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■36 / 1階層)   少女の檻 一話 『 war −旅立ち−』
□投稿者/ 翠霞。 -(2004/11/09(Tue) 03:57:04)
    「行って来ます」

     後ろを振り返り、雪の中、そんな挨拶を送る。
     視線の先には、今出てきたばかりの『第二の故郷』が。
     正直、恋しい気持ちが強いが、それでも歩まなくてはならないのだ。

    「……行こ」

     自分の中にある、そんな、強い誓いにしたがって、ユナ・アレイヤは雪の上を歩み行く。
     真っ黒のコートに身体を包み、胸元に金色のロケットを輝かせながら。


     †††


     ユナ・アレイヤが旅立ったのには理由があった。それも、酷く明確な理由が。
     二ヶ月前になるだろうか。彼女の兄から毎月送られてきていた便りが、急に途絶えた。当初は、忙しいのだろうと考え、寂しいとは想ったが特に心配とかをしていたわけでもなかった。
     だが、それが二ヶ月連続で続いた。
     そこで、少し不審に想ったユナが兄の知り合いの下へと手紙を送ってみると驚くべき返信が帰ってきたのだ。

    『 アイツなら そちらに向かったはずだが 着いていないのか? 』

     正直、身体がおかしくなったのかと想うほどの寒気と、眩暈に襲われた。
     其処に書かれていた文章と、そして、現在の状況を省みた結果は一つしか導き出されなかったのだ。

     ……兄に、何かあった。

     その返信から数日のうちに、ユナは、旅立つ決心を固め、その準備を全て完了させた。
     すべては、兄を探すための旅路。
     どこまでも、雪に彩られた出発になった。


     †††


     学園があった街から少し歩いた場所に、小さな宿場町が存在する。
     学園にいる子供に会う為にここまで旅してくる親や、知人関係を目的とした経営を町全体がしており、学園があの街にできて以来。つまりは数百年続く由緒正しき宿場町だ。
     立ち並ぶ宿屋もその由緒に相応しく、貫禄のあるものばかりで……穿った言い方をするならば、ボロい物ばかりと言う事なのだが……時代を感じさせる雰囲気が町全体に漂っていた。
     ユナの予定では、まず、街から、夜の深いうちに誰の目に付く事も無く失踪し……学園への報告を少しでも先送りにして、追跡や指名手配などを先延ばしに少しでもするため……その足でこの町へと歩いた後は、一晩だけここで宿を借りて、翌日に近隣の街へと旅立つという事になっている。
     この宿場町に特徴なのは、魔法を取り扱う学園が近くにあるという風評がもたらす地域の治安レベルの高さを利用しての深夜営業だった。
     通常、町と言うものは夜盗などの襲撃に備えて夜の間は門を閉めたりなどの防犯対策をとるものであり、深夜の営業などするものではないのだ。
     そして、深夜営業の宿屋に多い、秘匿性の高い、少しだけ裏に位置する宿屋こそ、ユナが目的とするものだった。
     秘匿性が高い。つまりは、名前を聞くなどの作業を一切省いてあったりするということだ。夜間、それも深夜にこういった施設を利用する人間は大きく分けると二つ。一つは恋人。一つは訳ありの人間。
     前者の方は説明するまでも無いとして、後者の方、訳ありとはいったいどういったものなのか。
     夜間、通常は出歩きするメリットの少ないこの時間帯でも移動しなくてはならないという事は何かから逃げていたり、王侯貴族の方々がお忍びで移動されていたりする場合が多いのだ。
     そういった場合、名前を知られる事を極端に嫌う性質があるのは言うまでも無い事だろう。
     学園に通うものともなると、貴族での者達も少ないとは言えない。ましてや、貴族の殆どが親馬鹿と言えなくも無いのだ。ただでさえきっぷのいい貴族が山ほど来る。深夜営業のメリットはそういった点にあった。
     眠りが支配する町。その中にあってなお眠ろうとしない宿の数々。
     宵闇の深さに似合わず煌々と明かりを漏らす窓からの光が酷く鬱陶しいものにユナには感じられていた。
     やはり、夜は夜らしくあるべきだ、と。
     それは……自分が自分らしくありたいがために。


     †††


     静かな夜だ。ユナはそう感じていた。
     何かあったとき、すぐに町の外へと逃走できるようにと門から比較的近い位置で営業していた宿を確保し、その一室から、出発する前と同じように外を眺めていたときに感じたことだった。
     何の音も無い、雪に全てが吸い込まれてしまったかのような、そんな夜。事実、雪が積もったりした地方だと音を雪が吸収して酷く静かな夜が訪れる事はある。だが、まだ雪が全てを包み込むような、冬真っ盛りと言うわけではなく、雪が音を吸収するにしても静けさに限度があるのも当たり前の事ながら事実だ。
     全てが無に帰すような、そんな感覚にユナは襲われる。

    「……すべてを、無に?」

     其処で、ふと何かに気がついたようにユナは呟きを漏らす。
     少し眉根を寄せて、自分の記憶を注意深く探って行き……そして、黙考の終りと共に辿り着いた違和感の謎。

    「超広域偵察用戦略魔法!?」

     魔法に長けているものだからこそ気が付ける、といったレベルの問題だといえば、その場方の高度さが分かっていただけるだろうか?
     超広域偵察用戦略魔法……その名のとおり、超広域にわたって偵察を行う場合に置いて、行動の際に起こる音を等をすべて『否定』し、偵察に最も適した状況を無理やり作り出す魔法だ。そして、その副作用は「全てが無に帰したような沈黙」。

    「suppress a fact(事実を隠す)とは、気の聞いた名前の魔法だと思ってたけど……これ程とは」

     改めて、戦略魔法の威力を痛感するユナ。学園時代、禁忌といわれるような焔術にまで手を出したりしていた手前、こういった戦略魔法にもそれなりには詳しかったが、それは知識と言うだけであり、実際に目の当たりにした訳ではない。
     ともあれ、実際に目の当たりにできるという方がまれなのだ。むしろ、目の当たりにしない人生の方がどれだけ幸せか。
     戦略魔法が使われているということは即ち。

    「……あの灯り……まさか、まさか!?」

     戦争が始まったという事実に他ならないのだから。

    「……軍事用特殊魔科学兵器 フォマルハウトの砲撃」

     旅立ちは、波乱に満ちていた。
     いや、もとより。

     その旅立ちは、動乱の中にあった。

     全てを覆い隠すように、雪が、舞う……

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