「ん・・・・・ここは・・・・・」
優人が目を覚ますと、そこはアースラの一室だった。
何故自分がここに寝ているのか、優人は疑問に思ったが、すぐ近くで自分を呼ぶ声がした。
「気づいたんだね優くん」
すぐ側になのはが居た。
どうやら、優人が目覚めるまでずっと側に居たらしい。
「なのは?・・・・・あれ? 俺達はどうなって・・・・・」
「うん・・・・・あの後ね―――」
なのはは経緯を話始めた。
優人達を襲った魔法。次元跳躍魔法と呼ばれている物で、異なる次元から魔法を放つという。最高ランクの魔法だということ。
その魔法でクロノ、ユーノ、優人、アルフは負傷したが、なのはとフェイトは比較的軽傷ですんだ。
「それでね、フェイトちゃんが集めていたジュエルシードとあの場にあったジュエルシード、両方取られちゃたんだ・・・・・」
「何だって!?」
フェイトが持っているものと、あの場を合わせると十個。
それを何者かに奪われてしまったのだ。
「リンディさん達も、急いで魔法発動地点を逆探知しようとしたんだけど、ジャミングが強くて、特定出来なかったみたい」
「そうか・・・・・」
大体の経緯と状況をなのはに聞いた優人は、ベットから起き上がろうとした。
すると全身から痛みが走る。
「痛っ!」
「まだ起き上がっちゃダメだよ! 結構酷い怪我・・・・・」
なのはが止めようとした時、優人は自分の体に手を当て、呟く。
「heel」
すると、優人の傷はたちまち消え失せた。
まるで最初から傷なんて無かったように、治っていた。
「これで多少は大丈夫、それじゃ行こう」
「え? 行くって何処に?」
「皆の所に、俺の治癒魔術で皆の傷を治し」
そう言って、優人は部屋を出ていった。
「え? ま、待ってよ〜」
なのはは優人の後を慌てて追いかけて行った。
リンディ達は対応に追われていた。
次元跳躍魔法が放たれた世界の特定。そして、それを行ったと思われる人物の情報。
しかし、捜査は難航していた。
「これまでの情報を総合すれば、アルバート・レスターが関与しているのは間違いない筈・・・・・けど、これは一体どういう事?」
アルバート・レスターに関する情報が一切無かったのだ。
「ダメですね。管理局のデータベースには何もありません。過去の犯罪歴おろか、経歴すらありません」
(次元跳躍魔法を使える程の魔導師なら、管理局のデータベースに載っている筈・・・・・という事は管理外世界? いいえ、ミッド式が使われていたのは間違いないわ)
ミッド式が使用されたという事は、少なくともアルバートは管理世界に居たという証。
しかし、それならばデータベースに情報が一切載っていないのはおかしい。
リンディはある仮説を立てた。
(管理局内部に、アルバートと通じている人物がいる?)
それならば、辻褄が合う。
その人物介して、自分のデータを抹消する事が出来るのだから、データベースに載っていないの分かる。
(もしそうなら、下手に応援は呼べないわね。現状の戦力でどうにかするしか・・・・・)
「艦長。通信が入って来ました」
「通信? 一体誰から?」
「繋げますか?」
「ええ、お願い」
エイミィに通信を繋ぐように指示すると、レイヴンからの通信であった。
《リンディ、居るか?》
「どうしたのレイヴン? フェイトちゃんのなら、私達が保護したわ」
《そうなのか? それは朗報だが、悪いニュースもある。ともかく怪我人がいる。収容してくれないか?》
「怪我人? 一体誰の事?」
レイヴンは怪我人の名前を告げた。
《リニス、プレシアの使い魔だ》
「heel」
優人はアルフに治癒魔術を掛ける。
するとアルフは立ち上がり、元気な声で叫んだ。
「うっし! 全快!」
「いや、動ける程度にしか治してないから」
「それでも助かった。あのままだと一週間は安静にしないといけなかったからね」
「それでも無茶はしない方が良いと思う。動ける程度にしか治してないから」
「何で動ける程度? 治せるのなら、全部治しちゃえば良いのに」
「アルフ、失礼だよ。せっかく治してくれたのに」
「それは仕方がないよ。優人の魔力量はそんなに多くないんだ」
「そうなのかい?」
「うん、僕達に比べれば、優人の魔力量は圧倒的に少ないね。これを見てくれる」
するとユーノは、空間にあるデータを表示させた。
「一般の魔導師の魔力量は、数字に表すと四十から五十とされているけど、優人の魔力量は四十も満たないんだ」
「どうしてそんなに少ないの?」
「これは仮説だけど、魔術回路の影響だと思う。リンカーコアを変異させた結果、魔力量が少なくなってしまったんだと。僕は考えている」
「魔術回路?」
「なんだいそれは?」
魔術や魔術回路を知らないフェイトとアルフは、頭の上に?を出していた。
ユーノは、二人に知っている事を話した。
「そんな魔法技術があったなんて・・・・・」
「知らなくてしょうがないよ。僕も一月前ぐらいに知ったばかりだから」
「なんで優人がそんなのを使えるんだい?」
「・・・・・分からない。俺、士郎さんに引き取られる以前の事、覚えてないんだ」
その言葉に、アルフは失言してしまったと思った。
部屋には重い空気が流れてしまった。
「ね、ねぇ! 皆の魔力量ってどれくらいなのかな?」
なのはは、空気を変えようと、皆の魔力量についての話をしようとした。
「そうだな・・・・・僕は五百ぐらいだな」
「「五百!?」」
クロノの言葉に、なのはと優人は驚き声を上げた。
一般の魔導師の魔力量は四十から五十なのだから、一般の十倍以上の魔力を持っている事になる。
本来は驚くべき事なのだが―――。
「ふーん。フェイトより少ないんだ」
――と。アルフはとんでも無いことを言い出した。
「え? それってまさか・・・・・」
「そうだよ。フェイトの魔力量は六百ぐらいはあるよ。因みにあたしは、百位だよ」
アルフは自慢するかのように、フェイトの魔力量を話した。
フェイトは、恥ずかしそうにしていたが、満更でもない様子だった。
「・・・・・因みにユーノは?」
「僕も大体アルフ位だね」
何と、この場にいる魔導師の殆どが、一般以上の魔力を持っている事になる。
「皆凄いね!」
なのはがそう言うと、クロノは呆れた表情をした。
「君がそれを言うのか・・・・・」
「え?」
「この中で一番なのは君なんだよ」
「え〜〜〜〜!?」
これには、なのはは驚いて声を上げてしまった。
まさか自分が一番魔力が高いなんて、思ってもいなかったからだ。
「なのはの魔力量は、七百以上あるからね。この中でダントツだね」
「七百・・・・・」
「何でそんなにあるんだい!?」
「極まれに、管理外世界で莫大な魔力を持っている人間がいる事がある。多分なのはも、それに該当したんだろう」
クロノの話によると、大抵は気づかず一生を終えるが、今回は非常に希なケースであるらしい。
「とりあえず、雑談はこれまでにしよう。これからについてだが。フェイト、君が知っているアルバートについて話してくれないか?」
「え? どうして?」
「彼が今回の件に関わっている可能性があるからだ」
クロノは、優人達から聞いた話を聞かせた。
「そんな・・・・・じゃあ私達は・・・・・」
「利用されていた。と、考えるのが妥当だね」
「くそっ! あの爺、今度会ったらただじゃ置かないよ!」
「ともかく、アルバートについて情報が少なすぎる。何でもいいから、知っている事を話してくれないか?」
クロノがそう聞いてきたが、フェイトは少し困った表情をした。
「ごめんなさい。私も、母さんと一緒に研究した事くらいしか知らないです」
「研究? それは何の研究だ?」
「そ、それは・・・・・」
フェイトは少し躊躇ったが、クロノ達を信じて、プレシアの研究と自分の出生の話をした。
「なるほど・・・・・プロジェクトFか・・・・・」
「えっと・・・・・つまり、フェイトちゃんはクローン人間って事?」
「うん、お姉ちゃんの細胞から生まれたのが私。ゴメンね、黙ってて」
「ううん、ちょっと驚いたけど、フェイトちゃんが私の友達には変わらないよ」
「なのは・・・・・ありがとう」
なのはの言葉に、フェイトは安堵を感じた。
もしかしたら、拒絶されてしまうかも知れないと不安を感じていたが、それは全くの杞憂であった。
「しかし、フェイトの話で進展があったな。それならプレシアさんに話を聞けば―――」
「それは無理だ」
突然の声、振り向くとそこにはレイヴンがたたずんでいた。
「レイヴン!」
「どうしてアンタがここに!?」
「ここの艦長とは知り合いなんだ。それよりも大事な話がある」
そう言って、レイヴンは真剣な眼差しで、フェイト達に伝えた。
「プレシアが拉致された」
その言葉に、フェイトは自分の耳を疑った。
アルバートの城、そこの牢獄らしい一室に、磔にされたプレシアと、それを眺めているアルバートがいた。
「一体・・・・・貴方の目的は・・・・・」
「無論、ジュエルシードだ」
「ジュエルシード? もう手にいれてるじゃない・・・・・私の娘を利用して!」
プレシアはアルバートを睨み付けるが、病に伏せている為か、覇気を感じられなかった。
「十個程度では全く足りん、“アレ“を作るにはな」
「“アレ”? 一体何を作るつもりなの!?」
「ふん、言った所で理解できまい。お前には後に役に立って貰うからな」
そう言って、アルバートは部屋を出ていってしまった。
プレシアは、無力な自分を許せなかった。
(リニス、アルフ、フェイト。無事でいるかしら・・・・・)
今の彼女には、家族の安否をただ祈るしか出来なかった。
レイヴンをの話を聞いたフェイトは、ただ唖然とするしかなかった。
テスタロッサ邸への襲撃、その犯人がアルバートである事。
リニスはプレシアを守ろうとアルバートと交戦するが、敗北。プレシアはそのままアルバートに拉致されてしまった。
残されたリニスは、傷ついた体を引きずりながら、レイヴンの元に向かい、プレシアが拉致された事を伝えに来たという。
「リニスは!? リニスは無事なの!?」
フェイトは泣きそうな目で、レイヴンに尋ねた。
レイヴンは、フェイトの頭を優しく撫でながら告げた。
「リニスなら大丈夫だ。今アースラの医療スタッフが治療を施している。だから心配するな」
「よかった・・・・・」
それを聞いたフェイトは、安心してしまったせいか、涙をポロポロ流してしまった。
「しかし、これで振り出しに戻ってしまったな。くそっ!」
クロノは心底悔しそうに呟く、唯一の手かがりを失ったのだから。
ふと、優人にある疑問が浮かんだ。
「・・・・・所で、何でアルバートはプレシアを殺さず拉致したんだろう?」
「ちょっと優人! 物騒な事言うんじゃないよ!」
アルフは牙を見せながら、優人に怒鳴るが、優人は怯まず話を続けた。
「だって、もし手かがりを消すってなら、拉致するより殺した方がてっとり早い筈。わざわざ拉致したって事は、他に利用するつもりじゃ・・・・・」
優人の推理に、クロノが閃いた。
「もしかして、人質にして僕らが集めたジュエルシードを要求するんじゃ・・・・・」
「可能性はあるな。しかし、何故奴はジュエルシードに拘る。十個では足りないのか?」
アルバートがジュエルシードを求める理由を考えたが、情報不足の為、答えは出なかった。
「とりあえず、アルバートの目的は置いといて、今はプレシアさんを助けるのが先なんじゃないかな」
「ユーノの言う通りだ。アルバートがどんな手を使うか分からない以上、対策を―――」
「あの・・・・・ちょっといいかな?」
すると、今まで黙っていたなのはが声を出した。
何かに気づいた様子だった。
「何か気づいた事でも?」
「うん・・・・・気のせいだと思ったんだけど、ちょっと気になる事があるの」
「気になる事?」
「あのね、次元跳躍魔法の時、私とフェイトちゃんは軽傷で済んだよね? でも、今思うと、わざと私達を軽傷に済ましたんじゃないかな?・・・・・根拠は無いんだけどね」
「・・・・・調べてみよう。エイミィ、いるか?」
クロノは通信で、エイミィを呼び出した。
《どうしたのクロノくん? 何か分かった?》
「僕達が次元跳躍魔法を受けた時の映像を送ってくれないか? 少し気になる事があるんだ」
《うん分かった。今送るよ》
映像は直ぐ様送られ、空間モニターに映し出される。
映像をよく見ると、なのはとフェイトが居た地点は比較的砲撃の数が少ないのが分かった。
「・・・・・なのは言う通り、二人が居た地点は比較的砲撃が少ない」
「いや、もっと正確に言うと、フェイトにあまり当たらないようにしているみたいだ。だから近くに居たなのはも軽傷で済んだんだよ」
「でも、どうしてそんな事をするんだい? アルバートにとってフェイトはもう用済みじゃあ・・・・・」
「いや・・・・・用済みじゃあないだと思う」
「え? それってどういう事?」
「仮説だけど、多分こういう事だと思う」
優人は、自分の立てた仮説を話始めた。
その後、医療スタッフから、リニスが一命をとりとめた事を報告してくれたが、今は絶対安静との事。
優人は魔術で治すと申し出してくれたが、レイヴンが―――。
『これからの戦いは、お前の力が必要になる。余計な魔力は消費するな』
と言い、申し出を拒否した。
これには流石にアルフが怒り、殴り掛かろうとしたので、その場にいる全員が止めた。
何とかその場は納まり、決戦に供え休む事にした。
フェイトが一人自室にいると、秘匿通信が入る。
「? 誰からだろう?」
繋げてみると、それはアルバート・レスターからであった。
《久しいな、フェイト・テスタロッサ》
「アルバート・レスター!?」
《用件を伝えよう。プレシアを預かった。返して欲しければ、アースラにあるジュエルシードを持って、ここに来い》
アルバートはある世界の座標をフェイトに伝えた。
《分かっているだろうが、誰にも伝えるなよ。もし伝えれば、プレシアの命は無いと思え》
そう言って、アルバートは通信を切った。
フェイトは無言でバルディシュを手に取った。
【ミッション開始ですね。マスター】
「うん、危険な役割だけど、母さんを助ける為だもん。力を貸してね、バルディシュ」
【イエス、マム!】
フェイトはそのまま部屋を出て行き、ジュエルシードが保管されている部屋からジュエルシードを持ち出し、アルバートが指定された場所に転移した。
一方、アースラのブリッジでは、フェイトの一連の行動を見守っていた人物が居た。
「エイミィ、フェイトちゃんの追跡、バッチリ?」
「勿論です! バッチリ位置を特定出来ました! 追跡マーカーも、キチンと作動しています!」
そう、これらは全て、フェイトを囮にした作戦であった。
時間を少し遡る―――。
『多分、アルバートは、フェイトにアースラのジュエルシードを持って来いって要求すると思う』
『フェイトちゃんに直接?』
『連絡が出来るかどうか分からないけど、もし出来るなら、すると思う。管理局にするより、フェイトに要求した方が、やり易いからね』
『ちょっと待っておくれ、 あたし達は違法渡航者だ。 拘束されるかも知れないだよ?』
『少なくとも、あの時のクロノの発言を聞いていれば、寛容な処置をする人物だと推測出来るから、拘束する可能性は低いと考えられる』
『僕のせいかよ・・・・・』
『ま、まぁ! これらの条件が揃えば、アルバートの逆手を取ることが出来る筈』
『何か案でもあるの?』
『フェイトを囮に、アルバートの根城を突き止める』
優人の作戦はこうだ。
何も知らない振りをして、アルバートの連絡を待つ。
フェイトに連絡が来たら、作戦開始。先ずはジュエルシードを持ち出し、指定された場所に向かう。勿論、追跡マーカーを着きで。
そして、場所が特定出来たら、武装隊と呼ばれる部隊と共に乗り込む。
それが、優人が考えた作戦であった。
『ちょっと待って! それじゃフェイトが一番危険じゃないか! あたしは反対だよ!』
フェイトを大事に思っているアルフは、当然優人の作戦に反発した。しかし、フェイトは―――。
『私やるよ。母さんを助ける為なら、どんな危険な作戦でもやる』
こうして、リンディの許可の元、作戦を決行する事になった。
「それにしてもよく許可しましたね。下手をすれば、ジュエルシードを全部奪われるかも知れないんですよ?」
「そうね・・・・・でも、あんな事を言われちゃったらね・・・・・」
当然のように、リンディは最初は許可を出そうとしなかった。
しかし、優人の一言がリンディを動かした。
『大切な人、愛する人の命より重い物は無い筈です!』
その一言で、彼女は大きく動揺し、最後は許可を出した。
(クライド、貴方も私と同じ決断をするのかしら?)
亡き夫の事を考えながら、作戦の成功を祈るリンディであった。