海鳴市を展望出来る丘に、黒い髪に、黒いロングコートを羽織った一人の青年がいた。
「ホワイトグリント。ここにあいつらがいるのか?」
【はい、それらしい魔力を何度も検知しました。かなりの確率でいると思われます】
青年の問いに、羽飾りのような白いペンダントは答えた。
「わかった・・・・・それじゃあ、家出娘達を探しに行くとするか」
【了解です。レイヴン】
そして青年は、海鳴市に降り立った。
「それはどういう意味よ!」
「ア、アリサちゃん、落ち着いて―――」
教室内に響くアリサの声、それを必死に収めようとしているすずか。それを、オロオロと見ているなのは。
こうなった原因は優人のある提案からである。
「もう一回言うよ。新聞部の活動は一時休止にしよう」
「勝手に決めるんじゃないわよ!あたしが部長よ!」
アリサの怒鳴り声に、優人は怯まず理由を述べた。
「あの子達・・・・・フェイト達と戦う以上、俺もなのはの援護しなくちゃいけない。それにユーノだって、使い魔のアルフと戦って貰うんだ。そしたら、誰が二人を守るんだ?」
優人はこれからの事を考えると、魔法、魔術を使えない二人をこれ以上巻き込む訳にはいかないと判断した。その為の新聞部の活動休止だった。
「・・・・・ねぇ?あたし達って足手まといなの?」
「それはちが―――」
「もういい!」
そう叫ぶと、アリサは勢い良く教室を飛び出した。
「アリサ!!」
「アリサちゃん!!」
「アリサちゃん!待って!」
優人とすずかは呼び止めたが、アリサには聞こえず。そのまま廊下の奥へと走って行ってしまった。
その後を、なのはが追いかけ、優人も追いかけようとしたが、なんて話せば良いのかわからず、足が動かなかった。
「もう、優人くんって、変な所でハッキリ言えないんだね」
すずかは少し怒った表情で立ち止まっている優人に言った。
しかし、その口調は優しく諭すような感じだった。
「ご、ごめん・・・・・」
優人も、まるで親に叱られた子供のように謝った。
「それは私じゃなくて、アリサちゃんに言うべき言葉じゃないの?」
「ごめん・・・・・」
「・・・・・ちょっと意地悪しすぎちゃたかな?わかってる。私とアリサちゃんを守る為なんでしょ?」
すずかの問いに、優人は小さく頷いた。
「アリサちゃんだって、きっとわかってるんだと思うよ。だって、私達友達だもん」
「・・・・・そうだよな。ありがとうすずか」
「お礼を言うのは、アリサちゃんに謝ってからだよ」
「ああ!」
そう言って、優人は遅れてアリサを追った。
その後姿を、すずかは見送る。
一方アリサはがむしゃらに廊下を走っていた。
その後を、なのはは懸命に追いかけている。しかし、元々運動音痴であるので、追い付けず。引き離されないようにするのに精一杯であった。
「アリサちゃん!待って!」
「―――っ!」
なのはの言葉はアリサの耳に届いていたが、アリサは聞こえないフリをした。
(こんな顔、見せられる訳無いじゃない・・・・・)
アリサは泣いていた。
自分が足手まといである事と、自分の無力さに悔しくて彼女は泣いていたのだ。
(足手まといなのは分かっているわよ・・・・・それでも・・・・・力になりたかった)
友達の力になりたい。だから彼女は強引に優人達についていった。しかし、結局ついていった所で、何も出来なかった。
(どうして私には、優人やなのはみたいな力がないのよ・・・・・どうして・・・・・)
ネガティブな思考をすればするほど、アリサの足は早くなる。まるで逃るように。
「アリサちゃん!まっ――にゃ!?」
なのはの声が途切れるのと同時に、廊下に“ごぉん!”という音が鳴り響いた。
「なのは!?」
アリサは音に反応し、振り返るとそこには廊下でうつぶせになっているなのはがいた。
どうやら先程の音は、なのはが転んで地面におでこをぶつけた音らしい。
アリサは慌ててなのはに駆け寄った。
「ちょっと、なのは!あんた大丈夫なの!?」
「ううっ・・・・・おでこ・・・・・ぶつけたの・・・・・」
なのはは、おでこを押さえ、涙目になりながら起き上がった。
「ぷっ、」
なのはの顔があまりにもマヌケ面だったので、アリサは思わず吹き出してしまった。
「ひ、酷いよアリサちゃん!」
「あはは!ごめん、ごめん」
アリサが笑い収まると、しばらく二人は沈黙し、先になのはが口を開いた。
「あのね、アリサちゃん。優くんはアリサちゃん達が足手まといだから新聞部の活動を休止したんじゃなくて、二人を危険から守りたいからなんだよ」
「・・・・・わかってるわよ。それぐらい・・・・・」
アリサは顔を伏せながら、なのはに自分の気持ちを伝えた。
「でも!・・・・・悔しいのよ!何も出来ない自分が!情けなくて悔しいのよ!」
「アリサちゃん・・・・・」
なのはは、アリサの言葉を一言一言しっかり聞き取り。そして、静かに口を開いた。
「アリサちゃんの気持ち・・・・・私わかるよ」
「え?」
「ねぇ、覚えてる?優くんが初めて魔術を使った時の事・・・・・」
優人が初めて、なのは達の前で魔術を使ったのは知り合って間もなく、アリサが誘拐された時である。
優人は魔術をフルに使い、アリサを助けたが、その反動で優人は意識不明になってしまった。
「あの時ね、何も出来ない自分が悔しかった・・・・・どうして私は優くんに何も出来ないんだろうって・・・・・」
「なのは・・・・・」
「だから、アリサちゃんの気持ちわかる。何も出来ない自分が許せないんだよね?」
「うん・・・・・」
「だから約束するよ!アリサちゃんとすずかちゃんの分まで私は頑張るって!」
「なのは・・・・・」
アリサはその言葉を聞き、思わずほころんだ。そして、なのはねおでこにデコピンをした。
「あいた!」
「運動音痴のあんたが、何言ってんのよ」
「ううっ・・・・・酷いよアリサちゃん・・・・・」
「まったく、優人よりあんたの方が心配だっての・・・・・」
「ううっ・・・・・」
「でも・・・・・ありがとうなのは」
そう言ったアリサの表情はとても晴れらかだった。その顔を見たなのはも、晴れらかに笑った。
その後から、優人の声がした。
「アリサーー!」
「優人!?」
「優くん!?」
優人は息を切らしながらアリサ達の所に来た。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ちょっと優人!あんた大丈夫なの!?」
「ああ・・・・・ちょっと待ってくれ・・・・・」
優人は息を整えて、アリサの面を向かって話した。
「アリサ、俺が新聞部の活動休止にするには理由が―――」
「わかってる。あたしとすずかを危険な目にあわせない為でしょ?」
「え――?」
優人はアリサの言葉に面を食らった。言おうとした台詞をアリサが言ったからである。
「こう見えても、あたしは部長よ!部員の考えている事なんてお見通しよ!」
「いや・・・・・だってさっき泣きながら走って・・・・・」
「シャラップ!細かい事はいちいち言わない!」
「わ、わかった・・・・・」
アリサの剣幕に、優人はあっさり引き下がった。
「いい優人、新聞部の休止はジュエルシードの件が片付くまで、それが終わったら名一杯こき使ってやるんだから覚悟しなさいよ!」
「は、はい!わかりました!」
「よろしい!それじゃあ教室に戻るわよ。すずかが待っているし」
「うん!」
「ああ、わかった」
そう言うと、アリサは直ぐ様教室に向かって歩き出した。その後を優人となのはがついていった。
一悶着を終えた新聞部のメンバーは、そろって下校した。その途中で、大判焼きを買って食べていた。
「う〜ん♪やっぱりアンコが一番よね〜♪」
「それはいいけど・・・・・どうして俺が奢る羽目に?」
「別にいいじゃない。こういうのは男が女に奢るものよ」
「そういうものか?」
「そういうものよ」
優人は釈然としなかったが、これが甲斐性だと思い、納得した。
「ありがとう優くん」
「ごちそうになるね優人くん」
「ああ・・・・・遠慮なく頂いてくれ・・・・・」
三人が美味しそうに大判焼きを食べているなか、優人は自分の空っぽの財布を見た。
(・・・・・来月まで、お小遣い無しか・・・・・)
優人は、誰にも気づかれないように小さくため息を吐いた。
すると、ユーノから念話が来た。
《優人、なのは。ジュエルシードらしき微量魔力を見つけた。今から来れる?》
《わかった、すぐに行く。場所は?》
二人はユーノからジュエルシードがあると思われる場所を聞くと、アリサとすずかに伝えた。
「わかったわ。行って来なさい二人とも」
「なのはちゃんも優人くんも気をつけてね」
「うん!行って来るよ!」
「二人とも、まっすぐ家に帰るんだぞ」
そう言って、なのはと優人はユーノが教えてくれた場所に向かって行った。
とあるビルの屋上にフェイトとその使い魔のアルフがいた。
「僅かだけど、ジュエルシードの魔力を感じる・・・・・」
「だけどねフェイト、こんなだだっ広いんじゃ、探すのに一苦労だよ」
アルフは辺りを見回す。右も左も高いビルばかりである。その下には家に帰宅しようとしている人で溢れかえっていた。
「なんなら強制発動してみるかい?それなら手っ取り早く見つかるよ」
「駄目だよアルフ。そんな事したら、周りの人達に迷惑がかかるから、冗談でも言っちゃ駄目」
「ううっ、ごめんフェイト。もう言わない・・・・・」
「うん。約束だよアルフ」
そう言って、フェイトは再び下を見た。すると、知っている顔を見つけた。なのは達である。
「フェイト、あいつら」
「うん。なのは達だね」
「どうするんだい?」
「先ずは、ジュエルシードの発見が最優先」
「ああ、わかったよ」
フェイトとアルフはその場を動こうとした。最後にフェイトはなのはの顔を見て呟いた。
「今度は負けない―――」
漆黒の少女とその使い魔は、夕暮れの街に降りる。
一方優人達は、なのはやユーノのエリアサーチや優人のview mapを駆使してジュエルシードを探索しているが、未だに発見できないでいた。
「見つかった?」
「いや、こっちは何も・・・・・優人は?」
「駄目だ。view mapじゃあ範囲が狭くて、見つからない」
「ともかく、急いで見つけないと、この前みたいな大惨事になるかも知れない」
ユーノの言葉で二人は樹の暴走体の事を思い出す。
あの大惨事を再び起こす訳にはいかない、優人となのははより一層と捜す事に専念した。
すると突然、強い魔力を感知した。
「ユーノ!これは!?」
「間違いない!ジュエルシードの魔力だ!」
「そんな!間に合わなかったの!?」
「いや!まだ間に合う!広域結界、展開!」
ユーノの魔法陣を中心に、巨大な結界が張られ、人影が消える。
「よし!これなら被害は出ない!今のうちにジュエルシードを!」
「うん!わかった!」
三人は、ジュエルシードの魔力を辿り、街の中心部に向かった。
するとそこには、宙に浮かび輝いているジュエルシードがあった。
「早く封印を―――」
ユーノが言い終わる前に、フォトンランサーによる攻撃を受けた。
三人は上空を見ると、フェイトとアルフがそこにいた。
「フェイトちゃん!」
「勝負だよ、なのは!」
なのはは、レイジングハートを掲げる
「レイジングハート!」
【セットアップ】
なのはは、バリアジャケットを展開し、レイジングハートを待機モードからデバイスモードに切り換えた。
「ちょっと二人とも!今は争っている場合じゃ――」
「こうなったら仕方がない。やるぞユーノ!」
「ああもう!どうなっても知らないよ!」
ユーノはぶつくさ言いながら、戦闘体制に入る。
優人も、直ぐ様バリアジャケットを展開し、なのはに強化魔術を掛ける。
「先ずはmove speed!」
これにより、なのはの基本スピードが強化された。
「続いて、フライアーフィンにgain mag!」
フライアーフィンの翼が優人の魔術により輝いた。
(ここまでは前回と一緒だね・・・・・)
前回とは違い、フェイトは冷静に二人の分析をした。
(前回と同じなら、なのはは優人の補助魔法のおかげで私のスピードについて来るはず・・・・・でも――)
優人となのはは気づいていなかった。前回のフェイトは油断しただけで、本来の戦闘スタイルで戦っていないことに――。
(見せて上げる。私の魔法を!)
戦い火蓋が切って落とされる。
優人達は前回と同じように、ユーノがアルフの相手をなのはがフェイトの相手をし、優人がなのはのサポートをする形になった。
「行くよ!フェイトちゃん!」
なのはは、様子見にディバインシューターを四発放つ。
当然フェイトは容易くかわす。
「フォトンランサー!」
お返しとばかりに、フェイトも四発放つ。
なのはも、フェイト同様にかわしてみせた。
(本当に上達が早い、ついこないだまで素人だったのに・・・・・)
なのはの上達スピードに関心しながらも、フェイトはブリッツアクションでなのはに近づき、バルディッシュの鎌で切りかかろうとした。
「フラッシュインパクト!」
なのはも負けじと、フラッシュインパクトで応戦する。
二つのデバイスがぶつかり合い、つばぜり合いになる
「gain str!」
優人の筋力強化により、なのはの力が増し、フェイトは押し負けそうになる。
「くっ!」
フェイトは不利だとおもったのか一旦距離を離なした。しかし―――。
「それを待ってたよ!レイジングハート!」
【シューティングモード移行】
レイジングハートをシューティングモードに変形させたなのはは、得意の砲撃でフェイトを狙い撃とうとした。
「ディバインバスター!」
ディバインバスターがフェイトに一直線に向かった。
なのはは勝利を確信した。しかし―――。
「ブリッツアクション・・・・・」
なのはの砲撃が当たる前に、フェイトが“消えた”。
「「!?」」
相手が消えた事に動揺した二人だったが、それが命取りになってしまった。
「もらった!」
「なのは上だ!」
「え!?」
優人の声のおかげで、なのははフェイトにいち早く気づき、攻撃をかわす。
「今度はこっちの―――」
なのはがディバインシューターを放とうとしたが、そこには既にフェイトの姿はいなかった。
「後ろ!」
再び優人の声により、フェイトの攻撃を防ぐ。しかし、先程同様にフェイトの姿は消えてしまった。
「どうなってるの!?」
消えたり現れたりするフェイトに、なのはは混乱してしまった。一方優人はフェイトの魔法を看破しつつあった。
(テレポート類いじゃない。もっと単純・・・・・高速移動か!)
フェイトが消える場所と現れる場所は、常に直線上になっている。この事から、フェイトの魔法は高速移動だと、優人は推測した。
(今のなのはには、この魔法に対処出来ない・・・・・それなら逆手を取る!)
優人はなのはに念話をする。
《なのは!返事はしなくていいから聞いてくれ!》
優人はなのはに打開策を話した。
内容はこれまでのパターンから推測すると、フェイトが高速移動する際、必ず死角に移動し、動きを止めてから攻撃する。
そこを狙うというものである。
《これは賭けだ。俺もフォローするけど、成功率はかなり低い・・・・・やれるか?》
優人の問いに、なのはは目線を送った。
“優くんを信じるよ”
なのはの目がそう語った。優人も頷ずき、魔術を放つ体勢を取る。
(勝負は一瞬、これが通用しなきゃ負ける!)
優人達の気迫は、フェイトも感じ取れた。
(何か狙っている?・・・・・それでも私が勝つよ!)
フェイトはブリッツアクションを発動し、なのはの背後に回り込んだ。
(今だ!)
優人は魔術回路に魔力を流し、フェイト目掛けて魔術を放つ。
「shock!」
優人の放った魔術がフェイトに迫る。しかし、フェイトは紙一重でそれをかわした。
(失敗!?・・・・・いや!)
優人の攻撃は失敗だったが、なのはのフラッシュインパクトがまだ残っていた。
一方、フェイトは先程の優人の攻撃せいで体勢を崩しかかっていた。
(くっ!それでも・・・・・私は――!)
フェイトは崩れた体勢から強引に、なのはにサイズスラッシュで攻撃を仕掛けた。
二つのデバイスがぶつかり合おうとした瞬間、突然強い魔力が溢れかかった。
「え?何!?」
「これは・・・・・?」
なのはとフェイトはデバイスを止め、辺りを見回す。
すると、ジュエルシードが強く輝きだした。
「これは一体・・・・・」
「いけない!ジュエルシードが暴走している!このままでは次元震が発生しちゃう!」
「次元震って?」
「詳しい事を話す暇は無いけど、簡単いうとこの世界が滅んじゃう!」
「「!?」」
フェイトの言葉で、二人は事態の深刻さを理解した。最早戦っている場合ではない。
「早く封印しないと!フェイトちゃん手伝って!」
なのはの申し出にフェイトは頷いた。
「行くよレイジングハート!」
「やるよバルディシュ」
二人はそれぞれのデバイスをジュエルシードに向けた。
「「ジュエルシード!封印!」」
デバイスから、ジュエルシードの封印魔法が放たれる。しかし――。
「何て魔力だ・・・・・」
「だめ!抑え込むだけで精一杯!」
あまりにも強大な魔力であるため。二人ががりでも抑え込むのが精一杯だった。
(くっ、このままじゃあ・・・・・何か、何か方法は・・・・・)
優人は必死になって、考えを張り巡らしていると、ユーノとアルフがこちらにやって来た。どうやら異変に気づいたようだ。
「これは一体なんだい!?」
「優人!状況は!?」
「見ての通り、ジュエルシードが暴走したんだ!今はなのはとフェイトが封印作業をしているけど、抑え込むのがやっとみたいだ!」
「そんな!このままじゃ、次元震が発生するよ!」
「それって・・・・・ヤバイじゃないかい!」
そうこうしている内に、地震が発生し、ユーノが張った結界も不安定になって来ている。
もう余り時間がないようだ。
「ユーノ!デバイスの予備は無いのか!?」
「僕が持って来たのはレイジングハートだけなんだ・・・・・」
「アルフは!?」
「あたしは元々持って無いんだよ・・・・・」
封印作業をするのには、デバイスは必要不可欠。しかし、二人とも持っていないとなるとなのは達を手伝うの事はほぼ不可能になる。
(いや!まだ方法はある!)
優人はジュエルシードに向かって走り出した。
「優人!?」
「あんた何を―――!?」
「デバイスが無いなら!直接魔力で抑え込む!」
その言葉に、二人は驚愕した。
理論上は確かに可能だが、それがどれ程危険な事か、ましてや暴走状態のジュエルシードに対して素手で行うのである。
「無茶だよ!自殺行為だ!」
「そうだよ!ただじゃすまないって!」
「どっちにしても、世界が滅んだら皆が死ぬ!だったらやるしかない!」
優人は二人の制止を振り切り、ジュエルシードの元に向かおうとした。その時―――。
「命を粗末にするなんて、感心しないぞ」
「え?――」
優人は声がした方を見ると、そこには黒いロングコートを羽織った青年がそこにいた。
「レイヴン!?どうしてここに!?」
アルフは青年をレイヴンと呼んだ。どうやら知り合いのようだ。
「話は後だアルフ、先ずはこれを抑える。ホワイトグリント!」
【了解、ガンナーモードに移行】
レイヴンのデバイス、ホワイトグリントは銃の形に変形した。
そして、銃口がジュエルシードを狙う。
「ジュエルシード、封印」
ホワイトグリントから放たれた封印魔法はジュエルシードを貫いた。
「お前らは馬鹿か?ジュエルシードを封印もせずに戦うからこうなる」
「「「「「ごめんなさい・・・・・」」」」」
暴走したジュエルシードを封印したらいなや、レイヴンは封印作業をほったらかして戦闘行為をした五人を説教していた。
「今回は運良く封印出来たものの、一歩間違えたら大惨事だぞ?」
「「「「「はい・・・・・」」」」」
「わかったならいい・・・・・さて次は―――」
レイヴンはフェイトとアルフの方を見た。二人はレイヴンに視線を向けられ、体をビクッと震わせた。まるで、親に叱られる子供のように。
「俺がここにいる理由は察してるんだろう?」
「・・・・・うん」
「なら早い、さっさと帰るぞ。プレシアとリニスが待っているぞ」
レイヴンがそう言うが、フェイトは俯いたままである。
やがて口を開き、小さく呟く。
「・・・・・帰らない」
「・・・・・フェイト?」
「私は帰らない!私はジュエルシードが欲しいんだ!」
フェイトはレイヴンに向けて叫んだ。その目は必死で、訴えかけていた。
「・・・・・あの老人の話を間に受けるのか?先程見ただろう?ジュエルシードは単に願いを叶えるロストロギアじゃないって事くらい――」
「それでも・・・・・私は母さんを助けたい」
「フェイト、お前がやっている事は犯罪だ。もし管理局が介入したら、捕まるぞ?」
「それくらい・・・・・覚悟の上だよ」
「――ったく、頑固だな・・・・・仕方がない」
そう言うと、レイヴンはホワイトグリントをガンナーモード、ハンドガン形態にし、銃口をフェイトに向けた。
「手荒な真似はしたくは無いが、今回の騒動で、管理局は確実にこの世界にやって来る。そうなる前に連れ戻す。聞き分け無いなら強引にでもだ」
レイヴンは本気だと、フェイトとアルフは肌で感じていた。
しかし、二人はレイヴンに従うつもりは全く無かった。
「言った筈だよね?私は帰らないって――」
「俺相手に、勝てると思うのか?」
「別に勝てなくても、逃げる方法はあるよ・・・・・アルフ!」
「行くよフェイト!」
アルフが魔法陣を展開し、そこから光を放った。
余りにも突然の事だったので、その場にいた全員の目が眩んだ。
「くっ、しまった!」
その隙にフェイトとアルフはその場を去った。
残っているのは、レイヴンと優人達だけである。
「ちぃ、こんな子供騙しに引っ掛かるとは・・・・・少し勘が鈍ったか・・・・・」
レイヴンは悪態をつきながらも、その場を後にしようとしたが―――。
「待って下さい!」
「ん?」
「あの・・・・・フェイトちゃんの知り合いなんですよね・・・・・」
なのはは、おずおずとレイヴンに訪ねた。
「そうだが・・・・・お前は?」
「えっと・・・・・高町なのはです」
「そうか、一応名乗っおく。俺はレイヴンだ。―――それで?」
「え?」
「聞きたい事があるから呼び止めたのだろう?」
「え・・・・・はい、実は――」
なのはは、これまでの経緯をレイヴンに話した。
ジュエルシードを集めるきっかけや、フェイトとジュエルシードと巡って争った事等を話した。
「・・・・・俺が聞いた話とは違うぞ。あのクソジジイ、一体何を企んでいる」
「あの、前から疑問に思っていたんですけど。貴方とフェイト達は何処でジュエルシードの事を知ったんですか?」
「それってどういう事だ?」
「あのね優人、僕はジュエルシードを発掘直後に襲われて、ここに来たんだ。それなのに、彼とフェイト達はここにジュエルシードがある事を知っていたんだ・・・・・これっておかしくない?」
「確かに・・・・・まるで、最初からここにある事を知っていたみたいだ・・・・・」
「なるほどな、確かにその辺りの事を話しておいた方がいいかもな・・・・・その前に、先に君の質問から聞いておこう」
レイヴンはなのはに視線を向けた。
少々強面なので、なのははビクッと体を震わせたが、何とか彼に質問出来た。
「あの・・・・・フェイトちゃんがジュエルシードを求める理由ってなんですか?・・・・・」
レイヴンは一瞬、話すか話すまいか悩んだが、彼等は既に無関係では無いと判断し、話す事にした。
「・・・・・わかった。少し長くなるが、話しておこう」
レイヴンは語る。フェイトの過去とジュエルシードを求める理由を―――。