午前中の授業が終わり。
優人たち四人は学校の屋上で、お弁当を食べていた。
「ところで、皆はアンケートに何て書いたの?」
突然アリサが尋ねた。
午前中の授業に将来の夢についてアンケートをとったのだ。
「アリサは?」
「それがね・・・・ちょっと迷っているのよ・・・・」
いつもは自身満々に言うアリサが、迷っていた。
「なんか珍しいね。アリサが迷うなんて。いつもなら即決するのに・・・・」
「あたしだって迷う時はあるわよ!・・・・以前だったら、親の会社を継ぐって言ったんだけど。今は別の事に興味を持ったのよ」
「別の事って?」
そのことを追及されたアリサは照れ臭そうに、その職業を告げた。
「・・・・ジャーナリストよ・・・・」
「ジャーナリスト?・・・・あ、もしかして・・・・」
「ええ、そうよ。新聞部をやってたら興味がわいたのよ」
聖洋新聞部。それは優人が設立したクラブである。
と言っても非公式で、優人達が勝手にやっているのだが、思いの外好評である。
ちなみに、部長は何故かアリサになっているが、優人はあまり気にしていない。
「まぁ、まだ時間はあるし、これから決めればいいと思うよ」
「ええ、そのつもりよ・・・・あんた達は?」
アリサは、すずかとなのはに尋ねた。
「私は工学系の仕事ができればいいと思っているの。将来はロボットを作れたらいいなって」
すずかは照れくさそうに答えた。
ロボットを作る。それが小さいころから抱いていたすずかの夢である。
「えっと・・・・・私は・・・・・」
なのはは口ごもり、オズオズと答えた。
「何も・・・・・ないかな・・・・・」
「・・・・・」
しばしの沈黙、そしてアリサが・・・・・
「何もないですって!」
「にゃ!?」
怒鳴り声を上げた。将来の夢が無いと言うなのはに激怒した。
「アリサちゃん、落ち着いて。」
すずかは、怒り狂うアリサをなだめようとしたが、それでもアリサの怒りは収まらなかった
「でも、私、何にも取り柄ないから・・・・・」
なのははイマイチ自分に自身を持てないようだ。
それを見かねた優人が、
「取り柄が無くてもいいんじゃないのか?」
「え?」
「取り柄が無いなら、取り柄をつくればいい。今は見つからなくても見つけようと思えば、取り柄や夢は見つかると思う」
空っぽを恥じることはない、空っぽなら注げばいい。
過去に思った事を。優人はなのはに伝えた。
「なのはにも、いつかきっと見つかるよ」
「優くん・・・・・」
そうして、なのはと優人は見つめ合う。
「はいはい、そこイチャイチャしないの」
アリサの言葉に、優人となのはは顔を真っ赤にして。
「い、イチャついてなんかしてないぞ!」
「う、うん!違うもん!」
大声で否定した為。周りの人が優人となのはを凝視した。
二人は更に恥ずかしさのあまり顔を伏せてしまった。
「アリサちゃん。あまり二人をいじめちゃダメだよ」
「別にいじめてはいないわよ。からかっているだけ」
「同じようなものだと思うけど・・・・・」
「うっさいわね・・・・・あ!そうだ。皆は例の噂聞いた?」
「「「噂?」」」
「実はね。聖洋小学校の近くの森にお化けが出たらしいわよ」
アリサの話によると。数日前から、森に黒い影のようなお化けが出て来るらしい。
目撃者も結構いるみたいだ。
「なるほど、記事のネタにはいいと思う」
「でしょ?早速放課後に調べるわよ」
「でも・・・危なくないかな?」
「ここで引いたら。我ら新聞部がの名がすたるわよ!そう言う訳で!早速調査よ!」
「「おー!」」
「大丈夫かな・・・・・」
すずかの心配を尻目に、新聞部は調査をすることになった。
放課後。優人達は噂の森に差し掛かる。
「それじゃ、行くわよみんな!」
アリサが張りきって行こうとしたが、
「待ってくれアリサ」
と優人に呼び止められた。
「何よ?」
「本当にお化けが出たら大変だ。俺が先頭に行く」
「むぅ・・・・わかったわよ」
アリサは渋々優人に先頭を譲った。
「優人くん。魔術でお化けを追い払えるの?」
すずかは疑問を優人に問いかけた。すると優人は首を横に振り。
「やってみないと何とも言えないけど。怯ませるくらいは出来ると思う」
「なんか不安になって来たわ・・・・・」
そして彼らは森に入って行く。
しばらく森の中を歩いて行くが、未だにお化けに会わずにいた。
ふと、アリサが思い出したように優人に聞いてきた。
「ねぇ、そういえばあんたのアンケートについて聞いてなかったわね」
「俺の?」
「そうよ。皆は言ったのに優人だけ言わないのは不公平よ」
「それもそうだな」
「やっぱりジャーナリスト?」
すずかの答えに優人は首を振った。
「あれ?そうなの?」
「新聞部を作ったのは何となく。でもなってみたいのは他にあるんだ」
「それは何?」
優人は少し恥ずかしいそうに答えた。
「正義の味方になりたいんだ」
「「「・・・・・」」」
優人の言葉に、三人は黙ってしまった。
「まぁ、そんな反応をすると思ったよ・・・・・」
優人は少しため息を吐いた。
「あんた正義の味方になりたいの?」
アリサの言葉に優人は少し頷いた。
「なりたいって言うか、なれたらいいなって良いなって思っているだけ」
まるで自分はなれないように言った。
なのはその事が気になり、優人を追求した。
「それどういう事なの?」
「正義の味方ってのは、大勢の人を救うんだ。でも、全ての人間を救えないから必ず犠牲が出る。だから十を救う為に一を見捨てるなんて事もある。でも、俺は誰かを見捨てるなんて出来ない。そのせいで大勢の人が死ぬとしても・・・・・」
優人は真剣な眼差しで答えた。
全ての人間は救えない。しかし、誰かを見捨てる事はしたくない。
それを聞いたアリサはいつもの口調で優人に言った。
「あんた馬鹿じゃない?」
「「アリサちゃん!?」」
なのはとすずかは驚いたが、アリサは気にせず続けた。
「誰かを見捨てる事が正義な訳ないでしょ。むしろ、最後まで諦めないあんたの方がよっぽど正義の味方だわ」
アリサはそう宣言した。犠牲を前提の正義は間違っていると。しかし優人は、
「カルネアデスの板って知っている?」
「え?・・・・・知っているわよ」
カルネアデスの板。
ある船が嵐で沈没してしまい、二人の人間が嵐の海に投げ出される。
荒れ狂う海に一枚の板があるが、二人一緒にしがみついてしまうと沈んでしまい、どちらかしか生き残れない話である。
「正義の味方は自分を犠牲にしても他人を助けるけど、俺はそこまで出来ない。だから・・・・・」
優人は立ち止まり、三人の方を見て。
「だから憧れる。ああいう風に他人の為になにかをやれる人を」
優人は赤い外装の男の事を思い浮かべながら言った。
いつかあの背中に追い付きたいと、その思いは今も変わらず抱き続けていた。
四人はしばらく森を散策するが、肝心なお化けは現れず日が暮れようとしていた。
「やっぱりガセだったみたいだ」
「う〜スクープになると思ったのに〜」
アリサは悔しそうに足踏みをしていた。
「そろそろ帰ろうよ。もう日がくれちゃうし」
すずかは少し不安そうに呟いた。
日はだんだんと沈み、辺りは暗くなっていた。
「そうだね・・・なんだか不気味・・・・・」
なのはも不安そうにしていたが、アリサだけは諦めていなかった。
「何言ってんの!こういう時に出るものよ!調査は続行よ!」
「「えーーーー!」」
アリサの調査続行宣言に、二人は抗議の声を出したがアリサに却下されてしまった。
そこで優人はアリサを説得する事にした。
「アリサ、夜の森は意外と危ないんだ。それに目撃されたのは昼頃だって言っていたし。無理をするより、後日に再調査した方が安全だ」
優人の正論に、アリサはぐぬぬと唸りながら、
「わかったわよ・・・・・それじゃ今日の調査はここ――」
アリサが言い終わる前に異変が起きた。
《た・・・す・・・・・》
「「!?」」
何処からともなく声が聞こえる。
ここには優人、なのは、アリサ、すずかの四人しかいないはずだが、その声は四人誰のものではない。
《だ・・・・れか・・・・たすけ・・・》
再び声が聞こえた。いや、聞こえたというより頭に響いているかんじだ。
「優人くん?なのはちゃん?」
「どうしたのアンタ達?」
どうやらアリサとすずかには聞こえてはいないらしい。
「みんな、この声聞こえないの?」
なのはの問いに、二人は首を横に振るが優人だけは頷いた。
「俺となのはだけ聞こえるみたいだ・・・・・」
「え?それどういう事よ!?」
「まさか・・・・・噂のお化け!?」
二人は気が動転していた。
そして再び声が響く。
《誰か・・・・・助けて・・・・・》
「こっちから聞こえるの!」
なのはは声に導かれるように走った。
「なのはちゃん!?」
「アンタどこ行くのよ!」
すずかとアリサは叫ぶが、なのははそのまま森の奥に行ってしまった。
「後を追いかけよう!」
優人の言葉に二人は頷き、急いでなのはの後を追った。
しばらく走ると、なのはが何かを見つけたようにしゃがみ込んだ。
後から三人も追いついて来た。
「もう!一人で行くんじゃないわよ!」
「何を見つけたの?」
「うん・・・・・これ――」
なのはは手にもっている物を三人に見せた。
そこには傷だらけのフィレットがいた。
「野犬にでも襲われたのかしら?」
「優くん。治せる?」
なのはは不安そうに優人に尋ねた。優人は笑顔で答えた。
「これくらいなら治せる」
そう言って、優人はフィレットに手をかざす。
「接続開始(アクセス・オン)」
優人の掌に魔力が集まり、フィレットを包み込む。
「heal」
そう呟くと、フィレットの傷が瞬く間に塞がり無傷の状態になった。
するとフィレットは起き上がり、優人達の方を向いて。
「助けてくれてありがとう」
喋ったのだった。
「「「「・・・・・」」」」
四人は呆気にとられてしまい。しばらく経ってから、
「「「「喋ったーーー!?」」」」
と、大声で叫んだ。
「え?なんでそんなに驚いているの?」
フェレットも、四人の反応に戸惑っていた。
「すご〜い。優くん、このフェレット喋っているよ!」
「・・・・・」
「物凄いスクープキター!!」
「アリサちゃん落ち着いて!」
なのはは珍しそうにフィレットを監察し、優人は何かを考えていた。
アリサは我を忘れて持っていたカメラでフィレットを撮影し、すずかはアリサを落ち着かせようとしていた。
「僕はフェレットじゃない!」
そうフィレットは主張するが、どこからどう見てもフィレットの姿だ。
どうやらこのフェレットは、自分の姿がフェレットだという事に気付いていないらしい。
優人は持っていた手鏡をフィレットに見せた。
「なんじゃこりゃあーーーー!」
フィレットの叫びが木霊する。
これが異世界の来訪者。ユーノ・スクライアとの出会いだった