外は酷い台風となって、雷まで先ほどよりも酷くなってきているのが分かる。
そのために本日予定されていた夜見山神社へのお参りも中止と言う結果となった。
数分前に福島美緒が自然気胸で倒れたため、榊原恒一は福島を車に乗せて病院に向かっている。
恒一が戻ってきたら、学校から自宅が一番近い人から順番に恒一の車で送ってもらう事となった。
その間、榊原志恵留(シエル)は神藤眞子と沼田郁夫と一緒に校内を歩いていた。
三年三組以外のクラスは休みなので、校内はかなり静かだ。
今まであまり校内を歩きまわった事のない三人は恒一が戻ってくるまで校内を回ろうと神藤の提案でそうなった。
今はC号館の教室を離れて、実習室や職員室のあるA号館の二階の廊下を歩いている。
あまりA号館を訪れる事はなかったので神藤はワクワクしているようだ。
こんな時に呑気だなと志恵留は神藤にそう言いたくなった。
「ねぇ眞子、あと十分くらいしたら恒一兄ちゃん戻ってくるから、もうそろそろ戻らない?」
「えーッいいじゃん、もうちょっと見て回ろうよ」
そう言って笑顔で先々に早歩きで行く神藤を慌てて追いかける沼田。
志恵留はそんな神藤にため息をついて、ふと志恵留の隣の薄暗い理科室へと続く廊下が目に止まる。
志恵留はただ何かの気配を感じて吸いこまれるように理科室へ続く廊下を歩く。
その廊下は先ほどの廊下よりも薄暗くて懐中電灯が欲しいと志恵留は思う。
志恵留は廊下を歩いて理科室の扉がほんの数センチほどまで来た。
志恵留は何かを警戒するように周りを見渡してから扉のドアノブを握る。
ドアノブを握った瞬間、志恵留の手の平に何か妙に滑るような感触がある。
志恵留は「ん?」と首をかしげながら、手の平の感触を気にしないようにドアノブを回す。
扉を開けるとそこには理科の時間に良く見る理科室の風景が広がっているだけだったのだが、何か異様な気配がする。
部屋が薄暗いと言う理由もあるのだがそれとは全く違うような気配がする。
そうこう考えていると志恵留の耳に何か「ううっ」と唸るような声が聞こえた。
誰かいるのかそれとも人間とは違う何かが?と志恵留は冷や汗をかいて「誰かいるんですか?」と恐る恐る問いかける。
だが、返事はなく辺りを見渡しても見る限り誰もいないようなので志恵留は理科室を出ようとした。
その時「助けて」と同じように唸るような声が聞こえて志恵留は慌てて理科室の入り口の壁にある電灯のスイッチを押す。
スイッチを押すとパッと部屋の中が明るくなって志恵留の目には理科室の黒板の近くの壁に血のようなもの≠ェ飛び散っているのが見える。
志恵留はその壁の近くへ歩み寄ると、黒板の前の教卓の裏に血まみれの状態で倒れている人≠ェいる。
顔は長い髪で隠れていて見えないが、服装は夜見北中学の指定の冬服のブレザーで水色の長袖のセーターを羽織っている。
すぐに女子生徒だと分かると志恵留はその女子生徒に駆け寄って「大丈夫?」と言う。
「ねえ……どうしてこんな……」
そう聞くと女子生徒はゆっくり顔を上げて志恵留の腕を弱々しい力で掴む。
その女子生徒の顔を見た時、志恵留は「あっ」と声を上げてしまった。
倒れていたのは久遠美沙と言う女子生徒で、福島が倒れた時に最初に声をかけたのが彼女だ。
久遠は志恵留にすがり付くように切れ切れの言葉で何かを伝えようとする。
「じ、実は……り、理科室、に入ったら……後ろか、ら刺され、て……」
「犯人の顔は見たの?」
重ねて質問をすると久遠は横に首を振って苦しそうにあるいは痛そうに目から涙がこぼれる。
志恵留はどうにか手当てをしようと久遠の腕を自分の肩に回して「立てる?」と聞いてからゆっくりと久遠の体を起こす。
ゆっくりと理科室を出ると、目の前に恒一の中学のクラスメイトの望月優矢が手元の懐中電灯で二人を照らして「どうしたの?」と聞く。
志恵留は慌てて望月に「久遠さんが刺されてるんです」と言い放つ。
望月は少しうろたえるように「えっ」と声を出すと今にも倒れてしまいそうな久遠を懐中電灯で照らす。
「大変だ!とにかく、この人を保健室にでも運ばないと……」
望月はそう言うと自分の肩に久遠の腕をまわして志恵留は久遠の腕を自分の肩からおろす。
そうしていると向こうから「志恵留」と叫ぶ神藤と沼田の姿が見える。
志恵留は慌てて神藤達の元に駆け寄ると「どうしたの?」と聞く。
「さっき家庭科室覗いたら、火が出てて……」
「火?火事?」
「うん、たぶん火元は家庭科室のコンロだと思うけど……」
次から次へと慌ただしくなり志恵留は頭の整理をしようと自分のこめかみを中指で押す。
すると久遠を抱えた望月が志恵留に言い放つ。
「久遠さんは僕が運ぶから、火事の事を皆に知らせて」
望月の言葉に三人は頷いて教室にいるクラスメイト達に知らせようとする。
しかし、慌てて走ろうにも沼田は走ると心臓に負担がかかってしまうので一緒にはいけない。
それに気づいた神藤は志恵留と沼田に「二人は教室を出てる人に知らせて」と言う。
志恵留と沼田は神藤に「分かった」と頷くと教室を出ているクラスメイトを探す。
神藤は自慢の俊足でC号館の教室まで行く。
二人はまずA号館の廊下や実習室を回ってそこにいるクラスメイトに「火事だ」と知らせる事にした。
しかし、この校舎はかなり広くてしかも四つほど校舎があるので全員に知らせるのは時間がかかる。
沼田はその問題に悩む志恵留にふと思い立ちこう言う。
「放送室から全校舎に知らせよう!」
志恵留はその方法を使おうとB号館の放送室に向かう。
A号館からB号館に続く二階の屋根の付いた渡り廊下を通ってB号館に向かうとそこにはすでに七瀬理央と八神龍がいた。
どうやらB号館を回っている途中だったらしく志恵留は二人に急いで知らせようと二人を呼びとめる。
七瀬と八神は志恵留の方を振り向くとお互いの顔を見合わせて首をかしげる。
「家庭科室から火が出てるの!理科室では久遠さんが誰かに刺されてて……」
「えっそれ本当!?分かった、外に出ようよ八神」
「あぁ」
七瀬と八神は二階から一階に降りようと階段の方へと向かう。
それを見届けた後、志恵留は沼田を連れて二階の一番奥にある放送室に向かう。
廊下は少し長くて沼田と一緒のため早歩きでないといけない。
すると沼田は「先に行ってて」と左胸を抑えながら言うと志恵留は少し迷ってから頷く。
志恵留は全力で走るのだが、運動音痴の志恵留は少し一般の人では遅いくらいだが志恵留にとっては人生で一番早く走っている。
志恵留は放送室につくと鍵が開いているのを確かめてドアを押しあけて入る。
放送室は木製の壁と床で放送の機械や放送委員が使っていると見られる資料が置かれている。
それに見抜きもせずに志恵留は放送のスイッチを押してマイクを自分の方に向ける。
ピンポンパンポーンと音が鳴ると志恵留は深呼吸をして放送をする。
「A号館の家庭科室から火事です。理科室では久遠さんが何者かに襲われました。至急外まで避難してください」
その放送は全校舎まで聞こえて散らばった生徒達は首をかしげてその放送を聞いた。
火事なのに火が見えないのでイタズラかと勘違いをしていしまう人もいるが、非難をしようと外へ向かう生徒が多い。
その放送で、どこかの校舎の一階の出入り口付近にいた生徒五、六人が外まで避難をする事が出来た。
その生徒達は校舎から離れてグラウンドの真ん中に集まって滝のように降る雨を避けようと羽織っているセーターや学ランを頭から掛ける。
その場にしゃがんで身を小さくして誰かが来るのを待つ。
するとC号館から出てきたのは赤沢泉美だった。
赤沢は一ヶ所に集まっている生徒達に「避難してるのはこれだけ?」と聞くと皆揃って頷く。
赤沢は眉間にしわを寄せると手に持っているビニールシートを集まっている生徒達に掛ける。
このビニールシートで降ってくる雨を少しは避ける事ができる。
「あなた達はここで榊原が来るのを待ってなさい。私は校舎にいる人たちを避難させるから」
そう言って赤沢はもう一度校舎に戻る。
その頃七瀬と八神は一階へ続く階段へ向かおうと走っていた。
すると階段の隣にある文系サークルの部室に何やら人影が見える。
それに気づいた七瀬が「あの人にも知らせよう」と八神に言う。
八神は部室のドアを開けようとする七瀬を危ないから引きとめようとしたのだが七瀬はすでにドアを開けていた。
部室は薄暗くてその人影が誰なのかが分からず七瀬は「誰ですか?」と恐る恐る問いかける。
するとその人影は二人に近寄ってくると、七瀬の目にその人影の手元の血まみれの包丁が見えた。
その瞬間雷が光って部室の窓から光が差し込んで一瞬その人影の人物の顔が見えた。
それを見た瞬間七瀬と八神は唖然として「うわぁああ」と悲鳴を上げてその場から逃げ出す。
その悲鳴は放送室を出て階段へ向かっている志恵留と沼田にも聞こえていた。
不審に思って七瀬達の方へ行ったのだが、すでに二人と人影≠ヘどこかへ行ってしまっていた。
「七瀬さん達……どうしたんだろう?」
「もしかしたら、久遠さんを刺した犯人と鉢合わせしたのかも……」
沼田の仮説に志恵留は青ざめた顔で「えっ」と声を上げる。
その仮説は的中していて七瀬と八神は追ってくる犯人≠振り切ろうと階段ではなく渡り廊下でA号館の廊下を走っている。
必死に走っている七瀬達を追いかける犯人≠フ手元の包丁がギラリと光る。
「何で!何であの人≠ェこんなことしてるの!?」
「知るかよ!とにかく逃げないと殺されるぞ!」
七瀬と八神はそう言い合いながら廊下を必死に走っている。
犯人≠燗人を殺そうと包丁を片手に追いかけている。
B号館に残っている志恵留と沼田は自分達も避難しようとC号館に移っている。
C号館にもしも残っている人がいたら避難させようと考えているからだ。
二人は見て回って教室以外は誰もいないことを確認すると残りの教室へ向かおうとした。
その時校舎内にピンポンパンポーンと放送の合図が鳴り、二人は足を止めて放送を聞く。
何か神藤や望月の重要な放送なのかと思って真剣に耳を傾ける。
しかし、声の主は神藤や望月ではなく対策係の内場七夏だった。
もしかしたら神藤が対策係の内場に知らせたのかと思う。
しかし、それもまた違っていた。
「今から流すMDは十三年前に勅使河原直哉さんがB号館の三年三組の教室に残したものです」
その放送は教室にまだ残っていた生徒や勅使河原直哉本人にも聞こえている。
勅使河原はMDが何の事がさっぱり分からず「え?」と眉をひそめる。
内場は少しゴソゴソと物音をたててから再生のプレイヤーのスイッチを押す音がする。
すると若かりし頃の勅使河原だと思われる男の声が聞こえる。
「俺らは松永さんのカセットテープを見つけて……それで内容には死者を死に還せ≠チて言うのがあって……。
それで俺らの年に死者≠セった■■を死に還して……災厄≠ェ止まったんだ」
勅使河原の話の内容で出てきた死者≠ニ思われる名前の部分だけが雑音がひどくて聞き取れない。
志恵留はその死者≠ェ副担任としてクラスにいた三神怜子だと分かる。
しかし、そのMDを聞いた瞬間志恵留は異様なほどの嫌な予感を感じて立ちつくしてしまう。
そしてMDが切られて再び内場が話し始める。
「勅使河原さんはもう憶えていないでしょうが、事実的に十三年前は災厄≠ェ九月からは止まっています。そして、今年の死者≠ヘ分かっています。
それは……沼田郁夫です」
志恵留の耳にはその内場の言葉が響いて声を詰まらせてしまう。
一番驚いていたのは沼田本人だった。まさか内場に明かされてしまうとは思ってもみなかっただろう。
確かに四月から九月までの死者≠ヘ沼田だが、今はまた別の人間。
沼田は廊下の壁にもたれ掛かって気を失いそうな状態だ。
一方、教室にいる生徒達は放送を真剣に聞いて周りの人と顔を見合わせる。
勅使河原は今さっきのMDに憶えがなくて混乱をしている途中。
「理由は、十三年前の三年三組の名簿に「高林郁夫」と言う生徒の名前と「六月六日に病死」と書かれてあるからです。沼田郁夫は幼い頃から心臓が弱いそうです。
それに沼田郁夫はご両親が離婚されて苗字が変わっていますが、元は「高林」だったそうです。嘘だと思うのなら廊下に名簿のコピーが貼られています」
教室の横の廊下の壁にはコルクボードがあってそこには名簿のコピーが貼られていた。
沼田と志恵留は教室の廊下の一番隅にいて教室から出てくるクラスメイトの様子を窺っている。
クラスメイトはコルクボードに貼られた名簿を見て「高林郁夫」と言う名前と「六月六日、病死」と言う文字を見てざわめく。
すると一人のクラスメイトが廊下の隅にいる志恵留と沼田を見て「あそこ」と二人を指差す。
一気にクラスメイト達の視線が沼田に集まって沼田は立ち尽くして動けない。
クラスメイト達はゆっくりと沼田の方へ歩き出し、五人ほどが手元にカッターや鋏を持っている。
志恵留は慌てて沼田の前に立ってクラスメイト達に「違うの」と主張する。
「何で!そいつは死者≠セぞ!?」
「殺さなきゃ……皆死んじゃう……」
「違う、違うの!お願い聞いて!」
十人ほどのクラスメイト達を止めようと何とか沼田の事を説明しようとする。
しかし、誰一人として志恵留の言葉に耳を傾けようとする。
すると教室から勅使河原と神藤が出てきて「やめろ」と生徒達に言う。
それと同時に志恵留と沼田の後ろから担任代理の風見智彦がすっと出てきて生徒達に歩み寄る。
「クラスメイトを殺すなんてダメだ」
「でも……今死者≠殺せば……」
「もしも、間違ってたらどうするんだ!」
三人は生徒達の前に立ちはだかるように立つと生徒達は混乱したのか我先に突っ込もうとする。
それを三人は投げ倒したり力づくで押さえつけたりして止める。
神藤はカッターを持った男子生徒の上村弦哉の手首を掴んで止めようとすると揉み合いになって神藤の手首をカッターで切り裂いてしまう。
上村は大柄でバスケ部に入っているのでかなり力は強い。
神藤は蹲りそうになりながら上村を押さえつけると志恵留に「早く逃げて」と叫ぶ。
志恵留はそれを聞いて沼田の手首を掴んで近くのかけ下りようとする。
すると三人が取り逃がしてしまった三人組の女子生徒が二人を捕まえようと階段を下りてくる。
その中の一人に辻村百合香と言う女子生徒で、手元にはカッターを持っている。
少し茶髪のふんわりとしたボブヘアーで小柄な生徒。
後ろの金森智華と君島美嘉は手元には何も持っていない。
三人は六月に亡くなった篠原南と先ほど自然気胸で倒れた福島と仲が良かった事を志恵留は思い出す。
志恵留と沼田が階段の中間くらいまで下りたところで辻村が沼田の腕を掴んだ。
掴まれた沼田は「わっ」と声を上げて志恵留は辻村の腕を振りほどこうと掴まれた沼田の腕から離そうと掴まれた沼田の腕を引こうとする。
辻村はニヤリと笑ってカッターを振り上げる。
「南を返せ……死ねぇ!」
振り上げたカッターを沼田に下ろそうとする辻村、志恵留は掴まれた沼田の腕を引く。
すると掴んでいた辻村は沼田と一緒に引っ張られてバランスを崩す。
そして辻村は沼田の腕を離してバランスを崩したまま階段から落ちる。
その時手元のカッターが床に落ちた瞬間辻村の喉に刺さる。
辻村は「うっ」と唸ると少しもがいて口から血を吐くと動かなくなる。
階段の上にいる金森は「百合香」と叫んでその場に座り込んでしまう。
志恵留と沼田は辻村の死を見てその場に立ち尽くすも階段の上から「いたぞ」と言う男子生徒の声がして我に返ると階段を急いで下りる。
二人は外にも出る事が出来ずに一階にある空き教室に身を隠す。
その頃A号館の廊下で家庭科室に火をつけて久遠を刺した犯人≠ゥら逃げる七瀬と八神。
二階の長い廊下を走りまわって二人とも疲れきっているのだが犯人≠ヘずっと追いかけてくる。
七瀬は泣きそうになりながら八神の後を追って走っている。
八神はそんな七瀬に「泣くな」と少し冷たい言葉をかける。
七瀬は溢れだしそうな涙を拭うと「うん」と頷いて走り続ける。
「それよりあの人≠「つまで追ってくる気だ!?」
「知らないわよ!私達を殺すまで追ってくるんじゃないの!」
そうこう言い合っているうちに二人はとうとう廊下の一番隅に追いやられて犯人≠ヘ包丁を持ってゆっくり二人に近寄る。
七瀬と八神は廊下の壁に背中を付けて冷や汗をかきながら犯人≠フ姿に怯える。
七瀬はとうとう泣いて「死にたくない!」と思わず叫ぶ。
すると八神が自分の隣にある廊下の窓を慌ててガラッと開けると窓から強い風が吹き込んでくる。
窓は大きくて開けると一気に大人二人くらい窓のガラスを取ると大人四人は窓から出られるくらいだ。
七瀬は窓を開ける八神に「何する気」と言うと八神は七瀬の手首を掴んで窓から身を乗り出す。
八神は七瀬を抱えてそのまま二階の窓から飛び降りる。
その時に七瀬の悲鳴と共に二人の姿も霧の中へ消えていく。
それを見ていた犯人≠ヘチッと舌打ちをするとその場から離れる。
一階の家庭科室付近では、下村拓哉と佐藤俊也がウロウロしていた。
先ほどの志恵留と内場の放送を聞いていたのだが、どちらも本当の事かと考えている。
家庭科室で火事になっていると聞いたので、本当かどうかを確かめようとここにやって来た。
そして二人は内場が言っていた事が本当かどうかを疑問に感じているようだ。
「本当に沼田が死者≠セと思うか?」
そう言いだしたのは色白で小柄で真面目そうな眼鏡をかけて少しタレ目の佐藤。
隣のスポーツ刈りの体育会系な下村は首をかしげる。
「でもさ、沼田っていつも一人だったし……どうかは分かんないけど……」
沼田が死者≠ゥどうかがどうにもふに落ちないような二人は家庭科室の前に立っている。
佐藤は少し青ざめた顔で下村に「先に避難しよう」と提案する。
下村はドアを開けようとする手を引っ込めて「そうだな」と言ってその場から離れる。
二人が家庭科室から離れて廊下を歩いている時、ふと下村が足を止める。
佐藤は「下村?」と問いかけると下村は口から血を吐いてその場に倒れる。
佐藤は何が起きたのかが分からず、壁にもたれ掛かると下村の後ろに犯人≠ェ立っているのが見える。
「し、下村?……」
犯人≠ヘ下村の腰辺りに刺した包丁をゆっくり抜くと佐藤をゆっくりと見る。
佐藤は混乱して「うわあ」と叫ぶと家庭科室の方に走ってしまった。
その瞬間、家庭科室から爆発音がしてドアや家庭科室付近の壁が吹っ飛んで佐藤も一緒に外に吹っ飛んだ。
犯人≠ヘ佐藤を追いかけようとしたが、家庭科室より少し遠くにいたので爆発には巻き込まれずに済んだ。
吹っ飛ばされた佐藤は幸いにもぬかるんだ地面に飛ばされて体の数ヵ所にすり傷や切り傷が出来たくらい。
佐藤は力を振り絞って足りあがろうとすると、赤沢が佐藤に「大丈夫?」と手を差し伸べる。
佐藤は何とか赤沢の力を借りてグラウンドに避難している生徒の所まで行く事が出来た。
先ほど家庭科室で起こった爆発は全校舎を揺らして校舎にいた生徒たちをパニックにさせた。