こちらも更に急ぐとしよう”

その後、門先で待つアキトの元に、3人の女性がザフィーラに乗って現れたのであった。



「こらっ、ヴィータ!肉ばっかり食べとらんと野菜もしっかりと食べなアカンで」

さて、場面は変わって八神家の食卓。

「うっ……わ、わかったよ!」

無事悲劇を防ぐ事に成功し、現在は八神家一同と月村 すずかを招いての鍋パーティー真っ最中だ。

「ふふふ、ヴィータちゃんも素直になったわよね」

そんな中で行われる会話は平和そのものであった。

「そういうシャマルは肉を控えたほうがいいんじゃないかぁ?最近ウェストが気になってるみたいだしな」

まぁ、若干の争いも起きてはいる様であるが、極めて平和である。

「ちょっ、そ、そんな訳……ないじゃないですか………………」

若干1名ダメージを受けたのか、掴んでいた肉をそっと放し野菜を取っていくのだった。

「すずかちゃんは遠慮する事なくどんどん食べるんだよ」

「はい、ありがとうございます。アキトさん」

そんなシャマルを無視して、アキトは向かいに座るすずかと話をしていた。

「お肉も野菜もたくさん買っておいたからなぁ、遠慮せずにどんどん食べてや♪」

そう言いながらすずかの器に肉や野菜を程々に追加していくはやて。

「ほら、シャマルも肉食わねぇとな♪」

「ちょっ!?ヴィータちゃん!?」

それを真似てか、ヴィータはシャマルの器に肉を山盛り一杯に入れるのだった。

“賑やかな食事も良いものだな”

唯一その場より少し離れたところで食事をするザフィーラ(獣形態)は穏やかな眼差しを――――

“しかし、我には鍋は向かぬな…………”

否、1人床で食べる事に孤独を感じながら、憧れの眼差しを向けるのだった。

鍋とは皆で囲んで食べる物と知っているからこそ、今のザフィーラには無理な事である。

そして、その心は念話でだだ漏れだったのか、アキトとシグナム達は苦笑するしかなかった。





10.仕組まれた運命



「アキト、ザフィーラ。すまないが蒐集は任せる」

「あぁ、任せておけ。シグナム達も気をつけてな」

「ヴィータ、はやてにわがままを言うんじゃないぞ?」

「そんなことしないっての!」

「ふふふ、じゃあ行って来ますね」

そう言ってシグナム・シャマル・ヴィータは出掛けてしまった。

3人はこれからはやてのお見舞いに行くのである。

と言うもの、アキトが蒐集行為に加わった数日後、はやては入院してしまったのだ。

ゆっくりと――――だが確実に麻痺は上へと向かっている。

はやて曰く、3食昼寝付きの休暇を満喫すると言っていたが、実際には非常に危険な状態なのである。

だからこそ、騎士達は蒐集を急いだ。

はやてが家にいないという事もあり、蒐集行為の速度は格段に上がった。

だが、それでも騎士達ははやてに寂しい思いをさせぬため、毎日の様にお見舞いに行っていた。

そして、その日はローテーションで上手い具合に女性陣が揃ったのだ。

今日は3人とも1日中休みと言う事もあり、彼女達は面会開始時刻に着くように出掛けて行ったのである。

「さて、ザフィーラ。今日はどの世界に行こうか?」

「そうだな……とりあえずここ数日程出向いている星に行ってみるとしよう」

で、残ったアキトとザフィーラは早速蒐集を行うべく、家を出るのだった。



「闇の書、蒐集」

『蒐集』

巨大な岩の塊――――の様な甲羅を背負った巨大亀を倒したアキトとザフィーラは着実にページを稼いでいた。

「どうだ、ページの方は?」

無事、リンカーコアの蒐集を終え、ザフィーラは闇の書を持つアキトにページ数を尋ねていた。

「今は……630ページを突破した。やはり今のが主だろうな。おかげでページ数も稼げた」

アキトとザフィーラが現在浮いている場所の周辺には、リンカーコアを奪われた亀の姿が至る所に見えていた。

この地に到着して既に6時間が過ぎようとしていた。

倒した亀の数は30以上と、数えるのも面倒な量を、アキトとザフィーラは蒐集した事になる。

「そうか。では今日はそろそろ戻るとしよう。周辺には獲物の反応も無いのでな」

「そのようだな。ふぅ……ゼフィ、お疲れ様」

『いえ、マスターもお疲れ様でした』

「しかし、かなりの量を相手にしただけの事はあるな……予備で持ってきておいたカートリッジが尽きている……」

『そうですね。装填されていた物、そしてシャマルさんから頂いたカートリッジも含め54発……内、残弾は残り5発です』

フォルム【黒百合】は、リボルバーカートリッジシステムに6発×2機、背面カートリッジシステムに6発の計18発。

そして予備のカートリッジは6発を1セットとして6セットの36発、合計54発である。

それだけの弾数を持ってきたはずが、終わってみれば残りは5発と、非常に燃費の悪いのがこのフォルムの特徴である。

「相変わらずカートリッジの消耗が激しいものだな」

「ははは…………1週間分って渡された筈なんだが………」

アキトの脳裏に、カートリッジの対価として色々な物を要求してくるシャマルが容易に想像できるのだった。

「まぁ、助け舟くらいは出してやる。さぁ、今ならまだ面会時間に間に合う筈だ」

「すまないな。では、はやてに顔を見せに行くか。何といっても今日は――――クリスマスイブだからな」

そう、今日は12月24日。

守護騎士達と初めてのクリスマスイブなのである。

こうして、アキトとザフィーラははやてのお見舞いの為に戻る為に転移を行う。



転移はすぐに終わり、2人ははやてが入院している病院へと向かっていた――――その時である。

『マスター!結界の反応を確認。どうやらシャマルさんが展開しているようです』

「我も確認した。この位置は……主が入院している病院の直ぐ近くではないか!?」

ゼフィランサスとザフィーラが結界の反応を捉えたのだ。

それはどうやら外部への連絡を絶つものだとゼフィランサスは補足を加えていた。

「病院の近く……まさかっ!?シグナム達がなのはちゃん達に見つかったのか!?」

そこで考えられるの事がいくつか存在したが、アキトのもっとも恐れた事は管理局魔道士の2人とシグナム達が病室で出会うことだった。

実は、管理局魔道士のなのはとフェイトはすずかの親友であり、彼女の紹介ではやての病室に何度も訪れていたのだ。

アキトは認識阻害の魔法を使用していた事も在り、彼女達と出会っても何食わぬ顔でお喋りをするくらいの状況だった。

だが、顔がばれているシグナム達は出会う訳にはいかなかったのである。

シグナム達となのは達は、かなりのニアミスを繰り返しており、よく出会わなかったと思えるほどに運が良かった。

「アキト、お前は主の元へ向かってくれ。我は皆の様子を見てくる」

「わかった。そちらは任せる!」

とにかく、今は立ち止まっている訳にもいかず、ザフィーラは人型に変化すると高速で空を翔けだした。

「ゼフィ、イメージ伝達――――」

『了解、イメージ伝達完了、いけます!』

「――――ジャンプ!」

アキトははやてが入院中の病院の屋上をイメージすると、ボソンジャンプで転移した。



瞬間的な移動を可能とするボソンジャンプは、タイムラグも無く病院の屋上に到着していた。

そして甲冑を解除すると、すぐさま階段を駆け下り、はやての病室を目指す。

だが――――時は既に遅かった。

「はやてっ!無事か!?」

扉を全力で引き、一瞬で扉を開けるアキト。

「あっ、アキトっ!?これ、なんやのっ!?」

そこでアキトが見たのは、はやての座るベッドに魔方陣が浮かび上がっている光景だった。

『マスター!それは転移魔法の様です!』

ゼフィランサスの警告、それははやてがこの場より強制的にどこかに跳ばされると言うものだった。

「ちっ、はやてっ!?」

魔方陣の光は強さを増し、アキトは全力ではやての元に駆け寄った。

「アキ――――――」

しかし一歩及ばず、はやては姿を消してしまった。

「くそっ!ゼフィ、はやての位置は探れないのか!?」

『完全な特定は出来ませんが……捕らえました、先ほどシグナム達が居た所です!あれ?結界の種類が変わっている?』

「どういうことだ!?」

『恐らくですがシャマルさん――――と言うよりも守護騎士の皆さんの使用する結界では在りません』

「一体何が起こっているんだ……くっ、とにかくそこに向かうぞ!」

『はい、では甲冑を展開します』

「よし、いくぞ――――ジャンプ!」

目を閉じ、目標とされる地点のイメージを伝え転移する。

「ここにはやてが――――なっ!?」

そして目を開けるとそこは、残酷な現実が待っていた。

そこには確かにはやてが居た。

彼女の目の前には管理局魔道士であるなのはとフェイト、そして――――拘束されたヴィータと倒れたザフィーラが居たのだ。

「はやてっ!」

「あ、アキトっ!?」

「くっ、貴様っ!」

とりあえず、はやては無事であった。

が、ヴィータとザフィーラの状態を見たアキトは怒りを露にする。

「ようやく現れたか、イレギュラー」

「ふふふ……奴を葬れば、準備は整う」

一方のなのはとフェイトは、まるでアキトの登場を待っていたかのようなリアクションをとっていた。

『マスター、あの管理局魔道士の2人は偽者です。魔力の質が違います』

しかし、ゼフィランサスは2人の事を正確に分析していた。

よく見れば、なのはは本来、白をメインに青い装飾のバリアジャケットを着ているはずが、目の前のなのはは青ではなく赤い装飾が施されていた。

もう1人のフェイトは、黒をメインに赤い装飾の筈が、青い装飾に変わっている。

「関係ない!今は皆を救うだけだ!」

普段のアキトなら、それらを見抜いているはずである。

否、見抜いているが、そんな事はどうでもよかった。

ただ、敵が大事な者達を傷つけた――――この認識だけで十分だったのだである。

『落ち着いてください!この魔力の反応は、恐らくシグナムが言っていた仮面の戦士です。実力は相当なものの筈です』

しかし、怒りの感情に任せる事は危険である。

だからこそ、ゼフィランサスはアキトの感情を落ち着かせ、今の状況を説明する。

ゼフィランサスの調べでは、目の前の偽なのはと偽フェイトは、仮面の戦士と呼ばれる存在のようである。

この仮面の戦士とは、ここ数日ほど姿を現し、蒐集行為の手伝いや離脱の支援してくれていた。

しかし、アキトは当然として、シグナム達もその素性を知らない。

ただ、闇の書の完成を望む――――それが彼等の協力の理由だった。

「っ!?こいつらが手助けしてくれたという例の奴か…………だがやはり別の企みがあったようだな!」

「そんなものはないよ。ただ、彼女が早く真の主となれる様に協力してあげただけ」

「騎士達も嬉しいでしょうね。主の力となれたのだから」

そう言って、2人は何も無いはずの方向に視線を向ける。

それにアキトとはやては釣られるように視線を向けると

「なっ!?あの服は!?」

「し、シグナム!?……シャマル!?」

シグナムと、シャマルが着ていたはずの服だけが、そこに置かれていた。

「許さない…………許さないぞ……貴様等っ!」

それの意味する事を理解したアキトは、今度こそ怒りを爆発させる。

背中のカートリッジシステムをロードし、高軌道モードに突入すると最高速度で偽なのはたちの元へと向かった。

「はぁぁぁぁぁっ!」

そしてその速度を活かしたまま、右腕のカートリッジをロードし、フィールド収束した一撃を放つ。

「ふふふ、単調な攻撃ね」

が、それを偽フェイトは容易く避けると、カウンターとして左腕に魔力を収束させパンチを放つ。

『マスター、フィールド持ちません!更に背面カートリッジシステム残弾ゼロです!』

偽フェイトの魔力を乗せただけのパンチは想像以上の威力であり、フィールドは破壊される寸前にまで追い込まれていた。

「くっ、左腕カートリッジシステムロー「させないよ!」くっ!?」

そこで、左腕のカートリッジをロードして攻撃を防ごうとしたのだが、それよりも早く相手が動いていた。

先の左腕に続き、右腕にも魔力を収束するとそれをフィールドに叩き込み、2つの力を受けたフィールドは崩壊してしまった。

しかし、攻撃はそこで終わる事も無く、勢いのある右腕の攻撃はロードしようとしていた左腕のリボルバーユニットに直撃した。

「ちっ、左腕アーマーユニット・パージ!」

『ダメです、間に合いません!?』

「ぐっ!?」

偽フェイトの攻撃は、装填されていたカートリッジに直撃した。

左腕のリボルバーユニットにに残されたカートリッジ2発中の1発。

その1発が、敵の攻撃の衝撃で暴発し、無事だったもう1発も巻き込んで魔力爆発を起こす。

2発もの、圧縮された魔力がアキトを襲ったのだ。

「ぐっ…………はや、て……」

当然無事でいられる筈も無く、地面に落下した彼の甲冑はボロボロでアキト本人も立っているのがやっとの状況であった。

だが、それでもはやてを救おうと、彼女の方に右腕を差し出し、彼女の元へ向かおうとする。

「アキト……アキトっ!」

はやても、アキトの動きに答えるように腕を使ってアキトの元に向かおうとする。

「大人しくしてないとダメだよ?」

「なっ――――!?」

「あき、と?」

だが、それは叶う事も無く、偽フェイトは背後からアキトの胸の辺りに腕を突き刺した。

しかし、その腕は血には染まっておらず、かわりにリンカーコアが握られていた。

これは魔法の一種であり、アキトの肉体には直接的なダメージは受けていない。

だが、そんな事を知らぬはやてにはこの光景は衝撃的だった。

「へぇ、ずいぶんと綺麗なリンカーコアね……まぁ、関係ないけど」

「そうね。闇の書、蒐集」

偽フェイトはアキトのリンカーコアの黒い輝きに一瞬見とれたものの頭を切り替え、偽なのはは闇の書に蒐集させようとする。

「ん?もしかして蒐集は既に行われている?」

だが、アキトは既に闇の書に取り込まれた際に蒐集されており不可能であった。

「あぁ〜それはあるかもね。じゃあ――――抵抗されないように潰しちゃおうか♪」

そうなると、リンカーコアが無事なアキトは邪魔な存在と言う事となり、偽フェイトは楽しそうにリンカーコアに力を加える。

「ぐっ!?がぁぁぁぁ!?」

リンカーコアへの直接的なダメージに悲痛な叫びを上げるアキト。

「やっ!?ダメっ、やめてぇぇぇ!?」
   
それに焦ったのははやてである。

魔法の事をあまり知らぬ彼女も、蒐集に必要となるリンカーコアの事はある程度理解していた。

魔法使いの源で……魔法を使うのに必須で……最悪の場合……命の危険に繋がると言う事を。

「ふふふ、止めたいなら無理やりでも止めたら良いよ」

「じゃないと、あなたの大切な人が死んじゃうよ?」

そんなはやてを冷めた目で見ながら、偽なのはと偽フェイトは挑発を行う。

「なんでっ!?なんでやねんっ!?なんでこんなっ!?」

その光景は、はやての心を大きく傷つけた。

友達だと思っていた少女達が、自分の大切な存在を奪っていく。

「ねぇ、はやてちゃん――――」

「運命って残酷なんだよ」

「ダメっ!やめて、やめてぇぇぇぇぇ!?」

「がっ――――――」

その言葉と共に、アキトのリンカーコアに亀裂が走る。

その瞬間、アキトの纏っていた甲冑は消滅し、普段の服装となったアキトは糸が切れたように倒れる。

「うぅぅぅっ……ぁぁぁぁっ!」

それを見たはやては泣いていた。

そして、無意識のうちに彼女は白い魔方陣を展開した。

だが、それもはやての目の前に闇の書が姿を現すと、白の魔方陣から深い闇を彷彿させる紫の魔方陣へと変貌していく。

「……ぅ……ぅ………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

その魔方陣の中央で、いつの間にか青い瞳から赤い瞳に変化したはやては叫ぶ。

その瞬間、爆音と共に紫の煙が辺りを満たす。

その中では、紫の魔力光が輝き、黒い雷が走っていた。

「我は闇の書の主なり。この手に……力を」

その空間に響くのは、普段のはやてからは考えられない無機質な声。

そんな声に従う闇の書は、彼女の手に出現した。

「封印、解放」

『解放』

ただ、それだけの言葉に闇の書は大きな反応を見せる。

闇の書から煙が上がり、その一方ではやての肉体に大きな変化が起こる。

9歳の肉体から10代後半へと大きく成長し、髪の色が白く染まると共に長髪となったはやて。

黒い甲冑、黒い羽を背中に持った……はやてからはかけ離れた存在となりそこにいた。

「また、全てが終わってしまった。一体幾度、こんな悲しみを繰り返せばいい」

両手を広げ、天を仰ぐ少女。

「はやてちゃんっ!」

「はやてっ……」

そこに、先ほどまで拘束されていた本物のなのはとフェイトが姿を現す。

「我は闇の書……我が力の全ては――――」

それを視界に捕らえたのか、少女――――否、闇の書は1つの魔法を起動させる。

「主の願いの、そのままに」

巨大な魔力の球体が闇の書の上空に生み出される。

「デアボリック・エミッション――――闇に、染まれ」

その瞬間、球体は爆発的にその範囲を広め、周囲を飲み込んでいく。

その魔法に、なのはとフェイトは一度その場を離脱する。

「あなたには、すまない事をしてしまったな」

周囲より邪魔者が居なくなった事を確認した闇の書は、倒れているアキトに近づくとゆっくり抱き抱える。

「主はあなたの幸せも願っている。だから、今はゆっくりと眠ってくれ」

闇の書はさらにアキトを強く抱きしめると、やがてアキトの体が光となり、その場から姿を消す。

「主よ、あなたの望みを叶えます。愛しき守護騎士たちを……傷付けた者達を……今、破壊します」

こうして、闇の書は破壊の力を振りかざす。





11.あなたの望む、夢の世界へ



“ここは……どこなんだ?”

真っ暗な、広いのか狭いのかもわからない空間。

そこにアキトはいた。

「――――――ん」

“確か……あれ?…………思い出せない……俺に何があったんだ?”

しかし、彼の様子はおかしかった。

まるでぽっかりと記憶の一部が抜け落ちているような、そんな感覚がアキトを襲っていた。

「――――さん」

“うん?今何か聞こえたような……”

そんな彼の耳に、小さな声が聞こえた。

「――――トさん」

“この声は……どこかで”

それは少女の声だった。

そして、アキトはその声に懐かしさを感じていた。

「アキトさん」

“そうか……この声は――――”

その声の主を思い出したのか、アキトはゆっくりと何も無い空間を歩き始める。

やがて、真っ暗な空間に光が差し込み、周囲は元の世界に戻る。



「アキトさん……いい加減に起きてください!」

透き通るような銀色の髪をツインテールで整えた少女が、眠りにつくアキトを起こそうと怒鳴っていた。

「ふぁぁぁぁ…………おはよう……ルリちゃん」

そんな怒鳴り声が伝わったのかアキトは目を覚ますと、ゆっくりと起き上がり少女――ルリの頭を撫でていた。

「はぁ……おはようございます、アキトさん」

そんなアキトの様子に、中々起きない事を怒るべきか、子供扱いをする彼を怒るべきか、とにかく大きな溜息をするルリ。

「………………」

「ルリちゃん?」

しかし、実際は頭を撫でられた事で和んでいたりする。

「ルリ、アキトは、起きた?」

頭を撫でるアキトと、撫でられて和むルリ――――そんな2人の元に桃色の髪をした少女が近づいていた。

「おはよう、ラピス」

「おはよう……アキト」

それを確認したアキトは、ラピスと少女の名を呼びながらルリと同じく彼女の頭を撫でる。

ラピスもそれに満足そうな表情を浮かべ、そのまま数分の時を過ごす。

「ちょっとルリちゃんもラピスちゃんも!戻ってこないと思ったら何してるのかな〜?」

そんな和みオーラ全開の3人の元に、アキトと同い年くらいの女性が姿を現す。

女性は額に青筋を浮かべ、ご立腹の様子である。

「まったく、御飯が出来たから起こしてきてって頼んだのに……2人だけずるいぞ♪」

「ちょっ、落ち着けユリカ!?落ち着くん――――ぐへっ!」

ユリカと呼ばれた女性は、「不機嫌です」とオーラを放っていたが、突然イタズラでも思いついたような表情に変貌、アキト目掛けてダイブしていた。

まぁ、要するに、ルリとラピスが頭を撫でられて和んでいる事に嫉妬しての行動だった。

そしてアキトは全国に何人いるかわからないが、とにかく大勢いるユリカファン憧れの胸に押し潰されるとおいしい体験をするのだが

「ぅぅぅぅぅっ!」

息が出来ず、もがき苦しむしかなかったのだった。



「はぁ、朝から死ぬかと思ったよ」

「ははは……気にしちゃダメだよ?」

「ユリカさん、そこはちゃんと謝ったほうが……」

「ユリカ……謝って」

小さなちゃぶ台を4人で囲みながら、朝食をとるテンカワ一家の皆様。

そこで繰り広げられる話題は朝の一件であった。

アキトは危うく呼吸停止という笑えない状況を思い出して溜息を。

ユリカは気まずい雰囲気を振り払おうとするものの、乾いた笑いしか出るモノは無かった。

ルリはそんなユリカの態度に対して、まるで彼女の姉になったかのように注意を促す。

と言うか、精神年齢的にテンカワ一家は、ルリ→アキト→ラピス→ユリカなのでこれが当然の構図である。

そしてユリカより精神年齢的に年上と認定されているラピスは、朝の憩いを邪魔された事に怒っており、謝罪を要求していた。

これが、テンカワ一家である。



ここは――――アキトが望む、夢の世界。

まだ、幸せだった頃の日々。

その延長線上で起こるであろう生活。

それが――――アキトの見る夢だった。



「じゃあアキト、私は軍に行って来るね」

「あぁ、ちゃんと仕事して来るんだぞ?」

「ぶぅ!私はいつもちゃんとしてるもん!」

「はいはい、じゃあ気をつけてな」

「うぅぅぅ……アキトが冷たい……」

愛する人と、共に生きていくそんな日々


「ではアキトさん、私とラピスもネルガルに行ってきますね」

「アキト……いってくる」

「あぁ、2人共気をつけるんだよ?」

「はい、今日は早く終わる予定ですので、後で屋台の手伝いに行きますね」

「アキトも……お仕事……がんばって」

「ありがとう、ルリちゃん、ラピス。でも2人共、無理はしちゃダメだからね?」

「はい、では行ってきます」

「いってきます」

護ると誓った少女達との心温まる日々



「よぉ、アキト。ラーメン1つ頼むぜ」

「俺も頼むぜ!」

「私も私も!」

「ラーメン1丁…………うーん…ダメね、思い浮かばないわ」

「テンカワ君、僕も頼むよ」

「全く、脱走したかと思えばまたここに…………アキト君、私も1つ貰えるかしら?」

「会長達も素直じゃありませんねぇ。ではテンカワさん、私の分と……あと彼の分もよろしく頼みます」

「ミスター……ご馳走になりま「もちろん、割り勘ですよ?」…………はぁ」

「あらあら、皆勢揃いじゃない。アキト君、私達の分もよろしくね♪」

「はいはいっ!部活で疲れたんで山盛り!」

「ラーメンを食べたい……でも、明日はモデルの仕事が……」

「今のあなたのこと、説明してあげましょうか?私が食べた後で良いならだけど……お兄ちゃん、大盛りでお願いね」

「アキトさん、遅くなってしまってすいません。今からお手伝いしますね」

「アキト……ただいま…………私も手伝う」

「あ〜!看板娘の私がいないとダメでしょ〜!」

共に戦った仲間達との、他愛の無い日常



アキトは、ここが夢とも知らず、1日を過ごす。

自分が望んでいた、楽しくて、幸せな日々。

たしかに、その日のアキトは終始笑顔だった。

そしてそのまま、布団に入り、今日を終えるはずだった。

だが――――

「何か…………大事な事を忘れている様な」

そんな生活に違和感を感じてしまっていた。

「どうしたんですか、アキトさん?」

そんな呟きに、ルリは起き上がりアキトを覗き込んでいた。

「とても、大事な事を忘れてる気がするんだ」

「それは気のせい……私達と一緒……それが一番だから」

「ラピスちゃんの言うとおりだよ。ここで一緒に居る事がアキトの幸せなんだから」

「たしかに……幸せだと思う。だけど…………」

ラピスとユリカの言葉がアキトの心に響き渡る。

確かに、ここで暮らす事は幸せな事のはずだ。

だが、納得できない自分もいるのである。

答えの出ないアキトの悩み。

その答えは、彼女達が持っていた。

「やっぱり……はやてさんや守護騎士の皆さんの事が忘れられないんですね」

「はや、て……っ!?そうだ、はやてやシグナム達はどうなったんだっ!?――――いや、それ以前にどうして俺はその事を…………」

ルリの口から出たはやてと守護騎士という言葉に、アキトはすっぽりと抜けていた記憶を呼び覚ましていた。

「それは、闇の書が封じたの……すべてが終わる……その時まで……アキトが、ゆっくりと休めるように……って」

その訳は、ラピスの言ったとおり、闇の書が封印していたからである。

「そう、か。じゃあここは……」

「そう、ここはアキトの望む夢の世界。火星の後継者が現れる事も無く、ただ穏やかな日々が流れる、そんな世界」

それはアキトが望む世界で、安らかな日々を過ごせるようにという気遣いだった。

「これが、俺の望んでいた世界……か」

「そうですよ?ここならば私達がずっと傍に居ます」

「ずっと一緒……もう、つらい思いも……しなくていい」

「私達が、アキトを護ってあげる。だからアキト、ここに居ようよ」

「みんな…………」

ここにいれば、今日の様な日々が続くだろう。

「ごめん……ここにはいられない」

だが、アキトはこの世界を受け入れる事が出来なかった。

「アキト……本当にそれでいいの?」

「ここなら争いも無い、平和な暮らしがおくれるんですよ?」

「アキトは……私達と居たく……ないの?」

「そういう訳じゃないんだ。確かにこの世界は俺の望む世界だと思う」

「だったら……一緒にいよ?」

「でも、ダメなんだ。ここが平和な世界であろうと、これは俺の理想が生み出した夢に過ぎない」

ユリカ・ルリ・ラピスの説得が続くが、アキトは心を曲げる事はなかった。

「例え、現実が辛かろうと俺は逃げる訳にはいかないんだ。だから……ゴメン」

どんな現実が待っていようと、アキトは逃げる事無く、突き進む事を選んだのだ。

「そっか……アキトはやっぱり……アキトだね」

「ユリカ……」

「そうですね。私の事を家族として迎えてくれた、あのアキトさんです」

「ルリちゃん……」

「アキトはアキトだもん……優しくしてくれた……アキトだもん」

「ラピス……」

そして、その選択にユリカ達は少しの悲しみと、そして笑顔を見せていた。

「よし!じゃあアキト、艦長命令です。必ず新しい家族を護る事!」

ユリカは、艦長席に居る時に見せた、自信満々で無邪気な笑顔を見せるとアキトに命令を下す。

「オモイカネ、いるんですよね?出てきてもらえますか?」

「ゼフィも……いるんだよね?」

『ここに居るよ、ルリ』

『お久しぶりです、ラピス』

一方のルリとラピスは、己たちの半身とも呼べる思兼級AIを呼んでいた。

「私とラピスはここでお別れです」

「だから……私達の変わりに……アキトを支えて欲しいの」

『それがルリの望みなら、僕は必ず叶えて見せるよ!それにアキトは大切な友達だからね♪』

『お任せ下さい、ラピス。あなたの大好きな、そして私にとって大切なマスターは必ず護って見せます』

「ありがとう、オモイカネ」

「ありがと……ゼフィ」

ルリとラピスは夢の住人である。

当然、アキトと共に外に出る事は不可能だ。

だから彼女達は、己の半身に全てを託す。

そう――――

「オモイカネ、これは餞別です。この力で、アキトさんを頼みます」

「ゼフィ……私はあなたと1つになる……ずっと……私とゼフィは一緒。だから……2人でアキトの力になろう」

全ての力を、半身に託そうというのだ。

「ルリちゃん……ラピス……」

「アキトさん、私達はこの世界でアキトさんを支える為だけに生まれてきました」

「だから……私達の存在は幻……でも…この力は本物……だから」

「私達はずっと傍に居ます」

「私達は……家族だから」

少しずつ、光に溶けていくルリとラピス。

「ありがとう……ルリちゃん」

アキトは、ルリをゆっくりと抱きしめた。

「いえ、私に出来る事はこれくらいですから。では、オモイカネ……後は任せます」

その温かいアキトの体にルリも手を回し、最後の温もりを感じていた。

『うん。ルリの力で、僕はアキトとアキトの家族を護って見せるよ』

ルリはそのままアキトの腕の中で光となると、オモイカネが宿るCCを模った宝石と1つとなる。

「アキト……」

すると間髪入れず、ラピスがアキトの胸に飛び込んできた。

「ラピス……」

そんなラピスをしっかりと受け止め、頭をゆっくりと撫でる。

「んっ…………私は……ずっと、アキトを護ってみせる。ゼフィ、頑張ろうね」

撫でられた為、猫のように目を細めてその気持ち良さをじっくりと味わうラピス。

『はい、私とラピスの力があれば怖いモノはありません』

やがて、彼女も光に変わると、ゼフィランサスの宿る宝石と1つとなる。

すると、2つの宝石が眩い光を放ち――――

「これが……新しい僕の姿だね♪」

「ラピス……ありがとうございます」

15cm程の、小さな少年と少女へと姿を変えてしまった。

「えっ?」

「どう?これがルリから貰ったモノの1つだよ」

ルリと同じ、透き通るような銀色の髪の少年へと姿を変えたオモイカネと

「ど、どうでしょうか……マスター?」

ラピスの様に桃色の髪をした少女へと姿を変えたゼフィランサスであった。

「……2人とも似合ってるよ」

その光景に一瞬驚いたものの、アキトは何とか平常心を保つ事が出来た。

「ルリがくれたんだから当然だよ♪」

「ありがとうございます、マスター」

そう言うと、2人は元のネックレスに戻ることとした。

2人は気を利かせたとだけ言っておこう。

「ルリちゃんも、ラピスちゃんも先に行っちゃったみたいだし……さて、残るは私だね」

4人で住んでいたとされる長屋には、アキトとユリカだけとなってしまった。

「ユリカ?」

「ルリちゃんもラピスちゃんも行くって言うのに、私だけ行かないなんてマズイでしょ?」

これは奥さんとしてダメでしょ?と軽く言いながら、アキトに詰め寄るユリカ。

「い、いや、だがどうやって……」

「簡単だよ。前は無理やりだったけど、今度は自分から1つになるだけ」

そのアイディアは――――

「なっ!?ユリカ……おまえ、まさか!」

アキトにとって、拒絶したい事の1つだった。

「そう、私は遺跡と1つになって、アキトを支えるよ♪」

アキトを苦しめた、そしてユリカを奪った遺跡と融合すると言うものだった。

「何を言っているんだ!ふざけるんじゃないぞ、ユリカ!」

当然、アキトは怒りの感情を剥き出しにする。

「えぇ〜!?名案だと思ったんだけどな〜」

だが、ユリカ的には名案だったらしく、アキトのリアクションは意外だった様である。

「遺跡とお前が、どうなったか知っているはずだぞ!それなのに何を言ってるんだ!」

「そんなの理解してるよ。でも、私がアキトを支えるにはこれしか手が無いの」

先ほどまでと違い、真面目な表情を見せるユリカ。

「ここで、1人消えるなんて私は嫌だもん。ルリちゃんやラピスちゃんとずっと、ずっとアキトと一緒に居たいから」

「ユリカ……だが……」

その真面目な雰囲気に言葉が詰まるアキト。

「それに、アキトは私を護ってくれるんでしょ?そしてついでに遺跡も護る。ねっ?そうでしょ?」

そこに追い討ちをかける様に、ユリカは攻めの手に出る。

「はぁ……遺跡の方がついでかよ……」

真面目なのか、ふざけているのか、とにかく様々な表情を見せるユリカに、アキトの心は折れかけ寸前だった。

「当たり前でしょ〜♪私の事をしっかりと護って見せてよね♪」

「全く……一度言い出したらユリカは聞かないからな…………はぁ……」

まぁ結局、ユリカの事を理解していたアキトは、ついに折れてしまうのだった。

「じゃあ、アキト。頑張ってね」

「…あぁ、頑張って見せるさ」

そして最後に2人は抱き合うと、ユリカはボソンジャンプでその場から姿を消す。

『アキト、遺跡が活性化してるみたい。なんか活き活きとした力を感じるよ』

すると、オモイカネが封印しているはずの遺跡が力を発揮し始める。

「そうか。もう、負けられないな」。

『その通りです、マスター。私達も全力でサポート致します』

『そうそう、大船に乗ったつもりでいてくれていいからね♪』

こうして、アキトは新たなる力と共に、戦いの場へと向かう。

『アキト、遺跡ユニットが外に送ってくれるみたい』

戦場への案内役は幸運の女神が。

「そうか……じゃあ、いくか!」

『りょーかい♪』

『了解です!』

付き従うのは妖精の意思を引継ぎし電子の精霊達。

「――――ジャンプ!」

こうして、黒の皇子はボソンジャンプで夢の世界を旅立つのだった。





12.夢から現実へ



「ジャンプアウト完了。現在地は……アキトがやられちゃった場所♪」

「あの時は怒りで冷静な判断が出来ていませんでしたからね。当然の結果かもしれません」

「来て早々、それはないと思うんだがな…………」

「いえ、そういう訳には参りません。マスターには2度とあの様な失態をさせる訳にはいきませんから」

「そうだよ〜。僕達がサポートするんだから冷静でいてもらわないと困るよ」

「……以後、気をつけさせていただきます」

闇の書が作り出した夢からの脱出に成功したアキト達。

彼等は、オモイカネの言うとおり、アキトが倒された場所に来ていた。

そして、突然始まる反省会。

当然議題はアキトの敗北について。

いつの間にか人型に戻ったオモイカネとゼフィがアキトに説教をしているのだ。

大人が15cmサイズの子供2人にお説教……っと、何ともシュールな光景である。

そして当のアキトは、つい怒りで我を忘れてしまうと言う事実に反省している様で、素直に2人の説教を受けていた。

「しかしあの時はカートリッジの残弾や、私のミスも敗北の原因ですからね」

「僕に関しては手伝う事すら出来なかったからね。だから今度は負けないように頑張ろうよ♪」

「そうだな……ありがとう、オモイカネ、ゼフィ」

しかし敗北の原因に関しては、オモイカネやゼフィランサスにも責任があると思っているようである。

だからアキトは、自分の事を想っていてくれている2人にお礼の言葉と共に、頭を撫でてあげていた。

「うん、どういたしまして♪」

「あ…ありがとうございます!?」

その行為にオモイカネは笑みを浮かべ、ゼフィランサスは恥ずかしそうであった。

というか、この3人、和み過ぎであった。

なのでそろそろ本題に突入である。

“アキト!?いるんやね!?アキト!”

“っ!?はやて……?はやてなのか!?”

突如、アキトに念話が繋がれたのである。

そしてそれはアキトにとって大事な家族だった。

“守護騎士システムを修復しても出てこやんと思ってたんやけど、アキトの反応を捉えて焦ったわ”

どうやら、アキトがこちらに戻ってきた事で、はやては彼の魔力の波動を感じたようである。

“ははは……悪い。つい先ほど戻って来れたところなんだ。ところで守護騎士システムの修復と言う事は皆は……”

“うん、皆無事やよ。皆にアキトの事を今伝えたんやけ――――”

はやての言った守護騎士システムとは、当然シグナム達のことである。

どうやら、アキトの知らぬ内に皆は復活を遂げていたようで――――

“アキトっ!テメェ、無事だったらさっさと連絡よこしやがれ!”

鉄槌の騎士が強引に割り込みの念話を送りつけてくるのだった。

“ヴィータ、人の話に割り込んだらアカンで。それと敬語忘れとるで”

そんなマナー違反のヴィータに、はやては保護者としての注意を促し――――

“うっ……無事だったら連絡をよこしやがれです”

とりあえず敬語らしきモノで言い直しているのだった。

“心配かけたな、ヴィータ”

そんなヴィータの反応に心配をかけた事を詫びるアキト。

“そうですよ、アキトさん。もう、さっきまでのヴィータちゃんの反応ときたら”

だが、ヴィータは相当心配していたようで――――

“コラッ、シャマル!余計な事言うんじゃねぇよ!”

“そうだな、主に会えて喜んだと思えばアキトが居ない事に焦って涙目であったな”

その焦りっぷりをカミングアウトされていた。

“ざ、ザフィーラ!?何言ってやがるんだコノヤロ!焦ってなんかいねぇよ!”

“違うのか、ヴィータ?主はやてよりアキトの無事を聞くまではアイゼンで探査魔法を展開していると思ったのだがな”

“だぁぁぁぁぁっ!?テメェラ全員アイゼンの餌食だぁぁぁっ!”

で、結果はゴスロリ騎士が爆発するのだが――――

“まぁまぁ、皆もそれくらいでやめにしときや。ヴィータもここは我慢やで”

“うぅぅぅ、はやてがそう言うなら我慢する”

愛する主の言葉にどうにか怒りを納めるはやてっ子なヴィータだった。

“とりあえずアキト、こっちに来てもらえるやろうか?状況も説明せんとあかんしね”

そして何とか話を進めるはやて。

“あぁ、了解した。すぐに向かうよ”

“待ってるでー♪”

彼女の提案でとりあえず全員集合という流れになり、念話は一旦切断された。

「オモイカネ、ゼフィ。はやての居るところにジャンプは可能か?」

「はい、はやて様は現在街を離れて海の上に居るようです。その地点なら私のサポートでジャンプも可能です」

「そうか、じゃあゼフィに任せる」

「お任せを。オモイカネもよろしく頼みます」

「任せといてー♪」

「ではいきますよ、マスター。イメージ伝達――――」

「イメージ完了――――ジャンプ!」

そして、ゼフィランサスのサポートにより、アキトははやての元へと急いで向かうのだった。



「ジャンプアウト完了。状況確認開始…………マスター……」

目を閉じて、次に開ければ目的地。

今頃であるがボソンジャンプ…………凄い便利である。

「ん?どうした、ゼフィ?」

だが――――

「少々トラブルが発生いたしました」

欠点も多少は存在する。

目を開けると、そこは海の上。

そして、アキトは甲冑を装備していなかった。

「落ちます」

つまり――――空を飛べない訳である。

「なっ!?しまっ――――」

「まったく、アキトはうっかりさんやねー」

「ふぅ……助かったよ、はやて」

そのままフリーホールの如く落下してしまいそうなアキトを救ったのははやてだった。

空中に、魔方陣が展開されると、アキトはそれに着地する形で落下を間逃れたのだ。

そんなアキトに、はやてと守護騎士たちは近づいてくる。

守護騎士の面々はそれぞれが騎士甲冑を――――そして、はやても同様に騎士甲冑を装備していた。

黒いアンダースーツの上に白いジャケット、背中には6枚の黒い羽。

白く変色した髪に、白い帽子を被ったはやては、剣十字の杖と魔道書をそれぞれに持ち、アキトへと近づいていた。。

徐々に近づいて来る守護騎士たちは速度を落としていく。

だが、はやては落とすどころか更に加速し――――

「アキトぉっ!」

アキト目掛けて突撃を敢行していた。

「こ、こらっ、はやて。少しは加減してくれ」

ただの突撃ではあるが、騎士甲冑を装備していないアキトには結構凶悪な攻撃である。

「……アカン、これくらいが丁度良い位や」

しかし、そんな事を気にした様子も無いはやては、アキトにしがみ付く様に抱きついていた。

「はやて、心配かけてごめんな。それと……ただいま」

心配をかけてしまった彼女に、アキトは謝罪の言葉と家族としての言葉を告げた。

「――――っ!?……うぅ……アキトっ!」

はやてが最後に見たアキトは、リンカーコアに傷を負い、ボロボロになった状態だった。

そんな彼が今、怪我もなく無事な姿で自分に笑顔を向けている。

今まで何とか涙を堪えていたはやてであったが、限界を越えてついに溢れ出していた。

「みんなにも心配かけたな。特にヴィ――――」

とりあえず、はやての事はそのまま落ち着くまで胸を貸しておくこととして、アキトは周囲に集まっていた騎士達にも言葉をかける。

「し、心配なんかしてねぇよ!」

しかしヴィータは、アキトに最後まで言わせることもなく強引に否定する。

「もう、素直じゃないわよね」

「全くだな」

「うむ」

そんな彼女の様子に、守護騎士の大人組みは冷静な意見を下す。

「くっ……そ、そう言うシャマル達も心配してたじゃねぇか!」

そんな、明らかに押され気味のヴィータは、何とかこの流れを覆そうとしていた。

「それは心配したわよ。大事な家族ですもの」

「全くだな」

「うむ」

「そうか……ヴィータは心配してくれなかったのか」

が、結果的には『ヴィータのみがアキトの事を心配していない』といった流れになり、むしろ追い込まれていくヴィータ。

「そ、そんな事は……ぐっ……だぁぁぁぁっ!心配したさ、心配したともさ!?悪いか、悪い事なのか!?」

そしてまたも爆発するヴィータ。

しかし、先ほどの怒りなどではなく、不安な想いが爆発したようで、少し涙目である。

「ヴィータちゃんもやっと素直になったわね」

「全くだな」

「うむ」

そんなヴィータの変化に喜ぶ大人3人組み。

「ヴィータ、ただいま。心配かけてごめんな」

アキトも素直なヴィータの変化に微笑みつつ、もう1度謝罪をしておく。

「うっ……ま、まぁ許してやる。でも次心配かけたらぶん殴るからなっ!」

一応素直になったヴィータではあるが、やっぱりこういう事には照れていた。

「あぁ、わかった」

それがまた微笑ましいのか、今度は空いている手でヴィータの頭を撫でてあげる。

「――――っ!?……んっ……へへへ♪」

その行為に戸惑いを見せるものの、結局は甘んじて受け入れる事としていた。

「シャマルにシグナム、ザフィーラもただいま」

「えぇ、おかえりなさい、アキトさん。リンカーコアに直接ダメージを受けたと聞いていたんですが無事で何よりです」

「全くだな」

「うむ」

「え〜っと、シグナムとザフィーラはさっきから同じ事しか言っていない気がするんだが……」

「あぁ、何となくだ。気にするな」

「そういうことだ」

「そ、そうか」

「ところでアキト、その周囲にいるのは誰なんだ?」

とりあえず再開も果たし、はやてはアキトにスリスリと顔を擦り付けて、ヴィータはアキトに撫でて貰って和み中。

『主はやて命っ!』なシグナムは、はやてが満足するまでそっとしておこうと心に誓い、その間にアキトの周囲にいる2人の小さな少年少女に注目していた。

「あぁ、こっちの女の子はゼフィ、男の子がオモイカネだ」

「少しバージョンアップしたんですが……どうでしょうか?」

「僕がみんなに会うのって初めてだよね。ということでよろしくー♪」

注目の視線を浴びたゼフィランサスとオモイカネ。

ゼフィランサスはその視線に緊張してか、照れている様子である。

一方のオモイカネは、目覚めたのがつい先ほどということもあり、ご挨拶をしていた。

その後、はやてやヴィータもゼフィ達に興味を示し、新たな家族として迎えるだとか、パーティーせなあかんねんだとか盛り上がっていた。

「水をさしてしまうんだが…………と言うか、いい加減緊急事態な状況を思い出して欲しいのだが……」

「ははは……ま、まぁ感動の再会と言うわけだし」

「でも……あれの対処も大事だよ?」

その盛り上がり方は盛大で、今の状況を考えると無理やりにでも彼等を止める必要があった。

そこで黒いジャケットの少年は一応申し訳無さそうに――――だが本音は呆れつつ、話に割り込んでいた。

その後ろには戦場で何度も遭遇したなのはやフェイトもおり、少し離れたところにはアルフとユーノも居た。

「はっ!?そうやった!大変やった事すっかり忘れてたわ」

そしてはやて達は、少年達の言葉にようやく今の事態を思い出していた。

「一体何が……と言わなくても判るな」

それはアキトの視線の先にある、黒い淀みのことである。

巨大な淀み――――そこから膨大な魔力反応があるのだから、すぐに気が付く事である。

「あれは闇の書の闇。あー、夜天の魔道書ってのが正式名称なんやけどね、それを闇の書と言わしめたのが、あの淀みって訳やねん」

『主が切り離してくださったおかげで、今の私は主と共に戦う事が出来るのです』

淀みの説明を完結に述べるはやて。

それに補足する形で1つの声が聞こえてくるが、姿を確認する事は出来ない。

「ん?この声は……」

だがアキトにはこの声に聞き覚えがあった。

「ん?あー、そういえばアキトはこの子の事知ってるんよね。この子の名前はリインフォース。新しい家族や」

リインフォース――――それは、強く支えるもの・幸運の追い風・祝福のエール。

「リインフォースか……それが君の名前だったのか」

『はい、先ほど主より授かった……大切なモノです』

はやてが真の覚醒を迎えた際、彼女に贈った掛け替えのないものである。

「そうか。よろしく頼むな、リインフォース」

『はい、こちらこそよろしくお願いします』

こうして家族は増えに増えて、八神家は9人となるのであった。

「じゃあ話を戻すなー。わたしらの目的はあの淀みの中におる暴走プログラムのコアを破壊することや」

だが、そこでまた和みモードに突入するのはさすがにまずいと判断したはやてが多少強引ではあるが話を戻していた。

「作戦は多少無茶なものだが決まっている――――あぁ、僕は時空管理局執務官 クロノ・ハラオウンだ」

その話に続いたのは黒いバリアジャケットを装備した少年だった。

それはアキトがはじめて蒐集行為に参加した際に殴りつけて蒐集した相手である。

「テンカワ アキトだ……あの時は申し訳ない事をした」

当然、加害者であるアキトにとってこの出会いは気まずい事である。

「いえ、そちらの事情も理解していますから気にしないで下さい。」

しかし、執務官という立場の少年は大人の対応を見せつつ、今目の前にある事態への対処を優先していた。

「後数分でプログラムが暴走を開始します。そこで我々は――――」

そこで提示した作戦は、大きく分けて4つの工程からなるものだった。

まず、闇の書の闇が展開する魔力と物理の複合四層式バリアを破壊する。

これは、なのはとフェイトが魔力攻撃、シグナムとヴィータが物理攻撃を行いそれぞれがバリアを打ち抜くと言うものである。

そして次は、バリアの無くなった本体への直接攻撃を行い、コアを露出させる。

これに関しては、なのは・フェイト・はやて・クロノがほぼ全力で攻撃を行う必要がある。

ここでコアが露出されれば、次はシャマル・ユーノ・アルフによる強制転移魔法である。

目標は管理局の艦船アースラの前方に送りつけるのである。

そして最後、これがトドメとなる訳だが、アルカンシェルと呼ばれる強力な魔道砲で対象を完全消滅させる。

これが管理局やはやてとヴォルケンリッターの考えにより提案された作戦である。

クロノ曰く、個人の能力頼みでギャンブル性の高い案だそうだが、実現可能レベルらしい

「アキト、お前は我等と共にサポートを行う」

そんな作戦を展開する中、アキトの役目は闇の書の闇が召喚したワームなどの生物の駆除であった。

というのも、アキトはカートリッジを馬鹿食いするが、一撃の威力は平均的なものである。

フィールドを纏っての一撃はそれなりの威力を持つが、下手に近づけばどうなるか判ったものでは無いことからこの様な役割なのである。

「了解した。だがその前にはやて」

作戦と自分がすべき事を理解したアキト。

「ん?なんやーアキト?」

「オモイカネの封印を解除して欲しいんだ」

彼はサポート役として、様々な事態に対応できるように手を打つこととした。

「あぁ〜リインフォースから聞いてるで。でもそれって遺跡の封印をしてくれてるんやろ?解除して大丈夫なん?」

「大丈夫だ。ここで失敗する訳にはいかないからな。その為の保険だ」

「そうか、じゃあ早速済ましてしまおか」

「あぁ、頼む」

「え〜っと……夜天の書の主、八神 はやての名において、オモイカネの封印を解除します」

「遺跡の守護者、テンカワ アキトの名において、オモイカネの封印を解除する」

「――――封印解除――確認っ!」

はやてとアキトの封印解除の言葉を受け、人型モードだったオモイカネの足元に魔方陣が浮かび上がり、彼の力を封じていた術式が消滅する。

「どうだ、オモイカネ?」

「ふふふ〜最高の気分だよ♪」

見た目的には変化がないオモイカネ。

だが、オモイカネ自信にはその変化が非常に良いようで、かなりはしゃいでいる。

「オモイカネもアキトのデバイスなんよね?ってことはゼフィと同時に起動するん?」

そんなオモイカネと、アキトの肩に座っているゼフィを見ながらはやては1つの疑問を抱いていた。

「一応はそうだが……見せたほうが早いだろうな。オモイカネ、いけるか?」

「初めての起動だから時間がかかる上にエネルギーもかなり必要だと思うよ。だからここでの起動はオススメしないけどあそこなら問題ないよ♪」

「わかった。じゃあ頼むぞ、オモイカネ!」

「うん、僕にお任せ♪」

「オモイカネ――――セットアップ!」

「りょーかい♪管理プログラム起動!」

その質問には、答えるよりも見せたほうが早いと考えたアキトは、オモイカネの全システムを起動させる。

オモイカネは起動できることが嬉しいのか、くるくると回転しながら空高くへと飛んでいくのだった。

「あ……アキト?オモイカネどっかにいっちゃったけどいいの?」

「あぁ、心配ないよ。たぶん宇宙に上がっただけだから」

どうやら、上空で見えなくなった辺りで、ボソンジャンプを使用したようである。

「へっ!?う、宇宙って何でわざわざそんなところに!?」

そして行き先は宇宙。

「宇宙に行けば効率よくそのエネルギーが得られるんだよ」

そこは、オモイカネにとって無限のエネルギーと魔力を提供してくれる場所なのである。

『みんなっ!暴走開始まで後1分っ!』

「さぁ、はやて。終わりにするぞ」

「うんっ!」

そんな中、アースラの通信主任より伝えられる内容。

アキトとはやては夜天の書の呪われた運命を終わらせる為の戦いに挑むのだった。





13.呪われし運命を、断ち切る為に



アースラが提示する暴走開始時刻が迫り、徐々にではあるが淀みに変化が起き始める。

「始まる」

それを感じ取ったクロノは、真剣な眼差しで倒すべき敵を見る。

「夜天の魔道書を、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……闇の書の闇」

はやても、倒すべき敵を見る――――が、その目には少しの悲しみが見え隠れしていた。

本来ならばこの様な暴走する事の無い魔道書が、遠い昔の主の改変を受けて暴走してしまっている。

言うなれば目の前の闇の書の闇と呼ばれるプログラムも犠牲者と言っても良いだろう。

だが、救う事も出来ない存在である以上、倒すしかないのである。

だから、はやては悲しみを堪え、悲しい運命を終わらせる為に戦うのである。

そんな視線の向こう側では、淀みは消え、そこには様々な生物の融合体とでも言うべき存在がいた。

禍々しい姿のソレは、家の1つや2つは押し潰せるほどの巨体であった。

過去、様々な力を蒐集し、そして得た力の集合体なのである。

「さぁ、いくぞっ!ゼフィ――――セットアップ!」

「了解です!システム起動――――フォルム【黒百合】に移行します!」

それに対抗するべく、アキトも騎士甲冑を装備する。

黒いフィールドに包まれたアキトは、重厚な鎧を次々と装備し、徐々に漆黒の重騎士へと姿を変える。

「ゼフィ、カートリッジロード!」

『了解、腕部カートリッジシステムダブルロード!』

無事に甲冑も装備し、アキトはすぐさま腕部のカートリッジシステムを起動してハンドガンに切り替える。

そして――――戦いは始まった。

「いくよっ!チェーンバインド!」

「ストラグルバインド!」

「盾の守護獣ザフィーラ。主達は我等が護って見せる!縛れ――――鋼の軛!」

「ゼフィ、雑魚は俺達で引き付けるぞ!」

『お任せを!』

アルフ・ユーノは魔法の鎖を生み出し、ザフィーラは銀の刃を水中から出現させるとそれらで暴走プログラム周辺の雑魚を一掃していく。

そしてアキトは近過ぎず、遠過ぎずの距離を維持しつつ、ハンドガンの弾丸をばら撒いていた。

「ちゃんと合わせろよ、高町なのは!」

「ヴィータちゃんもねっ!」

こうしてアキト達が敵を引き付けている間に、ヴィータとなのははバリアを破壊する為に行動を開始する。

「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン!」

四層からなるバリアの、第一のバリア・物理防御を突破する為にヴィータはグラーフアイゼンを構える。

『Gigantform』

それに呼応するかの様に、グラーフアイゼンは2発のカートリッジを炸裂させる。

それにより、グラーフアイゼンはギガントフォルムへと形状を変化させた。。

ギガントフォルムは、ハンマーフォルムやラケーテンフォルムとは違い、純粋な破壊能力に特化した形態である。

ハンマーヘッドは巨大化し、その全長はヴィータの身長を少し越えたほどの大きさであった。

「轟天……爆砕っ!」

だが、ヴィータは重さを感じさせない動きでそれを振りかぶるとその形状は更に巨大化した。

ヴィータの魔力を得て巨大化したハンマーヘッドは、闇の書の闇を叩き潰すのに十分な大きさとなると――――

「――――ギガント・シュラァァァァァァク!」

ヴィータは全力でそれを振り下ろし、遠心力を活かしたソレは凶悪な一撃となって闇の書の闇に叩き込まれる。

当然、闇の書の闇は物理防御のバリアを展開する――――が、容易く亀裂が走るとバリアは砕け散るのだった。

「高町なのはと、レイジングハート・エクセリオン――――いきますっ!」

それに続き、二層目の魔法防御バリアを撃ち抜く為に、高町なのはがデバイスを天空にかざす。

『Load cartridge』

するとレイジングハートは、4発ものカートリッジをロードすると、レイジングハートからはなのはの魔力光である桜色の羽が出現した。

「エクセリオンバスター!」

『Barrel shot』

その矛先を闇の書の闇に向けると、バレルショットと呼ばれる衝撃波を放ち拘束すると――――

「ブレイク――――っ!」

動けない相手に対し、なのはは4発の砲撃魔法を放つ。

だが、4発は闇の書の闇が展開するバリアに阻まれた――――が、彼女の攻撃はここからが本番であった。

「シュゥゥゥゥトッ!」

更にもう1発の砲撃魔法――――今度はフルパワーの一撃を追加で放ったのである。

フルパワーの1発は、先に放たれた4発の砲撃魔法と合わさって威力が増し、こちらも容易く二層目のバリアを撃ち抜くのだった。

「次、シグナムとテスタロッサちゃん!」

作戦は順調そのもので、この勢いに続く様にシャマルの指示でシグナムとフェイトが行動を起こす。

「剣の騎士シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン」

シグナムはレヴァンティンを抜刀すると――――

「刃と連結刃に続く……もう1つの姿」

剣と鞘を連結し、カートリッジを炸裂させる。

『Bogenform』

すると剣と鞘の形状が変化し第三の形体 ボーゲンフォルムと呼ばれる弓へと姿を変えた。

「翔けよ――――隼っ!」

『Sturmfalken』

更に、ここで2発のカートリッジを炸裂させると弓に弦が張られ矢が出現し、彼女の足元に炎が舞い上がっていた。

そして矢にも魔力が収束していき、音速の一撃を放った。

初速から音速に到達した矢は一直線にバリアへと向かい、着弾しとほぼ同時に爆発を起こした。

その衝撃によりバリアは崩壊し、残るバリアは後一層。

「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュ・ザンバー……いきますっ!」

それを打ち破るべく、巨大な魔力刃を展開したバルディッシュを構え、フェイトはカートリッジを3発ロードすると

「はぁっ」

それを大きな動きで1回転すると、その勢いで力強く振り抜き、衝撃波を発生させると更なる一撃を放つ為の準備を始めた。

「打ち抜け――雷神!」

『Jet Zamber』

バルディッシュを天空にかざし、青白い電撃を纏わせると闇の書の闇目掛けて振りかざしたのだ。

その際、魔力刃の全長は伸び、遠く離れたフェイトからでも余裕で届くほどの長さへと変化していた。

そして、フェイトのジェットザンバーを受けたバリアは消滅し、闇の書の闇を覆うバリアは崩壊した――――筈だった。

「えっ!?そんな……ザンバーが受け止められた!?」

フェイトはバリアを抜いた勢いで本体にも攻撃を加えるつもりでいた。

だが、闇の書の闇は黒いフィールドを展開すると、ジェットザンバーを受け止めたのだ。

「そんなアホなっ!?複合四層式以外にバリアシステムはない筈やで!?」

それははやてにとって意外な展開であった。

「落ち着くんだ、はやて。あれは恐らくディストーションフィールドだ」

だが、アキトはフェイトの攻撃を受け止めたフィールドを見て、すぐにそれが何かを理解していた。

「それって……確かアキトの防御魔法やんね?……ってことはアキトが蒐集された際に取り込まれたって事やろか!?」

「あぁ、おそらくそうだろうな」

「ってことはあのフィールドの硬さはアキトの展開しているやつの数倍以上ってことかよ!?」

今の状況を理解したヴィータは驚きと、焦りを見せた。

アキトの展開するフィールドは、カートリッジを使用すると純粋魔力の攻撃に対して無類の強度を誇るのが特徴である。

受け止めるや弾くではなく、逸らすのだから直撃させることすら出来ないのである。

そして物理攻撃に対しても有効で、生半可な攻撃では突破は不可能である。

もちろん、シグナムやヴィータにとってアキトのフィールドを撃ちぬく事等造作もないことである。

だが、根本的に魔力量が高すぎる闇の書の闇が展開したフィールドとなると話は別である。

「こうなったらギガントをもう1発打ち込んでやる!」

だからこそ、ヴォルケンリッター中最大威力を誇るギガントをもう一度打ち込もうとするヴィータ。

「ヴィータ、とりあえず落ち着け。あれの破壊は俺に任せてくれればいい」

そんな、今にも飛び出しそうなヴィータを止めたのはアキトだった。

「ちょっ!?ちょっと待ち、アキト!」

「そ、そうですよ、アキトさん!」

「奴の魔力は無尽蔵なんだぞ」

「あれをアキトの魔力で突破出来るとは思わん」

「だからアキトは引っ込んでろ!あたしが破壊して見せるからさ!」

だが、今度ははやて&ヴォルケンズが全力でアキトを止める。

「大丈夫だ。今なら全力で戦えるからな」

しかし、アキトには最強の切り札が存在した。

「来いっ!オモイカネ!」

その名は、はやて達が知っている存在の名前である。

『やっほー♪思兼級デバイスのオモイカネ、只今参上♪』

そんな彼が、ボソンジャンプを使用し、皆の前に姿を現した。

だが、その姿は誰もが予測出来ない物だった。

『ふふふ〜♪どうかな、アキト?僕のフォルム【ナデシコC】は?』

「あぁ、良く似合っているぞ、オモイカネ」

それは、闇の書の闇とほぼ変わらぬ大きさの白き巨大戦艦だったのである。

『ありがとーアキト♪』

戦艦と喋る、甲冑を装備した青年――――シュールである。

「………………………………………………………はっ!?ちょっとアキト!これはなんなんやっ!?」

そんな光景をぼーっと見ていたはやてであったが、すぐに自分を取り戻すと関西人の性か、ツッコミを入れていた。

『はやて、それは僕が説明してあげる。これが僕の真の力の1つなんだよ♪』

「いや、真の力って……リインフォースから聞いた話とかなり違うんやけど?」

はやては、先ほどオモイカネの封印解放後にリインフォースからオモイカネの能力を聞いていた。

オモイカネの能力は、取り込んだ遺跡ユニットをアキトが扱いやすいように調整する役割であった。

それと同時に魔力供給を微弱ではあるが行うと言う能力も持っていた。

だが、戦艦形体が存在するなどと言った事は聞かされていなかったのだ。

『主、この様な形体は私も存じておりません』

というよりもリインフォースも知らぬ事だった。

「はやて、詳しい事は後で話す。だからとりあえず敵は俺に任せて皆を頼む!」

しかし、詳しい事を説明する余裕もないアキトはオモイカネと共に闇の書の闇に向かって攻撃を開始する。

「へっ?皆を頼むって……あぁ、皆はまだ固まっとるんか」

一方のはやては、何を言っているのか一瞬理解できなかったが、周囲を見渡す事で理解した。

とりあえず今はアキトを信じて、はやては皆を呼び戻す為に四苦八苦するのだった。


「ゼフィは重力波アンテナを――――オモイカネは重力波ビームの起動を頼む!」

『りょーかい♪』

『お任せを!』

アキトの指示を受け、それぞれがシステムを起動する。

重力波アンテナは背中に備え付けられたブースターに取り付けられた板状のパーツの事である。

一方のオモイカネは、見た目ではわからないが、重力波ビームを起動したようである。

『魔力及びエネルギーの供給を確認。これより、フルドライブモードの起動が可能となります』

重力波ビームはエネルギーを重力波アンテナが搭載されたモノに供給する能力を持っている。

そして重力波ビームを持つオモイカネには、無尽蔵にエネルギーを生み出す特殊な動力源『相転移エンジン』が搭載されている。

ちなみに、相転移エンジンとは…………作者的に詳しく理解していないので割愛するが、アキトの居た世界の技術である。

というよりも、遺跡を解析した事により手に入ったオーバーテクノロジーである。

つまり、こちらの次元世界で言うところのロストロギアと同じ様な物である。

その、ロストロギア級の相転移エンジンを、さらに闇の書というロストロギアの知識を得て強化したもの。

まぁ要するに魔法技術を取り込んだ相転移エンジン――――それが、オモイカネが操るナデシコCに搭載されているのだ。

結果的に、相転移エンジンは魔力とエネルギーを生み出す動力源と化した。

そして生み出される膨大な魔力とエネルギーの一部は、アキトに直接供給されるのである。

これが、女神と妖精が融合し、進化を遂げた精霊達の力である。

「よし、フルドライブモード――――起動!」

『了解、フルドライブモード、起動します!』

その供給されたエネルギーを黒き鎧に流し込み、フルドライブモードが起動される。

フォルム【黒百合】のフルドライブモードは、各部に設けられたスラスターやブースター、展開されるフィールドを常に全力起動するのが特徴である。

簡単に説明すれば、常にカートリッジシステムをロードし続けていると言う事である。

『マスター、フルドライブモードの起動を完了』

それは常に魔力を放出しているという事であり、甲冑からはアキトの黒い魔力光が噴出していた。

「まずは一撃だ……いくぞっ!」

『了解。ディストーションフィールド、前面に全力展開』

その溢れ出る魔力を用いてのディストーションフィールド全力展開。

「はぁぁぁぁぁっ!」

そしてその状態を維持しつつ、全身のスラスターからも魔力を放出し、アキトは漆黒の弾丸となって闇の書の闇に突撃する。

爆発的なブースターの魔力放出により、初速から最大速度で突撃を開始した弾丸はすぐさま闇の書の闇の展開するディストーションフィールドに直撃する。

だが、その速度と強度を持ってしても闇の書の闇が展開するフィールドを破る事は出来ず、アキトは弾かれてしまう。

“やはり硬いな……だがっ!”

だがアキトは弾かれた勢いのまま大きく旋回すると、再び闇の書の闇へと突撃を開始する。

そしてフィールド再びに阻まれ、弾かれる。

これをアキトは何度も繰り返していた。

だが、ただ闇雲に攻撃を繰り返すわけではなく、その度に侵入角度を変更し様々な方向より突撃を繰り返したのだ。

“どうだ、ゼフィ”

“たしかに頑丈なフィールドではあります。ですが少しずつではありますが出力が落ちている模様です”

その行為の繰り返しにより、ゼフィランサスは闇の書の闇が展開するフィールドについて調べていたのだ。

“つまり効果はあるということだな?”

“はい、ですがリカバリーの速度が速いです。複合四層式を抜かれた事で防御はディストーションフィールド1つに絞っているからだと思われます”

結果的にアキトの攻撃は多少ではあるが有効である事が判明した。

だが、アキトがフィールドを削る以上に、フィールドの修復が早いのである。

“生半可な攻撃は効かないか……オモイカネ、グラビティブラストならどうだ?”

そこで考えられるのはフィールドに有効で、且つ強力な攻撃を放てるものであった。

“う〜ん、ゼフィから貰ったデータを元に推測してみたんだけど、1発や2発では抜けないだろうね。連射すればどうにかなるだろうけど……”

それがグラビティブラストな訳であるが、

“ここだと相転移エンジンの効率が落ちているから連射は無理なんだったな”

真空でないところでは相転移エンジンの出力が落ちており、グラビティブラストの連射は不可能なのである。

“ならば……ゼフィ、俺達でオモイカネが奴を貫ける様にフィールド出力を下げさせるぞ!”

“了解です!”

ちなみにであるが、アキト達は念話をしている間も攻撃を繰り返していた。

そして、作戦は実行された。

闇の書の闇が居る地点の丁度真上、そこで一度静止したアキトは、次の瞬間落下速度を活かして急降下を行う。

「ディストーションフィールドアタック!」

今までとは違い前面の他、両腕にもフィールドを収束させ、闇の書の闇の展開するフィールドにまずは体当たり。

「はぁぁぁぁっ!喰らえっ!」

そこで更に両腕の同時に突き出して収束したフィールドをぶつけた。

2つの高出力フィールドが激しくぶつかり合い、拮抗する両者。

「ゼフィ!」

『お任せ下さい!フォルム【黒百合】リミッター解除、オーバードライブ――――起動!』

そこでアキトはフォルム【黒百合】における最大の攻撃を行う。

オーバードライブとは、限界以上の魔力とエネルギーを鎧に供給し、暴発するギリギリまで魔力を圧縮するというものである。

『エネルギーチャージ完了――――いけます、マスター!』

「アーマーパージ!」

『了解、アーマーパージ!』

アキトはその膨大な魔力とエネルギーを圧縮した鎧を切り離したのだ。

尚、管理局との初戦闘の際利用した、爆発に紛れて逃げるというものと似ている。

と言うか、ほとんど一緒の事をしているが、本質はかなり違っている。

前回は離脱の為の、あくまで目眩ましとしてのものであった。

だが、今発動したアーマーパージは、目眩ましなどとは訳が違う。

オーバードライブの発動により、圧縮した膨大な魔力とエネルギーをそのまま爆発のエネルギーに用いるのである。

「ゼフィ、距離を取るぞ!」

『了解、ジャンプ!』

アキトはアーマーパージ後、一旦その場をボソンジャンプで離脱する。

刹那、アーマーは爆音と共に衝撃波を生みだし、闇の書の闇に牙を向ける。

『マスター、ディストーションフィールドの出力低下を確認!』

物理攻撃に弱いディストーションフィールドは、爆発の衝撃でかなりの揺らぎを見せた。

「オモイカネ!」

『任せといて♪グラビティブラスト――――発射っ!』

当然その隙を逃すはずもなく、オモイカネはフォルム【ナデシコC】の主砲であるグラビティブラストを発射した。

それは闇の書の闇を包み込むほどの重力波となって襲い掛かる。

「これで……貫けるか?」

それをボソンジャンプで離脱した地点より見つめるアキト。

『ふふふ〜、僕に貫けぬモノなどない♪』

『グラビティブラストの直撃を確認、敵フィールドの出力大幅に低下』

『もらったぁ♪』

「やったのか?」

『はい、ブラストはフィールドを貫く事に成功。ですがいつフィールドがいつ再生してもおかしくありません。一気に畳み掛けましょう』

「そうだな……ゼフィ、オモイカネからの供給は続いているな?」

『はい、現在のフォルム【カスタム】には正常に供給が行われております』

【黒百合】の鎧を解除したアキトは現在それとは別の甲冑を纏っていた。

全体的に鎧で覆いつくされていた【黒百合】とは違い、全てのアーマーユニットが小型化したといっても良いだろう。

腕のカートリッジシステムは無くなり、スマートになったガンドレット。

巨大なブースターユニットと化していた脚部もかなりスマートとなり、踵の部分のみがキャタピラの様な物を装備しており少々ゴツゴツとしている。

全身に埋め込まれていたスラスターは全て無くなり、唯一ではあるが背中のブースターユニットのみが大きな変化も無く装備されている。

最後に大型の槍が出現し、アキトはそれを掴んだ。

このフォルムの名前は【カスタム】

これはアキトが搭乗していたブラックサレナと呼ばれる『追加装甲』の中の機体である、エステバリスカスタムを再現したフォルムである。

なお、このフォルムが本来アキトにとっての基本的なフォルムである。

『そいえばマスター。バージョンアップした事でフィールドランサーを追加する事に成功しました』

アキトの右腕にずっしりとした重みを感じさせる大型の槍――――それの名はフィールドランサー。

なんと、ディストーションフィールドを無効化するという特殊能力が存在するのである。

「ゼフィ…………出来ればもう少し早くに言って欲しかったんだが……」

そう、この力があれば闇の書の闇のフィールドを無効化出来たのである。

『……も、申し訳ありませんっ!?こ、こうなったら切腹でお詫びを!?』

当然、ゼフィランサスもそれを理解しており、申し訳ない気持ちで一杯となった彼女は少し危険な考えを実行しようとしていた。

「いや、とりあえず落ち着こうな、ゼフィ?……そうだ、追加された武装はフィールドランサーだけなのか?」

そんな彼女をどうにか落ち着かせようと、アキトは話題を変えるというベタ過ぎる選択を選んでいた。

『へっ!?……は、はい、武装はフィールドランサーのみですが、ランサーにラピッドライフルが搭載されています』

まぁ、とりあえずそれによりゼフィの切腹イベントは乗り切ったようで、今は武装の説明である。

彼女の言うとおり、フィールドランサーの刃の背には銃口が取り付けられており、これがラピッドライフルのようである。

だが、ラピッドライフルなどと名前が付いているが、はっきり言って全く別のものである。

と言うのも、これは供給された魔力やエネルギーを放出するものであり、その出力は自由自在である。

『このラピッドライフルは、出力調整や魔力・エネルギーの配分によって様々な砲撃を可能とします』

そして、魔力特化の砲撃魔法や、エネルギー特化の重力砲など、様々な攻撃手段を持つのである。

『フィールドが解除された以上、魔力特化の攻撃が有効と思われます』

「そうだな――――はやて、出番だ!こっちで闇の書の闇を抑えておく間に頼むぞ!」

「へっ!?わ、わかった、わたしに任しといてっ!」

突如話を振られて焦るはやて――――彼女はたった今、固まっていた最後の人物であるクロノを呼び戻す事に成功していた。

「クロノ君、君もいけるか?」

「あ、あぁ、とりあえず色々聞きたい事もあるが今は後だ。こっちも準備は出来ている!」

そんな彼も、色々と気になる模様であるが、とりあえず職務を優先するのであった。

「では――――ゼフィ、やるぞ!」

『お任せを!バレル展開、チャージ開始!』

『よーし、僕ももう1発いくよ♪』

アキトはフィールドランサーを闇の書の闇に向けて構えると、黒い環状魔方陣がランサー先端に出現すると、魔力の収縮を開始した。

一方でオモイカネも再びグラビティブラストを放とうと、チャージを開始する。

『ターゲット――――ロックオン!』

「貫け、漆黒の槍――――グラビティブラスター!」

『了解、グラビティブラスター――――ファイア!』

『こっちもいくよ!グラビティブラスト――――発射!』

そして放たれるのは2本の黒い重力波。

アキトの放つグラビティブラスターはブラストの収束型とでも言うべきか、少ない魔力で放つことの出来る重力波のレーザー砲である。

もう1つの重力波――――オモイカネが放つブラストは先ほどと同様、巨大な波となって敵に襲い掛かる。

ブラスターは闇の書の闇を意図も容易く貫き、ブラストは周囲の召喚されたモンスターごと薙ぎ払っていた。

これが闇の書の闇に対して初めて直撃した攻撃である。

その攻撃に対し、暴走プログラムは悲鳴をあげる。

それは攻撃が有効であるという証明でもあった。

「効いているぞ――――いけっ、はやて!」

だからこそ、ディストーションフィールドの出現で停滞していた作戦を続行する。

「うん!彼方より来たれ、宿木の枝!銀月の槍となりて撃ち貫け!」

夜天の書を開き、蒐集により身に着けた魔法を準備するはやて。

彼女の上空では黒い靄が出現し、ベルカ式魔方陣と共に7つの白き光が輝いていた。

「石化の槍――――ミストルティン!」

その魔法は直接的な威力が低い魔法。

だが、追加効果として現れる効果が恐ろしいものだった。

詠唱を完了させると、7つの光ははやての詠唱どおり、白き閃光の槍と化し闇の書に闇に降り注いだのだ。

その直撃の瞬間、ミストルティンの追加効果である『石化』を発動させる。

文字通り、ターゲットを石にしてしまうと言う恐ろしい魔法である。

当然、闇の書の闇も光の降り注ぐ地点より石化が始まり、やがてそれは全身にまで行き届いた。

そして徐々に崩壊していく闇の書の闇の肉体――――だが、それでも再生は止まらず、石化した肉体を突き破るようにして新たなる肉体が姿を現した。

『やっぱり並の攻撃じゃ通じない……ダメージを入れた側から再生されちゃう!?』

そんな様子を、宇宙空間で待機中のアースラスタッフの1人――――エイミィ・リミエッタは闇の書の闇の能力に驚愕していた。

「だが、攻撃は通っている。プラン変更は無しだ!」

だが、先ほども言ったとおり、攻撃は効いている。

「いくぞ、デュランダル!」

『OK Boss』

だからこそクロノは作戦を続行する。

「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて、永遠の眠り与えよ」

氷結の杖デュランダルを持ち、その力を行使するクロノ。

氷結の杖と呼ばれるだけのことはあり、クロノの魔力が冷気に変化し、それが闇の書の闇に向かっていく。

すると海面は一瞬の内に凍り付き、徐々に闇の書の闇も凍りに覆われていく。

「凍てつけっ!」

『Eternal Coffin』

そしてエターナルコフィンの発動と共に、闇の書の闇を氷が包み込み、やがてそれは砕け散った。

それでも再生を止めない闇の書の闇であるが、凍りついた為に動きが鈍くなっていた。

「いくよ、フェイトちゃん、はやてちゃん!」

「うんっ!」

「うん!」

そして、作戦は大詰めを迎える。

再生速度を上回る攻撃を繰り出す必要があるのだ。

そしてその方法は――――

『Starlight Breaker』

「全力全開!スターライトォォォォ――――」

自身の魔力の他に、カートリッジの残弾全て、そして周囲の魔力を集積して放たれる、高町 なのはの収束魔法。

「雷光一閃!プラズマザンバァァァァ――――」

同じく、自身の魔力の他にカートリッジの残弾を全て消費し、更に儀式魔法によって発動した雷を融合させた、フェイト・テスタロッサの砲撃魔法。

「ごめんな……おやすみな…………響け、終焉の笛!ラグナロク――――」

はやてが現時点で行使出来る最強の魔法、自身の魔力と夜天の魔道書のページを用いた、八神 はやての砲撃魔法。

3人の魔法少女が、それぞれ最強の攻撃力を誇る魔法を駆使しての――――

「「「ブレイカァァァァァァァァ!」」」

一斉放射だった。

それぞれの魔力光を纏った魔法は、闇の書の闇に吸い込まれるように直撃する。

そして、3つの魔法は1つの力となって、巨大な魔力の柱を生み出し、大きな爆発を起こさせる。

「本体コア、露出…………捕まえたっ!」

爆発により、闇の書の闇の姿が見えなくなる――――が、シャマルはクラールヴィントを用いてコアを補足し、

「長距離転送!」

「目標、軌道上!」

ユーノとアルフは準備をしていた長距離転送の起動に入る。

「「「転送っ!」」」

そして3人の力により、闇の書の闇の本体コアは宇宙へと転送されていく。

「オモイカネ、俺達も行くぞ!」

『了解!イメージ伝達は僕に任せて♪』

「わかった、ではいくぞ――――ジャンプ!」

そしてアキトもオモイカネと共に転送し、宇宙空間へと跳んだ。

「オモイカネ、フォルムチェンジ!」

『うん、フォルム【ナデシコA】に移行!』

通常の転送とは異なり、タイムラグのないボソンジャンプはすぐさまアースラの周辺に飛ぶことに成功し、そこでオモイカネはフォルムを変更した。

その姿はアキトやオモイカネ、そして彼の仲間たちにとっての原点とも呼べる戦艦。

後にYユニットと呼ばれる大型のユニットを搭載し、破壊力に特化した白き戦艦。

『【ナデシコA】システム異常なし。アキト、相転移エンジンの調子もバッチリだよ♪』

無事にフォルムの変更に成功したオモイカネ、そしてアキトはそのナデシコAの中にいた。

「あぁ、では相転移砲で終わらせるぞ!」

オペレーター席にいるアキトは、IFSを使ってオモイカネとリンクする。

『了解!フォルム【ナデシコA】フルドライブ!』

そしてオモイカネは全ての相転移エンジンを全力で起動し、Yユニットにエネルギーをチャージする。

『マスター、本体コア接近を確認』

目標となる本体コアは転送魔法により、確実にこちらに近づいていた。

『ふふふーこっちはチャージ完了♪いつでも準備おっけー♪』

「では発射態勢に入る。アルカンシェルに合わせてこちらも撃つぞ!」

既にチャージを完了させたオモイカネはアキトの指示でYユニットを展開し、準備は万全のようだ。

『アキト、アースラがバレルを展開したよ。僕達もやっちゃおうか!』

するとアースラの前方に環状魔方陣が複数展開され、やがて巨大なレンズのようなものが出現した。

そして本体コアの転送が完了した瞬間、アルカンシェルは発射される。

「あぁ、相転移砲――――発射っ!」

『相転移砲――――シュート♪』

それに続き、ナデシコAの相転移砲も発射した。

アルカンシェルは空間歪曲と反応消滅を引き起こし、巨大な爆発が起きようとしていた。

そこに追い討ちをかけるように相転移砲を放たれ、空間を強制的に相転移し、内部の物質を跡形もなく消滅させる。

「オモイカネ、再生反応は?」

『反応は……ありません。目標は完全に破壊されたようです』

そして、闇の書の闇は完全に消滅したようである。

「そうか……オモイカネ、ゼフィランサス、お疲れ様」

『うん、アキトもお疲れ様♪』

『マスター、お疲れ様です。終わりましたね』

とりあえず、作戦終了ということである。

「そうだな……ようやく終わった――――」

どうやら残骸の回収や、破壊された街の修復などが残っているが、一先ず安心できる状況にはなった。

“アキトっ!聞こえるか、アキトっ!はやてが倒れたんだ!?”

だが、ヴィータから突然繋がれた念話により、急を要する事態となっていたのだった。





14.一時の別れ



「つまり、あなたはこの次元世界に連なる世界とは別の世界から来た……という事でいいのかしら?」

「えぇ、先ほどここの設備を貸して頂き確認したのですが、間違いない様です」

アキトは今、アースラの艦長であるリンディ・ハラオウンと対面していた。

突然はやてが倒れたと言う念話を聞き、すぐに駆けつけようとしたアキト。

だが、はやてがアースラに運ばれる事となりアキトはナデシコAからアースラにすぐさま乗り移った。

そこで、はやては魔力と体力の消耗により気絶してだけで、命に別状がない事を知りアキトはとりあえず安心した。

だが、そこでリインフォースからアキトとヴォルケンリッターに重大な話があるのだが、今は割愛するとして、現在に至るのである。

「しかし困ったわね……闇の書の他にロストロギア級の代物が絡んでいたなんてね」

アキトはこの次元世界の住人ではない。

アースラで色々と調べてみたのだが、現在管理局が発見した世界の中に存在しなかったのだ。

そして、アキトの所有するデバイスに色々な問題は山積みされていたのだ。

デバイスだと言い切った巨大な戦艦だとかタイムラグなしの転移技術。

魔力とエネルギーをほぼ永遠に生み続ける動力源に強力な防御結界を展開する機構。

ロストロギア認定をほぼ100%で受ける事となりそうなモノばかりである。

そしてアキトの立場も問題の1つである。

アキトは偶然この世界に転移し、闇の書に蒐集されて、今に至る訳である。

すなわち、彼も闇の書の犠牲者としてみる事となってしまう。

もし、アキトが犯罪者ならばこの問題は簡単に処理されるだろう。

だが、犠牲者となれば話は別である。

だからこそ、リンディは非常に悩んでいた。

「まぁあなたの件に関しては後に回しましょう。それで、アキトさんは私に用があるのよね?」

「はい、リインフォースの提案した彼女の破壊についてなんですが――――」

とりあえず、今のアキトの状況をリンディ1人で決めるのも困難な話である。

ということでアキトの現状は保留とし、アキトがここに訪れた用件を先に済ませることとした。

それは、リインフォースが提案したことに関係していた。

リインフォースは、闇の書より解放され、夜天の魔道書としての自分を取り戻す事が出来た。

だが、過去に行われた改変により歪められた基礎構造は、切り離した防御プログラムさえもいずれは再生してしまう危険性が存在した。

そうなれば、また呪われた魔道書などと言われることとなる。

管制プログラムであるリインフォースは夜天の書の本来の姿を覚えておらず、完全な修復も不可能。

幸いと言うべきか、はやてのリンカーコアへの侵食は停止しており、いずれは不自由な足も治ることがわかった。

だからこそ、リインフォースとヴォルケンリッターの面々は心残りもなく、はやてとの解れる決意した。

だが、結果的にヴォルケンリッター達をリインフォースは夜天の魔道書から切り離し、彼女1人が消滅する事を望んだのである。

尚、アキトは元々が夜天の書のプログラムでは無いのでこの話題には微妙に取り残されていたりする。

そんなアキトにリインフォースは

「アキトには本当に迷惑をかけてしまったな。出来ればあなたの肉体を元に戻したかったのだが……それも叶いそうにない」

と、本当に申し訳無さそうに謝罪していた。

そんな事を思い出しつつ、アキトはリンディにとある提案をすると、その部屋を離れるのだった。



それから数時間後。

長かった1日も終わり、12月25日。

ヴォルケンリッターの面々とリインフォース、そしてなのはとフェイトはなのは達の住む街のとある山頂に集まっていた。

それはリインフォースの別れの時であった。

彼女の望みである、自らの破壊――――それをなのはとフェイトに頼んでいたのだ。

リインフォースを中心に、デバイスを持ったなのはとフェイトは彼女を挟むように構えていた。

彼女の足元にはベルカ式魔方陣が、なのは達の足元にはミッドチルダ式の魔方陣が展開されており、別れの時は着実に近づいていた。

「リインフォースっ!みんなっ!」

だがその場に、目を覚ましていなかったはやてが車椅子に乗って現れたのだ。

はやては胸騒ぎが収まらず、直感的に今の事態を感じ取っていたのだ。

そして、はやてはリインフォースの説得を行うが彼女はそれを聞く事はなかった。

リインフォースという大切な、掛替えのない名前をくれたはやてを再び傷付けることが彼女には耐えられなかったのである。

そしてリインフォースは、やがてはやてが手にするであろう新たなる魔道の器に『リインフォース』の名を与える事を願ったのだ。

彼女はここで終わりを向かえ、その想いが新たなる器へと宿る事を信じて。

そして、彼女を送る儀式が始まろうとしたその時――――

「はやて、リインフォース!」

この場に居なかった、アキトが姿を現したのだ。

「アキト……来てくれないのかと思いました」

「アキトっ!リインフォースを止めて!」

そんなアキトの姿を捉え、リインフォースは嬉しそうな表情を浮かべる。

一方のはやては、何としてもリインフォースを止めたいが為、アキトに彼女を止めるように頼んでいた。

「大事な用事があってな。だがそれも何とか目処がついた。リインフォース……おまえが消える必要は無い」

そして突如現れたアキトは、はやての願いを叶える様に、リインフォースの消滅を望んでいない様である。

「な、何を言っているんだ!?」

「アキト……それはほんまなん!?」

「あぁ、リンディ提督にも許可を頂いた。要するに、本来の夜天の魔道書の姿を探し出せばいい訳だろう?」

と言うよりも何か策がある様である。

「それがあれば確かに私が消える必要がありません。ですが、その姿がわからない以上私にはどうする事も出来ないのです」

だが、そんな事を知らぬリインフォースは、自分ではどうする事も出来ない事をもう一度説明していた。

「リインフォースの中にないなら外で捜せば良いだけだ。リンディ提督に無限書庫の使用許可は貰っている」

そんなアキトが提案した事は、無限書庫より夜天の魔道書のデータを捜し出すという物だった。

「あ、あの、アキトさん。でもユーノ君が調べたけど無限書庫の中に夜天の魔道書のデータは無かったんじゃないんですか?」

だが、そんなアキトのアイディアになのはは遠慮気味に答える。

闇の書事件の最中、スクライア一族の少年、ユーノ・スクライアが無限書庫に篭り、夜天の魔道書の情報を捜索していたのだ。

彼の捜索能力は優秀で、その彼の力を持ってしても有力な情報は得られなかった。

「それに時間が経てば再び防御プログラムが再生されます…………私には時間がないのです」

そして何よりもリインフォースには時間が無いのである。

だからこそ、アキトの提案は不可能と思われていた。

「当然、それらの事についても手は打ってある」

だが、アキトはそれらも含めて、全ての準備を遂げていた。

「リインフォースにはしばらくの間眠ってもらう事になる。そして眠っている間に、無限書庫の全てを調べる」

それは単純過ぎる作戦の全貌であった。

『眠るって言ってもただ眠る訳ではありません』

『リインフォースには暫くの間、僕の中に居てもらうよ』

しかし、突如現れたゼフィランサスとオモイカネの言うとおりただ眠らせる訳ではない。

オモイカネの内部に取り込んで厳重なプロテクトを構築し、リインフォースのシステムを完全に封印、防御プログラムを再生させないつもりなのだ。

この次元世界における現在のオモイカネのスペックは、この世界に存在するAIなどと比べると圧倒的なものだった。

その力を使い、リインフォースを冬眠状態にするのである。

「これならば時間を気にする必要はない。後はユーノ君の協力と、オモイカネの力を持ってすれば無限書庫の全てを調べるのも簡単な事だ」

そして、もう1つの不安要素である無限書庫の捜索。

これは先ほども名前の出たユーノと、オモイカネのタッグで捜索するというものだった。

ユーノの捜索能力は確かに素晴らしいものである。

だが、そんな彼の力を持ってしても、全ての捜索は不可能だった。

そして人である以上、当然疲労も溜まっていくであろう。

そこで役立つのがオモイカネの存在である。

オモイカネには【ナデシコA】【ナデシコC】の他にも様々なフォルムが存在し、ここで登場するのがフォルム【ユーチャリス】である。

ユーチャリスには、無人兵器の通称バッタと呼ばれるロボットが搭載されている。

バッタとは、その見た目が正にバッタだからと言う、そのまんま過ぎるネーミングで名づけられている。

そのバッタは戦闘用としての機能もあるが、作業用という一面も持つ。

そこでオモイカネの制御する、疲れ知らずの作業用バッタ軍団が無限書庫を片っ端から片付けていくのである。

無限書庫はユーノ曰く、捜せばどんな情報も見つかるらしい。

とりあえず今はユーノの言葉を信じて、捜索すると言うのである。

一応、この提案をリンディ達に承認させる為にアキトはオモイカネに100機以上のバッタを操作させ、無限書庫の内部を調べ回っていた。

そして、無事に本作戦の承認を頂いたのである。

「どうだ、リインフォース。これが確実な作戦と言う訳ではない。だが、少なくとも希望はある」

だが、アキトの提案が確実に上手く良くと言う訳ではない。

「わ、私は…………」

しかし、少なくとも希望はあるのである。

「わたしはシグナムやシャマル、ヴィータにザフィーラ。それにアキトやゼフィにオモイカネ。そしてリインフォースと一緒に居たい!」

当然はやてもリインフォースが残る事を祈っている。

「どうするんだ?これでも消滅を望むか?」

「私は……主の傍にいて良いのでしょうか?」

はやてやアキトの言葉を聞き、心が大きく揺らぐリインフォース。

「当たり前やんか!わたし達は……家族なんやからね♪」

そんな彼女に、はやては笑顔でリインフォースを迎える為の言葉を贈った。

「――っ!?ありがとうございます、主はやて」

その言葉に涙を浮かべるリインフォース。

「えぇんよ。でももう勝手にどっかに行ったら許さへんからね」

はやてはそんな彼女を抱きしめていた。

「――――はい」

「これで、一件落着だな」

それを暖かい眼差しで見守るアキト。

「全く、姿を見せないと思ったら……」

「そうですよ、アキトさん。ちゃんと私達くらいには説明しておいてくださいよ」

「まぁ、主を悲しませる事も無く、リインフォースも無事だったからな」

「だから今回は許してやるけど次はちゃんとしっかりと教えておけよな!」

そんなアキトの周囲にはヴォルケンズが集合しており、ここに八神家に置ける隠し事禁止令が施行されるのだった。

とまぁこんな感じで、多少強引ではあるがハッピーエンドである。





15.新しき日々の始まり



「じゃあユーノ君、後は任せるよ」

「はい、はやてによろしくお伝え下さい」

後に闇の書事件と呼ばれる事件が解決して1ヶ月程が過ぎようとしていた。

アキトは彼の持つデバイスや能力の危険性を考慮され、戦闘局員では無く無限書庫の司書であるユーノの補佐としてその職務についていた。

そして、オモイカネの中には夜天の書の管制プログラム・リインフォースが眠っており、これは管理局内でもあまり知られていない事実である。

アキトはそんな彼女を元に戻す為、ユーノの協力を得てデータの捜索をしているのである。

まだ1ヶ月しか経っていないのでリインフォースを治す為の手掛かりは手に入れていないが、それでも無限書庫は確実に整頓されているのである。

その様子にアキトは、時間をかければきっと見つかると信じている。

しかし、実はアキト自身がこの場にいる意味はぶっちゃけ皆無である。

と言うのも、オモイカネは単体で十分な捜索能力を持っており、ユーノとのコンビネーションも良好なようである。

むしろアキトが邪魔になる時さえある、悲しい状況なのである。

だからアキトは2人の邪魔をしないように早々と立ち去る事が多いのだった。



「おっ、アキトっ!」

「何だ、アキトもこちらに来ていたのか」

「ん?あぁ、ヴィータにシグナムか。2人も今日は仕事だったな」

本の山から逃げ出したアキト、彼は廊下でヴィータとシグナム達に出会っていた。

「そうなんだよ……全く、レティ提督は人使いがさ……」

「ヴィータ、あまりぼやくんじゃないぞ」

「相変わらずみたいだな」

この場に居ないが、シャマルやザフィーラも現在レティ提督と呼ばれる人物の下で働いている。

はやては足がまだ不自由な為、管理局の仕事が出来ない。

そんなはやてに変わって、守護騎士たちは一足先に管理局で罪を償う為にお仕事に励んでいるのである。

「アキトは今から帰るのか?」

「あぁ、あの場に居ても俺は役に立たないからな…………」

「ま、まぁ気を落とすな。リインフォースを救う為のプランを考えただけでも十分素晴らしい事だ」

「そうだぜ、それにアキトが暇なおかげではやては1人にならずに済むし、家に帰ったらギガウマな御飯が食べれるしな♪」

「そうか、それで何か希望があるのか?」

「久々にアキトの作ったオムライスが食べたいんだ。なぁ、良いだろ?」

「わかった、じゃあたくさん作って待っておくとするか」

「へへへ♪よし、シグナム、お仕事頑張るぞ!」

「全く……ではアキト、また後でな」

「あぁ、ヴィータもシグナムも気をつけてな」

こうしてヴィータ達と別れたアキトは、地球に転送してもらい、スーパーに寄ってからはやての待つ家に帰宅するのだった。

「ただいま」

「あぁ、アキト。おかえり、今日も早かったんやね」

そして、無事に八神家に到着である。



「なぁ、アキト」

「ん、なんだ?」

とりあえず買ってきた食材などを冷蔵庫に収納し、アキトとはやてはリビングにあるソファで寛ぎ中である。

「私な、今すっごく幸せやわ」

「本当か?」

「うん、もちろんや♪ずっと1人やった私が、今じゃたくさんの人に包み込まれてる」

アキトが現れるまでずっと1人だったはやて。

でもアキトが来た辺りから、彼女の生活は大きな変化を遂げた。

外にもよく出かけるようになり、近所の人にもよく話しかけるようになった。

そして、闇の書が覚醒を果たし、家が物凄く賑やかになった。

物静かだけど、はやての事を第一に考えるシグナム。

常に笑顔で安らぎを与えてくれるシャマル。

動物を家で飼いたいという夢を叶えて見せたザフィーラ。

甘えん坊で、妹の様な存在のヴィータ。

彼女が欲しかった――――憧れていた、家族が出来たのだから。

「シグナム達が来てくれて家族が出来て、なのはちゃんやフェイトちゃんみたいな友達も出来た」

他にも友達も出来て、周囲が賑やかになっていく。

「でも、その中でも一番嬉しかったのは、やっぱりアキトに出会ったときかな」

「そうなのか?」

「うん、そうやで。ずっと心細かったわたしの元に現れてくれた――――家族として傍に居てくれるって約束してくれた」

アキトとはやてがはじめて出会ったとき、アキトははやてと家族になる事を望んだ。

「わたしはそれを聞いたとき、本当に嬉しかった。ぽっかりと空いていた胸が、一気に温かい気持ちで一杯になった」

はやてもそのアキトの望みに共感し、2人は家族となった。

「これからもわたしはアキトに――――ううん、みんなに迷惑をかけるかもしれん…………それでも、ずっと家族として傍に居てくれるやろうか?」

「あぁ、もちろんだ。ずっと傍にいる――――はやてが嫌になるまでずっと傍にな」

そんな2人が改めて、家族として歩みだそうとしていた。

「――――っ!?…………ありがとう……アキト」

「どういたしまして、はやて」

アキトは隣に座るはやてを優しく抱き抱え、はやては力を込めてギュッと抱き着いていた。

「――――でもアキト?」

「ん?なんだ?」

「わたしがアキトを嫌いになることなんて有り得んし……ずっと傍に居てくれるんよね?」

「あぁ、ずっと傍にいるさ」

「なんかそれ聞いとると――――まるでプロポーズみたいやね♪」

「なっ!?」

「アキト、7年後にはわたしを貰ってな♪」

今から7年後――――

それははやてが16歳を迎える時である。

その時、2人の関係はどうなっているのか――――

新しい日々が――――

「アキト、大好きや♪」

今ゆっくりと始まる。





END








あとがき

どうも、お久しぶりのズズでございます。

この度、シルフェニア様が1000万ヒット達成と言う偉業を成し遂げたという事で、これは記念小説を贈らねば!と考え奮闘した次第であります。

しかし、これの準備期間は非常に長く、前回のネギま更新後という事でして、制作期間約4ヶ月という長い期間を用いて作らせていただきました。

の割に、結果的に時間が足りなくて微妙な出来です…………

まぁとりあえずは完成したのでまぁ…………良いか(笑

尚、需要があれば、はやてとアキトのラブラブな日々や続編など、一応考えていたりするのでもしよろしければご意見お願いします。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

それではまた次回の更新でお会いしましょう!



追伸、資格試験に挑む為、10月まではまず間違いなく更新不可能となりそうですのでご了承下さい。



それではさようなら〜♪










更に追伸…………リーンフォースに何となく違和感を感じると思っていたら間違っていたなんて(滝汗

早速修正させていただきました。


今度こそさようなら〜




押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


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