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ミサキ 2th 第十一話「印」
作者:ひいらぎ 由衣   2012/03/14(水) 18:01公開   ID:nlP74xLwVO6
また三組で死人が出たんでしょ?

うん、確か篠原南さんだったよね?死んだ人って……。

昨日の下校途中に、土手で溺れてる小学生を助けようとして自分が溺れちゃったんでしょ?

うっわー、何か複雑。

その時、一緒に居たのが神藤さんと榊原さんと、あと沼田君だったらしいよ。

ふーん、他の三人は気が動転してて行動に移せなかったってわけね。

今年の災厄≠ヘ卒業式まで起こるのかなぁ?ってゆーか、誰よもう一人≠チて……。

噂じゃさぁ、私らと見分けがつかないらしいよ死者≠チて。

うーん、確かめようがないねぇ……一部の噂では、見崎先生って言われてるみたいだよっ。

えーっでも、今年は生徒の机が足りなかった≠けでしょ?見崎先生は教師じゃん。

それもそうか……。

そういや、十三年前と二十八年前は夏休み明けに止まったらしいよ。

えっ何それー!って、十三年前って見崎先生と榊原さんのいとこの年でしょ?

じゃあ、先生か榊原さんに聞けば、何か分かるかもねっ。

先生は、夏休みにクラス合宿≠するって言ってるけど、それでその二つの年は助かったらしいよ。

あぁ、確か夜見山のOBが滞在して作ったって言う「咲谷記念館」と夜見山神社でしょ?……神社の御利益とかの噂もあるし。

でもね、十三年前にその「咲谷記念館」落雷で全焼して、合宿は無理っぽいらしいよ。

えー!じゃあ、そうすんのよー。

さぁ?……今年はどんくらい人が死んじゃうんだろうねっ。

そうだね……まぁ、私らも死者≠ノならないように気を付けよ―――……。
















六月の末、篠原南が土手の川で水死しているのが発見された。

榊原志恵留(シエル)は神藤眞子と川にもぐって助けようとしたのだが、とうに息絶えていたと言う。

篠原の遺体は警察に引き渡されて、一緒にいた沼田郁夫は心臓の痛みを訴えて病院に運ばれた。

志恵留は酷いショックを受けたのか、胸をひどい痛みを感じて志恵留も病院に運ばれた。

神藤は二人の病院に付き添って市立病院に向かった。

沼田は幸い命に別条はなく、今日は病院に泊まると言っていた。

志恵留は医師にレントゲンを撮ってもらい、医師に「自然気胸」と診断された。

肺の一部が破れて空気が入り込み、呼吸困難を引き起こすと言われる……いわゆる肺のパンクだ。

医師は「若い男性の患者は多いですが、女性は極めて少ないですね」と苦笑していた。

志恵留はすぐにドレインと言われる治療を受けて、しばらく入院をすることとなった。

志恵留は個室のベッドで胸に空気がたまっているような痛みを抑えながら寝ていた。

神藤はあの後、看護師に言われて帰宅をすることとなった。

志恵留がベッドに横たわっていると病室のドアがノックをされる音がして「どうぞ」としわがれた声で言った。

中に入って来たのは、年の離れたいとこの榊原恒一と担任の見崎鳴だった。

鳴はひまわりの花束を抱えて恒一の後から病室に入って来た。

恒一は大きな紙袋を片手に少し笑いながら「大丈夫か?」と言ってきた。

志恵留は少ししかめっ面で辛そうに「大丈夫じゃない」と言った。


「アハハ、男が普通なるような病気になるって、お前本当に女子か?」

「うるさい……何しに来たのよっ……」

「あぁ、お見舞い……と、着替えを持ってきた」


恒一は紙袋をベッドの脇に下ろすと畳んであったパイプ椅子を広げて座った。

鳴はひまわりを花瓶に移し替えてチラッと横目で二人の様子を見ていた。

恒一は再び笑って「僕も志恵留と同じくらいにその病気になった」と言っていた。

志恵留は「初耳」と驚いたような表情で言った。

そしてベッドの脇の紙袋をチラッと見ると、父の陽平が頼んだのだなと思った。

鳴は恒一の隣に立つと「篠原さんの死因が分かった」と薄く口を開いた。

志恵留は鳴の言葉を聞いて再び胸が痛み、大きく深呼吸をした。

鳴は志恵留の様子を少し窺うと「死因は脳挫傷」と志恵留が予想していなかった結論を言った。

志恵留は胸を押さえて鳴の顔をジッと見た。


「今日、二時間目の体育で篠原さんが転んで頭を打って……それから気分が悪くなって、それが原因らしいよ」

「えっじゃあ、水死じゃ……」

「水死をする前にすでに死んでいたの……だから、榊原さんは自分を責めなくても大丈夫よ」


志恵留の気持ちを読んだかのように語る鳴は少し俯いた。

志恵留も篠原の死因を聞いて、少しショックを受けて天井を見上げた。

志恵留は篠原が気分が悪い事を知っていて、川にもぐらせてしまったのが堪らなく責任感を感じさせてしまった。

軽い沈黙が流れる中、再び病室のドアがノックされる音が聞こえ、三人の視線が一気にドアに集まった。

中に入って来たのは沼田だった。

沼田はまだ心臓が痛むのか、左胸を押さえてヨロヨロと病室に入って来た。

沼田は恒一と鳴と目が合うと頭を下げてうろたえてしまった。

恒一は「お邪魔かな?」と笑うと鳴を連れて病室をさっさと出て行ってしまった。

沼田は二人がいなくなると先ほどまで恒一が座っていたパイプ椅子に腰を下ろした。

沼田は志恵留の顔を見て「大丈夫?」と心配そうに言った。

志恵留は無理に笑って「大丈夫だよ」と言ったが、沼田は顔色を一つ変えずにいた。


「学校……しばらく行けないんだよね?」

「うん……十日間くらいは、ね……夏休みまで安静にしてろって言われてるし」

「そっか……僕、ここで診察をよく受けてるから、その時にお見舞いに来るね」

「ん……ありがとう」


沼田は微笑むとパイプ椅子から立ち上がって窓辺に立って窓の外を眺め始めた。

夜になって街の街灯や家の灯りがポツポツと見えて、夜空には星が煌びやかに輝いていた。

沼田は「ここからの夜景は好き」と語り始めた。

志恵留も痛む胸を押さえながらベッドから体を起して前かがみになって窓の外を眺めた。

そして沼田は小さな声で「でも、夕焼けは好きじゃないんだ」と悲しげな表情で言った。

志恵留は何となく「どうして?」と尋ねてみた。

沼田は少し黙り込むと「父と母が離婚した時、父と僕が別れたのが夕焼けの見えるあの土手だったんだ」と遠い目をして言った。

志恵留は慌てて「ゴメン」と言うと、沼田は首を横に振って「謝らなくていい」と言った。

沼田はそう言うと病室を出て行ってしまった。

志恵留の耳にはその時に沼田が病室のドアを閉める音がずっと響いていた。

















『二〇十一年七月十五日』

お盆になると三年三組の皆は少し湿っぽい感じになってしまう。

クラスでは何人も亡くなっているので、遺族は複雑な感じになってしまうだろう。

梅雨が明けてこれから暑くなると言う時にお盆はやってくる。

志恵留は退院をして自分の家の墓に墓参りをすると、そこで鳴と恒一と沼田とばったり会った。

志恵留は久々に白いワンピースを着て墓参りにやってきていた。

沼田はTシャツにちょっと暑そうな長ズボンを穿いていた。

どうやら三人もこの墓地の自分の家の墓に墓参りをしようと来たらしい。

鳴は藤岡家之墓という墓に線香と花を供えるとしゃがみ込んで墓を見つめていた。

鳴は隣にいた志恵留に「ここは実の家族のお墓」と呟いた。

志恵留はそう聞くとどうすればいいのかと戸惑い始めて何も返せなかった。

鳴も黙り込むと恒一は「そっか」とボソッと呟いた。

志恵留は恒一がそう返せたのが何だかすごいなと思えた。

恒一と沼田も墓参りを終えると、今更になって沼田が恒一に自己紹介をした。

自己紹介と言っても、ただ自分の名前を言うだけで恒一も沼田と同じように返した。

そして恒一は沼田の顔をジッと見ると首を傾げて眉をひそめた。


「沼田君だっけ?……君、僕と会った事ない?」

「え……いえ、病院で会ったのが初めてです」

「そう……じゃあ、勘違いかな?けっこう前に一度だけ話した事があるような気がするんだ……」


沼田は恒一の言葉に困ったような顔をして「はぁ」と言った。

志恵留はその恒一の言葉が、五月の死者の母の志乃も同じ事を言っていたような気がした。

恒一は深く考え込んで頭をモヤモヤしながら「ま、いいや」と言った。

鳴は恒一の表情を窺うと志恵留のほうを見て「胸の具合は大丈夫?」と言いだした。

志恵留は改まったように「はいおかげ様で」と言った。

恒一と鳴はその後、恒一の母の理津子の墓に参りに行った。

志恵留と沼田は梅雨明けで蒸し暑い夜見山の街をブラついていた。

夏の日差しが照りつけて「暑いね」と志恵留は沼田に言うと沼田も頷いていた。

七月はまだ誰も死んでいないが、いつ誰が死んでしまうかは分からない。


「夏休み……夜見山から脱出する人っているのかな?」

「絶対いるだろうね、見崎先生の話だと毎年必ずいるらしいから……」

「でも、それって本当なの?夜見山から出れば、死なないって……」

「第二図書室の司書の千曳先生はそうって言ってたけど、難しいところだね」


夏休みに入ると志恵留は夜見山から出ようかと考えていた。

でも、それは何だか逃げるようでやめようと思った。

夏休み中に死んだりする人もいるから、逃げだす人も後を絶たない。

一部では転校をしたり、引越しをしたりしてしまう生徒も少なくはない。

二人は広場の噴水の前のベンチに並んで座ると空を見上げて話した。


「私のいとこの恒一兄ちゃんはね、彫刻家なの……って、言っても家計は苦しいらしいけど、でも何かそう言うのってカッコいいなって思うの」

「カッコいい?」

「うん、何か……そう、絶対反対されそうな職業にどうどうとなれるってすごいなって」

「うん、確かにそうだね……僕は走ったりもできないし、将来の夢とか、まだ分かんないんだよね……」

「走った事……ないの?」

「うん」

「一度も?」

「うん、だから走る感覚とか分かんなくて……でも、いつか走れるようになるって信じてるんだ。病気だって治るって……」


沼田は自分の左胸にそっと手を当てて目を閉じた。

まわりでは風が吹いて広場に散らばった葉っぱがヒラヒラと舞う。

葉が揺れる音が聞こえるのに沼田には聞こえないような表情をしていた。

志恵留も沼田の左胸に沼田の手を重ねるように手を当てた。

沼田の左胸からは弱いが、きちんと鼓動が響いていた。

葉が揺れる音や風の音、噴水の音などが全部かき消されるように鼓動が鳴る。

志恵留は目を閉じて「大丈夫、きっと治る」と呪文のように言った。


「ちゃんと生きてる≠ゥら……」


そう呟くと沼田は目を閉じたまま志恵留に微笑んだ。

志恵留は沼田の胸に手を当てている間、墓参りをしたからか、強烈な線香の匂いが鼻をついた。















七月十五日の朝、鳴は休日だと言うのにいつもよりも早くに目が覚めてリビングに向かった。

早すぎたのかまだ日が昇り始めた頃でカーテンを開けてもまだ少し暗い。

窓を開けるとシンとしていて、何の音も聞こえず風がそよそよと吹いているだけだった。

鳴はリビングの壁に飾られているカレンダーを見ると今日がお盆だと今さら分かった。

鳴は育ての母の霧果(本名:ユキヨ)に黙って藤岡家の墓参りに行こうと思った。

第一に双子の姉妹の未咲の参りで、実の母のミツヨはついでのような感じだった。

鳴は冷蔵庫からオレンジジュースをのペットボトルを取り出すとコップに注いだ。

リビングのソファに座るとオレンジジュースを一口飲んだ。

それと同時に奥から霧果が寝起きらしくあくびをして出てきた。

霧果は鳴を見るなり「あら、早いわね」と鳴に言った。

鳴は霧果と目を合わせずに「目が覚めて」とやはり他人行儀に言った。

鳴はジュースを飲み乾すとコップをキッチンの流しで洗った。

霧果は鳴に何かを言いたげに鳴の方を向いて口をモゴモゴさせていた。

そして鳴のほうから「何ですか?」と聞いてみた。


「あっ、何か天根伯母さんの友達のお孫さんにね、あなたの担任をつとめてるクラスの生徒さんがいるらしいの」

「そう……ですか」

「それが、その友達が高林政子って言うんだけど、苗字で聞き覚えがない?」

「高林……いいえ、あんまりその苗字は……元≠セったらいますけど」

「元=H……あぁ、確かに息子さんが離婚して、お母さんのほうに引き取られたとか……」


頬に手を当てて頷きながら鳴と会話をする霧果。

鳴はその生徒のを思い浮かべて頭の中で何かが見えたような気がした。

自分が中学生だった頃、その生徒に似た生徒が教室の隅にいた。

会話をした事がないようだが、その生徒は休みがちで顔がはっきりと思いだせない。

名前は……鳴は名前を思い浮かべようとしたが、どうも出てこない。

ただ、その生徒は卒業をすることなく亡くなったような気がした。

その生徒が唯一鳴に言った言葉は、中学二年生の修学旅行で「見崎さん、大丈夫?」と修学旅行中に貧血で倒れた鳴を心配そうに言った。

鳴はそれ以上、思い出せるような事はなく頭痛を抑えようとソファにもたれ掛かった。

霧果は鳴のその姿を見て「大丈夫?」と言ったが鳴は「はい」とまだ頭を押さえていた。





墓参りで恒一と志恵留と沼田とばったり会うと鳴はちょっと湿っぽい気持ちになってしまう。

沼田と恒一が会話をしている最中、鳴はまた少しだけ頭痛がした。

恒一が沼田と一度話した事があると言ったときだってそうだった。

頭痛に加えて左目の眼帯の下の義眼が何だか痛むような感じがした。

眼帯を押さえて二人の会話を聞き流していた。

恒一と二人っきりで恒一の母方の墓参りをすると恒一は悲しげな目で「三神家之墓」と書かれた墓を見つめていた。

十三年前の死者≠フ三神怜子を少しだけ思い出したのか、鳴にはそんな風に見えた。

鳴も線香を上げると、恒一に霧果との会話の事を話した。


「へぇ、天根さんの友達にねぇ……その、生徒って今は何て名前なの?」

「えっと、それは―――」


恒一は鳴の言う名前を聞くと「ふぅん」と何回か頷いた。

だが、鳴はなぜかこの名前を聞くと頭痛と義眼の痛みがやってくる。

今もまた頭痛と義眼を締め付けるような痛みがした。

鳴は痛みを耐えようと目を閉じると、再びあの生徒が見えた。

教室の隅に鳴と同じようにいるその生徒の名前―――。

思い出せそうで思い出せない。

そして、その生徒と天根の友人の孫が重なって見えてしまう。

その生徒の顔もはっきり分からないのに見えてしまう。

そして鳴の頭をよぎった言葉は……死者≠ヘ、誰―――?

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■作者からのメッセージ
今回はけっこうヒントになると思います

鳴の頭をよぎる生徒は誰なのかっ

今年の死者は一体誰なのでしょう

まだまだ続くこのシリーズ、次回もお楽しみに!
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