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ミサキ 2th 第二十二話「疑念」
作者:ひいらぎ 由衣   2012/03/28(水) 17:00公開   ID:nlP74xLwVO6
福島美緒の母親が起こした事件の結果、榊原志恵留(シエル)は気胸を発症して入院をする。

同じ市立病院には福島の母親に刃物で刺されて意識不明の重体の見崎鳴が病室のベッドで今も眠ったまま。

志恵留のほうもかなり危ない状態だったようで一週間近くは意識が戻らなかったという。

その結果として志恵留はあれからのクラスの状態を全く知らない。

ただ一つだけ志恵留が分かっている事は、福島の母親が亡くなったと言う情報だけだ。

志恵留は入院中は病室で一人、退屈な時間を過ごしている。

たまにやってくる見舞い人としては神藤眞子や沼田郁夫、そしてその他もろもろだろう。

神藤は事件のあった日は丁度風邪をこじらせて家で寝込んでいたと言う。

志恵留が目覚めて二日後にようやく見舞いに来て事件の真相を聞いてきたくらいだ。

何も知らないような神藤に志恵留は思い出したくもない記憶を無理矢理引っ張り出して教える。


「……で、福島さんのお母さんは首筋を切って亡くなったの」

「へぇ……何か悲惨だね、いやぁー学校休んでて良かったわぁ」

「あのねぇ」


あんな悲惨な状況を目辺りにしていない神藤は他人事のようにいうのだが、本当は誰よりも皆の事を気遣っているに違いない。

今日だって志恵留の様子見や全く目覚める気配のない鳴の様態を見に着たくらいだ。

その事はもちろん志恵留もきちんと分かっている。

「眞子、ありがとう」とそんな言葉を口には出さずに神藤に呟く。

病室のベッドに座ってベッドの脇のパイプ椅子に座って志恵留の話を聞いている。

何も知らない神藤に志恵留はあの事≠聞いてみる。


「眞子……眞子は十二月に夜見のお山の夜見山神社にお参りに行く事は聞いてる?」

「え!?夜見のお山=H夜見山神社にお参り=H何それぇー聞いてない!」


きょとんとしたような表情で首をかしげる神藤を見て志恵留は「やっぱり」という表情をする。

あんな事件があって休んでいた神藤にお参りに事を報告する暇がなかったのかと志恵留は思う。

そして志恵留は神藤に十二月のお参りについて知らせる。


「十二月四日にクラスの皆で夜見山神社にお参りするの、今年の災厄≠ェ終わりますようにって」

「ふーん、そんなのが……」

「詳しい事は後々プリントを配るらしいけど、参加不参加は自由だって、どうする?」


志恵留の質問に神藤は即座に「参加するに決まってるじゃん」としかめっ面で言うとパイプ椅子から立ち上がる。

そして窓の方に歩いて行くと窓に手を当てて外を眺めだす。

ため息をつくと神藤は「どうなるんだか」と吐き捨てて、大きく伸びをしてあくびをする。

姿勢を戻すと志恵留のほうに振り返って「十二月までの辛抱だ」とガッツポーズをしてにかっと笑う。

神藤に連れて志恵留も同じようにガッツポーズをしてぎこちない笑顔を見せる。

これはきっと頑張ろうと言う相図だと志恵留はすぐに分かった。








同じ病院の志恵留の病室のある階の一つ下の階には鳴が眠っている病室がある。

刺された箇所の出血が酷くて未だに意識不明の状態で、育ての母親の霧果(本名:ユキヨ)はいつものように見舞いに来る。

霧果は病室の来ると二時間以上は鳴が目覚めるのを必死に待っている。

鳴の手を握ってみたり声をかけてみたりもするがやはりダメ。

たまにクラスの生徒が鳴の病室を訪れると霧果は笑顔で生徒たちを迎えて決して弱音は吐かない。

本当は霧果も大いにわっと泣いてみたいのかもしれないが、そんな事は出来ないと強がっているようだ。

この日も霧果は鳴の病室に見舞いに来てパイプ椅子に座ると鳴の手を握って目覚めるのを待っている。

そんな時に病室のドアがノックされ、霧果はまた生徒だなと思うと「どうぞ」と言う。

ドアが開くと霧果は笑顔で「また来てくれたのね」と言ったのだが、そこに立っていたのは榊原恒一。

霧果は十三年前に鳴が家に連れてきた恒一を見ていたので恒一の事は一応知ってはいた。

それなのだがまさかの客人に霧果は戸惑いながら「お見舞いに来てくれてありがとう」と言う。

恒一は霧果に深々とお辞儀をすると抱えていたチューリップの花束を霧果に渡す。

霧果は丁重に「ありがとう」と言うとチューリップを花瓶に飾ろうと花瓶の花を入れ替える。

恒一はその間に眠っている鳴の顔を覗くと花を入れ替えている霧果に「まだ起きないんですね」と呟く。

思いがけない恒一の言葉に霧果は動かす手を止めて「そうね」と恒一の顔を見ないで言う。


「生徒さんのお母さんに刺されたって……」

「そう、九月にあった体育祭で、その生徒さんのお姉さんが事故で亡くなって……その母親がなぜか鳴を恨んで……精神状態も芳しくなかったらしいしね」

「そうですか……その生徒さんは?」

「父親と二人暮らし、今も学校に行ってるらしいけど……クラスの子とかに何か言われないかしら……」

「それはないですよ、あのクラスは……」


災厄≠セから仕方ないだなんて部外者の霧果に言えるはずもない恒一。

そんな恒一の様子を窺いながら不審に感じているも「そう」とだけ言う。

そんな視線を気にせずに恒一は今にも目覚めそうな鳴の顔をずっと眺めていた。
















十一月になってようやく志恵留は退院をして学校にも登校できるようになった。

学校の方はB号館の三年三組の教室は「変死事件」として立ち入り禁止が命じられた。

今は一番新しいC号館の十三年前までは使われていた三年三組の教室に移ることとなった。

C号館の教室が使われなくなった理由は、十三年前に三年三組の担任だった久保寺が生徒の目の前で自殺を図った事。

今となっては特に立ち入り禁止ではないのでそちらに移る。

志恵留は新しい教室に違和感を感じながらも朝にいつもの時間に登校すると教室にはあまり人がいない。

ロッカーや机の横にもカバンはあまり置かれていないので休みだとはっきりと分かる。

あんな凄まじい物を見て平気でいられるような人はいない、とでも知らしめるようなクラスの状態。

クラスの半数が欠席でだいたいが精神的に登校を出来るような状態ではないからだ。

志恵留は前の教室と同じ配置にある前と同じ机と椅子の席に座ると登校している人の様子を窺う。

とりあえず前に座っている神藤は来ている、沼田もいつものように一人で席に座っている。

クラス委員長の牧野優奈は欠席、新しい副委員長の木下翔太はいつもより元気はないが来ている。

八神龍と七瀬理央はいつも通りで君島美嘉も何とか来ているようだ。

内場七夏は欠席で、とうの福島は来ているクラスメイトから励まされているので登校。

志恵留は登校してきている生徒を数えてみると十人余り。

そんな事を考えている内に本鈴が鳴り、その十人余りの生徒は急いで前の教室と同じ配置にある席に座る。

そして前のドアから入って来たのは志恵留がどこかで見た事のある男性教師だった。

志恵留は自分の忘れやすい記憶を辿って行くとようやく男性教師が誰だかが分かる。


「見崎先生が復帰するまでの担任代理を勤めます、風見智彦です」


いとこの恒一の三年三組だった頃のクラスメイトの風見智彦。

志恵留はここ数日ずっと忘れていたのだが、風見はこの学校の三年生の数学教師。

本人は「塾講師」だと恒一達には言っているのだが、それは元≠ナある。

塾講師と言ってもアルバイトであって、風見は学校教師志望だった。

今年に入ってこの学校にやって来た風見だが、学校では志恵留とはほとんど会話をしない。

それに志恵留はどちらかと言うと数学は得意な方で、あまり担当教師の方には意識はいっていない。

だからその事を忘れていたのかもしれないなと志恵留は自分で自分を咎める。

風見の話の間は風見が担任代理だと聞いて何か「嫌だ」とか「嬉しい」とかを口や表情に出す生徒はいない。

風見は新人なのにしっかりとしていて誰にでも平等に扱うので嫌がるような人はいない。

マイナスなところと言われたら「頭が固い」とか「真面目すぎる」くらいだろう。


「このクラスの件は知っています。私も十三年前にはこのクラスの生徒でしたので……出来る限り、この問題には協力をしようと思います」


風見が十三年前にこのクラスの生徒だった事は志恵留以外は初耳だったようで驚く様子の人はいる。

だいたいの人が三年生の時は鳴とクラスメイトだったと分かったはずだ。

なぜわざわざ新人の教師をこのクラスの担任代理にしたのかは志恵留には想像はつく。

このクラスの生徒だったから、それと厄介なクラスだから偉い人から回されて新人の風見に至った。

それくらいはこのクラスの生徒ならば想像はできると思える。

とりあえず鳴が復帰をするまでの間の担任代理の教師の風見の説明が終わったところで朝のホームルームは終了。















それから一週間が立つと欠席者もいなくなってようやく三年三組の生徒が全員集まった。

風見の説明の日に欠席をしていた生徒は出席してきた時にクラスメイトから聞かされた。

ほとんどの人が「へぇ」くらいで特に大きな反応を見せないで風見が担任代理だと知る。

志恵留も電話で今頃東京にいる恒一にその事を伝えると「えっ風見君、塾講師じゃ」と驚いた様子だった。

志恵留はいじわるのつもりで教えてなかった訳ではなかったのだが「残念、それは元です」とふざけたように言った。

おそらくその後くらいに風見に電話をしてどういう事かを問い詰めたに違いない。

風見の事だから冷淡に流しただろうと志恵留は思うのだが本人に確かめる勇気もない。

こんな時でも毎朝のように来る朝のホームルーム時には風見が進行するのだが、初めは志恵留も違和感を抱いていたのだが今となっては慣れている。

風見が進行するホームルームが終わると志恵留は前に座っている神藤にいつものように話しかけられる。


「見崎先生大丈夫かなぁ?未だに意識が戻ってないんでしょ?」

「うん、そういや、風見……先生が担任代理になるまでどうしてたの?」

「んん?あぁ、他のクラスの担任の先生とかが交代でホームルームをやってた。全員が全員このクラスを疫病神のクラスみたいに扱ってたし……」

「そりゃあ、巻き込まれたくないからね災厄≠ノ……風見先生はどうなるんだろうね?」

「うーん、担任代理だし、先生は他のクラスで担任を務めているわけでもないから……見崎先生が戻るまでは三組の成員≠セろうね……」


神藤は風見が担任代理に来るまでに他のクラスの担任が交代に来て、青ざめたような顔で来ていた事に腹を立てる。

一方志恵留はそれよりも風見が三組の成員≠ニなる事は風見や風見の二親等以内の親族が危ない事となる。

それは大丈夫なのかと心配になる志恵留だが、今はそっとしておこうと考える。

今心配をしても風見の不安な気持ちをもっと不安にさせそうで怖いと言うのが志恵留の本音。

例年ではそんな不安≠竍恐怖≠ゥら無意味な衝動に走って自殺や他殺などをしてしまう人も少なくない。

風見がそうならないように祈るしか今の志恵留に出来ない。

そんな事を考えていると、突然神藤が「日記はどうなった?」と前に身を乗り出して志恵留に聞いてくる。


「えっ?今も持ってるけど、まだ読んでない」

「何で読まないの?」

「何か怖くてね……それに、眞子が来るのを待ってた方がいいような気がして……」


肩をすぼめて苦笑しながら言う志恵留に神藤は「今度一緒に読もう」とからっと笑う。

そしてそれに付けくわえるかのように「沼田君も一緒にね」と言う。

心強い神藤も言葉に志恵留は「うん」ではなく「ありがとう」と返す。

その瞬間、志恵留の脳内が歪んだように思うと突然ずううぅぅぅん≠ニ重低音がかすかに鳴る。

目眩と言うか頭痛と言うかとにかく頭の奥から何かが湧きでてくるような気がする。

志恵留は頭を抱えると神藤が「志恵留」と呼びかけるのだがそんな声は志恵留には聞こえない。

志恵留が頭の奥で見たものは、何かお葬式かお通夜のような状況だったように思う。

周りにいる人はハンカチを片手に涙を流して、志恵留も崩れるように泣き叫んでいるように見える。

見えたのはそこまででそこからは真っ暗な闇が続いて志恵留はようやく抱えていた頭を上げる。

目の前にいる神藤は慌てたように「大丈夫?」と聞くと志恵留は無理に笑って「うん」と言う。







その日の放課後、久々に学校に登校した内場七夏と木下翔太と福島美緒は立ち入り禁止となったB号館の三年三組の教室にこっそり入る。

教室は少しの間だけ誰も掃除をしなかっただけで埃が舞っている。

教室には机や椅子は無く、あるのは教卓やロッカーと掃除用具家入れだけだ。

窓はベージュのカーテンが閉まっていて光がカーテンの隙間から漏れているだけで教室内は真っ暗。

内場はこの教室に何か隠されているのではないかと考えてこの教室にこっそり忍び込んだ。

内場は黒板の前にある教卓の裏や中を探ったりすると何か小さな消しゴムなどは出てくる。

木下と福島はロッカーの中や裏などから探ってみるのだが、これといって何かの手がかりになるような物は出てこない。


「内場ぁ、本当にこの教室に手掛かり的なものはあるのかよっ」

「口ばっかり動かしてないで手を動かしなさい翔太」

「でも内場さん災厄≠ェ途中で止まった十三年前の生徒の教室が途中でここに変わったからって……」


同じ対策係の木下と福島は不満気味に内場に言うのだが内場は「必ずある」と言い放つ。

木下はため息をついてロッカーを動かして裏を見るのだが埃が舞ってせき込んでしまう。

同じように福島もロッカーを動かした時に舞った埃でせき込んで口元を手で塞いで埃を手ではたく。

内場はそんな二人の様子を見てため息をつくとロッカーの隣にある掃除用具入れの扉を開く。

掃除用具入れの中には使っていた頃とは変わらないほうきやチリトリと雑巾が並んでいる。

内場は閉めようとした時、ふと掃除用具入れの天板を見ると何かが貼り付いている。

内場はそれを天板から剥がしとると掃除用具入れの扉を閉めて剥がしたものを見る。

それはガムテープで巻かれていてそれが何なのかが分からない。

内場はがっしりと貼り付いたガムテープを剥がしとると小さなケースのようなものにMDが入っている。

ロッカーを探っていた木下と福島も内場のもとに寄ると内場の持っているMDを覗き込んだ。

ケースには「三年三組の皆へ」と蒼いペンで書かれていておそらく十三年前の誰かが残したものだ。


「これってMD?まぁ、十三年前ならそうなるか……」

「聞いてみる?内場さん」

「そうね、じゃあ今度私の家ででも……」


貼り付いていたガムテープを教室に残っていたゴミ箱に捨てると三人は教室を出る。

そのMDに何が残されてあるのかと気になって仕方のない様子の三人。

その帰り道に三人で話し合うとMDは一番頼れる内場が持っていようと言うこととなった。

内場がMDを握りしめて帰っている間、空では晴れているのに雷のような音がずっとしている。

B号館の教室に残されていたMDの声の主は十三年前の三年三組だった勅使河原直哉。

そしてMDを教室に隠しに行ったのは勅使河原と望月優矢だった事は後々分かる事である。

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■作者からのメッセージ
アニメAnother……ついに終ってしまいました

原作の小説も読ませていただいて、あと漫画版も一番最初に読みました

アニメ版では原作にも漫画版にも、私の二次創作にも(これは当たり前)なかった展開がありましたね

アニメではクラスメイト全員にキャラクターがありましたね

原作になかったキャラクターが被害に遭う場面も有りました(ネタバレかも)

最終回を見た時……あれは衝撃でしたよ

原作とは結構違ってて、面白かったんですけどね

今回出てきたMDはアニメ版の最終回のエピローグからです

ではではまた次回
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