コードギアス 共犯のアキト
第九話「白き騎士VS黒き騎士」
シンジュクゲットーでの殲滅作戦の命が下って約30分。情勢は既に佳境へと向かいつつあった。
既にゲットー周囲は地上・地下問わず軍によって完全に封鎖されており、レジスタンスと住民は完全にゲットーに閉じ込められてしまった。
軍は徐々に包囲網を狭めていき、見つけたイレブンを片っ端から殺していく。僅かな抵抗こそあるもののそれは全体から見れば些細な反攻に過ぎなかった。
だがそんな中で、たった一つ問題があった。
G−1ベースの中央指揮所で前面に浮かぶ戦況スクリーンを睨みつけるクロヴィス。彼の目の前でまた一つブリタニア軍のサザーランドを示す光点が消滅した。
「ええいっ、何をやっている! たかがナイトメアの二機、さっさと落とせないのか!!」
「も、申し訳ありません殿下! しかし相手はあの黒い死神、一筋縄では……」
突如戦場に現れた一体のナイトメア。それがレジスタンスと協働し始めてから、被害は加速度的に増えている。戦闘ヘリや装甲車、戦車にとどまらずナイトメアに至っては少なくとも20機近くが撃破されているのだ。だがそれがあの『黒い死神』によるものだと聞けば、納得せざるを得ない。あの黒いナイトメアの正体については、本国からの情報で『エステバリス』というかつて存在した試作機がベースとなっている事は既に分かっていた。しかし旧式とは思えぬその戦闘力によって、開戦以来幾多もの被害を出しており、被害の総数は実に一個連隊にまで昇ると言われている。
しかし、それらの被害も旧日本軍との共同作戦や反抗勢力との協働によってもたらされたもの。たった二機を相手にこれだけの被害を出してしまえば、本国に何を言われるか分かったものではない。
「いかに強力なナイトメアといえども、物量に適うはずもない……包囲陣形を保ったまま距離を保て。各小隊にはオーガーを随伴させてアウトレンジから奴らを徹底的に叩いてやれ!」
軍人には任せてはおけぬと、クロヴィスが自らの手で指揮を取る。
しかし、これが後のシンジュクゲットー戦におけるブリタニア軍の敗北の序章だった。
「これで……3機目っ!」
ビルの屋上へと飛び出し、ファクトスフィアを展開していたサザーランドの顔にナックルガードで覆われた拳を叩き込む赤いグラスゴー。顔をつぶされたサザーランドはそのまま吹き飛ばされると、ビルの縁を飛び越し重力に従うままそのまま落下し、グシャリと潰れた。
「ハァッ、ハァッ……」
旧式のグラスゴーで最新鋭のナイトメアを立て続けに3機も倒すという多大な戦果を挙げたカレンだが、彼女の心に高揚感は無かった。
依然ブリタニア軍の虐殺は続き、住民の避難は遅々として進まない。加えてブリタニア軍も少なくない被害を出しているため、攻勢の勢いは益々加速している。
『大丈夫か?』
反対側のビルでまた1機サザーランドを潰した黒騎士の乗るナイトメア――エステバリスが振り返る。
これで黒騎士のナイトメア撃破スコアはカレンが知るだけで12機。最初に助けられた時の7機と合わせた数字で、あの後の10分足らずの戦闘でこれだけの戦果は純粋にスゴイとしかカレンは感じられなかった。自分の3機というスコアも黒騎士の援護と支援があったからこそで、単機ではここまでの戦果を挙げることは不可能だったに違いない。
それでもこの情勢を変えるには、依然厳しい状態であることには変わりないが。
「大丈夫!……といいたい所だけど、そろそろエナジーが心許ないかな」
『そうか、だが弱音を吐いてる暇は無さそうだ――――10時の方向にナイトメア2個小隊』
ビルの屋上からその方向を見ると、罅割れた道路上を8機のサザーランドとサザーランド・オーガーが隊列を組んで向かってきていた。被害の大きさに業を煮やしたのか、サザーランドの何機かには対ナイトメア用のキャノン砲を装備している機体もある。
既に相手はこちらの居場所を察知しているらしく、距離が近づくとサザーランドとオーガーがキャノン砲を此方に向けて発射する。しかしまだ距離はあったため、二人は落ち着いてそれを回避するが、外れたキャノン砲の一部がビルに直撃し、建物全体を揺らした。
『数が多い、一端後方に下がるぞ!』
「了解!」
崩落に巻き込まれては適わないと、二人はランドスピナーを駆使してビルから飛び降り、反対側の道へと逃亡する。
敵の小隊もそれは予測していたのか。進路を変更するとライフルやキャノン砲を撃ちながら追いかけてきた。アキトはエステバリスを反転させ、超人的な射撃能力を以ってラピッドライフルでキャノン砲の弾頭を打ち抜いて迎撃し、時折反撃も加えながら後退する。
そしてそんな最中にも関わらず、アキトの頭には疑念が浮かぶ。
(妙だ。あれだけの数の追手の中に砲戦もどきが1機だけ……?)
1個小隊に1機はいるはずのオーガーの姿が2個小隊の追撃部隊には1機しか無い。
アキトがまさかと思った瞬間、進路横のビルが突如爆発し、数多の瓦礫とビルの残骸がエステバリスとグラスゴーのちょうど中間地点へと降り注ぐ。反撃のために振り返っていたアキトのエステバリスは後退することを中断し、その場で瓦礫を避けることに注力する。対してカレンは瓦礫を避けながらそのまま直進し、崩落したビルからなんとか逃げることができた。
だが結果的に二人はビルの残骸を挟んで取り残されてしまった。
「分断させられたっ!?」
二人をまとめて倒すよりも1機ずつ確実に処理するほうが効率がよいと踏んだのだろう。パイロットの実力はともかく、機体性能に劣るグラスゴー単機を倒すならば確かにそれは有効だ。
恐らく先程ビルを破壊したのであろうオーガーが別のビルの影から姿を現し、その大口径の砲とミサイルポッドをカレンのグラスゴーへと向ける。後ろは残骸に阻まれ、左右への抜け場は倒壊したビルが建っているため存在しない。
(駄目っ、もう逃げられない!)
これまでかとあきらめ掛けたその時、通信スピーカーから黒騎士とは違う若い男と思われる声が飛び込んでくる。
『右の倒壊したビルに割れ目がある。そこに飛び込め』
思わず声に従い右のビルを見てみると、確かにナイトメア1機がぎりぎり通れそうな裂け目があった。カレンがそこへ飛びこむのと、オーガーがキャノン砲とミサイルを発射したのはほとんど同時だった。間一髪攻撃から逃れられたカレンはそのままビルを抜け、反対側の道へと飛び出そうとする。
『そのままビルを突き抜けずにハーケンを使って上の階へ昇れ』
しかしそこで再びあの声だ。カレンは二度その声に従い、ハーケンを射出すると上の階へと機体を昇らせた。そして躍り出たフロアから下を覗きこむと、ビルの穴の先には2機のサザーランドがライフルを構えて待ち構えていたのだ。
あのまま突き進んでいればどうなっていたか、背筋が寒くなるカレンだったが、チャンスとばかりに上の階からサザーランドの頭上へライフルを撃ち込んだ。
罠に飛び込むはずの獲物を待ち構えていたサザーランドは、逆に自分達が罠にかかったことを知覚出来ぬまま、そのまま沈黙した。
カレンは周囲に敵の姿がなくなったことを確認すると、ようやくといった感じでスピーカーに向けて声をかける。
「助かったよ、礼を言う……しかしお前一体何者だ? それに何故私達のコードを知っている」
『その問いにはもう一人と合流してから答えよう』
もう一人というのは恐らく黒騎士のことだろうか。
歴戦の勇士である彼ならば例え一人残されようとも生き延びるだろうと思っていたカレンだが、1機残されるよりも合流して共に戦った方がいいのは間違いない。
『赤いグラスゴー、お前は線路を通って西口方面へ抜けろ』
「馬鹿な! そんなことをすれば敵から丸見えだぞ!?」
少なくなってきたとはいえ、ブリタニアのヘリはそこらじゅうを飛び回っている。
そんな中で線路なんて開けたところを通ればたちまちこちらの位置を察知されてしまう。
『それが狙いだ。俺を信じろ……というには些か時間が足りないが、少なくとも現状を打破するためには力を合わせる必要がある』
悔しいが策もなくこのまま戦うだけでは、この不利な状況は覆すことができない。故にそれは正論だった。
カレンは男の指示通りにグラスゴーを目立つよう大通りを走らせ、鉄橋を見つけるとその上へと飛び移り、線路の上を走らせた。そしてそのすぐ後に、こちらの姿を見つけたのか二機のサザーランドが鉄橋に飛び移って追撃してくる。
「忌々しいイレブン共め、逃がしてなるものか! 殺された仲間の仇討ちだ! その真っ赤な機体を蜂の巣にしてやる!」
追撃を仕掛けてきたのは2機のサザーランド――そしてその内の1機はあのジェレミア・ゴッドバルトが搭乗していた。
仲間を殺された恨みからか、猛スピードで追撃してくるサザーランド。このままでは直に追いつかれて後ろから攻撃されてしまう。
「おいっ、これからどうすればいい!?」
このまま背中を穴だらけにされるのは叶わない。心のあせりに鉄橋から飛び降りようかと考えたその時、カレンは正面から列車が向かってきているのを目にした。
『私の言葉を信じてくれたからには勝たせてやる――この列車の上に飛び移れ』
「分かった!」
衝突する寸前に車両を飛び越し、コンテナを積んだ貨物車両を踏み台にしてさらに後ろのコンテナに着地する。
追いかけてきたサザーランドはこれで列車と正面衝突するのかと若干期待したカレンだが、サザーランドは難無く走ってくる車両を受け止めた。減速中とはいえ、走行中の車両を正面から受け止めるとはなんというパワーだろうか。
「こんなもので罠を掛けたつもりか、愚か者が!」
『いいや……足を止めたその一瞬だけで充分なんだよ』
サザーランドのパイロットの声に反応したのか分からないが、通信の男は勝利を確信したような声を発した。
カレンが何を、と口を開きかけたその時、架線の脇から黒い影が躍り出て、車両を受け止めた機体の後ろに控えていたもう一機のサザーランドが切り倒される。
「なっ、もう一機――」
慌てて車両から手を放すと即座に後退するジェレミアのサザーランド。しかしそれは間に合わず、サザーランドはライフルの斉射によって脚部を蜂の巣にされ、コックピットが自動で射出され沈黙した。
『大丈夫か?』
そう声をかけたのは、横から乱入してきた黒い影――黒騎士の乗るエステバリスからだった。どうやら彼も同じように謎の通信によってここまで誘導されたらしい。しかし列車が来るタイミングに敵がこちらを見つけるタイミング、そしてサザーランドが足を止めるタイミングをここまで綺麗に会わせるのは並大抵の難しさではない。
「おおい、カレン! 大丈夫か!」
「扇さん! みんなも無事だったんだ!」
「ああ、井上達ももうすぐここに合流する予定だ」
聞けば彼等も謎の通信によってここまで誘導されたのだという。
「あんたが黒騎士か? 先程の通信は一体どういう意味だ?」
「え……あの通信って扇さん達にも?」
『いや、残念ながらそれは俺じゃない』
誘導された通信を黒騎士のものだと思ってそう尋ねる扇達。彼等は黒騎士の姿も声も知らない為、そう勘違いしてしまうのも無理は無かった。
『俺の本分はあくまで戦闘だ、戦略を示して指示するのはお門違いだ』
「じゃあ、あの通信は一体――」
『君がこのレジスタンスグループのリーダーか?』
その問いに答えるように黒騎士とカレン、そして扇達レジスタンスグループを集めた男の声が通信機から聞こえてくる。
「あ、ああ……そうだが、君は一体何者だ?」
その場にいる皆の疑問を代弁して尋ねる扇。
それに対して、謎の男は至極平坦な――しかしどこか不敵に思わせるような声で答えた。
『そうだな、名を名乗ることはできないがこう答えよう――ブリタニアを破壊する者、とな』
『A−8ポイントクリア!』
『G−3ポイント……周囲に敵影無し、オールグリーン』
『こちら、C−1ポイント。テロリストの攻撃あれど被害は軽微、これより殲滅する』
G−1ベース司令部で次々と入ってくる順調な報告に、司令官達はどこかほっとしたような面持ちでいた。
ほんの十分前までは投入する戦車やヘリ、ナイトメアがたった2機のナイトメア相手にいいようにやられ、壇上にいるクロヴィスが苦虫を噛み潰したような顔をしていたため、その場にいた軍人の高官たちは気が気でなかったが、テロリストのナイトメアの姿が見えなくなったのを皮切りに徐々に占領区域を広げている。
「殿下、テロリストの反抗は徐々に沈静化しつつあります」
「当然だ。我がブリタニアがたかがテロリスト如きに後れを取るなどあってはならぬことだ」
だがクロヴィスの機嫌はまだ治まっておらず、寧ろ鬱屈した苛立ちが泥のように溜まっており、玉座の肘掛に置いた手が苛立ちを紛らわすようにトントンとリズムを刻んでいる。これは肝心の目標が見つからない内は、殿下の気も収まりそうにないと判断した参謀達は、一刻も早くこの戦闘を終わらせるべく話し合いを始める。
「しかしテロリスト共のナイトメアが見当たらないのが気になりますな」
「大方エナジーが尽きて動けなくなったのだろう」
「テロリストにとってはたった2機とはいえナイトメアは貴重でしょうから出すに出せんのでしょう」
となると残るは軽装備のテロリストのみ。既にゲットーのほとんどを制圧済みの今ではさしたる障害ではない。
残った区域にどの部隊を回すか相談し合っていたその時である。
「ポイントF−5に敵ナイトメアを確認!」
通信士が観測ヘリより、未占拠区域の一角にテロリストのナイトメアを発見した事を伝えた。
しかしその場にいた軍人達は、突如姿を現したナイトメアに対しても冷静に思考を走らせる。
「このような開けた所にわざわざ出るという事は……」
「陽動か、猿知恵だな」
クロヴィスは馬鹿にした様に呟き、冷めた目で戦況スクリーンを見つめていた。
恐らくテロリストは先程鉄橋でこちらのサザーランドを落とした様に、誘い込んだところを叩くつもりなのだろう。
「ラズロー隊はそのまま前進! オレリー卿とバレリー卿は背後にまわって敵を叩け!」
ならば正面から攻め込まず、反対にこちらから背後に回って叩くだけである。
所詮はテロリスト。知恵はあるようだがそれだけでブリタニア軍と戦える道理は無いと分からせてやろう。
しかしクロヴィスが見つめるスクリーン上で、背後に回った2機のサザーランドが間もなく敵を捉えようとしたその時――
「オレリー卿、バレリー卿、信号途絶!!」
「何、伏兵か?」
「もう一機のナイトメアの仕業でしょうか」
思わぬ結果に舌打するクロヴィス。
正面から来た所にエステバリスが待ち伏せているものと思っていたが、どうやら相手も存外考えているらしい。
しかし戦力はまだまだ豊富にある。1回や2回上手くいった所で戦況に影響するものではない。だがクロヴィスのその余裕は数分後に粉々に打ち砕かれることになる。
「オークニー卿、ランディ卿の信号途絶!」
「上空のヘリ部隊はほぼ全滅です!」
「A−9ポイントの機甲部隊との連絡が途絶えました!」
数分後、戦況スクリーンに映る結果は燦々たるものとなっていた。
ナイトメア小隊は既に5個小隊が落とされ、装甲車・戦車等の機甲部隊壊滅状態。観測ヘリに到っては全滅しており、残る航空戦力も残り僅かとなっている。そのため今では詳細な戦況の把握すら困難となっており、通信士は次々入ってくる被害に恐々しながら報告している。加えてナイトメア部隊の被害の大きさから、予備戦力からも援軍を送りだしているため、あれだけ強固な包囲網は今にも崩れそうになっている。
「バトレー将軍! 被害は一箇所だけではなく、D−4地区を中心にゲットー全域に広がっています!」
「まさか我が軍の機体がテロリストに!?」
「殿下! 後方の部隊に向かっていた輸送列車が消息を絶ち、ゲットーのど真ん中で停止していたのをバルト卿が確認したそうです」
クロヴィスはつい十分前に後方部隊から受けた、援軍の一部が到着していないとの報告を思い出し歯軋りした。
恐らくテロリストは何らかの方法を用いて、ナイトメアを搭載した列車を強奪し、自らの戦力としたのだろう。だがそれでも相手はたかがテロリスト。ブリタニア正規軍がここまでいいようにやられるとはなんたる脆弱ぶりか――!
「B−7地区のペロー隊から通信! 現在敵ナイトメア5機と交戦中、至急応援を要請するとのことです!」
「オーガーを前に出せ! あれの装甲ならばナイトメア如き恐るるにたらん!」
こうなれば圧倒的火力で捻じ伏せてくれる――!
しかしクロヴィスのその考えは後方に展開する部隊の包囲網をさらに薄くし、付け入る隙を見せていることに、彼自身気付いていなかった。
「きたぞっ! 今度は……マジかよ、オーガーが3機同時だ!」
何機ものサザーランドを沈黙させ、士気が高揚していたレジスタンスグループだが、玉城のその報告で部隊に久しく緊張感が走る。
謎の男の声に従ってナイトメアを倒したが、オーガーはまだ一機も落としていないのだ。
『P−5落ち着け、それだけの数ならばなんとでもなる』
「馬鹿いってんじゃねぇっ! 奴には地雷もUN弾もきかねえんだぞ!?」
オーガーの火力はナイトメア1個小隊分に匹敵し、生半可な攻撃では傷一つつけられないその装甲により正に動く要塞そのもと言っていい。大してこちらの戦力には奴の装甲を上まる火力を有していない。玉城だけでなく、カレンを含む他のレジスタンスの面々もまともにぶつかって勝てるとは思っていなかった。
『確かにオーガーの火力と装甲は脅威だ。しかし奴の攻撃パターン、機動力は既に知り尽くしている。君達がこれから下す指示に従って動けば奴らを倒すのは容易いことだ』
その声にまさかとは思いつつも、これまでの戦果はこの声に従った事で得たものだ。
策も無い状態でオーガーとぶつかることができるほど、彼等にはまだ度胸は無かった。彼等の不安を代弁するように扇が訪ねた。
「……黒騎士はどうしたんだ?」
『彼には別行動をとってもらっている。V−1の戦闘力・突破力は君達の中で一番だ。それをわざわざ敵戦力を削るために使う事は出来ない』
V−1というのは黒騎士に彼が名付けたコードネームだ。
カレンのQ−1と同じくオンリーワンのコードネームからは、謎の男も黒騎士に対しては特別視している節が感じられた。
「――分かった、俺達でなんとかしよう」
『よし、まずはQ−1、君は瓦礫を盾にしながらストリートを南東に進んで奴らを引き付けろ。その際、指定したポイントに吸着地雷を散布するのを忘れるな』
「了解!」
『P−3、P−5は所定位置でQ−1の逃走を支援しろ。間違っても、地雷を撃つんじゃないぞ――いけっ!』
指示されたとおり、Q−1――カレンのグラスゴーがストリートに躍り出ると、ライフルを斉射しオーガー達の注意を引き付ける。
しかしその反応は盛大なものだった。ファクトスフィアを展開し、カレンの姿を認識した途端1機のオーガーがミサイルを発射。残りの2機は腕のキャノン砲とチェーンガンが展開し、凶暴なまでの火線をばら撒いた。
「くっ……」
瓦礫縫うようにして逃げる赤いグラスゴー。正直この山ほどもある瓦礫がなければ、カレンはとっくにこのグラスゴーと同じ色の体液を機体と共に散らしていただろう。それほどまでにオーガーの火線は濃密だった。
倒壊したビルの上から玉城達のサザーランドが援護射撃をするが、厚い装甲の前では全く歯がたたず、逆にミサイルのお返しを受けてほうほうの体で逃げ出す有様だ。
しかし僅かでも注意を逸らした事でこちらの目論見はほぼ成功したと言っていい。瓦礫に紛れて設置した吸着地雷がオーガーを感知し爆発すると、辺りに大量の粉塵が舞い、オーガー達の視界を覆い隠す。
あまりに濃い粉塵は辺りを完全に覆ってしまい、視界を確保できない状況で進むのは危険と判断し、3機は傍にあった瓦礫を背にして粉塵が収まるのをじっと待つ。粉塵が収まるまでのほんの僅かな短い時間。しかしそれこそが彼等の狙いだった。
『今だっ! P−1、P−4奴等の真上から思う存分撃ちまくれっ!』
突如真上から降り注ぐ弾丸の雨。
粉塵の未だ晴れぬ中、背にした瓦礫の傍に立つ高いビルの上から攻撃に晒される3機のオーガー。本来ならライフルによる攻撃など通用しないが、この時ばかりは違った。
(確かにその装甲を貫くことはこちらの装備では無理だろう……だがそれはあくまで正面や側面だけ。オーガーは曲がりなりにも量産機であって、そのベースとなるサザーランドと比べても構造に大きな変化は見られない)
ナイトメアの骨子となるフレームは、サバイバルコックピットを中心に頭部・腕部・脚部に分類される。オーガーはこの中で特に腕部と脚部、そしてコックピット周りの装甲を強化したものだ。しかし装甲の強化にも勿論限界はある。人型自在戦闘装甲騎兵の名が示すように、その在り方はあくまで人型。ただ装甲が厚く火力の高い兵器を作るなら戦車の方がずっと効率がいい。ランドスピナー・スラッシュハーケンといった特殊兵装を使いこなす事が出来なければ、それはナイトメアフレームとは呼べない代物だ。
(故にどれだけ防御力を高めようと、必然的にウィークポイントは生まれる……そう、センサーを搭載した頭部と脱出機構を備えたコックピットブロック――つまりは真上)
コックピットブロックは左右こそ増設された装甲板で覆われてはいるが、上部までは覆われていない。それは既存の脱出機構を正常に作動させるため、あまり無茶な改良を施せなかったからというのが理由の一つらしい。しかしレジスタンスにとって、この場ではそれが突破口となる。
真上から直接コックピットを攻撃され、脱出する間もなく落とされるオーガー。しかし銃弾の雨から辛うじて1機が逃れ、煙の中から飛び出すとキャノン砲を向けようとするが……
(さらに、防御力と剛性を上げたそのボディでは、射角は著しく限定される)
レジスタンスの乗るサザーランドは30階相当のビルの屋上。地上から攻撃するには余りにも高く、敵の足場を崩そうにもそのビルは余りにも近すぎた。
なんとか敵をロックカーソルに収めようと蛇行しながら後退するオーガー。しかし、後ろに忍び寄るように接近していた赤いグラスゴーが突如オーガーに飛びかかり、首元にライフルの銃口を突き付け、引き金を引いた。連続して響く発砲音と共にオーガーの身体は激しく痙攣し、やがて一瞬の後に頭をボロ屑と化して地面に倒れる。
その瞬間、レジスタンスの通信間で爆発したように歓声が上がった。
サザーランドだけでなく、重ナイトメアのオーガーも倒した。これなら勝てる。残るは敵陣の中央にいる兵力だけだ。あのブリタニアを倒す事ができる!
彼等レジスタンスの士気は、今正に最高潮に達していた。
『よし、これで敵の駒はほぼ潰した! 後はクロヴィス皇子の乗るG−1ベースとその周囲に展開するナイトメアだけだ!』
威勢の良い返事が通信機から聞こえ、レジスタンスを指揮した声の主であるルルーシュはそのボリュームを若干落とすと暫し熟考する。
サザーランド単体のレーダー範囲ではゲットー全域をカバーすることはできないが、G−1ベースのデータリンクのおかげで敵の配置はほぼ掌握している。単独行動をさせた黒騎士も脱出ルートの確保に成功し、先程避難民の一部が脱出を開始したとの連絡を受けたばかりだ。
(流石ランペルージ家の執事だな。仕事が早い)
心の中で呟いて苦笑するルルーシュ。
流石に黒騎士の正体がテンカワ・アキトであることはルルーシュも早々に分かったが、レジスタンス活動をしていることについては聞いていなかったのである。非常事態故通信越しの会話では何も聞かず、積極的にその戦闘力を有効活用したのだがそれは正解だったようだ。
(レジスタンス活動については後で問い詰めるとして――後はイレギュラーさえ無ければ勝てるが……さて)
こちらの戦力とブリタニア軍の戦力にはまだ差があるが、それも戦闘開始直後に比べればそれほど酷くは無い。
むしろこちらには黒騎士と言う強力なカードがある上に敵の重ナイトメアに対しても現行戦力で対処可能と分かれば、いくらでも戦い様がある。後は確実に駒を進め、敵のキングを取るだけなのだが、ルルーシュの目は未だ厳しいままだった。
(戦場に想定外の事態はつきもの……それにこれまでの経験から言って、まだ何かありそうだが……)
普段クラブハウスで行っているラピスとの戦闘シミュレーションではそれが常だった。
単機で敵陣突破は当たり前。限られた時間の中で目標を破壊しなければ母艦諸共即全滅。他にも色々と無茶な条件下でのシミュレーションをこなしてきたルルーシュから言えば今回の戦闘は拍子抜けもいい所だ。
(何事もなければそれでいいが――)
しかし現実は無情で、ルルーシュの希望は叶う事は無く、逆にルルーシュの懸念は数分後に明確な驚異となって立塞がるのだった。
『スザク君、マニュアルは読んだ?』
「おおよそ……ですが」
『流石ね。シミュレータの訓練とはいえ歴代TOPクラスの成績を叩き出しただけの事はあるわ』
G−1ベースの傍にある医療用車両。そこで治療を受けていたスザクは、一般騎士の着るパイロットスーツとは違った意匠の施されたスーツに身を固めていた。
圧縮空気を注入し、準備が整うと車両の扉を開けて外へと姿を晒すスザク。辺りは先程ナイトメアの大部隊が壊滅したとかで騒然としているが、スザクの耳にその音が入ってくることは無かった。
「あの、さっきの話ですけど……」
『え……? ああ、ありえるけど、可能性はゼロに近いわよ?』
「でも、ゼロではないんですよね」
『それはそうだけど……でも、無茶だけはしないでほしいの。新システムで脱出機構が外されているし』
「はい、分かっています、セシルさん」
これから赴く場所は血に濡れた戦場。それも味方の援護はなく、たった一人でしか戦う事を許されない孤高の道。聞けば今回の出動は壊滅したナイトメア部隊に変わりテロリストを殲滅しろというものだが、そのテロリストは何故か軍のナイトメアを鹵獲してこちらを攻撃している。その上彼らには正規軍を手玉に取るような優秀な指揮官もついているらしい。それを新鋭機とはいえたった1機で制圧せよというのだから、これがいかに困難な任務かは誰しもが分かっている。
しかしやるしかないのだ。自分の生涯で得た唯一の友と見知らぬ少女を助ける為に。
そして己の目の前にはそれを可能とするだけの力を秘めた『剣』が主を待つように鎮座していた。
「これが……」
『そう、私達特別派遣嚮導技術部による試作嚮導兵器――ランスロット。世界で唯一の第七世代ナイトメアフレームよ』
純白の装甲には金色の縁取りが施され、頭部はこれまでのナイトメアとは違ったツインアイ。各所のボディラインもこれまでのナイトメアとは違い流線型が盛り込まれており、兵器と言うよりもまるで白亜の甲冑を纏った騎士の様にも見える。加えて胸部にとりつけられた赤い宝石の様なものが、それをまるで芸術品のように象らせていた。
「んじゃあスザクくん、そろそろ初期起動に入ろうか」
主任であるロイドがそう言うと同時にランスロットを搭載した車両が俄かに慌ただしくなる。
何しろ起動はできても、まともにパイロットがおらず満足に動かせなかったままでの出撃命令である。スペック上では今までのナイトメアを赤子の手を捻るほどの力を持っているが、それもパイロットとなるデバイサーがいなければ宝の持ち腐れだ。尤も、ロイドはそんなことを心配する必要は無いというほどいつも通りに飄々としているが。
『コアルミナス相転移開始――ブレイズポイントの展開可能領域まで20秒』
『デバイサーのZ−01エントリーを確認――マン・マシーンインターフェイスの確立を確認』
『ユグドラシル共鳴を確認――拒絶反応微弱――デバイサーストレス反応微弱――全て許容範囲内です』
「ここまではデータ通り……」
この後、大抵のデバイサーはユグドラシルドライブのフィードバックの影響で満足に動かす事が出来ずに終わっていた。
果たして今回はどうなるのか……トレーラーにいるほとんどが固唾を飲んで見守る中、ランスロットに繋がっていた電送ケーブルがパージされ、発進状態に入った。
そしてドライブ内のコアルミナスがフル回転し、白亜のボディの全身にエネルギーが行き渡り、ランドスピナーが地面に接着するとタイヤが猛スピードで回転、アイドリング状態に入る。
そして一瞬の静寂の後――
『ランスロット――発進!』
覚醒した白き騎士はたった一騎で戦乱へと飛び込んでいった。
『こちらDグループ、敵と交戦……は、早い!?』
『駄目だっ、敵の姿が見えな――』
残るは敵陣中央を破りG−1ベースを取り押さえようと作戦を考えていた時、それは起こった。
先行していた2機があっという間に倒されたのを切欠に、次々とレジスタンスグループノナイトメアが落とされていく。
落される前に残された僅かな通信から――
『敵は白い機体でとてつもなく早く』
『銃弾を弾く盾を持ち』
『たった1機で高い戦闘力を持つ』
これだけが分かっている。
そうこうしている内にまた味方の2機がレーダー上から姿を消し、ルルーシュの背筋に冷たい汗が滴り落ちる。
(やはりそう簡単に事は運んでくれないか……)
事が始まって僅か5分足らず。それで戦力の半分以上が落されたのだ。こうなれば目的の一つであるG−1ベースは諦めざるを得ない。しかしもう一つの目的である住民の脱出は半ば達成している。ならば此処は無理せず後退して一旦戦力を――
ガシッ!
ハッとして正面を見ると、崩落した天井にハーケンの刃が刺さっているのが確認できた。
そして振動するワイヤーから見るに何かを巻き取っている……そう考えた後、飛び込んできたのは白い騎士だった。
その白い騎士が拳を振りかぶっているのをなんとか視認し、咄嗟に腕でガードする。
「貴様がイレギュラーか!」
響く衝突音、揺れるコックピット。なんとかガードが間に合い、白い兜を被ったようなナイトメアの拳と腕が交わり拮抗状態に入る。しかしそれも直に破られ、徐々にサザーランドの方が押されていく。
量産機とはいえ最新鋭のサザーランドをパワーで圧倒している。それだけでこの白兜の特異性が分かるものだ。
「くっ……地上からこのビルの場所を探知した索敵能力といい、このパワーといいなんて能力だ!」
今2機がいる場所は、倒壊した30階以上相当のビルだ。それも崩れたとはいえフロアの奥の方。サザーランドの索敵能力を遥かに超えている。
じりじりと壁際に押されていき拮抗が押し切られようとしたその時、突如足元に亀裂が走った。
轟音と共にビルの床が割れる。
2階、3階と床を抜き、2機は地上に近いフロアでようやっと停止した。落下の衝撃で離れた白兜が、再び距離を詰めて今度は蹴りを叩きこもうと再度襲い掛かるが――
サザーランドはそれをスウェーでかわすと、大きく跳躍して距離をとった。
いい反応だ。とてもテロリストとは思えない。
二度攻撃を防がれてスザクはそう内心呟いた。これまで撃破したサザーランドと違いその動きはずっと洗練されている。ビルの屋上に潜んでた上に暗号化通信を出していたことからも、目の前の機体が指揮官機というのは間違いない。
「だけどこのランスロットの敵じゃない!」
コイツを取り押さえてルルーシュとあの子を助けにいく……お前にかまっている暇は無い!
再び距離を詰めようとするが、警告音が発せられる――正面ではない、左方向!
左腕の円形部がエメラルドグリーンに輝き重力波を形成、一種のエネルギーシールドを作り出してそれが飛来してきた銃弾を弾き飛ばした。
「赤いグラスゴー!」
離れた場所からライフルを撃ってきたソイツは迂闊に距離を詰めるようなことはせず、遠距離から射撃に徹底していた。
カレンは撃墜されたメンバー――何故か敵はコックピットを潰さず落とされた全員が生き残っていた――から相手は飛び道具を持っていない事は聞いていた。恐らく手持ちの武器は腕のスラッシュハーケンだけ。しかしたったそれだけの武装で10機以上のサザーランドを落とした事は驚異の一言に尽きる。恐らく相手の格闘能力はこちらより上、それならむざむざ相手の懐に飛び込まず、こうして射撃に徹すればいいと思っていたが、あの盾のような物は厄介な事この上ない。
「おいそこの! これで借りは返させてもらうぞ! さっさと逃げろ!」
足止め程度にはなっているようだがそれもいつまで持つか分からない。
その内に逃げるなりなんなりして、あの高慢皇子の鼻を明かしてほしい。一瞬だけサザーランドに目を向けたカレンが即座に視線を白兜に戻すと驚愕に目を剥いた。
射線が一瞬固まったと見るや否や即座に跳躍しこちらに向かって襲い掛かる白兜。しかしカレンは姿勢変更ができないその滞空時を狙いスラッシュハーケンを放つ――が。
「なっ!?」
なんと相手は空中において僅かに『横』に動き、ハーケンをかわした。そして機体を再度回転させながらグラスゴーに回し蹴りを叩きこむ。
「ぐううぅぅっ!!」
想定以上のパワーに機体にスパークが走り、モニターにいくつもの警告音が鳴る。
機体がビルに叩きつけられながら、霞む目を正面に向けると白兜はハーケンを搭載した腕をこちらに向けていた。
思わず目を瞑り、衝撃に備えるカレンだがグラスゴーがハーケンに貫かれることは無かった。
何かがぶつかりあう音を聞いて目をあけると、そこにはシールドで刃から身を守る白兜の姿があった。そして刃の方に目を向けるとそこにいたのはあの黒い騎士だった。
恐らくルルーシュが乗っているであろうサザーランドとレジスタンスのナイトメアが倒れているのを確認し、それを為した白いナイトメアに対しブレードを振るうアキトだが、咄嗟の所で奇妙なシールドにそれを防がれてしまった。
「ディストーションフィールド? いや違う」
刃を引き、距離をとって相手を観察するアキト。
シールドが発生したのは上腕部に設置された円形の箇所。よく見るとそれは腕だけでなく胸部と両足の脛の部分にも存在している。
対ナイトメアで足元を狙うのは常道。即座にライフルを抜き足を狙い撃つ。すると両脚部のソレが光り輝き、シールドを発生して銃弾と抉り取られた破片から足を守った。
(ピンポイントで発動させるエネルギーシールドか)
人型として活動する上で構造上最も弱い部分――即ち腕部と脚部を限定的に守るエネルギーシールド。成程、確かにこれではサザーランドで勝てるはずもない。
白兜は左右にフェイントをかけながら接近し、腕のハーケン部を露出させて手刀にし、それでこちらを切断しようと攻撃を仕掛けてくる。
右腕、左腕と手刀を繰り出し、足を軸にして上回し蹴りを放ち、軸足を変えて今度は下回し蹴り。
それを紙一重でかわすアキトだが、正直その動きはIFSで操作しているのではないかと思うほど見事だった。そして再度腕を振りかぶる白兜を見て反撃とばかりに腕を絡めようとするが、その先に赤い光が宿っていたのを目にとめると、咄嗟にブレードでガード――直後甲高い音が倒壊したビルに鳴り響いた。
いつの間に抜いたのか、白兜の手には赤く光る刀身を持ったナイフが握られている。
「お前達はさっさと逃げろ! こいつは俺が相手をする!」
その言葉を受けてサザーランドと赤いグラスゴーはバラバラに散った。その去り際、サザーランドから通信が寄越される。
『ア……黒騎士、死ぬんじゃないぞ!』
「フ――当然!」
主の陰ながらの激励に心を奮い立たせ、IFSが光り輝く。ブレードとナイフ同士がぶつかりあい、暫し押し合いをするがエステバリスが逆手に持ったナイフを振るうと、白兜はそれは大きく後ろに跳躍することでかわした。
それを逃がさんと、アキトは拳を白兜に向け、拳がロケットのように発射される――事は無く、腕の下方からスラッシューハーケンが射出された。
しかし相手もさるもので、空中にいながらそれをナイフで弾き飛ばす。しかしアキトはワイヤーを手で手繰り寄せるとそれを鞭のようにしならして白兜に打ちつけた。
だがそれも先程のシールドで防がれ、2機は再び距離を離して対峙する。
「さっきの空中でのあの機動……エステの姿勢制御システムを流用したものか」
これまでのナイトメアとは全く違う洗練された動きと性能に驚きを隠せないアキト。
しかしそれはランスロットに乗るスザクも同じだった。ランスロットは今までのナイトメアの中では間違いなく最高の能力を持っている。それも己の反射神経についてこれるおかげで、自分の思うように動かせる素晴らしい機体だ。なのにこちらの攻撃は尽くいなされ、あちらの攻撃は確実にこちらを捉えている。
「これが黒騎士の力……だけど彼を倒さなければルルーシュは――!」
時間をかけてはいられない。そう判断したスザクはランドスピナーとスラスターを駆使して、目にもとまらぬ速さで一気に間合いを詰める。
ナイフによる斬撃、手刀や突きだけでなく、肘や肩の突起までも加えフェイントを交えてラッシュをかけるランスロット。
アキトのエステバリスもブレードとイミディエット・ナイフを振るい、それに応えた。
崩壊したビルの瓦礫の中で、黒き騎士と白き騎士が命をかけた演武を繰り広げる。
「こいつ……機体性能だけじゃない。マリアンヌ並のパイロットが乗っているのか!」
「なんて奴だ! ランスロットの反応速度についてきている!?」
10合ほど剣を交え、再び距離を取る2機の相反する色を持つ騎士。そして再び斬り合いを始め、そんな事が戦場を移しつつ数回も繰り返された。
機体能力、パイロットの力量それぞれが僅かに違うが、総合的な戦闘能力はほぼ互角。決定打が無い限りこの戦いはいつまでたっても終わりそうもない。どちらも時間的な制約を持ったまま、なんとかしてこの状況を打破しようとお互いが睨みあっていたその時である。
『エリア11総督にして第三皇子、クロヴィス・ラ・ブリタニアの名の元において命じる。全軍直ちに停戦せよ!』
「停戦っ!?」
ゲットー全域に響き渡る声を聞き、思わず死を止めるランスロット。しかしそれはアキトも同じで、相対したまま2機は放送に耳を傾ける。
『建造物などに対する破壊活動も止めよ。負傷者はブリタニア人・イレブンを関わらず、救助せよ!』
クロヴィス皇子にどんな心境の変化があったのか知らないが、これ以上の戦闘は必要無いと分かれば後は十分。アキトはエステバリスを後退させ、即座に戦場から離れる事を選択した。
「あ……待てっ!」
『クロヴィス・ラ・ブリタニアの名において命ずる! 直ちに停戦せよ! これ以上の戦闘は許可しない!!』
黒騎士を追いかけようとするスザクだが、クロヴィス皇子の放送がまるで自分に言い聞かせるように聞こえ、慌てて追撃を止めるスザク。
そうしている間にも黒騎士はどんどん遠くへと移動していき、恐らく地下にでも潜ったのだろうか、レーダーから姿を消した。ファクトスフィアを展開して周囲を索敵しても返ってくる反応は友軍のナイトメアや機甲部隊のIFF反応だけで、戦闘が行われている様子は微塵も無い。
黒騎士だけでなくテロリストの指揮官をも取り逃がしたまま停戦し、何か釈然としないスザクであったが、これでルルーシュ達を探す事が出来るため今はそれに集中しようとランスロットを疾駆させ、救助活動へと取り掛かるのだった。
そして数時間後、スザクが嚮導技術部のトレーラーへと帰還し、ロイドとセシルに報告しようとした際、突如現れた親衛隊の手によって拘束されてしまう。
セシルは何の権限があって彼を拘束するのか抗議するが、それから返ってきた反応は信じられないものだった。
『第三皇子・クロヴィス・ラ・ブリタニア――誘拐の容疑により枢木スザクを拘束する』
※オリジナル兵器説明
『ランスロット――※共犯のアキト仕様』
改修されたガニメデに負けじとロイドが趣味と実益を兼ねて作り出した第七世代ナイトメアフレーム。
基本的な仕様はTV版準拠だが、エステバリスのフィードバックデータから、機体各所に姿勢制御スラスターを設置しており、空中での限定的な移動も可能。ブレイズルミナスも両腕部だけでなく、胸部中央・両脚部からも発生でき、攻撃にも転用できるブレイズ・ポイントを装備している(TV版で言うランスロット・コンクエスターと同様)が、エナジー消費が高いため、稼働時間は量産型ナイトメアよりも短くなっている。
またMVSの試作として、小型版のMVK(Maser Vibration Knife)を装備している。
武装――スラッシュハーケン×4
メーサーバイブレーション・ナイフ
ブレイズ・ポイント
(※第九話時点)
『エステバリス――ユグドラシル・ドライブ搭載型』
転位世界の兵器の技術有用性を模索する観点で作られたエステバリス。
陸戦フレームをベースとして、重力波アンテナを排除しユグドラシルドライブを搭載しているだけでなく、脚部にはランドスピナーも装備しており、ローラーダッシュと組み合わせることで高い走行性能を持つ。しかし全く異なる技術体系を組合わせた結果から出力はそう高くなく、精々がサザーランドを少し超える程度しかない。それでもアキトの能力も合わさって、非常に高い戦闘能力を有している。
またワイヤード・フィストは除外されており、変わりに腕の下部分にスラッシュハーケンを搭載している。
武装――ラピッドライフル
腕部スラッシュハーケン×2
イミディエット・ナイフ
大型ブレード