家庭科室からの爆発はC号館にいた榊原志恵留(シエル)と沼田郁夫の隠れている空き教室まで激しく揺らす。
もちろんC号館で沼田が死者≠セと勘違いをした生徒達にもその揺れは伝わった。
家庭科室のあるA号館ももちろんの事、B号館やT棟も地震のように激しく揺れる。
グラウンドに避難した数人の生徒達はその爆発を見て中にいる友人の事を考えて泣き出す人もいる。
先ほどA号館で何者かに刺されて死んだ下村拓哉と一緒にいた佐藤俊也は避難をしてもなお泣いている。
間近で友人が殺されるところを見て、もう感情のコントロールが出来ずにいる。
そんな佐藤を他の避難者や赤沢泉美が励ましている。
その時、A号館から下村と同じ人物に刺されたであろう久遠菜緒を背負った望月優矢が出てくる。
久遠は刺し傷が深くてかなり危険な状態、望月は赤沢のもとに久遠を降ろす。
赤沢は久遠を見てギュッと唇を噛むと着ていたコートを久遠に着せる。
「望月君、私はまだ校舎にいる人を避難させるから、この人たちを見てて!」
「えっ!赤沢さん!?」
赤沢はそう言い残すと望月達をグラウンドに残して校舎の方へ走る。
赤沢はB号館に入るとまだあまり火の回っていないと確認すると校舎内を探しまわる。
その途中途中で何人かの生徒がいて「グラウンドへ行きなさい」と誘導して避難をさせる。
B号館が終わると、爆発が起きたA号館を探すと爆発の衝撃で気絶をしていたり動けなくなった人を見つける。
動揺して動けない人には何とか手を貸して、気絶をしている人を背負わせて避難させる。
A号館を全て回って一階の家庭科室に行こうとすると、廊下で腰辺りを刃物か何かで刺された下村の遺体を発見する。
赤沢は動揺をしつつも冷静に下村の脈をはかるがすでに手遅れであった。
赤沢は下村の遺体を見て悔しそうに唇を噛むと走って生徒が一番集まっているC号館に向かう。
C号館ではやはり一階には志恵留と沼田を探している生徒五人を見つけて「避難しなさい」と言う。
五人は先ほどの爆発でこりたのか二人を探すのをあきらめてグラウンドへ向かう。
その時に二階へ続く階段の踊り場で喉に自分が持っているカッターが刺さっている辻村百合香を見つけた。
赤沢は辻村を見ると「事故か」と呟いて二階へ上がって行く。
C号館の一階の空き教室に身を隠した志恵留と沼田は埃っぽい教室で揺れを感じて身を屈めた。
その衝撃で教室にあったロッカーや数学などで使われる教師用の大きなコンパスが落ちてきた。
天井の板も上から落ちてきてかなりここに留まっているのも危ない。
志恵留は沼田の肩を持って真剣な表情で言う。
「ここは危ないから、外に避難しよっ」
「う、うん……っ榊原さん、後ろ」
青ざめた表情で志恵留の後ろを指差す沼田に志恵留は「え?」と言うと背中に激痛が走る。
何か背中から生温かいもの≠ェ流れてグジュ≠ニ音を立てて何かが引き抜かれる。
それと同時に腰に力が入らずその場にしゃがみ込んでしまう志恵留。
「刺された?」と思うと志恵留はゆっくり後ろを振り返ると、鋭い刃先の血まみれの鋏を持った内場七夏が立っている。
志恵留は激痛で顔を引きつりながら内場に「何で」と切れ切れの言葉で言う。
沼田は恐ろしさに壁に追い詰められて動けなくなっている。
内場は志恵留を見下ろすと眉間にしわを寄せて血まみれの鋏を顔に近くに持ってきてそれを見る。
「何で……内場さん……まさか、久遠さんを刺したのって……」
「それは私じゃない、だって彼女を殺す理由無いでしょ?たぶん、あのクソ女じゃないかしら?」
内場は鋏を見ながらニヤリと笑って志恵留に犯人≠ノ関する事を言う。
よく見ると内場は二の腕や頬や太ももに刃物などで切られたような傷がある。
内場もその犯人≠ノ襲われたのではと志恵留は考える。
「あなたもその人に襲われたの?」
「まあねっすぐに逃げ出したけど、あの女……邪魔なのよ」
苛立ったように鋏を握りしめて再び志恵留を見下ろすと背中の激痛に耐える志恵留の様子を窺う。
そして女番長のような振る舞いで「あなたも邪魔」と言う。
そして壁に追い詰められた沼田を見るとニヤリと笑って鋏を下ろす。
沼田は出口に向かおうと横歩きに一歩を踏み出そうとすると内場が飛びかかるように鋏を振るい上げて襲いかかる。
沼田は間一髪でそれを避けると左の頬を鋏で切ってしまった。
沼田の左の頬からは血が流れ出して内場はもう一度襲いかかろうとしたのだが、また家庭科室からの揺れが出る。
内場は揺れに耐えられず鋏を落として自分の座りこんだ。
それと同時に内場の前にあった掃除用具入れが倒れて沼田と内場に境界線のようなものができた。
沼田は覚悟を決めたようにキッと顔を上げると、志恵留を見て「ゴメン」と言うと空き教室から脱出する。
揺れが収まると内場も沼田を追って空き教室を出て、志恵留は背中の痛みを堪えながら空き教室を出る。
志恵留は沼田を探そうとC号館の一階の廊下を練り歩くもいない。
「沼田君……どこ行ったの?」
辺りを見渡していると廊下の向こうから慌ててこちらに走ってくる君島美嘉が見える。
君島は慌てているが怪我をしているのか足を引きずって志恵留を見つけると志恵留に駆け寄る。
そして志恵留に抱きつくようにして来ると志恵留は「どうしたの?」と言う。
君島は息を切らして「牧野さんが」と震えたような口調で君島が来た廊下の先を指差して言う。
志恵留は「分かった」と言って君島を置いて廊下の先を見に行くと何も無い。
まさかクラス委員長の牧野優奈が犯人≠ノ襲われているのではないかと不安になる。
すると君島の方で君島らしき悲鳴が聞こえて志恵留はもう一度君島の方に戻る。
そこには腹部を刺された君島が横たわっていて隣には血まみれの包丁を持った犯人≠ェいる。
志恵留はその人物の姿を見て愕然としてその場に立ちつくす。
すると、その犯人≠フ目がゆっくりとこちらを向く。
「な、何で……何で、牧野さんが?」
その犯人≠フ正体は牧野優奈だった。
牧野は志恵留の方を見ると俯いた状態で「この人誰だか分かる?」と呪いの呪文のように言う。
志恵留は震える口調で「分かるに決まってるじゃない」と言い放つ。
牧野はそれを聞くと君島の死体を見てチッと舌打ちをして「またか」と言う。
志恵留は牧野が犯人≠セと信じられずに牧野の様子を窺う。
牧野は雨で濡れたのか全身がびしょ濡れ。
「ど、どうして?……こんな」
「内場さん達と一緒にあのMDを聞かせてもらったの、だからね、怪しい人から殺した方がいいでしょ?」
牧野は今までに見た事のないような恐ろしい形相で笑う。
「内場さんは沼田君が死者≠セって言ってたけど、それは違うって榊原さんも知っているでしょう?だから……あなたが死者≠カゃないの?」
牧野はそう言うと包丁を握りしめて志恵留の方に突っ込んでくる。
志恵留はそれを避けるが再び突っ込んできて壁に包丁が刺さったりもする。
振るわれる包丁を何度も避ける志恵留は牧野に「やめて」と何度も叫ぶが通用しない。
「アンタが……アンタが殺したんじゃない!アンタがお母さんを……」
狂った形相で何度も志恵留に包丁を刺そうとする牧野。
そして牧野は志恵留の首を持って押し倒すと志恵留に馬乗りをする。
牧野は包丁を志恵留の目の前まで持ってくると冷たい目で見下ろす。
「牧野さん……何で」
「アンタがお母さんを……増尾君を殺したんじゃない!」
「増尾君?」
八月に亡くなった元副委員長の増尾拓真の事だと志恵留は察する。
「アンタが、松永さんのところへ行こうなんて言わなきゃ……事故にも遭わずに済んだんじゃない」
そう増尾は松永克巳に事情を聞こうと志恵留が提案して集合日に増尾は集合場所向かう途中に交通事故で肋骨を骨折した。
それなのにそのまま集合場所に行って海に入っている途中に肋骨が肺に刺さって亡くなった。
志恵留はこの時、確かに自分のせいかもしれないと思う。
牧野は思いっきり包丁を振るい上げて志恵留に向かって振るい下ろそうとする。
その時再び揺れが来て牧野はバランスを崩して横に倒れる。
牧野が倒れた場所には爆発でむき出しになった電線コードがあり、牧野の首にそれが当たった。
牧野の全身は雨で濡れていて当たった瞬間、ビリッと音を立てて牧野の短い悲鳴が響き渡る。
志恵留が牧野を見ると、牧野は首の周りから焼け焦げてしゅうしゅうと煙が立っている。
牧野はすでに感電死をしていておそらく即死だったと思える。
「ま、牧野さん……」
志恵留は申し訳なさそうに眉をひそめると立ち上がって沼田を探す。
先ほどの揺れと同時にA号館の炎がB号館とC号館に移った。
一方、A号館の隣では牧野に襲われて窓から飛び降りた七瀬理央と八神龍が起き上がる。
地面がぬかるんだ土だったので八神が少し足を骨折しているだけのようだ。
七瀬は必死に八神を起こそうとするのだが力が入らない。
その時、榊原恒一と担任の見崎鳴が二人に手を差し伸べる。
七瀬は今は重傷で入院しているはずの鳴が目の前にいるのが信じられない様子。
「せ、先生……どうして?」
「榊原君に無理言って連れてきてもらったの、福島さんは今、治療を受けているわ」
自然気胸を発症して倒れた福島美緒を病院に運んだ時に一緒の病院だった鳴を無断で連れて来たという恒一。
グラウンドに避難している生徒の重傷の久遠は恒一の車に乗せてもらっているとのことだ。
他の避難者も車のそばで座って友人が避難してくるのを待っている。
「何人かの人が避難してきました。あとあなた達と九人がまだです」
避難をしてきていないのは、亡くなった辻村、君島、下村、牧野も含める四人。
生存者では、志恵留、沼田、内場、木下翔太、金森栞がまだのようだ。
鳴はそう言うと七瀬を誘導して恒一は八神を抱えて自分の車へ急ぐ。
一方鳴はまだ中にいる十二人が心配のようで燃え盛る校舎の中へ入る。
鳴が入ったのはC号館で、一階の廊下を見渡すと金森栞と風見智彦と見つける。
どうやら風見が金森をグラウンドまで誘導しようとしているようだ。
「金森さん、ここは危ないから早く避難を……」
そう言おうとした瞬間、校舎の天井が外れて三人に落ちてくる。
風見と鳴は金森を庇おうと金森を覆うように身を屈めると天井が三人の上に落ちてきて風見の右足に天井の板が刺さった。
風見は唸るような声を上げると、それを聞きつけた勅使河原直哉が「大丈夫か」と駆け寄ってくる。
勅使河原は三人に伸し掛かった天井の板を除けると風見の足に刺さった板を見る。
「ヤバいぞ、風見も成員のうちに入るから……」
「勅使河原君、風見君と金森さんをお願い……私は他の人を探してくるから」
「えっ!?おい、見崎!」
鳴はそう言い残すとその場を離れてC号館の奥へと走る。
鳴は残った八人と言うより、生存している四人を探して必死に走る。
火は旧校舎の0号館とT棟以外は回っているので、火が回っている校舎を重心的に回る。
少しでも生存者を増やしたいと鳴はずっと祈っている。
志恵留はC号館の廊下をハンカチで口をふさいで歩いていると、内場を見かける。
志恵留は内場に駆け寄ると内場は血まみれの鋏を振るって志恵留が近寄れないようにする。
志恵留は内場から五メートルほど離れてはっきりと内場に言う。
「内場さん、沼田君は違うの……十二年前から死者≠ヘ……」
「うるさい!アンタに私の気持ちが分かるの?……私は、弟を亡くしたの!まだ七歳なのよ?そんな子がどうして……」
悔しそうに泣きながら俯く内場に志恵留はどうしていいか迷う。
そして志恵留は気を落ち着かせようとする。
「分かるよ?私だって……大好きだったお母さんを亡くしたのよ?」
「……違う!アンタは私とは違うんだ……私の気持ちなんか分かるはずがない」
俯いていた内場はキッと顔を上げると鋭い目つきで今にも襲いかかってくるような様子。
志恵留は自分も泣きそうになって「そうだね」と呟く。
内場は「ん?」と首をかしげると、志恵留は力強くこう言い放つ。
「いつまでもウジウジしてて、狂ってしまうアナタと私は違う!牧野さんと同じよ……壊れて、誰かを傷つけるなんて……」
「……っ黙れ!」
内場はそう言うと志恵留の頬を殴ると志恵留はその場に倒れる。
志恵留は倒れた時に手に当たった腕くらいの長さの鉄パイプを手に持つ。
そしてゆっくり立ち上がると鉄パイプを握りしめて内場に立ちはだかる。
「私は、ここでアナタを傷つける気はないよ、でもアナタがこれ以上誰かを傷つけるなら……ここで私が十二月の死者≠ノします」
志恵留はそう言い放つと内場は「上等」とでも言うかのような表情で鋏を握りしめる。
二人の周りでは、炎が燃え盛っていた。
沼田は内場から逃げるとB号館の二階の廊下を彷徨っているところだった。
外へ出ようと考えている時、沼田の目の前に副委員長の木下翔太が立っている。
沼田はずっと立っている木下を見て「木下君」と呼んで早歩きで木下のもとに行く。
「早く避難しないと、焼け死んじゃうよ……」
「そう、そうだな……だから、そうならないように……」
木下は俯いていた顔を上げると、沼田は腹部に何かが刺さったような激痛が走る。
そしてすぐに引き抜かれると生温かい真っ赤なものが流れ出す。
木下の手にはカッターがあり、それで沼田の腹部を刺したのだと思える。
沼田は刺された腹部を抑えると木下から遠ざかろうと後づ去りをする。
「お前が死者≠ネら、今ここでお前を殺してしまえば済むじゃないか……」
「そ、それは……」
木下はもう一度沼田を刺そうとするが、沼田はそれを避けて必死に逃げようとする。
しかし、本気で走る事は出来ずにフラフラと壁にもたれ掛かるように逃げる沼田。
木下はそれを歩きながら追いかける。
この四人の中に死者≠ヘいるのか?あるいは避難をしている人の中にいるのか?
そんな四人の脳をよぎっているのはいつもこの言葉だった。
死者≠ヘ誰?―――……。