優人達が、管理局の手伝いをしている頃。
アルセイム地方にいるリニスとプレシアは、レイヴンとフェイト達の帰りを待っていた。
プレシアは、フェイトが出ていった日から毎日ニュースや新聞を読んで、フェイトの事が載っていないかチェックをしていた。
幸い、まだ事件沙汰にはなっていないらしいと、安堵していた。
すると、扉を叩く音がした。
「プレシア、食事とお薬をお持ちしました」
そう言って、リニスは扉を開き、部屋へと入って来た。
「ありがとうリニス。そこに置いて頂戴」
「はい。所で、レイヴンから連絡はありましたか?」
その言葉に、プレシアは首を横に振った。
「いいえ。まだ、何も連絡は無いわ。貴女の方にも連絡は?」
「いいえ、ありません」
それを聞くと、プレシアの表情は暗くなってしまった。
リニスは、何とか励まそうとした。
「大丈夫ですよ。レイヴンならきっとフェイト達を連れ戻してくれます。だから、そんな暗い顔をしないで下さい」
「そうよね・・・・・ありがとうリニス」
プレシアは少し微笑んだ。
それに釣られてリニスも笑った。
「それじゃ、食事を・・・・・何事!?」
食事をとろうとした瞬間、突然屋敷が揺れ、侵入者を知らせる警報が鳴った。
リニスはモニターで原因を調べると。
「こ、これは!?」
モニターに映し出されいたのは、何十体にも及ぶ、傀儡兵の集団だった。
「一体誰が・・・・・ともかく迎撃を!」
リニスは端末を操作し、警備用の傀儡兵を出動させた。しかし―――。
「そんな!? 歯が立たないなんて―――!」
屋敷を襲っている傀儡兵は、迎撃に動き出した傀儡兵をことごとく破壊しながら進撃し、足止め程度にしかならなかった。
(このままでは不味い! 今のうちに、プレシアと脱出しなくては!)
リニスはそう決めると、プレシアを抱き上げた。
「リ、リニス? 一体何が?」
「手短に話しますと、今襲撃を受けています」
「何ですって!? 一体誰に!?」
「それは分かりません。今分かっているのは、ここから逃げ出す事です。しっかり捕まっていて下さい」
そう言ってリニスは部屋を出て行き、屋敷の裏口に向かって走り出した。
幸い、警備用傀儡兵が足止めをしているおかげで、敵の傀儡兵と会わずに済んだ。
そして、裏口に差し掛かった所に、あの老人がいた。
「おや? お出掛けかな? プレシア・テスタロッサ」
「貴方は・・・・・」
「何故! 貴方がここにいるんですか! アルバート・レスター!!」
プレシア達の前に立ちはだかったのは、白いコートを着た魔人、アルバート・レスターであった。
優人達が、管理局の手伝いを始めてから、数週間が経過した。
その間、フェイト達と出会わなかったが、いくつかのジュエルシードの封印に成功していた。
「この数週間で封印出来たのは三つ。そして、フェイトという少女が先に封印したのが二つだな」
「えっと、あたし達が十個で、フェイトちゃん達が四つ、後レイヴンっていう人に渡したのが一つだから・・・・・」
「残り六つだよエイミィ」
クロノの隣にいる女性は、エイミィ・リミエッタである。
彼女は、クロノ専属の補佐官であり、幼馴染みでもある。
「六つもあるにしては、中々アースラのレーダーに引っ掛からないよね?」
「いくらアースラでも、大気圏外からじゃ、地表までが限界だからね。案外海底にでも・・・・・ん?」
前から見覚えのある少年達がやって来た。
民間協力者である、優人となのはだった。
「クロノ、エイミィ。アースラの訓練室を使わせてくれないか?」
「いいけど・・・・・またこの間みたいに壊さないでくれよ?」
「うう、ごめんなさい・・・・・」
数日前、なのはは訓練室で新しい魔法を考えたと言って、実践をしてみたが上手くいかず、訓練室を壊した経緯があった。
それ以降、クロノの許可無しに使わない用に釘を刺されてしまったのだ。
「それなら、ユーノくんも一緒に連れて行けば? 彼って、結界魔導師なんでしょ?」
「まぁ、彼の結界魔法があれば、壊れる事は無いと思うが・・・・・」
「分かった。ちょうどユーノを呼びに行くつもりだったし。早速呼びに行こう」
「うん! 今日こそ新しい魔法を完成させるぞ!」
そう言って二人は、ユーノを探しに行ってしまった。
「お、おい! 程々にって・・・・・聞いていないなアイツら・・・・・」
「フフフ、すっかり懐かれちゃたね」
「そんな訳ないだろう」
「そうかな? 少なくともあたしの目には兄を慕っている弟って感じがするけどな」
エイミィのいう通り、少なくとも優人はクロノの事を慕っている。
それは彼の中にある正義感が、無意識にアーチャーを連想させている為なのだが、クロノ達が知るよしもなかった。
「まったく、アイツが弟なら、手間が掛かり過ぎる。特別手当てが欲しいくらいだよ」
「そんな事言って、この前助けられたんじゃん」
「あ、あれは優人を助けようとしてああなったんだ!」
数日前、キメラのような暴走体との戦闘で、クロノは優人を庇い負傷してしまった。
しかも、毒に犯されてしまい。一刻を争う事態だったが、優人の魔術で事なきを終えた。
「あれは凄かったな。傷も毒も一瞬で治しちゃんだから」
「確かに、魔法ではあそこまでの治療は不可能だ。精々、小さな傷や痛みを和らげる程度が限界だ」
優人から魔術や魔術回路の話は聞いていたが、実際見てみると、治療関しては魔法を遥かに凌駕している半面、攻撃はとてもお粗末な物であった。
彼が元々治療系魔術が得意なのか、それとも魔術事態は治療特化なのか、今のクロノ達には判断出来なかった。
するとエイミィは、少し困惑した表情でクロノに尋ねた。
「ねぇクロノくん。彼、本当に魔法生命体なの? 話してみたけど、人間にしか見えないだけど・・・・・」
「そ、それは・・・・・」
クロノも、困惑していた。
優人が魔法生命体なのは間違いない。
しかし、彼と行動を共にして行く内に、本当に魔法生命体なのかと疑問に思うくらいに、彼は人間味に溢れていたのだ。
「・・・・・・・ともかく、彼の事は保留にしよう。今はこっちの事件を片付けるのが先だ」
「そうだね」
二人が歩き出そうした時、突然アースラ全体にアラームが鳴り出した。
「え!? 一体何が!?」
「ともかく、ブリッジに急ごう!」
二人はブリッジに向かって走り出した。
アースラにアラームがなる前、フェイトはアルフと共に海上の空にいた。
「ここで間違いないだね?」
「その筈だけど・・・・・ジュエルシードは海底にあるみたい。どうするんだい?」
フェイトは周囲を見回し、近くに船が無いことを確認すれと、魔力を込め出した。
「フェイト!? 一体何を!?」
「海底にあるジュエルシードを強制発動させるよ!」
「だ、大丈夫なのかい!? そんな事したら・・・・・」
「もうこれしか方法は無いよ。大丈夫、上手くやるから」
そう言ってフェイトは、魔力を海底に向けて放った。
クロノとエイミィはブリッジに着き、フェイトが六つあるジュエルシードを強制発動させた事を知る。
「何て無茶な事を!」
「あの子このままじゃ!」
「一体何があったんですか!?」
なのは達がブリッジに来た。
三人はモニターを見た。そこには、六つの竜巻に翻弄されているフェイトとアルフの姿があった。
「フェイトちゃん!?」
「これは一体・・・・・」
「彼女は、海底にあったジュエルシードを強制発動させたんだ。しかも六つも・・・・・」
「そんな無茶な! 一つでも厄介なジュエルシードなのに、それを六つもなんて!」
「その無茶を、彼女はやってしまったんだ」
モニターをよく見てみると、フェイトはアルフに抱えられている。
どうやら、魔力が尽きてしまったらしく、飛ぶこともままならないらしい。
「早く助けなきゃ!」
そう言って、なのははブリッジを出ようとしたが、クロノに制止されてしまった。
「待て! 今行ったら君もただじゃすまないぞ!」
「でも、それじゃあフェイトちゃんが―――」
「分かっている。だけど、闇雲に行っても彼女の二の舞になるだけだぞ、ここは冷静に・・・・・」
クロノがそう言った側から、優人もまたブリッジを出ようとした。
「おい! 僕の話を聞いていたのか!」
「聞いていた。けど、やっぱり友達が危険な目にあっているのを、黙って見ている訳にはいかない」
そう言って、優人は真剣な眼差しで言った。
一週間程度だが、クロノも優人の事を少しは理解していた。
こういう眼をした時は、決して折れないという事を。
「・・・・・はぁ、本当に特別手当てが欲しいよ・・・・・」
「ん? 何か言った?」
「何でも・・・・・。それよりも行くんだろ? 彼女の元に」
「え? それって・・・・・」
「ただし! 君達じゃ不安だから、僕も同行させて貰うぞ。ユーノ、君にも来てもらうからな」
「僕は最初からそのつもりだよ」
「そう言う訳で艦長、後の事は任せます」
「待ちなさいクロノ!」
リンディは叫んだが、クロノは優人達と共にブリッジを出て行ってしまった。
「あの子はもっと思慮深い子だと思っていたのだけれど・・・・・」
「そうですか? クロノくんは元からああですし、優人くん達がやって来てからは、更に生き生きしていますよ?」
「あら? そうなの?」
「はい! 幼馴染みの私が言うから、間違い無いです!」
エイミィは自信満々に言い切った。
フェイトとアルフは、六つの竜巻に囲まれてしまい。身動きが取れないでいた。
(誤算だった・・・・・。まさかジュエルシードが六つも固まっていたなんて・・・・・)
フェイト達は、海底にジュエルシードがある事まで突き止めたが、数まで把握出来ていなかった。
その為、一つのジュエルシードを強制発動させた途端、連鎖するように他のジュエルシードも発動してしまった。
フェイトは何とか抑え込もうとしたが、これまでの規模を凌駕する魔力に押され、ついには魔力切れを起こしてしまった。
「フェイト! しっかり!」
アルフはフェイトを抱え込みながら呼び掛けるが、防御魔法を張るのに精一杯で、動くすらままならない状態だった。
すると、二つの魔力の鎖が六つある竜巻の内、二つを絡み取り、動きを封じた。
「アルフさん! 今のうちに!」
「あ、ああ!」
なのはの言葉に従い、アルフはフェイトを抱えたまま、動が止まっている竜巻の方から離脱する事が出来た。
「フェイトちゃん! 大丈夫!?」
「ど、どうして私達を?」
「話は後だよ! 優くんお願い!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 飛ぶのは慣れていないんだから!」
優人はぎこちない飛び方で、アルフの所まで近づき、フェイトに向けて手をかざす。
「傷の治療と魔力回復だな・・・・・。recover! それとmp heel!」
優人の治療により、フェイトの傷は完璧に治り、魔力もある程度は回復した。
「傷の方はこれでいいけど、魔力の方は全快じゃないから」
「・・・・・どうして、敵である私達を助けるの?」
フェイトは敵意を向けて言い放った。
しかし、なのはは、それを受け止め、自分の気持ちを伝えた。
「それは、私にとってフェイトちゃんは敵じゃなくて友達だからだよ」
「友達・・・・・私が?」
「うん! 友達が危険な目に合っているなら、助けなきゃ」
なのはの言葉に、フェイトは涙を流しそうになった。
あれだけ拒絶をしたのに、彼女は自分の事を友達と言ってくれたのだから。
「話している途中で悪いんだが、そろそろこっちを手伝ってくれないか?」
クロノが苦しい表情で呟く。
見てみると、竜巻を拘束している鎖にひびが入っていた。
「悪い! gain mgi!」
優人の魔術により、魔力の鎖は巨大化し、竜巻の動きを完全に止めた。
「よし! これなら・・・・・ストラグルバインド!」
「半分は任せて! チェーンバインド!」
クロノとユーノのバインドが次々と竜巻を絡みとり、動きを封じて行った。
「gain com! アルフ! 二人を六つの竜巻の中心まで援護してくれ!」
「わ、分かった!」
アルフは優人の指示に従い、なのはとフェイトを先導し、六つ竜巻の中心に行った。
竜巻は、ユーノとクロノの魔法で動きを止めてはいるが、凄まじい暴風が三人を襲う。
アルフは防御結界を張り、暴風を防ぐ。
「あたしは、ユーノ程上手く無いから、これが限度だよ。それでどうするんだい?」
「それは勿論! 全力全開でジュエルシードを止めるよ!」
「って、ようは考え無しって事じゃないか!」
「そうでもないよアルフ。ここは中心点、つまり真下にジュエルシードがある筈。それなら砲撃魔法と共に封印魔法を放てば―――」
「全部のジュエルシードを封印出来る・・・・・でも、フェイトだけじゃ・・・・・」
「いくら優人の補助魔法を受けていても、私だけじゃ無理。でも・・・・・」
そう言って、なのはの方を見る。
なのはも、フェイトが何を伝えたいのか分かり、頷いた。
「なのはと私の魔法が合わせれば、六つのジュエルシードを封印する事が出来ると思う」
「・・・・・分かった。あたしは二人のサポートに専念するよ」
アルフは二人が魔法に専念出来るように、防御結界の範囲を最大限に広げた。
「行くよ! フェイトちゃん!」
「分かった、なのは」
二人は海底にあるジュエルシードにデバイスを向け、魔法放つ。
「全力全開!」
「疾風迅雷!」
「ブラスト!」
「カラミティ!」
「「シュート!」」
二人の合体魔法は、海面を突き抜け、海底にあるジュエルシードに直撃。
すると、竜巻は消え、海は穏やかになった。
「なんて・・・・・デタラメなんだ・・・・・」
「凄い・・・・・」
「これ程とは・・・・・」
男性陣は、二人の合体魔法を見て、ただ唖然としていた。
そして、フェイトとなのはの前に、六つのジュエルシードが浮かんでいた。
「取り合えず、二人で封印したから、半分個だね」
「・・・・・」
なのははそう言ってが、フェイトは何も言わなかった。
「フェイトちゃん?」
「ほらフェイト、半分でも三つも手に入ったんだよ。これで七つ、十分だって―――」
「・・・・・違うのアルフ」
フェイトは小さく呟いた。
「違うって何が?」
「私、気づいたんだ。色々な事言ってけど、結局私は自分の事しか考えていなかったんだ」
「でもそれは! プレシアを助ける為に―――」
「母さんを助けたい気持ちは本当だよ・・・・・けど、私はその事しか考えていなかった。自分の事しか考えていなかった・・・・・だから、今回みたいにアルフを危険な目に合わせちゃった」
「あたしの事なんていいんだよ! フェイトが笑顔でいてくれれば―――」
アルフは、はっと気づく。フェイトが泣いている事を。
「ダメだよ・・・・・アルフがいなくなったら・・・・・私、泣いちゃうよ・・・・・」
「フェイト・・・・・」
フェイトは今回の件で、自分がどれだけ回りの人間の迷惑を掛けてしまった事に気づいてしまった。
そんなフェイトに、なのはは、涙を拭った。
「泣かないでフェイトちゃん」
「なのは・・・・・」
「上手く言えないんだけど、さっきジュエルシードを封印する時、私一人じゃ出来なかったと思う。フェイトちゃんやアルフさん。優くん、ユーノくん、クロノくん。皆がいたから出来たんだと思う」
「皆が・・・・・いたから?・・・・・」
「うん! だから皆がいれば、フェイトちゃんのお母さんだって救えるよ!」
「え、で、でも・・・・・ロストロギア法だと・・・・・」
そう言って、フェイトはクロノの方を見る。いや、フェイトだけでは無く、その場の視線がクロノに向けられる。
「ゴ、ゴホン! 確かに今回の件でジュエルシードは危険指定に入ってしまったな」
その言葉にフェイトはしゅんと落ち込み、更に冷たい視線がクロノに突き刺さる。
「そんな目で見るな!・・・・・まぁ、母親の病を治す事は平和利用になるから、百歩譲ろう」
「え、それって・・・・・」
「ジュエルシードの使用を許可するよ」
その言葉に、歓喜が沸き起こる。
「良かったねフェイト!」
「う、うん! 本当にありがとうございます!」
フェイトはクロノに名一杯頭を下げ、感謝をした。
「別にいいって、助けられる命があるなら、助けるのは正しいと僕は思っているから。艦長、それでいいですか?」
先程からモニタリングをしているリンディは、クロノの決定に苦笑しながら、返事をした。
《貴方が決めたのならそうしなさい。ただし、責任はとるのよ?》
「うっ・・・・・了解・・・・・」
(ジュエルシードの使用申請か・・・・・始末書確定だな・・・・・)
一度でも危険指定をされてしまえば、使用申請は余程の事じゃない限り下りない。
それを、一人の執務官が勝手に使用を許可してしまったのだ。
よくて始末書の山。悪くて査問会掛けられてしまうのだが、彼らの喜び様を見てしまうと、決断して良かったと思ってしまうクロノだった。
「それじゃ、フェイトとアルフの両名は、アースラに来てもらうよ。聞きたいことがある」
「分かりました」
「それと、集めたジュエルシードをこちらに渡して貰おう」
「分かりました」
そう言って、フェイトがジュエルシードを渡そうとした瞬間。
「! 皆避けろ!」
突然、優人が叫んだ。
次の瞬間、膨大な砲撃魔法の雨が、六人を襲った。