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■44 / 4階層)   少女の檻 四話 『 Gun −起点−』
□投稿者/ 翠霞。 -(2004/11/14(Sun) 02:10:31)
    ―― 戦場にいる。

     鼻腔に広がる血の匂い、血糊の温もりの残滓。血煙が風に乗り、宿場町の明るい夜を朱に彩る。

    ―― 例えばそう、目の前で倒れた民衆。

     その真只中、ただ落ち着き払い、冷静に行動する思考の支配者たる、焔の魔術師が一人。

    ―― 次の瞬間には自分も同じ姿になっているかもしれないという恐怖。

     名をユナ・アレイヤと言う。齢にして十代の半ば。若いと言う言葉がそのまま反映されたかのような瑞々しい肌の張りと、その整った容姿が年齢を必要以上に強調している。

    ―― 絶望が先に待ち、希望が先に待つ。

     だが、その少女には表情と言うものが欠落している。それは、この異常な世界の中にあってなんら感慨も抱かず、ただ魔術師として其処に在れると言う事実が雄弁に物語っていた。

    ―― ハイリスク・ハイリターンの世界を戦場と言うのであれば、この場所は戦場では無くなるのだろう。

     魔術師がよく着用するロングコートに身を包み。顔の右側面には両手を添えられ、銃口を空へと向ける黒光りの魔装銃が。

    ―― この先に待つのは絶望のみ。

     ガチャリ、と言う振動と共に魔装銃のスライドが引かれる。それに伴い薬室から排出される薬莢が一つ地面に転がった。一発目は空砲。威嚇のための無駄な弾だということを重々承知していたがためのその行為。

    ―― 敗北者には捕縛、または死亡と言う絶望を。

     戦闘が始まっている。それもすぐ目の前、射程内に置いて、否定する要素が微塵にも存在し無い程に絶望的事実が其処に転がっている。

    ―― そして、勝利者には逃亡と言う生き地獄を。

     血煙を噴出し終えた屍の山の上に、三人の兵士と思われる覆面を装着した黒尽くめの男たちが現れる。手には、魔装剣(形状的にはブレードに近い。カタールの刃を騎士剣並みに長くした上、ブレードの刃を装着した様な外見的特長。手の甲の辺りをカバーする篭手の表面に、窪みがあり、そこにE・Cを装着できる)を持ち、腰には無数の爆薬と思われる四角い筒が装着されている。

    ――― そう、ここは絶望のみが訪れる、悪夢のような世界。

     ユナはゆっくりと天空へ向けていた銃の照準を、三人の中央に立つ人物へと向ける。相変わらず、音は存在しない無音の世界。ただ、魔装銃の重い感触と、ガチャっと言う機械的な振動のみがユナの手に伝わる。

    ―― 人は、こう呼ぶ。

     それを目に留めた兵士三人は、一瞬だけ目線をその間で交わすと……魔装剣をこちらへと向けて、ほぼ正眼に近い状態に構えた。その篭手には緑色のクリスタルが光り輝いている。

    ―― ワルプルギス(魔女たちの宴)の夜と。

     長い、血に彩られた宴が始まった。

    †††

     BANG!BANG!BANG!

     実際はマズルフラッシュのみが銃弾の発射を伝え、音はすべて『世界に否定』されている。だが、ユナの手に帰る、少女が耐えるには大きすぎる衝撃がその音を直接体内に振動として伝える。

     明るい夜を閃光で三瞬包み上げた、その三連射。装弾数最大7+1発の『モルグ・アナ』にとって、既に四発、マガジンと薬室内に込めてあった弾丸を撃った計算である。
     だが。

    ―― 豪!!

     ユナと男たちの間に突如として吹き荒れた凶暴なまでの突風が、あろう事か三連射によって撃ち出された弾丸を吹き飛ばした。

    「ちっ……シルフィードのE・Cか……厄介な」

     その突風を、銃を構えたまま見据えたユナは舌を鳴らすと、そう呻く様にはき捨てる。

    シルフィード――― 風を司る精霊であり、そのE・Cと言うことは、不可侵であるはずの精霊を凝固し、クリスタル状に固定して兵器として運用しているということに他ならない。もちろん、世界的な道徳観念からはかけ離れているが……無害な宿場町を無差別に襲撃するような奴らに、そのようなものを求めるのが間違えているとも言え無くない。

     正面、中央の男が大地を蹴り、一気にユナへと肉薄する。その踏み込みと同時に薙ぐ様に振り抜かれる魔装剣。

    「く……っ!!」

     胴を払うようにしてきたその剣を、ユナはモルグ・アナの銃身の下方で受け止めた。少し不安定な形で抑える事になり、両手に掛かる負担がます。
     鍔迫り合いに近い状態でそのまま均衡するかと思われた。そうなると、少女である以上、ユナは不利。

    「……魔法使いの戦いの原則、その五条!」

     無音の世界、響き渡ることは無いと知りつつも、気合を自分に叩き込むためにとあげたその言葉。
     それと同時に、ユナは銃で押さえつけていた剣を力任せに下へと叩きつけるようにして落とした。

    「……!?」

     驚愕に彩られる兵士の瞳。
     横方向へ振り切ろうとしていた剣は、上下方向への力の変動に弱いのは力学上の常だ。
     そして、膝元辺りまで下がった剣をユナは思い切り踏みつける。
     それにより、篭手と剣が一体になっているため兵士は片腕を地面へと縛り付けられるのに似た状況に陥る。

    「躊躇うことなかれ。その躊躇いは、過ちなり!」

    BANG!

     腕を封じられた事により、がら空きになった頭部にユナは躊躇い無く銃弾を叩き込む。その、過剰なまでの威力に頭部は跡形も無く飛び散った。
     つぅ、とユナの頬を飛び散った中身が滴る。

    「掛ってくるのなら……容赦はしない」

     声が相手に届かないことを理解している、その上での行動。だが、残り二人となった兵士はその声が届いたかのように硬直していた。
     銃を、もう一度正面へ向け構える。眼光とその歪な銃で敵を威圧するその姿は間違いなく、戦場の支配者たるものだった。

    ―― 残弾残り二発 

    †††

     無音の世界。ただ一振り、ハルバードが振るわれる。

    ―― ザシュッ

     音が、世界に否定される。だが、それは持ち手へ振動と言う感触として伝わる。肉を裂き骨を砕いたそのおぞましい感触。

     ハルバードは何の苦も無く『兵士』の胴を一文字に切り裂くと、そのまま持ち手の頭上にて振るわれる。回転するハルバードの刃に付着していた血と肉片がそれにより幾分落ちた様に思われる。

    「あまり、感心しない……この様な、殺戮はな」

    ―― 声が『世界に響く』

     最後にハルバードを頭上から一気に振り下ろすと、その持ち手は足元に転がる十体を越す屍を何のかんがいも無く見下ろしてから、町の出口へと歩き出した。

    「……それに、明るい夜と言うのは、何とも落ち着かん」

    ―― 世界に、声と言う意志が『響く』

     黒い、少し柔らかめの生地を使ったローブを、銀色に輝くプレートメイルの上に着込んだその青年は、ただ、どことなく憤った雰囲気をその口調から醸し出していた。
     まるで、あるべき事を否定された幼子の憤りのように。酷く純粋なその感情が、青年を、どこか幼く見せていた。

    ―― BANG!

     否定された銃声が無音の街に響き渡る。

    「……銃声?」

    ―― 青年は世界の否定を『否定』していた

     在るべき音を、在るべきが、そのままに青年は耳にしていた。そんな、在るべき異常。

     無音の世界にあって、無音ではない青年が一人、長柄斧を片手に少女の檻と邂逅しようとしていた。

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