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/ 親記事)
ツクラレシセカイ(前書き)
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□投稿者/ パース
@
-(2006/05/17(Wed) 21:10:51)
これが小説初投稿になりますが、本編の前に前書き、というかいきなり言い訳、つーか謝罪です(爆
ごめんなさい、素人でほとんど小説なんて書いたことがないこのパースの文章ですので、たぶんあっちこっち変になってると思います。
ごめんなさい、序章は本編とほとんど繋がりがありません、ただの伏線です(ぁ
ごめんなさい、最初エルリスをエルエスだと思ってました(何
3回もあやまりゃ十分だろ(ぇ
そんなわけで、それでもいいなら本編「ツクラレシセカイ」をよろしくお願いします〜。
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■273
/ ResNo.1)
Re[1]: ツクラレシセカイ(シーン0)
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□投稿者/ パース
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-(2006/05/17(Wed) 21:14:12)
シーン0「序章」
広大な、広大すぎる砂漠が広がる世界。
どこまでも広がる砂色の世界。
地平線の果てまで延々と砂が続き、夜にはマイナス数十度にもなる死の世界。
全ての生命の生存を否定するようなその世界を歩く者がいた。
足取りは重く、ふらつき、今にも倒れそうに、ただ――歩く。
その大柄な人影・・・よく見れば一人の人間がいくらか小柄なもう一人の人間を背負っていることに気付く。
その一人の人間を背中に背負う影――蒼髪の少女。
エルリス・ハーネット
そして、エルリスが背中に背負う、顔も青ざめ、息もたえだえな少女。
セリス・ハーネット
セリスを背中に背負い、エルリスは、歩く。
広がる広大な砂漠を、どこへと、行くあてもなく。
◆ ◇ ◆
自分たちが一体何時間歩き続けているのか、時間間隔は既に麻痺した。
足はもう棒のようどころか、自分がしっかり歩いているのかもわからない。
背中のセリスももうほとんど動かない。
先ほどまでは声をかけると何かしらの反応はしていたのに、背中越しに聞こえるわずかな鼓動だけがセリスがまだ生きていることを証明する。
「セリス・・・死なないでね・・・セリス・・・」
記憶は曖昧で、混乱している。
様々な記憶が入り乱れる。
思考が乱れる。
「学校・・・砂漠・・・セリス・・・宿題・・・青い空・・・・・・友達・・・魔法・・・研究所・・・・・・?」
どれが本当の記憶で、どこからが夢なのか。
そもそも今見えている物全てが夢ではないのか。
(ここは・・・・どこ・・・?今は一体何時・・・・?人は・・・いるの?)
フラフラと今にも倒れそうに歩くエルリス。
思考は千々に乱れまともに考えることすら出来ない。
そして、石にけつまずきついに倒れてしまう。
(一体何が・・・・・どうなってるの・・・こんな・・・訳のわからないところで・・・・?)
倒れてから頭に思い浮かぶのは「理解不能」というただそれだけ。
事態の把握なんて出来ようはずもない。
(・・・私、どうなるのかな・・・・このまま・・・・死んじゃうの・・・?)
このままだと、自分にはいずれ「死」が訪れる、ということに今さらながら思い当たる。
(イヤ・・・・死にたくない・・・・こんな・・・ところで・・・死にたくない・・・・)
恐怖がまとわりつく。
それは死の恐怖。
「セリス・・・何か・・・言ってよ・・・・」
少しでも恐怖を和らげようと背中のセリスに声をかけるも、反応はない。
「誰か・・・助けて・・・・・・誰か・・・」
まぶたも重く、目を閉じてしまいそうになる。
体は重く鉛のよう。
セリスは、動かない。
自分も、動けない。
エルリスは、ついに目を閉じ――ようとしたとき。
人が目の前に立っていた。
頭をなんとか動かし、その人影を見る。
青い髪の男の人。
「あなたは・・・誰?」
「――――、―――――――――」
聞こえない。
聞くことが出来ないのか、理解できない言葉を話しているのか。
「何・・・、聞こえないよ・・・・?」
助かるのかどうか、彼が何者なのかもわからぬまま、しかし人がいたという安心感からまぶたが落ちる。
――ザッ
耳元で何か音がした。
「クライス、クライス・クラインだ」
それが彼の名前だ、とわかると同時に意識はどこかへ落ちていった。
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■274
/ ResNo.2)
ツクラレシセカイ(シーン1-1)
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□投稿者/ パース
-(2006/05/19(Fri) 19:49:21)
シーン1-1「日常」
まぶたを開く。
見えたのは見知らぬ場所。
ぼんやりと広がる視界に映るのは慌ただしく動く人々。
彼らの誰もが何かを叫び忙しく走り回る。
彼らは口々に何かを言い合い、操作盤を殴るように操作する
(何だろ・・・・これ・・・)
どこかの研究所のようだ。
走り回る人々は皆白衣を着ている。
自分は何かの入れ物に入っているらしい。
意識は遠くなりがちで、何より・・・・眠い。
(そっか・・・これは夢か・・・・)
夢の中だということに気付けば今見えている物も何の意味もない物だと理解する。
(夢の中なら何がどうなっても変じゃないよね、うん、きっとこれは夢、何より眠いし)
夢の中で眠ると目が覚めると聞いたことがある、もう一度眠りにつこうと目を閉じる。
別に聞きたくもないが走り回る人々の声が聞こえた。
「どう――――――、誰か――――のか!」
「ダメで――――、―――が――――起動――――ません」
「―――反応が―――――ません!、――A-10からA-7――――ロスト、――――危険です!!」
「まさか――――――反乱―――」
「誰か!――署長を――――早く!」
ほとんど言葉の意味を考えるまもなく『夢』の中で眠りにつく。
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
―――――――――
◆ ◇ ◆
――朝――
エルリスは目を覚まし、体を起こすと同時に一言
「変な夢」
顔を洗ってすっきりしよう、エルリスはそう考えベッドから抜け出す。
階段を下り、洗面台へ向かう。
鏡を見ると眠そうな目をしている自分が鏡に映っている。
蛇口をひねり、水を出す。
――バシャッ
水は冷たかった。
しかし顔を洗うと気分はすっきりする。
鏡を見ると、いつもの顔に戻っている自分が映っていた。
鏡を見ながらふと思う。
(そういえば、何の夢を見てたんだっけ?)
ついさっきまで見ていた『夢』のことは既に頭の中からきれいに消えていた。
(ま、いっか)
忘れてしまった夢のことなんてどうでもいい。
(それで、今からどうしよっか)
時計を見るといつもよりかなり早い時間だった。
もう一度眠ろうか、朝ご飯にしようか迷っていると
「珍しいな、エルリスがこんな早くに起きるなんて」
すぐ後ろにクライスが立っていた。
◆ ◇ ◆
「珍しいな、エルリスがこんな早くに起きるなんて」
朝、いつものように起きて、顔を洗おうと洗面台に向かうとエルリスがいた。
エルリスにしては早い起床だったので、声をかけると
「お、おはよう、クライス」
返ってきたのは朝の挨拶。エルリスは少し慌てているように思えた。
俺もエルリスの目を見て挨拶を返す。
「おはよう、エルリス」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
見つめ合ったまま、数秒の沈黙。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
うっすらとだが、エルリスの顔が赤くなったような気がする。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
さらにエルリスの顔が赤くなる
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あのー・・・・・・・クライス?」
沈黙に耐えられなかったのか、エルリスが口を開く。
「何?」
「何か用があって話しかけてきたんじゃないの?」
「まぁ、用というか」
用事と言うほどでもない簡単な事である。
「俺も早く顔を洗いたいから、待ってるんだけど?」
途端にエルリスの顔が赤くなり、慌てて洗面台から離れる。
「あ、ああ!!そう、そうよね!あはは、ごめんなさい!私はもう終わったから、クライスが使って」
エルリスはそう言うと、スタスタと食堂の方へ向かっていった。
俺も顔を洗おうと洗面台の前に立つとエルリスが何かを思い出したようにクルリとその場で半回転して声をかけてきた。
「そういえば、朝食は何にする?」
「いつものように、トーストとミルクとベーコン」
「わかったわ」
そう言ってエルリスは食堂に向かって歩いていった。
さっさと顔を洗って食堂に行こう。
◆ ◇ ◆
食堂に向かって歩いていたエルリスはふと立ち止まりうしろを振り返る。
そしてクライスがいないことを確認し、一言
「なんで、気配もなくいきなり後ろに立つかな・・・・・・・・びっくりするじゃない」
時々、クライスは全く気配がないことがある。
そのせいで、驚かされてしまうこともよくある。
なんでクライスの気配が全くしないのか、それはよくわからない。
「うにゅ・・・・・・・お姉ちゃん・・・・?」
セリスが階段を下りてきた。
「おはよう、セリス」
「うん・・・おふぁ・・・・・ぁよう」
半分くらい眠ったままのセリスが挨拶を返す・・・・が
「ムササビーどこー?」
「・・・・はぁ・・・?」
「ムササビーがこうグワーって飛んできてバァーってなったの・・・・」
「なに寝ぼけてんのよ・・・」
セリスはそのまま「ムササビー」とか意味不明なことを呟きながらフラフラと洗面所の方へと歩いていった。
フラフラ歩くセリスの背中を見ながら、エルリスは
(ご飯の準備しよ・・・・・)
少し疲れた気分でそう思った。
◆ ◇ ◆
―――朝食
あの後、朝食の準備をしたエルリスと、それを手伝いに来たクライス、そして顔を洗ってやっと目が覚めたらしいセリスの3人で朝食を食べていた。
テーブルのひとつを3人で囲う、朝食の内容はいつも通りトーストとベーコン、ミルクである。
トーストにはジャムかバター、好きな方を付けたり付けなかったりする。
3人とも、それほど食べるわけではないので、朝はこれで十分である。
そして、食べ終わると、3人で朝の会議をするのが毎日の日課である。
◆ ◇ ◆
「今日の予定は何だっけ?」
と、クライス
「私とセリスは学校、クライスはギルドにお仕事、よね?」
これは私のセリフ
「毎日同じ事の繰り返しだー」
セリスが少しつまらなそうにぼやく。
「だってそうなんだから仕方ないだろ」
実際その通りである。
「でもさ〜たまには刺激が欲しいよー」
「刺激って言ってもねぇ」
「ねぇ、クライス、この前言ったこと考えてくれた?」
「この前?」
「ほら、この家を旅館代わりにしたらどうかって話」
「ああ、あれね・・・却下」
「なんでー?」
「何回も言っただろ」
「知り合いから預かってる物って話?」
「そうだ」
「「ちぇーもったいないのー」」
私とセリスの二重奏を最後に一旦会話がとぎれる。
それにしても、本当にもったいない話である、このやたらとでかい家を使えば旅館くらい簡単にできそうな物である。
無論、旅館をやることが目的ではない、セリスの言う「ちょっとした刺激」である。
今まで何度言っても却下されたので今回も期待はしていなかったが、やっぱり却下された。
予想通りに却下してくれたクライスの顔をなんとなく見ながらこの屋敷のような家のことを考える。
この家には現在3人しか住んでいる人はいない。
――そう、3人だ
今、私達が住んでいるこの「家」、大きさはその辺の宿泊施設を軽く超え、ヘタをすれば貴族の屋敷と間違えんばかりのサイズを誇る。
すると当然のように部屋の数もかなり多く数十人が同時に泊まることが出来る。
それゆえ、食堂も無駄に大きく宴会が出来そうなほどあり、そのための長テーブルやイスがかなりの数使われないまま、食堂の隅に放置されている。
――一度、何でこんなに大きな家をクライスが持っているのかと聞いたら、
「知り合いが旅に出てる間、俺が預かることになってるんだ」
と、言っていた。
(クライスの知り合いって一体何者・・・?)
そして、この広大な屋敷に、住んでいるのはたった3人である。
(もったいないなぁ・・・)
当然のようにそう思う、エルリスであった。
そうしていると、クライスがこっちの方を向き、目があった。
◆ ◇ ◆
こちらの方を少し恨めしそうに見ているエルリスと目があった。
何度言われてもこれは譲る気はなかった。
本来の持ち主に何の断りもなく、別の使い方をするのは気が引けるし、何より問題なのは
・
(奴の持ち物だからなー・・・勝手に旅館やってどこか壊したりした日には・・・・・血の雨が降るな・・・・)
自分の考えに自分で冷や汗をかきながら、いまだに恨めしそうにこっちを睨んでいるいるエルリスを見る。
(何度言われても、この家を本来と違う目的で使うのはダメだ)
そういう意志を込めてエルリスをにらみ返す。
しばらくにらみ合うこと数秒。
「朝っぱらからお二人はアツアツですねー」
セリスの一言に二人ともずっこけた。
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■275
/ ResNo.3)
ツクラレシセカイ(シーン1-2)
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□投稿者/ パース
-(2006/05/21(Sun) 10:19:07)
辺境の村フォルセナ
通称「ゲート」
それがエルリス達が住んでいる村の名前である。
大陸一の大都市「ホーリィライト」の南西、大陸第三の都市「アウスレオルス」からずっと南に位置する人口わずか400人程度の小さな村である。
村では30人ほどの若者が自警団(ガーディアン)をやっており外敵から村を守っている。
村は周囲を深い森に囲まれておりその上一番近い町でも歩いて数日かかる位置にあるため『長距離転移陣』が配備されている。
この『長距離転移陣』はかなり大きな「扉」の形をしており、それがこの町が「ゲート」と呼ばれるゆえんである。
この『長距離転移陣』はゲートとアウスレオルス間を結ぶ特殊型魔法陣で便利な移動手段としてゲートの村人からは重宝されている、しかしゲートは人口400人とかなり小さな村であるため、それだけのために常時使用するわけにはいかず1日に使用出来る回数は数回から十数回と制限されている。
◆ ◇ ◆
会議を終えて、それぞれ準備をする時間になると、エルリスは自分の部屋に戻り、ベッドの側に立て掛けてある棒状の物を手に取った、長さは自分の身長の半分より少し長いくらい、それからその横に置いてある上半身から腰までを覆うボディーアーマーを着込む、そして、外用のブーツを履き財布を懐にしまって準備は完了。
最後に部屋を見回し忘れ物がないか確認、準備はバッチシである。
「んじゃ、行きますか」
エルリスはそう言い部屋を出た。
◆ ◇ ◆
玄関を抜け外に出るとクライスがいた、どうやらクライスの方が準備は早く終わったらしい。
普通に歩きながらクライスの姿を確認する。
灰色の服の上からエルリスと同じ型の一般的なボディーアーマーを着込み、旅人用の一般的なブーツ、腰にはいつものロングソードではなく1本のショートソードを吊していた。
「あれ、いつもの長剣はどうしたの?」
「この前壊れちまってな、修理に出してる」
「ふーん・・・・大丈夫なの?」
「村から町に行ってちょっとした仕事をするだけなんだから、大丈夫だろ」
「ならいいんだけど」
「それにしても、相変わらずセリスの奴遅いな」
いつも最後に準備が終わるのはセリスである。
「そろそろ来るんじゃない・・・・あっ、ほら、来た」
ばたばたとこちらに駆けてくるセリスの姿が見えた。
「待ってーおねーちゃーん、クライスー!こらー!置いてくなー!!」
相変わらず、元気なセリスだった。
◆ ◇ ◆
――「ゲート」に向かうための小道――
「ねぇ・・・あのさ、ふと思ったんだけど」
セリスが呟く
「何?」
クライスが受け答える
「もしかして・・・・・・・・・あたし達って今めちゃくちゃピンチ?」
クライスが周りを見回して、一言
「そうだな」
「「何でもない風に言うな〜!!」」
エルリス達は、ゴブリンの集団に4方を囲まれていた。
◆ ◇ ◆
――ほんの少し、解説を入れてみよう
わたし達が家を出たそのすぐ後。
セリスが忘れ物をしたと言いだしたのだ。
クライスは時間がないから諦めろ、と言い
セリスは戻ると言って止めなかった。
で、結局クライスが先に折れ、一旦引き返したら時間がなかったので、普通の道ではなく、家の裏の丘を通って、森の中を突っ切る「ゲート」への近道を使うことにしたのだ。
その結果、普段なら滅多に出ることのないモンスターの群れ(ゴブリン達)に遭遇してしまったのである。
(――以上、説明終わりっ!)
跳びかかってきたゴブリンの1体に手に持った棒で応戦するエルリス、ゴブリンから離れるためにとりあえず蹴り飛ばす。
「どうすんの!?こんな数相手にしてたらその間にゲートが閉まっちゃうよ?」
エルリスの半叫び声にクライスが怒鳴り返す。
「どうするって、倒すしかねぇだろが!!」
「まったく・・・・しょうがないわね・・・・」
ちなみに、事の原因のセリスは楽しそうにしている(――こいつめ・・・・あとで懲らしめてやる)
エルリスはあらためてゴブリンの方に向き直り棒を構え直す。
(敵はざっと7体、後ろはセリスとクライスに任せるとして)
エルリスの構えている「棒」はもちろんただの棒ではない。
(よしっ、いける!)
エルリスが持っている棒の先端部分の突起を押す、すると棒の長さが倍ほどになり先端から刃物が飛び出す。
エルリスの武器は、変形機構付きの槍である、威力は刺突に関する限り普通の槍と同じである。
あとは、携帯に便利で、不意打ちにも使えるということくらいか。
――ダッ!!
一気にダッシュし手近な一体にリーチを活かして突き刺す。
エルリスの武器が変形したことに一瞬気を取られたゴブリン達が慌てて攻勢に出る。
その時エルリスは既に2体目を間合いに入れていた。
(ハアッ!!)
――ザシュッ
2体目も同じように葬り去る。
(あと5匹!)
◆ ◇ ◆
(さて、どうするか)
前に立つ、10匹ほどのゴブリンに剣を向けながらクライスは考える。
(エルリスが後方、セリスが側面を相手にしてるから、後ろは考えなくてもいいとして)
チラッと後ろを確認する、エルリスが槍で応戦している姿と、セリスが腕輪を飛ばしてゴブリン達を威嚇しているのが見えた。
(それにしても少し数が多い・・・ショートソード1本で勝てるか?)
愛用の剣を修理に出すんじゃなかった、と今さらに後悔する。
(ま、今さら後悔しても始まらんか)
そうして一人で納得していると、しびれを切らしたゴブリンが2体飛び出してきた。
(こういうのは、焦ったら負けなんだよな)
腹を空かせているのか、単調な動きの2体の攻撃を難なく避け、すれ違いざまに斬る。
(さらに、このタイミングで攻めるのもありだな)
仲間を2体あっという間に倒された動揺がゴブリン達に広がる、クライスから見ればそれは単なる「隙」でしかない。
一息に間合いを詰め先頭のゴブリンを切り裂く。
(数が多い敵は、リーダーを倒すに限るな)
さらに動揺が広がるゴブリン達の中で、1体一回り大きなゴブリンが他のゴブリン達をまとめようとしているのがわかった。
(あれがリーダーか)
ゴブリン達の間を隙間をぬうように走り抜け、邪魔をする物のみ斬りながら進み、ゴブリンリーダーの前に立つと一気に跳躍。
――頭上から剣を一閃。
頭をふたつに割られたゴブリンリーダーがゆっくりと崩れ落ちた。
(なんだ、こんなもんか)
リーダーを失ったゴブリン達は我先にと森の中に帰って行った。
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■276
/ ResNo.4)
ツクラレシセカイ(シーン1-3)
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□投稿者/ パース
-(2006/05/23(Tue) 20:27:31)
リーダーを失ったことであっけなく森の中へ逃げ帰っていくゴブリン達を見ながらエルリスは思う。
(クライスってホント何者なんだろ・・・)
さっきのゴブリンを斬った動き、どう見ても只者ではない、それに、たまに気配がないこともある、しかしそのことはいつ聞いても曖昧にはぐらかされるのだった。
武器である槍を元の形に戻しながら考える、が
そう言えばそんなことを考えてる暇はなかったな、と思い直し、とりあえずセリスの無事を確認する。
「セリス、怪我はない?」
そしてセリスの方を振り返ったエルリスは――
「げ・・・・」
「―――――――世界に満ちるマナよ、我と我が枝を伝いて――」
セリスが『精神集中』して逃げるゴブリン達に呪文をぶち込もうとしていた。
「ちょ・・・待った!ストップ!セリス!!」
しかし一旦『精神集中』したセリスを正気に戻すには、遅すぎた。
「我が体内に宿る魔力と共に・・・ふっふっふ・・・わたし達の邪魔をしておいて簡単に逃げられると思ったら大間違いなんだから・・・・・・我が敵を焼け!『フレイムバースト』!!」
途中どう考えてもただの呪詛にしか聞こえない言葉が入りまくったが、どういうわけか魔術は普通に発動した。(なんでだ!
『FlameBurst』は対象の側に小型の炎の塊を生み出しそこで破裂させるという炎熱系の魔術である。
――ッバァン!!ドン!ドドン!!
それが複数同時に爆発し、何体ものゴブリンや無関係の植物が吹き飛んだ。
「ふふふ・・・・ふっふっふ・・・・あーっはっはっはっは・・・邪魔する奴はみんなこうだ〜」
「あんたはいつまでラリってんのよ!」
「あいたぁ!」
エルリスの突っ込みが発動した。
◆ ◇ ◆
セリスのやり過ぎな魔術のせいで多少燃えてしまった森に再度セリスの魔術で火の消化をして貰ってようやく一息ついた頃。
「――で、クライス、時間はどれくらい残ってるの?」
「セリスがよけいなことをしたせいで残り3分切った、」
「私のせいじゃないよぅ・・・ゴブリンのせいだってばー」
「セリスは黙ってなさい」
「あぅ・・・」
「とにかく急いがないと」
「そうだな、さっさといこ――」
クライスが行こう、と続けようとした時、森の中で大きな影が動いた。
「―――っ!!なっ!なんだ!?」
クライスも気付いたらしく声を出す。
その大きな影がノソノソとこちらに近づいてくる。
おそらく先の炎と血の臭いに誘われてきたであろうそいつは――
巨人族の亜種、トロール
その体は大きく家のよう、知能は低いが棍棒等を持っている事が多く、凶暴でそのパワーは計り知れず、そして何より厄介なのは。
――不死に限りなく近い生命力。
ちょっとの傷ではすぐに回復し、一撃で致命傷を与えなければ倒すことは難しい。
それが姿を現した。
「これは、流石にまずくない・・・・?」
「ああ、かなりまずい」
「逃げた方が・・・・って、セリスは?」
先ほどから一言も喋らないセリスを不審に思い振り返ると、
セリスがまた『精神集中』し呪文を詠唱していた。
一般的に、魔術師は呪文の効力を上げるために、世界を構成するマナで作られた物質(主に植物や鉱物)を装飾品や武具として体に装着し、魔術を使う際の媒介として使用する。
さらに普通の魔術師は魔術詠唱に『精神集中』する必要がありそのために敵と距離を取る必要がある、その結果魔術師は遠距離用の飛び道具か、魔力増大やマナ変換に特化した道具、杖(ロッド)を使うのが主流である。(セリスは前者である)。
セリスは両の腕にはめた腕輪を魔力の媒介として使用している。
そして、セリスの魔力を受けた腕輪はマナを変換させるために回転し始め、周辺のマナを取り込み、魔力へ変換する、そして魔力があたりに十分に溢れると、腕輪はセリスから離れセリスの周囲を回り極小規模の魔法陣を展開する。
そして、魔法陣の展開と呪文の詠唱が終わると同時、
「――極寒の冷気よ、我が敵を凍て付かせよ――アイスヴァニッシュ!!」
『IceVanish』は一定空間内の温度を極寒レベルまで引き下げ、敵を凍り付かせる一般レベルの氷結系魔術である。
アイスヴァニッシュによりトロールの体が一瞬にして凍り付く。
―――シーン・・・・・・・・・
「倒した・・・・かな?」
ホッとしたのもつかの間。
――ビキッビキビキッ
「うそっ!!効いてない!?」
体を半分以上凍り付かせたトロールはそのままの状態でこちらに向かってきたのだ。
そしてその腕には人の体ほどもある巨大な棍棒がひとつ。
「まずい!!」
クライスが叫び、エルリスとセリスも慌てて飛び退く。
――ドゴンッ!!!
その巨体から出されるパワーにより地面がへこみ、木をなぎ倒す。
その上トロールは明らかに怒っていた。
「クライス、どうする!?さっきより状況が悪化してるよ!!」
「どうするって・・・・・・どうしようもないかも」
「「ええッ!!?」」
クライスが現在装備しているショートソードではあのデカブツを相手にまともなダメージを与えられないだろう、エルリスの槍も同じである。
頼みの綱のセリスの魔術が破れた今残る手段は
(逃げるしかない!?)
どうしようか迷ってる間にトロールは第二撃を放とうと腕を振り上げた。
そして――
「何こんな雑魚相手に手間どってんのよ」
トロールの両腕が吹き飛んだ。
「誰!?」
声がした方を見ると、そこにいたのは
黒髪に長刀(日本刀と呼ばれる種類なんだそうだ)を腰に差した少女。
ミヤセ・ミコトだった。
◆ ◇ ◆
――「どうしようもない」と言ったのは、もはや勝ち目がない、という意味ではない。
もはや何もする必要がない、という意味だ。
その後はあっという間だった。
突然現れたミコトは両腕を失ったトロールに近づくと、腰に差したままの刀を構え
『居合い斬り』
目にも止まらぬ早さで刀を振り抜き、再度鞘に戻し2度、払う。
瞬く間にトロールは3つに分断された。
(――両腕を含めれば5つか。)
「さて、クライス、あなたがいながらなんでこんな雑魚に手間取っていたのか聞かせて貰おうかしら、時間が無くて私がここを通らなかったら危なかったじゃない」
刀の血を払い、鞘に戻しながらミコトが俺に訪ねてきた。
「いつものロングソードが壊れたから今日はこれしかなかったんだ」
俺は答える代わりにショートソードをミコトに見せる。
「何であなたはそんな間の悪いことを・・・・・って今はそんなことどうでもいい!時間がないんだから・・・エルリス、セリスも!早くして、走るわよ!!」
ミコトは返事も聞かずに走り出す。
「あ、うん、そうだったね!急ごう」
エルリスが反応して、
「あ、待って、私も行く〜」
セリスがそれを追う。
一人残されたクライスは――
(本当に、本当にミコトが来てくれて助かった、おかげで『力』を使わないですんだ・・・)
誰にも気付かれぬように、ホッとしていた。
◆ ◇ ◆
こうして、ミコトを加えたエルリス達はゲートの開放時間にギリギリ間に合い、ようやく、大陸第三の町、「アウスレオルスシティー」にたどり着いたのであった。
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/
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■279
/ ResNo.5)
ツクラレシセカイ(閑章)
▲
▼
■
□投稿者/ パース
-(2006/05/31(Wed) 20:09:53)
(柱:今回は解説主体の話ですので、すっ飛ばしてくれてもかまいません)
真っ暗闇の中にスポットライトの光がひとつ。
スタスタスタ・・・
(ローブを着た男が一人画面の真ん中に歩いてくる)
「あー・・・・ごほん」
(何か言いかけるが、何も思いつかない、いきなり闇の中から現れたカンペを見る)
「えーと皆さん初めまして、私、今回司会を務めさせていただく――――(なんだよこれ、名前名乗れないじゃん、え・・・・・名前言っちゃだめだと?ったく・・・・)えーと、『解説者』です、短い間ですがよろしくお願いします。(何?そのまんますぎるだと、だったら普通に名乗らせろ、あ!?じゃあそれでいい?どっちだコラ!!だったらてめえが―――)」
(しばらく解説者、何もない闇に向かって口論を続ける)
(―――――数分経過)
「えーと、大変失礼いたしました、全ては制作者が、今回の話は解説主体で行こう、何てバカなことを考えたのが原因です、私は悪くありません」
(解説者の頭上からいきなり金だらいが降ってくる、解説者に直撃)
「(イテッ!!金だらいだと、なんて古い手使いやがる、だいたいお前がちゃんと構成を考えてないからこういうことになるんだろうが、あんだと!?文句あんの―――)」
(再度解説者、闇と口論を広げる)
(―――――――――さらに数分経過)
「またしても、申し訳ありませんでした、それでは、これ以上は時間がもったいないので、本題に入らせていただきます」
「今回私が解説いたしますのは、この話の舞台となる、世界そのものの話です」
「まず、ツクラレシセカイの世界では、大きな大陸がふたつしかありません、まず世界地図の右半分を占める、巨大な大地『ファ・ディール大陸』、そして世界地図の左半分には強力な魔族や、魔王の一族が住むと言われる『ディア・ディール大陸』が広がっています、そして、人がほとんど住まない南方大陸と漁業の盛んな北方諸島がこの世界の全てです、この辺大陸の配置なんかは本家リリースゼロからほとんどそのまんまパクってますね・・・・・・(パクリって言うなだって!?事実なんだからしょうがねえじゃねえか!)」
「えー、こほん、まずは『ファ・ディール大陸』ですが、この名前はこの世界の住人たちはほとんど使わず、単純に『大陸』と呼んでいます、そして『ディア・ディール大陸』もほとんどの住人がその名称は使わず、『暗黒大陸』と呼びます」
「それでは、続いて『大陸』の解説です、『大陸』の形は「四つ葉のクローバー」を思い浮かべてください、それの真ん中にぽっかり穴が開いたような形をしています」
「真ん中の穴はこの大陸一番の大きさを誇る湖、「キルマ湖」です、そしてキルマ湖を中心として、東に大陸一の都市「ホーリィライト」があり、西に大陸第二位の港町「サハグラス」、南に三番目の学園都市「アウスレオルス」、北に四番目の町にして大農場「オルトナ」といった風に大陸は四つの地方に分類され、それぞれの地方ごとに、いくつかの村々が存在し、物語が開始された村「フォルセナ」はこの大陸の南側の一番奥、辺境に位置します、ちなみにこの大陸には合計で400万人ほどの人間が住んでいます」
「さらに、キルマ湖を中心として北西に「フィーグ平原」南西に「ペルエム砂漠」南東に「レッドオーク樹林」北東に「ノルン山脈」と、地域ごとに全く異なる環境が広がっています、なお、この辺は完全に作者の趣味で作った物なので覚えていなくてもいいです」
(頭上から再度金だらいが降ってくる、解説者に直撃)
「(イデッ!だから金だらいは止めろって!古いから!どう考えたってこれはお前の趣味だろうが、違うって言うな!絶対に――――)」
(解説者、またしても闇に向かって口論)
(――――――――――――――――数分経過)
「ハァ・・・・ハァ・・・・・・・続きまして、各町の特色と、いくつかの組織の紹介に移らせていただきます」
「まず、「ホーリィライト」、ここは大陸一番の都市と言うだけあって大陸でも一番魔導技術が発達していて、全体的に白を基調とした高層建築物が建ち並んでいます」
「次に、「サハグラス」、ここには大陸の中でも公式に認められている生命を崇める宗教「聖マナ教」の本拠地があり、その中にあるサハグラス大聖堂は毎年たくさんの巡礼者が訪れます」
「さらに、「アウスレオルス」、通称「アウルス」ここは学園都市と呼ばれるほど巨大な学校があり、ここでは様々な人員の養成をしており、ここで修行した後ホーリィライトに行き色々な仕事に就く人が多いです」
「最後に、「オルトナ」、ここには、大陸中の都市の食料の九割を生産すると言われるほどの巨大な農場があります、ちなみにこの世界での主食は小麦です」
「これで各都市、地方の簡単な説明は終わりです、続いてこの世界に存在するふたつの重要な組織について説明します」
「ひとつは、「サンドリーズギルド」、この組織は全ての町や村に最低でもひとつは窓口が存在し、種々様々な依頼、任務、厄介事を受け持つ「何でも屋」です、この組織に入るためにはいくつかの試験をパスする必要があって、個人もしくはチーム単位でA〜Eのランクに分類されます」
「次に、「ダークマター」、これは、「聖マナ教」に反対する邪宗教です、魔こそが世界の全てであり、それを使役する魔族こそが本来世界の王であるとし、魔王を崇拝する狂信者集団です、この組織は大陸中で暗躍し、暗殺や誘拐等の様々な犯罪を引き起こしているとされます」
「他にも、「鍛冶師組合」(BG)「商業振興会」(CAST)なんてのがありますが、この辺はもう以下略です、作者もまったく・・・・・・・作品ができあがってない内からよくこんな事やりますね、ただのバカです、狂ってます、もはや救いようg――――」
(解説者の頭上に金だらい、しかし解説者回避)
(直後回避した先に一升瓶(中身入り)が降ってくる、解説者に直撃)
「(ぎゃああああああああああああああああああああああああああ――――!!!!!!)」
(解説者悶絶する)
「(テ、テメェ殺す気かコラァ!!冗談もたいがいにしろって、いや、ごめんなさい一升瓶は止めて、もう止めて、死ぬ!マヂで死ぬから!!いや、そもそも物を降らせるのを――――――)」
(解説者、延々と闇に向かって会話)
(―――――――――――――――――――――――――数分経過・・・・・)
「うう・・・・頭痛い・・・・・・・・・・・と、とにかく、これ以上やったら私が死にそうなので、このぐらいの解説で十分だと思いますから、そろそろ解説を終了させていただきます」
「もしここまで、ちゃんと呼んでくれた方がいらっしゃいましたら本当にありがとうございます、お疲れ様でした」
「ちなみに、私は本編中でもどこかで出てくるキャラですので、暇があったら当ててみてください、賞品は出ません」
(ローブの男が立ち去りかけて、急に足を止める)
「そういえば、忘れていましたが、この世界には題名でも大陸の名前でも国の名前でもない、「世界」そのものの名前がありましてね―――
『終末の砦 アースガルド』
―――それがこの世界の名前です」
「それでは、『終末を』始めましょう」
(男が立ち去る、画面ブラックアウト。)
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■280
/ ResNo.6)
ツクラレシセカイ(シーン2-1)
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□投稿者/ パース
-(2006/06/04(Sun) 12:21:19)
シーン2「依頼」
大陸第三の都市「アウスレオルス」。
通称「アウルスシティー」または単純に「シティー」
その昔、「冒険王アウルス」が暗黒大陸より持ち帰った財宝で町を作り、そこに人が住み始めたのが始まりとされる。
人口は20万人ほどで、休日平日問わず繁華街は人々が賑わいを見せている。
冒険王にあやかってかこの町では「探求」することこそ最高の美徳とされる、そのため、この町には他の都市には見られない特徴がある、それが
「アウスレオルス総合技術学校」
この学校では普通の教育機関だけでなく、戦闘技術や魔法技術、演劇や芸術までありとあらゆる種類の物事を学び研究することができ、様々な人員の養成に活躍している。
◆ ◇ ◆
様々な物を学ぶことが出来るとは言っても、全員が全員それら全てを学ぼうとするわけがないのでここでは一般的な授業風景を軽く紹介しよう。
一時限目、歴史社会
ここではその人の選択教科にもよるが、大陸の歴史や現在の各都市の政治、経済なんかを勉強する。
二時限目、言語
ここではこの大陸で用いられる言語を考察したり、本を読んだりする(授業をまともに受ける人は少ない)。
三時限目、魔法理論
この授業では、如何にして魔法が使われるのか、世界を構成するマナとは何なのかなど、とても複雑な内容をやったり、魔法を使うための基本要項を学んだりする。
四時限目、魔法実践
言葉通り、魔法を実際に使う授業である、解説不要。
昼休みを挟んで五時限目、基礎体力訓練
次の戦闘訓練のために必要な体力を付けるための訓練である。
六時限目、基本戦闘訓練
ここでは、各生徒ごとに様々な戦闘訓練を行う(エルリスの場合は槍使いの講師から教えられる)
これらは、この学校に通う大抵の生徒が受けるひどく一般的な授業内容であり、たまにいる特殊な生徒はこれにあてはまらない(例えば丸一日全てを戦闘訓練に費やす者もいれば、一日中研究練に引き籠もり、マナ変換や物質制作の研究に全てを注ぐ変人もいる)
そして放課後―――
◆ ◇ ◆
「―――ふぅ、今日はきつかったぁ・・・」
エルリスは午後の戦闘訓練でその日の分の講習を全て終え、帰路につこうとしていた。
(んーあの後ろ姿は・・・ミコトだ)
そしてその帰り道、ミコトを見かけたのだった。
「ミコト〜」
「ん?ああ、エルリス」
ミコトに追いつき、隣を歩きながら話しかける。
「ミコト、今日はどうしたの、やけに帰るのが早いね」
「んークライスから頼み事されてて、ちょっと仕事の手伝いに」
「え?なにそれ、聞いてないよ」
「クライスから聞いてないの?」
「うん」
ミコトが少し考えるような動作のあと続ける。
「隠すほどの事じゃないと思うから話すけど、クライスのところに盗賊退治の依頼が来たから、それを手伝いに行くわけ」
「うん、それで?」
「それだけ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「もうちょっと・・・なんか無いの?」
「なんで?」
「なんでって・・・・」
その後ミコトのやたらと要約された話を聞いていると、どうやらこういう事らしい。
昨日、クライスが所属するギルド「サンドリーズギルド」(ギルドってのは、早い話が何でも屋のことだ)に依頼が届いたらしい、内容は「最近アウルスシティーの西にあるコルクス砦に盗賊が住み着き、近隣の村々を荒らして回っているので、これを退治して欲しい」とのこと。
この依頼は、ギルド内の複数のチームに依頼された物らしく、クライスの他にも、いくつかのチームが参加するらしい。
ミコトは最近刀術の試験を軽くパスして、暇だから何かないか、と言ったらちょうどこの依頼が届いたからついて行くことにした、とのこと。
「ミコト、そんないい加減な理由でいいの?」
「いいんじゃない?」
(いいのかなぁ・・・・・)
「それで、エルリスはどうする?」
「え、どうするって何を?」
「だから、一緒に行くのか、行かないのかって話」
「えーと・・・どうしよう」
(クライスが教えてくれなかったってのが気になるし、うーん・・・・・)
「とりあえず、行くだけいってみようかな」
「よし、ならこっちだ」
結局ミコトについて行くことにした。
◆ ◇ ◆
繁華街へ歩いていくエルリスとミコトの姿をジッと見つめる者がいた。
(―――見つけた)
そいつは、ローブをまとい、その上からフードを被って顔を半分ほど隠しているが、隠しきれないほどの長く赤い髪がローブから溢れていた。
そいつはエルリス達から付かず離れずの一定距離を保ちながら二人の様子を見続けていた。
(エルリス・ハーネット、ミヤセ・ミコト、間違いない・・・)
(この町についてまだ間もないのに、こんなに早く見つけることが出来るなんて)
(接触するべきかしら・・・・いや、まだ早いわね)
(一旦、報告のために戻るべきかしら・・・・でも・・・・)
(二人の状態を確認しないことには何とも言えないわね)
そいつはエルリス達を監視しながら思考する。
しばらくの間、歩き続けていると。
いきなりミコトが後ろを振り返った。
(気付かれた!?くっ!)
そいつは、すぐさまその場から身を翻して路地裏へと消えていった。
◆ ◇ ◆
「どうしたの?」
いきなり後ろを振り返ったミコトに驚いたエルリスが尋ねる。
「いや、何でもない」
ミコトは何でもない風に返す。
「ホントに?いきなり後ろを見るから、びっくりするじゃない」
「ああ、すまなかった、少し気になったことがあってな」
「何?」
「いや、ホントに何でもなかった」
「そう、ならいいんだけど」
そして二人はまた歩き出す。
(今の・・・・赤い髪の・・・・男?・・・いや、あの背格好は女か・・・・誰だ?記憶にはないが・・・危害を加えるつもりは無いみたいだから、放っておいてもいいが、しかしどこかで見たような・・・・?)
ミコトは一人考える。
◆ ◇ ◆
路地裏に飛び込んだそいつは、二人が追ってこないことを悟るとその場に座り込んだ。
(ハァ・・・・・全く、ミコト・・・・あなたはホントに・・・・・昔から、勘がいいというか・・・気が利くというか・・・)
(でも、これで確認する手間が省けたわね、私の姿を見ても何も思わないんだったら・・・)
(まずは、一旦報告のために帰りましょう、接触はその後でもいいわね)
そう結論づけると、そいつはフードとローブを脱ぎ、その場に広げた、そのローブの裏面には、緻密な文字で魔法陣が書き留められていたのだ。
そいつはそのローブの文字を軽くなぞり、魔法陣を発動するために呪文詠唱を開始する。
大抵の人間なら魔法を発動する際には呪文詠唱のため『精神集中』しなければならないのだが、それ抜きで魔法を発動させた、これは並大抵の集中力では出来ないことである。
「――――各種要項は省略、座標軸は指定されたモノを使用、『転移魔法陣』発動
―――発動者、ユナ・アレイヤ」
次の瞬間あたりはまばゆい光が立ちこめ、一瞬の後、そいつの姿は消えていた。
路地裏には、文字の消えた汚いローブだけが風に飛ばされて音を立てていた。
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■281
/ ResNo.7)
ツクラレシセカイ(シーン2-2)
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□投稿者/ パース
-(2006/06/10(Sat) 12:01:14)
――サンドリーズギルドアウルスエリア本部――
サンドリーズギルドは大陸中の都市に存在するが、その中でも各地域の首都にはエリアごとに本部が設置されている。
その中のアウルスエリア本部にエルリスとミコトは到着したのだった。
アウルスエリアの本部は、全部で5階建ての砦のような作りをしている、1階では受付があり、ここで仕事の依頼や、任務完了の報告などをすることが出来る。
2階以降はアウルスエリアを本拠地としているチームの事務所などが置いてある。
エルリスとミコトの二人は、サンドリーズギルドにたどり着くと真っ直ぐ受付に向かい、そこで用件を伝える、しばらく待つと本部内へ入ってもいいという意味の許可証が発行される、ギルドに所属しているメンバー以外はこれがないと内部に入ることは出来ない。
◆ ◇ ◆
エルリスは許可証を発行して貰うと、クライスの事務所に向かうために階段へと向かい、階段の前で見知った顔と出会った。
「あれ、グランツさんじゃないですか」
エルリスが声をかけた大男が返事を返す。
「ん、おう!エルリスじゃないか、久しぶりだな!ガハハハハ!元気か」
「あ、はい、元気です、それに昨日会ったばっかりです」
「ん?そうじゃったか、グハハ!」
彼、グランツ――グランツ・ライアガストは、70歳近くとは思えないほどの健康的な肉体をしていて、いつ見ても変わらない黒い鎧をまとい、仕事にも戦闘にも使える巨大な金槌を背中に付けていて、笑うたびに揺れる口元の髭のせいかなんというか山男のような見た目をしている。
彼はクライスのチーム所属の鍛冶師である、武器の作成や修理等を一手に引き受けている。(戦闘員兼補助要員といったところだ)
「エルリス、お主だけか?ミコトが来ると聞いていたんじゃがな!」
彼は口元の髭を揺らしながら意味もなく豪快に笑う(この笑い方はむしろ山賊か)。
「相変わらず元気そうじゃないか、グランツのじーさん」
「おおっ!ミコトもいるではないか!グハハ、若い娘が二人!ガッハッハ、こりゃ縁起がいい!!」
グランツがミコトに近づいていき、ミコトの笑顔が一瞬で引きつる。
見るとグランツがミコトのおしりを触っていた。
「グハハハ!いい尻をしとるのう」
「何しやがるこのスケベじじい!!!」
ミコトがグランツの腕を瞬く間に捻り上げる。
「うぐあ!!冗談じゃ、ミコト、冗談じゃから離し・・・イデデデデ!年寄りはもっと優しく扱うもんじゃぞ!!」
「まったく・・・・このエロオヤジめ・・・・・ほんっとに変わらないね・・・・」
「ミコト〜やりすぎないでね〜」
この二人は割と仲が悪い、というよりミコトが一方的にグランツを警戒している、なぜならグランツは時々若い女の子のおしりを触ったりするからだ(エルリスやセリスもたまに触られてそのたびにクライスかミコトが鉄拳制裁を喰らわせている)ちなみにエルリスはそれほどグランツのことが苦手ではない。
(おしりを触る癖さえなければいいお爺さんなんだけどね・・・・)
エルリスは苦笑いをしながらいまだに腕を捻り上げられているグランツを眺める、そしてふと思ったことを口にする。
「そういえばグランツさんはここに何しに?」
「おう、そうじゃったクライスからミコトがそろそろくる頃だと聞いていてな、迎えに来たんじゃった、ガハハハハ・・・・・・・・・ミコトや、そろそろ離してくれんかのう、腕が痺れてきたんじゃが」
「このエロボケじじいめ・・・・まったく・・・・・今度やったら許さないよ」
今まで何度も言ったセリフを言ってミコトがグランツの腕を放す。
「グハハハハ、ミコトも相変わらずのようじゃな!若い娘は活きがいいわい!ガッハッハ!クライスのところに案内するぞ、付いてこい!グハハ」
まんま山賊のようなことをいいながらグランツが歩き出す。
「相変わらず元気なお爺さんだね」
「あのじいさんだけは何度やっても苦手だ・・・・・」
エルリスはミコトの疲れた声を聞きながら歩き出し、ミコトものろのろと付いてきた、そうしてエルリス達はグランツに案内されてクライスの事務所へと向かったのだった。
◆ ◇ ◆
ちょっとここでサンドリーズギルドでのいくつかのシステムについて説明してみよう。
ギルドに参加するためにはある程度の戦闘能力が必要で、いくつかの試験をパスした者がギルドに参加できる(ギルドに参加した者達は総じて「傭兵」と呼ばれ、特に個人および少人数で活動する者のことを「ハンター」と呼ぶ)
ギルドでは各傭兵ごとに任務達成率や、高難易度任務達成などによってA〜Eランクに分類される、チームを開いた場合は、その集団に所属する傭兵のランクの平均によってそのチームのランクが決定される、ちなみにチーム(パーティーでもグループでも団でも呼び名は様々だが)を開くためには5人以上がその集団に所属していること、設置にかなりのお金がかかることなどいくつか条件がある。
とはいっても、当然のことながら、人数が多い方が任務遂行には楽であることや上位ランクチームにはギルド内に事務所が設置できることなどチームでいる方が得であることは言うまでもない。
ギルドではランク分けで上位に入るチーム(A〜Bまで)にはそれぞれに事務所を設置しても良いことになっている。
クライスが開くチーム「ノーザンライト」はメンバー数が最低限度の5人というかなり小さなチームだが、文句なしのAランクに分類されている。
◆ ◇ ◆
グランツに案内されたエルリス達は、そのまま階段を上がり、4階へと向かった。
そして、クライスのというより「ノーザンライト」の事務所に到着した。
「ガハハ、さぁ、入れ入れ」
「お邪魔しまーす」
「邪魔するよー」
事務所の中は割とこざっぱりした雰囲気で、ソファーがひとつありテーブルを挟んで向かい合う形にもうひとつ置いてあり、その向こう側にデスクがひとつ(書類や雑誌などの様々なモノがごちゃごちゃになっている)、その他は左側の壁に本棚がひとつ置いてあるだけだ、それから奥の方に扉がひとつあった。
「あれ・・・・クライスは?」
「む、奴なら奥じゃろうて」
そう言うとグランツはズカズカと奥の扉を開けて入っていってしまった。
エルリスは慌ててそれを追う。
「―――うわっ・・・・」
扉をくぐると、今度はやたらと生活臭溢れる空間だった。
先ほどの部屋より広い部屋で、左側にキッチンが付いていて、食器棚などがあった、部屋の真ん中には先ほどのより大きなテーブルがひとつとソファーがふたつ(そのうちひとつにクライスが座っている)、先ほどのよりは遥かに整理整頓されたデスクがふたつ、奥の壁際には本棚が三つに窓がひとつ、部屋の隅に目をやると、グランツの私物と思われる小型のハンマーや石の塊が置いてあった。
「なんか・・・・雰囲気違いすぎない・・・?」
「うむ、そのような細かいことはあまり気にするでない」
「はぁ・・・・・・・・・・」
細かいことなのかなぁ・・・とエルリスが考えてるうちに、グランツはクライスのところまで歩いていった。
「おう!クライス!エルリスとミコトを迎えてきたぞい!」
「ん、ああ、どうも・・・・・って何でエルリスが?」
そこでようやくクライスがこっちを振り返る。
「や、やっほ〜」
エルリスがちょっと抜けた挨拶をする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
それを見たクライスはちょっと頭を抱えてから、右手を挙げて固まっているエルリスを無視して、ミコトに言う。
「ミコト、何でエルリスを連れてきたんだ?」
「ん〜?別に隠すほどの事じゃないだろう」
「まぁ確かにそうだが・・・・・連れてきてしまったモノは仕方ないか・・・・」
「むー何よ、私が来ちゃまずいことでもあるわけ?」
エルリスがむくれる
「そう言う訳じゃないんだが、今度の依頼エルリスとセリスには危険すぎる任務だったからな」
「危険すぎるって、ただの盗賊退治じゃないの?」
「そういえばそうだね、エルリスに黙ってるほどのことだったのかい?」
少なくとも、エルリスは学校で普通以上の戦闘訓練は受けている、普通の盗賊程度なら今のエルリスでも十分相手に出来るはずだ。
「あのな、普通の盗賊退治がAランクまで上がってくると思うか?」
「え・・・・・?」
そういえば、確かにそうだ、Aランクといえばギルドの顔、いわば看板役者だ、そんなかなりの腕を持つ者達を、「ただの」盗賊退治にわざわざ駆り出す必要は無い。
「えーと・・・・それじゃあ・・・・どういうわけ?」
「わかったわかった、今からちゃんと説明してやるから、エルリスもミコトもまず座れ」
クライスに促されて、二人はクライスに向かい合うようにして、座ると、クライスの少し長い話が始まった。
◆ ◇ ◆
クライスの話をまとめると、次のような話らしい(ミコトよりはわかりやすかった)。
まず、アウルスのずっと西の方にあるコルクス砦に盗賊が住み着いて近隣の村々を荒らし回っていて、村の人から依頼が届いたという、ここまでは、ミコトから聞いた話だ。
だが、どうやら話はそれだけではなかったらしい、近隣の村々から依頼を受けたギルドは初めDランクやEランクの傭兵でも十分任務を達成できるだろうと判断し、EランクとDランク、それからCランクの傭兵チームを複数投入した。
しかし結果は惨敗だった、50名以上のE~Cランクの傭兵を投入した作戦だったがほとんどが全滅、わずかに数名帰還した者達の話によると、盗賊は全部で500人ほど、盗賊達の頭、「チカブム」と呼ばれる男が異常な強さを誇ることなどが知らされた。
この大失態に、サンドリーズギルドは自らの威信をかけてA~Cランクの上位ランクの傭兵達をコルクス砦の盗賊討伐戦に参加させることになった、と言うことらしい。
◆ ◇ ◆
「はー・・・・・・・」
クライスの話を聞き終えたエルリスはなかなか複雑な話に、軽くため息をつく。
「サンドリーズギルドもメンツってモンがあるからな、次は確実に盗賊を叩き潰すつもりだ、噂じゃ100人以上の傭兵達を使うとか言われてる、報酬もかなり高額だそうだ」
「へー・・・・・・大変だねぇ」
ミコトが意味のない感想を漏らす。
「それで、エルリス、お前はどうしたい?参加したいか、したくないか」
クライスの問いにエルリスは
「行くよ」
そうはっきりと答えた。
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■282
/ ResNo.8)
ツクラレシセカイ(シーン2-3)
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□投稿者/ パース
-(2006/06/10(Sat) 17:31:45)
――クルコス砦からいくぶん離れた森の中――
森の中には50名近くの人間が息を潜めていた。
戦士風の格好をした者が30名ほど、割と軽装の者が10名ほど、それ以外は思い思いの服装をした者達が残り10名ほど、彼らはクルコス砦の盗賊討伐戦に参加を志願した者達である。
そして、その中にクライスの他、グランツ、ミコト、そしてエルリスはいた。
◆ ◇ ◆
――「行くよ」――
エルリスは自分の意志でそう言った。
別に怖くないわけじゃない、それに盗賊相手に簡単に勝てると思うほど、強いわけでも、自惚れているわけでもない。
これはクライスが仕事としてやっていることであって、自分がついて行かなきゃならないなんて事はないし、グランツがここにいるのは仕事仲間だからで、ミコトがここにいるのは、クライスが認めるほどの腕があるからだ。
ようするに、自分がここにいる必要はない。
でも、クライスが自分に黙っていたこと、それが強く心に引っ掛かった。
(なんていうか、私のことを心配してくれるのは嬉しいけど、でもやっぱりそれは、クライスが私のことを守らなきゃならないほど弱いと思ってるって事だから)
だから、「行くよ」と、そうはっきり言った。
(どうせなら、認めて欲しいし、ね)
◆ ◇ ◆
「そろそろ、時間だ、みんな準備してくれ」
その声を聞き、エルリスはふと我に返る。
声の主は、集団の一番前にいる男、今回の討伐戦に参加した上級チームのひとつ、「グレアム騎士団」のマスター、グレアム・バーストンである。
グレアム騎士団は、メンバー全員が同じ鎧と剣を装備した統一感溢れるグループで、チーム自体のランクはBランクだが、参加メンバー数は30人と今回参加したチームの中で最も多く、また団長のグレアム本人を初めとして個人ランクが高めの上級戦士が多数参加しているため、暫定的にではあるが50人ほどいる集団のチームリーダーをグレアムがやっている。
「よし、Bチームが砦に攻撃を開始した、俺たちも行動開始するぞ」
グレアムがそう言い、そこにいた50人ほどが動き出す。
今回の盗賊討伐戦の方法はこうだ。
まず事前に調査した結果によると、砦の盗賊達はある周期ごとにどこかの村を略奪するために200人ほどが砦の外に出る、この200人にはCチーム(20人ほど)が大規模な罠を仕掛けて、一網打尽にする予定。
そして、砦に残った300人に対しては、魔法使いでのみで構成されたBチーム(30人ほど)が最初に砦を攻撃し、半数の盗賊を砦の外におびき出し、防御が甘くなったところを残るAチーム(50人ほど)で一気に攻め落とす、というものだった。
そして、今エルリスがいるのが、そのAチームである。
◆ ◇ ◆
Aチームは森の中をゆっくりと、砦の裏側に回り込むようにして、進んでいく。
エルリスは、Aチームの人たちの様子を見ていた。
構成人数は全部で47人、まずグレアム騎士団所属の騎士が30人、それからAランクチームの「グレイブラバーズ」所属の戦士が10人、クライス率いる「ノーザンライト」からグランツ、ミコト、エルリスの4人、(といっても正規メンバーはグランツとクライスのみだが)最後に、どこにも所属していないと思われるハンターが3人ほど。
「ねぇ、クライス」
「なんだ?」
「あの3人について、何か知ってる?」
「いや、特に見覚えはないが、どうかしたか」
「別に、少し興味があったから聞いてみただけ」
それとなくその3人を観察する。
一人は集団からかなり離れた位置で一人たたずむ紫色のローブを着て顔を隠している人物、剣などの武器を持っているようでもないし、杖を持っているわけでもないので魔法使いでもなさそだ、とりあえず彼(彼女?)が何者でどのような戦い方をするのかは不明である。
残りの二人は、集団の真ん中ほど、騎士団の後ろでエルリス達よりは前にいる、ずいぶん目を引く格好をした男女である。
女の方は上半身から腰までを覆う鎧を着ているものの、やたらと露出が多く、肩や足が見えていて、胸とか腰をかなり強調している。
(何て言うか、グラマラス美女って感じ?男ってああいうのに興奮するのかしら・・・・・でもあれって鎧を着てる意味が無いような気がするんですけど・・・・・)
それから、その女の隣を歩く男の方、こちらの方は普通の鎧を着ているのだが、金色の髪の毛をしているので、やはり目立つ。
そのままその男の方を眺めていると、偶然その金髪男と目が合った、そして金髪男は
フッと微笑んだ(――うわ、なんか腹立つくらいカッコイイんですけど)。
金髪男はその後しばらく隣のグラマー美女と会話したあと、エルリス達の方へ近づいてきた。
「なぁ、あんた達ってノーザンライトっていうチームだよな?」
けっこう雑な喋り方ででエルリス達に話しかけてきた。
「ああ、そうだが、あんたらは?」
クライスが普通に返す。
「ああ、すまん、俺はアレス・リードロード、アレスって呼ばれてる、んでこっちがリリア・ティルミット」
隣のグラマー美女が軽く会釈をする。
「それで、そのアレスさんとリリアさんが私達に何のようで?」
ミコトが尋ねる。
「ああ、そんなに時間もないんで単刀直入に言うが、早い話俺達と一緒に行動しないか?」
「なんのために?」
アレスが少し考える動作をしたあと、答える。
「俺達は今回の仕事、報酬目当てで参加したんだが、見ての通り、二人だけのチームだからな、このまま砦に向かっても殺してくださいと言ってるようなもんだ、だからどこか他のところについて行こうと思っていたんだが・・・・」
ここでアレスが周りを見回してから、肩をすくめた
「思いの外大人数のチームが多くてな、30人のグループと10人のグループだ、そこに入れて貰ったところで俺達は邪魔にしかならない、もう一人、紫ローブの奴にも少し話をしてみたが、たらと無口な奴でな、結局ここしか入れそうなところがなかったんだ、それでさ、一緒に、というか共同作業といきませんかね、一人より二人っていうだろ?それなりに剣の腕はあるつもりだぜ」
ここまで一気にアレスがまくし立てた。
クライスは少し考えたあと仲間に聞く。
「まぁ、人数が少ないのはこっちも同じだし、俺は別に気にしないが、みんなはどうだ?」
「私も別に、気にしないけど」
「あたしもかまわないよ」
「仲間が増えることは良い事じゃ」
「だ、そうだ、そっれじゃしばらくの間よろしくな」
そんな感じで、二人ほど一緒に戦う仲間が増えたのだった。
◆ ◇ ◆
――クルコス砦の裏側――
そこに、移動を終えたエルリス達はいた。
「みんな、準備は良いか?今Bチームが敵をおびき出すためにわざと撤退を開始した、もうすぐ俺達の出番だ」
グレアムが全員に声をかける。
「エルリス、あんまり無茶はするなよ」
クライスが緊張しているエルリスに声をかけた。
「うん、やれるだけやってみるよ」
「よし」
そうして、エルリスにとって初めての大規模戦闘は幕を開けた。
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■286
/ ResNo.9)
ツクラレシセカイ(シーン2-4)
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□投稿者/ パース
-(2006/06/12(Mon) 23:41:14)
2006/06/16(Fri) 07:01:32 編集(投稿者)
――コルクス砦裏門――
裏門のすぐ側にエルリス他Bチーム47人はいた。
突入開始までほんの数分、といった時にクライスが言った
「砦に突入する前に、絶対にしておかなければならない事がある」
「なに?」
「砦の内部では戦闘が続くだろう、そういうときはしっかりと陣形を組んでいた方が良い、四人の時はそれほど気にする必要はないと思っていたが、六人になるとさすがに、考えないわけにはいかなくなった、それで訊くんだが、アレス、リリア、お前達は何が出来る?」
「俺は、それなりに剣を使えるぜ、とは言っても・・・・アンタと、アンタにはたぶん勝てないだろうが、な」
そういってアレスが指さしたのは、クライスとミコトだった。
「なぜ、俺とミコトには勝てないと思うんだ?」
「それは、リリアに聞いてくれ、俺からは何とも言えねー」
「じゃあ、リリア、あんたは何が出来るんだ?」
「・・・・・・・・・」
しかしリリアは口を閉ざしたままだった。
「すまねぇ、こいつけっこう無口だからよ、やっぱり代わりに俺が言うわ、こいつはな―――」
アレスがリリアのことを話そうとした直前。
「アレス!勝手に人の説明を開始するんじゃないよ!!」
リリアの雰囲気が一変して、いきなりアレスを蹴飛ばした、そして目の色が変わっていた、いや、これは形容詞的な意味ではなくて、本当に『碧色』の目が『黒色』になっていた。
唖然としているエルリス達に向かってリリアは、
「すまないね、この馬鹿が手間をかけちまって、アタイはリリア・ティルミット、これは知ってるっけ?アタイが持ってるのは碧色の目、『覧眼』って言うんだ、剣の腕前はアタイの方が上だよ」
呆然としているエルリス達を無視して、リリアは次々と聞いてもいないことを喋っている。
「表の人格はね、『覧眼』使えるんだけどそれ以外はからっきしだからね、アタイがこういう服とか着て前に出てやんないと何も出来ないって言う根暗でさー!良い体してるんだからもったいないったらありゃしない―――」
「この服って言えばさー、この前酒場にいたあのエロオヤジ、そんな服着て誘ってるんだろ?とか言いやがって、ふざけんなっての、もちろんその日の内にボコボコにして転がしてやったけどね、その時の顔ったらさ―――」
「いや、イヤイヤイヤ、ちょっと待て、ちょっと待て!」
ここでようやくクライスが止めに入る。
「なんだい?別に殺したわけじゃないんだからいいじゃないか!」
「そういうことを聞いてるんじゃない!アレス!説明してくれ!!」
さっきリリアに蹴飛ばされたアレスを見ると、やっぱりか・・・・・といった感じの顔をして寝転がっていた。
「時間がないから、手短に言っちゃっていいか?」
「頼む」
「リリアはな、二重人格の特殊能力者で、表の人格の時は『覧眼』の使い手でそれ以外は何も出来ない極度の人見知り、裏の人格の時はそれなりの剣の使い手でもあるが、それ以外はただのお喋りだ」
「『覧眼』ってのは何だ?」
「『相手がどの程度強いかわかる眼』ってところだ」
「それでさっきは俺とミコトには勝てないだろうって言ったのか」
「そー言うこと」
クライスがわかったようなわからないような曖昧な顔をしているといきなり
「私が・・・・・先ほど見た感じでは・・・・・・」
「うわっ!」
さっきまでのハイテンションからいきなり氷点下の声に変わったリリアが声を出した、眼が『碧色』だ、いつの間にかまた性格が『入れ替わって』いたらしい。
「この中で・・・・今の状態で・・・・・・一番強いのがクライスさん・・・・・あなたでした・・・・・それから・・・・ミコトさん・・・・・・その次にアレス・・・・・・そして私・・・・・・次に・・・・・そこの髭の人・・・・・・・最後が・・・・・・あなたでした・・・・」
そういってリリアはエルリスを指さした。
「わ・・・・私!?」
(見も知らない相手からいきなり一番弱いって言われるなんて・・・・・)
内心かなりのショックを受けていたエルリスだったが、それを無視してリリアは続ける。
「この中・・・・・ここにいる47人の中で・・・・・今の状態でもクライスさんが・・・・一番強い・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・クライスさん・・・・・あなたが・・・・・・本気を出したら・・・・・・・・・・・・」
リリアがその先を言おうとしたとき
「おい!!作戦開始の時間だぞ!あんたら早くしてくれ!!」
グレアムが大声で文句を言ってきた。
「あ、ああ!すまない!話はおしまいだ、出発するぞ、隊列は走りながら言う!」
クライスがそう言ったので、話はお終いだった。
――結局、リリアがその先なんと言おうとしたのかは、わからなかった。
◆ ◇ ◆
全員が息を潜めながら、裏門の前に走り出す。
――ドン、ズドォン・・・・
――ズバーン・・・・・
遠方からBチームが陽動として放っているであろう魔法による破壊音が響いてくる、裏門の前には既に誰もいない、おそらく先ほどから続いている魔法攻撃のためにどこかへ駆り出されているのだろう。
集団の先頭にいるグレアムが全員に向かって、突入の開始を告げる。
「よし、いくぞ!!」
グレアムの号令に彼の部下である30人の騎士達が一斉に砦への突入を開始する。
エルリス達もそれに遅れないよう走り出す。
まず、グレアムの部下の騎士達が数人裏門から突入する、それに続いてグレアムと残りの騎士達が十数人、さらにその後に続いて、エルリス達が扉をくぐり抜ける。
ちなみに、隊列は戦闘が開始される直前に決めた順番で、クライスを先頭にして、グランツ、真ん中にリリアを挟んで右側にエルリス、左側にアレス、そして最後にミコトの順番である。
裏門をくぐり抜けると、既にグレアム以下多数の騎士達が、慌てふためく十人前後の盗賊と戦っていた、彼らはおそらくBチームの魔法攻撃に恐れをなして逃げようとしていた者達だろう、まともな装備さえしていなかった。
そしてここは圧倒的な人数差、瞬く間に十人ほどいた盗賊達は地に伏していた。
ここでグレアムが振り返り、他の仲間達に呼びかける。
「よし、被害はないな・・・・・・ここから先は乱戦も予想される、何人かに別れてしまった場合は各自の判断で動け!無理はするなよ!」
それだけ言うと、彼は砦の内部へ一気に突撃していった、そしてそれを追って数人の騎士達が駆けだしていく。
それを見ながら、ミコトがぼやく。
「各自の判断で動けって、ずいぶんいい加減な命令ね・・・・」
「グレアム騎士団は、なんというか猪突猛進する奴が多い・・・・・というよりリーダーが他の誰よりも先頭を突っ切っていくタイプだからな、それゆえに人望はあるが、あまり統率力に期待は出来ない」
「そんなこと言ってる間に、みんなに置いてかれちゃったけど、いいの?」
周りを見ると、いつの間にか「グレイブラバーズ」の10人もいなくなっていた(紫ローブはエルリス達の後方にたたずんでいたが)。
「ああ、問題はない、今回は盗賊の頭目を倒せばボーナスが出るそうだからな、みんなあせってるんだろう、だがあせっても周りが見えなくなるだけだ、それよりも―――。」
いきなりクライスが腰のショートソードを抜きざまに投げ放つ。
「うぎゃあ!」
見ると、先ほど騎士達に叩きのめされた盗賊達の中で割と無傷な奴が一人、そこから這い出して逃げようとしていた、そしてそのちょうどその鼻先にショートソードが突き刺さったのだ。
「こういう方法を取った方が楽だろうな」
そう言ってクライスは腰から先ほどのショートソードとは別の、大剣と言っても良いほど巨大なロングソードを抜き放つ。
「こういう盗賊砦には、かなりの数の抜け穴や抜け道、隠し通路があるもんだろう」
その長剣を盗賊の鼻先に突き付けてにっこり営業スマイルで一言、
「さっさと道を教えろ」
なんというか、クライスの顔は、笑顔とは思えないほど、めちゃくちゃ怖かった。
◆ ◇ ◆
砦の内部を走り抜ける一団があった、Aランクチーム「グレイブラバーズ」の面々である。
彼らは『墓泥棒(Grave robbers)』の名の通り、決して正面から攻めることはせず、他の者達を殺し合わせ、その死体からなにもかもを奪う、そういうやり方で勝ち残ってきた連中だった。
彼らは、他の者が苦労して手に入れた者を横から奪い取り、楽をして利益を得る、そうやって生き延びてきた、いつもどおりに戦いは他の者に任せ、自分たちは美味しいところを奪うべく、砦にある宝物庫を探索していた、それが、今回ばかりは全ての間違いだったと気付きもせずに。
「グレイブラバーズ」のマスター、ウィリアム・リビトーはこれまでの勘と経験から、いくつかの小通路を通り、地下へとたどり着いていた。
彼は確信していた。
(―――間違いなく、宝物庫はここにあるな)
何となくだが、そんな宝の「臭い」がするのだ、リビトーは的確に宝の臭いを感じ取ることが出来た、彼とその部下の十人は慎重に進み、罠を回避しながら、進む。
やがてひとつの扉の前にたどり着いた、巨大な鉄の扉、古めかしいいかにもといった感じの、風格漂う扉である。
―――ニヤリ
自然、笑みがこぼれる。
罠がないことを確認し、持ち前の鍵開け技術を使って扉を開け、宝物庫の中に入る、期待に胸をふくらませながら、そして―――
「最初に宝物庫を狙うたぁ、ずいぶんな趣味をお持ちのようだな、今回のお客さん方は」
確かにそこにはたくさんの金銀財宝があった、しかしそれらお宝の上に、一人の男が悠然と立っていた。
「貴様何者だ!?」
「おいおい、人んちの庭を散々荒らしておいて、しまいにゃ俺の財宝を奪おうとした奴らが、この俺様に向かって『何者だ』だとぉ?」
つまり、この目の前に悠然と構える男こそが、この盗賊団の頭目、
「貴様がチカブムか!」
「おうよぉ!この砦は俺様のモンだ、俺の目的は誰にも邪魔させねぇ・・・・邪魔する奴は、フハハハハハハハハ、皆殺しだ!」
そう言ってチカブムは宝の山から飛び降りる、しかし特に武器を持っている様子はない。
「ハッ、所詮はただの盗賊、素手で何をするつもりだ!」
リビトーと彼の部下数名は懐から投げナイフを取り出し、間をおかずに投げ放つ、それに対しチカブムが行った動作は、わずかに片腕を振るうのみ。
しかしそれだけで数本のナイフは全てはたき落とされた。
「くっ、こいつは我らだけで仕留めるぞ!Aランクの意地、見せてやれ!」
そう言ってリビトーは腰から長剣を抜き放つ、しかしチカブムは
「フハハハハハハ!なんだ、お前達はこの程度か、つまらん!」
そして、背後にあった金塊のひとつを投げ放つ、凄まじい速度で、だ。
「なっ!!!」
リビトーは危うく回避するが、すぐ後ろにいた部下の一人が金塊にぶち当たり―――
壁を突き破り通路を吹き飛んで、向こうの壁にぶち当たって止まった。
チカブムが放ったのは戦車砲でも爆弾でもない、ただの金塊だ。
「このバケモンが!仲間の仇だ!!」
そう言って手斧で斬りかかった部下の一人は、しかし
「フハハハ、そうだ、その調子でやって来い!」
そう叫んだチカブムに――
頭を掴み上げられて投げ上げられた、「大の大人」が、「数十メートル」、だ。
投げられた部下は、そのまま地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かない。
「くそっ!!全員で一斉に掛かれ!必ず殺すんだ!!!」
既に腰が引けて逃げだそうとしている部下に向かってそう言い放ち、自身も決死の覚悟で剣を構えて突進する。
「フハハハハハハ!!そろそろ時間だ、他の者達も相手をしなければならんのでな!我が愛槍『大殺陣』、貴様らの冥土の土産だ、取っておけ!!!」
そう言い放ち、両の手を組み合わせ、何かを呟いた瞬間――――
何もない空間から、巨大な槍『大殺陣』が現れた。
それを両手で構えたチカブムは、
「フハハハ、さらばだ愚か者どもよ!」
ただ一度、回転するように全力で振るった。
そうすると、チカブムは何もなかったかのように、槍を手放し、宝物庫から出て行った。
あとには、九つの死体、否、全て合わせれば九人分になるであろう分の粉々になった人間の死体だけが財宝とともに残された。
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