| 雪が降っていた。 それは、数多の夢のようにも思えるほどに、儚く降り注ぐ。 消えるからこそ、叶わないからこそ夢なのだと。夢と言う理想に淡い期待を抱かなくなったのはいったい何時からだっただろうか……決まっている。全ての幸せが崩れた、炎のあの日からだ。 窓から外を見ていたユナ・アレイヤは、そんな止め処ない思考を頭にめぐらせていた。 別に考え事をするために外を眺めたわけでも無く、雪が降っているその情景が特に好きだから眺めたというわけでもない。そのような感情の全てを……楽しいとか、嬉しいとか、喜びとか、笑うという……全てを、彼女は過去に置いてきていた。 彼女には今、なさなければならない事があった。 魔法学園に在籍する彼女は、成績も優秀、主席をいつもキープしているどころのレベルではなく、既に博士号などを習得している。 稀代の焔術師 ユナ・アレイヤ
そんな、二つ名で呼ばれる事もあるくらいに、彼女は有名な存在だった。 ふと。彼女が窓から少しだけ視線をそらす。その、わずかな視点移動で視界の端に収めたのは、室内を暖める暖炉の炎。薪を火種に煌々と燃え上がるそれは、薄暗い室内に在って、酷く明るかった。
「炎は……私に何を見せるのか」
既に、窓へと移した視線のまま、そんな呟きをユナはもらした。 誰も、その問いに答えるものなど無く、きっと、その問いの答えを知る者は問いを発した自身である事を知りながら。それでも、もらさずには、いられなかったその問い。 深く心に根付いた問い。
「……兄さん」
ユナは、また視線を外へと戻した。問いを答えてくれるであろう、人物の名前を呟いて。誰よりも今、寄りかかって、その温もりを感じたい人の名前を。
「もう、暖炉の温もりは嫌い……」
見つめていた外の景色から、人の影が消えた。もう夜も深い。誰も出歩くような人物がいないような、そんな時間帯だ。 暗闇の中、それでも主張するその純白の雪は、精霊にも似て幻想的な雰囲気を醸し出している。雪に吸収されたのか、世界には音も消え去り、深々と、ただ、静謐な夜が広がっていた。 そんな、儚い雪のように。 部屋から、忽然とユナの姿は消えていた。 部屋の扉は開け放たれたまま。暖炉に灯っていた炎はその勢いの影すら無く消え去っていて、ただ、無人となった室内には、一枚のメモが床の上に置かれていた。
『 明日へ 雪のような 明日へ 目指すことは 罪なのでしょうか? 』
その白い紙には、そんな問いかけが。
翌日の街に一つの噂が流れていた。
学園主席 ユナ・アレイヤ 失踪
物語は始まる。
|