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ミサキ 2th 第十五話「災い」
作者:ひいらぎ 由衣   2012/03/20(火) 16:15公開   ID:nlP74xLwVO6
『二〇十一年八月十七日』

夏休みが残りわずかな時、榊原志恵留(シエル)は父の陽平の車で松永克巳の職場まで向かうことが決まった。

二十八年前に起こった災厄≠止める方法を残した松永。

何か情報でもないかと、いとこの榊原恒一とクラスメイトの神藤眞子と沼田郁夫も同行する事となった。

夜見山から出ると言う事で、陽平は途中で事故に遭わないかと心配な様子でもあった。

待ち合わせ時間に志恵留の自宅前にやってきた三人……と、他にも数名いた。

クラス委員長の牧野優奈と副委員長の増尾拓真、対策係の内場七夏。

それと担任の見崎鳴も恒一の隣にいた。

志恵留は思ってもいない人数に戸惑いながら神藤に「どういう事?」と呆れ顔で言った。

神藤は前で手を合わせて苦笑いをしながら「ゴメンゴメン」とふざけたように言う。


「ちょ、ちょっと、そう言う事をこの四人に言ったら……ね?」

「『ね?』じゃないよ、うちの車そんなに入んないよ……」


陽平の愛車は多くて五人くらいしか乗れない大きさの真っ黒な車だった。

陽平もこの人数を見て「うわー」とやって来た人数を数えはじめた。

志恵留は呆れたように深くため息をつくと、全員の顔を見渡した。

志恵留は見渡していると、鋭い目つきでこちらを睨む内場と目が合ってしまった。

内場は志恵留と目が合うとすぐに目を逸らして女番長風な感じで腕を組んでいた。

志恵留は第一に内場がいる事に「やりずらい」と言うような事を思ってしまった。

中学に入った頃から何だか気に入られていない≠謔、なオーラを志恵留に見せつけるような態度を取っていた内場。

志恵留自身も内場のようなタイプはどうも苦手というような思いはあった。

困ったような顔をする陽平を見て恒一は「余った人は僕の車で送ります」と言った。

陽平は恒一の顔を見て「頼んだよ」と苦笑をしながら頭を下げた。

恒一の愛車は志恵留の自宅の近くにある鳴の自宅の人形ギャラリーの前に停められていた。


「よーし、じゃあ、私は志恵留ん家の車で行こ!」

「眞子……まぁ、いいけど、私も自分ん家の車で」


自分勝手にどちらの車で行くかどうかを言いだして、思った以上にあっさり決まってしまった。

後から言う人は残った方で言うようにしていたからと言う理由もあるだろう。

陽平の車には、志恵留、神藤、牧野、沼田の五人が乗ることとなった。

一方恒一の車には、鳴、内場、増尾の四人が乗った。

交通では陽平の後から恒一の車が追いかけて行くと言う形となった。

陽平の車に乗り込むと、もちろん運転席には陽平が座って運転をする。

助手席には地図を持った頼れそうな牧野が座って、後ろには左に神藤で真ん中に志恵留で右には沼田が座った。

恒一の車には運転席に恒一で、助手席には鳴が座った。

後ろには左に内場が座って右に増尾が座ると言う形となって出発した。

運転をしている陽平と恒一は事故を起こしてしまわないようにと、緊張をしながら震える手でハンドルを握っている。

牧野は助手席でかなり穏やかな表情で地図を見ながらフロントガラスから見える風景を見ていた。

志恵留は後ろから牧野に耳打ちで「お父さん方向音痴だから」と忠告していた。

牧野はそれを聞いてクスクスと笑いながら「任せて」と頼れそうな表情で言っていた。

陽平は緊張をしていて志恵留と牧野がこっそり会話をしているのを全く気付いていなかった。

志恵留が前に乗り出していた体を座席に戻すと疲れたような顔でため息をついた。


「何、高齢の婆さんみたいな顔してんのよっ」

「眞子のせいでしょー、何でよりによって内場さんが……」


うっかり口を滑らせたと思うと志恵留は慌てて自分の口を手で塞いだ。

言葉を詰まらせた志恵留を見て、神藤はケラケラと笑っていた。


「内場の事、嫌いなのー?」

「嫌いってわけじゃないけど……苦手って言うか、向こうが私の事好いてないみたいだし」

「内場さんは目つきが鋭くてちょっと雰囲気が怖いからね……僕も得意って訳じゃないし……」


志恵留と沼田は苦笑をしながら内場の事を言っていた。

神藤はそんな二人の様子を見て再び笑いだして「本当ゴメン」と笑いが止まらない様子で言った。

志恵留は神藤に「馬鹿にしてる?」とわざと怒ったような顔をして言った。

神藤はきちんと詫びる気がサラサラ無いように笑っていた。


「まあまあ、人の好き嫌いは勝手よねっ私は内場の事苦手じゃないし、でもまぁ、話しづらいって言ったらそうかも」

「だから嫌いってわけじゃ、無いんだってばぁー」


勝手な事を言いながら神藤は腕を組んで自分で自分の思いに納得していた。

志恵留は神藤の勝手な発言に困ったような表情をしていた。

助手席の牧野は地図とフロントガラスからの風景を見るだけで後ろの三人のやり取りに入り込もうとはしない。

運転席の陽平は未だに緊張が取れていないのか、汗ばむ手がハンドルを握っているので滑りやすくなっている。

もう少しで夜見山を脱出するのでその寸前に事故に遭うケースが割と多い。

後ろの恒一の車では陽平の車とは違って、かなり重苦しい空気が流れていた。

助手席の鳴は一言も発しようとはしないでぼうっとしていた。

後ろの内場と増尾も一向に会話をしようとはしないで、かなり距離を置いて座っている状態だった。

恒一はあまりにも静かなので車内に流れるラジオの音量を少しだけ上げた。

恒一は気難しいメンバーが揃った車内で運転をしながら「トホホ」と思っていた。

一方賑やかな陽平の車ではもうすぐ夜見山を脱出すると言うところで陽平は慎重に運転をした。

他の四人も「夜見山」と書かれた道路表が過ぎて行くのを見送ると全員がため息をついて肩を落とした。

恒一の方でも鳴以外は緊張がほぐれて肩を落としていた。

陽平は運転をしながら隣の牧野に今いる場所を聞くと吹っ切れたような表情で言った。


「もうすぐ着くぞ」




















松永克巳が勤めていると言う海沿いのホテルの到着すると陽平は一人でホテルの従業員と話をした。

その間他の八人は車の周りで今か今かとウロウロしていた。

数分くらい立つと陽平はホテルから出てきてしかめっ面で八人の前にやって来た。

志恵留は「どうだった?」と聞くと陽平は顎を撫でながら横に首を振った。


「今日は休みで、さっき携帯で電話をかけてみたら『今からそっちに行く』だってさ」


意外な陽平の返事に少しだけ落ち込んでしまった八人はそれぞれに顔を見合わせた。

松永が来るまでにどうしていようと考えていると「近くの海で泳ごうか?」と神藤が提案をしてきた。

他の人も「いいな」と神藤の提案に乗るが志恵留は「でも水着ないし」と言いだした。

しかし、神藤は「大丈夫」と自信たっぷりな表情で「持参してきてる」と言うと志恵留以外は皆水着を持参していた。


「皆、遊び心たっぷりでついてきたんだね……でも、私は……」

「あぁ、それなら大丈夫、志恵留の分ならあるぞ」

「お父さんもそのつもりで……」


中学最後の夏休みに海で泳ごうと思っていたのだと志恵留はやっと気付くと呆れてしまう。

陽平も自分の車から志恵留が使っていた水着の入ったビニールバッグを取りだした。

恒一と鳴も恥ずかしながらも持参していたと告白した。

陽平は松永が来るまで砂浜のあたりで待っていると言っていた。





志恵留にとっては二年ぶりの海なので胸が高鳴る気持ちでいっぱいだった。

夏休みだと言うのに海には他に人がいなくて広々と遊べると皆は喜んでいた。

沼田は心臓に負担が掛かると言う事で泳げないので砂浜のあたりで見ていると言っていた。

他は海に入ると無邪気にはしゃいで水を掛け合ったり、誰かを持ち上げて水面に落としたりなどをしていた。

大半が志恵留や神藤や内場や増尾がやっているが、たまに恒一や鳴が標的になってしまう。

恒一も負けじと子供のように反撃をするが、それを見た鳴は「子供みたい」と鼻で笑っていた。

砂浜では沼田がはしゃいでいる七人を寂しげに眺めていた。

志恵留は休憩のために海から上がると寂しそうに体育座りをしている沼田の隣に同じ格好で座った。


「泳いでみたいの?」

「う、うん……一度はね、榊原さんは泳ぐの得意?」

「うーん、不得意!……かな?未だに五十メートル泳げないし」


笑って話す志恵留だが、沼田は「泳げるだけマシだよ」と遠い目をして言った。

どことなく気まずい雰囲気になると、遠くの方から陽平が「メシにするぞ」と叫んでいた。

陽平の両手にはスーパーのビニール袋があり、志恵留は「買ってきたんだな」と思った。

陽平はおそらく車から出してきたと思われるバーベキューセットを持ってきていた。

海に入っていた六人が海から上がり、陽平のもとに駆け寄ると陽平は慣れた手つきで肉や野菜を焼いていた。


「お父さん、もしかしてキャンプとか好き?」

「まぁなっ、大学の頃はよく友人と山とか海でキャンプしたよ」


意外とゲラゲラと笑いながら昔の話を淡々と始めるが、全員が陽平の話に耳を傾けずに焼けた肉や野菜から紙皿に取り分けて食べていた。

熱烈に話を続ける陽平以外は「美味い」と言いながらバーベキューをしていた。

志恵留は熱く焼けた肉や野菜を食べるが、海に入っていたため風があたると鳥肌が立つほど寒く感じた。

おろらく海で泳いでいた人はほとんどがそう感じているはずだ。

食べている途中でも志恵留がふと内場の方を見ると内場は嫌そうに目を逸らす。

志恵留は「やっぱり嫌われてるか」と少々落ち込んでしまう。

バーべキューが終わると恒一と鳴は陽平と一緒に海岸沿いで松永を待った。

他は砂浜で陽平が持ってきていたビニールボールでビーチバレーをしていた。

沼田も無理をしない程度で参加をしていた。

すると向こうの方から陽平と同じくらいのラフなアロハシャツを着た男性が陽平に向かって手を振った。

陽平も振り返して男性はすぐに陽平達の元に駆け寄って来た。


「こいつがマツ、こっちは三組の担任の見崎先生と十三年前の三組の生徒の恒一君」

「あぁ、君達が……」


挨拶もほどほどに恒一と鳴は二十八年前の事について聞いてみるも、記憶の消滅が松永にも見られて「ほとんど憶えていない」と言った。

松永が残したと言われているテープについても全く憶えていない。

肩を落としてお互いの顔を見合わせる恒一と鳴。

すると松永は「俺じゃないけど、いろいろ情報を知っている職場の後輩がいる」と言い、遠くに向かって手招きをする。

すると向こうから松永よりも遥かに若い男性がこちらにやって来た。

男性は三人に深々と頭を下げると緊張したように顔がこわばっていた。

松永は三人に「後輩の小野寺修哉」と小野寺の肩を持った。

小野寺は十年前に三組の成員となっていて、恒一と鳴の後輩にあたる人物である。

松永は小野寺に囁くように「頼んだぞ」と真剣な顔で言った。

小野寺は咳払いをすると「十年前に」と話を始めた。


「僕が三組だった頃、十月に災厄≠ェ止まったんです、原因はもう一人≠ェ死んだから……お二人もご存知の通りです。

それで、もうほとんど憶えてないんですけど、その死者が入れ替わった≠です」

「入れ替わった!?死者≠ェ?」

「はい、どういう訳か四月から七月までのもう一人≠ニ七月から十月までのもう一人≠ェ別人だったんです」

「どういう事なの?……」

「死んだもう一人≠ヘ……その年の七月に死んだ生徒≠セったんです」


冷や汗をかいて話しを進める小野寺だが、恒一と鳴はその発言に驚きを隠せない状態だった。

死者が入れ替わる≠ニ言うのは今まで例を見ない現象だった。

それが十年前に起こったと言うのはどうも信じがたい事だった。


「四月から七月までのもう一人≠ヘ、その年の二年前に亡くなったはずの栖川奈々子≠ニ言う生徒で、それなのに今も生きてるんです」

「栖川……奈々子?」

「はい……十月に何か≠ェ起きて……七月からのもう一人≠ェ死んで災厄≠ェ止まって……。

後から第二図書室で調べたら、名簿に「栖川奈々子」の名前が九九年度のものに載ってて、二日たってからもう一度見たら無くて……」


言葉を詰まらせたようにそれ以降からは何も言わない小野寺。

恒一は頭の中で勝手にこう解釈をする事にした。

四月から七月までは「栖川奈々子」という生徒だったのが、何かの拍子に七月に亡くなったはずの生徒に替わっていた。

そして「栖川奈々子」が九九年度の生徒で亡くなったと言う事実がなくなった。

理由は新たに死者≠ノなった生徒が死んで、記憶などが改竄なれてしまったから。

そんな現象≠ェ新しく出来てしまったと言う意味なのかどうかが恒一には問題だった。


「それ以降は、そう言う現象≠ヘ起きてるわけ?」

「は、はい……僕らの年以降、その年に死んだ生徒がもう一人≠ノなるんです、卒業式が終わるとその生徒が消えて、他の生徒たちが少しの間だけ憶えてるんです」


十年前から起きている新たなこの現象≠ェ本当だとすれば、今年もそれが起きてしまう。

本当の死者≠ェ生きている人間として蘇って、何かの拍子にその年に死んだ生徒が死者≠ニなってしまう。

恒一は訳が分からず頭を抱えて「よく分かんない」と漏らした。

すると隣で黙って聞いていた鳴が俯いたまま簡単な解釈をした。


「つまり死者≠ニ生きていた生徒≠フ立場が逆転してしまった……って事ね」

「それじゃあ……今年もそれ≠ェ起きると?」

「可能性はかなりあるね」


不気味に微笑む鳴を見て恒一は背筋をゾクッとさせると海のほうから何やら叫んでいる声が聞こえた。

恒一達が海の方に目をやると、志恵留達が慌てた様子で辺りを見渡して「増尾」と叫んでいた。

恒一はすかさず志恵留達に駆け寄ると志恵留が青ざめた顔をして「増尾君がいない」と言いだした。

恒一は眉をひそめると海に入っている面々を見渡すと増尾の姿だけがそこにはなかった。


「遊んでて、気が付いたら増尾君だけがいなくて……」


恒一はその言葉を聞いて陽平達にもその事を知らせると、手分けして探すこととなった。

恒一は海岸沿いを走って「増尾君」と叫びながら探していた。

志恵留は砂浜の方でかき氷などの店の人に聞いてあたってみた。

それぞれ海に入って探す者もいれば砂浜辺りを探したり海岸沿いを探している。

志恵留はかなり嫌な予感がして恒一と同じように海岸沿いを探してみた。

息を切らしながら裸足で太陽の熱で暑くなったコンクリートの道を走って探していた。

焼けるほどの足の裏の熱さと足の裏に食い込む砂利の痛みを堪えながら必死に走っていた。

志恵留は釣り場として使われている海岸沿いから下の海を見渡してみた。

志恵留達がいたところよりも少し離れたところだが、志恵留はなぜか海岸沿いから下をのぞいてみた。

すると海の海面から突き出たブロックに何かが引っかかっているのが見えた。

目を細くしてそれを見ようとした志恵留は次の瞬間顔が青ざめて悲鳴を上げた。

その声は近くの海岸沿いで捜索をしていた恒一と沼田にも聞こえて志恵留のところまでやって来た。

恒一は慌てふためく志恵留に「どうした?」と聞くと志恵留は震える指でブロックのあたりを指差した。

恒一と沼田はブロックに目をやるとブロックに引っかかっているものに目をやった。

それは頭から血を流して浮かんでいる増尾の姿だった―――……。

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■作者からのメッセージ
自分なりの現象を新しく作ってみました(笑

原作者の綾辻さん……変なものを作ってすみません(泣

あと意味が分かりづらかったら、感想に書いてもいいですよっ

アニメを見て、海水浴のシーンを使いたい!ってひらめいたのがこれです(笑

書いていて油断をしていたすきにちょこっと増尾君の死をいれてみました。

増尾君ってあんまりしゃべらないうちに死んじゃいましたね(汗

何か、本当ゴメンなさい増尾君……。
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