とある発掘現場、そこはあちらこちらに煙が上がっていた。
そこに一人の少年と老人が対峙していた。
「何故こんな事をするんだ!」
民族衣装を着た少年が老人に向かって叫んだが、老人は動じず、淡々と答えた。
「お前が持っている物に用がある」
その言葉に、少年は持っていたアタッシュケースを咄嗟に抱えこんだ。
「これをどうするつもりだ!」
「お前が知る必要は無い、それを渡してもらうぞ!」
老人が放った魔力弾が少年に迫る。
少年は手に持っていた紅い宝玉をかざす。
「レイジングハート!」
【了解、防壁展開します】
宝玉から声が発し、少年の周りに防壁が展開され、老人が放った魔力弾を防ぐ。
「チェーンバインド!」
少年は魔力で編んだ鎖で老人を拘束しようとしたが、老人は手に持っていた剣で鎖を切り裂いた。
「な!?」
「中々の実力だが、私とお前では年季が違う」
老人はニヤリと笑う。
少年の頬に一筋の汗が落ちた。
(くっ、どうする?管理局が来るまで防戦に徹するか?さっき管理局に連絡したけど、ここは本局からかなり離れている。来るまで持ちこたえられるか・・・・・)
少年は思案をしていたが、老人は待ってはくれず。
直ぐ様次の攻撃を仕掛けてきた。
「ダークバースト!」
「ラウンドシールド!」
老人が放った砲撃魔法を少年は魔法陣の盾で防ぐ。
(考えてもしょうがない!こうなったら意地でも持ちこたえてやる!)
覚悟を決めた少年だったが次の瞬間、少年は信じられないものを目撃する。
「past」
そう呟いた老人の掌から、雷が放たれた。
“魔法陣を展開せず”に。
本来魔法は、どんな小さな魔法でも必ず魔法陣が展開する。だから魔法陣を展開しない事は異常な事なのだった。
「うわぁぁぁ!」
その事に気を取られてしまい。少年は老人の雷を受け、そのまま地面に倒れ伏せてしまった。
老人は倒れ伏せている少年にゆっくり近づいて行く。
「では、それを貰い受けるぞ」
老人が少年の持っているアタッシュケースに手をかけようとした瞬間。アタッシュケースから光が溢れた。
「なに!?」
老人は驚愕とともに、すぐさまその場を離れた。
そして光は少年を包みこみ。やがて少年ともに消えてしまった。
(迂闊だった・・・。恐らく私の魔力に反応して発動してしまったのだろう・・・)
老人は舌打ちをしながら、破壊された発掘現場を後にした。
これがジュエルシード事件の発端となるのだった。
ここは高町家。その一室に一人の少年がいた。
彼の名は衛宮優人。四年くらい前に、高町士郎が引き取った少年だ。
優人は豚の貯金箱に触れ、小さく呟いた。
「接続開始(アクセス・オン)」
すると貯金箱が光だした。
優人は手に持っていたトンカチを豚の貯金箱目掛けて振りかざした。
すると貯金箱は壊れず、トンカチを受け止めた。
「うん、今日も調子がいいな」
これが優人の日課。毎朝魔術を使い鍛練をしている。
何を隠そう。衛宮優人は魔術師(ウィザード)だ。しかし、彼事態それがどういうものか覚えておらず。何となく自分がそういうものだと理解しているくらいのものだ。
故に、人前で魔術を使う事に躊躇をしなかったのだ。
それを危惧した高町士郎は、優人に魔術を使う条件をつけた。それは・・・
『大切な人を守る時だけと自分の身を守る時だけ。そして、誰かを助ける時だけだよ』
その3つを。優人は今に至るまで守っている。
現在、優人が魔術師と知っているのは。高町家、親友のアリサとすずかである。
すると、ノックをする音がした。
「優くん。朝御飯だよ」
声の主は高町なのは。高町家の末っ娘である。
最初の頃は避けられていたが、現在は良好な関係を築けている。
どうやら優人を呼びに来たらしい。
「わかった。今いく」
そう言って、優人は急いで着替え。大切なお守り、赤い宝石のペンダントを持って部屋を出た。
なのはと共にリビングに降りた先には、変わらない家族の姿がいた。
「おはよう優人。今日は来るのが遅かったな。夜更かしでもしたか?」
士郎が冗談まじりで優人に聞いてきた。
優人は至極真面目に返事をした。
「おはようございます士郎さん。朝は魔術の鍛練をしていたんです」
「相変わらずマメだね優ちゃんは。それにしても魔術って本当に便利だよね。私にも使えないかな〜」
美由紀はうらやましいそうに呟いき。それを恭也が咎める。
「お前まだ言っているのか・・・優人が言っていただろう。魔術回路っていう物が無いと使え無いって」
「わかってるよ。でも実際見たらかなり便利そうじゃない?」
「まぁ・・・確かにな・・・」
二人は初めて魔術を目撃した時の事を思い出す。
ある時、美由紀がお気に入りのマグカップを割ったしまった事があった。
それを見た優人が魔術使い、マグカップを修復したのだ。
「あの時は驚いたね〜」
「ああ、割れたマグカップが一瞬で元通りだからな。超能力かと思ったよ」
「はいはい、その話はお仕舞い。早く食べないと学校に遅刻するわよ」
桃子がそう言って、その話題を終わらせた。
そして、いつもの朝の朝食が始まる。
ふと、士郎がある話を切り出した。
「優人。話があるんだが・・・」
「ん?なんですか?」
「前から考えていた事なんだが・・・・・養子にならないか?」
「え・・・・・」
突然の事に、優人の箸は止まってしまった。
「お前が家に来て四年は経ったけど、相変わらずお前の家族の行方が掴めていないだ・・・・・」
優人は何となく士郎が言いたい事が分かった。
恐らく自分の家族は四年前のテロで死んだんだろうと。
優人は既に理解をしていたので、静かに頷いた。
「そうか・・・・・でも、後一年ほど頑張ってみるつもりだ。それで見つからなかったら、優人を正式に養子にするつもりだが。どうだろう?」
士郎は優人を含めたその場の皆に聞いてみた。するとなのはが大きな声で。
「さんせ〜い!絶対そうしなよ優くん!」
「え?あ、うん」
なのはの言葉に優人は思わず頷いた。
「これで、私もお姉ちゃんだ!」
なぜなのはが姉になるかというと。
優人が高町家に来たのが3月16日。その日が優人の誕生日になったので、3月15日が誕生日であるなのは方が僅かにが年上なのだ。
しかし、家族内の評価はというと。
「え?どっちかと言うとなのはが妹じゃないの?」
「え?」
「確かにな。いつもの面倒見ているのは優人の方だしな」
「え?え?」
「そうね。優人の方がしっかりしているわね」
「お母さんまで!」
「ははは!そうだな。優人の方がお兄ちゃんだな」
「皆して酷いよ〜!」
「あははは・・・・・」
そんな談笑をしながら、高町家はいつもの朝食を済ませるのだった。
その後優人は、朝の出来事にふてくされるなのはと共に登校していた。なのはの愚痴を聞きながら・・・・・
「もう皆して!私だってしっかりしてるもん!」
「うん・・・そうだね・・・」
「勉強だって、教えているのは私の方だよね!」
「理系だけだけどね・・・・・」
ちなみに文系の方は優人が教えているのだ。
そんななのはの愚痴を聞きながらバス停に向かうと、そこにアリサ・バニングスと月村すずかの姿があった。
二人とも一年生からの友人である
。
友人となった経緯は、アリサがすずかに意地悪をしていた所をなのはが目撃し、
『いじわるはダメ〜!』
と言って、意地悪をしているアリサに組かかったのだ。
騒ぎを駆けつけた優人は、急いで喧嘩を止めようとしたが、
『ちょ、ちょっと二人供やめ・・・いて!話を・・・いた!』
どういう訳か、二人は優人を殴っていた。
恐らく二人供、無我夢中で殴っているので、誰を殴っているのか把握出来ていなかったのだろう。
『は、話を・・・ぶげ!』
顔面にクリーンヒットしたが、それでも二人は喧嘩をやめようとはしなかった。
そして、
『みんなやめて!』
苛めを受けていたすずかがなんと二人の喧嘩の輪に入り、腕っぷしで喧嘩を止めたのだ。
それがきっかけで、アリサとすずかと友人になった。
「なのは!優人!」
アリサは二人の姿を見ると、大きく手を振った。
「おはよう!アリサちゃん!すずかちゃん!」
「おはよう二人とも」
「おはよう。なのはちゃん、優人くん」
それぞれ挨拶を交わした四人は、やって来たバスに乗った。
そこでなのはが、朝の出来事を話した。
「・・・・・て事があったんだよ!酷いと思わない!」
「いや、あたしもあんたが姉って柄じゃない気がするわ」
「酷いアリサちゃん!・・・・・すずかちゃんは違うよね?」
なのはは、すずかにすがるが、すずかは目を逸らした。
「ガーン!二人とも酷いよ〜!」
再び拗ねてしまったなのはを放っておいて、アリサは優人に話しかけた。
「それでどうすんのよ?」
「どうするって?」
「養子の話よ。受けるの?」
「ああ、受けるつもりだ」
優人は迷わず速答した。
「あら意外ね。もっと悩むと思ったわ」
「悩み必要無いだろう?俺にとって家族なんだから」
「でも・・・・優人くんは本当の家族の事が気にならないの?」
すずかは心配そうに聞いてきたが、優人の口から予想外の言葉が出た。
「多分、俺に本当の家族はいないだと思う」
「は?あんた何言ってんのよ?」
「言葉じゃ上手く言えないけど、俺の家族は高町家の皆と“アイツ”だけだと思うんだ」
「“アイツ”って・・・優くんの夢で出てくる人の事だよね?」
「ああ、そうだよ」
優人は高町家に引き取られてから、毎晩のように現れる赤い外装を着た男の夢を見るのだった。
その男は皮肉屋だが、とてもお人好しの正義の味方だったと優人は語る。
「その人が優人くんの家族の人?」
「分からないけど、多分そうだと思う」
「何よ、分からないって?」
「優くんはテロ以前の記憶がないの」
「あ・・・・・」
なのはの言葉にアリサは自分が失言したと気づくが、優人は笑って。
「別に昔を思い出せなくても、今と未来がある。それた十分だよ」
「・・・・・あんた、よく平気でくさい台詞言えるわね」
「それ酷くない!せっかく気を使ったのに・・・・・」
あはははと笑い合う四人。
そしてバスは聖洋小学校に着いたのだった